From me Dear you....~Catch
me if you can!Sequel...~
ACT.6...僕の傍に…
「これ!これも似合うんじゃない?」
「ちょ…ちょっとレオ…もういいわよ…」
「いいから履いてみてよ」
レオはそう言ってニッコリ微笑むと私の足元にルイ・ヴィトンのミュールを置いた。
確かにそのミュールはお花があしらってあって凄く凄く可愛いんだけど…
でも今日は散々私の物を買いまくったので、さすがにもう買ってもらえないわ…なんて考える。
「ほら、。そこに座って」
「ね、ねぇレオ…。今度はレオのも買いに行こ?さっきから私の物ばかり買ってるよ?」
私がそう言ってレオを見上げると彼はちょっと微笑んで素早く頬にキスをしてきた。
「いいんだ。にプレゼントしたいんだからさ。今日はその為にここに来たんだよ?」
「…………でも…」
レオの言う"ここ"とは、私達がサンフランシスコで滞在しているソーマという場所の近くにあるユニオンスクエアのこと。
今はこのユニオンスクエアにある、ゲーリーストリートに来ていた。
今いるのは知る人ぞ知るルイ・ヴィトンのお店。
この隣がサルバトーレ・フェラガモ、その斜め向かいの通りにはグッチやシャネル、プラダなどのブランドショップがズラリと並んでいる。
今日は朝からショッピングしようとレオに連れられてやってきたのだが、まさかこんなにブランドショップを回るとは思ってもいなかったので驚いた。
ティファニーから始まり、次はカルティエ、ブルガリ、並んでいるお店に一軒、一軒見て周り何かしら買ってくれるのだ。
なのにレオってば自分の物は一切、買いに行こうとはしない。
あんなに好きなアルマーニのお店は素通りしてしまうから更に驚いたんだけど……
(レオってば人にプレゼントするの好きなのかな…)
なんて変なことまで考えた。
「?ほら、履いてみて」
「どうぞ?此方の鏡をご覧下さい」
「…はぃ…」
ニコニコ顔の女性店員にまでそう言われて、私は仕方なく小さな椅子に座ると自分の靴を脱いでそのミュールに足を通してみた。
「ほら、やっぱり似合う!凄く可愛いよ?」
「………あ、ありがと……」
レオは嬉しそうに微笑んでそう言うと私の手を繋いで立たせてくれた。
そして鏡の前に連れて行く。
「な?似合うだろ?やっぱこっちにしよう?あのヒールより可愛い」
「レオ…でも私―」
「これ下さい」
「はい!ありがとう御座います!」
レオの言葉に店員は更にニコニコしながら返事をしている。
それには私も何も言えなくなりそのサンダルを脱ごうとした時、レオが後ろから抱きしめてきた。
「ちょ…レオ…っ」
「それ履いててよ。そのまま出よう?」
「え?!で、でも…」
「今日のワンピースにそれ似合ってるしさ。そうしてよ」
「…分かった…」
レオの優しい声に、つい頷いてしまう弱い私がここにいる。
「じゃあ、様の履物をお包みしますわ?」
「お願いします」
店員はホクホクしながら私の履いていたミュール(これも前にレオに買ってもらったものでヴィトンなのだ)を持つと奥に引っ込んでしまった。
「レオ…」
「ん?」
「次はレオの買い物ね!」
少し強くそう言って口を尖らせるとレオはちょっと眉を下げて笑顔になった。
「そういう顔すると、ここでキスするよ?」
「…………っっ」
たった一言で私を真っ赤にさせるのはレオの得意技だ。
仕方なく尖らせた唇を元に戻すと、レオは小さく笑って私を抱き寄せた。
「俺のはいいよ。いつでも買いにいけるしさ。のは普段、あまり一緒に行けないだろ?」
「でも…こんなに買ってもらってるし…。それに私もレオの物、一緒に選びたいわ?」
私が必死にそう言うとレオは嬉しそうに微笑んだ。
「そう?」
「うん」
「じゃあ……選んで貰おうかな?」
「ほんと?!」
「ああ、ここ出たら付き合ってくれる?」
「うん!」
私は嬉しくてレオに抱きつきたくなったがここは天下のルイ・ヴィトンの店内。
今の店員の他にも店員はいるし、只でさえレオを見に手の空いてる女性店員がさっきから物陰に隠れてこっちを見ている。
そこは仕方なくそっと離れた。
そこへ、さっきの店員が奇麗にラッピングされたヴィトンの袋を手に戻ってくる。
「此方がお客様の履きものです」
「あ、ありがとう御座います」
私がそれを受け取ろうと手を出すと、
「ああ、それ、このホテルに送っておいて下さい」
とレオがホテルのカードを渡した。
「畏まりました」
にこやかに頷く店員の言葉に、「え?でも、これ私の靴だし…」と驚いてレオを見ると、彼は笑いながら私の頭を撫でた。
「いいんだよ。荷物持ちながら歩くの嫌だろ?」
「そんな事…」
「いいから。と手が繋げなくなるからさ?じゃ、行こう」
「う、うん」
「ありがとう御座いました」
レオに手を引かれて歩き出すと後ろから何とも明るい店員の声が聞こえてきた。
支払いもきっとレオがコッソリしたのだろう。
レオは澄ました顔で私に微笑みかけた。
「さあ、に何を選んでもらおうかな?」
彼は嬉しそうにそう言って繋いだ手をギュっと握り締めた。
そのまま二人でレオの好きなアルマーニのお店に行った。
そこで私は約束通り、レオに似合うような服を探してみる。
だけど………
(はぁ……困った…)
私は軽く息をついて後ろでニコニコしながら待っているレオをチラっと見た。
その姿を端から見ると自分は映画を見ているんじゃないかと思えてくるほど絵になっている。
と言うか、かっこいい…。
今まで何度も何度も思った事があったけど、やっぱりレオは私の心を揺さぶるほどに素適な人だなと思った。
それは妻としての立場からではなく、ファンという目で見ても…という意味だ。
外見からして本当に好みだったし、初めて会った時の失礼な態度で一時、嫌な奴と思った事もあったけど、
こうして全てを理解できた今、レオはやっぱり私の理想の男性なんだ、と改めて思う。
…って、ちょっと話が脱線してしまったけど…だから…というワケではないけれど…
こうしてレオに似合う服を探すのはとても難しい…という事が分かった。
だって彼に似合わない服を探した方が早いみたいだから……
「?どうしたの?」
「え?」
あまりに私が難しい顔をしていたものだからレオも首を傾げて私の方に歩いて来た。
そして店員の前でも何でも気にせず、私を後ろから抱きしめ肩に顎を乗せてくる。
私の頬にレオの髪が触れてくすぐったさと恥ずかしさでドキっとした。
「そ~んな難しい顔しちゃって。俺に合いそうな服はない?」
「ち、違うの……。その反対……」
「え?何が?」
その言葉にレオは乗せていた顎を離すと私の顔を覗き込んできた。
彼の奇麗な瞳と至近距離で目が合い、胸がドキンっとなった自分に心の中で苦笑する。
(やだ…もう見慣れてるはずなのに…今でもレオの瞳を見るとこんなにもドキドキしちゃうんだから…)
「?」
目を伏せている私に、ますますレオは首を傾げている。
そんな彼を見て私は顔を上げた。
「全部、似合いそうだから困ってるの……」
「ぇ……?」
私の言葉に一瞬キョトンとしたレオだったが、すぐに眉を下げてプっと噴出し笑い出した。
「あはははは……っ」
「も、もう!何で笑うのよっ」
私は頬が赤くなりレオを睨むと、いきなり頬にチュっとキスをしてきた。
「だって…可愛いこと言うからさ?」
「か、可愛いって…」
「俺はが選んでくれたなら何でもいいよ?何なら試着でもしようか?」
「……え?」
レオの言葉に私は少し考え、目の前に並ぶスーツやカジュアルウエアを眺めた。
(そっか…着てるとこ見れば選びやすいかも…)
そう思って数着、手にとると、
「じゃあ…これ着てみて?」
「OK」
レオは笑顔で受け取ると私の額にキスをしてから店員に案内され、フィッティングルームへと歩いて行った。
「はぁ…男の人の服を選ぶのって、こんな難しいんだ…」
(そう言えば…私、こんな風に選んであげるのってレオが初めてかも…)
そんな事を思いながら他の服を見ていると支配人の男性が歩いて来る。
「ディカプリオ様」
「…え?あ……はい」
レオの名前で呼ばれ、私は何だかくすぐったい感じをうけながらも振り返る。
「お疲れではないですか?あちらで座って待って頂いても…」
「あ…はあ…」
今日は散々歩きまわって疲れてたので、私は素直に支配人の後からついて行った。
そこはゲスト用のソファーやテーブルが並べられている一角で、家具も全て高級品のようだ。
私は促されるままソファーに座ると、チラっとレオの入ったフィッティングルームを見た。
すると外で待っている女性店員もソワソワしながら立っているのが見える。
そして時折、他の女性店員まで歩いて行って何やら話していた。
やっぱりレオって人気あるんだなぁ…
今日はどこの店に行ってもあんな感じだったし。
それに毎回、"ご結婚おめでとう御座います"なんて言われて私も照れたんだけど…
だって皆、知らない今日初めて会ったばかりの人なのに。
でもレオは全然、普通って感じでお礼を言ってた。
あんな風に知らない人に声をかけられてもその辺は慣れてるのね。
そんな事を思いながら一面大きなガラス窓の外をボーっと眺めていた。
空は相変わらず青くて通りを見れば沢山の人が歩いている。
そんな景色を眺めていると、こうしてレオを待っている自分が非現実的な存在のように思えた。
それは…ここまで来るのに色々な事がありすぎたせいだろうか。
今の幸せ過ぎる毎日の中で、ふと、時々怖くなる事がある。
この幸せは、いつまで続くんだろう…
こんなに幸せでいいんだろうか…と。
いつか一瞬で消えてしまうようなそんな儚さすら感じる。
そこへ女性店員がアイスティーを運んで来てくれた。
「あ…ありがとう御座います」
そう言って微笑むとその女性も笑顔で会釈をして戻って行った。
私はゆっくりとアイスティーを口に運びながら軽く首を振る。
バカね…何で不安になんかなるの。
あんな思いをしてやっと幸せになれたのに…幸せになったらなったでつい不安を感じてしまう。
「はぁ……」
「何、溜息ついてるの?」
「…レオ…っ」
ドキっとして振り向くと、そこには黒のスーツを着てレオが笑顔で立っていた。
「俺がいなくて寂しくなった?」
「な…何言って……」
少し頬が赤くなりつつ、静かに立つと私は彼の方に歩いて行った。
「どう?似合ってる?」
レオは少し照れくさそうに笑いながら聞いてきた。
でも、そんな聞くまでもないじゃない…?
「凄く…似合ってる…」
「そう?」
「うん。すっごくかっこいい」
私は目の前のレオを見て少し胸がドキドキしながら微笑んだ。
「じゃあ、これにしようかな?」
レオはそう言って私の腰を軽く抱き寄せると唇にチュっとキスをしてきた。
「レ、レオ……っ」
私は恥ずかしくて後ろで見ないフリをしてくれている店員の方に視線を向けた。
だけどレオはクスクス笑うと、
「じゃ、これと、他のも試着してくるから待ってて?」
と言って、もう一度、今度は触れるだけのキスをする。
気づけばレオはすでにフィッティングルームに戻った後だった。
(も、もう…相変わらずなんだから…)
顔が熱くて私は頬に手を添えると軽く息をついた。
その時、かすかに立ちくらみのような感覚になって少しだけフラっとした。
「………っ」
(何だろう…)
私は立っているのがしんどくてソファーに静かに座った。
軽く深呼吸をして体を後ろに凭れる。
ちょっと疲れちゃったのかな……
ここを出たら一度、ホテルに戻ろうって言った方がいいかも。
そんな事を思いながら私はレオが出て来るのをジっと待っていた。
「ん………っ」
何だかズキズキと痛みが走り、俺は顔を顰めて寝返りを打った。
(何だ…?何で、こんなに頭が痛いんだ…?それにボワーっとするし胸もムカムカする…)
かなりの具合の悪さに俺は「う~…っ」と唸りながら静かに目を開け…そして驚いた。
「ぅあ………っっ」
(シェ、シェリーが何で俺の隣に……!!!!!!!)
目を開けた時、隣に見えたのは彼女の可愛らしい寝顔で俺は飛び起きてしまった。
「う……気持ち悪い……」
完全に目が覚めると今度は二日酔いだということに気づき、顔を顰める。
ぐ…夕べ…いや…いつまで飲んでいたんだっけ…
もう、そんなこと覚えちゃいない。
それに、この現状!
何故、シェリーと一緒に寄り添うように寝ていたんだ?!
彼女はまだスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
俺はドキドキとムカムカを同時に味わいながら部屋の中を見渡した。
ここはどう見ても俺の部屋だ。
何でだ?夕べ…俺は自分の部屋に彼女を連れこんだということか…?!
で、でも…確か、食事の後はどこかのバーに行って二人で飲んでたはずだ……っ
そう、俺は彼女に朝まで側にいてくれと言われて理性が崩れそうになったが、そこはグっと我慢したはずだ。
なのに何故?!
俺はそぉっとシェリーに近づき、肩までスッポリかぶっているタオルケットを捲ってみた。
「ホ……良かった、着てる…」
シェリーは夕べの格好のまま寝ていて俺は心の底からホっとした。
に、しても…何で俺はパンツ一丁なんだ!!!オーマイガーッッ!!!
だから焦るんじゃないか!!!
自分の格好を見下ろし溜息が出た。
(まあ、俺は毎晩、この格好で寝てるからクセが出たのかもしれないが…)
ま、まずは服を着て彼女を起こさないと…!
ってか今、何時だ?!
俺は慌ててベッドから抜け出すと、リビングに行って携帯を探した。
携帯はソファーのところに落ちている。
「な……昼の2時?!」
その時間に驚いたが、まあ今日は仕事が入ってなかったはずだ。
でも彼女は…
俺は急いでベッドルームへ戻ろうと適当に服を身につけ、未だグッスリと眠っているシェリーの肩を揺さぶった。
「シェリー…シェリー、起きて?」
「……ん…」
かすかに顔を動かし、目を擦る彼女が可愛くて一瞬、見惚れてしまうがすぐに我に返る。
「シェリー……起きて?もうお昼だよ?」
「ん………?」
何度か揺さぶるとシェリーも起きたようで、ゆっくりと目を開けた。
「シェリー?」
「……………っ」
俺が声をかけると彼女は驚いたように目を丸くしている。
「ジョ…ジョーさん……?!」
「あ、ああ。あの……大丈夫…?」
シェリーは一瞬、自分がどこにいるのかすら分からないような顔で起き上がり、キョロキョロ部屋を見渡すと小さく頷いた。
「あ、あの…私、夕べ……」
「そ、それが…俺、よく覚えてなくて…バーで飲んでたとこまでは覚えてるんだけど……」
気まずそうに、そう言ってから困った様子の彼女を見て俺は慌てて首を振った。
「あ…で、でも何もしてないから!いや…覚えてはいないんだけど大丈夫だから!シェリーは服着てたし…!」
「え?あ……」
俺の慌てようにシェリーはキョトンとした顔で見ていたが、突然プっと噴出して笑い出した。
「シェ…シェリー……?」
「ご、ごめんなさい……。だって…」
彼女は笑いながらも首を振って、
「夕べ…と言うか、もう朝近かったけどジョーさんが先に酔いつぶれちゃって…。だから私がここまでタクシーで送って来たんです。
ジョーさん住所はしっかり言ってたから…。それで私も一緒に降りて部屋まで……」
その話を聞いて俺は顔が赤くなった。
まさか女の子に送ってもらったとは!
「そ、それで……?」
「あ、それで…ジョーさん部屋につくなり服を脱ぎ出してベッドに倒れるように寝ちゃったから…。
帰ろうかとも思ったんですけど私も眠くなっちゃって…。だからジョーさんの隣に勝手に寝ちゃったんです…ごめんなさい」
その説明を聞いて俺は軽い眩暈を起こした(いや二日酔いなんだけど)
あぁーーー!俺は好きな子の前で一体何を……!!!!
彼女の前で服を脱いだって?!
OH!NO!最悪だ!!!(でも良かった。パンツは穿いてて)
「あ、あの…ジョーさん…?大丈夫ですか?顔色悪いですけど…」
俺があまりに青ざめて頭を抱えているものだから、シェリーは心配そうに顔を覗き込んできた。
「あ、ああ!いや!大丈夫だよ…。その…悪かったね?送らせちゃって…」
俺は慌てて笑顔を作ってそう言った。
するとシェリーもニッコリ微笑み、首を振る。
「いいえ。私こそ……ずっと付き合ってもらっちゃって…」
「え?そ、そんな事はいいんだよ~!うん!もう…大丈夫?」
「はい。夕べジョーさんに沢山励ましてもらいましたから」
そう言ってくれたシェリーは本気で押し倒そうかなと思うほどに可愛かった…(!)(場所が場所なだけに危険だ)
「と、とにかく送るよ。こんな時間じゃ家の人も心配するだろう?」
「あ…はい。でも…。一人で帰れます」
「え?いや、でも……」
「いいんです。ジョーさん二日酔いでしょ?その状態でタクシーなんて乗ったら吐いちゃいますよ?」
「あ…」
クスクス笑うシェリーに俺は顔を赤くしつつ頭をかいた。
確かに、このムカムカのままタクシーなんて乗ったら最後、彼女の前で吐いちゃいそうだ…!
裸を見られただけでもショッキングな事件なのに、その上彼女の前で吐いてしまったらもっと大事件だ!
「じゃ、じゃあ…下まで一緒に行くよ。タクシー拾ってあげるから」
「はい」
シェリーは嬉しそうに(俺にはそう見えた)微笑むとベッドから降りてバッグを掴んだ。
そしてリビングの方に歩いて行く。
その後姿を見ながら、ああ…せっかく二人きりでベッドの上にいたのに何で、こんな事に…と少しの後悔が俺を襲ったのだった……
「レオ?新しいバスタオルきたからここに置いておくね?」
「ああ、ありがと」
俺は風呂に浸かりながら返事をした。
この部屋は頼むまで部屋の掃除はしないで欲しいと言ってある。
知らない人に勝手に入って来られるのが嫌だからだ。
それで使ったものだけ電話で告げてこうして持って来て貰う。
「…」
ドアの向こうにいる彼女に声をかけると出て行きかけた足音が戻って来てガラス張りのドアに影が映る。
「何?」
「頭、洗ってくれない?」
「……えっ?」
俺がそう言うとは驚いたように声を上げた。
その動揺ぶりが想像できて俺は笑いを噛み殺しつつ、「ダメ…?」ともう一度、声をかけてみる。
「で、でも……」
案の定、は困っているようだ。
だいたい結婚してからものシャイなところは変わらず、一緒にお風呂さえ入った事がない。
俺はいつでもと一緒に同じ時間を共有していたいのに。
そんな事を思いながら、再度、お願いをしてみた。
「ちゃんとタオル巻いておくからさ?頭洗ってよ。一回に洗って欲しいんだけどな~?」
「………」
少し甘えるように頼んでみるもドアの向こうからは返事がない。
(はぁ…やっぱダメか…)
そう思い諦めようと思ったその時、小さな声が聞こえてきた。
「……分かった…」
「え?」
「い、今、入るからタオル巻いててね?」
そのの言葉に俺は驚いたがとりあえず嬉しくて、
「OK」
と返事をしてタオルをとり腰に巻きつけ風呂から上がる。
「いいよ?」
そう声をかけると静かにドアが開き、恥ずかしそうなが顔を出した。
「じゃ…じゃあ…そこに座って…?」
「はいはい」
赤い顔のまま視線を合わせようとしないに俺はちょっと笑いながら、言われたとおり風呂用の低い椅子に座った。
はブラウス型のワンピースを着たままで俺の後ろに立つ。
さっき俺がどっかの店で買ってあげたものだった。
思ったとおり小柄な彼女によく似合う。
「、服濡れちゃうよ?脱いだら?」
「い、いい…このままで…」
何を警戒しているのか、は慌ててそう言うとシャワーのノズルを手にお湯を出している。
そんな彼女に心の中で苦笑した。
結婚までしたのに警戒されるとは思わなかった。
出会った当時の頃とそういうとこは変わりそうもないみたいだ。
そこがまた凄く愛しいとこでもあるんだけど…
「レ、レオ…?何ニヤニヤしてるの?」
俺が笑いを噛み殺しているのに気づき、はキョトンとした顔で鏡越しにこっちを見ている。
「ん~?いや…ちょっと思い出してね」
「え?何を?」
「と出逢った頃のこと」
「あ……」
「あの頃のも今みたいに俺のこと警戒してばかりいたなぁと思ってさ?」
「だ、だって、あの時はレオが―」
「はいはい。俺が悪かったよ。ちょっとみたいな子は初めてでどう扱っていいのか分からなかったんだ」
俺がそう言って後ろを振り返るとはドキっとしたように目を伏せた。
「は、はい。髪洗うから目瞑って?」
少し頬を赤くして照れたようにそう言う彼女に俺の理性は簡単に崩れていく。
シャワーを持つの手を掴むとグイっと引っ張り、腕の中に抱きしめた。
「キャ…レ、レオ…?!」
「…愛してるよ…。ずっと、こうして一緒に同じ時間を過ごしたい…」
「…………」
さっき思っていた気持ちを素直に伝えると腕の中でが少しだけ動いて顔を上げた。
その瞳はかすかに揺れていて今にも泣きそうな顔だったから、今度は俺の方がドキっとさせられる。
「…私も…同じこと思ってた…」
「え…?」
「幸せだから……時々、怖くなっちゃうの…。いつまで続くんだろうって…。だから―」
「続くよ?ずーっと……。この先も変わらない。だから怖がらないで…」
「レオ……」
安心させるようにそう言っての額に口付けると、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
そしてハっと我に返ったように俺の腕から抜け出そうとする。
「あ、あの…っ。服…濡れちゃったから着替えないと…せっかくレオに買ってもらったのに…」
「いいよ、そんなの。後でクリーニングサービスに頼めば」
「でも……ん…っ」
まだ腕から逃げ出そうとするの唇を少しだけ強引に塞げば、彼女もビクっとしたように体を固くした。
だけど更に細い腰を抱き寄せ、少しづつキスを深くしていけばゆっくりと力が抜けてくる。
求めるように口付け、舌を絡ませるとの甘い声が口の中に溶けていく。
そのまま唇を首筋から胸元に辿り、シャツのボタンを一つづつ外して行った。
服はすでに濡れていて薄っすらとの肌の色が透けて見えて更に体が熱くなる。
「ん……レ…オ…」
腰を抱いていた手で太股を撫であげ、上に滑らせると胸元に口付けてからそっと彼女を押し倒す。
後はもう互いの熱が交じり合うのに時間はかからなかった―――
少し湿った肌にシーツのサラサラした感触が心地よくて私は少しだけ寝返りを打った。
すぐ隣にはレオがグッスリと眠っていて、私の体を包むように抱きしめてくれている。
それは毎朝のことで私が一番幸せに感じる時間だった。
レオは今でもこうして私を抱いた後も優しく抱きしめ包んでくれる。
彼の想いは萎えるどころか少しづつ増えていっているようで、結婚前よりももっと彼のそれは情熱的だ。
普通なら…どんなに仲のいい恋人同士や夫婦でも…毎日一緒にいればそれは徐々に色褪せて行くものなのに、
彼といると逆にどんどん色付いて行く気がする。
こうして…ずっと色褪せずにいたい…
レオの愛情に包まれていきたい…と心から思った。
そっと彼の唇を指でなぞり、「大好き……」と呟いてみる。
その時、レオの瞳がパチっと開いてドキっとした。
「レ…レオ……?」
「おはよ」
「お、おはよ……」
ドキドキしながら至近距離で見つめ合っているとレオが優しく微笑んだ。
「俺も……大好きだよ?」
「え?あ……も、もしかして…ずっと起きてた…とか…?」
「まぁ…。が少し動いた時に。でもふわふわしてて夢なのかなぁって思ってたんだけど…
今のの声で完全に目が覚めた…」
レオはそう言って少しだけ顔を近づけると触れる程度のキスをしてくれる。
「今日で最後だし…。起きて出かけようか?」
「うん……」
優しく微笑むレオに私も笑顔で頷いた。
「じゃ…シャワー入ってくる…」
私がそう言って体を起こすと、レオは少しだけ体を起こし手で頭を支えながら、
「一緒に入る?」
とニッコリ微笑んできてドキっとした。
「い、いい…。一人で入るから」
夕べの風呂場での事を思い出し、私は少しだけ頬を赤らめ首を振るとレオはお見通しみたいな顔でニヤっとした。
「ああ、また俺が襲っちゃうから?」
「…そ、そうよ…」
「ふ~ん。じゃあシャワー入る前に、今ここで襲っちゃおうかな~?」
「…え?……キャ…っ」
気づけば腕を引っ張られレオの下になっていて私は顔が赤くなってしまった。
「ちょ…レオ…っ」
「まだ時間あるよ?」
「で、でも…夕べだって―」
「前にも言っただろ?俺はいつでもを抱いていたいって。夕べも今もそれは変わらない」
「…………」
「ずーっと繋がっていたいからさ…」
レオにそう言われて私は耳まで赤くなってしまった。
するとレオは私の唇を指でツツ…っとなぞり、
「すぐ赤くなるんだから…そんな顔してたら逆効果だよ、」
「え?…ンッ」
不意にレオに唇を塞がれ、体が電気が走ったようにビクっとなった。
最初から口内を激しく愛撫され、思考なんて飛んでしまいそうになる。
だが胸元に侵入してきた手を慌てて止めると体を捩った。
「ん……?どうしたの?」
レオは少し悲しげな顔で私の頬に手を添えた。
「だ、だって……」
すでに私は首元まで真っ赤だったと思う。
チラっとレオを見上げて、
「早く起きて出かけよ……?」
と言えば、レオも仕方ないといった感じで息をついた。
「分かった…。起きるよ」
ちょっと苦笑しながら私の頬にチュっとキスをすると、レオはゆっくり起き上がった。
「キャ…レ、レオ…何か着てよ…っ」
私はパジャマを着ているが、レオはいつも私を抱いた後は裸で寝てしまうクセがある。
今もそうで私は慌てて視線を反らした。
それを見ながらレオは笑いを噛み殺しているようだ。
「ごめん、ごめん」
と言いながらナイトガウンを羽織っている。
そして私を後ろから抱きしめてきた。
「ほーんとって、いつまで経っても変わらないよな?」
「だ、だって…そんな変われないもん……」
そう…例え結婚したとしても、何度抱かれた相手であっても恥ずかしいものは恥ずかしい…
こんなの慣れたくもない。
だって…当たり前になってしまったら何だか男と女ではいられない気がするし倦怠期ってものが襲ってきそうだから…
でもこのレオを見てると、倦怠期なんてない気すらしてきちゃうんだけど。
レオはギュっと私を抱きしめると後ろから頬に何度もキスをしてくる。
そんな事でさえドキっとする私は変なんだろうか…
だって彼が好きだから…こうして触れられるとドキドキするし体だって熱くなる。
それはやっぱり仕方のない事だ。
そんな事を考えていると、レオの手が後ろから伸びてきてそっと顎を持ち上げられた。
そのまま唇にもキスをされて、また胸がドキンと跳ね上がる。
それに気づいたのか、レオは唇を離すと、
「ほんと…出逢った頃と変わらない…」
と優しい声で呟いた。
そして私を離すと、「先にシャワー入っておいで?」と言って最後にまたチュっとキスをしてくれた。
私は熱い頬を手で押えながらベッドから降りると、チラっとレオの方に振り返った。
するとレオは煙草に火をつけながら、ふと私の方を見て、
「何?一緒に入りたい?」
と言って、いつもの意地悪な笑顔を見せる。
私は慌てて首を振ってからバスルームへと飛びこんだ。
ドアの向こうからはレオの苦笑している声が聞こえる。
「も、もう…。すぐ人をからかうんだから……」
私はブツブツ言いながら鏡に映った自分の赤い顔を見て溜息をついた。
「はぁ…こんな照れるからからかわれるのかなぁ…。今度から我慢して平気なフリしてやろうかな…」
なんて呟いてみるものの、あんなのどうやって我慢したらいいのか分からない。
小さく息をついて軽く頭を振ると新しいバスタオルを出そうと棚の前にしゃがみ込んだ。
「………っ」
その時、突然、視界がぐわんと回ったような感じと共に頭の奥が痺れてくるような感覚が襲ってきた。
(な…何……?)
私は驚いて壁に手をつくと、そのまま暫く動かずジっとしていた。
何だか今朝は体も重かったし疲れが出て眩暈でも起こしたのだろうと思ったのだ。
だが頭も次第に重くなり、痺れてくる感覚は酷くなっていく。
ついでに胸がムカムカして吐き気までしてきた。
「な…何よ、これ……気持ち悪い……」
私は本当に立てなくなって、その場に座り込み壁に寄りかかる。
何だろう……?
こんな風になった事なんて一度もなかったのに…
時々貧血みたいになったりしたこともあったけど、あれは病院の仕事が凄くハードな日が続いて睡眠不足もあったからだ。
でも今はそんなにハードな仕事はしてないし、ちゃんと睡眠も取っている。
まあ、確かに夕べみたいに遅くなる事はあっても…。
やだ…。一応、健康管理はしてきたつもりなんだけど……
知らないうちに"医者の不養生"ってやつになってたのかな…私は医者じゃなくて看護婦だけど。
昨日も買い物中に立ちくらみみたくなったし…帰ったらドクターに診てもらおうかな…
そんな事を考えてると、突然ドアが開いてドキっとした。
「…?!どうした?」
「レオ……」
レオが青い顔で入って来て私の前にしゃがみ込んだ。
「シャワーの音が聞こえないからどうしたのかと思ったら…何?具合悪いの?!」
「う、うん…。ちょっと…」
「ど、どこ?どこか痛い?」
「ううん……何だか頭がクラクラして…それに少し気持ち悪い…」
「ちょ…医者呼ばなくちゃ…。とりあえず掴まって」
レオは本当に慌てた様子で私を抱き上げると、またベッドに寝かせてくれた。
「待ってて?今、フロントに電話して医者、呼んでもらうから…っ」
「え…いいよ…レオ……っ?」
私は驚いてそう言ったがレオには聞こえなかったようでベッドルームを飛び出して行ってしまった。
そして直ぐに戻ってくると私の手をギュっと握って、
「もうすぐ来るから、それまで頑張って…?」
と心配そうに私の頬を何度も撫でてくれる。
そんなレオに私はちょっと微笑むと、「大丈夫よ…。ちょっとした貧血だと思うし……」と言った。
「でもそんなの分からないだろ?とにかく安静にしてて…。に何かあったら俺……」
「レオ……」
彼は少し青い顔のままベッドの下に膝をつき、私の手をギュっと握って自分の額につけている。
「そんな心配しないで…?さっきより少し良くなってきたし…」
「ほんと…?」
「うん…頭の方は治ってきた…。まだ少し気持ち悪いけど…」
「…もしかして……」
「…え?」
レオはそこで言葉を切って不安そうに私を見つめた。
「あの事故の後遺症とかじゃ…」
「あ……」
レオにそう言われて私もドキっとした。
そう…私は、あの事故で頭を強くうち手術をしたんだった。
あの時は色々な検査を受けて脳に異常はなかったと父も診断してくれていたけど、もしかしたら今頃症状が出てきたのかもしれない…
レオもその事を心配しているのだ。
「…」
「レオ…大丈夫よ…?あの時、たくさん検査をうけて大丈夫だって言ってもらったんだから…。これはただの貧血よ」
「なら、いいけど…。でもロスに帰ったらもう一度、お養父さんの病院で検査を受けよう?ね?」
「うん…。分かった…」
心配そうに私の手を握るレオを見て、私は安心させたくて笑顔で頷いた。
レオも軽く息をつくとちょっとだけ微笑んでくれる。
そこへ部屋のチャイムが鳴る音が響き、レオは、「あ、医者が来たよ?」と言うと急いでベッドルームを出て行った。
私は一人になって小さく息をつくと、不安を打ち消すように今までレオの温もりに包まれていた手をギュっと握り締める。
大丈夫……
きっと何でもない……
大丈夫だから……
心を落ち着かせるように、私は何度も心の中でその言葉を呟いた。
この夢のような幸せが壊れるなんて…思いたくなかったら。
心のどこかにあった不安が現実のものにならないように、私はそっと神に祈っていた―――
俺はが診察を受けている間、イライラしながらリビングで待っていた。
次々に押し寄せてくる不安が心の中に渦巻いてるようで少し息苦しい。
彼女をもしかしたら失うかもしれない…という考えたくもない結果を想像して、どんどん頭の中の冷静な思考を奪って行く。
さっき、がぐったりしている姿を見て心臓が鷲掴みされたような感覚になった。
そして頭がクラクラすると言ったのを聞いて、すぐに思い浮かんだのがあの今では思い出したくもない事故―
あの手術は大変だったと後で聞いた。
その後、何度も検査を受けて脳に異常はなかったと聞いて心の底からホっとしたのを今でも覚えている。
でも―
頭の怪我は危険だから…との父ショーンも何度も言っていたのを思い出す。
そう…頭の怪我はその時には見付からなくても後から見つかる事も少なくないと言っていた。
だからこそ消えない不安…
それと同時に彼女がそうなるはずはないという思い。
それらの感情が交じり合って俺の頭の中はグチャグチャだった。
…俺の前からいなくなるなんてそんなの許さない…
やっと君を手に入れたのに…
これから二人でもっともっと幸せになるんだから……
祈るような気持ちでギュっと手を握り合わせたその時、静かにドアが開き、俺は慌ててソファーから立ち上がった。
「先生…」
先ほど来てくれた医者と看護婦が俺の方にゆっくりと歩いて来た。
「は…はどうなんですか?大丈夫なんですか?」
聞きたいけど聞くのが怖い。
そんな感情が一気に俺を緊張させていく。
「まあ、落ち着いて座りなさい」
その医者は静かな口調で、そう言うと自分も看護婦と一緒にソファーに座った。
仕方なく俺も向かい側に座る。
「それで…は…」
「うん…。まあ、ここで少し診ただけじゃ分からないんだ。でも…ハッキリはしないが…」
「いいからハッキリ言って下さい…!は何の病気なんですか?!」
俺は息苦しいのを堪えながらそう怒鳴ると、医者と看護婦は驚いたように顔を見合わせる。
そして軽く息をつくと、その医者はの体の異常が何なのかという事を俺に説明しだした―
「ふんふ~ん。これで、よしっと!さ、ジャック、もう終わったわよ?」
「ワゥ!」
レオの母、イルメリンはジャックのブラッシングを終えると笑顔で立ち上がった。
「ま、あんたほど毛がないとブラッシングなんてしなくてもいいんでしょうけど一応ね?」
「ワゥン……」
イルメリンの心ない一言でジャックが悲しげな声を出す。
「はいはい。ごめんね?あんたも、お洒落したいのよね?」
イルメリンは、そう言って庭からリビングに戻るとジャックも慌ててついてくる。
きっと過去に庭に締め出された記憶が未だ残っているのだろう。
「はぁ~もうお昼かあ。何か作って食べようかしら…」
時計を見ながら、ソファーに座ると、ジャックもすぐに側に来てチョコンと座る。
そしてブンブン尻尾を振りまくって、"かまって、かまって"と言わんばかりだ。
「もう~今までかまってあげてたでしょ~?ほんと甘えん坊ね?あんたは」
「クゥン……」
「クゥンじゃないわよ。全く、いっつもちゃんに甘えてるんでしょ。
ダメよ?ちゃんはレオのお嫁さんなんだから。あんたは犬のお嫁さんでも探してもらいなさい?」
「ワゥワゥ!」
「あら、ノリノリじゃない。ま、でも、あんたはドジなとこ直さないと誰もお嫁には来てくれないわねぇ~」
「ワゥゥゥ……」
「それにどこに目や鼻があるのか分からないくらい真っ黒けっけな顔だし…。
イケワンなのかブサワンなのか分からないわよねぇ~あはははっ」
「ワゥ………っっ!」
「あら、何よ。落ち込んだの?でも事実だし仕方ないわよね?何なら脱色でもする?」
イルメリンは何だか酷いことを言いながら楽しそうに笑っている。
犬の気持ちなどお構いなしだ。
そのうちジャックも耳が垂れ、さっきまでブンブンと降っていた尻尾はシュンと下がってしまった。
相当イルメリンの言葉のパンチが効いたのだろうか。
ノックアウト寸前のように瞳が何だかウルウルしている。
「あははは、あんた感情が激しくて面白い犬ね?やっぱりラブラドールは可愛いわねぇ。私も飼おうかしら。でも黒より茶色かな?」
「ワグ…っ」
最後の一撃を食らったのかジャックはその場にゴロリと寝転がって顔を背けたままフテ寝してしまった。
それを見たイルメリンは、
「あら、ジョークよ?ジョーク!もう、動物は飼い主に似るってほんとね?
ジョークが通じないなんて、まるでレオみたい。やだやだ」(犬に通じるジョークがあるなら教えて欲しい)
イルメリンはそんな事を言いつつ、紅茶を飲んでいると家の電話が鳴り出した。
「あら誰かしら。もしかしてトビーかな?トビーだったら一緒にランチにでも出かけようかな~。もちろんトビーのおごりで♪」
何て言いつつ、いそいそと電話に出た。
「Hello?こちらディカプリオ家」
『…………』
「あら?返事がないわ…。イタズラかしら…」
イルメリンは何も声がしないので首を傾げた。
だが何となく受話器の向こうから殺気にも似た空気が流れてくる気配がして思いつく。
「Hello?もしかして……レオ?」
『……ああ』
「あら、やっぱり!何よ、すぐ返事しなさいよね!イタズラかと思ったわ?」
イルメリンはスネたようにそう言うとケラケラ笑った。
が、ここで、いつもならレオが怒って、
"いちいち電話に出てディカプリオ家って宣伝すんな!"
というところだ。
なのに今回は何も返ってこない。
それにはある意味、恐怖を覚えたイルメリンは恐る恐る、
「レオ…どうしたの?何か…あった?」
と聞いてみた。
すると受話器の向こうで溜息が聞こえてきた。
『母さん…』
「な…何?ジャックならイジメてないわよ…?」
「ワゥ…っ(嘘つけと言いたいらしい)」
『そんなのいいよ……。時々イジメてやって…(!)』
「そ、そう?なら、お言葉に甘えて…(?!)」
そんな事を言いつつイルメリンも軽く深呼吸をすると、
「で……どうしたの?何か用事?」
と聞いてみた。
『ああ…。大変なんだ…』
「え?何が…?」
『今…を医者に診せたんだけどさ…』
「は?!ちゃんを医者にって…どうしたの?!ちゃん何かあったの?!」
それにはイルメリンも驚いたようで一人オロオロと歩き回っている。
それをジャックも驚いたように顔を上げた。
『あのさ……』
暫く黙っていたレオが不意に話しだし、イルメリンは緊張した。
「え、ええ……」
『……が……』
「う、うん……」
『…かもしれないんだ……』
「え?ちょっと、よく聞こえないんだけど…っ」
レオの声が小さくなり、イルメリンは受話器にこれ以上、近づけられないってくらいに耳をつけて聞き返した。
『……だから…が……』
「う、うん……」
『………妊娠したかもしれない…』
「へ……っっ?!」
イルメリンはわが息子の、その突然の報告に一瞬、耳を疑った。
「に…妊娠?!ちゃんが?あんたの子を?!!」
『ああ…。まだ……ハッキリしないんだけど……』
「う、嘘ぉ~~~~~~っっっ!!そ、それは何で?!何か症状でもあったの?!」
イルメリンは動揺しつつも、そういうとこはシッカリと聞いている。
さすが子供を産んだことのなる女性だ。
『それが…少し貧血気味だったのと…吐き気がするって…』
「そ、そう…!で…?月のモノは?!」
『ちょ…!息子にそういう事聞くなよ…っ』
「バカ!何を照れてるの!大事な事じゃない!で、どうなの?!」
『それが…予定日よりもズレこんでてそう言えば暫く来てないって…。お、俺にじゃなくて医者に言ってたって…』
どこまでもこの話に照れる息子にイルメリンは苦笑した。
「何よ、あんた。あちこちの女にいーーーーーっぱい手を出してるクセに変なとこで照れるのねぇ~?」
『う、うるさいな!好きな子の事なんだから当たり前だろ?!それと!!"手を出してる"って言うな!
今は出してないんだから過去形で話せ!誤解されるだろ?!』
レオはかなり怒っているのか、それともまだ動揺してるのか、慌てたようにそう怒鳴ってきた。
それでもイルメリンも慣れたもので受話器を耳から離して口笛を吹いている。
『ちょっと母さん、聞いてる?!』
「え?ええ、聞いてるわよ?もちろん。それで…ちゃんはどうしてる?体調は?」
『今は寝てる。妊娠してるかもしれないから薬もあげられないし…具合悪そうなんだけどさ…』
「そう。じゃ明日ロスに帰って来るんでしょ?すぐに産婦人科に連れて行かなくちゃね?」
『ああ。そうするよ…。俺は…何したらいい?』
「そうねぇ…。あ、まずは万が一の事を考えて彼女の前では煙草を吸わないこと。
妊娠してたとなると匂いでも気持ち悪くなっちゃうし体にも良くないから」
『分かってる』
「それと……吐き気がするならあまり食事もとれないだろうから果物とかをあげて?」
『果物…?どんな?』
「そうねぇ。グレープフルーツとか…水分の多くて酸味のある方がいいわね。それと噛まなくてもいいようなゼリーとかもいいわよ?」
『わ、分かった…。な、なあ母さん…』
「何?」
『もし…が妊娠してたなら……俺は父親になるって事だよな…?』
「当たり前でしょ?何言ってるのよ」
『いや…何だか実感なくてさ…』
「そりゃそうよ。まだハッキリしたわけじゃないし。もし生まれてその腕に抱いたら実感沸くわ?」
イルメリンは、そう言って、
「とにかく…安静にしてあげて?ちゃんも不安だと思うし、普段以上に優しくしてあげるのよ?」
と優しい口調で言った。
『ああ、分かってるよ…。じゃあ…明日、また帰る時に電話する』
「分かった。じゃあね?何か困った事があれば、また電話しなさいよ?」
『ああ、じゃ…』
そこで電話が切れてイルメリンは静かに受話器を置いた。
そして笑顔でジャックの方に振り返ると、
「ジャック~~~~!!!!初孫かもしれないわぁ~~~~~!!!」
と叫びながらジャックの方に走り出す。
それには今までフテ寝をしていたジャックもギョっとしたように飛び起きて、窓から凄い勢いで飛び出そうとした。
だが……不運なことに窓は閉めてあり、ジャックは見事に窓に激突。
鼻先の打撲、全治一週間だったそうな……。
「はぁ……」
俺は電話を切ると軽く息をついてソファーに座った。
まだ胸がドキドキしていて苦しいくらいだ。
さっき……医者の様子に本気で心配したのにあのおっさんの口から出た言葉は、
「……ハッキリしないんだが…。奥さんね…もしかしたら…妊娠してるのかもしれないね」
という想像すらしていない言葉だった。
思わず目が点になってしまったくらいだ。
まあ、確かに妊娠していたなら疲れが堪るとあんな風になる人もいるという。
体力を使うのは二人分になるわけだから…。
それに吐き気…"つわり"と言う奴だろうか。
頭の怪我でも吐き気が出るというし、俺はてっきりそうかと思っていたのだが…
まあ、あの医者の言うようにここで診ただけじゃハッキリ分かる筈などない。
とにかくロスに帰ってから病院に連れて行かないと…
俺は心配していた病気じゃなくてホっとしたのと同時に、もしかしたら父親になるかもしれないという逆の不安を感じていた。
子供かぁ…
何だか変な気分だ。
自分の子供なんて想像した事もない。
それでも…が生んでくれたならそれは凄く嬉しい事なんじゃないかとも思えてくる。
いい父親になれる自信はないけど、それでも…また一つと家族というものになれた気がして心の奥が温かくなった。
そんな事を思いながら立ち上がるとそっとベッドルームに入っていく。
ベッドではがスヤスヤと眠っていた。
でも…病気じゃなくて本当に良かった…
まあ、頭の方はロスに帰ってもう一度検査をしないと…と思うが、とりあえず具合が悪いのは収まったようだしな…
ベッドの端にそっと腰をかけての可愛い寝顔を見ていた。
そっと指で彼女の頬を撫でていると、奥から溢れてくる愛しい…という気持ち。
これが本当に半分は子供に行ってしまうんだろうか…
ふと、そんな事を考えていると、がかすかに動いた。
「ん…」
「……?」
そっと声をかけるとは顔を俺の方に向けてゆっくりと目を開けた。
「ん…レオ…?」
「ああ…」
「今…何時…?」
「今は…昼過ぎだよ…?」
「そう……」
「そんな事より…具合はどう?まだ吐き気がする?」
の頭を優しく撫でながらそう聞くと、彼女は軽く首振った。
「ううん…。もう大丈夫…。でも…ごめんね…?」
「え?何が?」
「今日…旅行最後の日なのに出かけられなくなっちゃって…」
「バカ。そんなのいいよ…。いつでも来れる。それよりの体の方が大事だよ…?」
俺はそう言っての額に軽く口付ける。
するとも嬉しそうに微笑んだ。
「、お腹は?」
「ううん…空いてないわ…?」
「そう?もし…空いたならフルーツでも頼むから言って?」
「うん…。ありがとう…」
は俺の手をそっと握るとそう言ってから軽く目を伏せる。
「ねぇ、レオ…」
「ん?」
「もし…ほんとに妊娠してたら…嬉しい?」
「え?」
「レオは…どう思う……?」
は少し恥ずかしそうに、それでも俺を真っ直ぐに見つめてくる。
その瞳を見ているとつい抱きしめたくなった。
「レオ…?」
静かにを抱き起こしギュっと抱きしめると、彼女は驚いたように体を固くした。
俺はの顔を覗き込んでそのまま触れるだけのキスをすると、
「嬉しいよ…?俺と……の子供だろ?何だか凄く嬉しい…。少し不安もあるけどさ」
と素直な気持ちを伝えた。
それにはも笑顔になる。
「私も…嬉しいけど…凄く不安…」
「は生む方だからね…?俺は代わってあげられなくてごめんね?」
少しおどけたようにそう言えば、はプっと噴出した。
「やだ…レオが産むとこ想像しちゃった…」
「うわ、勘弁して…」
そう言って眉を下げると、はますます笑ってしまう。
そんな彼女を、もう一度抱きしめると、
「ロスに…帰ったら…一緒に病院に行こう?」
と言った。
「うん……」
恥ずかしそうに小さく頷くが愛しくて、彼女の額、頬と順番にキスをした。
「愛してる……」
「ん……私も……」
も少しだけ顔を上げて恥ずかしそうにそう呟いたのを見て俺は優しく微笑んだ。
「これからも、ずっと……俺の傍にいて…」
今の気持ちを言葉にするには難しいから…俺は彼女にそれだけ伝えて、最後は唇にキスをした――
>>Back
ACT.7...抱きしめたい>>
うひゃー久々に更新です!
これを待っていて下さった皆様、ほんと遅くてごめんなさい!
久々の更新で少し急展開です(笑)
さ~どうなんでしょうね~( ̄m ̄)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
|