From me Dear you....Catch me if you canSequel...~



ACT.2...夫と妻と愛犬と…                         






俺は愛車で通いなれた道を走っていた。
今日は天気も良くて気持ちがいい。
隣の助手席には愛しい妻と後ろには変質者かと思うような息遣いをしながら顔を出してくるジャックを乗せている。
このままドライヴと行きたいところだが、あいにく目的地に到着してしまったようだ。


「ありがとう、レオ」
「いいよ、そんなの」


俺はそう言っての方に体を寄せると素早くキスをした。


「ん…レ、レオ…。人が見てるよ…っ」
「いいよ、見せておけば。俺はとキスしたい」


優しく微笑んでそう言えばはすぐに真っ赤になってしまう。
これは結婚する前も後も変わらないようだ。
ちょっと俯き加減のの顎をそっと持ち上げ、再び唇を重ねるとかすかに体を震わせた。
それすら愛しいからなかなか唇を離してやれなかったりする。



ベロン…




「うあ…っ」
「ハッ八ッ八ッ…」


突然耳の中を舐められ、俺は全身鳥肌になった。
慌ててから離れ、ぬぅっとシートの間から顔を出してベロを出してるジャックを睨む。


「お前なあ…。耳はやめろよ、耳はっ」
「八ッハッハッハ……ワンワン!」
「ほんと解ってるのか?お前…」
「ジャックは良い子だもん。解ってるよね~?」


はクスクス笑いながらジャックの頭を撫でてあげている。


はぁ…はジャックに甘いからなぁ…
こいつに毎晩、邪魔されてる俺はどうも納得がいかない。


「あ、いけない。時間だわ?」
「ああ。頑張ってね?夕方、また迎えに来るから。あまり無理するなよ?」
「うん。ありがと。気をつける」


は可愛く微笑むと俺の手をギュっと握った。
そしてそのままドアを開けて降りようとした時、俺は咄嗟にの手を掴んで自分の方に引き寄せる。


「キャ…っ」
「アハハハ。不意打ち」


俺はそう言って腕の中に納まった愛しい妻の唇にチュっと口付け、最後にペロっと舐めるのを忘れない。


「レ、レオ…っ、もぉ…っ」
「そんな可愛く口を尖らせないの!またキスしちゃうよ?」


俺が苦笑しながらの手を離すと彼女は慌てて口を押えつつ、俺を睨んだ。


「そんな事ばかり言って…」
「だって愛してるから」
「…………っっ」


俺がサラリと言えばは顔を赤くして黙ってしまった。


「あ~あ!相変わらずのラブラブっぷりねぇ~?」


突然、声が聞こえては慌てて振り向いている。


「あ!キャシー!」
「Hi!。ここでは久し振りね?」


車の方に歩いて来たのはキャシーだった。


「全く、ドア全開でキスして、しかも、朝から愛の告白?ぜーんぶ丸聞こえよ?」


キャシーは呆れたように笑いながら肩を竦めている。


「キャ、キャシー…。もう…からかわないで…」
「はいはい!レオの愛妻家ぶりは色々な雑誌でも読ませてもらってるわよ」


キャシーはそう言って肩にかけていた大きなバッグから雑誌をチラっと見せて笑った。


「ああ、それ?先週インタビュー受けたんだ」


そう言ってニッコリ微笑むとキャシーは苦笑した。


「新婚早々だから凄いわよ、ほんと」
「そ、そうなの?」


は少し不安げに俺を見上げた。


「ま…新婚生活はどうですか?って聞いてくるからそのまま答えただけだよ?」


俺はに優しく微笑んで頬にキスをした。
すると…


「ワンワン!」
「あーー!可愛い!これが噂のジャックね?」


ずっと無視されて寂しかったのかジャックが後部座席でウロウロしながら吠え出した。
は車を降りて後ろのドアを開けてあげるとジャックがすぐに飛び出してくる。


「ひゃ~真っ黒で可愛い!こいつ、まだ子供?」


自分に飛びついてくるジャックにキャシーも笑顔を見せて頭を撫でている。


「そうね。まだ3ヶ月半くらいかな?」
「うそ?それでこんな大きいの?中型犬くらいはあるんじゃない?」


キャシーはジャックを見ながら驚いた。


「こいつ一週間ごとにでかくなってってさぁ~。これがまた重くて…」


俺も車を降りて屋根に腕を置くとジャックを指さした。


「そうよねぇ?この子ラブでしょ?すぐ大きくなるわね。実家でも茶色い子だけど飼ってるから解るわ?
でもウチの子より、この子の方が数倍大きくなるの早い気がする…」


キャシーはジャックのベロ攻撃を巧みに交わしながら首周りを撫でてあげている。
俺はその交わし方を見ながら参考にしよう…と思っていた(!)


「じゃ、レオ。行って来るね?」
「あ、
「ん?」


キャシーと歩いて行こうとするを呼び止め、俺は彼女の前まで歩いて行くと両手でさっと頬を引き寄せて素早くキスをした。


「………っっ」


目を見開いて固まっているを薄目を開けて見つつ、チュ…っと音を立て離すとすぐに真っ赤になってしまう。


「"行って来ますのキス"も必ずすること!」
「…レ、レオ…!」


はアタフタしながら俺から離れると隣で見ていたキャシーがピュ~と口笛を吹いて笑った。


「ワォ。目の前で見せ付けられちゃった。でもレオのキスシーンを生でお目にかかれるのも妻の友人の特権かしらねぇ~」
「ちょ…キャシーまで!いい加減にして!行って来ます!」


はそう言うとプリプリしながら病院の入り口まで歩いて行ってしまった。
俺は苦笑しながら、「帰り、迎えに来るから!」と叫ぶと、はピタっと足を止めて恥ずかしそうに振り返る。
そして小さく頷くと、またパタパタと走って行った。
その姿も可愛いな~と見てるとジャックがの後を追いかけようとキャシーの手を離れ走って行きかけたのを慌てて呼び止める。


「ジャック!ダメだ!お前はこっち」


そう言って助手席のドアを開けて手でどうぞ?という仕草を見せると首だけ向けて悲しそうな顔でクゥン…と鳴いた。


「ダーメ!」


ビシっとそう言えば元気よく立っていた尻尾までがシュンっと下に下がりジャックはトボトボとこっちに歩いて来た。
それを見てキャシーもクスクス笑っている。


「やだ、ちゃんと戻って来たわ?偉い子ね~っ」
「こいつ、ドジだけど頭はいいみたいでさ?ま、どこまで解ってやってるのか時々こっちが首をかしげることも多いけどね」


俺は肩を竦めてキャシーを見ると彼女はニッコリと微笑んだ。


「レオって、ほんと素敵よね~?あ~あ~。同じ病院で働いてたのに何でを選ぶかな~」
「アハハ…っ。そりゃぁ…運命だったんじゃない?俺の治療をしたのがだったってのがさ?」
「うわっ。ヌケヌケと!やってられないわ?」
「皆、そう言うよ?」
「もうっ。これじゃあ浮気もしてくれないか…」
「浮気なんて無理だな。俺、以外の女性は目に入らないし。それより仕事に行った方がいいんじゃない?あと一分切ったよ?」


俺が時計を指さしてそう言えばキャシーもギョっとした顔で腕時計を確認している。


「いけない!また遅刻!あ~主任にどやされるーー。じゃ、またね?レオ!」
「ああ、仕事、頑張って!」
「ありがと!」


キャシーは笑顔で手を振ってバタバタと走って行ってしまった。


「さて…と。ちょっとドライブしてから帰るか?ジャック」
「ワン!」
「じゃ、乗って」
「ワゥ!」


目の前でお座りしていたジャックに助手席を指差しそう言えばジャックはポンっと中へ飛び乗った。
そのままドアを閉めて運転席へ回りすぐに乗り込む。
エンジンをかけながらふと病院の方に目をやった。


何だか…少し懐かしいとさえ思う。
まだ、そんなに月日も経っていないと言うのに…


俺は母親と子供が病院の方へ歩いて行く流れを見ながらふと笑顔になった。
エンジンをかけたもののハンドルに手を置いたまま、そっとシートに凭れかかる。


よくこの時間にここへ来たっけ。
あと一時間もすればあの庭には沢山の子供たちが散歩に出て来るだろう。
とマークも、そうだった。
いつも二人でギャーギャー言いながらバスケをやったりキャッチボールをやったりしてて楽しそうだったな…


俺の脳裏に懐かしいその頃のの笑顔が浮かんで思わず笑みが零れる。


は今日から仕事に復帰した。
俺の方は、まだオフが充分に残っているのにだけ仕事に行くのは納得できなかったが、
人が足りないみたいなの…と頼まれてダメとは言えなかった。


「あ~あ~…。せっかく新婚生活を満喫しようと思ってたのに…。
トビーに邪魔され、ジョーやジョニーにまで邪魔され…ついでにお前にまで邪魔され…最悪…」


俺はそう呟きながら隣で、「へッへッへ…」 と舌を出して窓の外を呑気に眺めているジャックを横目で見た。


「はぁ…じゃ行きますか…」


俺は軽く息をつくと思い切りアクセルを踏み込み車を発車させた。
その勢いでジャックがふらつきコロンと座席の下に落ちた事はには内緒にしておこう…


"また思い切り急発進させたんでしょ!"


なんて怒られかねない…


「悪いな?ジャック」


助手席の足元に転がり大股開きのまま"何が起きたの?僕に"という顔でキョトンとしてるジャックを見つつプっと噴出した。














「では最後にに今日から復帰してもらいます。、挨拶して?」
「はい」


私は主任に呼ばれ他のナース達の前に立った。


「色々とご迷惑をおかけして、すみませんでした。今日からまた一緒に働かせて頂きますので宜しくお願いします」



そう言い終えると皆から突然大きな拍手が沸いて私は驚いた。


「お帰り!ディカプリオ夫人!」
「キャ~!羨ましいんだから!」
「いいわよねぇ~!帰ったら、あのレオ様がいるのよぉ~?きゃ~夢みたい!」
「ねね、彼ってやっぱり家でも、あんなに素敵なの?クール?」
「バカね~!あの記事とか読んでも情熱的って感じだったじゃない!きっと彼って物凄くロマンティストでスィートよ!
ね、何て呼ばれてるの?やっぱハニーなんて呼ばれてるの?!」
「あ、あの…」


私は皆に囲まれ冷やかされた。
だが主任が怖い顔で手を叩く。


「ほら!騒いでないで仕事に行きなさい?」
「「「「は~い!」」」」


そこは、きちんと返事をして皆それぞれに散らばっていく。
中には、


「今度、新居に招待してよ!旦那様に会いたいわ~!」


なんて言いながら私の背中をバンと叩いていく子までいる。
それを見ていたキャシーが苦笑しながら私の方へ歩いて来た。


「まったく~!皆ったら騒ぎすぎよねぇ?」


私は澄ました顔でそんな事を言うキャシーに思わず吹き出した。


「キャシーだって初めてレオがこの病院に来た日はあんな感じだったわよ?」
「そうだっけ?でもそうなるわよね、やっぱ。今朝だって素敵すぎて眩暈しちゃったもの!
なあに?あのカッコ良さは!サングラスに白いシャツなんて似合いすぎよ?!」
「ちょ…ちょっとキャシー…声が大きいわ…?」
「あ…ごめん」


私が慌てて制服を引っ張るとキャシーはペロっと舌を出した。
二人で病室を回るのに廊下を歩いて行く。


「は~いいなぁ、は!」
「え?」
「あんな素敵過ぎる人と結婚できて」
「……そ、それは…」
「もう悔しいから今朝もレオに、浮気もしてくれなさそうね?って言ったら"俺は以外の女性は目に入らない"ですって!
もうガックリきちゃったわ?」
「キャシー、そんなこと言って…っ」


私はギョっとしてキャシーを見た。
するとキャシーは肩を竦めて笑っている。


「まあまあ。夢見るくらいいいじゃない。ね?お堅いことは言いっこなし!
それに私がどれだけ色気で迫ってもきっとレオは振り向いてもくれないわ~。あ~あ~」


そんな事をブツブツ言いながら歩いて行くキャシーを見て私も怒るに怒れず噴出してしまった。


「あら、何よ?奥様の余裕って奴?」
「そ、そんなんじゃないけど…」


私がクスクス笑いながらキャシーを見ると彼女は口を尖らせている。


「言っときますけど私の方がよりセクシー路線では勝ってるんですからね?」
「はいはい。解ってます!」
「胸だって大きいし、お尻だってあるんだから」
「はいはい。そうね?」


私が笑いを堪えつつ頷けばキャシーはピタっと立ち止まり私を頭から足の先までジロジロ見てくる。


「な、何…?」
「う~ん…。どう見ても…ってB~Cカップくらいよねぇ…。ウエストも56くらいだし…お尻だってないわ?」
「む。悪かったわねっ。どうせ私は貧素な体ですよっ」


プイっと顔を背けてそう言えばキャシーもクスクス笑っている。


「あら、それでもレオをゲットしたんだから凄いわ?レオってスタイルとか気にしないのかしら…貧乳好き?
私のような巨乳は嫌いかしら?」
「も、もぉー許せない!キャシー!!」
「アハハ!ごめん、ごめん!」


私は頭に来てキャシーの背中をポカポカ殴ればキャシーも笑いながら逃げていく。


「もぉーこれくらい言わせてよね!ほんとに羨ましいのよ?今朝だって目の前で熱~いキスなんて見せられたんだから!」
「あ、あれは…」
「いいなぁ~。私もレオにあんな熱~~いキスしてもらいたいなぁ~?」


キャシーはチロっと私を横目で見ると唇を尖らせた。


「ダ、ダメ…っ」
「あらら。ジェラシー?」
「そ、そんなんじゃないけど…」
「いいじゃないの。なんて毎日、毎晩、あんな風にレオにキスされてるんでしょ?」
「…そ、それ…は…」


私は顔が赤くなって俯いた。
それを見てキャシーはニヤニヤしながら、


「ね、やっぱりベッドでもあんなに情熱的なわけ?どんな感じ?」


と耳元で聞いてきた。


「ちょ…キャシー!!」
「アハハっ。ってば耳まで赤くなっちゃって!ほんとからかい甲斐があるわー」
「い、いい加減にして!」


私は赤い顔を押えながらそう叫ぶと、「いい加減にするのは、貴方たち二人です!」と後ろで声がして慌てて振り向いた。


「あ…主任…」


私はドキっとして、「す、すみません!」と言って頭を下げた。
キャシーもまずい…って顔で俯いている。
主任は腕を組んで怖い顔で私達を見ると、


「ほんとに…ここは病院で、貴方たちの無駄話をする場所じゃないのよ?」
「はい…。申しわけ御座いません…」
「以後、気をつけます…」


私とキャシーが順番に謝ると主任も溜息をつきつつ、「ほんと気をつけてね?」と言った。


「はい。気をつけます」
「はい」
「解れば宜しい。あ、それと
「は、はい」
「ちょっと一緒に来てくれる?」
「はい」


私は首を傾げたが、とりあえず主任について行った。
キャシーは小さく手を振って自分の仕事に戻って行く。


(何だろ…)


そう思いながら黙って主任の後を歩いていると、ある病室の前で立ち止まった。


「今日から貴方の担当患者になる子よ?」
「え?私の…?」
「ええ。マークも完治ではないけど元気に退院したしね?も戻って来たんだし、また担当に着いてもらうわ?
それにほんとにナースが足りなくて困ってるの」
「はい。解りました」
「じゃ、紹介するわね?」


主任はそう言って病室のドアを開けて中へと入って行った。
私もその後に続く。


「おはよう、カイル」
「………」


主任が声をかけて振り向いた子は14~15歳ほどの男の子だった。
この子供病院は0歳から15歳までの年齢を収容するようになっていてその最年長くらいに見えた。
だがそのカイルと呼ばれた男の子は挨拶する事もなく、また窓の方に顔を向けてしまう。


「カイル。今日から貴方の担当することになったよ?宜しくね?」
「…………」


私が声をかけてもカイルはチラっと見るだけで全く答えようとはしない。
ちょっと困って主任を見ると小さく息を吐き出した。


「じゃ、カイル。あとでお薬持ってくるから大人しくしててね?」


主任がそう声をかけて私を廊下へ促す。
私は最後にカイルの方を振り返るも彼はずっと窓の外を眺めていた。


二人で廊下に出ると主任が軽く息をついた。


「あの子…いつも、あんな感じなんだけど…大丈夫?」
「はあ…。あ、あの…何歳ですか?」
「ああ、カイルは15歳になったばかりよ?今、中学三年かな?」
「そうですか。それで…何の病気でここに…?」


私がそう聞くと主任も表情を曇らせた。


「不整脈ね。子供の頃から悪かったらしいんだけど…最近発作が起きたみたいで…」
「そうですか…。あんなに若いのに…。彼の親も?」
「ええ。母親の方が元々心臓が弱いらしくて…。今度の発作で大好きなサッカーが出来ないって酷く落ち込んでるのよ…」
「そうでしたか…」


私は病室の方を振り返り、そう呟くと主任が時計を見て、


「いけない。ちょっと会議があるの。、後は宜しくね?カイルのカルテはナースステーションで確認してくれる?」
「はい。解りました。まずは…朝のお薬ですよね?」
「ええ。お願いね?」
「はい」


私が頷くと主任は慌てて階段を下りて行ってしまった。


「はぁ…。まさか15歳の男の子が担当になるなんて…。難しい年齢なのよね…」


私はそう呟いてナースステーションまで歩いて行った。













「おい、ジャック…。お前、いつまでそこで寝てる気だ?」


俺は運転に集中しながらもチラっと助手席の足元に埋まってるジャックに声をかけた。
ジャックは先ほど転がり落ちて背中からハマったらしく両足をおっ広げた体勢のままスースーと眠っている。


「よく、そんな体勢で寝れるな…」


ちょっと苦笑しながら赤信号で車を止めた。
を送った後にプラプラとドライヴしつつ、パサディナまで行ってきた帰り。
今はダウンタウン、ユニオン駅前の交差点まで戻って来ていた。


「はぁ~こんなノンビリとドライヴしたのなんて久々だな…」


窓を少し開けて風に当たりながら煙草に火をつける。
そしてライターをギア横の収納ボックスに入れようとした時、足元に落としてしまった。
慌てて拾おうと少しだけ屈んだ時、視界に何か気になったものが横切り、ふと顔をあげる。


(あれ…今、前の交差点を渡って行ったのは…)


そのまま顔を駅前のエル・プエブロ公園の方へと向けて、見覚えのある後姿を見つけた。


「…ジョー?」


今のは…確かにジョーだ。
公園に入って行ったけど…こんな夕方に何してんだ…?


俺がオフの間、ジョーが何の仕事をしてるのかは解らないが、まあ遊んではいないだろう。
ジョーは、ああ見えても仕事だけ(!)は出来る奴だ。
だが、こんな公園で何の仕事だろう?
仕事相手と待ち合わせでもないだろうし…
ただ通り抜けるにしたって、あの方向だと裁判所か、教育局しかないはずだ。


俺は少し気になって信号が青になったと同時にハンドルを右に切って、シザーEチャプスアベニューへと曲り、
すぐ公園の真ん中のメインストリートへ入るのに左に曲った。
そして近くの劇場のパーキングを見つけてそこへ車を止める。
その時、やっとジャックが目を覚ました。


「クゥ…?」
「ジャック、行くぞ?それとも、お前、ここで待ってるか?」
「ファァァ…ゥワゥ!」
「行くの?じゃ、静かにしとけよ?」


尻尾をフリフリしてやっと座席に飛び乗ったジャックの頭を撫でつつリードを体につけてやり、そのまま車を降りた。


「ワゥ!ワゥ!」
「はいはい…。散歩じゃないって。そんなジャンプするなよ…っ」


俺の心とは裏腹にはしゃぎまわるジャックに溜息が出る。
だが俺が歩き出すとジャックは飛び跳ねるのをやめて大人しくついてきた。
一応、外してたサングラスをもう一度つけて前髪を気持ち下ろしておく。


(あ~キャップでも被ってきたら良かったかな…)


そんな事を思いつつキョロキョロと辺りを見渡した。
さすがに公園内は色々な人達が思い思いに好きな時間を過ごしている。
木陰で本を読んでいたり、寝ていたり、パソコンをいじっていたり…
俺は見付からないように…と思いつつ、ジョーの姿を探した。


(確か…こっちに歩いて行ったような…)


ジャックを連れてプラザ教会の裏手の方まで歩いてきた。


(やっぱり通り抜けただけだったかな…?)


そんな事を思いながら、ついでだしジャックを少し運動でもさせるか…とリードを外そうとしてしゃがみこんだ。
その時、聞き覚えのある笑い声が聞こえて来てハっと顔をあげる。


(このバカっぽい笑い方は…)





「アーッハッハッハ!いや~シェリーがこんなに面白い子だとは思わなかったよっ」
「そうですか?アハハっ」






(…シェリー?って…女…っ?!だ、誰だよ…!)


俺はそぉっと声のする方へ顔を向けてみた。
すると教会のすぐ裏にあるベンチで、これ以上緩まないだろう…と思うくらいゆるゆるな顔のジョーが楽しそうに笑っているのが見えた。
俺はそのままゆっくり立ち上がると、目の前の大きな木の陰に一旦隠れてもう一度顔を覗かせる。


「ジョーさんの方が面白いわ?私、こんなに男の人の前で笑ったのなんて初めてよ?」
「またまた~!そんな事ないだろ?君みたいな子は男が放っておかないと思うよ?」
「そんな事ないです。私、そんなに積極的でも明るくもないし…人見知りしちゃうから…」
「そうなんだ。でも、ほんとモテると思うんだけどね?きっと俺が担当してやってる(!)
レオなんか、すーぐ口説いてくると思うよ?あいつは可愛い子に目がないからなぁ~困った奴だ!アッハッハ!」
「そうなんですか?でも彼、最近、結婚したんじゃ…。凄い求愛して口説き落としたって雑誌にも書いてましたけど…」
「ああ、まあ、凄かったんだよ!必死で彼女を追いかけてさ~。でも無理、無理!
そんな長くは続かないだろうなぁ?レオの女好きは天性のものだからね?
きっとそのうち浮気でもして、それがバレて奥さんがバカ犬連れて実家に帰ると思うよ?アハハっ」




「―――ッ!!(怒ッ)」
「わぅ…?」


俺は久々に額に怒りマークがピキっと浮き出てきた。それも3本ほど…


おのれ、ジョーの奴、好き勝手な事をベラベラと…!!
だいたい、あの女の子は誰だ?!
確かに可愛いけど何で、あんな子がジョーなんかと(!)一緒に、こんな公園で楽しそうに話してるんだ?!
まあ…可愛いって言っても、の足の小指の爪ほども可愛かないけどな…(!)


「クゥン…」
「ん?何だ?ジャック…。バカ犬って言われてへこんだのか?気にするな。
ジョーの方がお前よりバカだからさ。見てたら解るだろ?」


そう言って項垂れているジャックの頭を撫でてやると、すぐに復活したのか尻尾をフリフリしてくる。


「しっかし…ジョーの奴、許せないな…。誰が浮気してに逃げられるって?!それは笑って聞き流せないぞ…」


俺はよっぽど出て行ってジョーを蹴り飛ばしてやろうか(!)とも思ったがここは黙って見過ごすことにした。


ま、何はともあれジョーにも恋の季節がきたようだしな…
暖か~く見守ってやって振られた時は腹抱えて笑ってやる…っ!(鬼)


俺は久々に悪魔の血が騒いでくるのを感じた。


彼女の名前は…確かシェリーと言ったか。
きっと、何処かの新人だろうな。
素人には見えない。
ブロンドでスラっとした感じだしどう見ても横に面積があり尚且つ、少々立体的なジョーとは並んで歩いていてもアンバランスだ。(酷)


「じゃ、そろそろ仕事に戻ります」
「あ、そ、そう?じゃあ撮影、頑張って!」
「はい。でも、ほんの、ちょい役ですから」
「そんな事ないよ!君なら、すぐに主演の話だって来るさ!」
「そんな…まだまだです」


ふいに二人がベンチから立ち上がり、俺は慌てて木の陰に隠れた。
ついでにジャックまでが伏せをして体を小さくしている。


こいつ…俳優犬にしようかな…(!)
なんて思うのは親バカだろうか…


「じゃ、また…電話します」
「う、うん。待ってるよ!」
「はい、じゃあ…」
「ああ、またね!」


ジョーはアホみたいに大きな声を張り上げている。
俺は、その声を聞きながら噴出しそうになるのを何とか我慢した。


「はぁ…。やっぱり、可愛いなあ…」




「ぷ…っ」




ジョーの呟きが聞こえて俺は手で口を押えた。


何が"可愛いなぁ…"だ!
高校生じゃあるまいしそんな青春すんなよ…


そんな事を思いつつ、耳を凝らしているとジョーの足音がして俺の隠れている木の横をスキップしそうな勢いで跳ねていく。
俺は少しづつ体を移動させてジョーの後姿を見送った。


「わぅ?」
「ああ、放っておけ。今日はもう時間だしお前の大好きなを迎えに行こう?」
「ワンワン!!」


と名前を出すと急に尻尾をブンブン振り出し車の方へ歩き出す。
俺は苦笑しながらジャックのリードを持って歩いて行った。


ジョーは…公園を出て行ったようだな。
仕事、抜け出して彼女と密会か…?全く…


俺はパーキングまで戻ってくると車に乗り込みジャックを乗せた。


「さて。面白いネタ見つけたしにも教えてやろっか?」
「ワゥン?!」
「何?ジョーに復讐したいの?」
「ワン!」
「そっか。その気持ちは、よく解るぞ?バカにバカ犬って言われたんだもんな~?
ああ、だったら今度ウチに来た時、好きなだけ襲っていいから(!)」
「ワンワン!」


ジャックは俺の言葉を理解してるのか面白いほどピッタリと反応が返って来る。


「お前…ほんとに言ってること解ってるなら凄い天才犬だぞ…?」
「ワゥー!」


ジャックは、そう吠えたかと思うといつものように嬉しさを表すよう、はしゃいでジャンプをした。
だが一つ付け加えると、ここは外ではなく車内だったということで当然の如くジャンプした先には天井がある。
そう、ジャックは、お約束通り、喜んでジャンプした際に頭をゴツ!っとしたたか打ち、「ギャゥン!!」 と鳴く羽目になった。



「…ジャック…。悪い。前言撤回。お前、天才犬じゃなくて天然犬だったよな…。凄い忘れてたよ…」


俺がそう呟くとジャックは鼻をズルル…と煤って、「わぅ…」 と小さく鳴いたのだった。

















「カイル?夕食後の、お薬…ここに置いておくわね?」


私は最後の仕事をしに、カイルの病室までやってきた。
カイルは相変わらず、返事もなく何かの雑誌を黙って読んでいる。
私はそっとベッドサイドのボードに薬を置いて出て行こうとした。
その時、チラっと雑誌を見るとそれはサッカー専門誌だと解りちょっと笑顔になった。


「あら、これマドリーね?今年も優勝かな?チャンピオンズリーグは」
「…え?知ってるの…?」


私の何気ない言葉にカイルが驚いたように顔を上げた。
今まで何を言っても答えてくれなかったカイルがいきなり返事をしたので私も驚いたが、
そんな素振りを見せてはいけないと笑顔で頷いた。


「ええ。これでもスポーツ見るのが好きで…。主に球技ばかりなんだけど」
「へぇー、そうなんだ。でも凄いね?マドリーをちゃんとそう呼んだのは女の人じゃ初めてだよ?」
「え?ああ…普通は皆、レアル…って、そう呼んだりしてるものね?」
「うん。でもリーガはレアルってつくチームが二つあるからさ?サッカー通な人ならレアルじゃなくマドリーって呼ぶんだ」
「そうね?私もそう教えて貰ったわ?」
「誰に?」
「サッカー好きな友達によ?」
「へぇ。そうなんだ。看護婦さんは誰が好きなの?」
「え?」
「選手だよ」
「ああ、私は…この人!」
「え?ロベルト?凄い渋いとこいくね?」
「ええ。彼の左足は凄いじゃない?足も速いしサイドを上がってくる時なんてワクワクしちゃうもの。
それにマドリーの皆のパスワークを見てるだけでも最高じゃない?あんなに繋がるチームも珍しいものね?」


私がちょっと椅子に腰をかけて、そう言えば、カイルは更に驚いたように私を見つめた。


「凄いね?看護婦さん…。結構、見てるんだ…」
「そ、そんな事ないわ?それより…カイルは、どこのチームが好きなの?」
「そりゃ、もちろんマドリーだよ?僕はミットフィルダーだからフィーゴとかジダンのプレーは凄く参考になるんだ」
「そう!ミットフィルダーなんだ。凄いじゃない。頭の回転が良くないと出来ないのよ?」
「まあ…ゲームを組み立てるのは好きだよ?」


カイルはそう言って照れくさそうに笑った。
その笑顔は15歳の少年そのものだ。


「でも、ほんと看護婦さんって凄いよ。うちの学校の女どもなんてサッカーのサの字も知らないクセに、
カッコイイ選手にはキャーキャー言っちゃってムカつくんだ」
「そうなんだ。女の子から人気ある選手は誰なの?」
「やっぱりベッカムもだし…あとはセリエAのトッティとか?」
「ああ…美形タイプなんだ」
「そう!顔でプレーしてるわけじゃないのにさ」
「カイルは…セリエAも見るの?」
「僕はリーガだけだよ?時々プレミアリーグも見るけどやっぱりリーガの攻撃的サッカーが好きなんだ。
セリエAは、どっちかと言うと守備的サッカーだろ?」
「そうなのよねっ。私も自分でやるわけじゃないから見てるならリーガのサッカーの方が面白くて」
「そうなんだ!ほんと看護婦さん、凄いよ」


カイルは笑いながら雑誌をパラパラと捲っている。
私はちょっと微笑んで、「私はよ?そう呼んでくれる?」と言ってみた。
するとカイルは、パっと顔をあげて私を見ている。
奇麗な顔立ちの男の子だと思った。
瞳が奇麗なブルーで吸い込まれそうだ。


美形タイプと言うのは、カイルみたいな子の事を言うんじゃないかな?
きっとそのクラスの女の子にもモテてるんだろうな。


「カイル…?あの…呼びにくいなら…看護婦さんでもいいけど…」


一向に返事をしてくれなくて私は慌ててそう言ってみた。
するとカイルは目を伏せて小さな声で、「…解った。…だろ?」と呟いている。
私はちょっと嬉しくなって笑顔になった。


「ええ。そう呼んで?じゃ、私、そろそろ行かなくちゃ…」
「え?帰るの?」


パっと顔をあげて少し悲しそうな顔を見せた。


「うん。私、今日は早番で…あと10分で終わりなのよ。また明日の朝、来るわ?」
「ほんと?何時頃?」
「そうね…9時半過ぎかな?あ、明日、一緒に庭に出てみない?」
「うん、いいよ?僕、まだここに来てから外に出てないんだ」
「そうなの?もったいない。ここの庭、結構広くて奇麗よ?」
「そうなんだ。じゃ、明日…案内してよ…」
「もちろん!約束ね?」


私はそう言って小指を出した。
それを見てカイルが首をかしげている。


「指きりよ?こうやるの」


私は昔、本当の父に教えてもらった約束を表す指きりをカイルに教えた。
彼の手をとって自分の小指と絡める。


「これで約束!」
「う、うん…。約束…ね?」


カイルは少し照れくさそうに俯いてしまったが今朝の硬い表情は、もう見えなかった。


「じゃ、行くわ?ちゃんとお薬飲んでね?」
「解ってるよ。子供じゃないんだからさ…」


カイルは子ども扱いされたくないのか少し大人びた口調で顔を上げて私を見た。


「うん。なら安心。じゃ、また明日ね?」
「ああ。またね…。


最後に名前を呼んでくれたのが嬉しくて私はニコっと微笑むとカイルに手を振ってから病室を出た。
少し足取りが軽くなるのも仕方がない。
今朝、紹介された時は、ちょっと不安に思ったのだ。
マークみたいな素直な子だからこそ新人の私でも担当する事が出来た。
だけど復帰早々、あんなに気難しそうなカイルの担当になってちゃんと打ち解ける事が出来るか、とか、
言う事を聞いてくれるかと不安があったのだ。


でも…良かった。
大好きなサッカーの話が出来て嬉しかったのかもしれない。
きっと…凄くサッカーが好きなんだろうなぁ…
さっき話してみて解った。
私も…もっとサッカーの勉強して話し相手ぐらいにはなれるようにしとこうかな…?


そんな事を思いながらロッカーへと歩いて行った。
















俺は病院に入るとキョロキョロしつつナースステーションへと向かった。


「あの…」
「はい。 ―あら、レオ!」
「やあ、キャシーか」


俺が声をかけて振り向いたのはキャシーだった。


「愛しいハニーのお迎えかしら?」
「アハハ、まぁね。その愛しいハニーは、どこかな?」


俺がおどけてそう言うと他のナースから、「きゃ~っ」と言う声があがり俺は驚いた。
いつの間にか奥の方からも若いナースが顔を出している。


「Hi!」
「キャ~レオに声かけられちゃったわ?!」
「ちょっと、ずるいわよ、あんた!」


俺は目があった子に挨拶をしたのだが何だか仲間同士でモメ始めて困ってしまった。


「ああ、放っておけばいいのよ。ただのミーハーだから」


キャシーはそう言いながら肩を竦めた。


なら今、着替えてるからすぐ来ると思うわ?」
「そっか。じゃ、車で待ってるって伝えておいて?俺、ここにいない方がいいみたいだしさ…?」


苦笑しながらも興味津々でこっちを見ているナース達の方をチラっと見た。


「あら、気にしなきゃいいじゃない?レオはの旦那様なんだし。
旦那が妻を迎えに来て何も悪い事なんてないわ?婦長の旦那さんだって来た事あるし」
「へぇ、そうなんだ。でも…何だか騒いでるしさ…。俺、やっぱり…」
「あ、そんなこと言ってる間に、愛しのハニーが到着よ?」
「え?」


キャシーがウインクして俺の後ろを指差した。
そのまま振り返るとが歩いて来て俺に気付く。


「あ…レオ…?」
、お疲れ!」


俺は半日ぶりに会えたの腕を引き寄せ軽く抱きしめるとチュっと頬にキスをした。


「キャ…レオ…っ。こんなとこで…」
「え?あ、ごめん」


が真っ赤になって周りを気にしているからつい謝ってしまった。
すると後ろでキャーキャーとさっきのナース達が騒ぎ出した。


「見た?見た?キスしたわよぉぉ~!」
「いいな~!私にもして欲しい~っ」
「何よ、あんた。ズーズーしいわねっ。新入りのクセに!」


また言い合いを始めてしまい俺は頭をかいた。


「あ、あの…もう帰れるんだろ?」
「え?あ、うん。帰れるわ?」
「じゃ、行こう…。ここにいたらジロジロ観察されてるみたいだ」


俺はそう言っての肩を抱き寄せると、それまた何だか歓声が上がり、キャシーが呆れた顔で、


「皆、騒いでたら主任に怒られるわよ?」


と注意をしている。
だいぶ先輩らしくなったものだ。


「あ、じゃあキャシー、また明日ね?」
「うん、お疲れ様!旦那さまもまたね~」


キャシーは何だか俺に投げキッスをしてきて思わず苦笑した。


「ほんと騒がしい病院だよな…?」
「そ、そうね…。また…新人さんが入ったから…」
「ああ、そっか。そりゃ騒ぎそうだ…」


そう言って外へ出ると車の前でジャックがチョコンと、お座りをしているのが見えたが、
俺達が出てきたのを見つけると、猛然と走り出して来れるはず……がなかった。
そう…俺はジャックのリードを車のサイドミラーにくくりつけてきたのだ。
そんなものをつけて走り出せば当然首が絞まる。


「わぐ…っっ」


案の定、ジャックの奴はリードがピーンと伸びた瞬間、後ろで引っ張られ首が絞まったのか変な声を上げた。
そしてそのまま後ろへひっくり返り、自分に何が起きたのか訳が解らないという顔でキョトンとしている。
それでもリードのことに気付かないのか再度、挑戦して勢いよく走り出しては…


「わぐぇ…っ」


と、ヒキガエルみたいな声を上げている。



「なあ……」
「…なぁに?」
「俺、今日一日、あいつと一緒にいて思ったんだけどさ…」
「…ぅん…」
「あいつ…やっぱ天然ボケかもな…?」
「うん…。私も、そう思ってた…」


俺とは顔を見合わせるとちょっと噴出してもう一度ジャックの方を見た。
ジャックもさすがに走る=苦しくなる…と身の危険を感じたのか、今度はリードが伸びるギリギリまで来て、
前足を上げてジタバタしながら尻尾をブンブン振っている。


「早く戻ってやろう…。ジャックが気の毒だ…」
「そう…ね…」


そう言って俺はの手を繋いで車の方へと歩いて行った。


















今夜は久々に静かな夜で夫婦水入らずが出来そうだ。
俺は夕食の後片付けをしているをチラっと見ながらそう思った。


、手伝おうか?」
「あ、いいわよ。レオはワイン飲んでて?」


が器用に数枚のお皿をトレーに乗せて手際よく運んで行く。


「全く…自分の方が今日、働いてきたクセに…」


俺は苦笑しながら立ち上がると足元に寝ているジャックをまたいで残りのお皿をキッチンに運んで行った。


「あ、ありがとう、レオ」
「いいよ、こんな事くらい。それより俺が洗うから少し休んで?」
「え?い、いいわよ…。私が洗うわ?」
「いいってば。は仕事してきたんだからこれくらいは俺がやるって」
「でも…」
「いいから。オフの時くらいしか手伝ってやれないんだしやらせてよ。ね?」


そう言って唇にチュっとキスをすればは恥ずかしそうに俯くもチラっと俺を見上げて、


「じゃあ…私、お皿洗うから、レオ拭いてくれる?」


と聞いてきた。
その表情が可愛くて俺はの腰を抱き寄せるとそのまま強引に口付ける。


「んぅ…?」


は驚いたように目を丸くして俺の胸をギュっと握ってきた。
啄ばむように口付けてからゆっくり離すと鼻先をくっつけてニッコリ微笑んだ。


「あ、あの…レオ…」
「…愛してるよ、
「…………っ」


そう言って真っ赤になったの頬と、あと鼻先にもチュっとキスを送ると、


「さ、パっと洗って、ゆっくり飲もう?」


と言ってを解放した。


「う、うん…」


は恥ずかしそうに微笑むと急いでお皿を洗い出す。
俺は隣に立ってが洗ったお皿やグラスを丁寧に拭いていった。
そして、ふと思いつく。


「あ…そうだ」
「え?」
「食器洗い器でも買おうか?乾燥機つきの」
「え?食器洗い器?」
「そう。そしたらが疲れてる日もこうやって洗わなくていいだろ?」
「で、でも…」
「いいから、いいから。俺はの負担を少しでも軽くしてあげたいんだからさ?ね?決まり!
今度のの休みの日に一緒に買いに行こう?」
「う、うん…解った。ありがとう…レオ」


は嬉しそうに俺を見上げて微笑んだ。
その笑顔にまたキスしたくなってそっと顔を近づけた時、俺のお尻に何か負担がかかり前のめりになった。




「…わっ」
「え?」




ゴツ…ッ




「…っ」
「……っ」




俺とは互いの額をぶつけてしまった。


「ってぇ…。、ごめん…っ大丈夫?」
「う、うん…大丈夫…」


俺は少し赤くなったの額を手でそっとさすりながら後ろにいるはずのジャックに怒った。


「お前なぁ!俺を押すな、俺を!」
「わぉん…」
「そんな切なげに鳴いてもダメ!」
「くぅん…」
「あっち!」


俺が怖い顔でリビングの方を指さすとジャックは尻尾を下げてトボトボと歩いて行く。
そして最後にチラっと振り向くも、俺が首を振ると目を伏せてまたトボトボと歩きだしてキッチンから出て行った。
その後姿がまた切なげな哀愁を漂わせているがここは敢えて冷たくしておく。


「ったく…前足で体重かけてきたんだよ、あいつ…」


俺が息をついてるとがクスクス笑っている。


「何で笑ってるの?」
「だ、だって…レオのお尻をジャックが押したとこ想像したら何だか可愛くって…」
「か、可愛くないだろ?それより…あ~おでこ赤くなっちゃったね…?」
「え?ああ、大丈夫よ これくらい」


は笑いながら残りのお皿を洗っている。


「は~誰も来ないかと喜んでてもあいつがいるからなぁ…。ほんと困る…」
「可愛いじゃない。やっぱり動物がいるのっていいよね?」
「そうだけどさぁ…」


拭いたお皿をしまいながら軽く息を吐き出した。


(俺としてはと二人きりでゆっくりしたいだけなんだけど…)


そんな事を思いつつ、少し切なくなった。






そのまま食器も洗い終わり、やっと二人で飲み始めた時ふとジョーの事を思い出してに見たこと全てを話した。


「えぇ?じゃあ…デートしてたってことかな?!」
「いやぁ…どうかなぁ…。あれは…デートってよりは…ただ公園で話してただけのような気がするけど…。
彼女、撮影の合い間に会ってる風だったしさ?」
「そう。どんな子?奇麗?可愛い?」
「ん~。どっちかと言えば可愛い感じなのかな…。ま、でもには全然敵わないけどね?」
「ま、また、そんなお世辞はいいわよ…。女優さんに勝とうなんて思ってないわ?」
「そんな事ないよ?の方が数倍、可愛い!ほんとだって」


俺が必死にそう言うもは恥ずかしそうに笑うだけだ。


あ~ほんとなのになぁ…なんて思いつつ、


「ま、ジョーが振られたらウチで失恋パーティでもやってやろう?」


と言って笑った。


「もう…レオったら。応援してあげれば?」
「いーや。それは嫌だね?だって酷い言い草だと思わない?人の事、女好きだとか言っちゃってさ。
ジャックだってバカ犬とか言われて落ち込んでたんだよ?」
「うそ~!そんなわけないじゃない」
「ほんとだって!なあ?ジャック?」
「ワン!」
「ほら」
「やだ…レオったらいつから動物と会話するようになったの?」


はそう言ってクスクス笑っている。


「いや、ジャックは言ってること解ってるみたいなんだって」
「まあ、そういうとこもあるけど…」


はまだクスクス笑っている。


「もぉ~、バカにしてるだろ」
「し、してないよ?」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
「でも肩震えてるし…」
「ぷ…っ」
「あ~、ほら、笑った!」
「アハハハハ…っ。だ、だってレオ、真剣なんだもん…っ」
、笑いすぎっ」


俺も苦笑しつつをソファーに押し倒して上に覆い被さった。


「そんな笑うならここで襲っちゃうよ?」
「……レオ…っ」


俺が上から見下ろすとの頬が薄っすらと赤くなっていく。
長い黒髪が奇麗に広がり、思わず見惚れてしまう。


…ほんと奇麗だね…?」
「………え?ん…っ」


が少しだけ顔を上に向けた時、俺はゆっくり唇を塞いだ。
チュ…っと啄ばむようにしながら優しく口付けるとも体の力を抜いてそっと俺の腕に触れてきた。
このまま抱いてしまおうか…と思った時、俺の携帯が鳴り響いてドキっとした。


「…ったく…。電話にまで邪魔される…」


少しだけ唇を離してそう呟けばもちょっと微笑んだ。
そのままもう一度唇を重ね、すぐに離すと俺は渋々体を起こしてテーブルの上にある携帯へと手を伸ばす。


「あ…ジョーだ…」
「え?」
「何の用だ?」


俺はさっきの発言を思い出しムカっときたが仕方なく電話に出る。


「Hello?」
『ああ、レオか?』
「ああ、女好きなレオですけど?どちら様~?」
『はあ?何を言ってるんだ?お前は…』
「別にぃ…。何?何か用事?」
『何だ…?いつにも増して冷たいな…』
「そう?これが普通だよ」
『まあ、そうだな(!)』
「む…っ」
『え?』
「……何でもない」
『そうか?いや実はな?明後日、"Catch me if you can!"の取材が入ってるんだ。トムと一緒なんだが』
「あ、そう。解った」
『で、昼頃迎えに行くしちゃんと起きてろよ?』
「解ってるよ…」
『どうした?元気ないな?また誰か来てて邪魔されてるのか?』
「いい~や~。この電話がお邪魔だったけどね?」
『何だよ…。凄い棘のある言い方だな…。いいとこ邪魔したか?』
「そりゃ~もう。いいとこもいいとこだったのに」
『……そ、そうか…。そ、そりゃ悪い事を…是非、続きを続けてくれ(?)』


ジョーは俺の言葉に激しく勘違いをしたのか、アタフタと、『じゃ、じゃあな?あまりしすぎるなよ?』とアホな事を言い出した。


「余計なお世話だっ」


俺はそう言ってプツっと電話を切ってやった。


「レ、レオ…?」
「ああ、もう終ったよ?」


俺はに微笑むと携帯の電源をオフにして後ろへポイっと放った。


「…さっきの続きする…?」


の頬に手を添えてそう言えばは一気に顔を赤くしていく。
その顔が可愛くて俺はを、もう一度ソファーに押し倒した。


…」


ゆっくり顔を近づけていきながら唇に触れようとした、その時、
俺の視界が真っ暗になり、唇にヌル…っとした感触が伝わってギョッとした。


「お、お前…っ」
「ワォンっ」


俺との丁度、間にジャックが顔を出し俺はこいつの真っ黒な鼻にキスをしてしまった。


「うぁ…っ」
「キャ…こらっジャック…っ」


俺は慌てて唇を拭うとの頬をベロベロ舐めているジャックの首輪をグイっと持ち上げた(!)


「んふぐぐ…」
「キャ…レオ…っ。ジャック苦しいってば!」
「大丈夫。こんな事くらいではジャックはへこたれない」


案の定、ジャックは変な声を上げつつも尻尾をぶいんぶいんと振って嬉しそうにしている。


(どうせ遊んでくれてると思ってるんだろう?甘いぞ、ジャック…)


俺はジャックの首輪を離すとすでに重くなりつつあるジャックを抱えてベランダの窓を開けた。


「ほら、ジャック、お前の大好きなフリスビーだぞ?」


そう言って俺は庭に置いてあったジャック専用のフリスビーをなるべく遠くに飛ばしてやった(!)
するとジャックは、「ワン!」 と嬉しそうに吠えてからすっ飛んでいく。
そして庭の奥の闇へと消えて行った。


「これで、よしっ」


俺は手をパンパンと払うとピシャリと窓を閉めた(!)


「レ、レオ…?ジャックは?」
「ああ、心配しないでいいよ?あいつは闇に紛れてフリスビーを追いかけて行ったから」
「で、でも…」
「いいの、いいの。さ、続きしよ?」
「………っ」


俺はすぐにの隣に座り、彼女を抱き寄せ性急に口付けた。
何だか早くしないと…と気持ちが急いてしまう(!)


「んぅ…っ」


は最初からの激しいキスに少し苦しそうな声を出した。
そこで少し離して、「ごめん…苦しかった?」との頬にチュっとキスをした。
は真っ赤な顔のまま小さく首を振って俺の顔を見上げてくる。


(…ほんと可愛くて困るよ…)


そう思いながら今度は優しく唇を重ねてゆっくりと何度も触れていく。
そのままの胸元のボタンに手をかけた時…














カチャカチャカチャカチャ…っ











(ん…?何の音だ…?)




俺はにキスをしながらその音が気になりそっと顔を上げた。


「レオ…もしかして…」
「…うん…」


俺とでゆっくりベランダの窓をの方を見てみた。
するとジャックが必死の形相で前足を窓につけ、入れてくれぇ~~っと言わんばかりに動かしている。
それで爪が窓にあたりカチャカチャと音を出していた。


「はぁあぁ…。もう嫌だ…」
「レ、レオ…あの…。そんな怒らないで…?ね?ジャックも仲間に入りたいだけで…」


そう必死に言うが可愛くて彼女の額にチュっと口付けた。


「いいんだ…。きっとジャックは俺との子供だと思い込んでるんだ…。仕方ない」
「そ、そうね?」
「でも…少しTPOを弁えて貰わないと」
「え?」


俺はそう言うとベランダの方に歩いて行った。
ジャックは中に入れると思ったのかびょんびょんとジャンプをくり返している。
俺はニッコリ微笑んでカーテンを掴むとシャーーーっと一気に閉めてやった(!)


「レオ?入れてあげないの?」
「入れるもんか。今日は暖かいし庭で野宿もいいもんだよ、うん」
「で、でも…」
「いいんだ。可愛い子には旅をさせろと言うし。ま、子供じゃないけど似たようなもんだから」


俺はそう言っての元へ戻ると彼女を抱き上げた。


「ひゃ…」
「ここだと音が気になるから二階に行こう?」
「え?あ…うん…」


心配そうに窓の方を見ながらももちょっと頷いて俺にしがみついた。
そんな彼女の額にキスをして俺はリビングの明かりを消して一度、窓の方を振り返る。




悪く思うなよ?ジャック…


いいや…お前が悪い(!)




そんな事を思いつつドアを閉めた。










リビングでは、暫くの間、カチャカチャカチャカチャ…と爪音が鳴り響いていたそうな…




























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ACT.3...懲りない面々>>


続編第二弾で御座います。
普段の日常なんぞ…
あと少しづつジョーが登場していきますね、これから(笑)


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


C-MOON...管理人:HANAZO