Celebrity......Love only of ten days












「ふぁぁ・・・・・・」


大きな欠伸をしてベッドから起き上がった。

そのまま目を擦りながらベッドから抜け出すとバスルームへと向う。

その時、ドアの下にメモが挟まってるのが見え、フラフラと歩いて行ってそれを拾った。


「なになに・・・?"取材に行ってくる。午後には戻るから待っててね。ハニーv レオ"・・・って誰がハニーよ、誰がっ!」


私は朝からアホなメモを見てガックリ力尽き、再びバスルームへと向った―――














The fifth day... Dream...







11月4日、日本に帰国して五日目。

今日はやっと私の荷物が届く日だ。



「遅いなぁ・・・・いつ届くんだろ・・・・」

そう呟いて読んでいた雑誌から目を上げ時計を見た。
すでに午後の2時は回っている。
そこへ・・・・



プルルルルル・・・・・・プルルルルル・・・・・・



部屋の電話が鳴り出し私はフロントからかと思って電話へと手を伸ばした。

「Hello?」
『あ、、おはよ!』
「・・・何だ、レオ・・・?」
『何だ、とは、またご挨拶だな・・・』
「だって荷物が届いたのかと思ったのよ。それより・・・取材中じゃないの?」

私は夕べの事を思い出して少しドキっとしたが、気づかれないように普通に問い掛けた。

『取材はあと一社で終わりだよ。でもなかなか来ないし、はもう起きたかなと思ってさ』
「・・・そりゃ起きてたけど・・・」
『・・・あれ・・・、何か機嫌悪い?』
「・・・そんな事より・・・。何よ、あのメモ・・・」
『あ、読んだ?』
「・・・寝起きから力抜けた」
『何でだよ。起こしちゃ悪いと思ってメモにしておいたのに』

レオは少しスネたようにブツブツと文句を言っている。
それには私も苦笑した。
その時、部屋のチャイムが鳴りハっとドアの方を振り返る。

、何か今、チャイムの音が―』
「あ、うん。荷物かも!じゃ、取材頑張ってねっ」

と早口で言って慌てて電話を切ってしまった(!)
そして急いでドアの方へと歩いて行く。

「はい」
「フロントの者ですが荷物が届いたのでお持ちしました」

ドアの向こうで声が聞こえて私はホっとしたようにドアを開けた。
廊下にはホテルの人が笑顔で立っている。

様ですね?お荷物が届きました」
「あ、ありがとう」

その人の手から紛れもない私のスーツケースを受け取りサインをする。

「中までお運びしましょうか?」
「い、いえ、大丈夫です」
「では私はこれで・・・・」
「どうも・・・」

そこでドアを閉めてスーツケースを中に引きずっていく。
すぐに中を確認すれば詰めた時のままの状態で少しホっとした。

「良かったぁ・・・。無事に戻って来たっ」

そう呟いてスーツケースをヒシっと抱きしめる。

はぁ・・・この間違いさえなければ、私は帰国当日には家に帰れたのよね・・・
そしたらこんな変な四日間も過ごす事もなかったし、こんな豪華なスィートルームに寝泊りする事も一生なかったんだろうな。
そう、それにハリウッドスターや映画監督を実家に連れて行くなんて事も実現しなかったかもしれない。

最初は戸惑っていたが一生に一度、こんな事があってもいいかとも思う。
普通なら体験出来ないような事ばかりだから・・・
でも、それももうすぐ終わりを迎える。
皆を実家に案内して次の日に見送ればそこでサヨナラだ。


「・・・・・・」


何でそう思っただけでこんな寂しい気持ちになるんだろ・・・
どっちみち、レオと私の住む世界はかけ離れすぎてるんだから。
そうよ。元々出会う事すらなかった人達なんだから・・・

「さてと、帰る準備でもしようっと」

気を取り直し、私はこの四日間で増えてしまった荷物を整理してスーツケースへと仕舞っていった。

そうこうしていると時間が経ち、外が薄暗くなってきた頃――







キンコーン・・・・・・キンコーン・・・・・・





(誰だろ・・・・?)

部屋のチャイムが鳴り、私は立ち上がるとドアの方へ歩いて行った。
でも開ける前にすぐにレオだと気づく。

~ただいま~」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

廊下で響くその声が聞こえてきた時、私は無言のままドアを開けた。

「あ、。さっきなんで切ったんだよ」

入って来て早々、文句を言ってくるレオを無視して私は奥へと歩いて行った。

「・・・・・・キャッ」
「何で無視するわけ?」
「は、離してよ・・・っ」

突然、後ろから抱きしめられ私はドキっとして飛び上がった。
だが腕の力は一向に緩まず、ガッシリと掴まえられている。
何だか昨日からこんなんばっかりで嫌でも意識してしまう。

「ほーんとって素っ気無いよなぁ?仕事で疲れて帰って来たんだから少しは優しくしてよ」

レオが苦笑気味にそんな事を言って来るが、私は彼の体温を感じてますます顔が熱くなってきた。

「レ、レオはいつも色々な人に優しくしてもらってるでしょ?別に私が優しくしなくたって・・・」
「そんなの関係ないよ。皆、表向きの顔だけだし」
「そんな事・・・。そ、それに私はレオの恋人じゃないんだから・・・」
「・・・何だよ、その言い方。ほんと冷たいな・・・」

レオは溜息交じりでそう言うと腕を離してソファの方に歩いて行った。
そして置きっ放しのスーツケースに視線を向ける。

「あれ?スーツケース届いたんだ」
「あ・・・うん、さっき」
「へぇ、良かったね。これで安心した?」

レオは煙草に火をつけながら皮肉っぽい笑みを浮かべ私を見た。

「そ、それより・・・レオ、取材終わったの?」

私はスーツケースをベッドルームに入れてから彼の隣に座った。
レオは腕を伸ばして伸びをすると、ソファに寄りかかったまま目を瞑っている。

「何とかねー。同じことばっか聞かれて嫌になったけど」
「ふーん、そっか・・・。スターは大変だね」
「・・・・何それ。嫌味?」

レオは体を起こして横目で私を見ている。

「違うよ。ほんとに、そう思ったから」

視線を反らしそう言えばレオは黙ったまま煙草を灰皿に押しつぶした。

「ねえ、今から二人で出かけない?」
「え?」

その言葉に驚いて顔を上げれば、レオが笑顔で私を見ている。

「い、今からって・・・ジェームズ達は?」
「ジェームズは映画会社の人達とディナー」
「え・・・でも・・・レオ行かなくていいの?」
「俺は断った。別にもう話すこともないし仕事相手と食事しても気を使って疲れるだけだしね。
それならと二人でデートでもしようかなと」
「デ、デートって・・・」
「何?嫌なの?」

私が困ったように目を伏せると、レオはスネたように顔を覗き込んでくる。
それには慌てて首を振った。

「い、嫌じゃないけど・・・」
「じゃ、決まり!ほら行こう?」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・。この格好で?」

私は自分のスーツケースが戻って来たので普段のようにラフなトップスとジーンズという格好だった。
それに対し、レオはカジュアルながらジャケットに黒のパンツという装いでどう見ても不釣合いだ。

「いいよ、格好なんて。、そういう格好も似合うよね」
「でも・・・」
「でも、はナシ!それに俺、ちょっと買い物に付き合って欲しいんだ」
「買い物・・・?」
「そう。明日から温泉だろ?俺、今回ラフな服とか持って来てないんだよね。だから普段着とか買いたいんだけど」
「ああ、そっか・・・。分かった」
「じゃ、行こう」

レオは嬉しそうに私の手を取り、部屋を出て行く。
私は相変わらず強引なレオの手に引かれて、

(でも日本にレオが似合うような服ってあるのかな・・・?)

なんて思っていた。















「どう?似合う?」

「・・・・・・・・」

?」

「う・・・あ・・・に、似合う・・・よ?」

「ほんとに、そう思ってる?」


レオは固まったまま視線を反らしている私の側まで来るとニヤっと笑って顔を覗き込んできた。

「な、何よ・・・似合うってば・・・」
「そう?なーんか、心ここにあらずって感じなんだよなぁ」

レオはそう言って苦笑を漏らすとフィッテングルームの方へ戻って行った。
私はドキドキしている胸を抑えつつ軽く息を吐き出す。

ま、全く・・・何で、こんなドキドキするのよ・・・!
だいたいレオってば何を着たって似合うじゃないっ
今のだって、ほんとカッコ良過ぎて言葉に詰まったんだから・・・

そう思いながら店内を見渡した。
普段着というからてっきりカジュアルな店にでも行くのかと思えば、ここは某有名ブランド店。
確かにカジュアルな服も置いてるんだけど・・・店の雰囲気はシックだし何だかカジュアルすぎる私だけ浮いてる気がする・・・

落ち着かずブラブラしながら商品を見ているフリをしていると、レオが何着か買い物を済ませて歩いて来た。
レオ担当の店員もニコニコしつつ後からついてくる。
まあサングラスをして帽子までかぶっているのでレオとまでは気づいていないんだろうけど、何となく顔がニヤケていた。

「お待たせ」
「あ、買ったの?」
「うん、一応ね。さ、次はどこに行く?」
「え?まだ買うの?」
「いや、今度はの買い物」
「は・・・?」

レオの言葉に私が驚いて顔を上げると、彼特有の得意げな笑みがそこにあった。

も何か買おうよ。俺が見立ててやるからさ」
「い、いいよ、別に・・・。買いたいものなんてないし・・・」

私はそう言うと急いで店の外へと出た。
それにレオも続くが後ろから少しトーンの高い「ありがとう御座いました~」という声が聞こえてくる。

「ちょっと、待てって」
「もう遅いし店も閉まっちゃうよ?それより何か食べに・・・」
「あ、あそこ!」
「え?キャ・・・っ」

振り向いた瞬間、レオは何かを見つけたらしく私の手を掴み繋いだまま走り出した。

「ちょ・・・ちょっと、どこ行くの・・・?!」
「あそこ!」

レオが笑顔で指差した先には可愛いアンティークショップが見える。
驚いたように彼を見上げるとレオは優しく微笑んでその店に入って行った。

『いらっしゃいませ』

カランと鳴る鐘の音で奥から優しそうな中年女性が顔を出した。
店内は所狭しと色々な雑貨やアクセサリー、帽子といった商品が並んでいて全てがアンティークで可愛い。
お客も女性ばかりで今も4人ほどがいた。
急に入って来た男性客、しかも外国人という事で一瞬、視線を集めてしまい何故か私がドキっとして俯いた。
だがレオは、どこ吹く風で呑気に商品を見て周っている。
そして帽子を被ると、「これ、似合う?」なんて聞いて来る。
だが私はその帽子を見て笑ってしまった。

「あはは!レオ、その帽子、そんな風に被ったらジュリーみたいだよ」
「"ジュリー"って誰だよ?」
「ああ、えっと・・・日本の昔の歌手?そんな帽子被って歌ってたの」
「へぇー。そーなんだ」

私がクスクス笑いながら説明するとレオは複雑な顔をしながらその帽子を取って元に戻した。
そして可愛いベレー帽を取ると私の頭にぽんと乗せてくれる。

「お♪可愛い、
「・・・・・・・っ」

嬉しそうに微笑むレオに私はドキっとしてすぐにその帽子を取ってしまった。

「あぁ~何で取っちゃうの?それ似合ってるのに」
「い、いい。ベレー帽なんて普段被らないし・・・・」
「でも凄く似合うよ?」
「え?あ、ちょ・・・っ」

何を思ったのか、レオはその帽子を手にまた他の物を見出して私は困ってしまった。

(もう・・・あんな可愛い帽子、似合うわけないじゃない・・・)

そう思いながらレオについていくと、今度はアンティークっぽい指輪を取ってジっと見ている。
その様子を見ていて私は嫌な予感がした。
そこでクルリと方向転換しようとした、その時。
グイっと腕を引っ張られ、気づけば私の左手薬指には奇麗な黒い石のついた指輪がはめられている。

「ちょっとレオ・・・」
「ワォ、ピッタリ!、指も細いなぁ?それ7号だぞ?」
「そ、それより何で指輪・・・しかも・・・」

(よりによって薬指になんて・・・っ)

一人ワタワタしながら指輪を取ろうとした時、先ほど顔を見せた女性の店主が歩いて来た。

『それは黒曜石の指輪なのよ?』
『え?あ・・・そ、そうですか・・・』

ニッコリ微笑んでくる店主に私は顔を赤くしつつ、レオを見た。

「何て?」
「え、えっと・・・この指輪の石は黒曜石だって」
「ああ、そうか。それの黒い瞳に似合うかと思ってさ」
「・・・・・・・っ」

(な、何が似合うって?!)

そう思って何か言い返そうとした時、レオが私の指からその指輪を外すと店主にさっきの帽子と一緒に渡した。

「これ下さい。あ、プレゼントなんでラッピングして欲しいんですけど」
「分かりました」
「・・・・・・?」

店主は英語も話せるようでレオの言葉にすぐに返事をして商品を持って行く。
だが私はハっとしてレオの腕を掴んだ。

「い、いいよ。レオ・・・」
「いいって。俺がに勝手にプレゼントしたいんだよ」
「で、でも私は・・・」
「あ、それとも恋人に怒られる?他の男から指輪なんて」
「・・・・それは・・・」

そう言われると言葉に詰まる。
きっとコリーなんてそんな事すら気づかないかもしれない。

?」
「あ・・・ううん・・・。彼は・・・気にするような人じゃないけど・・・」
「そ?なら、いいじゃん」

レオはそう言ってニッコリ微笑むとレジの方に歩いて行ってしまった。

「はぁ・・・」

どういうつもりなんだろ、レオってば。
思い出になるような物があるとちょっと困る・・・
今、レオといれる事すら夢のようなことなのに、証拠品のように物を貰ってしまうと・・・
って今までも服とか散々貰ってるんだけど・・・でも指輪は・・・

そんな事を考えているとレオが戻って来た。

「さ、行こう」
「あ、レオ・・・」

サッサと店を出て行くレオに私は戸惑いつつ後を追いかけた。

「お腹空いたなあ。何食べる?」
「え?あ・・・私は何でも・・・」
「何でも~?何か日本に戻って来て食べたい物とかないの?」
「そりゃあるけど・・・・」
「何?」

レオは興味あるのか嬉しそうに聞いて来る。
それには私もちょっと考えてた。

「だから・・・普通の食べ物よ。例えば・・・"おにぎり"とか・・・"お茶漬け"とか・・・」
「"オニギリ"と"オチャヅケ"?何それ?」
「おにぎりはご飯を握って海苔でまくっていうか・・・中に鮭とか入れて食べるの」
「へぇ。美味しいの?」
「うん」
「オチャヅケは?」
「それもご飯なんだけど・・・お茶をかけて食べるの。食感は・・・リゾットっぽいかなぁ・・・?」
「ふーん。後は?」
「後は・・・・」

何だろう?と首を傾げた。
ロスにいる頃はあれが食べたいとか、これも食べたいとか色々と頭に浮かんだんだけど・・・
そんな事を考えつつ、ふと思い出した。

「あ、あとねー"たこ焼き"に、"お好み焼き"!」
「"タコヤキ"に"オコノミヤキ"?何それ?」
「ん~・・・」

なんて説明しようかと思って考えていると、ちょうど"お好み焼き"と書いた暖簾が見えた。

「あ、あれ!」
「え?うぁっ」

私はレオの腕を掴んでその店の前まで走って行った。

「説明するより見た方が分かりやすいでしょ?」

と言ってウィンドゥに飾ってある見本を指さした。

「何これ・・・ピザっぽいけど・・・」

レオはお好み焼きのディスプレイを見て首を傾げている。
だが、ふと顔を上げて私を見た。

「これ食べる?」
「え?で、でもレオ、食べれるかな・・・」
「大丈夫だろ?俺も食べた事ないの食べてみたいし、ここ入ろ」
「え?あ・・・」

レオはそう言って私の手を引くと店の中へと入って行った。

『イラッシャイ!』

元気な声が響き、カウンターの中の店主が笑顔で迎えてくれたがレオを見てギョッとしている。
他の客も何故かおじさんやおばさんが多くて、私とレオはハッキリ言って浮いていた・・・


「あ、あのレオ・・・やっぱ他のでいいよ・・・?」
「え?何で?何だか凄くいい匂いするしここでいいよ。で、どこ座る?」

レオはこういう店が初めてだからか、楽しそうにしている。
なので私は仕方なく座敷の方に上がった。

「ここは靴脱いで上がるのよ」
「へぇーさすが日本だ」
「・・・・・・・・・」

(変なとこで感心するんだな・・・)

無邪気に喜んでいるレオを見ながら座るとメニューを広げた。

「レオは何がいい?」
「あ、俺分からないし、全部に任せるよ」
「そう?じゃあ・・・」

ざっとメニューを見てレオの食べれそうなお好み焼きを探してみた。
あっちの人はあまりイカとかタコを食べないので、肉系がいいかな、と豚玉を注文した。
店のおばさんは私が日本語を話せるのにホっとしたようで、『男前さんだねぇ。彼氏かい?』なんて言いながら戻って行った。
それをレオに、「何て言ったの?」と聞かれて私が答えられるわけもなく
笑って誤魔化しているとおばさんがビールとお好み焼きの器を運んできてくれた。

「え?何、自分で作るの?」

レオは当然、知らないので驚いている。

「そうよ?あ、私が焼いてあげる」

そう言ってお好み焼きを混ぜてから温まった鉄板に油を引いていった。
その上に具を流すとジュゥっという音と共に懐かしい匂いがしてくる。

「へぇ・・・そうやって焼くんだぁ・・・」

レオは興味津々でビールを飲みながら、じぃっと私の作業を眺めている。
そして店の客たちはそんなレオを興味深げにチラチラ見ていた。

(きっと外国人なんて珍しいんだろうなぁ・・・)

そんな事を思いつつ、お好み焼きを焼き上げて奇麗に切り分けてあげた。

「はい、出来たぁ~」
「匂いは美味しそうだな?」
「む。味も美味しいわよ」

クスクス笑いながら見てくるレオを睨みつつヘラでお好み焼きを掬って口に入れた。

「あつ・・・ん~美味しいぃ~」
「へえ、美味しいっ」
「でしょ?」

レオも驚いたように顔を上げて、「これ日本でしか食べられないの?」なんて言ってパクパク食べている。
そんなレオを見て自然に笑顔になった。

何だかいいな、こういうの。
学生の頃はこんな風にお好み焼き屋さんとかでデートもしたっけ。
って気づけば私、最近はレオと食事してる事が多いんだけど・・・

そんな事を思いながらビールを飲んでいるとレオが不意に顔を上げた。

はさ、普段こんな風にデートしてるわけ?恋人と」
「え?あ・・・そ、そんな事は・・・ないかな?」
「じゃあ、どんなとこでデートするわけ?」
「な、何で?」

急にそんな事を聞いて来たレオに私は戸惑いつつも尋ねた。
するとレオは少し考えるような顔をしていたがちょっと苦笑しながら、

「俺、最近はデートってこんな無防備にしたことないからさ」

と肩を竦めている。

「あ・・・やっぱり・・・見つかったらまずいから・・・?」
「いや、そういうわけでもないんだけど・・・。ゴシップ雑誌の記者とかが追いかけてくるからうっとうしくてね」
「そう・・・大変だね・・・?」
「ま、もう慣れたけど・・・」

レオはそう言って笑ったが私には少し寂しげに見えて何て言っていいのか分からなくなった。

(きっと、こんな感じでノンビリとデートとかしたいんだろうな・・・)

好きでしてる仕事なんだろうけどプライベートまで追いかけられるというレオが少し可愛そうになった。





そのまま他愛もない話をしながら食べ終えた私達は気のいいおばさんとおじさんに見送られながら外へと出た。

「はぁ~美味しかった!日本って、ほんと色んな食べ物があるよなぁ」
「気に入った?」
「うん、もう今度から日本の食べ物は何が好き?って聞かれたら、"オコノミヤキ"って言うよ」
「あはは、それいいね。かなりマニアックかも」

レオの言葉に笑いながら私は少しだけ伸びをして夜空を見上げた。
するとレオが立ち止まり、「明日からオフだし、ちょっとホテルのバーに飲みに行かない?」と振り向く。

「うん、いいけど・・・明日は午後に出発だよ?」
「分かってるよ。だから遅くならない程度に」
「OK」

レオの誘いに笑顔で頷き、ホテルへ戻ろうと二人で歩き出した。
だがレオはふと私を見て思い出したように口を開く。

「そう言えば・・・ロスの恋人とはちゃんと話した?」
「え?あ・・・まだ・・・だけど」
「えぇ?まだ話してないの?心配してるんじゃないか?」
「さ、さあ・・・・・・」

(どうせ遊び歩いてるよ、きっと・・・・)

そう思いながら俯いているとレオが顔を覗き込んできた。

「今、電話してみろよ」
「は?」
「こっち来てから一度も話してないんだし、きっと心配してるって」

レオは真剣な顔でそう言って、「俺、聞かないからさ」と笑うと少しだけ先を歩いて行く。
それにはかけないわけにも行かず、仕方なく携帯を出す。

はぁ・・・何だか・・・さっきまで楽しかったのにコリーのこと思い出したら急にテンション下がっちゃった・・・
これって恋人失格よね・・・。でもだって・・・コリーはきっと心配なんてしてないもの・・・・

溜息をつきつつ、ロスの家の番号を出す。
こっちからもかけれるようにしてるのでそのままロスの番号の後に家の番号を押した。
前を歩くレオは何だか黙って歩いていて、その背中を見ていると不意に寂しさを感じた。



プルル・・・・・・プルルル・・・・・・



この前と同じように空しく呼び出し音だけが聞こえてくる。

(また、いないに違いない・・・)

そう思って、もういいから切ろうと・・・・・・と思った、その時。




『Hello......?』


「―――ッ?!」




相手が出た。

だが私は何も言えずに黙っていると、甘ったるい声で、


『誰~?コリーなら出かけてるけどぉ』


という言葉が聞こえてくる。
それには慌てて終了ボタンを押してしまった。



「・・・・・・・っ」



い、今の女の人・・・・誰・・・?家の電話に勝手に出るなんて・・・
コリーは出かけてるって言ってた・・・って事はこの人・・・留守番でもしてるわけ?
あそこは私も一緒に住んでる家なのに・・・。

色んなことが頭に浮かんで心臓がドクドク鳴っている。
急に一人ぼっちになった気がして涙が出そうになった。



「どうした?出なかった?」

「・・・・・・・・っ」



いつの間にかレオが立ち止まって私を見ていた。
レオの心配そうな顔が見えて私は言葉に詰まってしまう。

(何か言ったら泣いてしまいそうだ・・・)


・・・・?」

レオは何も言わない私を見て、ゆっくり歩いて来た。

「・・・どうした?」

優しい声と、頬にそっと添えられた手・・・

その温もりに涙が一粒頬に流れ落ちた。


















俺は何も答えないが心配になり、そっと彼女の頬に手を添えた。
その瞬間、彼女の大きな瞳から涙が溢れ出て一粒零れ落ちハっとする。
その涙を見て言葉に出来ない感情が心の奥から沸いて来た。


・・・どうし――」

「・・・・たの・・・」

「え?」

「家に・・・知らない女の人が・・・いたの・・・」

「・・・・・・っ?」


その言葉に驚いて彼女を見つめれば、動揺しているのか俺の腕をギュっと掴んできた。

「い、今・・・電話に女の人が出て・・・」
・・・落ち着いて・・・。それって友達とかじゃないの?他にも誰かいたとか・・・」

俺がそう言ってもは首を振って、

「今まで・・・家に女友達なんて呼んだ事なかったし・・・その人、"彼は出かけてる"って・・・」

と呟く。

「そっか・・・」


俺からしてみればそれは間違いなく浮気だろうと直感で思ったが、それは口に出せなかった。
一緒に住んでる女が暫く戻らないとなれば、男のする事は一つだろう。
いや、皆が皆、そうじゃないだろうが、二人の仲がどれほどだったかの問題もある。
も日本に来てすぐ連絡しなかったところを見ると、うまくいってなかったのかもしれないな、と、ふと思った。

何故か胸が痛くなり、俺はそっとの涙を指で拭った。

・・・大丈夫・・・?」
「・・・・・・」

は黙ったままゆっくり顔を上げ軽く頷いた。
だが瞳にはまだ涙が溜まっていて大丈夫じゃないのは明らかだ。
そんな彼女を見ていると思わずその細い体を抱き寄せていた。

「・・・レオ・・・?」
「泣くなよ・・・」

そう呟いた時、車が一台、横を走り抜けて行った。
大通りから一本、奥に入った裏通りだからか、人気はなく、ただ車のライトだけがチラチラと揺れている。

(何で、こんなに心配なんだろう・・・)

小さな体を抱きしめる力を強くしながら、彼女の頭に頬を寄せた。
するとは驚いたように顔を上げた。




「レ・・・オ・・・?」




「別れちゃえよ・・・・」




「え・・・・・?」







つい、口からそんな言葉が出てしまって自分でも驚いた。
も驚いたように目を大きく開いて俺を見ている。
だけど涙で濡れたその瞳を見ていたら、愛しいという感情が溢れて来た。
ここ数日、何となく感じていた気持ち。
時々自分でも分からなくなったが、と一緒にいると久し振りに息を吸えたという感覚になったし、何より楽しかった。
この気持ちは・・・




がいない時に女連れ込むような奴とは・・・別れろって言ったんだよ・・・」


「・・・・・・・・っ」




もう一度、今度は素直に思った事を言った。
はやっぱり驚いていて少しだけ体を離した。


「レオ・・・・何言って・・・」


戸惑うように俺を見ているに俺は先ほど買った帽子を出してぽんっと被せてあげた。


「・・・?」

「やっぱり、それ、よく似合うな・・・」

「・・・レオ」


そしてもう一つ・・・
そっと彼女の左手を取って、それを指にはめた。


「ちょ・・・レオ・・・・っ?」
「プレゼント。さっき渡すの忘れてたからさ・・・」


そう言って微笑むとは少しだけ瞳を大きくしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。


「・・・・・・ありがと・・・」


お互いにそれ以上何も言わず、俺はそっとの手を握って歩き出す。








この時、俺は自分の中に芽生えた思いが何なのか、ハッキリと理解していた―





















The sixth day...


やっとこ五日目。
そろそろ互いに動くかなぁ??( ̄m ̄)


日ごろの感謝を込めて…


C-MOON管理人HANAZO