Celebrity......Love only of ten days











「キャァ、冷たっ!」

「あははっ。、びしょ濡れ!しかもこれすっげー揺れてるし・・・!」



レオは子供のようにはしゃいでて、ソレを見ながら私は必死に船にしがみついた。



11月6日、日本に帰国して七日目。



今日は朝から鬼怒川のライン下り。
レオは嫌がる私を無理やり連れ出し、夕べの事なんてまるで夢だったのかなと思うくらい普段と変わらない。



"俺はの事が好きだから・・・ずっと一緒にいたい"



今、目の前で大口開けて笑ってるハリウッドスターが、こんな台詞を言ったなんて信じられなかった。


ほんとに・・・私のこと・・・好きなのかな・・・
ほんとに一緒にロスに帰りたいって思ってくれてるの・・・?


彼らの滞在予定は10日間。
私は15日間。
もしレオと一緒に帰るなら・・・私は飛行機の手続きとかしなくちゃいけないし親にも説明しなくちゃいけない。
でも断るなら・・・私はレオが日本から発つ時、見送らないといけない・・・・・。



タイムリミットは後、4日・・・














The seventh day... Dream...






「はーすっかり濡れちゃったなー」

レオはそう言って岩場に腰をかけ、貸してもらったタオルで髪を拭いている。
そして立ったままの私を見上げると笑顔で手を差し出してきた。

「な、何?」
「ここ、来いよ」

レオは強引に私の手を掴んできて隣に座らせた。
その瞬間、私の視界を塞ぐものが頭にバサっと被せられる。

「ちょ・・・いいよ・・・」
「いいから動かない。髪、結構濡れてるぞ? 寒いんだから風邪引いたらどうすんだよ」

レオはそう言いながら私の髪をタオルでゴシゴシ拭いてくれた。
そんな事をされるのさえちょっとドキっとしてしまう。

「これでOK」
「あ・・・ありがと・・・」
「お、珍しく今日は素直だな」
「な、何がよ。私はいつも素直ですっ」

レオから顔を背けてそう言えば彼はクスクス笑っている。
そして真っ青な空を見上げると思い切り息を吸い込んだ。

「はあー気持ちいい。ジェームズ達も来たら良かったのに」
「皆、どこ行ったの?」
「えっと・・・何だか日本の陶器とか買いたいって言ってたなぁ」
「そう。じゃあ買い物してるのね」
「ああ、もしかしたら気を利かせてくれたのかも」
「・・・え?」
「ほら、俺がと二人でいれるようにってさ」
「な・・・何言ってんの・・・・?」

太陽の光が川に反射してレオの奇麗な髪がキラキラ光っている。
その光りの中で優しく微笑むレオにそんな事を言われて胸の奥がドクンっと跳ね上がった気がした。
だがチラっとレオを見れば少しだけ目を伏せ、口元が尖っている。

「・・・レオ・・・どうしたの?」
「いや・・・はほんと分かってないなぁーって思ってさ」
「何がよ?」
「俺が夕べ言ったこと・・・ちゃんと本気で考えてる?」
「そ、それは・・・・」

夕べの事を切り出され、一気に顔の熱が上がっていく。
何も考えてないわけじゃなかったが、夕べの今日では何て答えていいのか分からない。

「俺は残り4日で帰るけど・・・こことは今日一日でさよならだしさ・・・」
「う、うん・・・」
は・・・残るんだろ・・・?」
「え・・・?」
「その為に日本に帰ってきたんだよな?」
「そ、そうだね・・・」
「じゃあ・・・もう東京には・・・来ないってこと?」
「それは・・・」
「俺は・・・明日、また一緒に東京に来て欲しいって・・・そう思ってるんだけどさ・・・」
「・・・え・・・?」

レオはそう言って真剣な瞳で私を見つめている。
その奇麗な瞳に吸い込まれそうでつい頷いてしまいそうだ。

「えっと・・・・・・」
「まあ・・・実家で一人で考えたいって言うなら・・・仕方ないけど」

レオはそう言っているが彼の表情はどことなく不貞腐れているといった顔。
それには私もつい笑顔になった。

「一緒に・・・行ってもいいなら行く・・・」
「えっ?ほんと?」
「う、うん・・・・・・」
「それって一緒にロスにも帰るってこと?」
「え?」
「え?」

「「・・・・・・・・」」


ここで少し勘違いしたレオが思い切り溜息をついた。

「なぁーんだ。の言ってるのは東京に、ってことか」
「そ、そうよ!だって――」
「んーでも、それでも嬉しいよ。明日バイバイじゃ寂しいしさ」
「レオ・・・・」

レオはそう言って照れくさそうに微笑むと、突然立ち上がって私の手を引っ張った。

「俺達も買い物に行こう」
「え・・・?」
「俺、お土産とか買いたいんだ。、案内してくれる?」
「い、いいけど・・・・」
「じゃあ、決まり。ほら行こう?」

レオは私の手を繋いだまま足場の悪い岩場を歩いて行く。
そして待っててくれているライン下りのスタッフの運転する車へと戻って行った。
そこから鬼怒川の町まで10分ほどで到着すると、レオは古い街並みを楽しそうに眺めながらお土産店を覗いていく。
その間も繋がれた手は離されることはなかった。






「お、これ可愛い」
「・・・え、これ?」
「うん。これ買おうー」
「ちょ、ちょっとレオ・・・それカスタネットだよ・・・? しかも蛙の・・・」
「うん。いいんだ。可愛いし」
「ふーん・・・」

(変わってるものが好きなのね、ハリウッドのスターは・・・)

そんな事を思いつつ、嬉しそうに他のお土産を見てまわるレオを見ていた。
時々、店の人や観光客らしい人達はレオの事を見て驚いた顔をするが、
サインをねだってくる人はなく、比較的、静かに観光する事が出来た。


お土産も買い終わり二人で鬼怒川の街並みを見ながらブラブラ歩いていると、何となく前から二人でいたような錯覚を起こす。
たった一週間、一緒にいただけなのに何故かレオといる事が自然に思えてきてるのだ。
でもそれが恋愛感情というのかどうか・・・旅先で知り合って、しかも相手がハリウッドスターだから浮かれてるだけのような気もする。
このまま彼と一緒にロスに帰ってその先の事を考えれば・・・どうしても現実味がない感じさえしている。
それに・・・コリーとまだ何も話したわけじゃない。
浮気してるって事や、今の二人の関係が冷め切ってるというのは分かっているけど、
でもこのままうやむやにしていいとは思えなかった。





「え?」

ボーっとしてるとレオが不意に立ち止まり私の顔を覗き込んできた。

はどんな学校に行ってたの?」
「え・・・学校・・・?」
「うん。家から近い?」
「あーここから真っ直ぐ行って右にあるわ。中学校だけど・・・」
「へぇ、行ってみたいな」
「えっ?」
「日本の学校ってどんな感じなのか見たいしさ。今から行ってみない?」

レオは何だか子供のようにワクワクした顔でそう言ってきて私はちょっと迷ったが、まあ今の時間なら授業中だろうと軽く頷いた。
そのまま道を歩いて行き、角を曲るとすぐに見えて来る校舎。

(少しだけ坂になってる、この道を毎日、毎日通ったっけ・・・)

レオは校舎を見て、「あ、あれ? 何だかアメリカの学校と雰囲気違うなぁー」なんて言って坂を登っていく。
何だか楽しそうにしている彼に私は思わず笑顔になった。




「わぁ・・・懐かしい!」
「懐かしいって・・・まだ5年くらいしか経ってないだろ?」
「でも・・・何だかもっと前のような気がするんだもん。先生とかまだいるかなぁ」
「中には入れないの?」
「え? ダ、ダメよ・・・。レオが一緒に行ったらパニックになっちゃう」

私はそう言って学校の中には入らず、学校の裏にある細い小道を歩いて行く。

「どこ行くの?」
「この先によく学校抜け出して行った高台があるの。その上から校舎を見下ろして友達と皆でお弁当食べたなぁと思って」
「へぇー学校抜け出すなんて悪い生徒だったんだ」
「そ、そんな事はないけど!授業サボったわけじゃないし田舎だから町に出ればすぐ補導されちゃうのよ」
「そうなの?」
「そう。田舎は近所中が顔見知りだから制服姿でウロウロしてたら"ちゃん何してるの?"なんて皆に言われちゃうもの」
「そう言うのも何だかいいね。都会だと皆、知らんぷりだしさ」
「私はその方が気楽で良かったけどなぁ」

なんて言ってる間に小さな林が見えて来て少し上がっていくと懐かしい風景が昔のままそこにあった。

「へぇー凄い見晴らしがいいな」
「でしょ? ほら、ここからだと校舎がまる見えなの」

そう言って前に皆でお弁当を食べていた場所に歩いて行く。
そこは学校の裏に当たる場所で辺りは草が広がっていて、あの頃とちっとも変わっていない。

「ここによくハンカチ敷いて寝転がってたなぁ・・・」
「あー少し斜面になってていい感じかも」

レオはそう言ってすぐにその場に寝転がった。
私も隣に行くと、そのまま寝転がり青空を見上げる。

「あー気持ちいい・・・」
「そうでしょ? お弁当食べた後、いつも眠くなってたわ」

あの頃の日々を思い出しながら私はちょっとだけ笑みを洩らした。

あの頃は・・・将来の事とか漠然としか考えてなくて一日一日を必死に生きてた気がする。
小さなことで悩んだり、好きな人が出来ただけで毎日がその人の事で一杯になる・・・色んな事に一喜一憂してたっけ。
でも少しづつ大人になっていくたび、変に諦めやすい性格になっていった。
何か腹が立つことがあっても"どうせ言っても無駄"と心に留めたりして変に我慢するようになったし、
昔のように喜怒哀楽すら出せなくなってた気がする。


「レオはどんな生徒だった?」
「え? 俺?」

ふと気になり彼の方に顔を向けて尋ねてみると、レオは空を見上げたまま苦笑を洩らした。

「俺はずっと俳優になりたかったから・・・まあ勉強はそっちのけだったかな」
「そうなんだ。いつから仕事してたの?」
「ん~。子供の頃にも出たことあったけど・・・まあ高校入るくらいには、チョコチョコとね」
「へぇ・・・凄い・・・。私、高校なんてバイトするくらいが精一杯だったけど・・・」

私がそう言うとレオは楽しげに笑い出した。

・・・レオが凄くシッカリしてるように思うのは、そんなに若い頃から大人達と仕事をしていたからなんだって分かった気がする。

は・・・大学、楽しい?」
「え? ああ・・・まあ・・・ね。凄く厳しいけど」
「そう?」
「うん。日本の大学とは異なるんだって感じ。日本の大学は入るまでが大変だけど入った後はそれなりに息抜き出来るし・・・
遊びも色々あるから。サークルとか・・・」
「何、どんなことするわけ?」

レオが興味ありげに顔を上げて聞いてきた。
私は友達から聞いた事を思い出しながら、

「まあ、いわゆる男女のお見合いパーティみたいな活動が多いんだって」

と笑って言った。
するとレオは口笛を吹いて起き上がると、「へぇ。日本の大学も楽しそうだな?」なんて言っている。

「あのねぇ・・・。まあ・・・レオがもし日本の大学に通ってれば何だか想像つく気がするけど・・・」
「え? 何で?」
「毎日、合コンしてそうだし・・・」
「何? それ」
「だから集団でお見合いみたいな・・・パーティよ、パーティ!」
「何だよ、それ。俺、そんな軽く見えるわけ?」
「見えないと思ってるわけ?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

起き上がってレオの顔を覗き込めば、何となくスネたように私を見ている。

「ったく・・・ほんと口悪いよなぁ・・・」
「すみませんね!こういう性格なの」
「そんな俺、信用ないんだ」
「ないない」

笑いながらそう言うと、レオは軽く溜息なんてついている。
それを見てちょっとドキっとした。

ほんと可愛げないなぁ・・・って自分でも思う。
よくコリーにも言われたし前よりも素直じゃなくなった気がする。
そんな事を考えているとレオが不意に立ち上がり、私も慌てて立ち上がった。

「どうしたの? 怒っちゃった・・・?」

少し心配になりそぉっとレオの顔を覗き込むと、彼は急に私の方を見た。

「言っとくけど・・・のことは真剣だからさ」
「え・・・?」
が俺のことどう思ってるのか知らないけど・・・それは本気だから。覚えといて」
「レオ・・・」

その言葉通り、レオの真剣な顔に私はドキっとしてしまった。

「あ、あの・・・ジョークよ? 本気でレオのこと別に信用出来ないとか思ってないし・・・」
「・・・・・・知ってるよ?」
「――はぃ?

彼の言葉に驚いて顔を上げれば、レオはニヤニヤしながら、

は素直じゃないからね。言ってる事の裏を読んでるんだ、俺」
「はぁー?! 何よ、それ!」

またからかわれたんだと言う事に気づき私は顔が赤くなったが、レオは楽しげに笑いながら歩いて行ってしまう。
私は急いでその後から追いかけて行った。

「レオ、最低!」
「はいはい。それも裏返しの気持ちだろ?」
「違う!大嫌いよっ」
「あー大好きなんだ、俺のこと。知らなかったなあ~」
「だから違うーー!!」
「はいはい。そろそろ素直になれば?」
「むっ。自意識過剰男!」

必死にレオの後をついて行きながらムキになって言い返してみても、彼はただ楽しそうに笑うだけ。

でもこんな他愛もない会話をしている時が、私にとっても凄く楽しい時間に思えた。

















「はぁ~気持ちいいよなぁ・・・・」

温泉に浸かりながら俺は夜空に浮かんだ月を見上げた。
隣ではジェームズも気持ち良さそうに温泉に浸かりつつ、知らないおじさんと雑談をしている。
彼もこんなにノンビリしたのは久し振りだからか、いつもよりも表情が柔らかい気がした。

「レオ、今日はとどこに行ってたんだ?」
「んー今日はライン下りの後にお土産買いに行ったり、彼女の通ってた学校見に行ったり?」
「ほぉ・・・何だか楽しそうだな」
「あーうん。楽しかったよ?」

顔にお湯をかけながら、ふと昼間のとの時間を思い出す。
何だか彼女の過ごしてきた時間の中に少しだけ入れた気がして本当に楽しかった。

「それで・・・どうするんだ?」
「え?」

昼間の事を思い返していると不意にそう聞かれて、俺は顔を上げた。

「どうするって・・・」
の事だよ。好きなんだろう?」
「え・・・っ?」
「あはは!そんな驚くことじゃないだろう。見てれば分かるよ」

ジェームズはそう言いながら、ちょっとだけ肩を竦めている。
するとさっきまで話していたおじさんが、「お先に」と声をかけてきてジェームズは軽く手を上げ挨拶をした。

「はぁ・・・やはり日本はいいね・・・。まだ、こういう場所が残ってる・・・」
「あ、ああ・・・まあ」
「で・・・さっきの話だが・・・には伝えたのか? 自分の気持ちを」
「・・・・・・」

はっきり聞かれると少し照れたが、まあ事実なので軽く頷いた。

「ロスに戻ってからも会いたいとは言った。でもには同棲してる恋人がいるし・・・」
「何だ、振られたのか?」
「ふ、振られてはいないよ・・・。まだ返事は保留中」

そう言って溜息をつくとジェームズは楽しげに笑いだした。

「何だ、珍しいな。レオが女性に待たされるなんて」
「笑い事じゃないよ・・・ったく人ごとだと思って・・・」
「まあまあ・・・とにかく頑張れ。私は二人、お似合いだと思うよ」
「あ、やっぱり?」
「何だ? 自信ありそうだな?」

ジェームズは俺の頭を軽く小突きながら笑っている。
だけど俺は大げさに息をついて肩を竦めた。

「自信なんてないよ。みたいな子初めてだし、それも恋人いる子なんて好きになった事ないしさ」
「そうか。まあ、でも・・・上手くいってないんだろう? 恋人とは・・・」
「そうみたいだね。浮気してたらしいし・・・」
「何・・・? 何だ、その男は。じゃあ大丈夫だよ。は賢い子だ。そんな男より―」
「でもまだ好きなら・・・分からないよ」

俺がそう言うとジェームズは少しだけ眉間に皺を寄せ黙ってしまった。
それからは二人で静かに湯に浸かり、今日で終ってしまうこの時間を惜しむように月を見上げる。

「明日、東京に戻るが・・・彼女はどうするんだ?」
「ああ、それは・・・。一緒に来てくれるみたいなんだ」
「そうか。なら良かった。まだ希望がある」

ジェームズはそう言うといつもの優しい顔でニッコリと微笑んだ。






風呂から上がり、部屋に向う途中で、俺はジェームズと別れ、少し庭園を散歩しようと外へ出た。
軽く吹いて来る風が気持ち良くてそのまま池のある方へと歩いて行くと、旅館の縁側に人がいるのに気づきドキっとして足を止める。
少し近づいて見ればそれは浴衣姿のだった。
彼女もお風呂上りなのか長い髪を上にあげていて、縁側に座りさっきの俺と同じように夜空を見上げている。
そして気配に気づいたのか、ふと顔をこっちに向けた。

「あれ・・・レオ?」
「何してんの?」
「んー寝る前に涼みに。レオは?」
「俺も」

そう言って彼女の隣に座ると、は後ろに置いてあったビールとコップを持って俺に渡した。

「じゃ一杯、付き合ってよ」
「うわ、何、一人で飲もうとしてたわけ?」
「いいじゃない。お風呂上りにはビールって決まってんの!」
「ふーん。まあいいや。喉渇いてたし」

ちょっと笑いながらそう言うとはビールを注いでくれた。

「じゃあ乾杯」
「乾杯」

チン・・・っと軽くグラスを合わせ、冷たいビールを飲むと火照った体に染入って確かに美味しい。
も一口、飲むと、「あー美味しい!」なんて、おっさんのような事を言っていてちょっと笑ってしまった。

「何笑ってんの・・・?」
「いや・・・元気だなぁと思って」
「え?」
「こんな場所に一人でボーっとしてるからさ。恋人の事でも考えてるのかなって思ったんだけど」
「わ、悪かったわね、ボーっとしてて!別に何も考えてなかったわよ」

は少し口を尖らせてグラスを口に運びながら俺の事を睨んでくる。
そんな子供のようにコロコロと表情を変えられる彼女が可愛いなと思った。

、明日、どこ行きたい?」
「え?」
「帰国までまだオフなんだ。どっかでパァっと遊ぼうかと思ってるんだけど付き合ってよ」
「い、いいけど・・・。でもどこで?」
「んー。まあ・・・考えておくよ。楽しみにしてて」

そう言って煙草に火をつけると、は何だか豚の形をした変な入れ物を差し出した。

「何・・・これ・・・」
「あ、これほんとは灰皿じゃないんだけど、最近、灰皿にしてるみたいだから・・・」
「ってか、これほんとは何に使うわけ?」

俺は初めて見る"ソレ"に思い切り眉間に皺を寄せた。
するとはクスクス笑いながら、

「蚊取り線香だよ?」
「蚊取り線香・・・?」
「そう。ほんとは夏に使うものなんだけど、これ可愛いからって普段も使ってるみたい。お父さんが」(!)
「へぇ・・・ああ、灰皿に?」
「そう。だから使っていいよ?」
「・・・・・・・・・」

日本には変わったものが沢山あるな・・・なんて、この時少し思った。
何となく灰皿として使うのが豚さんに悪い気がしてくるから不思議だ。
でも・・・この旅館の雰囲気とか、目の前の庭とか、そして隣にいる浴衣を着たとか・・・
そういうものがとても日本らしくて凄く気に入った。

「日本っていいよな・・・。俺、すっごい気に入ったかも」
「そう? 私はアメリカの方が好きだけど」
「何で? その浴衣とかも凄く似合ってるし・・・やっぱも日本女性なんだなって思うけど」
「こ、これは・・・旅館の借りてるだけだし・・・」

彼女はそう言って少し照れくさそうに顔を反らした。
その表情も、湯上りで少し赤く染まった頬も凄く色っぽくてちょっとドキっとしてしまう。

(ほんとなら・・・ここで肩とか抱いてキスしたいところだけど・・・)

「ちょ・・・何?」
「んーが色っぽいから、ちょっとムラっとしたかも」
「は?!」

自分の心に素直にしたがって肩を少しだけ抱き寄せれば、すぐにが怖い顔で睨んでくる。

「ちょっと離してよ・・・っ」
「いいじゃん、肩くらい。何もしないって」

動揺する彼女が可愛くて俺はちょっと笑いながらそう言うと少しだけ肩を抱く力を強くした。
そしてそのまま彼女の頭を自分の肩へと乗せれば、も諦めたのか少しは大人しくなる。
互いの体温で少し肌寒くなってきた体も温まる気がした。

「今日・・・凄く楽しかったよ・・・。の故郷が少し見れた気がして」
「そう・・・?」
「うん。ああ、もしがロスでも会ってくれるって言うなら今度俺が育ったところ案内するからさ」
「・・・う、うん・・・」
「とりあえずは―」
「え?」

そこで言葉を切るとは少しだけ顔を上げて俺の事を見上げてきた。
そんな彼女の額にチュっとキスをする。

「な・・・っ何して―」

「明日のデート、楽しみにしてて」

「・・・・・・?」

俺がそう言ってニッコリ微笑むと彼女の頬がまた赤く染まった。

















「ったくぅ!何て奴!」

プリプリしながら自分の部屋に戻り、バンッとドアを閉める。
そしてサッサと寝ようとベッドに座り、目覚ましをセットするとすでに用意してあるトランクを見た。

昼間、いったん戻った時に両親には明日、また東京に行くと話してある。
父は、「せっかく戻ったのにもう行くのか?」 なんて渋い顔をしていたが、レオが一緒だと分かると途端に笑顔になった。

「そうか!じゃあ、このチャンスを逃がさず、ガッチリとハリウッドスタァさんを捕まえて玉の輿に乗れぃ!」

なんてアホな事を言い出しギョっとさせられたのだけど・・・(ほんとミーハーなんだから!)

一応、「もしかしたら三日後くらいに戻ってくるかも・・・」とは言っておいた。

そう・・・レオと一緒にロスに帰ると決めたなら・・・戻ってくるつもりはないけど、そうじゃない時は家に戻ることになる。
それに・・・まだコリーと話さえしていないのだ。
そう簡単に決められるわけもない。

「あ、そうだ・・・」

寝る前に携帯をチェックしようとバッグから取り出し、確認して見た。
すると"着信アリ"になっていてドキっとする。

「嘘・・・」

ディスプレイを見て私は思わず、そんな事を呟いた。
そこにはコリーの名前が出ていたからだ。

(さ、さっきかけてくれたの・・・?)

ちょっと驚いて、つい携帯をマジマジと見てしまう。
そして、すぐにかけ直そうとボタンを押した。
だが―









「何で話中なのよ・・・!」







プープープーという空しい音に私は携帯をベッドに放り投げた。

ったく!かけ直してくるかも・・・とか思わないの? あいつは!
そうよ・・・タイミングが合わないとは、こう言うことなんだわ!
やっとかけてきたと思ったのにっ


「もう寝てやる!」


何だか無性にムカついて私はベッドに潜り込んだ。
だが目を瞑るとコリーのバカ面が浮かんで、イライラして眠れない。

あーもう!すっかり忘れてた顔なのに何でこういう時はハッキリ浮かんでくるわけ?
ほんとムカつくんだから・・・っ
だいたい私の周りにいる男って私を怒らせる人しかいないわけ?

ゴロリと寝返りを打って、さっきレオにキスをされた額に触れてみる。
けど彼の笑顔を思い出し別に本気では怒っていない自分に気づいた。

(あんなに楽しそうにしてるレオを久々に見たってジェームズが言ってたっけ・・・)



"今日・・・凄く楽しかったよ・・・。の故郷が少し見れた気がして"



ふと先ほどのレオの言葉を思い出す。
そう言ってくれた時、ちょっと嬉しかった。
こんな田舎町でもやっぱり私にとっての故郷なんだなぁって思った。
レオの育った場所も・・・見てみたい気がする。

そう思いながら目を瞑ると、さっきのイライラが消えて睡魔が襲ってきた。
朝からレオと色々動き回ったから疲れていたのだろう。


それから数分後、私は深い眠りの中にいた。


だが更に深い眠りに着いた頃・・・





夢の中にコリーとレオが出てきて、二人に「どっちを取るんだ」なんて詰め寄られ、魘されるハメになった・・・




















The eighth day...


久々の更新で申し訳御座いませ・・・っ!!(土下座っ)
この回は何気に難しかった・・・(苦笑)
何度も書き直しては途中でやめたりしてました^^;
レオはライン下りをして、ほんとに蛙のカスタネットをお土産に買ったそうです(笑)


日ごろの感謝を込めて…


C-MOON管理人HANAZO