Celebrity......~Love onil of ten days

















日本から帰国して一ヶ月…








俺は暫くの間、ラスベガスに滞在していた。

















Every day afterwards.. Dream...








「ディカプリオ様、コーヒーはいかがですか?」
「ああ、ありがとう…」


ふと顔を上げるとホテルの支配人が笑顔で立っていた。
彼は後ろにいたスタッフに合図をして、すぐにコーヒーを運ばせている。


「どうぞ」
「ありがとう」


俺は笑顔でお礼を言うとブラックのままコーヒーを飲んでホっと息をついた。


ここはラスベガス、ホテル"べラッジオ"のラウンジ。
広々とした空間で席も離れているからか、人の目も気にせず寛げるのだ。


「はぁ…」


軽く息をついてソファに凭れると俺は時計を確認した。
あと5分ほどで午後7時になろうとしている。
そろそろかなと俺は煙草に火をつけながらも入り口の方を見てみた。
すると、いかにも"芸能人です"と言わんばかりの格好で歩いて来る男女がいて俺は思わず苦笑いを浮かべる。


「ハーイ、レオ!」
「お待たせ!」


俺の隣にドサっと座り、女がサングラスを外す。
向かいには男が座って、此方もサングラスを外してニっと笑った。


「…は~お前らさ…。もっと地味な格好で来いよ…。そんな派手な格好じゃなくて…」
「あら、これでも地味にしてきたのよ?ね、トビー」
「ああ、もちろん。つかレオにだけは言われたくなかったよなぁ?ケイト」


二人は心外なという顔で俺を睨んでいる。
まあ、こんなやり取りはいつもの事だ、と俺は無視してコーヒーを飲んだ。


「さぁーてベガスに来たからには夜はまだまだこれからっしょ!」
「あ、私、カジノ行きたいなぁ。ねぇ、連れてってよ、レオ」


ケイトはそう言いながら自分の腕を俺の腕に絡めた。
それを外すと俺は軽く溜息をついて二人を見る。


「勝手に遊んで来いよ…。俺はいいから」
「はぁ?何言ってんの?せっかく遊びに来てやってんのにさぁー」
「…頼んでないし。つか勝手に押しかけて来たんだろ?」


俺はウンザリしたように呟いた。
まあ二人はギャーギャー言ってるけど、この際軽く無視だ。


トビーは共演して以来、俺の親友。
時々…いや、遊ぶ時は大抵一緒だ。
ケイトは、この前公開になった"タイタニック"で共演して以来、何だか遊び友達になり、こうして色気もない関係が続いている。
だが、そもそも何故この二人がここに来たのかと言うと…


日本から帰国後も忙しい仕事をこなし、やっと二日ほどオフをもらえた俺は一人、お気に入りの街、ラスベガスに来ていた。
そこにトビーから電話が入り、俺が一人でベガスにいると知るとケイトにまで連絡をして勝手に遊びに来たのだ。
先ほど電話が入り、「7時にはつくから待っててねー」というので俺はガックリきた。
せっかく一人でノンビリしようと思ってベガスに来たのに、この二人までが押しかけてきたとなると、
ロスにいる時と大して変わらない。


俺はコーヒーを飲み終わると静かに立ち上がり、サングラスをかけた。


「あれ、どこ行くの、レオ」
「ねーカジノ連れてってよ!」
「二人で行けば?俺はドライヴしてくるよ」


「「えぇぇーーっっ」」


さっさと歩き出すと二人の素っ頓狂な声がラウンジに響いた。
ったく恥ずかしいったらない。


「ディカプリオ様、お出かけでしょうか」


ラウンジを出ようとした時、さっきの支配人が歩いてきた。


「うん。ちょっとドライヴにね。車ある?」
「もちろんで御座います。リムジンにしますか?それともご自分で運転されますか?」


支配人はニコニコしながら一緒にロビーへと歩いて行く。
俺は少し考えたが、「自分で運転するよ」と告げた。
すると支配人はロビーからキーを受け取り、俺の方に戻ってくる。


「こちらの車をどうぞ。ディカプリオ様が前に乗って乗り心地が良かったとおっしゃってたものです」
「ああ…ベンツの四駆か…。ありがとう。じゃあこれ借りるよ」


俺はキーを受け取ると入り口の方に歩いて行った。
外に出ると車はすでに前に止められていて、さすが仕事が速いなと感心する。
俺は運転席に乗り込むと、すぐにエンジンをかけた。
そこへ…





ガチャ!




「待ってよ、レオ!」
「私たちも行くわ!」


「………」



騒がしい二人が乗り込んできて俺は思い切り溜息をついた。


「何だよ…カジノに行くんじゃないの…?」
「そんな二人で行ってもつまんないじゃなーい」


ケイトはそんなことをいいながら助手席に乗ってくる。
トビーはすでに後部座席に乗り込んでいてシートの間から顔を出してきた。


「ベガスの夜の街をドライヴってのもいい感じだしさー。カジノは今度にしたんだ」
「あーっそ。つかトビーが車借りて勝手にいきゃいいだろ…?」
「だから一緒じゃないとつまんないでしょ?ほら、いいから出発~!」


ケイトはすっかり一緒に行く気満々で俺は渋々車を発車させた。


「ねね、どこ行くの、レオ」
「……別に決めてない」
「そうなのー?あ、じゃあ砂漠行こうよ、砂漠!」
「………」


(ああ…。一人になりたい…)


そう思いながら適当に促しているとトビーが更に身を乗り出してきた。


「何だよー元気ないなぁ。ここ最近おかしいぞ?」
「ほーんと。プロモーションから帰ってきて以来ずっとこんな調子じゃない」
「…そんなことないよ」


ハンドルを切りつつ答えると二人は「あるよねー?」「な~?」なんて言い合っている。
あーうるさい…。


「一昨日、ジェームズと電話で話したんだけど彼も心配してたわよ?」


ケイトが煙草に火をつけながら俺の顔を覗き込んできた。
ドキっとしたが態度には出さず、「心配って何を?」と尋ねる。


「だから・・・レオの様子はどうだ?って…」
「別に普通だろ」
「普通じゃないわよー。仕事ばっかり入れちゃって遊ばなくなったし…」
「疲れてるんだよ…。おっしゃる通り忙しかったからな」
「ふーん。でも前はどんなに疲れててもプライベートは大事にしたいって言って遊び歩いてたじゃない」


ケイトはそう言いながら俺に煙を吹きかけた。
その煙さに俺は顔を顰めると、彼女の頭を軽く小突く。


「やめろよ…。それとあんまくっつくなって。どこにパパラッチがいるか分からないってのに」
「いいじゃない。どうせお互いに恋人がいないんだから嘘の噂が流れても。それに映画の宣伝になるしね」


ケイトは呑気にそう言いながらケラケラ笑っている。
だが俺は冗談じゃないと思った。
もし、そんな嘘の記事が出回っての目に止まるのが嫌だった。


「ねぇ、レオ。どこ行く気?街から遠ざかってるんだけど」


トビーが窓の外を見て首を傾げた。


「嫌ならここで下りていいぞ」
「や、やだよ!危ないだろ?」


トビーはそう言って窓を開けると、


「あぁーベガスのネオンが遠ざかっていく…」


と呟いている。
それを無視して俺は"ストリップをダウンタウン方面へ走り、ストラトスフィアも通り過ぎてチャールストン通りを右に曲がった。


「あれれ…レオ…こっちはフーバダムミードだよ?」


"フーバダムミード"とはベガスから南東へ約48kmほど行ったところにある巨大なダムの事だ。
途中、ネバダ州で唯一、ギャンブルが違法な町"Boulder City"があり、そこを通ってUS-93を約40分、
岩山の間のカーブの多い道を上がって行くと巨大なフーバダムが現れる。
その北側には青々とした"レイクミード"という世界最大級の人造湖があるのだ。


「ダムに行くわけ?」
「…そうだな」
「え、今から?!」


トビーの言葉にケイトもギョっとしている。


「ちょっとー、どこまでドライヴする気?」
「いいだろ?勝手についてきたのはそっちだからな」


俺がそう言うとトビーとケイトはもう何も言わず、「分かったわよ…付き合うわ」と肩を竦めている。
その様子に内心苦笑しながら俺は更にスピードを出していく。


「どうせならヘリコプターで行きたかったなぁ…」
「それじゃドライヴって言わないだろ?」
「空のドライヴよ」


ケイトは口を尖らせながら煙草を咥えると少しだけ窓を開けた。


「わぁ…さすが夜だとこの辺は寒いわね」
「風邪引くぞ?」


俺は冷たい風に顔を顰めながら真っ暗な前を見据える。
その時、ふと日本でとドライヴした時の事が頭をよぎった。


二人で海に行って…このくらい寒かったっけ。
最後に行った時は帰りにものすごい渋滞に巻き込まれて二人でグッタリしたな…
…元気だろうか。


ふと胸が痛んだ。
時々こんな風にのことを思い出すと、まだ彼女への想いがある事を思い知らされる。
どんなに忙しくしていても一人になると思い出してしまう。
会えなくなれば少しづつでも忘れられるだろうかと思ったのに、それが間違いだったと気づいた。


時が経つにつれて彼女が恋しくて堪らなくなる。
たった10日間一緒にいただけなのに、こんなに好きになってたなんて自分でも驚いている。
ただ会いたくて…何度も彼女の大学へ行きたくなった。
でも途中でいつも断念する。
もし…会えたとしても彼女はきっと困るだろう。
それに恋人も同じ大学だったはずだ。
これ以上に迷惑をかけたくなかった。


あれから一ヶ月経つのに…日本で出来た思い出が未だ俺を苦しめていた。


「ねぇ、レオ…」
「…ん?」


煙草を咥えた時、不意にケイトが火をつけてくれた。


「サンキュ。…何?」


前を見たまま尋ねると彼女は言いにくそうに目を伏せた。


「何だよ。今更、帰りたいって言っても無駄だぞ?」


苦笑気味にそう言うとケイトは、「そんなんじゃないわよ」と首を振った。
そして軽く息をつくと、


「ジェームズから聞いたんだけど…。レオ、好きな人がいるの?」
「…え?」


ドキっとして思わずスピードを緩めた。
ケイトを見れば伺うように俺をジっと見ている。


「な、何だよ。突然…」
「だから好きな人、出来たの?」
「え、俺聞いてないよ?誰?」


ケイトの言葉にトビーまでが割り込んで来てシートの間から顔を出す。
俺は動揺してるのをバレないように軽く笑った。


「何言ってんだよ。んなはずないだろ」
「でも…ジェームズが"レオの様子はどうだ?"って何だか心配そうに聞いてきたのよ?」
「ジェームズが…?」
「うん。私が何で?って訊くと彼、"いや・・・レオが恋わずらってないかと思ってね"って言って笑ってるの」
「…な、何だよ。恋煩いって…ジェームズの勘違いじゃない?」


俺はドキドキしながらも笑顔を見せてアクセルを踏み込む。
だがケイトはまだ疑ってるように俺を見てきた。


「ジェームズも最近忙しいからレオと会ってないし…って心配してたわよ?連絡してみたら?」
「…ああ、そのうちするよ…」
「え、でもレオ、ほんと好きな女いないの?」
「……」


トビーはまだ気になるのか、そんな事を言いながらバックミラー越しに俺の顔をジーっと見ている。
それには溜息をつきつつ、「いねーよ」とだけ答えた。
別に隠す必要もないが今はの話題は極力避けたかった。


「えーでもそう言われると…この頃レオ、女と遊ばなくなったじゃん」
「それは…さ…。"ケイトと何かあるんでしょ"って疑われてるから―」
「あら、私のせい?ごめんなさいね」



ケイトは澄ました顔で笑っている。
俺も苦笑すると、「こちらこそ。ケイトに恋人が出来ないのは俺のせいかもな」と言ってやる。
すると彼女は「大きなお世話ー」と顔を逸らしてしまった。


あの映画で共演して以来、俺とケイトとは友達関係だが仕事の面でも何かと一緒の取材が多くなった。
そこで言われるのが、実際にも付き合ってるんじゃないかと言う事。
どれだけ否定しても、そう言った話題は次から次に出てきて次第に大きくなっていく。
そのうちパパラッチ系の奴らが付回して来るだろう。


だいたいケイトとはそう言った恋愛感情は全くない。
ケイトだってそうだ。
俺に取ったら彼女はトビーと同じ友人だし彼女もそう思ってるだろう。


だけどもし…俺達との事が記事になって、それをが見たらどう思うだろう…
一ヶ月も経たないうちに他の女に走ったとでも思うのかな。
それとも…自分との事は軽い感情だったんじゃないか、と疑うだろうか。


やっぱり芸能人は軽い、なんてにだけは思われたくなかった。


「レオー。お腹空いたー」


ボーっとしていると後ろからヌっとトビーの顔が出てきて危うくハンドルを切り損ねるところだった(!)


「何だよ、いきなり顔出すな。だいたい夕飯くらい食って来いよ」
「だってベガスで夜を満喫しようとしてたんだよ?ベガスで食べようと思ったんだよ」
「はいはい…。だったら俺にかまってないでレストランにでも行けば良かったのに…」
「まさかベガスを離れると思わなかったんだよ!だいたい何でフーバダム?レイクミードにでも行くつもり?」


トビーはブツブツ言いながら窓の外を見ている。


「ぅわ…真っ暗…。何か出そうだよ、ほんと…」
「ちょっとートビー!怖い事言わないでよー」
「だってさー。外見てみろって。怖いぞう~?」
「わ、ほんと!真っ暗~!何か出ないわよね…?」



二人はそんな事を言いながら騒いでいる。
俺は苦笑しながらも暗い夜道を見ながら溜息をついた。


本当は一人で静かに過ごしたかったのが、とんだドライヴになった。


まあ、それでもいいか…
一人でこんな夜道をドライヴしてたら…またのことを思い出してつらくなるから。




俺はかすかに痛む胸に気づかないフリをして思い切りアクセルを踏んだ―
































一ヶ月前――ロス国際空港







!」



到着ロビーに出て行った途端、名前を呼ばれてドキっとして振り返れば、遠くから手を振るコリーが見えて驚いた。



「コ、コリー?」
「お帰り、!」


驚いているとコリーは走ってきて思い切り私を抱きしめた。


「ど、どうしたの?来なくていいって昨日、電話で―」
「待ちきれなくてさ。つい来ちゃったよ」


コリーは体を離すと笑顔で、「お帰り、」と言ってくれた。
そして少し屈むと唇にチュっとキスをする。
それにはドキっとして慌てて体を離した。


「何だよ、まーだ慣れないわけ?人前でキスするの…」
「そ、そんな慣れるとかの問題じゃないもの…」


そう言ってトランクを引いて行こうとするとコリーがそれを持ってくれた。


「え、い、いいわよ…」
「何で?いいよ、疲れてるだろ?」


コリーはそう言って笑っている。
だが私はコリーに優しくされると胸がかすかに痛むのを感じた。。


「ど、どうしたの?急に優しくなっちゃって…」


駐車場に向かって歩きながら尋ねると彼は頭をかきながら笑った。


「別に急じゃないだろ?久しぶりに会ったんだしたまにはさ。それに普段はの方が持ってって言うくせに」
「そ、そうだったっけ…?」
「そうだよ。いつも重たい荷物は俺に持たせるだろ」


コリーはそう言って私を見ると軽く額を指で突付いた。
そうされた瞬間、レオの笑顔が脳裏を掠めてドクンと鼓動が鳴り響いた。


(レオも…よくこんな風に私の額を小突いてきたっけ…。ついこの前の事なのに凄く昔に思える…)


「どうした?」
「え…?」
「何だか…悲しそうな顔してる…」
「な、まさか!疲れてるだけよ…」
「…そっか。そうだよな…。帰ってゆっくり休めよ」


コリーはそう言うと今度は私の頭を優しく撫でた。
それさえもツキンと痛みが走る。
彼は車につくと私を乗せてからトランクを後ろにしまった。


「さて、と。我が家に帰りますか」
「…うん」


コリーの言葉に頷くと私はシートに凭れ静かに目を瞑った。
こうしてロスに戻ってもかすかに後悔している気持ちが私を襲ってくる。







レオが帰ってから私は再び実家へと戻った。
お父さんは、


「何だ、玉の輿に乗れなかったのかぃ」


なんて呑気な事を言っていたが私は何も言えなくて暫く自室にこもっていた。
数日、何もしないまま部屋にこもっていると、レオに会いたくて堪らなくなった。


会えなくなって…初めて気づいた事がある。
それは…自分がこんなにもレオの事を好きになっていたという事実…
今からでも追いかけようかとすら思った。
彼の連絡先も知らないくせに…


それでも…コリーの顔を見れば、この気持ちも消えるんだろうかと考えた。
今は離れたばかりで寂しいから、そんな風に思い込んでるのかもしれないと―


でも…違った。


さっきコリーに会って抱きしめてもらっても私は何も感じなかった。
会いたかった、とか、やっぱり好きだとか…そんな風に思えなかったのだ。
彼にキスをされても心が拒否するかのように体を離してしまった。
人前で、と照れたからじゃない…
体が自然に動いたのだ。


私は…やっぱりもう彼の事を愛してないのかも、と思わせるには十分だった。


こんなにも…彼から心が離れていたなんて――




小さな後悔が私の中で積もってゆく。



それでも私は自分の気持ちを確かめられた事だけは後悔していなかった。


























コリーと家に戻り、軽くシャワーに入った。
時差ボケもあり、少し頭がボーっとする。
バスタオルで髪を拭きながらリビングに戻るとコリーは慌てて掃除をしているようだった。


「あ、ごめんな?掃除の途中で出ちゃったからさ」
「…掃除って…コリー掃除してたの?」
「まあ…」


彼は照れくさそうに頭をかいて苦笑している。
そんな彼を見て私は驚いてしまった。
一緒に住み始めてから彼が自分から掃除をした事なんてなかったからだ。


「あ、それと…冷蔵庫にお前の好きなジュース入ってるし飲んでいいから」
「……あ…ありがと…」


言われるがまま冷蔵庫を開けると確かに私がお風呂上りには必ず飲んでいるジュース類がしまってある。
私はその中の一本を取るとコップに注いで乾いた喉を潤した。
そしてチラっと彼を見れば散らばっている雑誌類を一生懸命片付けていた。


(コリー…気を使ってくれてるの…?)


そう思うと途端に罪悪感が私を襲う。
裏切ったのは私の方だ。
心が…レオにあるのだから。


…どうした?」


ボーっとしていると、いつの間にかコリーが傍に立っていた。
慌てて笑顔を作り首を振ると、「ちょっと時差ボケかな…」と誤魔化して空になったコップをシンクに置く。


「私、ちょっと寝る―」


そう言って振り向いた時、私の体はコリーに抱きしめられていた。


「コ、コリー…?」
「…会いたかった…」
「…え?」
「ごめん…。俺、お前に優しくなくなってたよな…。反省してる」


コリーはそう言うとギュっと私を抱きしめる。
その言葉にも腕の強さにも胸がズキズキと痛んで私は唇を噛み締めた。


「あ、あの…コリー私…きゃっ」


不意に体が浮いて抱き上げられた。


「コリー?」
「眠いんだろ?」


コリーは私の額にキスをすると、そのままベッドルームへと歩いていく。
私は驚いて、「い、いいよ、自分で歩くから」と言ったが彼は下ろしてくれない。
ベッドルームに行くとコリーは私をそっと下ろして自分もベッドの端へと座った。
優しい瞳で私を見つめながら大きな手で頬を撫でてくれる。
その仕草は付き合いだした頃と同じでドキっとした。


「…ごめんな?今まで…」
「…コリー」
「また…前みたいにやり直したい」
「………」


彼の言葉が痛くて軽く目を伏せた。
だが頬を撫でていた手がするりと顎に移動し、少しだけ持ち上げられた瞬間、唇を塞がれる。


「ん…っ」


そのままベッドに押し倒され、コリーの体の重みを感じた。
何度も触れながら少しづつ深くなっていくキスに私は少しだけ体をよじる。


「ん…待って…」
…好きだよ」


少しだけ唇が離れた時、囁かれた言葉。
答える前にまた唇が塞がれ、彼の手が服の中へと侵入してきた。


「ちょ…コリィ…待って…」


彼の唇が首筋に降りてきてビクっとなった。
甘い刺激が体を襲い、鼓動が速くなっていく。
なのに心だけは冷えていて頭の奥がジンジンしてきた。


…」


甘く囁くように耳元で名前を呼ばれる。
なのに彼の手が下着にかかった時、私はその手を止めてしまった。


「……?どうした…?」


怪訝そうな顔でコリーが私を見つめている。
でもそのうち視界が歪んでコリーが驚いたように体を離した。


「どう…した?何で泣いて…」
「…めんなさ…い」


泣き顔を見られたくなくて両手で顔を覆った。
戸惑った様子でコリーが私の上から避けるとギシ…っとベッドの軋む音がした。


「ごめん…嫌だったか…?」


コリーは私の頭を優しく撫でながらそう言った。
その言葉にまた涙が溢れてくる。


「ごめんな?疲れてるんだよな…。久々に会ったからその…焦っちゃって…ごめん」


コリーは自分が悪いと思ってるのか、私の頭を撫でながら何度も誤ってくる。
だけど誤られるたび、私の胸は痛みを増していく。
もうコリーを前のように愛せない自分に…
彼の事を友人としてしか見られなくなってる現実に。


「…がう…」
「…え?」
「違…うの…」


やっと搾り出された言葉。
コリーはやっと様子がおかしい事に気づき、両手を覆っている私の手をそっと外した。


「…違うって…何が?」


涙で視界が歪む中、彼の顔を見上げる。
コリーは見たこともないような悲しげな顔で私を見ていた。
もしかしたら…私の気持ちがもう自分にない事を察したのかもしれない。


限界だった。


これ以上、自分に嘘をつくのも。
コリーに嘘をつくのも。


話さなくちゃ…きちんと…今の自分の気持ちを。
それを確かめるために私はレオを傷つけてまで、ここへ戻ってきたんだ…


そう決心して私は涙を拭いた。


何で…こんな風になっちゃったんだろうね…?
日本に行く前に…ちゃんと話し合っていれば…もしかしたらこんな結末じゃなかったかもしれないのに。


でも…今更そんな事を言っても遅い。
私は…あの10日間で変わってしまった。


夢のような、あの10日間で――






ゆっくりと体を起こし、目の前の彼を見た。




彼に全てを話すために――































「夜の湖はどうだったんだ?」



ジェームズはそう言って苦笑した。


「凄く…綺麗だったよ…。夜の海もいいけど…湖もいいな」


俺はそう言ってジェームズのグラスに自分のグラス当てると、チンと高い音が響いた。





ベガスからロスに戻ってすぐ、ロケ先の下見から帰ってきたジェームズから電話が入った。


「やっと時間が空いたよ。どうだ?久々に一杯付き合わないか?」


次の仕事が決まったばかりだったがジェームズからそう言われては断れない。
俺はどんなに遅くなっても行くと伝えて、打ち合わせが終わると愛車をぶっ飛ばして待ち合わせのバーへとやってきた。
ジェームズとゆっくり会うのは日本から帰国して以来だ。


「ケイトがブツブツ言ってたぞ?お腹空いて死にそうだったってな」


ジェームズは笑いながらグラスを口に運び、美味しそうにブランデーを飲んでいる。
その言葉に俺は肩を竦めると、


「勝手についてきたんだよ」
「まあ、そう言うな。ケイトも心配してたんだ。レオが元気ないってな」
「……俺は…元気だけど?綺麗な湖を見て心が洗われたしさ」


笑いながら、そう言うとジェームズは小さく溜息をついた。


「私にはそうは見えないけどな…」
「…そんな事は…」
「なあ、レオ…」
「…ん?」


ジェームズはカウンターに肘をついて俺の顔を見つめた。
何を言われるのか想像できて俺は彼の目を直視できず目を伏せる。
それに追い討ちをかけるようにジェームズが口を開いた。


「もう…。一ヶ月以上経ったな…」
「………」
「どうだ?心の整理はついたのか?」


ジェームズの声は優しくて、あの日の朝と何も変わっていない。
俺はふっと笑みを洩らすと椅子に凭れて溜息をついた。


「昔から…整理整頓は苦手でね…」


俺の言葉にジェームズは小さく笑った。


「まだ一ヶ月じゃそうだろうな」
「…どういう意味?」


ジェームズの言葉にチクリとして顔を上げる。
彼はそんな俺を苦笑交じりで眺めた。


「まあ…今はつらくても…半年…いや一年後にはきっと忘れてるだろう」
「……そうかな」
「人とはそういうものだ。心の傷も今がどんなに辛くても時が経てば痛みも和らぐものさ」


ジェームズはそう言ってグラスを傾ける。
俺はグラスの中の氷を指でまわしながらキラキラ反射している光に目を細めた。


「そのうち…彼女への想いも…消えるって言いたいわけ?」
「…そうだ。恋愛とはそういうものだろう?」
「分からないよ…。確かに今まではそうだったかもしれない。でも…の事を思い出に出来る自信はないんだ」


そう言って顔を上げるとジェームズは思いのほか優しい笑みを称えていた。


は…お前より恋人を選んだんだぞ?」
「…分かってる」


ジェームズには帰りの飛行機でと最後に何を話したか教えてあった。
彼は少し驚いた顔をしていたが、最後に溜息をつくと「そうか…それがの答えか」と呟いていたのを思い出す。


俺はグラスの中のバーボンを一気に飲み干すと軽く苦笑した。


「でも…今思えばあんな短い時間の中でを好きになっただけで驚きなのに…彼女に答えを求めるってのも酷だったかな」


俺の言葉にジェームズも小さく笑う。


「誰かを好きになるのに…時間なんていらないだろう?」
「…そうかな」
「そうさ。"ジャック"と"ローズ"も一瞬で恋に落ちた。あの二人はレオとよりも更に短い時間だったぞ?」
「あれは…さ…」
「人はそれぞれ違うし、一瞬で恋に落ちる人もいれば、ゆっくり相手に惹かれていく人もいる。だが中身はあまり変わらないんじゃないか?」
「…中身?」
「そう。相手を愛しく感じて傍にいたいと、いて欲しいと思う気持ちだ。それが一番大事だろう」


ジェームズはそう言うとこっちを見てニッコリ微笑んだ。


「"ジャック"と同様、レオも素直に自分の心に従った。それに…相手が拒否したからってそれが本心だと何故言える?」
「…え?」


彼の言葉に違和感を感じ、俺は眉を顰めた。
ジェームズは笑顔のまま、まるで俺を試すかのように微笑んでいる。


「"ローズ"は一度"ジャック"を拒否してる。だが…その後はどうなったか、お前がよく知ってるだろう?」
「…その後…」


彼の言っている意味を考え、俺は映画の事を思い出した。


そう…"ジャック"に惹かれながら最初は"ローズ"も自分の立場を考え、"ジャック"を拒否した。
でも…結局、彼女は"ジャック"のもとへ行き、自分の心に素直になったんだ。
そして二人は…あの船の先で…初めてのキスを交わす…


「思い出したか?」


不意にジェームズが口を開いた。


「…何が…言いたいわけ?も"ローズ"と同じだって?」


は何か俺に言えない事があったのか?
俺と同じ想いだったのに…俺と一緒に帰れない理由があったとでも…?
いや、でもまさか…


そんな事を考えると心の奥がざわついた。
問うようにジェームズを見ると彼はふっと笑みを零す。




「私は…レオが欲しがっている、とっておきの"答え"を持っている」




ジェームズは静かな口調でそう言うと俺にニッコリ微笑んだ―




































!」


大学を出ようとしたところで呼び止められ、私は振り向いた。


「あ…コリー」


校舎から走り出てきたのはコリーだった。


「もう帰るのか?」


コリーは息を切らしながら私の前まで来ると大きく息を吐き出した。


「うん。もう講義ないし…」
「そっか…。あ…そうだ。ほらこれ」
「え?」


私は彼が差し出してきたA4サイズの茶封筒を見て顔を上げた。


「この近くにさ。なかなか条件のいい部屋が見つかったからに教えようと思って」
「コリー探してくれたの?」


驚いて彼を見上げるとコリーは照れくさそうに微笑んだ。


「探したって言うか…。たまたま知り合いが教えてくれただけだよ」
「…ありがとう」


素直にお礼を言って封筒を受け取ると彼は嬉しそうな笑顔を見せた。


コリーと別れて部屋を出てから一ヶ月半…
私は今、大学の友人の家に居候をしている。
バイトも見つけて部屋を探すまでの間という条件つきなので私は毎日、部屋とバイトを探し、先月やっとバイトも見つかった。
あとは今の私が住めるようなアパートを探すだけ。
コリーは事情を知ってるから、きっと内緒で色々当たってくれたに違いない。
私はそう確信して胸が熱くなった。


あの日…私はコリーに全てを話した。
いつの間にか気持ちが離れてたこと。
そして日本でトラブルに巻き込まれて、そこで知り合ったレオに惹かれたことも。
レオの事は名前だけで、俳優という事は伏せておいた。
いくら映画を見ないコリーでも今はアメリカ中で"タイタニック"はあまりに有名だ。
きっとレオのことも知ってるだろうと思った。
そこは話さず、後は全部本心を伝えた。
コリーは私の話を静かに聞いてくれた後、「…やり直せないのか?」と訊いてきた。
それでも私が黙っていると、「自業自得か…」と呟き、別れる事を承諾してくれたのだ。


「別れても…友達に戻ってくれる?」


最後に彼が言った。
憎しみあって別れるわけじゃない。
大学で顔を合わせても互いに知らんぷりをするのは嫌だ、と彼は言った。
私も同じ気持ちだったからコリーとは付き合う前のように友達という関係に戻ろうと思った。


それから三日後、私はコリーの家を出た。
あれ以来、私は毎日を必死に過ごしている。
だがレオの事を考えないようにしようと思っても周りがそうはさせてくれない。
あの映画は今でもヒットを飛ばしていて大学の中でも時々話題に上がる。
そのたびに私は胸が痛み、レオへの気持ちを再確認してしまう。
たまにテレビや雑誌でレオを見かけるたび、泣きたくなった。
こんなに二人の世界が違うと見せ付けられる恋もなかなかないだろう。
そこに気づかされるたびに、やっぱりあれで良かったんだ、と自分を納得させた。


ジェームズの最後の言葉を思い出すとズキズキと胸が痛む。


"ロスに戻っても忘れられなくて苦しんでるようなら全てを話して迎えに行かせる"


その言葉に少しでも期待した私がバカなのだ。
あれから二ヶ月は経とうとしている。
ロスに戻ればジェームズだって忙しい毎日を送っているだろう。
あれほどの映画を撮る人なのだ。
日本で知り合った私の事など、その忙しい日々の中にいれば嫌でも薄らいで、そのうち忘れてしまうだろう、と思った。
あの約束だってきっと忘れてる…
レオだってロスに戻れば、いつもの忙しい日常が待っているはずだ。
私の事なんてすぐに忘れて綺麗な女性に囲まれてるかもしれない。
現に今、雑誌を賑わせているゴシップはレオと共演した女優とのこと。
二人はあの映画がキッカケで"ジャック"と"ローズ"のように熱い恋愛をしている、なんて事が書かれていた。
それを見た時、思わず涙が零れた。
色々な思いが交差して涙が止まらなかった。
今でもそれを考えると胸が痛む。
私でさえレオと過ごした日々がどんどん薄らいで本当に夢だったかのような気さえするのだ。
忙しい日々を送っているレオなら尚更だろうと思った。


そう…どうせロスでいつもの生活に戻れば私の事もすぐに忘れて他の人と恋に落ちたって不思議じゃない。


自分に言い聞かせるようにしながら今では、あの10日間は夢だったんだ、と思うようになっていた。
有名人の気まぐれ。
この長い日々の中での、たった10日、一緒にいた女の事なんてすぐに忘れる。





「なあ、は今週末って暇?」


一緒に門まで歩きながらコリーが訊いてきた。
私はちょっと考えて、


「バイトがあるけど…何?」
「いや、飲み会があるんだけど時間あるなら来ないかなって思ってさ」
「…バイトが終われば…行けるかな?」


私がそう言うとコリーはホっとしたように微笑んだ。


「そっか。ならメンバーにもいれておくよ」
「うん。少し遅れるかもしれないけど…」
「きっと遅くまで飲んでるから大丈夫。あ、じゃあ俺もこれからバイトだから行くよ」
「そう。頑張ってね。あ、あとこれ、ありがとう!」
「ああ、じゃな!」


コリーは笑顔で手を振ると門を抜けて走って行った。
それを見送りながら私もふと笑顔になる。


何だかこういうのなつかしいな…
確かコリーと付き合う前も、あんな風に飲み会に誘ってもらったりしてたっけ。
そのうちお互いに意識するようになって…
飲み会の帰り道、コリーに「好きだ」と言われた。
あの頃に戻ったみたい。


少し懐かしさに浸りながら私は空を見上げた。
今日は冬にしては気温も高く、ロスは快晴で青い空が広がっている。
辺りを見渡せば学生たちが芝生に寝転んで楽しそうに談笑していた。


それを見ながら軽く溜息をつくと私は再び歩き出した。
その時、門の前に一台の車が止まったのが見えて、ふと足を止める。


(あの車…どこかで見たような…)


それは日本車で四駆だった。
この辺では日本車は珍しい。


(そうだ…。あの車…日本でドライヴした時にホテルで借りたのと同じ車種…)


誰の車だろう?と私は首を傾げた。
時々、生徒の恋人がこうして車で迎えに来る事があるのだ。


ドアの開閉する音が聞こえて誰かが車から降りてきた。
私はゆっくりと歩き出しながら何となくそっちへ視線がいく。


「―――ッ」


その瞬間、息を呑んだ。
鼓動が速くなり息苦しさに襲われる。



幻かと…思った――











「レオ……?」



震える声で呟かれた名前。
こうして声に出し、彼の名を呼ぶのは久しぶりだった。


その人物は車を下りるとキョロキョロしながら門の方に歩いてきた。
そして手前に立っている私に気づくと同じように息を呑んで足を止める。


「……か?」


彼の声もまた震えていた。
ゆっくりとした動作でサングラスを外し、戸惑うような表情が私の瞳に映る。
でもそれもすぐに歪んで曇っていった。
気づけば頬に温かいものが次から次へと零れていく。


「な…何して…るの…?」


声にならない声が口から洩れる。
会いたくて堪らなかったから白昼夢でも見てるのかと思った。
でも一瞬で、これが現実だと実感する事が出来た。


彼はゆっくり歩いてきたかと思うと、息が止まりそうなほど強く私を抱きしめた。


「…本物…?」


少しづつ感じてくる彼の体温と腕の強さに、そんな言葉が出た。


「…本物だよ。やっと…迎えに来れた…」


耳元で囁く彼の言葉に私は涙が溢れた。
だが次の瞬間、体が離れ、急に腕を引っ張られる。


「…レ、レオ…?」


レオは私の手を引くと車のドアを開けた。


「…お嬢さん、ドライヴでも行きませんか?」
「…え?」


少しおどけたように笑うレオに懐かしさがこみ上げた。
小さく頷くとレオは私を助手席に乗せた。
そして自分もすぐに乗り込むと、大きく息を吐き出している。


「まさか…こんなすぐ会えるとは思わなかった…」


そう呟いて苦笑いを浮かべると私の方を見て濡れた頬を拭いてくれた。


「ここじゃ目立つから…どっか行こう」


レオはそれだけ言うとエンジンをかけて静かに車を出した。
レオの言葉にハっとして振り返ると、確かに学生が数人、訝しげな顔でこっちを見ている。
いきなり校門の前で抱き合っていれば嫌でも人目につく。
しかも相手がレオならば、皆も驚くだろう。
ただ本人かどうか、そこまでは気づかないにしても。


レオは少し車を走らせるとマリブの海岸へとやってきた。
この時間、それほど人は多くないビーチは前にレオと一緒に行こう、なんて約束した場所だ。
あの時はそれが現実になるなんて思ってもみなかった。


ビーチ手前に車を止めるとレオはシートに凭れて小さく息を吐き出した。
私はこれが現実なのか、未だふわふわした感覚だ。
あまりに突然の再会で心がついていかない。
それを察したのか、レオはふと私を見て、「久しぶり…」と笑った。


「急に…ごめん」


懐かしい彼の声がすぐ傍で聞こえる。


「…凄く…ビックリした…」


彼の方を見れないまま私は膝の上に置いた手を握り締める。
一体どういう事なのかと頭の中で整理しながら、ゆっくりと顔を上げた。


「どうして…」


"どうして会いに来たの?"


そう訊こうとしたが言葉にならない。
だがレオは優しい笑顔を浮かべたまま私の手をそっと握った。


「もっと…早く来るつもりだった…。でも次の映画の撮影で時間がとれなくて遅くなった」
「…どういう…こと?」


握られた手が熱くて私はまた泣きそうになりながら尋ねた。
すると腕を引っ張られ抱き寄せられた。


「ジェームズに…聞いたんだ…。の…本当の気持ちを…」
「……っ」


その言葉に驚いて体を離すとレオはかすかに瞳を揺らした。


「そういう…約束だったんだろ?」


レオは少しスネたように呟くと私の額をツンとつついた。


「や…約束っていうか…」
「ジェームズは俺に言った。"の事が今でも好きで堪らないなら…会いにいけ"って」
「……」


混乱した頭の中でジェームズの優しい笑顔を思い出した。


(ジェームズ…覚えててくれたんだ…)


「俺は…は恋人を選んだと思ってた。でも…理由をジェームズから聞いた時、さすがに驚いたよ…」
「…ごめんなさい…私…」
「いいんだ。はいい加減な気持ちで俺と向き合いたくなかったんだろ?分かってるよ…」


レオはそう言うと私の頭を軽く撫でた。


「ジェームズにそれ聞いた時、すぐにでも飛んで来たかった…」


私を見つめて真剣にそう呟いたレオの言葉に涙が溢れてくる。


「もう…彼と一緒には…」


不安げに聞いてくるレオに私はゆっくりと首を振った。
するとレオはホっと息をついて、もう一度抱きしめてくれる。


「良かった…。それだけが一番心配だったんだ…」
「え…?」
「いや…ジェームズが言ってたからさ。もしかしたらも恋人と再会して気持ちが変わったかもしれないって」


少し怒ったように呟く彼に私は小さく笑った。


「笑うとこじゃないだろ…?」
「だって…」


そう言って顔を上げるとレオの真剣な瞳と目が合いドキっとした。


「もう一度…告白させてくれる?」
「…レオ?」
「そして今度こその本当の気持ちで答えて欲しいんだ」


真っ直ぐな瞳でそう言ってくれたレオに胸が熱くなる。


そう…私はまだ自分の本当の気持ちをレオに伝えていない。


彼の言葉に小さく頷くとレオは嬉しそうに微笑んだ。








「…が…好きだ…。俺の傍に…いて欲しい」








もう一度…この言葉を聞きたかった。


夢なんて思えないくらいに…何度だって…







「…さあ…の答えは…?」







そう聞いてきたレオの顔は出逢った頃のように少しだけ意地悪なものだったけど私はそのまま彼に抱きついた。











今度こそ本当の気持ちを…"YES"を言うために――





















****おまけ****