From me Dear you....~Catch
me if you can!Sequel...~
ACT.8...愛は屋上の鳥に及ぶ
「ここか・・・」
そう呟いて一人の男性がディカプリオ家の門の前に立った。
深くハットを被った顔を少しだけ上げて家を見上げている。
その顔の彫りの深さからアメリカンではない事が伺えた。
ビシっとイタリア製のスーツに身を包み、大きなスーツケースもイタリア製。
どこから見てもただ者ではない雰囲気をかもし出している。
すっと伸びた鼻に少し薄目の唇。切れ長の瞳はどことなく、どっかの愛妻家を思い出させる顔立ちだ。
その男性はそのまま門の前まで歩いて行くと軽く深呼吸をしてからチャイムへと手を伸ばした・・・
この日のディカプリオ家も朝から何だか慌ただしかった。
の妊娠が分かってからレオの反対を押し切って泊り込んでいる(!)イルメリンがキッチンで忙しそうに朝食の用意をしている。
そこへ騒々しい声が聞こえてきた。
「、いいから休んでろって」
「だって・・・病人じゃないのよ?」
「それでも朝食の用意なんてしなくていいよっ。どうせ母さんがやってるんだし」
その声を聞いてスープを作っていたイルメリンはムっとした。
(全く・・・可愛くないんだから!少しは感謝しろってのよねぇ?)
無理やり泊り込んでるとこは深く考えず、イルメリンは、ブツブツ文句を言っていた。
そこへ可愛い声が聞こえてくる。
「お義母さん、おはよう御座います」
「あら、ちゃん、おはよう!今朝もとってもスィートね♪」
イルメリンはそう言って歩いて来たの頬にチュっとキスをした。
それにはも恥ずかしそうに微笑んで、「お義母さんも奇麗です」と言っている。
「まぁーほんと可愛いっ。今朝の体調はどう?夕べバカ息子が大騒ぎしたから疲れてるんじゃない?」
「い、いえ、そんな事は・・・」
「誰がバカ息子だよ・・・」
「あら、レオいたの。おはよう」
後から入って来たレオにイルメリンは澄ました顔で笑顔を見せた。
「あんなに騒いでたからてっきり寝坊かと思ったのに」
「うるさいなぁ・・・。今日はを病院に送っていくって言ったろ?」
この前、の妊娠が分かり、昨日はトビーやジョニー、フレッドに、トム、
はたまた前にの家に忍び込む際に協力してくれた事のあるニコラスなどが集まり、
皆で"ご懐妊祝い"と称してちょっとしたパーティを開いてくれたのだ。
「、眠くない?」
「うん、大丈夫。レオより先に寝たし・・・。レオの方が眠いんじゃない?病院は一人で行くから無理して起きなくても良かったのに・・・」
「何言ってるんだよ。一人で行かせられるわけないだろ?何があるか分からないしさ」
「やだ・・・。大丈夫よ?」
レオの心配性に拍車がかかっていてはクスクス笑っている。
だがレオの顔は真剣でを優しく抱き寄せると、
「ダメだよ・・・。ほんとは呑気なんだから・・・。途中で具合が悪くなったら困るだろ?
それに今日はが休暇届けを出しに行くんだし俺も挨拶しておきたいんだ」
そう言っての額にそっとキスをするとも嬉しそうに微笑んで、「ありがと・・・」と呟いた。
それを見ながらイルメリンは嬉しそうに微笑んだ。
我が息子ながらいい男に育ったもんね。
ま、それだけ愛情を注げる相手が見付かったって事なんだろうけど。
そう思いながら出来上がったスープをかき回した。
が昨日辺りからつわりも酷くなり、あまりクドイ物が食べられないのだ。
なるべく薄味にして後はフルーツサラダを盛り付けトレーに乗せる。
「あ、俺が運ぶよ」
「そう?じゃあ、お願い」
レオがすぐにトレーを持ってダイニングに向かうとはイルメリンの方に歩いて来た。
「私も手伝います」
「あら、いいのよ。ちゃんは休んでて?」
「いえ。今朝はだいぶスッキリしてるんで・・・」
「そう?じゃあ、スープのお皿を出してくれるかしら」
「はい」
は笑顔で頷くと食器棚から人数分のスープ皿と、二人は普通に朝食をとるのでオムレツの乗ったお皿もトレーに並べる。
そこに家のチャイム音が聞こえてきた。
「あら・・・こんな朝から・・・誰かしら」
「あ、出ますね」
「ああ、いいのよ。私が出るわ?ちゃんはこれをダイニングに運んでくれる?」
「はい、じゃあ持っていきます」
イルメリンはそこをに任せてインターホンをとる。
「はい、どちら様・・・?」
その声を聞きながらは料理を盛り付けた皿をダイニングに運んだ。
「あ、、匂いは大丈夫?」
運んで来たを見てレオが、そのトレーを持ってあげる。
「大丈夫よ?今は体調もいいみたいで・・・」
「そう?あまり無理するなよ?」
レオがそう言っての唇にキスをしようと少し屈んだ、その時―――
「な、な、何しに来たのよ、あんたっっ!!!」
「「・・・・・・っ?!」」
突然、イルメリンの絶叫が聞こえて来て二人は顔を見合わせた。
「何だ・・・・?誰が来たんだ・・・・・?」
レオは驚いてイルメリンのところに歩いて行く。
「どうした?母さん、何騒いで・・・・・・」
「レ、レオ・・・!大変よ・・・っ。あいつが・・・」
「あいつ・・・?」
何だか慌てた様子のイルメリンを見ながらレオはインターホンのモニターを見てみた。
すると画面には何だかハットを被った妖しげな男が笑顔で手を振っている。
その人物を見た瞬間、レオも驚いて声をあげた。
「と・・・父さん・・・・・・?!」
「クゥ・・・?」
その言葉に後ろから歩いて来ていたとジャックは驚いたように顔を見合わせた。
「Buon giorno~~♪ 久し振りだな!我が息子よ!」
「うぁ・・・っ」
家のドアを開けた瞬間、スーツケースを放り投げ、父さんは両手を広げて俺に抱きついて来た。
「元気だったか?!相変わらず、いい男だな!俺に似て!」
「・・・・・・・・・そりゃ、どうも・・・」
「ん?何だ?久し振りに会えたってのに嬉しくないのか?息子よ」
俺の父、ジョージはそう言いながらニコニコと顔を覗き込んで来る。
その瞳の色は俺と同じブルーグリーンだ。
相変わらずのイタリア~ンなノリに俺は思わず苦笑した。
「いや、嬉しいけどさ・・・。いきなりは驚くだろ?連絡くらいしろよ・・・」
「まあ、驚かせるのが俺のいい所だ。それより結婚式出られなくてすまなかったな?ちょっと国に帰ってたもんでな」
「いいよ、そんなの。それより入って。奥さん紹介するよ」
「おぉ、そうだ、そうだ!お前の奥さんになってくれた子に会いたかったんだ!早く会わせろ!どこだ?ん?」
「せっかちなとこ変わってないな・・・」
父さんを中へ促しながら俺は苦笑気味に呟いた。
だが、父さんをリビングへ通した時に母さんが凄い勢いですっ飛んできた。
「ちょっとジョージ!いったい何しに来たのっ?」
「おぉ、イルじゃないか!相変わらず奇麗だな!」
「キャ・・・っ」
父さんはそう言って怒っている母さんを思い切り抱きしめている。
「さっきは驚いたぞ?ここで一緒に暮らしてるのかい?」
「う、うるさいわねっ。ちゃんが妊娠したから心配で泊まってるだけ!いいから離してよ・・・っ」
「あ、ああ。悪い、悪い」
父さんは笑いながらボカスカと自分の足を蹴ってくる(!)母さんを離した。
「あはは、相変わらずイルは元気だなっ」
「あ、あなたは相変わらず能天気ね!」
「そうか?別に普通だろ?」
父さんはケロっと答えると母さんの後ろで驚いたように立っているを見た。
「あれ?君がもしかしてレオの・・・」
「ああ、父さん。彼女が奥さんのだよ?」
俺は久々の(元)夫婦漫才に笑いを噛み殺しつつ、紹介した。
その瞬間、父さんがまたしてもオーバーアクションで両手を広げる。
「Mamma mia!!何て可愛いんだ!」
「は・・・初めまして・・・と言いま・・・キャッ」
「Piacere~!Auguri~!~♪Come
si sente?」
「ちょ・・・ちょっと父さん!イタリア語になってるよ!!」
俺はいつものイタリア人のノリ全開な父さんを慌ててから引き剥がした。
「si...ああ、悪い、悪い!ついつい興奮してしまったっ」
父さんはを離しハットを取りつつ苦笑いした。
は相当、驚いたのか大きな目をパチクリさせている。
そんな彼女が可愛くてそっと抱き寄せた。
「ごめんな?父さん、興奮すると母国語に戻っちゃうんだよ・・・」
「あ、そ、そうなの・・・?」
「ああ、因みに今言ったのは簡単に訳せば"初めまして。おめでとう、。体調はどう?"だよ?」
俺がそう言って教えるとは笑顔で、「あの・・・体調は今のところいいです」と父さんに答えた。
そんなを見て父さんは笑顔になると彼女の手をヒシっと握り、
「そうか、それは良かった!しっかし、ほんとに可愛いよ。レオにはもったいないな?私があと10歳若かったら・・・」
などと、ふざけた事を言っている。
「お、おい父さん!俺の奥さんまでナンパするなよ!だいたい父さんが10歳若返ったとしてもまだ娘と父親くらいはあるだろ!」
「何だよ、レオ・・・相変わらず口が悪いなぁ・・・。イルの影響か?」
「何ですって?ジョージ!あんたこそそのイタリア男の典型的な性格は直ってないようね!節操なく息子の妻を口説こうなんて!」
「そりゃ仕方ないだろ?美しい女性を見れば口説かなきゃ失礼だ。あはははっ」
父さんは呑気にそんな事を言って笑っているが、母さんは額に怒りマークがピクピク浮き出ている。
俺は巻き込まれたくないのでを連れてダイニングへと移動した。
「ごめんな?父さん、いつも、ああなんだ・・・」
「ううん、凄く楽しい人ね?それにレオそっくりで驚いちゃった」
「そう?まあ、でも母さんもあんな態度だけど別に憎みあって離婚したわけじゃないんだ」
「うん、何となく分かるわ?お義母さんもよくレオのお父さんのこと話してたし。離婚した後も協力してレオのこと育てたって・・・」
「ああ、そうらしいね。俺も物心ついた頃は一緒には住んでなかったけどしょっちゅう会ってたから寂しい思いとかしなかったしさ」
「今は再婚なさってるんでしょう?」
「ああ。でも相手の女性もいい人でさ。俺と会う事も嫌な顔しないしね」
俺はそう言って微笑むとも嬉しそうに笑顔を見せた。
父さんにも結婚の連絡はしてたのだがちょうどイタリアに戻っていて来れなかったのだ。
時々電話では話していて早くに会いたいと洩らしていた。
この前も電話をして繋がらなかったため留守電にが妊娠したとメッセージを入れておいたんだけど・・・
まさかいきなり連絡もなしに来るとは思わなかった・・・
全くいつも驚かせてくれる人だ。
そしてこの日の朝食は急遽、飛び入り参加の父さんと、未だプリプリしている母さん、
俺とにジャックという少し見慣れない風景で始まった。
「じゃあ、今日から仕事を休むんだね?」
「はい。迷惑かけるし辞めようかとも思ったんですけど・・・婦長が育児休暇にしなさいって言って下さって・・・」
「そうか。いやナースとは聞いてたがちゃんみたいな子に看護されるなら入院も悪くないね。私も入院しようかなっ」
「・・・え?」
「・・・ちょっと父さん・・・。の働いてる病院は子供病院だよ?入れないよ」
「何だ、そうか、つまらん・・・」
父さんは子供のように口を尖らせコーヒーを飲んでいる。
「あーら、ジョージなんて中身が子供なんだから入院できるんじゃなぁい?
それかちゃんのパパにいっそのこと脳の検査でもしてもらったら?」
「ちょ・・・母さんっ」
紅茶を飲みながら澄ました顔で言ってのけた母さんに俺が顔を顰めると、突然、父さんが笑い出した。
「あはははっ。よく分かってるな、イルは!そうだとも!私は永遠に心は少年のままさ!」
「Sei scemo?!」
「あはは!Non c'e` male!」
「ちょっと二人とも・・・」
その会話に相変わらずだ、と呆れているとが首を傾げて俺を見てきた。
「あ、ああ。今のは母さんが"あんたバカじゃないの?"って言って父さんが"そりゃ、どうも"って答えたんだ・・・」
「そ、そうなの・・・。凄いわ・・・お義母さんもイタリア語話せるのね・・・」
「まあ、日常的なことはね。でも父さんは母さんの母国語のドイツ後は全くダメでさ。だからその辺でもよくケンカしてたよ・・・」
「そうなの・・・。でも今でも仲がいいなんていいわね?」
「・・・・・・仲がいいって言うのか疑問だけどね」
俺が肩を竦めて笑うと、つかさず母さんが突っ込んでくる。
「仲がいいわけじゃないのよ?ちゃん。この男と仲良くなんてしてたら一年中、頭が春になっちゃうわ?」
「おい、母さん・・・。いいからケンカ売るのはやめろよ・・・」
「あら、ケンカにならないわよ、ジョージとじゃ。あんたも知ってるでしょ?」
母さんは、そう言って肩を竦めた。
見れば父さんはケラケラ笑いながら、
「そうか、そうか!一年中、春ってのはいい事だな!あはははっ」
なんて言っている。
そうだ・・・いつも、こんな調子なんだよな、この二人。
いつも怒るのは母さんで、父さんはこうしてトボけたノリで交わしてるんだ。
まあ、それで大きなケンカにはならないけど母さんにしたらバカにされてる気分なんだろう。
よく一人でプリプリ怒ってる。
「あ、そろそろ行かないと・・・」
不意にが時計を見て呟いた。
「ああ、じゃあ行こうか」
俺がそう言って立ち上がると、母さんまでが立ち上がった。
「私も行くわ」
「は?」
「ジョージと二人でいたくないもの。私も一緒に病院についてく」
「な・・・何言ってるんだよ…。ダメだよ、そんなの・・・」
「そうだぞ?イル。せっかく久し振りに会ったんだから今日は私とデートでもしようじゃないかっ」
「・・・・・・はぁ?嫌よ!何で今さら別れた亭主とデートしなくちゃいけないのよっ」
「おいおい、酷いなぁ。いいじゃないか、たまには!なぁ?レオ」
「・・・・・・ああ。好きにしてくれ・・・。とにかく俺はと出かけてくるから・・・」
俺はウンザリしながらそう言うと、嫌がる母さんを無理やり置いてと二人で家を出た。
まあ、ジャックが二人の犠牲にならない事を祈ろう・・・
「、窓開けてていいよ?車に酔っちゃうといけないから」
「うん」
は笑顔で頷くと車の窓を少し開けて風に当たっている。
俺はなるべくスピードを出さないように車を走らせながらの病院へと急いだ。
「はぁ~にしても父さんがいきなり来るから驚いたよ・・・。も驚いただろ?あんな変な人で」
「変な人じゃないわ?素適よね?前から会ってみたかったし嬉しかった」
は笑顔でそう言ってくれて俺も自然に笑顔になる。
「そう?まあ暫く、うるさくなると思うけど・・・」
「ううん。楽しそう。それにもう一つ家族が出来たみたいで嬉しいもの」
「家族ならここにもいるだろ?俺達の・・・」
そう言ってのお腹にそっと触れればは顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見ているだけで心が安らぐ。
子供が出来たと知ってその事でも自分で信じられないくらいに幸せを感じていた。
あの日、から赤ちゃんが出来たと聞いた時、体がふわっと浮くような感覚・・・
一瞬で心が温かくなった。
そんな風に感じるなんて自分でも驚きだった。
父親になったんだ・・・と実感はまだ沸かないけど、彼女と俺の子供だと思うだけで言葉には表せないような幸福感。
今まで以上にを愛しいと思う。
人の愛情に限度はないんだと改めて感じた。
少し走らせると病院が見えてきて、いつもの様に駐車場へと車を止めた。
すぐに車を降りて助手席のドアを開けるとの手を引いて下ろしてあげる。
「大丈夫?具合は?」
「もう・・・ちょっと車に乗ったくらいなんだから大丈夫よ?レオってば心配しすぎ」
は少し呆れたように俺を見上げてきてその表情に少し苦笑してしまう。
「だって仕方ないだろ?いつ、またが倒れるかと思うと心配なんだ・・・」
そう言って軽く唇にキスをするとはすぐに頬を赤く染める。
「ちょ、レオ・・・。こんなとこで・・・」
「まだ時間も早いし誰もいないよ」
「あーら、しっかり見せてもらったわよ?」
「「・・・・・・っ?」」
その声に振り向けば後ろにキャシーがニヤニヤしながら立っていた。
「キャシー!」
「Hi!!ご懐妊おめでとう~!」
キャシーは、そう言ってに抱きついた。
「あ、ありがとう・・・・・・。あの・・・ごめんね?復帰早々休むことになっちゃって・・・」
「いいわよ、おめでたい事なんだから!でも聞いた時は驚いちゃったわ!」
「私もよ?」
はクスクス笑いながら俺の方を見た。
「あ~あ~とうとうレオも人の親になっちゃうのねぇ~」
「まあ、そういう事だな?」
「ここにレオの娘か息子がいるんだぁ・・・。あー早く見たい!」
キャシーはのお腹を触りながらそんな事を叫んでいる。
「ね、どっちかな?どっちが欲しいの?二人は」
「どっちって・・・。そこまで考えてなかったわ?分かったばかりだし・・・」
「そうだなぁ・・・。ま、俺はどっちでもいいけど・・・娘だと心配が多そうだしなぁ・・・」
「じゃあ男の子?」
「ん~それもを独り占めされそうで嫌かな?」
「何よ、それ!レオってば自分の子供にまでジェラシー?」
キャシーは呆れたように肩を竦めている。
それには俺も苦笑した。
「まあ、そりゃね。今までは俺だけのだったのに今度からは子供に取られちゃうんだから」
「レ、レオ・・・」
は恥ずかしそうに俺を見上げて来た。
そのままを抱きしめると頬にチュっとキスをしてから時計を見た。
「そんな事よりキャシー、これからだろ?もう後5分しかないよ?」
「え?嘘・・・いけない!遅刻しちゃう!じゃ、後でねっ」
「ええ、私もすぐ行く」
急いで走ってくキャシーを見送りつつ、俺とはゆっくり病院へと向かった。
受け付けのナースも笑顔でに抱き付き、"おめでとう"と言ってくれる。
御礼を言って二人でナースステーションへ向かうと婦長が笑顔で歩いて来た。
「、レオ、おめでとう!」
「ありがとう御座います」
「どうも」
「これでも母親ね?何だか信じられないわ?新人で入って来た頃のあなたを思うと・・・」
「私も・・・驚きました」
「えっと、じゃあ休暇用の書類にサインしてもらえる?」
「はい」
は婦長と一緒に婦長室へと歩いて行く。
俺も一緒に歩いて行きながら、ふと救急治療室へと目がいった。
あそこでと出逢ったんだった・・・
何だか凄く懐かしく感じて胸の奥が何とも言えないくらい温かくなる。
ここから全てが始まった。
色々な事があったけど、今こうしてと結婚までした。
そして彼女と俺の子供まで出来た。
それは何だか凄く不思議な感覚だった。
もしあの夜、俺が怪我をしてここへ運ばれなければ・・・
いや怪我をしたとしても通常の病院に搬送されていれば・・・
とは出会わなかったんだろうか・・・
色々な偶然が重なってあの出会いがあった。
それは俺にとって未来を変えるべき素晴らしいもので、この世で唯一の人を見つけた出会いだったんだ。
隣を歩くの横顔を見て、また愛しさが込み上げてきた。
「じゃあ、ここにもサインして?」
「はい」
私は休暇届の書類に必要なサインを書き込むと、婦長がそれを受理してくれた。
「これでいいわ?とにかく安静にして元気な赤ちゃんを産んでね?」
「はい。ほんとに何から何までありがとう御座います」
私がそう言って頭を下げると婦長も笑顔で頷いた。
「ああ、それとあなたの担当だったカイルはキャシーが引き継いでるんだけど、もうすぐ退院するのよ?」
「え?ほんとですか?」
「ええ、体力もついたしね。本人も凄く元気で早く退院させろって毎日うるさいのよ」
婦長が苦笑気味にそう言って思い出したように微笑んだ。
「それと・・・はいつ戻って来るんだってしょっちゅうキャシーに聞いてたみたいよ?」
「え・・・?」
「すっかりあなたの事を気に入ったみたい。レオも大変ね?モテる奥さんで」
「ええ、ほんと心配で外に出したくないですよ」
「ちょ、ちょっとレオ・・・っ」
澄ました顔でそんな事を言うレオに私は頬が赤くなった。
それには婦長も苦笑いだ。
「あら朝からノロケられちゃったわ?あ、じゃ帰る前にカイルに顔を見せてあげてくれる?彼、まだの妊娠の事知らないのよ」
「はい、分かりました。挨拶してきます」
「お願いね。じゃあ、時々は遊びに来て?体調のいい時にでも」
「はい。本当にありがとう御座います」
「ありがとう御座います」
レオも婦長にお礼を言って軽く握手をした。
そのまま婦長室を出るとレオが私の手を優しく繋いでくる。
「あいつのとこ行くの?」
「ええ、ちゃんと休暇とった事も言いたいし、退院が決まったお祝いも言いたいから」
「そっか。俺、あいつ苦手なんだよなあ・・・」
「え?どうして?」
「何となく・・・」
レオはそう言って肩を竦めている。
その理由が何となくピンときて私はクスクス笑いながらレオを見上げた。
「分かった。カイルが自分に少し似てるからじゃない?」
「え?似てるって・・・俺とあいつが?」
「うん。少し似てるとこあるわよ?ちょっと強引なとことか・・・」
「強引って・・・・・・。強引なことされたの?・・・っ」
「え?あ、あの・・・」
急に怖い顔で立ち止まり、私を見つめてくるレオの瞳にドキっとした。
忘れていたものの、旅行前にカイルにキスをされた事を思い出したからだ。
それで何となく初めて会った頃のレオと重なって見えてたのかもしれない。
「な、何もされてないわよ・・・。されるわけないでしょ?彼はまだ15歳よ?」
「年齢なんて関係ないよ。ほんとに何もされてない?」
「う、うん。大丈夫よ」
何とか誤魔化してそう言うとレオもホっとしたように笑顔を見せた。
「なら、いい。さ、早く、あいつに挨拶して帰ろう?ちょっと家が心配だし・・・」
「そうね?でも仲良くしてそうだけど」
「まあ・・・・・・ある意味ではね」
レオはそう言って笑うと私の頬に軽くキスをして、また歩き出した。
「ここよ?この時間ならまだ病室にいると思うわ」
そう言った時、キャシーが制服姿で歩いて来た。
「、カイルに挨拶?」
「ええ、退院決まったって言うし」
「そうなの。もう凄い喜んじゃって。ああ、でもはいつ戻るんだってうるさかったし良かったわ?」
「そ、そう・・・」
それを聞いてドキっとしつつ、廊下で待ってると言うレオを残し私はドアをノックした。
「どうぞ?」
何だか久し振りに聞いたカイルの声に私は笑顔で中を覗いた。
「カイル?」
「・・・・・・?!」
私がドアを開けて顔を出すと、ベッドの上でサッカー雑誌を読んでいたカイルが驚いたように顔を上げた。
「旅行から戻ったの?」
カイルは雑誌を置いてベッドから足を出して腰をかけ、前に歩いて行った私を見上げた。
「ええ、三日前に・・・」
「何で制服着てないの?」
カイルは制服を着ていない私を不思議そうな顔で見ている。
「うん・・・あのね・・・」
「何?どうかしたの?」
「私・・・暫く病院、休む事になって・・・」
「え・・・?」
「だから明日から、カイルの担当は引き続きキャシーがする事になったの」
「何で?何かあった?」
カイルは少し驚いたように立ち上がった。
「あ、何かあったって言うか・・・。私ね、妊娠したの・・・だから・・・」
「妊娠・・・・・・?」
「ええ・・・。赤ちゃんがね、出来たの」
そう言ってカイルを見上げると彼は黙って私を見ている。
そして軽く息をつくとまたベッドに腰をかけた。
「ふーん、そっか・・・。おめでとう」
「ありがとう。あ、あの・・・カイル、退院決まったんでしょ?おめでとう」
「ああ、うん・・・」
「どうしたの?嬉しくないの?あんなに退院したがってたじゃない」
「嬉しいけど・・・」
カイルはそう呟き、顔を上げた。
「・・・」
「え・・・?」
「俺、のこと好きだって言わなかったっけ」
「何言って・・・。変な冗談やめてよ・・・」
カイルの言葉にドキっとして私は笑って誤魔化した。
するとカイルは小さく溜息をついて肩を竦める。
「あっそ。そりゃ悪かったね」
「カイル・・・」
「冗談でも俺の奥さんを口説かないでくれるかな?」
「・・・・・・レオ・・・っ」
その声に驚いて振り返ると入り口にレオが寄りかかって立っている。
それにはカイルも苦笑しながらベッドに寝転がった。
「なぁ~んだ。旦那連れか。じゃあ今度いない時にするよ」
「ちょ、ちょっとカイル?!」
私は顔が赤くなって慌ててレオを見れば彼も少しだけ苦笑いしている。
「、そろそろ戻ろう?産婦人科の病院に行って説明受けないといけないし」
「あ、うん・・・。じゃあ・・・カイル・・・退院まで安静にしてるのよ?無理しないでね?」
「ああ、分かってる・・・。あ、」
「え?」
病室から出て行こうとした時、カイルが慌てて起き上がった。
「俺、退院したら夏の大会に出れるように頑張るから・・・もし出れたら見に来てくれる?」
その言葉に驚きレオを見上げれば彼も笑顔で頷いてくれた。
「ええ・・・行くわ?絶対・・・。だから頑張って」
「うん」
カイルは嬉しそうに微笑むと、
「こそ安静にしてろよ?もう一人の体じゃないんだからさ」
と笑った。
それには頬が赤くなったが、「分かってる」と言って最後に手を振った。
廊下に出ると待っていたキャシーにカイルの事を頼んだ。
「じゃ、キャシー・・・カイルのこと・・・宜しくね?」
「ええ。任せておいて!も体、大事にね?時々、遊びに行くから」
「うん。ありがとう、じゃあ・・・また」
「うん、またね!レオも!」
「ああ、じゃあな」
私とレオはキャシーに手を振って病院を出ると今度は隣の養父が働く病院に向かう。
そこの産婦人科で今後の説明を受けるのだ。
そのまま二人で歩いて病院まで向かっているとレオがギュっと手を繋いできた。
顔を上げて彼を見上げるとその表情は少しだけスネているように見える。
「レオ・・・?どうしたの?」
「やっぱ、あいつのこと狙ってた」
「え・・・?」
その言葉に驚き、立ち止まるとレオが私の方を見る。
「あいつに好きだって・・・言われたんだ?」
「あ、あれは・・・カイルのジョークよ・・・?」
「でも言われたんだろ?」
「それは・・・・・・」
「何で隠してたの?」
「・・・だってカイルは15歳よ?その歳の子に好きだって言われたってジョークとしか思えないし、それに隠してたわけじゃ・・・」
必死にそう言えばレオも、ちょっと困ったように微笑んだ。
「ごめん、別に怒ってないよ?ただ、ちょっと驚いただけ」
「え?」
その言葉にもう一度、顔を上げた時、急に抱きしめられて驚いた。
「レ、レオ・・・?」
「全く・・・ってば子供にもモテるんだから心配だよ・・・」
「し、心配って・・・・・・」
「子供にモテるって事はそれだけ魅力的だって事だからさ・・・。いつ他の男にちょっかい出されるかって心配」
「・・・・・・そんな事・・・・・・私はレオだけだよ?」
そう言って彼を見上げれば嬉しそうな笑顔と目が合う。
「ん。俺も」
レオはそう言って唇にチュっとキスをしてきて私は慌てて周りを見渡した。
まだ午前中で人通りは少ないものの、やはりレオは目立つので、つい人の目を気にしてしまう。
それに気付いたのかレオはクスクス笑うと、やっと腕を離してくれた。
「ごめん。さ、行こうか」
「う、うん・・・」
さっきより機嫌が直ったレオはニコニコしながら私の手を握り返すと病院の方へ歩き出した。
産婦人科で今後の体調管理等の話を詳しく聞いて俺とは夕方に帰って来た。
病院の帰りに二人で買い物をしてから少しだけビーチを散歩して来たのだ。
(どうせ家に帰れば母さんや父さんという邪魔者がいるからな・・・)
車を駐車場に入れてを下ろすと、そのまま軽く抱きしめる。
「疲れた?」
「ううん。ちょっと喉渇いたくらい」
「そう?じゃあ戻ったらグレープフルーツジュースを作ろっか。沢山買ってきたしね?」
「うん、ありがとう」
そう言って嬉しそうに微笑むの唇をやんわり塞ぐと彼女の体を優しく抱き寄せた。
角度を変えて何度も触れながら最後に軽く唇を噛めばの頬は真っ赤になっている。
そんな彼女を見て自然に俺も笑顔になるのはいつもの事。
「はお母さんになってもシャイなとこは変わらないよな?」
「そ、そんなの急に変わらないもん・・・」
「ずーっと変わらなくていいよ・・・」
そう言っての頬にチュっとキスをして再び唇を塞ごうとした、その時・・・
家の中からかすかに怒鳴り声が聞こえてきて二人同時に目を開けた。
「はぁ・・・またあの二人がモメてるよ・・・」
「・・・まさかケンカ・・・?」
「いや・・・どうせ怒ってるのは母さんだけだと思うけど・・・」
溜息交じりでそう言ってからの唇に素早くキスをした。
「仕方ない・・・戻るか・・・」
「うん」
そのまま二人で手を繋ぎながら家の中へ入ると、リビングからすでに母さんの大きな声が聞こえてくる。
「だから女の子って言ってるじゃないの!」
「いやぁ、絶対、男の子だって。きっと俺に似て男前だぞぉう?」
「何でジョージに似なくちゃいけないの?!絶対、私似の女の子よっ!」
その会話だけ聞いてもすぐに原因が分かる。
俺は重たい足取りで(ほんとは関りたくない)リビングのドアを開けた。
「あのさ・・・モメてるとこ悪いけど・・・生まれてくる子は俺との赤ちゃんであって、父さん似でも母さん似でもないと思うけど?」
「「レオ・・・っ!!」」
俺が呆れたようにそう言って二人を見れば、何だか慌てて顔を反らしている。
そして俺の視界に飛び込んで来た物と言えば・・・・・・・・・・・・・・・
「何だよ・・・そのベビー服にオモチャは・・・・・・」
ウンザリしつつ聞きたくないけど聞いてしまった。
その問いに母さんは気まずそうに視線を反らしたが、父さんはそんな事を気にするような繊細な心の持ち主ではない(!)
満面の笑みで立ち上がると、張り切って男の子用のベビー服を手にした。
「どうだ?レオ!か~わいいだろう?さっきイルと買い物に行って買ってきたんだ!きっと"ジェームズ"に似合うぞぉう?」
「・・・・・・・・・・・・誰だよ、その"ジェームズ"って・・・(ウンザリ)」
「誰って俺の孫の名だ!さっき命名してやったぞ?」
「頼んでないよ・・・・・・」
俺は思い切り目頭を指で抑えつつ、軽く頭を振った。
隣のも何と言っていいのか困った顔で立っている。
そして母さんだけは父さんの言った事に対し、目くじらを立てた。
「ジョージ!勝手に命名しないでよ、私の"アンジェラ"に!!だいたいその趣味の悪い服は何?陽気なイタリア~ンって感じよ?!」
「ちょ・・・母さんまで・・・っ。、名前は俺とで・・・・・・」
「あはははっ。そうだろう?俺の孫だからな!イタリアンに決まってる!」
「はぁ?ちょっと父さん・・・・・・」
「何バカなこと言ってるの?私の孫なんだからドイツ人に決まってるわ!おかしなこと言わないでくれる?!」
「い、いや母さんも充分、おかしい―」
「イル・・・それは我がままだろう?」
「・・・あの・・・」
「はあ?どこが我がままなの?そっちこそ我がままキングじゃないの!だいたい突然、現れて急に父親面しないで・・・」
「いい加減にしてくれよっ!!」
「「・・・・・・っっ」」
俺の我慢も限界にきて思い切り怒鳴ると、二人は驚いたようにこっちを見た。
も目を丸くして俺の服をギュっと掴んでいる(・・・・・・可愛い)
なんて言ってる場合じゃなくて・・・っ!
「全く!!二人で勝手に名前はつけるわ、まだどっちかも分からないのに勝手に服は買ってくるわ!
子供は俺との子なんだよ!二人に似てるとか、イタリアンだとかドイツだとか、そんなはずないだろ!」
一気に言いたい事を怒鳴り散らした。
それには二人ともシュンとなっている。
だが、すぐに復活したのはやっぱり父さんだった・・・・・・
「そうか!レオは私とイルの血が入ってハーフだろ?それでちゃんもハーフ!という事は・・・・何になるんだ?」(オイ)
「そんなの何でもいいよ!どんな血が入ってようと俺との子供で間違いないんだから・・・・・・っ」
「いや、でもそこはハッキリしておかないと・・・・・・」
「したくないね。とにかく!子供の名前も俺とで考えるから二人は余計なことはしないでくれよ・・・。OK?」
「「はぁい・・・」」
「よろしい。じゃ、、キッチンに行こう?ジュース作って上げる。俺も喉渇いちゃったよ(ここは満面の笑顔)」
「う、うん・・・」
はまだ驚いたまま顔を上げると、俺の手をギュっと繋いだ(ほんとに可愛い)
そこで少々へコんでる二人を残し、俺とはキッチンに向かった。
買ってきた沢山のフルーツを冷蔵庫に入れながら、グレープフルーツをミキサーにかける。
糖分を取るのにオリゴ糖も少々入れて回し、氷と一緒にグラスへと移すと味見をしてからへと渡す。
「ん、結構、美味しい。はい」
「ありがとう」
も笑顔で受け取りそれを飲むと軽く息をついた。
「はぁ・・・美味しい・・・」
「良かった。はぁ~俺も怒鳴ったから喉が渇いたよ・・・」
一緒にジュースを飲みながら溜息をつけばは心配そうな顔で見上げてくる。
「でも、あんなに買って来てもらって悪いわ?」
「いいんだよ。あれで楽しんでるんだから。あの二人はさ」
「そう?でも・・・男の子と女の子に意見が分かれてたし・・・何だかプレッシャーだな・・・」
「そんなこと気にするなって。体に悪いだろ?は何も気にしないで安静にしてて」
「うん・・・」
優しく抱き寄せるともやっと笑顔を見せてくれた。
そこへジャックが避難するかのようにキッチンに入ってくる。
「お前、あのケンカずっと見てたのか?可愛そうに・・・。後で散歩に連れていってやるからな?」
「ワゥ!」
「じゃあ、まず、は夕飯まで休まないと」
「え・・・?大丈夫よ?」
「ダメだよ。今日は歩き回ったし少し休まないと・・・。それにリビングにいたらあの二人の相手をしなくちゃいけないだろ?」
「だってレオのお父さんがせっかく来てくれてるのに・・・」
「ああ、いいの、いいの。父さんなんてまたフラリと顔出すに決まってる」
「いつまでいるのかしら・・・?今日は泊まって行かれるんでしょ?」
「え?帰るだろ・・・?」
の一言で少しだけ不安になる。
「母さんだけでも大変なのに父さんまでが泊まって行けばそりゃもっと大変だよ・・・」
「でも・・・久々なんだからレオだって積もる話もあるんじゃない?今日は泊まって行ってもらったら?」
「えぇ?俺はがいればいいよ」
「またそんなこと言って」
はクスクス笑いながらジュースの飲み終わったグラスを手早く洗っている。
そしてジャックにお水をあげると、「着替えてくるね」と二階に向かった。
俺も一緒に行こうかと思ったが、「すぐに降りてくるから」と言われ、それにリビングの二人が少し心配でジャックと一緒にそっちへ向かう。
そっとリビングを覗けば二人は悲しげな顔でベビー服やら、オモチャを片付けていた。
「あ、レオ・・・。あ、あの、すぐ片付けるから・・・っ」
「ああ、す、すまなかったな?先走って・・・つい嬉しくてな・・・?」
こういう時だけは二人も素直に謝ってくる。
俺はちょっとだけ苦笑しながらソファに座った。
「もう、いいよ・・・。二人ともサンキュ」
「何?じゃ、じゃあ名前は"ジェームズ"に―(!)」
「あら、何言ってるの?"アンジェラ"でしょ? (!)」
「それは却下!」
「「えぇ~・・・?」」
そこはキッパリお断りすると二人とも子供みたいに口を尖らせてる。
全く・・・この二人はいつまで経っても少年、少女だな・・・
この二人から俺みたいな繊細な子供がよく生まれたよ・・・(!)
なんて事を思いつつ、まだブツブツ言っている二人を見た。
「それと。あまりの前で、男の子とか女の子とか言うなよ?プレッシャーかけてストレスになるだろ?」
そう言うと、二人は、「「あ・・・」」といって顔を見合わせている。
「ああ、そうか・・・。悪い事をしたな・・・。すまん、今度から気をつけるよ」
「ええ・・・そうね・・・。私もレオを妊娠してた頃、ジョージの親から同じようにプレッシャーかけられてストレスだったの。
同じことしてたのね・・・。悪いことしたわ・・・。ごめんね、レオ。今度から気をつける」
「ああ、頼むね」
俺が苦笑しつつ、肩を竦めると少しだけ殊勝な顔をしていた父さんも、「ん?」と言って母さんを見た。
「おい、俺の両親に・・・って、どういう意味だ?」
「そのままの意味よ?ほら、あの時、"絶対に女の子ね"なんて言われて大変だったじゃないの」
「そ、そりゃ、そうだが・・・。ストレスって酷くないか?母さん達だって初孫に喜んでただけなんだ」
「それは分かるけど生むのは私なのに色々と、お義母様に余計な口出されて私にはストレスだったのよっ」
「何だと?余計な口って何だ。人の親を捕まえてっ」
「何よ。だってほんとに余計だったでしょ?」
「Oh Dio mio!Dici?!Non capiso!!」
(マズイ・・・父さんが珍しく怒っている・・・)
俺は思い切り溜息をついた。
父さんの国イタリアは親をとても大切にしている。
特に言ってみれば母親中心社会だ。
それを貶されれば、いくら陽気なイタリア人でも怒るというものだ。
因みに父さんの言葉を訳せば、
"何てこった!そんなこと言うか?理解出来ないよ!"
と言ったのだ。
当然、母さんにも通じてるので今は二人でイタリア語とドイツ語でケンカを初めてしまった。
まあ、きっと父さんの方は何て言われてるのか解からないだろうが、とても訳す気になれない・・・怖いから。
時々、軽いケンカ(まあ母さんが怒ってるだけ)をしてる時はどうして離婚したんだろう?と首をひねる事もあったが、
このケンカを見れば納得する。
きっと母さんが父さんの両親と合わなかった事も最大の理由にあるんだろう。
「はぁ・・・せっかく今日はオフにしてもらってとノンビリ出来ると思ったのになぁ・・・」
「クゥン・・・」
そう呟けばジャックも俺の意見と同じなのか悲しげに鼻を鳴らした。
だがそこへが顔を出すと、二人ともピタっとケンカをやめて驚いた。
「あ、あの・・・どうしたんですか?」
「な、何でもないよ~?ちょっと夕飯の相談を二人でね?」
「そ、そうなのよ。ちゃん何がいい?」
「え・・・あの・・・・・・軽めのものなら何でも・・・」
「そ、そう!じゃあ今から作るわね?ちょっとジョージも手伝ってっ」
「わ、分かったよ。じゃあ、ちょっと腕を振るってくるかな?」
そう言って二人はそそくさとキッチンに行ってしまった。
俺はそれを聞いて心の中で苦笑した。
全く何が夕飯の相談だよ・・・
今の今まで、
"この能天気男の女好き!"
とか
"何言ってるのか分からない!うっとしいぃドイツ語はやめろ!"
とか詰りあってたクセに。
まあ一方通行で母さんの言った言葉が通じてなくてホっとしたんだけど。
あれで通じてたらもっと酷いケンカになってるよ・・・
「レオ・・・?もしかしてケンカしてたんじゃ・・・」
が不安そうに隣に座ったが、俺はちょっと笑って首を振るとを抱き寄せ頬に軽くキスをする。
「大丈夫だよ。もう仲良く食事作ってるしね」
「そう?でも・・・お養父さん、料理出来るの?」
「ああ、凄い上手いよ?まあ、でもイタリア料理中心にね。今のには食べられないから今日は違うと思うけど」
「そうなんだ。凄いのね。あ、客室、もう一つ用意しておいたわ?」
「え?、やってくれたの?」
「うん。だから今夜はお養父さんにも泊まって行ってもらって?」
「・・・・・・ありがとう」
の気遣いが嬉しくて思わず胸が熱くなった。
そのまま彼女を抱き寄せ、唇に優しく口付けると少しだけ体を硬くする。
「ん・・・レオ・・・」
「何で離れるの?」
「だ、だって・・・ご両親がいるし・・・」
「当分、戻って来ないよ。どうせキッチンで言い合いしながら食事の用意してるから」
「でも・・・ん・・・っ」
開きかけた唇に再び口付けて強く抱きしめれば今度はも体の力を抜いた。
触れるだけの口付けから、少しづつ求めるように深くしてそっと舌を絡めるとがビクっとしたように体を捩る。
それでも体を抱き寄せ、ゆっくりソファに押し倒すと深く深く口付けた。
「ん・・・」
は恥ずかしいのか、時々軽く俺の胸を手で押してくる。
それが寂しくて更に舌を絡めて吸い上げると彼女の体が再びビクンとなった。
それを肌に感じると次第に俺の体も熱くなって、この辺でやめないとまずいな・・・と思ったその時・・・
「クゥン・・・」
「う・・・」
ズシっと俺の背中に重みが加わり、ゆっくりと唇を離して後ろを見ればそこにはお約束の黒い顔。
「ジャ・・・ジャック・・・」
「クゥン・・・ワゥワゥっ」
ずっと仲間外れで寂しかったのか、仲間に入れてくれ状態で尻尾を振っているジャックに俺は溜息交じりで体を起こした。
「あのなぁ・・・お前まで邪魔するなよ、毎回、毎回・・・」
俺が悲しげに呟くとはクスクス笑っている。
「きっと旅行に行ったりしてていなかったから寂しかったのよ」
「そうかもしれないけど、とのささやかな時間くらい我慢しててくれない?」
ジャックにそう言いながら軽く鼻を指でピンっと弾くと、ジャックは目を丸くして、
「ワ、ワゥ・・・?」
と驚いている。
そして何かを思いついたように尻尾をブンブン振りながら自分のオモチャ箱へ歩いて行くと、リードを咥えて戻って来た。
「ワゥワゥ!」
「何・・・散歩に連れていけって?」
「ワゥン!」
「・・・・・・はぁ・・・もう、そんな時間か・・・」
俺が溜息をつきつつ時計を見て肩を落とすと、が先に立ちあがった。
「レオ、散歩行ってこよ?」
「はぁ・・・そうだな・・・?じゃあ・・・行くか・・・」
俺はそう言って仕方なく立ち上がるとジャックも重たい体でジャンプをして大喜びしている。
そのジャックにリードをつけてからキッチンにいる二人に、
「ジャックの散歩行ってくる」
と声をかけて家を出た。
何だか、またキッチンで料理についてモメていたが、関りたくないのでそっとしておく。
と二人(いやジャックもいるけど)家を出て手を繋ぎながら歩いて行くと、ジャックだけは力いっぱい歩いている。
だが方向を海に向けた時、ジャックの足が止まった。
「はぁ・・・お前、まだ海恐怖症が治ってないの?」
「クゥン・・・・・・」
「ダメ。今日は海コースだ。せっかく家の近くにビーチがあるのに行かないなんてもったいない」
俺はそう言って海の方に歩いて行くとジャックも渋々ついてきた。
まあ、海に近寄らなければ大丈夫だろう。
今日はボールも持ってきてないし真っ暗という時間帯でもない。
も優しくジャックに、「大丈夫だよ」と声をかけて頭を撫でてあげている。
するとジャックも下りてた尻尾が再びブンブン動き出した。
ほんとゲンキンな犬だ。
ま、でもは動物にもモテモテだって事だな・・・
そう思いながら彼女の頬にチュっと口付ける。
は少し恥ずかしそうに俺を見上げてそれでも優しく微笑んでくれた。
こんな何気ない時間が本当に幸せに感じる。
ビーチに出るとリードを外してジャックを放した。
するとジャックは思い切り走り回っていて、相当ストレスが溜まってたんだろうと思わせる。
それを見ながらと手を繋いでゆっくりビーチを歩いて行った。
「レオ、明日はプロモーションでしょ?忙しくなるね?」
「ん?ああ・・・。でも半分は終わってるしそれもすぐ終わるよ。そしたらロスで撮影だしの傍にいられる」
「でも・・・そんな心配しないで撮影に集中していいよ?今度の役は役作りも大変なんでしょう?」
「ああ・・・実際にいた人だからね。でもはそんなこと心配しないでいいよ?」
「だって・・・私の心配ばかりして仕事もしてたら疲れちゃうよ?少しは息抜きもしてね?」
は本当に心配そうに俺を見上げてくる。
そんな彼女が愛しくて、ふと立ち止まると思い切り抱きしめた。
「レオ・・・?」
「といるだけで安らぐんだから大丈夫だよ?こうして二人の時間があるだけでね」
「・・・・・うん・・・」
「だからは自分の体を大事にして毎日ノンビリ過ごしてて欲しい。が元気ないと俺も元気がなくなるから」
そう言って少しだけ体を離すと夕日での瞳が揺れている。
その彼女の瞳を見つめながら優しく微笑むと、少しだけ屈んでチュっとキスをする。
「まあ・・・暫くを抱けないってのが俺にとっては最大のストレスだけどね?」
「レ、レオ・・・っ」
その言葉には一瞬で真っ赤になって俺から離れてしまった。
「そんな事ばかり言って・・・知らない・・・っ」
「だって本当のことだしさ・・・。あ、」
「え?」
俺の呼びかけに素直に振り向いたにチュっと素早くキスをした。
「・・・・・・っ」
「愛してるよ」
そう言っての手を繋げば彼女は頬を赤くしながら照れくさそうに微笑んだ。
「私も・・・」
その言葉は何度聞いても嬉しいもので、そっと手を引っ張りの肩を抱き寄せた。
「俺達はずっと仲のいい夫婦でいようね?」
「うん」
「間違ってもあの二人みたいにならないでおこう」
「レオったら・・・。素適じゃない?別れてからもあんな風に会えるなんて・・・
それに・・・レオのお父さんにも会えて嬉しかった・・・。また一つ幸せ」
「えぇ?あんな能天気な父さんに会って幸せ?」
俺が苦笑交じりでそう言えばはちょっと笑いながら、
「レオの親だもん…。私にとっても大事な人なの」
と言ってくれた。
その言葉は俺の心にストレートに入ってきて胸が熱くなる。
「ありがとう・・・・・・」
そう呟いての頬に軽くキスをする。
俺も同じ気持ちだった。
の親も、周りの人も全てが愛しくなるくらいに彼女を愛してる。
だからも同じ思いでいてくれてると知って更に嬉しく思った。
俺はと出逢ってからずっと熱に犯されてる。
何度でも彼女を好きになる。
この気持ちが萎える日なんて・・・きっと来ない。
どんどん深くなる事はあっても・・・・・・・・・
そう思いながらを抱きしめて、そっとキスをする。
その時、遠くでジャックの吠える声が聞こえてきた――――
>>Back
ACT.9...親の背を見て子は育つ>>
※愛は屋上の烏(からす)に及ぶ
説:人を好きになると、その人の関係する全てを好きになってしまうという意味。
ちょっと繋ぎで書いた、お話ですが、とうとうレオパパ登場です(笑)
実際にレオパパ、イタリア人ですが、きっといい男なんでしょうねぇv
レオママ(イル)は前に彼がエスコートをしてたのを見た事がありますが
ママも奇麗でしたしねv
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
|