Celebrity......~Love
only of ten days~
1997年、初秋。
私は留学先のロスから休みを利用して15日間だけ日本へと帰国する事を今日…ううん、たった今決めた。
「明日、帰るから」
「ふぅ~ん」
「―――っ(ムカッ)」
(な、何よ、その態度…少しは焦ったらどうなのよ…っ!)
私は現、恋人のコリーの素っ気無い態度にカチンときた。
「帰るって日本に帰るって言ってるのよ?」
私が念を押すようにそう言えばコリーは面倒くさそうに読んでいた雑誌から顔を上げて私を見上げた。
「…分かってるよ。学校、休みだから遊びに行くんだろ…?あ、お土産宜しく」
「…買ってこないわよっ!」
バン!っとドアを閉め、私は寝室へと向かった。
何よ、何よ、何なのよ!
恋人が遠い海の向こうに帰るって言ってるのに、あのどうでもいいって態度…!
普通なら少しは、"え?ほんとに行くのか?"とか、"寂しいだろ?"とか言わない?!
いくら昨日のケンカを引きずってるからって……!
私は、あまりに頭に来てスーツケースに詰めるだけの服を詰めてパスポートも用意した。
今すぐにでも日本に発てるくらいに準備を終えると、軽く息をついてベッドに腰をかける。
私は二年前に田舎町の地元を飛び出しロスの大学へと入った。
それからは、ここロスのメルローズに住んでいた。
と言っても、このアパートメントは今の恋人で同じ大学の一つ先輩でもあるコリーのアパート。
付き合いだしてすぐに私達は一緒に暮らし始めた。
でも最初は情熱的だった彼もここ最近では他の女と遊びまわったりしてすっかり変わってしまった。
最近ではケンカばかりして生活も擦れ違いが多くなっている。
昨日も大学の休み中、コリーは友達とあちこちに遊びに行くなんて言いだし私に留守番をしてろと言ってきたので大ゲンカになってしまった。
あまりに腹が立って大学が休みに入る少し前から私は休学届けを出した。
すでに必要な単位はとってある。
そして今日、彼の態度で帰るかどうか決めようと先ほど決心して言ってみれば――
あの態度で私は本気で日本に帰る事を決断したのだ。
どうせ大学が始まれば帰って来ると高をくくってる。
だから、あんなに安心していられるんだ。
そう思うと悔しくなってくる。
いいわよ…日本で素適な人がいれば浮気の一つや二つしてやるんだから。
対して興味もない日本人男とだって浮気くらいならできるんだからねっ
少々過激な事を考えながら私は日本行きのチケットを手配するのに電話をかけた。
出発日は明日、午後の便。
これをどれか一つでも変えていれば…きっと私は彼とは出会えなかっただろう。
そしてあの、たった10日間だけの夢のような世界には行けなかったに違いない。
私はこの日、夢の世界へのチケットを手に入れた事にまだ気づいてはいなかった。
.The day.....Dream...
10月31日、午後3時半。
私は久々の日本…成田に降り立ち、唖然とした。
『な…何これ……』
すっかり頭の中を日本語に切り換えた私が久々に発した第一声がこれ。
到着ゲートに歩いて行けば何だか凄い大勢の人だかり、そしてフラッシュの嵐…
中にはテレビ局のカメラまでが多数動き回っている。
私は驚いてその場に立ちすくんでしまった。
と言うよりも怖くて動けなかったと言うべきか。
(な、何で、こんなに人がいるの?!何かイベント?!それとも誰か来てるの?!)
動けなかったのもあるが一向に前に進めない状態で他の客たちも後ろから来ては驚き立ちすくむ。
なので周りがごった返してきて、私は慌てて無理やりにも前へと進んで行った。
だが、あの人だかりの中を行けるわけもないし行く勇気すらない。
(何なのよ…久々の日本かと思えば、この混雑…!誰か有名人でも来てるわけ?!)
で、でもこの人だかりじゃ前だって見えない。
私は身長が小さく精一杯伸びをしたってカメラを持ち上げてる手とか人の頭しか見えないのだ。
『ちょ…すみません…!通してください…!』
(早く荷物を受け取りに行かないと…っ)
そう思って気ばかりが焦る。
だが私の声なんてこの大勢の声で一瞬でかき消されてしまう。
しかも何だか集まってる人達は若い女性ばかりで黄色い声なんてあげている。
『キャ~!こっち見て~~~!』とか、『かっこいい~!』とか、そんな声が交じり合って聞こえてくる。
"かっこいい"という声に年頃の私だって少しは気になったが今はそれどころじゃない。
前に進むかどうかの瀬戸際なのだ。
色々な人にどつかれ、フラフラしながら、この熱気とうるささに頭がボーっとしてきてしまう。
前に行けば行くほど人にもみくちゃにされ、戻ろうかと振り向いてもすでに道すらなくなっている。
私は一体、自分がどこに向かって歩いているのかすらも分からなくなっていた。
その時、凄い勢いでぶつかられよろけて誰かにぶつかり、ついでに足まで踏んでしまった。
『あ…す、すみませ……あ……I'm sorry.....!.』
「No、No.......Are you also safe?」
「YES.......Thanks.........」
不意にぶつかってしまった人を見て私は頭をすぐに英語に切り換えた。
てっきり日本人かと思ったその人はかなり大柄の外国人で人懐っこい笑顔を私に向けている。
45~55歳くらいのなかなか渋い印象の男性だ。
「すみません、足……」
よろけた私の腕を支えてくれたその外国人男性の足を指さしそう言えば彼はニコニコしながら、
「全然、痛くなかったよ。君が小柄な人で助かった」
なんて優しい言葉が返って来る。
そう、外国人男性とは本来、こんな風にスマートな人が多い。
(なのに、あいつは…!)
なんて、どうでもいい事を思い出し、また少し腹が立ってくる。
その時、一層、歓声が高くなり人の波がドっと動き出した。
「キャ…」
「まずいな。あ、こっちだから一緒に来て」
「は……?え?!」
突然、その外国人の男性に掴まれたままだった腕を引っ張られ、私は驚いた。
「あ、あの……どこに……っ」
そう声をかけても、その男性はズンズン人を掻き分け進んでいく。
この、人の波を慣れた感じで歩いて行く彼に私は成す術もなく、ただ必死に転ばないようにとついて行くだけだ。
その時、いつまで続くんだと思われた人波が途切れ、前の前には沢山の警備の制服を着た人が見えてドキっとする。
だが、その男性は、その警備の人に促され、何だか張られたロープをくぐり、静かな通路まで歩いて行く。
気付けばその男性の傍には、これまた渋めの黒人男性が二人、守るように後ろから着いてきていて私は首を傾げた。
「あ、あの…どこまで行くんですか?」
いい加減、人ごみを抜け出せたのに一向に腕を離してくれなさそうなその人にやっとの思いで声をかけた。
「ああ、もうすぐだよ」
「え?あの…もうすぐって…」
どこに向かってるのかすら分からないが、とりあえず到着ロビーからどんどん離れていってる…というのは分かった。
(どうしよう…私、スーツース取りに行かないといけないのに…!)
そこだけが頭の中をぐるぐる回っていて焦ってしまう。
「ミスター・キャメロン!こっちです!」
その声に前を見れば、これまたピシっとスーツを着た外国人男性が携帯片手に手招きをしていて、
私の手を引くその男性は笑顔で答えている。
「もう彼は車に?」
「ええ、先に乗せました。もうホテルに向かってます。凄い人ですからね。あれ……その子は?」
「ああ、この子は通訳さんだ。このまま私の車に一緒に乗っていくよ」
「そうですか。おかしいな……。ああ、とりあえず急いで下さい」
私は、そのやり取りを聞いていた。
だが脳に届くまで暫く時間がかかる。
何…?何て言ったの?この人…私のこと…よね…"通訳"って…
って事は、この人、私を人ごみから助けてくれたんじゃなく…何か勘違いしてるとか?!
(ま、まずい…!)
「あ、あの私、違います…!戻らないと…!」
「え?ああ、気にすることないよ。君を乗せるはずだった車は先に出たようだから私の車に乗って行きなさい」
「え?い、いや、だからそうじゃなくて…っ」
私は焦って英語もしどろもどろになってきた。
だいたい、いくら英語を話せると言ってもこの焦った状態では脳で整理してから英語を搾り出すのが難しいのだ。
そうこうしていると、そのキャメロンと呼ばれた男性は私を車に乗せてドアを閉めてしまった。
「ふぅ……凄い人だったね。日本の人は元気だよ」
「ほんとですね」
そんな会話を聞きながら私は、自分の乗り込んだ車を見て更に唖然としていた。
(な、何…この車……これって…あの映画とかでもよく見るセレブが乗り付けたりしてる……リムジン?!)
無理やり乗せられた車、それも車内はかなり広く、キャメロンと呼ばれた男性と私の向かいには
先ほどのスーツの男性
そして黒人男性二人が乗れるほど。
(こ、この人達…ううん…この紳士な彼は一体、何者なの?!)
ちょっとしたパニックになり、空港からどんどん遠ざかってる事に気付かなかった。
その時、キャメロンと呼ばれた紳士が私に笑顔を向ける。
「えぇと…それで君の名は?」
「へ…?あ、あの…と言います…」
「、か。いい名だね。私は、まあ知ってると思うが、ジェームズだ。宜しくね」
「はぁ…ジェームズ…」
「ああ、そう呼んでくれて構わないよ?いや、しかし凄い人だったね…。君もはぐれたのかい?」
「え?はぐれた…?」
「私は気付けば囲まれててね。すっかりスタッフを見失ってしまって困ってたんだ。言葉も通じないしね。
いや、通訳の君が傍についててくれて助かったよ…」
「はぁ…」
ついててくれた……?
いえ…私は流されて、あなたの方に行っただけですが…
と混乱した頭で思いながらも、ふと窓の外を見てギョっとした。
(く、車が走り出してる!)
凄い静かだったし気付かなかった…っ
さすがはリムジン…なんて言ってる場合じゃない!
「あ、あの!下ろしてください!」
「え…?!」
「私、空港に戻らないと…!荷物受け取ってないんです…っ」
冷静になってその事を思い出すと今度は違う意味でパニくってしまった。
そんな私を見て、その場にいる全員が顔を見合わせている。
「何の荷物だい?君のバッグなら手に持って…」
「こ、これじゃなくて…!スーツケースですっ」
「スーツケース…って事は君…ロスから一緒に我々に同行してたという事かな?」
天然なのか、ジェームズは突拍子もない事を言い出し私は驚いた。
「確かにロスから来ましたけど…で、でも同行なんてしてないです…。というか私、通訳でも何でもなくて…」
「…言ってる事がよく分からない…。もう少しちゃんと説明してくれるかな?」
ジェームズは少し驚いた顔で、それでも穏やかに微笑みながら私を見つめている。
焦っているおかげで英語もちゃんと通じてないらしい。
『だ、だから…えーと…困ったな…』
つい日本語まで出てきてしまい、どうやって説明しようと考えた。
というより…彼らは一体、何者なんだろう……
「これ、どこに向かってるんですか?」
「ん?ああ、ホテルさ。もちろん」
「ホテル……?ど、どこの…」
「ああ、えっと…どこだったかな?」
「"オークラ"というとこです」
「だそうだが…知ってるかね?」
「え?あ、はあ…名前くらいは…」
でも行った事なんてないし東京のどこにあるのかすら知らない。
私の故郷はもっと離れている場所にあるのだから。
私は、それを聞いて少し落ち着こうと深呼吸をした。
ジェームズ達はそれを不思議そうな顔で見ている。
「あの…」
「何だい?」
ジェームズは優しい笑顔で体を私の方に向けると軽く首を傾げた。
私も彼を見ると、今度はちゃんと言うべき事を頭の中で整理する。
「えっと…ミスター達が何者で日本に何をしに来たのか分かりませんけど…今、言える事は…
私はミスターの通訳でも何でもなくて…ただの通りすがりの者です。
ロスから休みを利用して帰国した、ただの大学生なんです。
それで…荷物がないと困るので空港に帰りたいんです。ここで下ろしてもらえませんか…?」
ゆっくり、一言一言を丁寧に話してみた。
その間、ジェームズは黙って聞いていたがやはり少しは困惑した表情を浮かべている。
そして他の皆と顔を見合わせ、もう一度私を見た。
「…では…。君は……通訳じゃなくて…。一般の…旅行者だと…言う事なのかな?」
「はい。まあ…日本に帰って来たので旅行者…というわけじゃないんですけど…。
あなたの通訳でないことだけは確かです」
そう言うとジェームズは今度こそ本気で驚いたように手を頭にやって口を開けている。
「OH、MY、GOD...!」
「ど、どうしましょう?ミスターキャメロン…!」
スーツ姿の男性もかなり慌てている様子だ。
黒人さん二人は何だか顔を見合わせ、それでも表情を変えずに黙っている。
彼らは何となくジェームズのボディーガードなのかな…?と思わせた。
「これは参ったな…!私はすっかり映画会社が呼んでくれた通訳さんかと…いや、あまりに英語が堪能なんでね…?」
「それは…ありがとう御座います。もうロスに2年は住んでますし…え…?今…何と…?」
「ん?何だい?」
私は今、彼の口から出た単語が何かの間違いかと思わず聞き返していた。
「いえ…今……映画会社…って言いました?」
「え?あ、いや……」
ジェームズは私が通訳ではないと知って、何となく言いづらそうに苦笑を洩らしたが、
仕方ないと言った風に軽く肩を竦めた。
「まあ…私は、ちょっと、その…映画監督なんて仕事をしているもんでね…?」
「はあ…。監督…さんですか……えぇ?!」
一度耳に入れ、それを口に出しハッキリと理解した時、私は驚いて声をあげてしまった。
「か、監督……って…映画を撮ったりする…あの?!」
「まあ…そうだね」
「カチンコとか持って、"アクション!"とかやったりする、あの?!」
自分でも意味不明な事を言ってると思った。
ジェームズも、「 what it "カチンコ"?」なんて言って首を傾げている。
「い、いえ…何でも……」
慌てて首を振りつつ、彼の名前を思い出してみる。
ファーストネームはジェームズ…
ファミリーネームは…キャメロン……
ジェームズ・キャメロン………監督……
ああ、ダメ!私、映画とか好きでも監督とかなんて気にした事がないわ…っ
スピルバーグくらいなら知ってるんだけど……(!)
「…?どうした?ああ、驚かせてしまったかな…?」
「え?あ、あの……」
「ああ、荷物が心配なのかな?いや、参ったね…。どうしようか、ボブ」
ボブと呼ばれたのはスーツの男性で彼も困ったように私を見ている。
「ここで下ろすと言っても…。もう高速道路のようで無理ですよ、ミスターキャメロン……」
「えっ?」
彼の言葉に驚いて窓の外を見てみれば確かに、そこは高速道路の上。
という事はUターンなんてどこで出来るのか分かったもんじゃないし、
しかも下ろされても
空港まで、どうやって戻れば良いのか見当もつかない。
「ど、どうしよう……」
私は半分、泣きそうになって窓の外を眺めていた。
するとジェームズが軽く息をついて私の肩に手を乗せた。
「いや…私が勘違いしたせいで…すまなかったね…」
「……いえ…私がすぐに違うって言えば良かったんです……」
ガックリと項垂れ途方に暮れながらも、何とか、そう言って息をつく。
その間もリムジンは軽やかに走って都心の方へと近づいて行った。
暫く車内に沈黙が流れた。
だが不意にジェームズが口を開く。
「…じゃあ、こうしよう。今は私達と一緒にホテルへ来るといい」
「え?!で、でも…っ」
「いや、それでだ。君、荷物につけてた番号札の半券を持ってるかい?」
「え?ああ…」
そう言われて思い出しバッグの中から半券を出した。
「これ…ですか?」
「ああ、そうだ。ホテルに着いたら空港の荷物係りに電話して送って貰うといい。
きっと取りに行かなかった荷物は預かってくれてるだろう?」
「そ、それはそうですけど…。でも送るって…どこに―」
「ん?ああ、そうだな…。じゃあ私が泊るホテルでいいだろう」
「え…?でも…」
「あ、それとも先を急ぐのかな?帰省するとか…」
「はあ…。でも、そんな急ぐわけでもないんですけど…」
そりゃ、そうだ。
今回だって恋人とケンカをしなければあんな田舎町に帰ろうなどと思わなかったに違いない。
今だって別に帰りたいと思ってるわけじゃないのだ。
私がそんな事を考えていると、ジェームズは少し考えながら、
「どうだろう、。もし、それほど急いでいないのなら私が泊るホテルで荷物を待ってみれば…。明日には着くだろう?」
「それは…そう…ですけど……」
でもじゃあ今夜は、どうすればいいの…?
家に帰るつもりでいたからホテルすら取ってないし…。
なんて思っているとそれを察したかのようにジェームズが微笑んだ。
「私の間違いでこうなったのだから君の宿泊先くらい用意するよ」
「え……?」
その言葉に驚いていると、
「おい、ボブ。今から行くホテルに電話して部屋を一つ用意してくれと言ってくれないか」
「はい。では、どのような…」
「私達と同じ階の部屋に決まってるだろう?」
「…分かりました」
ボブは小さく頷くとプリペイド式の(多分、日本で使う用だろう)携帯を出して電話をかけ始めた。
そして一つ部屋を追加してくれと頼んでいる。
「…ありがとう。では、お願いします。 ―部屋が用意出来ました」
「そうか。ありがとう。 さて…今夜の事は心配なくなったよ?」
「……」
「?どうした?まだ何か不安か?」
「…え?あ、い、いえ…何だか、ちょっと…混乱しちゃってて…」
「ああ、そうか…そうだね。帰国早々、こんな知らない異国のおじさんに攫われたとなっては混乱するだろう」
ジェームズはそう言って苦笑気味に肩を竦めている。
だが私は本当に、That's right!と言ってやりたくなったくらい混乱していたし、
何だか自分の荷物がないと言うだけで不安だった。
ああ…あれに色々と着替えも入ってたのに……
パスポートとか財布という貴重品はこのバッグに入れてあるけどスーツケースには両親への土産も一応入れてあるし、
現金だって少し封筒に入れてあっちへ入れたのだ。
(困ったな…ちゃんと預かってくれてるといいけど…)
そんな事を考えている内にリムジンは静かに高速を下りて街中を走り出していた。
「わぁ…東京だ……」
ふと見た窓の外に大きなビル街が見え、私はついそんな事を口にした。
それに気付いたジェームズが笑いながら、一緒に窓の外を見る。
「は東京に住んでたんじゃないのかい?」
「私?私は…もっと田舎に住んでました。だから東京だって数えるくらいしか来たことなくて…」
「そうなのか。田舎は…どこ?」
「言っても、きっと分かりませんよ」
私は苦笑しながら身を乗り出しているジェームズを見た。
「そうかい?」
「ええ。栃木県の鬼怒川…って言っても分からないでしょ?」
「ああ、初めて聞いたな…」
「日本の人は、ともかく…アメリカの人は、そんな行かないと思います」
「日本の人は、よく行く場所なの?」
「よく行くかは知りませんけど…。一応、鬼怒川温泉って名前でなら知られてます」
「…オンセン…?って、あの大きなお風呂…の事かな?」
「あ、そうそう。それです」
ジェームズの言葉に私は笑顔で頷くと彼もホっとしたように微笑んだ。
「そうか…。の田舎は温泉があるのか」
「はい。家が旅館なんで小さな頃から入ってましたよ?」
「ほう…旅館……。そりゃ素適だね」
「そうですか?私は家が旅館なんて嫌でしたけど…」
「…それは、また…どうして?」
「休みなんてないし、両親も忙しくて一緒に遊んで貰った事もないんです。学校の行事も出てくれた事もないし…
忙しい時期には手伝わされるし…だから家から…と言うか、もう日本から飛び出したくて無理やりロスの大学に進学して…」
そこまで話して言葉を切った。
車が静かに止まったからだ。
「ああ、ついたようだ。では行こうか」
「はい…」
そう答えた瞬間、ドアが開き、運転手が立っている。
「どうぞ」
「え?あ…はい」
こんな風にされた事もないので慌てて車を降りると、目の前には奇麗なエントランスが見えて思わずキョロキョロしてしまった。
続いてジェームズが降りてくると私の肩を抱き、ホテルの中へとエスコートしてくれる。
その彼の身のこなしは、やはり風格が漂い、その辺の映画監督ではないと思わせる。
その彼よりも先にロビーに入り、フロントへ向かったのがボブ。
彼はジェームズの秘書みたいなものなんだろうか。
何だかロビーで待ち構えていたスタッフらしき人と数人と何やら話している。
その間にも私とジェームズの後ろにはピッタリと黒人男性二人がくっついてきていた。
な…何だか落ち着かない…
こんな奇麗なホテルに来るなら、もっと、いい格好してくれば良かった…っ
そのまま家に帰るだけだと思っていたので今はジーンズに黒のニットを合わせてブーツという格好。
どう見ても、このホテルには合わず、浮いている。
片やジェームズはグレーのハイネックでノーネクタイにしろ、上品なジャケットを羽織っていた。
「ミスターキャメロン。お部屋に案内してくれるそうです」
「ああ、では行こう。ああ、彼は…もう部屋に?」
「はい。先に着いて休んでるようです」
「そうか。では後で様子でも見に行こう。ああ、の事も紹介しないといけないしね」
「え…?」
ジェームズの言葉に顔を上げると彼は優しく微笑んだ。
「ああ、私の仕事仲間でね。今回一緒に来日したんだよ」
「はあ…仕事仲間…助監督さん…とか?」
「それは会ってみてからのお楽しみだ」
ジェームズはそう言うとボブに促され、エレベーターへと乗り込んだ。
もちろん私も一緒に乗り込む。
そしてボディーガードらしい二人も…
いくらその辺のホテルのエレベーターよりは広いと言っても大の男が4人(しかも身長も高いしガタイもいい)
プラスホテルのボーイが乗ると、妙な圧迫感を感じる。
暫く上がるとチーンと音がして静かにドアが開いた。
「こちらで御座います」
ボーイが先に下りて部屋へと歩いて行くのを皆でついて行った。
な…何だか普通の廊下と違う…
煌びやかだし広いし、部屋のドアでも普通のドアより高そう…(!)
ほんとに、この階に私の部屋まで用意してあるって言うの…?
少しドキドキしながらジェームズについて行くとボーイが一番奥のドアの前で止まった。
「ミスタージェームズのお部屋はこちらになります」
彼は日本人だが流暢な英語で笑顔を見せてドアを開けている。
だがジェームズは部屋に入ろうとせず、「ああ、その前に…もう一つ部屋を頼んだのだが…」と聞いた。
「はい。承っております。先ほど連絡を頂いたお部屋はこの向かいの部屋になります」
「ああ、そこか。では…彼女を部屋に案内してやってくれ」
「畏まりました。では、どうぞ」
ボーイに、そう言われ、私がジェームズを見上げると彼は笑顔で頷いた。
「さ、部屋に行こう」
「はあ……」
ジェームズも向かいの部屋のドアが開けられると一緒についてきてくれた。
「どうぞ」
「…わぁ…」
一歩、部屋の中へ足を踏み入れて私は目を丸くした。
「凄い広い………」
ドアを開けてまず見えるのが、はるか奥に見えるソファやテーブル。
そこに行くまでにいくつか奇麗な台の上に観葉植物が飾られ、何の為のものなのか一人掛けのソファが並んでいる。
私はゆっくり奥へ進むと、更に目を丸くした。
両開きになっているドアを抜けると左右に広い空間が現れ、一面が窓。
そして向かって左側にはダイニングテーブルがあり、真ん中には先ほど見えたテーブルとソファ。
そして右奥にはドアがいくつかあるのが見える。
「な…何、ここ……」
私は見た事もない豪勢な空間に開いた口が塞がらなかった。
「気に入ったかい?」
「え……?!あ…あの、いいんですか?私、一人だけなのに…」
「え?ああ、そんな事はいいんだ。私だって同じ間取りで一人なんだしね」
「でも…この部屋高いんじゃ…スイートルームでしょ…?」
「さあ?その辺はよく分からない。まあ、気にしないで寛いでくれ」
(そ、そんな事言われても…庶民の私じゃこんな部屋落ち着かないわよ…!)
ニコニコしながら私を見ているジェームズに仕方なく笑顔を返すも、心の中ではそう思っていた。
「じゃあ私は向かいの部屋にいるから何かあれば声をかけてくれて構わないよ?」
「え?あ、あの…」
「ああ、そうだ。早速、空港に電話をかけてみるといい。荷物をここへ運ぶように言えば大丈夫だろう?」
「はあ……」
「じゃあ、私はちょっと彼らと打ち合わせしてくるから。そこの電話を使いなさい」
「はい…」
「じゃ、後でまた来るよ」
ジェームズはそう言って私の頭を軽く撫でるとボブとボディガード、ボーイを連れ立って部屋を出て行ってしまった。
一人広い部屋に取り残された私は何だか居心地の悪さを感じながらも仕方なく電話をかけることにする。
部屋の引き出しを開けると電話帳があり、そこで成田の番号を調べる。
「えっと…忘れ物案内…。ここでいいのかな……」
とりあえず、その出ている番号にかけてみる。
すると、すぐに相手が出た。
『成田空港、忘れ物案内係りです』
「あ…あの…本日、そちらに荷物を忘れたんですけど…」
『はい。どのようなものでしょう?』
「スーツケースなんです。今日、午後の便でロスから来たんですがちょっとトラブルで受け取れないまま出てしまって…」
(そう、ほんと私にしたらトラブルだ。それも、かなりアンビリーバボーな…)
『少々お待ちください』
丁寧な言葉が返って来て少しホっとしながら待っていると相手の女性はすぐに出た。
『午後の…ロサンジェルス空港発、成田着、ノースウエスト航空777便ですね?』
「はい、そうです」
『その便ですと確かに受け取りに来られなかったスーツケースが一つ届いております』
「ほんとですか?」
『はい。お客様のスーツケースはどのようなデザインでしょうか?』
「えっと…グレーに黒のラインが入ったやつです」
『それでしたら確かにこちらに届いております』
「はあ……良かった…」
それを聞いて本気でホっとしていた。
『では、こちらに取りに来られますか?』
「あ、あの…それで実は、すでに東京まで来てしまいまして…出来れば送って頂きたいのですが…
着払いで結構ですので…」
『はい。では、どちらに?』
「えっと……」
私はそこでホテルの住所が書いてあるメモを見た。
「港区にあるホテルオークラなんですが」
『畏まりました。では詳しい住所をお願いします』
そう言われて私はホテルの住所、そして部屋番号を相手に伝えた。
思った通り明日の午後には届く事になりホっと息をついて受話器を置く。
「はぁ~…!良かった…!」
一つ心配ごとが解決して私は安堵の息を洩らしソファーにゴロンと寝転がった。
そして改めて部屋の中を見渡してみる。
「しっかし…ほんと広すぎ…。こんな部屋に一人じゃ落ち着かない…。ってのも庶民の物悲しさなのかな…」
ざっと見ても広さ、44坪…はあるよね……
何だかジェームズって相当の大物なのかもしれない。
はぁ~もうちょっと映画だけじゃなく監督のチェックもしておけば良かった。
なんて事を思いつつ体を起こす。
その時、キンコーンとチャイムが鳴り、ドキっとした。
(ジェームズかな…?)
そう思いながらドアの方に歩いて行く。
出るだけで、こんなに歩く部屋なんて泊まった事がない。
「YES...?」
ドアに顔を近づけそう言えば、「ルームサービスで御座います」と英語で答えが返って来る。
「え?ルームサービスなんて…」
「ミスターキャメロンから注文されましてこちらに、お運びするように、と」
「はあ…」
何だ、彼が頼んでくれたんだ。
納得してドアを開けるとボーイがよくテレビでも見た事のあるキャスターつきのトレーに紅茶のセットを乗せて入って来た。
「どちらにお運びしましょう?」
「え?あ、そこのテーブルで…」
「畏まりました」
あ、いや、そう畏まられても…こっちも恐縮しちゃうのよ…
って私、何で日本人にまで英語で受け答えしてるんだろ。
相手もすんなり英語で答えるからそのまま話しちゃってるし。
ボーイが丁寧にテーブルに紅茶のセットを置いてるのをみながらそんな事を考えていると、ふとある事に気づいた。
「あの……カップが4つあるけど…」
「はい。4人分と申し付けられましたので」
「え…?」
その時、再びチャイムが鳴り、私はジェームズだ…と慌ててドアの方まで走って行った。
サブキーを挟んだままだったのでそのままドアを開ける。
「あのジェームズ……」
「Hi!」
「―――っっ?」
ドアを開けるとそこには奇麗な顔立ちの見知らぬアメリカ人男性が立っていて私は驚いた。
「え…?あの…」
「Nice to meet you.....!」
「え?あ……Nice to meet you......」
突然、笑顔で握手をしてきたその男性に私は唖然としながらも彼の奇麗な顔に少しだけ見惚れてしまった。
(すっごいカッコいいんだけど…!…この人、誰?!)
「…。ああ、レオ、先に来てたのか?」
そこへジェームズが部屋から出てきて歩いて来た。
するとその男性が笑顔で振り返る。
「ああ、だってジェームズが攫って来た子がどんな子か興味あるだろ?電話切ってすぐに来ちゃったよ」
「おいおい。、攫って来たって人が聞いたら誘拐したと思うだろ? ―ああ、どうもありがとう」
ジェームズはその美形な男性の額を小突きながらルームサービスを運んできてくれたボーイに御礼を言っている。
そこにいつの間にかボブも加わり、全員で部屋の中へと入って来た。
私は何となく圧倒されて最後について行くとジェームズが私の手を引いてソファに座らせてくれた。
「えっと…、紹介するよ。こっちが私と一緒に日本に来たレオナルドだ。レオ、この子がだよ」
「宜しく、」
「あ…宜しく……」
私はそのレオナルドと紹介された男性をマジマジと見ながらこの人が助監督さんなのかな…なんて考えていた。
随分、若い気がするけど…凄く美形だし助監督って言うよりは…俳優した方がいいんじゃ…
「ああ、それで、。電話はしてみたかい?」
「え?あ、はい。あの…おかげ様でありました。明日ここに着くように送ってくれるそうです」
「ああ、そうか。それは良かった!」
ジェームズも安心したようにそう言うと、レオナルドが楽しそうに笑い出した。
「だけど、さっき聞いた時は驚いたよ!通訳と間違えて一般の女の子を連れて来てしまったなんて言うしさ」
「し、仕方ないだろう?一瞬レオ達とはぐれてこれでも焦ってたんだ。そんな時に彼女が英語で答えてくれたものだから…」
「それにしたって。映画会社の通訳さんはもっと年配の女性だったよ。なあ?ボブ」
「そうですね。私も聞いてた話いりも随分お若いしおかしいな、と思ったんですけど…。
その女性はレオナルドと一緒に先ほどホテルに入ったようですよ」
ボブも少し苦笑いしながらジェームズを見ている。
「そうか…いや、まあ…でもいいじゃないか。こんな出会いも楽しいだろう?」
「まあ、そうだね。これも何かの縁かな?」
ジェームズとレオはそんな事を言い合って笑っている。
だが私は何だか気後れして黙って聞いていた。
するとボブがポットから紅茶をカップに注いで皆に出してくれる。
「あ、ありがとう御座います……」
「、そんな堅苦しくしないでもいいよ?もっとリラックスして」
「はあ…」
ジェームズは相変わらず優しい笑顔を見せてくれる。
だが私は先ほど言おうと思っていた事を思い出し思い切って口を開いた。
「あ、あの…ジェームズ…」
「何だい?」
「私…こんな豪華な部屋じゃなくていいんで…もっと普通の部屋に移りたいんですけど…」
「え?どうして…?」
「どうしてって…。こんな広い部屋じゃ落ち着かないし…」
私がそう言うと3人とも顔を見合わせている。
そして最初に笑い出したのがレオナルドだった。
「あはは…確かにこの部屋、一人じゃ落ち着かないよな…?何なら俺の部屋にでも来る?」
「……は?」
「おい、レオ…」
レオナルドの言葉にジェームズが顔を顰めた。
「いや、こいつのはジョークと思って聞き流してくれて構わないからね?」
「はあ…」
私は初対面の人にいきなりそんな事を言われて戸惑ったが、まあ彼らのノリなのかな…と思いつつ、
「ですから…せっかく、こんな素適な部屋を用意してもらったんですけどもっと狭い普通の部屋に…」
と再度言ってみた。
だがジェームズは笑顔で小さく首を振ると、
「いや、君はもうすでに私の客人みたいなものだ。それに私の勘違いのせいで足止めをしてしまっているんだから
これくらいさせてくれないか」
「で、でも……」
「いや、一人が落ち着かないならこのレオに相手をさせるよ?」
「え?」
「ああ、俺は構わないよ?同じ部屋でもいいしね?ベッドはどうせ二つある」
「こら、レオ…っ。また、そんな……」
レオナルドの言葉にジェームズは慌てて叱っているが、言われた本人は楽しげに笑って煙草に火をつけている。
私は少し頬が赤くなってしまい聞こえないフリをした。
「、明日までここは君の部屋なんだ。好きに使ってくれていい」
「……は、はい…じゃあ…そうします…」
「ありがとう」
ジェームズは私が渋々頷くと嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
いや、ありがとうって私の台詞なんだけど…
ただで、こんなスイートルームなんて使わせてもらってるんだし…。
ちょっと得したと言えばそうだろう。
「ところで…今夜、皆で一緒に食事でもしないか?」
「え?食事……?」
「あ、いいね。俺、寿司がいいな」
ジェームズの言葉につかさずレオナルドが答える。
私が黙ったままでいるとジェームズは伺うように私の顔を見た。
「どうだい?。お近づきのしるしにディナーでもご馳走させてくれないかな」
スマートな誘い方だなと思った。
私に気を使わせないようにしてくれてるんだと、すぐに分かる。
でも……
「い、いえ…私は…」
「どうして?どこか行きたい場所でも…?」
ジェームズにそう聞かれて私は困ってしまった。
そうじゃなくて……ディナーとなると…ちゃんとした服装で行かないといけない。
となると、当然この格好じゃ無理だというわけだ。
着替えはスーツケースの方だし…。
まあ、持って来た服だってそんなディナーに行けるような服なんて持ってきてはいないのだが。
私はジェームズの問いに黙って首を振った。
「私…着替え持ってないし…。全部スーツケースの中なんで…」
正直にそう言ってジェームズを見ればレオナルドと顔を見合わせ、ちょっとだけ微笑んだ。
「何だ、そんな事か。じゃあ着替えを買うといい。確かこのホテルにも何件か店が入ってただろう?ボブ」
「はい。ここ本館にも別館の方にもショッピングアーケードがあります」
「そうか。では、そこで―」
「ちょ、ちょっと待って下さい…っ」
二人の会話に驚き思わず口を挟んだ。
「どうした?」
「い、いえ…。そんな買い物してまでは…。それにそんなお金なんて使えないし私いいです…」
慌ててそう言って首を振るとジェームズもボブもレオナルドも何故かキョトンとしている。
そして最初に笑い出したのはやっぱりレオナルドだった。
「あははは…っ。お、面白い子だね、君…あはは…」
「な、何がですか…?」
いきなり笑われ、しかも"面白い子"と誉め言葉なのかバカにされてるのか分からない言葉に私はムっとした。
だがレオナルドはまだ一人で笑っていてジェームズが顔を顰めて窘めている。
「おい、レオ…。女の子に向かって失礼だろう?」
「あ、ああ…ごめん、ごめん!悪気はないんだ…。ちょっと珍しいからさ」
(ム…珍しいって…。人のこと、珍獣みたいに…っ!)
そんな事を思いながら一人ムスっとしていると、彼はまだ笑いを噛み殺している感じだ。
だがジェームズは優しい顔のまま私を見た。
「…君は凄く謙虚な子だ」
「え…?」
一瞬、どこが?なんて思ったがジェームズはそのまま言葉を続ける。
「そんな風に受け取るとこが気に入ったよ」
「…はあ…」
何の事やら分からず彼を見るとジェームズは笑顔のまま、
「着替えは買いに行くといい。それはプレゼントさせてもらう」
と言って私の頭にポンっと手を置いた。
だが彼の、その言葉に私は本気で驚いた。
「あ、あの…プレゼントって…」
「最初からジェームズはそのつもりで言ったんだよ?」
「え?」
急にレオナルドがそう言ってきた。
「でも君は遠慮してるからさ。ま、でもここは素直に彼の好意に甘えてあげてよ」
「……甘えて…って…」
そんな会ったばかりの人に甘えろと言われても困ってしまう。
只でさえこんな豪華な部屋を取って貰ってるのに……
そう思いながら困っているとジェームズが私の顔を覗き込んできた。
「、気にしないで欲しい。これは私の気持ちだし、お詫びのつもりだから」
「そんな、お詫びなんて…。もう、こんな良くして貰ってるのに…」
「人の好意は受けられるだけ受けていいんだ。な、そうしてくれないか」
静かに諭すような言葉で言ってくれるジェームズに私は仕方なく頷いた。
「…じゃあ……お言葉に甘えます…」
「そうか。良かった!」
私の言葉にジェームズも嬉しそうに微笑んだ。
その時、レオナルドが紅茶を飲みながら、
「あ、じゃあ、俺が一緒に行って選んであげるよ。いいだろ?ジェームズ」
と言い出し、ギョっとした。
「ああ、そうだな。二人は歳も近そうだし私が選ぶよりはいいだろう。そうしてやってくれ」
「え?あ、あの…」
「じゃあ決まり。これ飲んだら行こう?」
レオナルドは、そう言って軽くウインクしている。
それには私も頷くしかない。
「そうだ。歳で思い出したが…はいくつなのかな?」
「え?」
「いや,君の名前や生まれた場所は聞いたが年齢を聞いてなかったと思ってね。
大学に行ってると言ってたが…21歳くらいかな?」
ジェームズはそう言って微笑んだ。
それには私もちょっと苦笑して、「私は20歳です」と答えた。
すると、レオナルドが、「えぇ?!」と驚いている。
「な、何ですか…?」
「い、いや……てっきり16~7歳かと……」
「はぁ?」
「い、いや…ごめん。少し幼く見えたからさ…」
レオナルドはそう言って苦笑しつつ頭をかいている。
それにはジェームズもボブも楽しそうに笑った。
「まあ、確かには若く見えるな?私も最初は随分と若い通訳さんだ、と思ったし」
「そうですね。まあ日本の方は結構、年齢より若く見えますし」
二人でそんな事を言い合っていて私は少しムっとして紅茶を飲んだ。
日本人が若く見られるのは知ってるし、私だってロスでは年齢よりは下に見られてきたけど…
16歳とか17歳って失礼じゃない?
だいたいアメリカ人が老けすぎなのよっ
「そういうレオナルドは何歳なんですか?」
「俺?俺は22歳だけど?」
「……」
「何?見えないって言いたいの?」
「…はい」
そこは素直に頷くとレオナルドは驚いたように私を見た。
「え?何歳くらいに見える?」
「……………24歳から……26歳くらい……?」
「……へぇ……。初めて上に見られたかも」
レオナルドはそう言って苦笑している。
それにはジェームズも笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、レオ、彼女のこと宜しく頼むよ。私は部屋で休んでるから食事に行く時間に電話してくれ」
「OK!」
「え…あ、あの…」
私はジェームズが一緒に来てくれないのかと不安になり一緒に立ち上がった。
すると彼は私の肩にポンっと手を置いて、
「そんな心配しなくても大丈夫。レオは口は悪い時もあるが、こう見えて優しい男だから。
歳も近いし少し話せば打ち解けるだろう?」
「……でも…」
「そんな迷子の子供みたいな顔しなくてもとって食ったりしないよ」
「おい、レオ…また、そんなこと言って…」
「……っ」
レオナルドの一言で私はまたしてもムっとしたのだった。
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