From me Dear you....~Catch
me if you can!Sequel...~
ACT.7...抱きしめたい
ディカプリオ家は、この日、朝から騒々しかった。
と言ってもこの家の主は愛しい妻と少しばかり遅めの新婚旅行中で不在。
だが、その留守を任されたレオナルドの母、イルメリンが朝からドタバタと一人で家の中を走り回っていたのだ。
「ちょっとジャック!邪魔よ!そこ、どいて!」
「ワゥ?」
イルメリンの大きな声と足音が聞こえて来て床に寝ていたジャックは、ヒョコっと顔を上げ耳をピクっと動かした。
そして足音が近くなると慌てて起き上がり、尻尾を下げたまま、ベランダの方に非難する。
そのジャックを見れば何やら鼻に可愛い犬の絵柄のカットバンが貼られているようだ…。
「あ~忙しい、忙しい!」
イルメリンは独り言を言いながら大きなシーツを抱えて庭へと出ていく。
そして非難したつもりで移動していたジャックは後ろから迫ってきた足音に驚いたように庭へと飛び出した。
だが、そんな事は気にもせずイルメリンはシーツを広げて庭に干しながら時間を確認している。
「あ~早くしないと帰って来ちゃうわ…。えっと次は~~…」
一人ブツブツと言いながらリビングへと戻って行くイルメリンを庭先に置いてあるテーブルの下からジャックが恐々と覗いている。
心なしか、顔は生気がなく、お腹が空いたぁ…と言いたげな顔だ。
時刻は午後2時。
いつもなら朝と夜の食事のうちの朝ご飯を食べて満足したまま昼寝をしている時間である。
だが今日に限ってジャックは何ももらえていなかった。
と言うのも夕べ、レオからの電話ですっかり"初孫"が出来たかもしれないと浮かれたイルメリンは
今日、帰宅予定の息子夫婦の為に家中の大掃除をし始めたからだ。
まずは買い物に行って必要な食材を買い込み、いつでも栄養のある食事を作れるようにとキッチンにスタンバイしてある。
それから寝室の空気を入れ替え、布団を干しシーツも新しいものに変え、妊婦になったかもしれない嫁の為に清潔な場所を用意しておく。
後は他の部屋も簡単に掃除をしていきながら洗い終わったシーツを干しに来たと言うわけだ。
そしてそれも終わった今、先ほど食材を買いに行ったついでに婦人服売り場を覗き、ついつい買って来てしまった服の数々を二階へと運び出した。
「う~ん…さすが私ね(!)センスがいいわ!」
大きなキングサイズのベッドにズラリと並べたマタニティドレス(!)を見渡し満足そうに呟いたイルメリン。
"妊娠したかもしれない"から、すっかり"妊娠した"気分になり、ホクホクしながらそのドレス達を眺める。
「きっとちゃんなら肌も奇麗で白いしこの真っ白なドレスか、こっちの淡いピンクベージュのドレスが似合うわねぇ~。
あ、でもバカ息子ならきっとこれを着せそうだわ。一応、レオの好みも尊重して(!)買ってはみたけど…黒のマタニティってのもねぇ…」
イルメリンはそう呟きながら黒の少しセクシーとも見えるマタニティドレスを手に取り、何故か自分に当ててみる(!)
「あら、私にも似合いそうだわ♪」
なんて言いながら鼻歌なんて歌い出し、そのとてもじゃないけどマタニティには見えない黒のドレスを当てている。
胸元も普通のより大きく開いているし、何だか凄くミニスカートのようだ。
だいたい、こんなマタニティを着る妊婦がいるのか?とも思うが売っているのだから買う人もいるのだろう。
だが、これを好みだと思われているレオからは抗議の声が上がりそうだ。
いや、ほんとに好みなのかもしれないが……(!)
「クゥン……」
「あら?ジャックじゃない。どうしたの?そんな元気ない顔しちゃって!もっと喜んだら?ご主人様達が帰って来るんだから」
「………ヮゥ…」
一人鏡の前でマタニティを当てながらルンルンしてると、いつの間にかジャックがドアのところに座っている。
ジャックにしてみれば、"そろそろ、ご飯ちょうだい?"と言いに来たつもりなのだがイルメリンは一向に気付いてない。
それがジャックにも伝わり、悲しげに鼻を鳴らしたと言うわけだ。
鼻を鳴らすとかすかにカットバンの絵柄が歪むのがまたジャックの味を出している。
プルルルルル…プルルルルル……
そこに家の電話が鳴り響き、ジャックは項垂れていた顔を上げた。
「あら電話!もしかしてレオかな?空港についたのかも!」
イルメインは嬉しそうにそう言うと寝室にあるコードレスフォンを取った。
「Hello?こちらディカプリオ家」
『あ、レオママ?俺、俺ぇ~♪』
何とも能天気な声が聞こえて来て、イルメリンも思わず笑顔になる。
「あら、トビー!どうしたの?」
『今日の仕事終ってさぁ~。少し遅めのランチを一緒にどうかな?って思ってね?悪魔な息子は、まだ不在だろ?』
「まあ、ランチ?嬉しいわ!そう言えば私、まだ何も食べてないの!」
「ワゥ…っ」(僕もだーと言いたいらしい)
『そう?じゃあ今から誘いに行っちゃおうかなぁ?』
「ええ、来て来て!あ、でも私が腕によりかけちゃうからうちで食べない?」
『え?いいけど…どっかのレストランじゃなくていいの?いつも行きたがるじゃん』
普段と様子の違うイルメリンに、トビーも不思議そうに聞く。
それにはイルメリンも、待ってましたとばかりに笑顔になった。
「それがねー!夕べレオから電話があってちゃんが妊娠したって言うのよ~!」(言ってないから)
『えぇぇぇぇぇっっ?!!に、妊娠?!!俺のちゃんが?!』(オイ)
「そうなの!でね?今日の夕方には帰って来るし、ほら色々と世話をしてあげないといけないから家にいなくちゃならないのよ」
さしてトビーの言葉に何の違和感もなく聞き流したイルメリンは、一人浮かれながらそんな事を言っている。
別に頼まれたわけでもないのに、の世話をする気らしい。
『そっか~…とうとう悪魔の子を…(オーメンか!)でも、じゃあ俺も一緒に出迎えて世話するよ!待ってて、レオママ!』
「ええ、待ってるわ?じゃ軽く何か作っておくわね?」
『うん!愛車、ぶっ飛ばして、すぐ行く!』
トビーはそう言うと電話を切った。
「やったわ~。トビー来てくれるって!やっぱり一人でランチは嫌だしね。それにジャックは話し相手にならないんだもの!使えないわ~」
「ワ…ワゥ……?!」
イルメリンの言葉にグサっと何かが刺さったようなジャック。
だいたい話し相手になる犬がいたら紹介して欲しい。
「さぁ~何を作ってあげようかしら~」
イルメリンはウキウキしながらそう呟くと、ベッドの上に並べたままのマタニティをそのままにスキップしながら寝室を出て行く。
その後を必死に追いかけるジャックの爪の音がカチャカチャと響き渡った。
イルメリンの後に続いてジャックもキッチンに入ると、慌てて自分用のご飯容器を咥え、振り返ってアピールしてみる。
尻尾も、いつもの倍は振っていた。
だが、スッカリ浮かれ気分なイルメリンはそんなジャックなんて見ちゃいない。
「あ、そう言えば、さっき買って来たラザニアがあったっけ。それでいいっか!」(!)
と言いながら、すでに出来上がったラザニアを取り出しレンジに放り込んだ。
一体、これのどこが"腕によりをかけちゃう"になるのだろう?と首を傾げたくなる。
そして、そのまま紅茶を淹れて一人リビングに鼻歌を歌いながら歩いて行ってしまった。
旅行に行く前、レオに"ジャックの散歩とご飯はちゃんと面倒みろよ?"ときつく言われたのをスッカリ忘れている様子。
「ワ…ワゥ………」(ぼ、僕のご飯…)
そして、キッチンにはご飯容器を咥えたままのジャックが一人…いや一匹ポツン……っと取り残されたのだった。
「さ、ついたよ?」
俺は車を家の前に止め、隣のを見た。
は少し眠いのか目を擦りながら顔を上げる。
「大丈夫?具合は?」
「ぅん…大丈夫…。ちょっと眠いだけよ?」
はそう言うとニコっと笑ってドアを開けようとした。
「あ~ちょっと待ってっ」
それを見て俺は慌てて車を降りると、すぐに助手席へと回りドアを開けてに両手を伸ばした。
「おいで」
「え…?い、いいよ…。自分で歩ける……」
「ダ~メ!俺が運ぶから」
「だ、だって今日、私、歩いてないよ…?」
そう言って上目遣いで見てくるに少しだけ怖い顔をしてた俺も簡単に笑顔になってしまう。
の言う通り、今日は向こうのホテルを出てから飛行機に乗るまで彼女は一度も歩いていない。
俺がずっとを抱えて移動したからだ。
だって体が弱ってるだけでも心配なのに、もしかしたら妊娠してるかもしれない…となると普段以上に慎重になるのも当然だろう。
どうせホテルから空港まではタクシーを利用し、空港では裏口から入れてもらい搭乗させてもらった。
なので人の目に付かないのだから、と俺がを抱いたまま飛行機に乗り込んだのだ。
だがは、その徹底振りに、凄い病人でもないのに…と少しご機嫌斜めというわけ。
「ほら、そんな口尖らせないの。早くおいで?」
助手席で、まだ少しスネているに俺は笑いを噛み殺しながらそう言えば彼女もやっと両手を出してくる。
そのままの体を抱き上げ、いわゆるお子様抱っこをすると、家の方に歩いて行った。
その時、母さんについたって連絡するの忘れてた…と思い出したが、まあいいか…なんて思いつつエントランスの方に行くと、
何だか見覚えのある趣味の悪い色の車が視界に飛び込んで来た。
「う……っ」
あ、あの趣味もセンスも最悪なランボルギーニは…っっ!!
「あっ、あれトビーの車じゃない?」
そのスパイダーマン色(特注らしい)の派手な車にも気付いて俺の顔を覗き込んできた。
だが俺は、その場で足を止め、いっそこのまま二人で逃げてしまおうか…と考えていた(!)
「レオ…?どうしたの?入らないの?」
「……あ、ああ……」
は不思議そうに首を傾げながら俺を見ている。
その可愛い表情に、つい俺も笑顔を向けて頷いてしまった。
(くそぅ……帰って来て早々、邪魔者、襲来かよ…!)
半分ヤケクソ気味に歩き出し、思い切りドアを開けた。
「ワゥ!!」
「うあっっっ!!!」
開けた瞬間、黒い物体が飛びかかってきて俺は思わずを庇って体を翻した。
すると、その黒い物体はその勢いのまま外に飛び出していき、俺はそれを確認してからドアを閉めた(!)
「ふぅ…危なかった……」
「ちょ…レオ?今のジャックじゃ…」
「ああ、いいの、いいの。どうせ庭から回って来るからさ。それより疲れたろ?少し休もう?」
俺はそう言っての頬に軽くキスをするとリビングに行かず、そのまま足を忍ばせ、寝室に向かった。
「レオ…?お義母さんに声かけないと…」
「ああ、そんなの後でいいよ。が休む方が先」
そう言って微笑むと、俺は寝室のドアを開けた。
そして笑顔が一瞬で凍りつく。
「な……何だよ、これ……っっ」
「え?あ………っ」
俺とは二人してそのベッドの上に奇麗~にディスプレイの如く並べてあるマタニティドレスに目が点になった。
「こ、これ……」
「ああ……。こんな事するのは……母さんしかいない…」
俺は軽い眩暈を感じつつ、仕方なくをベッドの端に座らせた。
「凄い沢山……。お義母さん、勘違いしちゃったのかな…?」
少し不安そうに顔を上げたに俺は軽く首を振って目の前にしゃがんだ。
「いや…俺は、"妊娠したかも…"って言ったし…。きっと勝手に決め付けて勝手に買ってきたんだよ…」
「そう…。でも…もし違ったら悪いわ…?」
「……そんな事ないよ。今回、もし違ったとしても次がある。いつか使える時は必ず来るんだしさ」
そう言っての頬にチュっとキスをすると、彼女は少し照れくさそうに微笑んで頷いた。
「じゃあ…これ片付けるから、は横になって」
「でも…お義母さんに挨拶くらい……」
が、そう言いかけた時、下から俺の心を逆撫でするような声が聞こえてきた。
「レ~~~~オ~~~~~っ?!帰ってるのぉぉう?!」
「「………………っっ」」
そして続いて聞こえてくる階段を上る足音に俺はガックリと項垂れた。
「レオ?何よ、帰ったなら帰ったって……あ、ちゃん~~!!」
「あ、お義母さん、ただい…ひゃっ」
母さんは部屋に顔を出したと思った瞬間、いきなりにガバっと抱きついた。
「体、大丈夫~?具合は?!」
「あ、あの……今のとこ、大丈夫です…」
「そう?あ、これ見た?どうかしら?可愛いでしょ?!」
「は…はい…」
今度はを離すとベッドに並んだマタニティを手にとり、早速の体に当てている。
「キャ!やっぱり、この色がちゃんに合うわぁ!~可愛い!」
「あ、ありがとう御座います……」
も戸惑いつつも笑顔を見せてチラっと俺の方を見た。
確かに母さんが当てている真っ白のドレスはによく似合って可愛かった。
「ちょっと母さん…少し気が早いよ…。俺は"妊娠したかも"って言ったんだぞ?」
「え?そうだったっけ?まあ、いいじゃないの!明日、病院に行くんでしょ?そしたらハッキリするわ?」
「そうだけど……」
「ねえ、そんな事より、ほら、これ!あんたの好みじゃなぁい?」
「は?」
母さんの言葉に、そっちを見れば、またマタニティを取っての体に当てている。
だが俺は、そのほんとにマタニティか?ってくらいのセクシーなデザインのドレスに目が点になった。
「これ、あんた用に買って来てあげたわよ?どう?いいでしょ~」
「お、お義母さん……っ」
も驚いた顔で頬を赤くしているが、俺は母さんの言葉に苦笑しながら肩を竦めた。
「まぁ…好きか嫌いかって聞かれれば好きなデザインだけど…。妊婦のにそんなの着せたら俺が辛いだろ?」
「何でよ?ああ~。理性が保てなくなっても手は出せなくなるものねぇ~」
「ちょ…お、お義母さん…?!」
母さんの言葉には真っ赤になってしまった。
それには俺も笑いながらの隣に座り彼女の頬にキスをすると、「まあ、そうだな?」と言った。
「レ、レオ…っ。何言って…」
は耳まで真っ赤になって俯くとそのまま立ち上がる。
「?どこ行くの?寝てないとダメだよ」
「で、でも…ジャックが心配だし……」
俺が腕を掴むと、は困ったように目を伏せた。
「大丈夫だよ。俺が入れて来るから…は寝てて?―ちょっと母さん、ここ片付けてくれる?が寝れないだろ?」
「ああ、そうね。じゃ、これはクローゼットにしまっておくわ?」
母さんはそう言うとマタニティドレスを手早く片付けクローゼットに仕舞いこんだ。
「今、トビーと一緒に栄養のある食事作ってるの。待っててね?」
「え?でも、そんな…」
「いいからちゃんは休んでて?例え妊娠じゃなかったとしても疲れてるのは間違いないんだから」
母さんはそう言ってウインクすると寝室を出て行った。
それを見届けてからドアを閉めると、俺はの傍に行ってギュと抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。
「レオ……?」
「ほんとに大丈夫…?」
「うん…。少し眠いくらいだから…大丈夫よ?」
「そう?じゃあ…少し寝てていいよ?俺は、その間にトビー追い返してくるからさ」
「また、そんなこと言って……」
俺の言葉には困ったように微笑んで目を伏せたが、そのまま彼女の唇にチュっとキスをして起き上がる。
「じゃ、ちょっとジャック入れてくるよ。、着替えて横になってて」
「うん…分かった」
笑顔で頷くの腕を引っ張り起こすと軽く彼女の頬にキスをして俺は寝室を出た。
階段を下りてすぐドアを開けてみると、目の前にはジャックが泣きそうな顔で座っていてその情けない顔にちょっと噴出してしまう。
「ワゥゥン……」
「ああ、ごめん、ごめん!そんな顔するなって。ほら入っていいよ?」
俺がそう言うとジャックは途端に元気よく尻尾を振って中へと入って来た。
3日ぶりに会ったからか、あまりに足にジャレつくので、俺はしゃがんでジャックの頭を撫でてやったが、ふと鼻先のカットバンを見て首を傾げる。
「おい、ジャック…何だ?そのカットバン…。しかも絵柄までついて…。どっかに、またぶつけたのか…?ドジだなぁ…」
「クゥン…」
「そんな切ない顔するなよ。ってお前、バンダナまでされてすっかり母さんのオモチャにされてたんだなぁ…」
ジャックの首に巻きつけられた黄色いバンダナを見て苦笑気味にそう言うと、彼も(!)かなりストレスが堪ってたのか、
俺に訴えるように、「ワグン…ワゥゥ……ワゥ…ン…」と鳴き出す。
「そっかそっか…。そりゃ悪かったな?あの人、天然で意地悪だから…」
と自分の事は棚に上げてジャックにそう言えば、彼の目は"お前もだろ"と言いたげな感じだった…
「さて、と…。トビーのバカを追い返すには……どうするかな…」
そんな事を呟き立ち上がると、リビングを覗いてみた。
すると、そこには誰もいない。
「ああ、一緒に夕飯作ってるって言ってたっけ…」
ふと思い出しキッチンへ行こうとした、その時…
「レオォォ~~~っっっ!!!お帰りぃ!!」
「うあっ!!」
後ろから重たいものにガバっと抱きつかれ、俺は前のめりになった。
「凄く寂しかったよ~~!!」
「ト、トビー!!離せ、バカ!!」
ぎゅうぎゅうと後ろから男に抱きしめられ、俺は鳥肌を立てながら必死に奴の腕から逃げ出した。
「何だよ~相変わらず冷たいなぁ」
「う、うざったいんだよ、お前が!!いちいち抱きつく……って、おい、それ何着て……っ!」
「あ、これ?のエプロン、また借りたんだ~」
目の前のトビーを見れば、また性懲りもなくのエプロンを勝手に使っている。
それを見て俺は思い切り溜息をついた。
「いいから、それ脱げ…。そして帰れ…(!)」
「えぇ?何それ?!のベイビーの父親に向かってなんて事を…っ!」
「だから、うるさ…………って今、お前、なんつった……?」
俺は一瞬、聞き間違いかと思って軽く耳をほじって(!)もう一度聞き返してみた。
すると目の前のバカな親友は、ニカっと笑い、
「だからのベイビーの父親に向かってなん―」
「誰がの子供の父親だっっっ!!お前が何てこと言ってくれてんだよ、このバカ!!」
「…………………」
ハァハァと肩で息をしながらトビーを睨んでいると、奴は無表情のまま、キッチンへと歩いて行こうとする。
その首ねっこをむんずと掴んだ。
「ぐぇ…っ。は、離せ、レオ…軽いジョー……」
「一番、許せないジョークだ…っ二度と言うなっ!」
そう怒鳴ると、そのままトビーを引きずり、エントランスまで連れて行く。
そしてドアを開けてポイっと外へ放り出した。
「うわ~~~っっ。レオォ~~ごめんよ、ごめんて!もう言わないから入れてくれよ~~っっ」
「うるさい!その悪趣味な車で、サッサと帰れ!!このバカスパイダーマンめっ!」
俺は、そう怒鳴るとバンっとドアを閉めて思い切り鍵をしめてやった。
「はぁぁぁ……。どっと疲れた……。やっと帰って来たと思えば、これかよ…」
俺はゲンナリしつつリビングに戻ると、ジャックが恐る恐る起き上がりノソノソと俺のところへ歩いて来た。
しかも何か口に咥えている。
「あれ……?ジャック…それ、お前のご飯用の皿じゃないか…。どうして、こんなもん……」
と、そこで言葉を切った。
「まさか……」
そう呟いて急いでキッチンへと行った。
「ちょっと母さん!」
「あら、レオ。トビーは?これ混ぜておいて欲しいのに…」
「あいつなら追い返したよ!それより今日、ジャックに、ご飯やったのかよ?!」
「え?ジャックのご飯………あ………っ! ―忘れちゃった……アハv」
「な……っ。"アハv"、じゃないよ!全く!見ろよ、こんなゲッソリしちゃって!まさか昨日もあげてないなんて事は…っ」
「あ、あら嫌ねぇ~。あげたわよ?昨日は。今日はその…掃除とか買い物で忙しくてついウッカリ…ごめんね?ジャック」
「……ワゥゥゥン……」
母さんの言葉にジャックも抗議の声を上げつつ、悲しげに俺を見上げてくる。
「ったく…もう…!自分で面倒見るからって言い出したクセに何だよ…! ごめんなぁ、ジャック…。ほら、いっぱい食え」
俺はジャック用の缶詰を開けるとジャックの咥えた容器を下においてご飯を入れてやった。
するとジャックはよほど空腹だったのか凄い勢いでガツガツと食べ始め一瞬呆気に取られる。
「お、おい…少しゆっくり食べろよ…。喉に詰まらせるぞ……?」
ジャックの頭を撫でながらそう言うも、ジャックには聞こえてないのか、丸呑み状態でハグハグと食べ捲っている。
「母さん…ほんと…頼むよ…。にバレたらどうするんだ?」
「はいはい…。悪かったわよ…。それより、あんたトビーを追い返したってどういう事?彼は私のボーイフレンドでもあるのよ?」
「あ~あいつ?あいつは俺に史上最悪のジョークを言った罰としてエプロン姿のまま外に放り出した」
「ま!何てことするの?あ、ちょっとレオ、あんた変わりにこれ、かき混ざしておいて!」
「え?お、おい、母さん!!」
母さんは俺に野菜の入ったボールを無理やり押し付けるとそのままエントランスの方に走って行った。
どうせトビーを迎え入れてやる為だろう。
「はぁ……何で帰って早々、こんな事しなくちゃならないんだよ……」
俺は心底、家族や友に恵まれていない…と溜息をついた。
そこへ騒々しい声が聞こえて来てトビーが入れてもらったんだと分かる。
「あーレオ!酷いじゃないか、締め出すなんて!」
「締め出したんじゃない。追い出したんだ。帰れよ、ほんと!」
「嫌だよ!ちゃんの元気な顔見てからじゃないとねっ」
「おま…に近づくなよ?!」
俺はそう言って睨むと、さっき母さんから渡されたボールをトビーの胸に押し付けた。
そこに母さんもやってくる。
「レオ、今、ドア開けたらトビーと一緒に彼もいたんだけど…」
「は?彼?」
その言葉に眉を寄せるも嫌な予感がして、俺はリビングに走って行った。
バン…!っと勢いよく、ドアを開けて中へ飛び込むと……
「おぅ、レオ。お帰り!」
「ぐ……っっ。ジョ、ジョォォォォ~…」
そこには別に会いたくもないマネージャーの顔があり、俺は全身から力が抜けて行くのを感じてフラフラとソファーに座り込んだ。
「ん?かなり疲れて帰って来たようだな?どうだった?短い新婚旅行……」
「帰って来て疲れたんだよ……っっ!!」
「な…何だよ、怖いなぁ…。帰って早々、何を怒ってるんだ?お前は……」
「誰が怒らせてるんだよ!で?!ジョーは何しに来たわけ?!」
俺は煙草に火をつけると怯えたように俺を見ているジョーを睨みつけた(!)
「そ、そんな怒るなよ……。今日帰って来るって思ったからちょっと顔出しただけだって…。
そしたらドアの前でトビーが可愛らしいエプロンつけて立ち尽くしてるし驚いたよ、ほんと。あはははっ」
「あははは…じゃないよっ。いちいち来んなっ」
「まぁまぁ。夕飯食ったら帰るからさ」
「食うなよ!帰って自分ちで食えよ!ここで食うな!」
「な…何だよ~。いつにも増してピリピリしてるなあ…。どうした?ちゃんとケンカでもしたか?」
「……するわけないだろ?それよりジョーも、そろそろ一緒に食事してくれる彼女でも見つけたら?」
俺はムスっとしたままそう言うと、ジョーは明らかに動揺している。
「な…何言って……っ。そ、そんな子、俺に出来る訳ないだろう?!」
ジョーはそう言うと煙草を吸おうとして動揺からか、反対に咥えてフィルターに火をつけてしまい、
「うあ、おぇぇ…っ(!)」
と一人で騒いでいる。
そんなジョーを見て、俺はピンっときた。
(はは~ん……彼女…シェリーだっけ…何かあったのかな……?)
ジョーは俺に彼女の存在を知られていないと思っているが、俺は偶然、公園でその子と会ってるのを見た事がある。
ジョーが追いかけるには少し高嶺の花のような可愛らしい女の子だった。
そんな事を思いだしつつ、一人焦って視線を泳がせているジョーに俺は笑いを噛み殺した。
「と、ところで…その愛しのちゃんの姿が見えないが…どうした?ほんとはケンカして実家に帰られたんじゃ…」
「んなわけあるかよ!なら上で休んでるよ」
「そ、そうか…。旅行で疲れたとか?」
「いや、それもあるけど……」
と、そこまで言って言葉を切ると、そう言えばジョーにも言っておかないと…と煙草を消して顔を上げた。
「ジョー、あのさ」
「ん?浮気でもバレたか?慰謝料は高くつくぞ~う?」
「バ……っ浮気なんてするかっ!」
「そうか?お前なら充分、ありえると思うんだがな~」
ジョーはそう言ってヘラヘラ笑っている。
奴はどうしても俺とをケンカさせたいらしい……後で覚えてろ(悪)
「絶対ないね!!」
「そうかぁ~?すっごい美人でナイスバディな女が誘って来たらいくら何でも行くだろう?」
「行かないよ!!つか、そんな話はどうでもいいから……」
「いやいや~。人間なんて、早々変わらないぞぉ~?お前は好みの女と見ればすぐ……」
「そんな下らない妄想はいいから、いい加減に人の話を聞けっつーの!!」
俺は我慢も限界にきてソファーから立ち上がると、さすがにジョーも口を閉じた。
「な…何だよ…。いつものジョークだろ?そんな怒らなくても……」
「今日の俺はジョークを聞いて笑ってられるほど機嫌が良くないんでね。つか、笑えないけどね!」
「はいはい…分かったよ…。で…何だ?」
ジョーは少し逃げ腰ながらやっと俺の話を聞く気になったらしい。
俺はそこで息をつくともう一度ソファーに座った。
「あのさ…。まだ明日、病院に行ってみないと分からないんだけど……」
「な、何?!病院?!お前、誰かに変な病気でも移されたのか?!」
ピキ………ッッ
「あ、いや、これもジョークだって…。そんな青筋立てなくても……」
「下らないジョークばっか言うなら今すぐ追い出すぞ……?」
「わ、分かった…。ちゃんと聞く…。それで…誰が病院に行くんだ?」
ジョーは慌ててソファーに、きちっと座りなおし俺の方を伺うように見ている。
俺はドっと疲れが出て来たが、そこを何とか堪えて軽く髪をかきあげると、
「……なんだけど…」
と言ってジョーを見た。
「な、何?ちゃんがどうして?どこか具合でも悪いのか?!」
「いや…。まあ、ちょっと疲れてるみたいだけど今回は普通の病院じゃなくて……産婦人科なんだ……」
「………な……っ!何ですと……?」
ジョーはハトが豆鉄砲みたいな顔で俺をジっと見ている。
そんなジョーの間抜けた顔に噴出しそうになるのを堪えながら、
「いや、まだハッキリしてないから検査に…」
と言葉を続けた、その時、ジョーが勢いよく立ち上がった。
「ど、どうした―」
「お、お前……!彼女を妊娠させたのか…っっ?!」
「………はぁ?!」
おいおい…今、何て言った…?
"彼女を妊娠させたのか…?"とおっしゃりましたか?このバカマネージャーは……
"彼女、妊娠したのか?"じゃなく、"妊娠させた…"…させたって何だよ?!俺とは夫婦なんだぞ?
どう考えてもジョーの言葉が理解できず、俺は呆れたように目の前で立っているジョーを見上げた。
「あのさ、ジョー…。ちょっと、その言葉はおかしくない?使い方が間違ってる気がするんだけど……」
「な、何がだ!彼女、妊娠させたなんて…驚くだろう?普通は!!!」
「いや……驚いてくれても何でもいいんだけど、俺が言ってるのはそこじゃないから…。
俺とは夫婦だから、妊娠させたって言葉は適切な表現じゃないだろ?」
なるべく冷静に説明するとジョーも少し落ち着いたのか、
「あ、ああ…。そ、そうだったな…。いや、すまん…。あまりに昔のお前の素行が悪かったから未だ尾を引いてるようだ…(!)」
「どういう意味だよ!!」
そこはムっとして怒鳴ると何だかケラケラ笑い声が聞こえて振り向いた。
「あーら当たってるじゃない?ほんと前のお前は一晩だけの付き合いの子とか妊娠させちゃいそうなくらい素行が悪かったものねぇ~オホホ!」
「母さん…?!そんな古い話、やめてくれよっ」
母さんの言葉に俺は顔を顰めると、
「あら、そんな古くないじゃない。ほんの一年前まではあんたってそんな男だったんだから」
なんて追い討ちをかけてくる。
この時、心底、がこの場にいなくて良かった…とホっとしていた。
「ったく、俺の過去の話はいいから…!ってかジョー、分かったの?」
「え?あ、ああ……。えっと……ちゃんが妊娠したかもしれないって事だな?」
「そう!だから明日、を病院に連れてくから。明日のインタビュー明後日に出来ない?」
「な!ダ、ダメだ、そんなの!明日から仕事再開って事でスケジュール組んでるんだぞ?無理に決まってるだろ?!」
「じゃあを一人で病院にやれって言うのか?」
「そ、それは……」
「はいはーい!ここはベイビーの父親かもしれない俺が…………ぐぇっっ!」
「いつこっちに来たのかな?トビーくん…。しかもその笑えないジョークは二度と言うなって言わなかったけ…?」
俺はすぐ後ろに来ていたトビーの首を両手で絞めながら(!)普通のトーンで質問した。
トビーは顔を真っ赤にしながら(多分、死にそう)バンバンっと俺の腕を叩くと、許して?と言うような瞳で俺を見ている。
「もう、そのジョークは二度と言わないって誓うか……?」
「…………」
コクコクコク…っ
言葉に出来ないからか何度も首を縦に振るトビーに俺はニッコリ微笑んだ。
「なら、よろしい…」
「ゲ…ゲホ…ゲホ…っっ!レ……レオ…ひ……人殺し……っっ」
トビーは思い切り咽ながら喉をさすって涙目で母さんに抱きついている。
「うぉえ…ゲフ…っゴフ…っ!レ、レオママァ~!息子は殺人未遂の現行犯だよ~…ゴホ…っっ」
「あらまあ、可愛そうに…。ダメじゃない、レオってば!」(全然、心が篭っていない)
「ああ、ごめんな?トビー」
俺は澄ました顔でそう言うと、もう一度目の前でかすかに青い顔をしているジョーを見た。
「なぁ、ジョー」
「な…何だ?俺の首は太いから絞めるにはかなり体力使うぞ…っ?(!)」
「はぁ?何言ってんだよ…。そんな事より明日…」
「ダ、ダメだって言っただろう…?先方だって、そのつもりで予定を組んでるんだ…。急には無理な相手だし…」
「なんだよ~…」
俺は本気で困って軽く息をつくと、後ろから肩をポンポンっと叩かれた。
「なら母さんが一緒に行ってあげるわよ」
「え…?母さんが……?」
「ええ。こういうのは女同士の方が良かったりするのよ。私だって経験者なんだしもし妊娠してたらアドバイスくらい出来るわ?」
何だか得意げな母さんに俺は少し心配になったが、ここは仕方ない…と諦める事にした。
「じゃあ……悪いけど、母さん頼むよ。を明日、病院に連れて行ってやって」
「ええ。任せておいて!」
母さんは張り切ってそう言うとニッコリ微笑んで、
「さ、そうと決まれば夕飯にしましょ?レオ、ちゃん起こしてきてあげて?」
「OK」
俺はそこで少しだけ安心して、そのままを起こすべく二階へと上がって行った。
その時、キッチンの方で、何だか、「フグ…ッッガ………ッ」 と変な呻き声が聞こえた気がして、ふと足を止める。
だが暫くの顔を見てなかった事で早く会いたかった俺は何も聞こえなかった事にして、足取りも軽く階段を上がって行った。
「…」
「……ん……」
何だかレオの声が凄く近くで聞こえてきて私は小さく返事をしたものの、なかなか目が開けられなかった。
すると唇に温かい感触…
「……んぅ…?」
驚いてパチっと目を開けると目の前にはレオの奇麗な睫毛があってドキっとした。
するとその睫毛がゆっくり動いて唇も解放された。
「……起きた?」
「…ぅ、ぅん……」
レオはベッドの端に両肘をついて私の顔を覗き込むようにして微笑んでいる。
「あ…私、結構、寝ちゃった…?」
「そんな事ないよ?一時間くらいかな…。具合は?」
レオは私の額にかかった髪を手で優しく避けながら頬にもチュっとキスをしてくれる。
「うん、大丈夫……」
少し照れくさくて目を伏せながら答えると、レオはニッコリ微笑んで私の体を起こしてくれた。
「夕飯、食べれそう?」
「うん…ちょっと、お腹空いたかな…」
「でも食べたら気持ち悪くならないかな……」
レオは不安げな顔で私の顔を見つめている。
その優しい瞳に胸が熱くなった。
「…少しなら…大丈夫だと思う…」
「そう?あ…そうだ。明日の病院さ、俺、仕事どうしてもズラせなくて…代わりに母さんが一緒に行ってくれるって言うんだけど…大丈夫?」
「うん。私なら平気だから…レオは仕事、頑張って来て…?」
そう言ってレオを見上げると、彼は笑顔のまままた唇に触れるだけのキスをしてくれる。
「その後はショーンのとこで脳の検査してもらってね」
「うん。お父さんも、ちょっと心配してたけど、大丈夫よ」
夕べ、実家にも電話して養父と母には体調の事を報告してあった。
養父は凄く心配して早く病院に来いなんて言ってたけど、母はきっと妊娠の方よなんて言って嬉しそうだった。
「ねぇ、…」
「…ん?」
レオは私を軽く抱き寄せると、頭に頬を摺り寄せて、
「どっちにしろ…体調に変化があった場合はさ…。仕事も休暇か何かとってくれるかな……」
「……え?」
「だって…心配だろ…?人が足りないのは分かるけど…。はすぐ無理するからさ。仕事は休んで欲しいんだ」
レオはそう言って少し体を離すと私の顔を覗き込んできた。
その表情は本当に不安そうな心配で堪らないって顔だった…
「……ぅん…。分かってる…。もし妊娠してたら仕事は無理だし…。例えば他に悪いとこが見付かっても……」
「見付からないよ…っ」
「……レオ…」
「大丈夫…。きっと、いい知らせの方だよ…」
レオは真剣な顔でそう言うと私の額に、そっとキスをしてギュっと抱きしめてくれた。
その腕の強さに何だか喉の奥が熱くなってくる。
彼の…想いが私の体に流れ込んでくるようで…
「さ…下に行こうか…。うるさいのが3人もいるけど…」
ゆっくり体を離すとレオがそう言ってちょっと苦笑した。
「…3人…?」
「あ、ああ。さっきジョーも来ちゃってさぁ…。ま、いつもの、お邪魔虫メンバーだよ」
「ジョーさん、好きな子と、どうなったのかなぁ?」
ふと思い出してそんな事が口から出た。
だがレオは笑いながら、
「そんな、うちに来るくらいなんだから、すでに振られたのかもしれないよ?」
なんて言っている。
「まだ分からないじゃない」
「いいや、分かるって。あんな性質の悪い36歳独身男と付き合いたいなんて20代の女の子はいないって」
「レオ…それは言い過ぎよ?ジョーさんだっていいとこ沢山あるわ?」
「は優しいな?そういうとこ凄く好き」
「…………」
レオが優しい顔でそんな事を言うから私は頬が赤くなってしまった。
そんな私を見て、レオはクスクス笑いながら、
「そんな顔されるとこのまま押し倒したくなっちゃうんだけどな?」
と言って唇にチュっと何度もキスをしてくる。
それだけで私を真っ赤にするには充分で、レオは意地悪なのか頬や鼻にまでチュっとキスをくり返す。
私はそれが恥ずかしくてキスをされるたび俯いていってしまった。
「ちょ…レオ…?」
「ん~このまま二人でいたい…」
レオはそう言って私の顔を覗き込むと、最後にやんわりと唇を塞いだ。
「……ん…っ」
そして最後に軽く唇を舐められ、ドキっとした。
そこに大きな声が聞こえてくる。
「レオォォォ~~~!!ハニィィィ~~!!早く降りておいでよ~~っ!!」
「「………っっ」」
私とレオは驚いて顔を見合わせたが、彼は大きな溜息と共に、
「トビーだ……。あいつ、まだのこと、"ハニー"なんて呼びやがって……っ」
と舌打ちをしている。
「ま、とりあえず皆のとこに行こっか…」
「うん」
レオは眉を下げて仕方ないって顔で微笑むと、素早く唇に軽いキスをしてくれた。
そして私を抱き上げると、大きなショールをかけてくれる。
「あまりトビーに近づいちゃダメだよ?もしお腹に子供がいたら変なウイルスが移ると困るから」(!)
「レ、レオ…っ」
そう言うレオの顔が、あまりに真剣で、私はちょっとだけ噴出してしまった。
次の日、レオは少し寝不足のまま、仕事に出かけて行った。
行く前に、お義母さんに何度も、
「いい?のこと、ちゃんと頼んだからな?それと!今日はトビーを家に入れるな。に何するか分からないから。OK?」
と言い含めてお義母さんを呆れさせていた。
「ほんっと口うるさいとこなんてジョージそっくりよ?嫌になるわ?全く」
病院の待合室でお義母さんはそんな事を話しながら溜息をついている。
「ジョージって……レオのお父さん……」
「ええ、そうよ?まあ、顔はね、私が一目惚れしたくらいにいい男なんだけど。また、これがレオと性格そっくりよ~?最悪」
「そうなんですか?」
「ええ、もうレオの外見は私似だけど性格はジョージね!時々ほんとジョージと重なって見えて憎たらしい時があるもの」
お義母さんはそんな事を言ってエキサイトしている。
そして、ふと私を見て、
「あ、ごめんなさいね?ちゃんには凄く優しいだろうけど…」
なんてイタズラっ子のように舌をペロっと出した。
だが私は笑いながら首を振ると、
「いいえ…。最初、会った時は私もレオのこと憎たらしいなんて思ってました。いつも意地悪するし余裕の顔で会いに来てたから…」
と当時の事を思い出した。
「まあ、そうなの?レオってば、私に結婚するって電話くれた時、
"初めて本気で好きになれる子に会えたんだ"なんて言ってきてたけど、そう…。
やっぱり、最初は意地悪してたのねぇ~。嫌ねぇ、素直じゃないとこなんて、ほんとジョージそっくり!」
お母さんは顔を顰めていたが、私はレオがそんな事を言ってくれてたんだ…なんて思うと胸が熱くなると同時に頬も赤くなった。
その時、名前を呼ばれてドキっとする。
「あ、検査結果が出たようね。行きましょ?」
「あ…はい……」
私は少しだけ緊張しながら立ち上がった。
ここは養父ショーンの働く病院で、産婦人科もある。
なので事前に予約を入れてもらっていたので来てすぐに検査は終わっていた。
「大丈夫よ?そんな緊張しないで……」
「は、はい…」
お義母さんが私の表情が固くなってるのを見て笑顔で肩を抱いてくれた。
そのまま二人でドクターのいる部屋へと向かう。
「…!」
「……あ…お養父さん?」
そこに養父ショーンが走ってきて私は驚いた。
「ど、どうしたの?まだ脳の検査の時間じゃ……」
「い、いや心配で、ちょっと抜け出して来たんだ…。もうこっちの結果が出る頃かと思ってね」
「今からですよ?」
「やあ、イル。久し振りだね。今日はに付き添ってくれてありがとう」
ショーンは笑顔で、お義母さんの方を見た。
「いいえ、私にとってもちゃんは娘ですもの。バカ息子の代わりくらい、いつでもするわ?」
お義母さんは、そんな事を言って笑うと、「じゃあ入りましょうか」と私を促した。
それで急遽、私とお義母さん、それに養父も加わった3人で検査結果を聞く事になった。
これが終わると午後から養父の脳外科でも検査を受ける事になっている。
そして結果が分かり次第、レオの携帯に電話をする事になっていた。
「では、ここで一旦、休憩しましょう」
そこでスタッフが立ち上がり、俺は軽く息をついて時計を見た。
午後3時……
そろそろ、どっちも検査を終えてる頃だ…
その事を考えると、どうも不安で落ち着かなくなってくる。
煙草に火をつけて軽くふかすと、隣に座っていたトムがクスクス笑っている。
「何笑ってるんだよ?」
「いや~あのレオも、やっぱり妻が妊娠したか、どうか気になるんだなぁと思ってね」
「当たり前だろ?それに…そっちだけの心配ばかりじゃないからね」
「ああ、脳の検査か…。そっちは…ほんと心配だな…」
トムはそう言うとゆっくりとコーヒーを飲んだ。
今は二人で共演した映画の件でインタビューを受けている。
朝から何社もの雑誌からインタビューを受けているので少し疲れていた。
「このプロモーションが終れば、レオも次の作品の撮影に入るんだろ?大丈夫か?こんな時に…」
「ああ…それはね…。撮影はロスで殆どやるしさ。ロケに出ないだけマシだよ」
「そうか、なら良かったな。ロスなら妊婦になったとしても、まだ安心だろ?いつでも駆けつけられるし」
「ああ。そこは監督も話の分かる人だから何とかなりそうだよ」
俺はそう言って煙草の煙を燻らせるとまた時計を確認した。
「そろそろか?」
「うん…。もう検査は終わってると思うんだ。結果が分かったら電話してって言ってある」
そう言った瞬間、俺の携帯がポケットの中で震え出しドキっとした。
「ん?どうした?」
「きた………」
「え?」
「電話……」
「な…じゃ、じゃあ早く出ろよっ」
「あ、ああ……」
俺はトムにバンっと肩を叩かれハっとして携帯を取り出した。
一応ディスプレイを確認してみるとやはりからだった。
「か、彼女からだ……」
「そ、そうか。ほ、ほら早く出ろよ…っ」
何故かトムまでが緊張した面持ちで、俺の腕を突付いてくる。
それに急かされるように俺は通話ボタンを押した。
「Hello......?」
『……レオ…?』
「あ…うん…」
少し小さく聞こえたの声に、鼓動が一気に早くなる。
「ど、どう…?検査…終わった…?」
『ぅん…。全部…終わったよ…?』
「そっか……。で……どう…だった……?」
俺は聞きたくないような、でも聞きたいような何とも言えない感情が入り混じり、本当に緊張してくるのを感じた。
『レオ……』
「……ん?」
『あのね……』
「う、うん…」
そこで俺は軽く深呼吸をして、気付けば携帯を持つ手にも汗をかいていた。
受話器の向こうで、も軽く息をついているのが分かる。
そして息を吸い込む気配がした時、が小さな声で呟いた。
『私……妊娠二ヶ月だって…』
「………っっ」
『私のお腹に…レオと…私の…赤ちゃんがいるみたい……』
その言葉は耳にしっかりと届き、何ともふわふわした感覚になってくるのを感じていた。
『レオ…?』
「うん…聞こえた…。俺と…の赤ちゃん……?」
『うん……。ちょっと…実感ないんだけど…』
「…俺も…」
そう言って互いに、ちょっと笑った。
ドキドキと心臓がうるさくなって、何か胸の奥が熱くなってくる。
今、無償にを抱きしめたくなった。
『レオ……?』
「ん…?」
『脳の方も大丈夫だろうって…お養父さんに言われたわ?』
「そ…そ…っか。良かった…」
この時、心の底から安堵の息が洩れた。
「じゃあ…具合が悪くなったのは妊娠のせい…?」
『そうみたい…。それと多少の疲れもあったんじゃないかって…。ほら、知らない土地に行ったから…』
「あ、そっか…。でもじゃあ…もう…大丈夫ってこと?」
『うん。無茶しなければ大丈夫だって』
「そう…。ほんとに良かった……」
俺がそう言うと隣にいたトムも事情を察したのか、ホっと息をついているのが分かる。
だけど隣に誰がいようとこれだけは今、に言いたかった。
「…」
『ん…?』
「…愛してる…。早く抱きしめたい…」
『…家で…待ってるから……』
俺の心からの想いを告げれば…彼女は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、そう小さな声で呟いた―――
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ACT.8...愛は屋上の鳥に及ぶ>>
うきゃーvベイビー誕生ですよっ(笑)
いやぁ、この二人もここまで来たのねー(笑)
最初の頃を思い出せば何だか笑いが零れます^^;
さて…レオ様、これから大変ですね~(苦笑)
そして、ある意味ジャックも……( ̄m ̄)
しかし黒のマタニティを買うママ、恐るべし……(笑)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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