Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
あれから四日…私は何故だかレオの事が頭から離れなかった・…。
ACT.9...口づけ
「ここよ?今朝、話したお店!」
キャシーが笑顔で振り向いた。
私は、その濃い青色の建物を見上げて驚いた。
(へぇ…ここがジョニーデップ経営のライブハウスか…)
「早く入ろう?」
キャシーは私の腕を引っ張って中へと入って行く。
中は凄い音量でロックが流れていて人の数も半端じゃなかった。
今日はキャシーが婚約のお祝いをしてくれると言うので飲みに行く約束をしていたのだが、
キャシーが面白い店があるというので引っ張って来られた。
ジョニーデップ経営の店で、彼もたまに顔を出すという、この店に行こうと誘われやってきたのはいいけど…
「凄い人ね?!」
「え~?」
真ん中辺りだと大きな声を出さないとよく聞こえない。
私は肩をすくめるとキャシーは私の手を引いて一番奥のテーブルへと連れて行ってくれた。
「ここ、取っておいてもらったの。ここの店員と仲良くなっちゃって!」
「そうなの?」
私は椅子に座りながらも周りをキョロキョロと見ながら店員に飲み物を聞かれカクテルを頼んだ。
「それにしても…今度の土曜日に婚約パーティーって凄いわねぇ」
キャシーが私の方へ微笑みかけた。
「でも…何だかピンと来なくて…結婚式の日取りも勝手に決められちゃってたし…」
「でも来年のバレンタインデーっていいんじゃない?ロマンティックで!いいなぁ~。私も結婚したーい!」
キャシーが思い切り叫んだので私は吹きだしてしまった。
「キャシーは、その前に遊んでばかりいないで早く恋人作りなさいよ」
「そりゃ、そうだけどさぁ…いい男なんていないもの」
「そう?」
「そうよ…!うちの病院なんて子供病院だから素敵な外科医も脳外科医もいないもの!」
キャシーがわざと私の腕をつついてそう言った。
「キャシーったら…!医者がいいわけ?」
「う~ん…。医者も、いい」
その言い方に思わず笑ってしまった。
そこに店員がカクテルを運んできてくれた。
「ではでは…の婚約を祝いまして…乾杯!」
「ありがとう」
私は少し複雑な気分でもあったがキャシーの気持ちが嬉しくて笑顔で乾杯した。
「それにさ~」
「ん?」
「さっきの話だけど…最近、彼が来るじゃない?」
私はカクテルを一口飲むと顔を上げた。
「え?彼って?」
「だから…レオよ、レオ」
レオの名を出されてドキっとした。
「か、彼が…どうしたの?」
「恋人を作ろうにも…あんなカッコイイ人をしゅっちゅう見てたら、もうその辺の男がジャガイモに見えて仕方ないのよねぇ…」
「ジャ…ジャガイモ…?!」
私はキャシーの言い方に吹きだすと、「それはないんじゃないの?」 と苦笑した。
「あら!だってそうじゃない?舌が肥えると不味いワインは飲めなくなるように目も肥えると平凡な男なんて好きにもならないわ?」
「キャシーったら…。男は顔じゃないわよ?」
私はクスクス笑いながらそう言うと、
「あら、はいいじゃない?ダニーは男前だもの。ま、でもレオには負けるか」
「ちょっとキャシー?!」
「アハハ!ごめん、ごめん!」
私は苦笑しつつも、そう言えば私も元々レオのファンだったのよね…と、おかしくなった。
レオのファンになったのにはキッカケがある。
それは今でも覚えているが、あれは確かテレビのCMで映画の予告が流れた時だった。
流れてきたナレーションと音楽で何かの映画の予告だ…と何気なく見た画面に
見た事もないような奇麗な顔の男の人が映ってた。
画面の方へスっとした視線を送っている、その男の人が…レオだったんだけど。
一瞬、目が画面に釘付けになったのを覚えている。
その映画のタイトルがシェークスピアでも有名な、"ロミオ&ジュリエット"。
あの話を現代風にアレンジした映画と言う事で話題になっていたっけ…
私は公開と同時に見に行って、その映画も期待を外すことなく、逆にレオにハマりにハマって映画館を出てきた。
それからは彼の出ている作品は、どんなジャンルだろうと見てきた。
彼の演技には定評があり、とても上手いというのは何度か彼の作品を見ていれば分かってくる。
どんな役でも、あの奇麗な顔で演じ分けてしまうのだから凄いと思う。
私は彼の奇麗な顔よりも、その演技力の高さやインタビューで答えている役にたいしての拘りが凄く魅力的に思えてきたのだ。
だから彼が色々なゴシップを書かれようと半々な気持ちで見ていた。
レオはもっと優しい…とか、男らしい…とか、そんな事も思ってはいなかった。
別に彼を王子様だとかも思った事はない。
だけど…最初に病院で会った時の衝撃と来たら…
きっと今までやった役とか、あのままだとは思わなかったし、私もそこまで乙女ではないけど、
あんな軽いイジワルな人とは思ってなかった。
だからショックも大きく、それまで大好きだった分、全てがひっくり返って大嫌いになった…つもりだったんだけどな…。
私はちょっと溜息をついた。
この間、マークが倒れた日からレオも忙しいのか病院へは顔を出していない。
今日で四日目…
何だろう…
何だか凄く…落ち着かない気分になる。
その時、キャシーが誰かを見つけたように手を振っている。
「誰?」
「さっき話したでしょ?仲良くなった店員くん!ちょっと話して来るから待ってて?」
「ええ、いいわよ」
「すぐ戻る!」
キャシーはそう言うと人ごみを擦り抜けて見えなくなった。
私はちょっと息を吐き出すと携帯を確認する。
着信はなく、少しホっとした。
あれ以来、ダニーには普通に接しているけど彼も気にしているのか、どこかぎこちない。
このままで結婚なんてしていいのかしら、と思った。
結局、なかなか日取りを決めない私達にシビレをきらし、お養父さんとお母さんが勝手に日取りを決めてしまった。
好きなのに、どこかで擦れ違ってるのよね…私とダニー…
どうしてだろう?
前はそんな事なかったのにな…
私はちょっと溜息が出てカクテルを、ぐっと飲み干した。
すると、「おかわりはいかがですか?」 と声をかけられ、「あ、お願いします―」 と振り向き、私は固まった。
「こんばんわ」
「……あっ!」
目の前にはスーツ姿のジョニーデップが立っていた。
「あ…え?!」
「おい、此方のお嬢さんに同じものを」
ジョニーは店員に手を上げ、空のグラスを渡すと、もう一度私の方へと振り向き微笑んだ。
私は何が何だか分からなくて、ポカンとした顔でジョニーを見ていたが、彼の後ろからキャシーが来るのが見えて少しホっとした。
「キャシ…」
と声をかけようとした瞬間、今度は彼女の後ろから現れた人を見て私は更に驚いた。
「やあ、」
「レ…レオ?!」
(ど、どうして彼が?!え?!何で?キャシーも何だか頬を紅潮させてるし…っ)
「!もぉ~~驚いちゃった!」
キャシーはそう言うと私に抱きついてきた。
「な、な、何?これ…どういう事?!」
私は驚きを隠せなくてキャシーに聞いてみた。
「それが私も今、レオを見て驚いちゃって!店員さんと話してたらいきなりジョニーが来るし、その後ろからレオは来るしで、
思わずレオに声をかけちゃったのよ!もいるのよって…!」
「俺も驚いたよ…ジョニーに呼び出されて飲みに来たら知ってる顔があってさ」
レオも笑いながら、私を見ている。
私だけまだ唖然とした顔でジョニーとレオの顔を交互に見ていた。
「?大丈夫?」
「え?!」
レオが少し心配そうな顔で、私の顔を覗き込んできた。
「あ、うん…だ、大丈夫よ?ただ…ちょっと驚いちゃって…」
「それならいいけど…。でも俺だって、まだ驚いてるよ?」
レオはそう言うとクスクス笑っている。
そこにジョニーが口を開いた。
「さ!じゃあ、皆で合流して飲もう!」
「え?!」
私が驚いた顔でジョニーを見ると彼は私の手を掴んで、「もっと静かな場所で飲みましょう」 と私を椅子から立たせた。
「あ、あの…」
「ちょ…おい、ジョニー!その手、放せって!」
「ん?何だ、レオ…お前、また妬きも―」
そこでレオはジョニーの口を手で塞いだ(!)
「んんーーーっ」
「じゃ、じゃあ奥に関係者用の部屋があるからそこで飲もうか…?」
レオがジョニーの口を塞いだまま私に言った。
「え…で、でも…」
「いいから行こう?こんな偶然、会えたんだしさ?」
「うん…」
私はレオの嬉しそうな笑顔に思わず頷いてしまった。
キャシーなんかはすでに乗り気で、ちゃっかり自分の荷物を持って移動しようとしている。
「じゃ、こっちだから…。ってジョニーうるさいな~!」
「ぷはぁ…!お、お前、俺を窒息させる気か!」
「はい、はい…それより移動するよ?オーナー案内してよ」
「あ、ああ、そうだった。お嬢さんがた、こっちですよ?」
ジョニーが上手く人ごみを擦り抜けて奥の方へと歩いて行く。
キャシーはその後を嬉しそうについて行った。
私は自分の荷物を持とうとすると、レオが素早くバッグを持って私の手を繋いだ。
「こっちだよ?」
「あ…うん…」
そのままレオに連れられて奥にあるブースのような個室へと入って行った。
「うわぁ…ちょっとしたクラブみたいになってるのね…ここ。それに…音楽も、そんな聞こえなくて静かだわ?」
私が驚いてそう言うと、ジョニーはニコニコしながら、
「まあ、座って、座って。今、シャンパンでも開けさせるから」
と言ってドアのところにいる店員に何かを話している。
私はレオに促されるまま、柔らかそうなソファーへと腰を下ろした。
「え?あの…レオと…ジョニーが共演した事があるのは知ってるけど…普段も仲がいいの…?」
私は気になっていた事を聞いた。
するとレオは顔をしかめながら、「まあ…腐れ縁ってやつ?」 と苦笑する。
「おい、それは俺のセリフだろう?」
ジョニーがソファーの方へと戻ってくるとレオの頭を軽く小突いて向かいのソファーへと座った。
キャシーもちゃっかりジョニーの隣に座っている。
そこに店員がシャンパンを開けてグラスと一緒に運んで来た。
「じゃ、まずは乾杯しようか?」
ジョニーが皆へシャンパンを注ぐとグラスを持ち上げる。
「え~じゃあ、この偶然の夜にカンパーイ!」
ジョニーの子供みたいな掛け声に私とレオはちょっと吹きだすとグラスを持ち上げてシャンパンを飲んだ。
「はぁ…美味しい…」
「シャンパンって久し振りだな…ってか、この店に、こんないいシャンパンあったのかよ!」
レオが苦笑しながらジョニーに言っている。
ジョニーは、ちょっと得意げな顔で笑うと、「当たり前だろう?ちゃんと置いてあるさ」 と両手を広げた。
「じゃ、何で俺らの時は出さないんだよ」
「お前やトビーにシャンパン飲ませてどうするんだ?もったいないだろう?こういうのは奇麗なレディーの為にとっておくものさ」
ヌケヌケとそう言うジョニーにレオは苦笑しながら、「変な人だろ?イメージ悪くなった?」 と聞いてきて思わず吹き出した。
「そ、そんな事は…」
するとジョニーが心外な!という顔で、
「おい、おおい!最初のイメージが悪かったのはお前だろ?レオ!」
と言って煙草の箱をレオにぶつけている。
「いた…っ!物を投げるなよ…女の子の前で…それに、その話は禁句!」
「あ~そうか、そうか…可愛いちゃんに嫌われるからな?」
「…え?」
いきなりジョニーに名前を言われて私は飲んでたシャンパンを噴きそうなほど驚いた。
「お、おいジョニー!」
レオがジョニーを睨むも、ジョニーは腕と足を組んで顔は横に向けると楽しそうに口笛なんかを吹きだした。
「…っ!覚えてろよ?後で…」
レオがそう呟くがジョニーは何の曲か分からないがハミングしている。
私は何故、ジョニーデップが私の名前を知っているのか聞いてみた。
「あ、あの…どうして私の名前…」
私の問いにはすぐに反応し、ジョニーは口笛を吹くのをやめて私を見た。
「ああ、レオから何度となく聞いていてね?」
「お、おいジョニー…っ」
「まあ、いいじゃないか。 ―それで、この前、じゃあ今度はちゃんを連れて来いと言ってたんだ。招介しろってね?」
「え…?」
「おい、ジョニー、いいかげんに…」
「まあ、まあ…。 ―そうしたら今夜の偶然に俺も驚いてね…さっき店に来て店長と話してる女の子を見て、
レオがビックリしてるもんだからてっきり昔、手をつけた女かと思ったよ、アッハッハ!」
「ジョニー!」
豪快に笑うジョニーにレオは顔を赤くして怒っている。
私はそんなレオを見るのも初めてだった。
(へぇ…レオでも、あんな顔したり、普通に仲のいい友達とこうして騒いだりするんだ…って当たり前か…)
「それでキャシーからもいるって聞いた途端、ジョニーがどこだ?!どこにいる子だ?と言って勝手にの方へ歩いて行っちゃったんだ…」
レオは私を見ながら肩をすくめて笑った。
「あ…そう…だったんだ…。さっきは本当に一瞬パニックになりそうなくらい驚いちゃった…
振り向いたらジョニーデップがいるんだもの…」
私はそう言いながらシャンパンを一口飲んだ。
「私も驚いたわぁ~!ジョニーのお店ってのは知ってたけどまさか会えるなんて…しかもレオまで一緒にね?」
キャシーもまだ興奮したように話しグイっとシャンパンを飲み干している。
「お?キャシーはイケる口だねぇ?」
ジョニーは、そう言いながらキャシーにシャンパンを注いであげている。
私はそれを見つつ、
(うわぁ…あのジョニーデップがキャシーにシャンパンなんて注いであげてる…)
とミーハ―っぽい感覚で眺めてしまった。
「?はい」
レオも私のグラスにシャンパンを注いでくれて私は、「あ、ありがとう…」 と言いながらも、
そう言えばレオって…レオナルド・ディカプリオだったのよねぇ…(!)
そう考えると、こうしてシャンパン注いでもらってる私は凄いんだ…
などと完全に思考がぶっ飛んでいた(!)
(やだ…私、もう酔ったのかな…何だか変なこと考えちゃった…)
「どうした?…具合でも悪い?」
いきなりレオの顔が私の視界に入って来て驚いた。
「ぅわ…っ」
「む…何だよ、そんなに驚かなくたっていいだろ?」
レオは少し口を尖らせて私を見た。
そんなレオを見るのさえ初めての事だ。
「あ、ご、ごめん…!今…ちょっと考えごとしてて…」
「何を?」
そ、そんな聞かれても…
まさかレオって、レオナルド・ディカプリオだったのよね…とは言える訳ないじゃない!(ほんとに)
何だか、今更になって実感したのか緊張までしてしまう…
どうしたんだえろ、私…
するとキャシーが笑いながら、
「ああ、は結婚の日取りも決まって今は幸せボケの時期だし、ボーっとしちゃうのよ、ね?」
と無邪気に言いのけた。
「ちょ…キャシー!」
「あら、いいじゃない?ほんとの事なんだし」
私は顔が赤くなって俯いてしまったので、その時レオとジョニーが視線を交わしていた事など気付きもしなかった―
「いつ…?」
「え?」
「いつになったの?結婚式…」
レオに不意に聞かれ私は言葉に詰まった。
するとまたもキャシーが、「来年のバレンタインデーにするのよね?いいなぁ~」 と言いながらジョニーに微笑んでいる。
「そっか…。おめでとう」
「え…?あ…ありがと…」
レオに笑顔で"おめでとう"と言われて少し変な気分だった。
「、今週の土曜にの実家で婚約パーティーするのよね?私も呼んでよ~」
「キャシー…!いいかげんにしてよ…その話は関係ないでしょ?二人には…っ」
「は~い…」
私が本気で嫌そうな顔をするとキャシーも肩をすくめてその話を止めた。
何となく気まずくて私は少し俯いていたのだが、不意にジョニーに声をかけられた。
「ああ、そう言えば…聞いた所によると…ちゃんはレオのファンだったって?」
「え?!」
いきなりの質問に私は動揺した。
「おい、ジョニー…!」
レオも同じように動揺したのかジョニーの方を睨んでいる。
それを気にする様子もなく、ジョニーは手でレオを静止すると、
「いや、前にチラっと聞いたもんだから…」
「はあ…。そう…ですね?」
「今は違うのかい?」
「え…?!」
その問いにもドキっとして顔を上げた。
ジョニーは私を見ながらニコニコとしている。
レオだけ何だか落ち着かないのか、そわそわしつつジョニーに何か言いたげだ。
私はこの場の雰囲気を変えようと、「今は…本人に会って…イジワルなんでやめました」と、おどけて言った。
するとレオも何だか、苦笑して、「な?ひどいだろ?」 とジョニーに肩をすくめて見せる。
ジョニーは楽しそうに笑い出すと、
「そ、そうか!イジワルねぇ…アハハハ!こりゃいい…。ちなみに…どうしてレオのファンになったの?」
とまた質問された。
「え…どうしてって…」
私は困ってしまった。
改まって…しかも本人がいる前でこの質問をされると妙に照れくさい…
それでもレオも何だか聞きたそうに私の顔を覗き込んでくるもんだからますます顔が熱くなった。
するとジョニーが軽い感じで、
「ああ、いやね?レオなんか(!)を好きになる瞬間ってどんな感じかなと思って…
ほら、この映画を見て…とかってのが多いんだろう?俺達、俳優からすると、そういうのは気になるんだよ」
と言って微笑んだ。
私はちょっと笑うと、「ああ、何となく分かります」 と答えて少し考える。
「レオを…初めて見たのは"ロミオ&ジュリエット"の予告でした。それを見て面白そうだなって思って映画館に行ったんです」
「ほ~あの映画なんだ…」
私の言葉にジョニーはニヤニヤしながらレオを見ると、彼は何だか顔を赤くして視線を泳がせている(!)
そんなレオを見るのは初めてだから何となくイジワルしてやりたくなった。
レオって…実は、こういう話をされるの凄く苦手なんじゃないかしら…
今だってジョニーに、からかわれて照れているように見える…
ほんと以外…(たいがい失礼)
「ああ、それで…どうだったんだ?あの映画の感想は…どういうとこでレオをいいなぁ~と思った?」
「お、おい、ジョニー、やめろって…」
「まあまあ…照れなさんなって!」
ジョニーは嫌がるレオの頭にポンポンと手を置くと、質問の答えを求めるかのように私を見た。
私も何だか楽しくなってきてこうなったら全部話しちゃおうという勢いで、まずシャンパンを飲んでから息をついた。
「えっと…感想は…まず凄く情景やバックに流れる音楽が奇麗だなぁ…って思ったのと…
シェークスピアのイメージとは違って、ほんとに現代劇だったのが逆に面白くて…周りを固める俳優も良かったし…
ほら、あの銃で打ち合いするとこ?あそこもユーモアたっぷりで面白かったです」
「そうなんだ…だってさ!」
ジョニーはそう言うとレオの背中をバンっと叩いた。
「ぃた…っ。いちいち叩くなって…」
レオは何だか恥ずかしいのを誤魔化すようにシャンパンを飲んでいる。
「で…肝心の…どこのシーンでレオを気に入ったんだ?それとも…最初から、ファンになってた?」
「あ、そう…ですね…。どっちかと言えば…予告で気になったから行ったんで…
あ…!でも、あります。凄くいいな~って思ったシーン」
「な、何だ?どこ?どこのシーン?」
ジョニーも、すでに酔っているのか子供のように身を乗り出してきた。
レオはと言えば、顔が赤くなってて、ばつの悪そうな顔で落ち着きがない。
キャシーはシャンパンをお代わりしながら、ニコニコと私の話を聞いている。
私も少しシャンパンで酔ったのか、自然に自分がレオを好きになったシーンを話し始めた。
「あの映画で…と言うかシェークスピアもですけど…有名なあのロミオが高い塀を越えてジュリエットに会いに行くシーン…
映画の場合は…ロミオが屋敷に忍び込んでジュリエットと話すシーンがプールじゃないですか?」
「うん、それで?」
「…あのシーンが凄く奇麗で…そこで二人が想いを打ち明けあってキスをするんですけど…そこがとっても良かったんです。
あの…ロミオが何度もジュリエットにキスをするとこが、ほんとに愛しそうにするんで…ちょっとドキっとしちゃって…」
私がそう言ってちょっと笑うとジョニーも、うんうんと頷きながら、
「俺もあれは見たが分かる!あそこのシーンはなぁ…ほんとに恋をした時の切なさが現れていて…
特に…ジュリエット役の子が凄く可愛かったな!うん」
ジョニーの一言に、その場は静かになった。
「ん?何か変なことを言ったか?」
「あ、い、いえ…」
私は笑いを堪えつつ首を振ると、ジョニーが、
「ああ、でも、あのレオもカッコ良かったなぁ…!男の俺から見ても良かった!
特にあのジュリエットに愛しいのが我慢できないって感じでキスをくり返すシーンはなあ!
男の俺でもキスして欲しくなったぞ?(!)」
「………」
「……」
「……」
「ん?どうした?皆で俺を変な目で見て…」
ジョニーは皆の異変に気付いて首をかしげた。
レオは顔を真っ赤にしてるし、私は開いた口が閉じないし、キャシーは酔っ払ったのか目がトローンとしてるしで
それぞれがジョニーを見ていた。
「な、何だ?俺、変なこと言ったか?」
ケロっと言うジョニーにレオが、「充分、言ってるだろ?!」 と言って赤い顔で睨んでいる。
「何でだ?キスして欲しいなんて言われたら嬉しいだろう?!」
「男に言われて嬉しいかよ!」
レオは何だかムキになっているも少し笑っている。
私は二人のやり取りに思わず笑ってしまった。
「アハハハ…やだ…っジョニーって面白いんですね?私もっと普段は無口で怖い感じの人かと思ってた」
「そうか?俺はそんなイメージなのか…それも、またいいな?しかし…
ちゃんと俺の好きなシーンが一致するとは気が合うね?」
「そ、そうですね…」
私はまたおかしくなって笑いを堪えた。
レオはちょっと嫌な顔をして、「何だか人の作品の話で口説いてない?」 と呟いている。
「何だ?いいじゃないか!ちゃんだってお前のキスシーンが良かったって言ってるんだから!
なんならあんな風にキスしてやったらどうだ?」
「バ…っ!!!バカなこと言うなよ…!!」
ジョニーのアホな発言でこれにはトドメをさされたかのようにレオが顔を更に赤くして怒鳴った。
私も顔が真っ赤になって顔を上げられなくなってしまった。
「何だ?二人して真っ赤になって…純情だな~!アッ八ッハッ」
「アッハッハじゃない!ったく…だからジョニーに会わせたくなかったんだよ…」
レオはそう呟くとジョニーは愉快そうに笑って煙草に火をつけた。
「ご、ごめんな?…あの人…別に悪気があるわけじゃ…」
レオがすまなそうな顔で私の顔を覗き込んできた。
「あ…ううん…。分かってる…。それに楽しいからほんとに…」
「そう?なら…いいけど」
レオも嬉しそうに微笑んで息を吐き出した。
私は…そんなレオの顔を見て不思議な気持ちになっていた。
彼の映画の話をする時は今まで、だいたいが友達とだった。
それなのに今は本人に見た映画の感想を言えている…
何だかこの時…レオを初めて身近な存在のように思えた――
この夜、私達は遅くまで飲み明かして、まだ日が昇る少し前に帰った。
キャシーはジョニーにタクシーで送ってもらったようだ。
私は…いいと言ったのにレオがタクシーでわざわざサンタモニカまで送ってくれた。
それでも…今までとは何だか雰囲気が違って私は凄く胸が苦しくなった――
「はぁ~…」
「15回目…」
「え…?何か言った?ジョー…」
「だから…その息苦しそうな、"はぁ~…"って溜息をしたのが15回目だっつったんだ!」
俺はそこで顔を上げた。 ―今は撮影スタジオのメイクルームだ―
「何だよ…人の溜息、数えるなよな…」
「あのなぁ…それを聞かされてる俺の身にもなれ!せっかくのテンションが下がるんだよ!」
「はあ~?ジョーなんて、ただでさえ、うるっさいんだから少しくらいテンション下げた方がいいんじゃない?」
「何だとぉう?」
「はぁ~……」
「………っ!」
ジョーは何だか顔を赤くして俺を鏡越しに睨んでいるが別に気にならなかった。
うるさいハエがまとわりついてるようなもんだ(!)
そんな事より…俺は明日のの婚約パーティーの事で頭がいっぱいだった。
しかも明日はクリスマス・イヴ…
何て最悪のイヴなんだ…
それに来年のバレンタインデーには結婚式が決まったという。
は確実にあのダニ―とかいう奴と結婚への準備をすすめてるんだと分かり、ますます胸が痛みを増していった。
「はぁ~…ダメだ…力でない…」
「そりゃ、そんな溜息ばっかついてちゃな?」
「あ?」
「明日はイヴだぞ?デートの予定とかないのか?せっかく夜はスケジュール空けておいてやったのに」
「それはそれはお優しいことで…。でも、あいにくデートの予定は入れてないよ…ティナからの誘いも断ったし…」
「な、何だと?!」
「うるさいなぁ…その暑苦しい顔で近付くなよ…」
俺は顔の近くにジョーが来て思い切り手で押し戻した。
「む…っ暑苦しくて悪かったな!そ、それより、お前…!毎年、イヴには奇麗な彼女とデートだったろ?!
仕事入れると凄い剣幕で怒るから今年は夜を空けてやったのに…どうしたんだ?ティナの誘いを断るなんてもったいない!」
俺はジョー@ハエ(!)がうるさくて椅子から立ち上がるとソファーの方へ移動してそこにゴロンと寝転がった。
「そんなに言うならジョーがティナとデートしたら?」
「何い~?!そんなもん、向こうさえ良ければいつでもOKだ!」
「はい、はい…」
「そ、それより…お前ほんとどうしたんだ?最近は他の女ともパッタリ会わなくなって…そんなに、あの看護婦がいいのか?」
「おい…看護婦とか言うなよ…ちゃんとって名前があるんだから…」
「へーへー悪ぅございました!で…その…が…」
「呼び捨てするなよ、ジョーのクセに…(!)」
「ぐ…っ…。た、耐えろ…マネージャーは耐えるのみ…!」
ジョーは何やら独り言を言いながら、ゴホンっと大きく咳払いをして、
「で…!その"ちゃん"がそんなに好きなんですか?!」
「……大人気ないぞ?」
「……っ!!」
ジョーは顔を真っ赤にしてメイクルームを出ていってしまって俺は少し苦笑しつつも体を仰向けにして目を瞑った。
明日…夜を空けてくれたからって別にに会えるわけでもない…
それに他の女には会いたいとも思わなかった。
かなりの重症だな…
…本当に結婚するのか…?
もう…俺が入り込む余地はないって事かな…
何だかイヴがこの世で一番嫌いな日になりそうで苦しくなった――
「お母さん、髪型、これでおかしくない?」
「あら、可愛いじゃない?大丈夫よ?それならダニーも惚れ直しちゃうわ?」
「やだ、お母さんったら…髪型で惚れてくれるなら苦労しないわ?」
「あら、婚約して幸せな子がそんな事を言ったら恋人もいない女の子から睨まれるわよ?」
母は、そう言いながら耳にイヤリングをつけて鏡越しで微笑んだ。
「さ…そろそろお客様が見えるから…下へ降りましょうか」
「ええ…」
私は頷いてからもう一度鏡を見直した。
今日は婚約パーティーと言う事でドレスを新調して貰った。
養父の希望で何だか真っ白なドレスにされて私は思わず苦笑してしまった。
病院でいつも真っ白な制服を着ているからか、普段は原色が好きだったりするのだが、
お嫁に行く娘にはやはり真っ白なドレスだろうとか何とか言って勝手に決めてしまったのだ。
これじゃあ…あの映画の中でジュリエットが着てた白のドレスみたいだわ…
髪型は違うけれど…(胸元が開いているので髪を巻いてルーズにアップにしていた)
ふと思い出して小さく吹きだした。
そう言えば…あの感想を言った時のレオは本当に面白かったなぁ…
あんなレオは初めて見たし、彼にもあんな一面があったんだ…と嬉しくなった。
いつも照れることなどないって余裕の顔で私をからかっていたから妙に驚いてしまったけど…
ジョニーも面白い人だって分かったし…
今度、彼の映画も観に行ってみよう…
「~?ダニーが来たわよ~?」
「今、降りるわ?」
先に下へと下りていた母が呼んでいる。
私はちょっと髪型を直すと急いで下へと下りて行った。
「…!奇麗だよ?凄く」
ダニーが私を見るなり抱きしめて頬にキスをした。
「ありがとう…」
私はちょっと微笑んでそう言うとダニーとリビングへと入って行った。
「ここに、招待した客を入れないといけないから、夕べは泊り込んで余計なものをどかしたのよ?」
「そうみたいだね?ショーンが今朝、凄く眠そうな顔でグチってたよ?」
「アハハ…母さん、厳しいから養父さんをコキ使ってたもの」
「そのうち俺もコキ使われそうだな…」
「うん、間違いないわ?」
「おいおい…怖いな・…」
ダニーはちょっと笑いながら私の頬にキスをする、とその時エントランスの方が騒がしくなってきた。
「あ…誰かついたようだわ?」
「じゃ、二人で出迎えよう」
「ええ」
ダニーは私の肩を抱きながらエントランスの方へと歩いて行った。
(はぁ…いつになったら終るんだろう…)
私は時計を見ながら溜息をついた。
婚約を親戚に発表して結婚式の日にちも知らせると皆が、「おめでとう!」 と祝ってくれてありがたいのだが、
その後は、ただの宴会状態だ…。
養父はブランデーの飲みすぎでフラフラしてるし、それに付き合って飲まされたダニ―はダウンして
今は客室で眠ってしまっている。 ―これでは結婚式でも同じ事が起きそうだ―
母さんは久々に会った自分の親戚と、「今度海外旅行に行きましょう」とかで盛り上がってるし…
私は一人で親戚の叔父さん連中を接待していたが、そのうちただの酔っ払いと化して、
相手をするのも嫌になり自分もワインをヤケ飲みしてしまった。
あ~ふわふわする…私も寝ようかなぁ…
もう主役の二人なんて、お構いなしで飲んでるんだもの。
この場にいなくたって気付きもしないだろう。
そっとリビングを出てエントランスホールの方へと出た。
階段を上がろうとして、ふと足を止め少し酔いでも冷まそうと外へと出る。
今日は比較的暖かく、夜でも寒いと言う事はないくらいの気温だった。
「はぁ~~気持ちいい…っ」
私は思い切り伸びをして空気を吸い込んだ。
チラっとリビングの窓の方を見ると、まだ中ではガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
(はぁ…大人たちは呑気でいいわね…)
私はそんな事を思いながら裏庭の方へと歩いて行った。
裏庭はリビングとは反対になるので、ここまであの騒ぎは聞こえてこない。
静かで今まで、うるさい話し声を聞いていた耳を休めるには絶好の場所だった。
(そう言えば…うちにもプールはあるのよね…)
また映画のシーンを思い出し苦笑した。
今時期でも母さんが使う時、温水にしてしまっているのでプールには水(お湯?)が張ってあった。
私はプールに近づき、足を休めるのにヒールを脱ぎ捨てるとプールへと足をつけた。
「わ…あったかい…温泉みたいだ」
暖かいお湯に足をつけて気持ちがよくなった。
はぁ…今日はイヴか…
何だか、そんな気分じゃないわ…一応ケーキは食べたけど。
レオ…は…今頃、何をしてるのかな?
撮影?それとも…イヴだから誰かとデートかな…
この前、撮影で今度、アトランタに行くと言っていた。
あれって…もうすぐじゃなかったっけ…?
ふとそんな事を考えながら足を浸していると後ろでガサ…っと音がしてビクっとなる。
そっと振り返るも誰もいない。
今、歩いて来た方向は薄暗く、よく見えないのだけど…
「気のせいかな…?」
私は顔をプールへと戻した。
すると、また後ろでカサ…っと音がしてちょっと怖くなるも思い切って、「誰?」 と振り向いた――
「メリークリスマス!」
「キャ…っ」
バシャ――――ンン!
「!」
私は一瞬何が起きたのか分からなくてパニックになった。
暖かいプールに落ちたと気付いた時には思い切り水を飲んでいて苦しさで意識が飛びそうになる。
上がろうにもドレスが体にまとわりつき、尚且つ水を含んで凄く重くなっていた。
「た…たすけ…て…っ」
何とかそう言った時、目の前に誰かが飛び込んできて体をふわっと持ち上げられた。
「大丈夫か?!」
「ゲホ…ッ…レ…オ…?ゲホ…」
水が気管に入り咳き込みながらも、今自分を抱きとめているのがレオだと気付いて私は驚いた。
「な、何…して…っ」
「ああ、しゃべらないで…水出しちゃった方が楽だから…」
そう言われて、とにかく気管に入った水を咳き込んで全部出してしまった。
「ゴホ…ッ…あ…あ~…苦しかった…」
「大丈夫?」
「うん…」
「ごめん…驚かせちゃって…」
「…そ、そうよ!あなた、ここで何をしてるの?!」
「ああ…何だか会いたくなっちゃって」
「…はあ?!」
私は水に濡れた髪をかき上げて微笑んでいるレオを呆れた顔で見つめた。
「…ここ…足つくよ?」
「…え?」
レオはそう言うと私を支えていた腕を腰から離した。
するとストンと足が下についたのが分かる。
「あ…そうだった…」
私はちょっと笑いながら舌を出すとレオが吹きだして笑っている。
「アハハ…自分ちのプールだろ?気づけよ…アハハ」
「だ、だって…いきなり落ちたのよ?それに、このドレス凄く重くて上がれなかったんだもん!
だいたい、あなたのせいじゃないの!忍び込んで驚かすから!」
いつもの様にポンポンとレオに怒鳴ると彼は肩をすくめて、「だから…ごめんってば…」 と言って微笑んだ。
「そ、それより…ほんとに何しに来たの?」
「だから…会いたくなって…」
レオにそう言われて私は視線が泳いでしまう。
「だ、だからって…」
「今日さ…イヴだろ?夜は撮影なかったし…やっぱりイヴにはの顔を一目でもいいから見たいなって思ってさ」
「―――っ」
ニコニコと説明されて私は何も言えなくなってしまった。
するとレオが私の頬に張り付いた髪を手ではらってくれてドキっとする。
「あ~…せっかくのアップが落ちちゃったね…?」
「え?」
レオはそう言うと私の後ろの髪に手を伸ばすと髪を止めていた飾りをパチンと外した。
すると長い髪がパサっと落ちてそれをレオが優しく整えてくれる。
「あ、あの…」
「はい、これでOK。グシャグシャのままでいるよりこっちの方がいいだろ?」
「え?あ…まあ…って、そうじゃなくて…っ」
「、今日の白いドレス可愛いね?」
「え…?」
「ジュリエットみたいだ。あの映画の……」
「………」
レオにそう言われて私は顔が赤くなってしまった。
や、やっぱり、そう見えるのね…
だいたい養父さんが、こんなドレス選ぶから…
と心の中で養父に文句を言うも、レオの手が頬に触れてきてドキっとして顔を上げる。
「そう言えば…ここもプールの中だから映画と同じだよ?」
「え?あ…ほんと…だ…」
思いがけず、あの映画のシーンを思い出して胸がドキドキしてきた。
そうだ…あの奇麗な情景と…今の状況はよく似てる…
夜で…しかも私は白いドレス…
何だかおかしくなって、ちょっと笑ってしまった。
「何を笑ってるの?」
「だ、だって…あまりにあの映画のワンシーンみたいで…驚いちゃって…」
「ほんと…でも撮影以外でこんな服着たままプールに入るとは思わなかったけどね?」
レオが苦笑しながら言ったのを聞いて私もおかしくなった。
「ほんとね?じゃあ…映画のシーン撮りだと思って諦めて?」
そう言いながらふと映画のセリフを思い出し、そして今、私も同じ事を思った。
「そう言えば…映画で思い出したけど…レオ……あの高い塀…どうやって登ったの?まさか…木に登った…とか?」
そう聞くとレオは何も答えず、ちょっと微笑んでから黙って目を瞑った。
「…? ――レオ?」
どうしたのかと手を伸ばしかけたその時、レオが静かに目を開けた―
「"恋の翼をさまたげる塀など存在しない。恋はどんな危険もおかす。止める事はできない…"」
「―――っ?」
突然、あのシーンでのセリフを言われて驚いた。
「レオ…?」
「いいえ…私の名はロミオです、ジュリエット…」
「へ?」
私は目の前のレオの表情が少し違っているのに気づき、また驚いた。
うわ…今まで話してたレオと…表情が違う…
ほんとに…あのロミオの時の顔になってる…
凄い…一瞬で…ロミオになったわ…
私は目の前でレオの演技を見たのにも感動していたが、それより黙って私を見つめている優しい瞳に胸がドキドキしてきた。
いつ母や養父が私がいない事に気付き、ここへ来るかと心配なのもあるが…
「あ、あの…早く戻らないと…心配して養父が探しに来るかも…」
そう言った時、レオが私に少し近づいてきて私はプールの中を後ずさった。
「"ならば夜の闇に身を隠そう…だが、もしも、あなたの愛が得られぬなら…
いっそ命を終らせるほうがましだ…"」
レオはそう言いながら後ろへ下がる私の方へと歩いてくる。
(こ、この場面…あの映画と同じだ…)
私はそう思いつつ胸がドキドキして顔が熱くなった。
後ろへ下がって行き過ぎたせいか壁にぶつかって体が止まる。
その時、レオは優しく水で濡れた私の頬を撫でて、
「"愛のない生はむなしい・…"」
と呟いた。
こ、このセリフ…
このあと…確かロミオは…愛おしそうにジュリエットに…キス…したんだった…!
私は思い出すと顔が真っ赤になって口を開きかけた。
それをレオが指で静止する。
その指のぬくもりに思わず顔が熱くなって下を向いてしまった。
するとレオは私の顔を覗き込むようにして、ゆっくり顔を近づけ少し目を伏せると、
私の唇に触れるだけのキスをしてすぐに離した。
私は体が硬直したまま驚いた顔でレオを見つめるとレオも私を見つめていた。
凄く優しい瞳で、とても愛おしそうに…
声も出せず逃げる事も出来ないまま、思わず私は目を瞑ってしまった。
するとレオは私の頬にそっと手を添えて、押し付けるように、でも優しくキスをした。
体を固くすると、そっと抱き寄せ自分の腕の中へ納めながらキスをしたまま私の腰を抱き寄せる。
私は体が動かせないまま、レオの腕の中で彼の唇を受けて胸がギュっと痛くなったのを感じていた。
レオは私の首に手を添えて少しづつキスを深めていく。
水の中で体がふわふわしているからか、これが現実の事じゃないような錯覚に陥った。
それでも何とか体を少し離すと腰を抱き寄せていたレオの腕が放れ、唇がそっと解放される。
その瞬間、ふと現実に戻り、私はまた後ろへと下がった。
「あ、あの…私…戻らなきゃ…」
レオは黙ったまま、私の後を追うように近づいてくる。
「い、今のは…忘れ―ん…」
その時、レオがまた私の唇へ触れるだけのキスをしてきて言葉が途切れた。
「レ、レオ…?あの―」
話そうとするとまた唇が重なり、言葉が切れていく。
後ろへと下がりながら離れようとするのにレオはどんどん私の方へと近づいてきた。
「や、やめて…」
胸が痛くなり、レオに背中を向けてプールから上がろうとした。
すると後ろから肩を掴まれ、また向かい合ってしまう。
「あの…私…」
そう言いかけると、またチュっと軽くキスをされて顔が赤くなった。
そしてレオは私を抱き寄せ、頬と首筋に唇で触れてくる。
「や…やめて…レオ…?」
「…」
そこで名前を呼ばれてドキっとした。
レオは真剣な瞳で私を見ると私の頬を両手で包み、また唇にキスをしてすぐに離した。
「レ…オ…?」
「愛してる…」
「え……?」
思いがけない言葉に驚いて一瞬、足を滑らし顔が水につかりそうになったのをレオに抱き寄せられ、私は彼の腕の中へと戻った。
「レオ…今…何て…?」
私はまだ信じられなくて水の中で必死にレオに掴まりながら、そう問い掛けた。
私の問いかけにレオは切なげな顔をした、そのまま唇にキスをして頬にも唇を押し付けると耳元で一言呟く。
「俺…の事が…好きだよ・…」
「え…?」
レオはそう言うと私をギュっと抱きしめてきた。
「愛してるんだ…凄く…誰にも渡したくないくらいに…」
「な…何言って…」
私はレオの言葉が現実のものではないような感覚で呆然と聞いていた。
それでも唇に触れてくるレオの温もりにハっと我に返る。
「嘘…」
そう呟くとレオが私の顔を見つめる。
「嘘じゃない…。俺は…を…」
「また…からかって…るんでしょ…?」
「…」
「だって…今までだって…冗談ばかりで…」
「…俺は…本気で今、君を愛してるよ…?じゃなきゃ…こうして会いに来ない…」
「嘘だ…」
嘘であって欲しかった。
だって私は―――
「…? ――泣かないで?」
「…え?」
気づけば涙が頬を伝っていた。
それをレオが優しく指でぬぐって額にもキスを落とす。
「レオ…?私…」
自分の声が震えているのが分かった。
それに気づいたレオが、また私を強く抱きしめて、「…結婚なんて…するなよ…」 と言った。
彼の声もまた少し震えている。
この時…私は――気づいてしまった。
自分が…レオを深く愛し始めていることに――
「……?」
私の体が震えている事に気付いたのか、レオが少し体を離して私の顔を覗き込んだ。
「私……」
「…え?」
「あなたが…」
そう言いかけた時、レオが驚いた顔で私を見た。
その時―
「~~?!いるのか?!」
(…養父だ…!)
私はいきなり現実の世界へと引き戻された気がした。
「私…戻らないと……っ」
「…!」
レオが私の腕を掴んだ。
「今は行かなくちゃ…」
レオは私の腕を引き寄せ、軽く抱きしめると、「明日の夜、11時に…俺の家に来て…?」 と言った。
「え?」
「待ってるから…。その時…ゆっくり話したい…」
レオはそう言うと私の唇にチュっとキスをして、すぐにプールから上がると私の事も引き上げてくれた。
「明日の夜…11時だからね?」
レオは額にかかった髪をあげながら、私に微笑んだ。
濡れて寒いはずなのに彼の言葉に体が熱くなるのを感じて静かに頷く。
するとレオは最後に私の首へと腕を回して私の唇にキスをした。
「早く戻って…また風邪引くから…」
「あ、あの…レオ…は?」
「俺はすぐ帰れば平気!それより早く戻れよ。…じゃないと俺、心配でいつまでも帰れない…」
私はレオの言葉に胸がドキっとしてコクンと頷くと、ゆっくりエントランスの方へと下がって行った。
レオは笑顔で手を振っている。
私はこの時、レオと離れたくないと強く思った…。
(でも…今は戻らなければ…)
心が一緒にいたいと叫んでるかのように痛むのを我慢して、私はレオに背を向けると急いで養父の声がする方へと走って行く。
この時…私は気付くのが遅すぎた事を…後悔していた――
>>Back
ACT.10...逢瀬>>
ヒロイン、とうとうレオを好きになりましたねぇー
って最初から?ってとこは謎なんです(何でだ。笑)
本文でも書いてますけど、ロミオ&ジュリエットのキスシーンは最高です!!(笑)
もぅね、レオ様のキッスいいよぉ~(オイ)
ほんとに愛しいぃー!って感じでキスしてますもんねv(
* ̄m ̄)クフ
このキスシーンを見ながら参考に書いておりましたvワォ。
見てない方…もしいましたら是非!!
さぁ…ちょいと進展がありました…はぁ~ドキドキ(笑)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
|