Celebrity......~Love
only of ten days~
『別れちゃえよ・・・・・・』
レオの言葉が頭の中でぐるぐる、ぐるぐる回ってる・・・
彼に電話したら知らない女が出た。
あの時の涙は悲しいからじゃない。
よく分からないけど・・・悲しいわけじゃなかった。
The sixth day...
Dream...
11月5日、日本に帰国して六日目。
今日はレオ達と私の実家=温泉に出発する日だ。
私は早めに起きて用意を済ませると豪華なスィートルームに別れを告げた。
私だけホテルをチェックアウトし、午後、皆で浅草駅から東武線に乗って鬼怒川温泉へ向う。
レオが車ではなく、電車で行きたいと言ったからだ。
ジェームズ、ボブ、ボディガードのザンとマーカス、そしてレオと私の7人で電車に乗るとかなり目立っていたが、
彼らは気にもせず日本の乗り物を楽しんでいる様子。
特にレオなんか夕べの事は何もなかったかのようにザンとマーカス達とのトランプゲームではしゃいでいる。
私も参加していたが集中出来なくて何度も負けた。
「ほーんと弱いな?は」
「そ、そんな事ないもん・・・」
「だって一度も勝てないだろ?もう止める?」
レオはクスクス笑いながら横目で見て来てちょっとムカツク。
今まで無口だと思っていたザンとマーカスも今日はプライベートと言う事で少しリラックスしているせいか、
時折、笑顔を見せながらレオとジョークを飛ばしあっていて少し驚いたのだけど。
(それでもやはりボディガードという事なので知らない人が近づいてきたりすると途端に目つきが変わるのは凄いと思った)
「じゃあ少し休むから3人でしててよ」
「OK!じゃあ、今度は何しようか?」
レオは笑いながらザンとマーカスの二人に声をかけた。
私は隣で軽く息をつくと窓の外を眺め、懐かしい景色を見た。
どんどん田舎になっていくのはちっとも変わらない。
(まさかこんな形で帰るとはロスを出た時は思ってもみなかったな・・・)
隣で騒ぐレオ達や、反対側の席で楽しそうに話し込んでいるジェームズとボブを見つつ、内心、苦笑を洩らす。
今回の急な帰国だってコリーとケンカしたのが原因でたまたまだったし、
もしあのケンカがなければこうしてレオ達と出会うこともなかった。
そう思うと複雑な気分になる。
そして夕べの電話に出た女の事を考えると、少し憂鬱になるのも仕方ない。
確かに私がいない間、コリーは浮気するんじゃないかとも思っていた。
それだけ私とコリーの気持ちが離れていたのは確かだから。
だけどまさか、あの家に連れ込むなんて思ってなかったのだ。
あそこは二人で住んでる家だ。
そこにいくら私がいないからって女を連れ込み、ましてや留守番させるなんて最悪だ。
そう、私は彼が浮気をしていたのが悲しかったんじゃない。
あの涙は悲しいというよりも悔しさで出たのかもしれない。
それに・・・レオの言葉にドキっとしてしまって悲しんでる暇なんてなかったように思う。
あの後、ホテルのバーに二人で飲みに行ったがレオは普段以上に優しくて胸がドキドキしてしまったほど。
だけどレオは時折、黙り込んで何かを考えているようで、だからあの時言った言葉の意味すら聞けずに終わった。
"がいない時に女を連れ込むような奴とは・・・別れろって言ったんだよ"
あれはどういう意味で言ったのかな・・・・
ただ単に浮気するような男とは早く別れた方がいいって事?
そんなに深い意味で言ったんじゃないのかもしれない。
私が泣いちゃったからレオは慰めようとして言ってくれたのかも・・・
それとも・・・・まさか・・・ね。
「Shit!そう来るの?マーカス!ずるいなぁーー!もう一勝負!」
「OK。何度でもいいよ?」
「うーわ、それ余裕?感じ悪いなぁー」
「・・・・・・・・・・」
ほんと・・・・深い意味はないのかも。
こんなグダグダ考えてるのって私だけみたい。
私は隣で大騒ぎしているレオを見てちょっとだけ半目になってしまった。
「ー!こっちこっち!すっごい可愛いのがいっぱいいるよ!」
レオは先を急ぎながら私に手を振っている。
それを見てジェームズも苦笑いだ。
「全く・・・こうして見るとレオも、やはり22歳らしく見えるな」
「え?」
「普段の彼は大人にばかり囲まれているからそれなりの対応を要求される。あんな無防備な笑顔は久し振りに見たよ」
「そう・・・なんですか?」
ジェームズの言葉に私は再びレオの方に視線を向けた。
レオは確かに最初に会った頃の大人びた雰囲気ではなく、今は歳相応に見えるほどはしゃぎながら猿を見学している。
(今はレオがどうしても行きたいと言い出したので、途中下車して日光江戸村に来ていた)
「君と会ってから・・・・レオは本当に毎日、楽しそうだ」
「・・・え?」
ジェームズの言葉にドキっとして顔を上げると彼は優しく微笑んでくれた。
「今回の映画ではそれなりに大金が動いたりしてるし、そうなればお偉い方も絡んでくる。
レオにだって負担はかかってたと思うんだが・・・彼はそういう顔は見せずに、よくやってくれたよ。
だが日本に来る少し前くらいからかなり疲れてたようでね。日本でオフが欲しいと言ってたんだ」
独り言を言うようにジェームズは穏やかな顔で言葉を続けて、小猿を抱っこさせてもらっているレオを見た。
「今回、この温泉に来たいと言い出したのだって疲れてたのもあるだろうけど・・・まだ君と一緒にいたかったんじゃないかな?」
「ま、まさか・・・。彼には私じゃなくても側にいてくれる人はいくらでも――」
「本気でそう思うかい?」
「――え?」
ジェームズの言葉に私は足を止めて彼を見上げた。
「確かに・・・君から見れば私達のいる世界は煌びやかで派手なものに見えるかもしれない。でもそれは表向きは、と言う事だ。
仲が良く見えても上辺だけの世界なんだよ。心を許せる相手がそう何人もいるわけじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ジェームズは少し空を見上げて軽く溜息をついた。
ボブとザン、マーカスも彼の言葉を聞いているのだろうが気を利かせたのか少し後ろを歩きつつ、猿を見学している。
「ーー!!早く来いよ!こいつ可愛いぞ?」
その時、レオが手を上げて私を呼んだ。
「ほら、レオがお呼びだ。行っておいで」
「あ・・・」
ジェームズは優しく微笑むと私の背中をポンと押してくれる。
私はジェームズに笑顔を見せると、早く早くと手招きしているレオの方に走って行った。
そうなんだ・・・有名人だからといっていいことばかりじゃないんだなぁ・・・
そう言えばレオも、そんなこと言ってた気がする。
ジェームズの言葉を考えながら、途中で足を止め、レオの方にゆっくりと歩いて行った。
レオはすっかり小猿に懐かれたようで、抱っこをしたまま私の方に歩いて来る。
「ほら、こいつ可愛いだろ?こんな感じで離れないんだ」
「わぁ、ほんと!可愛いっ」
レオの抱いてた小猿は本当に可愛らしくて、彼の胸にギュっと抱きついたまま私を見上げている。
「こいつ連れて帰りたいよ~」
レオはそんな事を言って小猿に頬ずりをした。
そんなレオを見てちょっと笑いながら、
「そうしてると親子みたいだよ?レオ」
と言えば彼は一瞬、嬉しそうな顔をしたがすぐに口を尖らせる。
「それって、どういう意味?俺も猿っぽいってこと?」
「ん~どうかな?」
「うわ、何だよ、それ。だってこいつに似てるぞ?」
「な!何よっ。私が小猿ってこと?!」
「ほら、このほっペ赤いとこ、と似てるじゃん」
「わ、私はほっペ赤くなんか――」
ちゅ
「―――っ!」
いきなり頬にキスをされ、私は固まってしまった。
だが、その瞬間、レオのニヤっとした顔だけは視界に入ってくる。
「ほーら、赤くなった」
「な・・・・・・!」
(わ、わざと?!確信犯なの?!)
どんどん上がる顔の熱と、怒りでプルプルしてると、レオは小猿の頬にも軽くキスをして、もう一度私を見た。
「もしかしたら、お尻もお揃いだったりして」
「~~~~~っっ!!!」(怒りで言葉にならない)
「何なら、今夜、混浴で確めてあげようか?」
「レ・・・レオーーっっ!!」
彼の爆弾発言に私は真っ赤になって怒鳴ると、レオは笑いながら走って逃げ出した。
それを見ながら後ろでジェームズたちも大笑いしている。
全く!!絶対、この人達ってば一般人をからかって遊んでるんだ!
だいたい混浴なんて何故にそんな知識だけはあるのよ!
「ほら、!あっちにゴーカートあるから一緒に乗ろう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
レオは笑顔で手を振り、私を呼んでいる。
その笑顔を見てると一人怒っているのもアホらしくなってしまう。
「ー!」
「今、行く!」
私は思い切り息を吐き出し、レオの方に走って行った。
するとレオはずっと抱っこしていた小猿を係りの人に返している。
が、小猿は離れたくなかったのか、突然、レオのかぶっていた帽子を掴んでポイっと放ってしまった。
「あ~ほんとヤンチャだな。人間の子供と変わりないんだから」
レオは笑いながらそう言って小猿を撫でると、帽子を拾ってもう一度被りなおした。
そして歩いて行った私を見ると不意に手を繋いでくる。
その体温にドキっとして彼を見ると優しい瞳と目が合った。
「ほら、あれ乗ろうよ」
「う、うん・・・」
(な、何だろう・・・今まで以上に意識しちゃう・・・)
ちょっと視線を反らしつつ頷きながら全神経は繋がれた手にある。
だがレオは気づかないようでそのまま私の手を引いてゴーカート乗り場へと歩いて行った。
そこで私は一人乗りの方を選んだがレオが膨れて、
「二人で乗ろうよ」
と言うので仕方なく二人用のに乗り込んだ。
レオはこういったものが好きらしく、やたら喜んでいる。
「ほら、アクセル踏んで。いい?」
「い、いいよ」
「じゃあスタート!」
レオが楽しげにアクセルを踏み込むと、ゴーカートは勢いよく発車した。
久し振りに乗ったゴーカートに私もだんだん楽しくなってくる。
「凄い久し振り!これに乗るの」
「子供の頃に乗った?」
「うん。大好きだったから。でも一人乗りの方がスピード出るのに」
運転しながらそう言うとレオはちょっとスネたような顔で私を見た。
「そんなのつまらないだろ?せっかく二人でいるんだから」
「何で?だって一人乗りだと競争できるよ?」
「そんなのやったって、どうせ俺が勝つからね」
「うわ!憎たらしいっ」
レオの澄ました顔に私が口を尖らせて文句を言うと、彼はクスクス笑っている。
そのままコースを走っていると、いつの間にか柵の所にジェームズ達がいてこっちに手を振っていた。
「大人連中も乗ればいいのにな~?」
レオはそんな事を言いつつ手を振り返していて、私はと言えばジェームズやザン、マーカス達が、
こんな小さなゴーカートに乗ってるところを想像してちょっとだけ噴出した。
ジェームズはともかくとして・・・ザンやマーカスがあの大きな体でゴーカートに乗ってたらそれこそジョークとしか思えない。
まあ・・・ちょっと見てみたい気もするけど(!)
「何、笑ってるの?」
「な、何でもないよ?って、あ~もう終わっちゃった・・・」
短いコースなので、数分もすればゴールについてしまう。
そこへジェームズ達が歩いて来た。
「そろそろ温泉に行くぞ?」
「OK」
レオは肩を竦めると先に下りてから私の方に振り返り、手を差し出した。
「ほら、行こう。」
「ぅ、ぅん・・・」
その仕草一つにも、いちいち私の心臓は反応するようだ。
でも・・・女性なら・・・こんな風に気遣ってもらえると、やっぱり嬉しいものなのよ・・・
コリーなんてアメリカ男性のクセにそう言うとこ少なかったしなぁ。
ふとコリーの事を思い出し、また気分が重くなってきた。
はあ・・・ロスに帰って、いきなり出て行けなんて言われたらどうしよう。
部屋を探すのにだって色々と大変なのよねぇ・・・
すでに別れを切り出される気分のまま、私は思い切り溜息をついたのだった。
『ようこそ!当旅館へ!』
そう言って笑顔で出迎えてくれたのは本当ににソックリのご両親だった。
『おぅ、!お帰り!ほんとに外人さん連れかえるとは大したもんだな!』
『ちょ、ちょっと、お父さん!恥ずかしいからやめてよ!相変わらず声が大きいんだからっ』
『そんなもん、数年で変わるか、バカ!それより部屋に案内してさしあげろ』
『な、何で私が?!それ自分の仕事じゃない!』
『うるせぇ。お前も旅館の娘だろ?ほら、奥の楓の間と柊の間、とってあるからサッサと案内しろっ』
『わ、分かったわよ!もう・・・日本語、通じないと思ってそんな口調でいいの?全く・・・』
『はいはい、二人とも、それくらいにね?』
「「「「「???」」」」」」
その親子のやり取りを見ていた俺達には当然、会話の内容は分からない。
(まあ何だかが怒ってるように見えたのは気のせいじゃないと思うが)
だが仲のいい親子というのは十分に伝わってきた。
ここの女将(の母親で凄く奇麗だ)も苦笑いをしているということは、いつもこんな感じなのだろう。
「あ、あの・・・じゃあ私が案内します」
「ああ、ありがとう。じゃあ、お父さん、お世話になります」
『お父さん!ジェームズが、"お世話になります"って言ってる』
『な、何?あーうー・・・。ナ、ナイスミーチュー!ミスター!』
『な、何よ、そのベタベタなカタカナ英語は!』
『う、うるせーなー!ちょっとアメリカに留学してるからって威張るなぃっ!』
またしても何か言い合っている親子に、俺とジェームズは顔を見合わせ、笑いを噛み殺した。
そのうち、が恥ずかしそうにしながらも部屋へと案内してくれて、俺とジェームズが同部屋になった。
案内された部屋はかなり広く、一人部屋までがついていてこれならノンビリ出来そうだ。
「えっと・・・何か分からない事があったら私に言って下さい。温泉に入る時は案内するので」
「ああ、分かった。ありがとう、。凄くいい旅館で気に入ったよ」
「ありがとう御座います」
ジェームズの言葉には恥ずかしそうにしながらも笑顔を見せている。
やはり自分の親がやっている旅館を誉められると嬉しいのだろう。
俺は荷物を置いて早速、部屋の探索をした。
窓を開けると下にはあの名前の由来となった鬼怒川が見える。
「眺めいいなぁ~。あ~気持ちいい~」
両手を伸ばし空気を吸い込むと、俺は息を吐き出した。
こんなにノンビリするのは久し振りだ。
「じゃあ・・・私はちょっと親のところに行って来ます。あ、何かご要望とかありますか?欲しいものとか・・・」
「いや、私は特にないよ。ちょっと休んでから散歩にでも行ってこようかな?」
「そうですか。あ、レオは?」
「ん~俺もないかな?それより近所でも案内してよ」
「え?あ・・・じゃあ後で町にでも行ってみる?と言っても何もない町だけど」
「ほんと?行きたい」
「じゃあ・・・ちょっと待っててね。ザン達にも聞いてくるから。あ、飲み物はその冷蔵庫に入ってる」
「OK。分かった」
俺がそう言うとはそのまま部屋を出て行った。
「ジェームズ、何か飲む?」
「ん?ああ、私は・・・このお茶でいいよ。美味しそうだ」
ジェームズは、そう言ってが淹れてくれたお茶を嬉しそうに飲んでいる。
俺もそれを一口飲んでその苦さに顔を顰めた。
「これ、何のお茶だろ。すげー苦い」
「ああ、これは緑茶だろう。こっちはほうじ茶」
「へージェームズ、よく知ってるね」
「これでも日本茶は大好きでね」
ジェームズはそう言って笑うと軽くウインクをした。
俺は軽く肩をすくめてみせると部屋の中をぐるりと見渡し、奥の部屋にも行ってみる。
純和風でほんと日本にいるという気分になり、ちょっと嬉しい。
ホテルのスィートもいいがあれだと外に出なければ、本当に日本にいるという実感なんか沸かないのだ。
奥の部屋の窓も開けて外の空気を入れる。
周りには他の旅館も立っていて、その後ろには連なる山並みが見えて大自然を満喫できた。
(ここで・・・が育ったんだ)
そう思うと何だか胸の奥が熱くなってくる。
(そんな事すら嬉しいと感じるんだから・・・やっぱり俺はの事が好きなんだろうな・・・)
夕べ・・・泣いてる彼女を見た時に感じた嫉妬の感情・・・
そしてその彼女を抱きしめた時に溢れてきた気持ち・・・
心の奥が暖かくなって・・・放したくないって思った。
そして同時に他の男の事で泣いてるを見たくないとも―
はぁ・・・っと溜息をついて煙草に火をつけると窓枠のところに腰をかけた。
何でよりによって恋人のいる子、それも異国の地で会ったばかりの子を好きになってしまったんだろう。
は自然に俺の心に入って来た。
そう・・・。一緒にいると本当に俺も自然体でいれたし安心したんだ。
は飾らない言葉を俺にくれる。
目の前の俺を見てくれる。
今まで俺の周りにいた子達とは全く違った。
俺が俳優をやってると分かった後でも態度は変わらなかったし特別扱いもしたりしなかった。
それが・・・何より嬉しかったんだ・・・・
だからと言って、どうできるわけもない。
まあ・・・別にはロスの大学に行ってるんだからここでサヨナラと言う事にはならない。
どこの大学かは知っているし、向こうでの連絡先を聞けばいいだけの話だ。
だけど彼女には同棲している恋人がいる。
俺が向こうでも会って欲しいと頼んだところで会ってくれるという保証はない。
それに夕べの様子を見ていれば・・・はまだその恋人の事を好きなんだろうと思った。
普段、気の強い彼女があんな風に泣くくらいだ。
だからこそ俺もハっとした。
「はぁ・・・・・・」
溜息と共に煙草の煙も空に舞い上がっていく。
それを見ながらどうにも出来ない感情を俺は持て余していた。
「はぁ?何で私が働かないといけないわけ?嫌よ」
「何だと?たまに帰ってきた時くらい手伝えっ」
「やーだ!私は休みに帰ってきたのよ?冗談じゃないわよ」
私は父の言葉にフンっとそっぽを向いた。
「じゃあ、お前が連れてきた客だけでも接客しろ!言葉が分からないんだから」
「それは・・・やるけど・・・・」
私は足を崩しテーブルの上にあるセンベエに手を伸ばしパクついた。
父は呆れたように息をつくと、
「しかし・・・あんな有名人なのに貸切にしなくて本当にいいのか?風呂なんかは一般の客と一緒になっちまうぞ?」
「それでいいって言うんだからいいんじゃない?それに客って言っても若い子なんていないじゃない。バレないわよ」
「まあ、そうだけどよ・・・。しっかし男前だなぁ?外国人って皆、あんなにカッコいいのか?」
父は感心したように首を振りつつ、アホな事を言っている。
私は溜息をついて父を見た。
「あのねぇ・・・・・・彼は俳優よ?カッコいいのは当たり前じゃない」
「そりゃそうだけど、彼だって俳優になる前は普通の男だったんだ。俳優だからカッコいいなんて事はないだろう」
「まぁ・・・そうだけど」
「それに俺は何てんだ?あのバディガードっての初めて見たぞ?ほんと体大きいな!ほら、あの映画でもあったじゃねぇか」
「お父さん・・・バディガードじゃないわよ。ボディガード!発音くらい何とかしてよ・・・」
「うるせぇなぁ!いいんだよ、俺は日本人なんだから!」
父は子供のようにスネてお茶をグビっと飲んでいる。
と言うか、何故、あなたはここで流暢に休んでるのよ?
仕事しないとお母さんにどやされるんだから・・・
そう思っていると案の定、母が怖い顔で茶の間にやってきた。
「ちょっと、あなた!何、呑気にお茶なんて飲んでるの?予約のお客様が次々に来てるってのに!」
「お、おぅ!今、行く!」
父は母にものすっごい弱い。
だいたい、お母さんだって美人女将で通ってるらしいけど怒ると本気で鬼のように怖い。
よく子供の頃、母に怒られた父が私に、
「お前の母さんはなぁ。この鬼怒川から生まれたんだ。だから怒ると角が見えるだろう?」
と今思えば本気でバカじゃないの?と思うような事を言い聞かせていた。
だけど子供の時はそれが本当の事だと思ってしまうもので、うちのお母さんは鬼怒川から生まれたから、
怒るとあんなに怖いんだ!なんてビビっていたものだ。
まあ黙っていれば確かに美人だし、自分では、
「若い頃は"立てば芍薬、座れば牡丹"って言われてたくらいなのよ?」
などと、ふざけた事を言っていたっけ。
それに反論して、「皆、お母さんが怖いの知らないからだ」と言えば、これこそヌケヌケと、
「何言ってるの。"美しい花には棘がある"って言うでしょ?美しい人ほど気は強いのよ?おほほ♪」
なーんて、ほんとうちの親ってバカじゃないかと思うような事を言っていた。
ほんと恥ずかしいから止めて欲しい。
まあ、そんな親から生まれてきた私も同じなのかもしれないけど・・・。
浮気されてそれでも行くとこがないからって、あの家に帰らないといけないんだから。
「あー。ほんと、どうしよう・・・」
その事を考えると憂鬱になる。
お茶を飲みつつ、おせんべぇを食べて考える事じゃないんだけど。
「おい、!食事は部屋に運んでいいのか?」
「え?ああ・・・うん、いいよ」
気づけば一度出て行った父が顔を出した。
多分レオ達は部屋で食べるだろう。
「何でも食べるのか?ステーキとかの方がいいとか」
「ん~そんな事ないよ?お寿司とか刺身は好きみたいだし和食でいいんじゃない?」
「そうか?まあ、でもメインで肉もあるからそれも出してやるか」
父は、そんな事を言いながら、また忙しそうに旅館の方に戻って行った。
我が家は旅館にくっついてるので行き来は楽なのだ。
「あーもう、こんな時間か・・・」
ふと時計を見れば夕方で、そろそろ旅館の台所も忙しくなる時間だ。
(レオ、散歩したいって言ってたなぁ・・・戻らないと・・・・)
私はお茶を飲み干すと、すぐにレオ達の部屋の方に戻って行った。
今日は平日だからか、お客の数もそれほど多くはない。
時折、家族連れが廊下で擦れ違うくらいで割合、静かな方だった。
「レオ、迎えに来たよ?」
軽くノックをしてから部屋へ入ればそこにジェームズの姿はなく人の気配がしない。
私は首を傾げつつ中へと入って行った。
(私が来るの遅いから先に出かけちゃったかなぁ・・・)
そう思いつつ少し薄暗くなった部屋を見渡した。
奥に続くドアが少しだけ開かれていてそこも覗いてみる。
すると窓の下辺りにレオが座布団を枕に寝転がっているのが見えた。
「なーんだ・・・・。待ちくたびれて寝ちゃったの?」
私はちょっと苦笑しながら静かに部屋に入ると、そっと膝をついてレオの横に座った。
「レオ・・・?」
そう声をかけてレオの顔を覗き込めば、彼の長くて奇麗な睫毛が見える。
薄っすらと口を開けて眠る姿は記者会見とかで見せていたレオの顔とは異なり、少し幼く見えた。
『ほーんと・・・ジェームズの言ってたとおり・・・歳相応に見えるね・・・』
レオの寝顔が可愛くて小さく日本語で呟いた。
そっと額にかかった髪を払い、黙ってレオの寝顔を見ているとちょっと不思議な感覚になる。
うちの旅館にハリウッドスタァ様が来るなんてね・・・
ほんと変なことばっかりだよ、最近・・・
そう思いながら額に乗せた手をゆっくり放した。
が、その時いきなり手首を掴まれグイっと引っ張られた私は突然の事で体がレオの上に倒れ込んでしまった。
「ちょ・・・レオっ?」
「ん~おはよぅ・・・」
「お、おはようって・・・放してよ・・・っ」
そう言ってる側からレオの腕が私の背中に伸びてギュっと抱きしめられる形になり、顔が熱くなった。
「ぁれ・・・もう夜・・・?」
レオは私の動揺をよそに目を擦りながら薄暗くなった部屋を見渡している。
「夜じゃなくて夕方!そ、それより腕を放してってばっ」
「んー・・・。やだ」
「キャッ」
レオは更に腕の力を強めるとギュっと抱きしめてきて、私は顔を彼の胸に押し付ける形になりドキっとした。
「や、やだじゃないでしょっ?」
「だってあったかいからさぁ・・・。もう少しこのままでいて・・・」
「も、もう少しって・・・」
見ればレオはまだ眠いのか、目を瞑り今にも寝てしまいそうだった。
「ちょっとレオ?散歩行くんでしょ?寝ないでよ・・・っ」
「ん~・・・分かっ・・・た・・・」
(ぜ、全然、分かってないじゃないっ)
レオは半分寝てしまったのか、反応が鈍くなってきた。
腕の力も弱くなってきて今なら逃げ出せると思ったが、気持ち良さそうに目を瞑っているレオの顔を見ていると、ふと心が温かくなる。
(ほんとにもう・・・レオってば人をドキドキさせるのが得意なんだから・・・)
レオに会ってから振り回されては怒ってばっかりだ。
でもそれは不快なものじゃなく、楽しいと感じる事が多かったんだけど。
それは互いにそんな風に思ってたからじゃないのかと思った。
先ほどジェームズにも言われた、"レオは君といると楽しそうだ"という言葉・・・
あれはきっと私も同じなんだ。
だから一緒にいて自然と笑顔になるし、楽しいと感じる。
コリーとは最近、そんな雰囲気じゃなかったからこそ、よく分かる気がした。
コリーといてケンカしたり怒ったりした時、本気でウンザリしてた。
それは彼の私への気持ちがなくなっていったからだと思う。
そしてそれは私も同じで、彼に対してきっとどこかで相手を思いやると言う簡単な事が出来ていなかったからだ。
もう・・・出会った頃のようには想えないのかもしれないな・・・。
とにかくロスに戻ったら一度、コリーと話し合った方がいいのかも・・・。
そう思いながら溜息をついてレオの胸に顔を埋めた。
たったそれだけで凄く安心感を覚え、私までつい眠くなってしまう。
その時、ドアの開く音が聞こえて隣の部屋にパっと電気がついた。
そこで一気に現実に戻りバっと起き上がると、その振動でレオも、「ん~」と顔を動かし目を開けた。
「ん・・・・・・?」
「お、起きて?そろそろ夕飯かも・・・」
「ほんと~?もう、そんな時間・・・?」
レオは目を擦りつつ、上半身だけ起こして大きな欠伸をしている。
その時、ガラっと襖を開けられ、隣の明かりが入って来て私は目を細めた。
「あれ?いたのか、二人とも」
「あ、ジェームズ・・・お帰りなさいっ」
顔を出したのは散歩から戻ったジェームズで私は慌てて立ち上がった。
するとジェームズが欠伸を連発しているレオと私を交互に見てニヤニヤしている。
「こんな薄暗い部屋で何をしてたのかな?」
「な・・・何もしてませんっ。レ、レオを呼びに来たらこの人ぐーすか寝ちゃってて・・・っ」
ジェームズの言葉に私は顔が赤くなり急いで否定すると、彼はクスクス笑い出した。
「まぁまぁ、そんな慌てなくても・・・。おい、レオ!起きたのか?」
「あ~ジェームズ・・・おはよ~」
レオは呑気に、そう言うと眠そうな顔のまま、ゆっくりと立ち上がり両腕を伸ばしている。
「ん~待ってたら寝ちゃったよ・・・」
「ああ、私が出かけると言いに来たらすでに寝てたぞ?」
ジェームズは苦笑いしながら部屋に戻ると窓際の座椅子に腰をかけ、煙草に火をつけた。
それを見ながらレオは、ふと私を見て、「あ、、ごめん。俺、また寝ちゃった?」と困ったような顔で頭をかいている。
私はさっきの事を思い出しパッと顔を反らすと、
「もう散歩する時間ないよ?そろそろ食事も運ばれてくるから・・・」
と言った。
「ああ、じゃあ、夕飯食べて温泉入った後に行こうよ」
「そ、そんな湯冷めしちゃうよ?」
「あーじゃ温泉入る前」
「いいけど・・・でも別に、この辺何もないよ?」
「いいんだ。その辺歩くだけで」
レオはそう言うとニッコリ微笑んで、また欠伸をしつつ冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを出している。
それを見つつ、私はさっき抱きしめられた感触がまだ残っている背中に気づき、軽く息をついた。
(ドキドキしてるのは、いつも私なんだから・・・)
ちょっと腹がたって、楽しそうにジェームズと話しているレオを睨んだのだった。
「レオ、浴衣似合うね」
「え?そう?」
皆で夕食も取り終り、約束通り、レオと旅館の周辺を散歩するのに二人で出てきた。
レオは浴衣を気に入り、今はそれを着ている。
外国人にしたら純和風のそれはレオによく似合っていて、私は思ったままを口にした。
「うん、何だか違和感ないくらいに似合ってるよ?」
「へぇーなら嬉しいかも」
レオはほんとに嬉しそうに微笑むと、隣を歩いている私の手をそっと繋いだ。
それだけでドキっとして体に力が入ってしまう。
その緊張が伝わったのか、レオが不意に私を見た。
「あ、嫌?こうするの・・・」
「え?べ、別に・・・」
「なら手繋いでていい?」
「う・・・うん・・・いい・・・けど・・・」
恥ずかしくてレオの方を見ないままそう言えば彼は返事の代わりにギュっと手を握って、そのままゆっくり歩き出す。
また全神経が手にいってしまいそうで、私は何とか平静を装うとした。
だがレオは繋いでいた手を動かし指を絡めるように繋ぎ直して、私は更にドキンっと鼓動が跳ね上がった。
か、固まっちゃった・・・と言うか・・・レオの様子がいつもと違う気がする。
どうしたんだろ・・・?
いつもなら明るくはしゃいでみせるレオも、今は何だか黙ったまま。
何か話してくれないとますます緊張してしまう。
チラっと横顔を見ればレオは少し寂しげな表情で夜空を見上げていた。
温泉街だと言うのに今夜は何だか人気も少なく辺りは静かで、空には星がいっぱい出ている。
そんな中、こんな風に恋人でもない男の人(しかも有名な俳優さん)と手を繋いで歩いてるなんて変な感じ。
ちょっとドキドキして、初めてデートをして男の子と手を繋いだ時の感覚に似てるなぁなんて思った。
ただ、やっぱりいつもと少し違うレオの雰囲気に違和感を覚え、私は思い切って声をかけようと口を開きかけた、
その時――
「あ、あのレオ――」
「もう大丈夫・・・?」
「え?」
沈黙に耐えられず、何か話そうとした時、突然、レオが私を見た。
「だ、大丈夫って・・・?」
「夕べのこと・・・」
「あ・・・ああ・・・。うん・・・まあ・・・」
いきなりそんな話をされて現実に戻された。
だがレオは心配そうな顔で、「ほんとに・・・?」と私の顔を覗き込んでくる。
そんなレオにドキドキして私は目を伏せた。
「大丈夫だってば・・・。そんな気にしないでよ」
そう言って笑顔を見せた。
でもこれは強がりでも何でもなくて・・・
ただレオに・・・同情とかして欲しくない・・・
浮気された可愛そうな女なんて思われたくないんだから。
そんな顔しないで―
「ちょっと前から上手くいってなかったの・・・。今回、日本に久し振りに帰国したのだって彼と大ゲンカしたからだし・・・」
そう、それも急に日本に帰るなんて言っても心配さえしてくれないで"お土産ねー♪"なんて呑気に言う男なのよ、あいつは。
「だから・・・心配なんてしてないの。いいんだ、もう・・・」
そう言って顔を上げると、レオの奇麗な瞳が真っ直ぐ私を見ていた。
「いいって・・・何がいいの・・・?」
「・・・え?」
「もう・・・彼とは別れるってこと?」
「・・・・・・・」
(な、何で、そんなに心配そうな顔するのよ・・・・そんなに可愛そうに見えるの――?)
「まだ・・・決めてないけど・・・。帰って話してみなくちゃ分からないわ?どうして?」
「・・・・・・・・・」
軽く息をついてそう言えば今度はレオが黙ってしまった。
しかもレオが突然、歩くのを止め、私は彼を見上げ首を傾げた。
「レオ・・・・・・?」
「もし・・・・・・」
「え?」
「が彼と別れる決心が日本にいる間についたら・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?」
何が言いたいのかサッパリ分からず、私はレオの顔をじっと見つめた。
するとレオは照れくさそうに視線を外し、とんでもない事を口にする。
「俺とさ、一緒に・・・・・・ロスに帰らない・・・?」
「・・・・・・は?」
(何を言ってるの?この人・・・)
「は?ってことないだろ?もっと他に返事の仕方あるんじゃない?」
「だ、だって―」
「俺の言ってること分からない?」
そう言ってレオは苦笑いを浮かべつつ、私の鼻先を指で突付いてきた。
だけど私は本当に彼の言ってる意味が分からなくて何も言えない。
するとレオは困ったように息をついて繋いだ手をギュっと握ると、少しだけ自分の方に私を引き寄せた。
「とこんな風に・・・ずっと一緒にいたいって言ってるんだけど・・・・・」
「―――――はぃ?」
クセとは怖いものだ。
自分の理解出来ない言葉が耳に入ると、つい聞き返してしまう。
しかも本当に色気も可愛げもない間抜けた声で――
そして二度目のそれにレオも今度は苦笑を洩らすというよりも、ちょっとだけスネた顔を見せた。
「もーまたそれ?もっと可愛い言い方とかないの?」
そう言って、さっきは突付いた鼻を今度はムギュっと摘んできて、そこでハっとした。
(い、今、私とずっと一緒にいたいって言った?こんな風に・・・って?)
それって・・・・・・どういう意味で?え?
レオが私を好き・・・とか・・・って、まさか、そんなはずないわよ!
だって彼はハリウッドスタァよ?有名人よ?しかも世界中で!(私は知らなかったけど)
そ、そんなスタァが私を好きなんてあるはずもないじゃないっ
きっとこんな風に友達としてロスに帰ってもたまには遊ぼうって意味よ、うん、そうそう!
「・・・・・・・?」
少し混乱したのか、一人であれこれ考えて一人で納得していたが、レオは訝しげな顔のまま私を見ている。
そう、スタァと友達ってだけでも自慢じゃない?
帰ったらコリーに沢山、自慢してやるんだから。
そして私から振ってやる!
こんないい男と何日も一緒に過ごしてたんだもの。
今さらコリーなんか見たって何も感じなくなってるはず!
うん、そうよ、きっとそうだわ!ぐっ(握り拳)
「えーと・・・・・・・?」
「――!」
その声にハっと我に返り、レオを見れば、彼は首を傾げたまま、
「何、百面相してんの?俺の言ったこと聞いてた?」
と、やっぱり少しスネた顔。
それには私も何とか笑顔を見せた。
「う、うん、聞いてたよ・・・?えっと・・・ロスに戻っても遊ぼうって事でしょ?」
「はぁ?!」
「む。何よ、自分だって、そんな言い方――」
「違うだろ?!」
「何が?!」
いきなりムキになって怒り出したレオに私もまたムキになって言い返す。
するとレオが私の手を強く握って自分の方に少しだけ引き寄せた。
「俺はの事が好きだから、ずっと一緒にいたいって、そう言ったんだよっ!」
「だから一緒に――!・・・って・・・・え・・・?」
い、今、何て・・・・?
す、好きって・・・・言った?
そ、それって・・・・私のこと――?
「今度はちゃんと分かってくれたみたいだね?すっごい、まともな反応」
「・・・・・・・・・・・・・・」
レオはそう言ってニヤっと笑うと握ったままの手を更に引き寄せ、私を自分の腕の中へと納めた。
でも私はまだ混乱してて何がどうなってるとかなんて全然、分からない。
何だかボーっとしちゃって何も考えられない。
ただ抱きしめてくれるレオの腕の強さと体温だけは伝わってきて、凄くドキドキしていた。
「返事・・・待ってるから。考えておいて・・・?」
「・・・・・・」
レオはそう言うとそっと私を放して、また手を繋いだ。
私を見つめる彼の瞳は優しくて月明かりに滲んで見える。
こんな暖かい瞳、私は他に知らない―――――
The seventh day...
久々の更新で申し訳ありません^^;
レオ、ほんとに電車で温泉行って車内で友達とトランプして、
温泉行く前、日光猿軍団に会いに行き、小猿を抱いて
ゴーカートを楽しんだのですよねーv
そして小猿を気に入って30分は抱っこしたままだったとか(笑)
そんなレオが可愛いーv
被っていた帽子をなげられたのも事実です(笑)
あーいいなーレオと温泉♪
日ごろの感謝を込めて…
C-MOON管理人HANAZO
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