二人の呪術師-後編



声のした方へ視線を向けると、化け物が消えていた代わりに、誰かが私の顔を覗き込むように上半身を屈めている。月を背にしているせいか逆光で顔は見えないが男の人だという事は声で分かった。ただ、今の恐怖で喉の奥が引きつっていて、返事をすることが出来ない。それに目の前のこの男が何者かも分からず、身動き一つ取れない。
今の化け物は―――どこに消えた?

「おい…大丈夫か?どこかケガでも―――」

私が何も応えないのを見て、その人影が慌てたようにしゃがむ。その瞬間、ハッキリと顔が見えた。黒い髪を後ろで束ね、前髪を垂らした黒づくめのその男は、私の足や手のケガを確認している。

「あ~膝と手のひら派手に擦りむいてるな。立てる?」

意外にも男が見せた優しい表情に全身の力が抜けていく。その問いかけに何とか頷くと、彼は私の身体を支えて立たせてくれた。

「少しは落ち着いた?」
「は、はい…えっと…あ…ありがとう…御座います…」
「こんな場所で何してたの?」

彼の優しい声のトーンで少し気持ちが落ち着き、私はカラカラの喉から何とか言葉を絞り出した。

「私の猫がいなくなって…探しながらここへ…そしたら…」

そしたら―――?
さっきの化け物はいったい何だと言うのか。そして忽然と消えた化け物はどこに行ったのか。この男こそ、どこの誰で、こんな場所で何をしてたんだろう。とりあえず命が助かったのは分かったが、今度は目の前の男の事が気になった。

「あ、あの…」
「ん?」
「あなた…は?さっきの…化け物はどうして―――」

と、そこで言葉を切った。
私が見たものを、彼も見たとは限らないからだ。余計な事を言って、頭のおかしいやつだと思われても困る。そんな事を考えていると、その男はふっと笑ったように見えた。

「私は夏油傑げとうすぐる。そこの高専の生徒だよ」
「…え?高専…って…あの?」
「ん?あの?って事は…知ってるの?高専のこと」

私の反応に、今度は夏油と名乗った男が驚いたようだった。確かに、良く見れば黒づくめだと思った格好はデザインは変わってるが制服のようだ。ボタンには渦巻の模様が施されていて今まで見た事がないものだった。

「えっと…私の父が学長さんの友人らしくて…どういう学校なのかは聞いてます」
「えっ?そうなの?!じゃあ君も…呪術師とか」
「え?い、いえ…私は違います、けど…」

そう応えながら"呪術師"と聞いて、ふと母の話を思い出した。
もしかしたらさっき襲ってきたのは――――。

「あ、あの…さっきの化け物、やっぱりあなたが?」
「ん?ああ…君を襲った呪霊は私が祓ったよ。もう心配ない」
「呪霊…(やっぱり―――!!)」

彼の言葉を聞いて、さっきの化け物が母の話していた呪いだったんだ、と理解した。てっきり呪いというからには映画などで見るような幽霊みたいなものを想像していたけど、まさかあんなに気持ちの悪い化け物だったとは。でも何故、突然私の前に現れたのかが分からない。これまであんな異形の化け物は見た事もなかったのに。

「えっと…君、名前は?」

あれこれ考えこんでいると、夏油という男が不意に顔を覗き込んできた。
ああ、そうか。彼は身長が高いんだ―――。
私も低い方ではないのに、目の前の彼は目線に合うよう、上半身を屈めて私を見ている。

「あ…ごめんなさい、名乗ってなかったですね。私、と言います。今そこの別荘に滞在してて…」
…?」

彼は一瞬、訝しげな顔を見せたが、すぐに笑顔を見せると、私の頭へ手を乗せた。

「そうなんだ。じゃあ別荘まで送ってくよ」
「え…?」
「足もケガしてるし一人じゃ危ない。えっと…靴は?」

そう言われて自分が裸足だった事に気づいた。化け物から逃げる際に片方はヒールが折れて、もう片方は投げ捨てた事を思い出す。

「あ…さっき脱げちゃって――」

「靴ってコレのことぉ?」

「きゃ…」

不意に夏油くん――彼とは別の声が聞こえて、鼓動が跳ねあがった。慌てて振り向くと、林の奥からサングラスをした夏油くんと同じくらい背の高い白髪の男が歩いて来る。彼もまた、夏油くんとは少しデザインの違う高専の制服を着ていた。
そしてその腕には――。

「マリン…!!」
「うおっ!って、この猫、お前の――?」

目の前に歩いて来た男の腕から奪うようにマリンを抱き上げる。マリンは私の事が分かったのか、嬉しそうな声で鳴いてゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

「良かった!無事で……」

今度こそ心の底から安堵して、目の前の男を見上げた。

「あ、あの…この子を保護してくれてありがとう……探してたの」
「いや…そこで偶然この猫と靴を見つけただけだし…。って、おい傑!どういう状況?……この子は?って…あれ?」

サングラスの男は夏油くんと知り合いなのか、驚いた顔で未だ私の顔をまじまじと見て来る。その様子に苦笑いを浮かべて、夏油くんは肩をすくめた。

「悟がコンビニでモタモタしてるし先に戻ろうと思ったら呪いの気配を感じてね。来てみたら彼女が襲われそうになってた」
「マジ?」
「えっと…二人は知り合いなんですか?」
「ああ、彼は高専の一年で五条悟。私の同級生だ」
「え、一年って…じゃあ私と同い年…?」
「何だ。俺たちとタメじゃん」

五条という男はそう言って笑うと、私の腕の中にいるマリンを撫でている。
どうやら猫好きのようだ。

「悟。彼女はちゃん。そこの別荘に滞在してるらしい」
「え?あ、ああ…そう、なんだ」

五条くんはチラっと私を見て、すぐに目をそらした。

「じゃあ…五条くんも夏油くんと同じ呪術師…?」

そう尋ねれば、彼は苦笑いしながら夏油くんを見ると、

「な~に、傑。そんな事まで話したんだ」
「いや…彼女、知ってたよ。彼女のお父さんがウチの学長と友人らしい」
「えっ?そうなの?」

五条くんは殊の外驚いたような顔で私を見た。本当は父も高専の関係者らしいのだが、私も最近知ったばかりで詳しい事は分からない。彼らにも細かい事は話さないでおいた。

「実は…高専の方にお願いがあってそこの別荘に今日来たばかりなの」
「お願い…?」

夏油くんは訝し気な顔で私を見たが、すぐに五条くんの方へ視線を向けた。

「とにかく…別荘まで送るよ。悟は先に帰っててもいいけど?」
「いやいやいや…傑が送りオオカミにならないように俺も行くって」
「……お前と一緒にするな。ああ、ちゃん、その前に靴を履かないと」

不満げに口を尖らせ「俺がいつ送りオオカミになったよ」と文句を言っている五条くんの手から私の靴を受け取った。でもそのヒールの折れた靴を見て苦笑い浮かべる。

「これじゃ履いた方が危ないな」
「こーんな場所で、んな高いヒール履くなよ。だからコケんだろーが」
「……(む)」

五条くんの呆れたような物言いに思わず「着いたばかりでそれしかなかったのよ」と言い返せば、夏油くんが慌てて「まあまあ」と間に入った。

「仕方ない。彼女は私が運ぶから悟は猫を頼む」
「え…?(運ぶ?)」

何を、と問う間もなく。
夏油くんは抱いていたマリンを五条くんへ預け、軽々と私を抱き上げた。

「え、ちょ、ちょっと――」
「裸足で歩いて行くのも危ないだろ」
「で、でも…重たいんじゃ…」
「全然。逆に軽くて驚いてる」
「………」

ニッコリ微笑む夏油くんの言葉に頬が熱くなる。男の人にこんな風に抱き上げられたのは初めてで、かなり恥ずかしい。

(これは世間でいう所のお姫様抱っこでは…)

夏油くんは細身に見えるのに意外と筋肉質で、私を抱えていても平然としているところを見ると、普段からかなり鍛えてるんだと思った。

(呪術師の存在を聞いた時は陰陽師っぽい暗~い人たちを想像してたんだけど、彼らを見てると全然そんな感じじゃないな…)

そんな事を考えているとマリンを抱えた五条くんが意味深な笑みを浮かべながら歩いて来た。

「へぇ。傑って意外と手が早いんだな」
「………は?」
「ああ、みたいな子がタイプ?」
「……(よ、呼び捨て?)」
「うるさいぞ、悟。ああ、お前が運びたかったとか?」
「あ?んなワケねーだろ。俺は箸より重たいもんは持たない主義だからは傑に任せるよ」

会って間もない男にいきなり呼び捨てにされ、私は軽く目を細めた。さっきから何となく気づいていたが、この五条悟という男はいちいち言う事が失礼だ。(マリンは抱っこしてるクセに)

「あ、あそこなの。レンガ造りの建物」

林を抜けて道を渡ると、すぐにウチの別荘が見えて来てホっと息をついた。

「へえ、高専からかなり近いね」

夏油くんはそう言いながら門を開けて敷地内を歩いて行く。その時、勢いよくドアが開いて榊さんが顔を出した。心配してエントランスで待っていてくれたようだ。

さん…!どうされたんですか?!」

夏油くんに抱きかかえられ、髪やコートは枯れ葉まみれ、ついでに足や腕に擦り傷を作った私を見て、榊さんは青い顔で走って来た。

「あ、あの…マリン探してたらその…坂から滑り落ちて転んじゃって。通りがかった彼らに助けてもらったの」
「えぇ?大丈夫なんですか?と、とにかく中へどうぞ」

榊さんは慌てながらも二人を中へと案内し、夏油くんは私をリビングのソファへと下ろしてくれた。

「あ、あの本当にありがとう」
「いや…それより…転んだことにしておいた方がいいのかな?」

夏油くんは薬箱を取りに行った榊さんをチラっと見ながら訊いて来た。

「…呪いなんて榊さんに話しても分からないだろうし…」

苦笑する夏油くんにそう言えば、彼も「確かに」と笑って肩をすくめた。そこへ五条くんが歩いて来ると、「ほらよ」とマリンを私に返してくれる。

「あ、ありがとう…」
「懐っこくて可愛いな、こいつ。マリンって言うの?」
「あ、うん。目がね、アクアマリンみたいだか、ら―――ッ?」
「ああ、宝石の?確かに」

私の前にしゃがんだ五条くんはそう言いながらマリンを撫でている。でも私は彼の瞳を見て、小さく息を呑んだ。さっきは暗い場所でサングラスもしていたから気づかなかったけど、明るい場所で見た彼の瞳の色は、キラキラ輝くアクアマリンそのものに見えた。

「同じ…」
「あ?」
「五条くんの目…マリンと同じで宝石みたい…」
「………ッ」

素直に思った事を口にすると、五条くんは一瞬驚いたように私を見た。

「コンタクト…?」と訊いたその時、夏油くんが笑いながら歩いて来た。

「コンタクトじゃなくて悟は"六眼"なんだ。眼の色も天然のもの」
「りく…がん?」
「悟の生家である五条家に稀に生まれる。簡単に言えば…呪力を繊細にコントロール出来る眼ってこと」
「…はあ。呪力…」

説明されても良く分からず、軽く首を傾げる私に、夏油くんも五条くんも苦笑いを浮かべた。そこへ榊さんが薬箱を持って慌ただしく戻って来きた。

「ああ~こんなに血が出て…せっかく綺麗な肌なのに…恰好も酷いけど、まずは消毒しましょうね」
「あ、いい、自分でやるから。それより榊さん、二人にお茶を淹れてくれる?」
「え?あ、そ、そうですね!分かりました」

榊さんは頷きながらも改めて二人を見ると、

さんを助けて頂いて本当にありがとう御座いました。私は家にお世話になっている榊友恵さかきともえと言います」

と丁寧に頭を下げた。

「私は夏油傑と言います。こっちは五条悟。当然の事をしたまでなのでお礼なんていいですよ」
「俺は…傑を探してたら、たまたま猫と靴を見つけただけだし」
「それでもここまで送って下さるなんて…お優しいんですね。お二人ともかなりのイケメンですし」

榊さんはそう言うと、意味深な笑みを浮かべながら私を見た。

「…榊さん、お茶」
「はいはい」

何となく気恥ずかしくてそう言えば、榊さんはニヤニヤしながらキッチンへと歩いて行く。それを見送りながら私はホっと息をついた。そこへ薬箱を手に夏油くんが私の前にしゃがんだ。

「ケガの消毒しないとね」
「え?あ、あの…自分でやるから」
「いいよ、私に任せて。それより…さっきの話なんだけど」
「さっき…?」
「高専にお願いがあって来たって言ってただろ。それってどういうものか聞いてもいいかな」

夏油くんはそう言いながらも慣れた手つきで私の膝の消毒を済ませると、今度は手のひらに出来た擦り傷を消毒してくれた。こんな風に知らない男の子から治療してもらうのも初めてで、恥ずかしいついでに自然と鼓動が早くなる。その時、不意に五条くんが私の隣へ座った。

「お願いって…もちろん呪い関係だよな?」

話の内容が気になるのか、私の顔を覗き込む顔はさっきのようなちゃらけた雰囲気ではなく真剣だった。呪術師だという彼らは、やはり呪いが関わっているとなれば気になる性質らしい。二人は学生とはいえ呪いを祓う事に関してはすでにプロだと言うし、頼みの綱の母もまだ戻りそうにない。なら、私に起きている事を彼らに話して呪術師としての見解を訊きたい。そう思って、これまであった不可解な現象の事を彼らに話してみる事にした。

「―――藁人形と謎の電話ねぇ…」

五条くんは私の話を聞きながらも、榊さんの淹れたコーヒーに信じられないくらいの砂糖を入れている。(甘党?)それを美味しそうに飲みながら、ふと顔を上げると、

「それ、呪われてるな」
「え…っ」
「おい、悟!は呪いに関しては素人なんだから、そんな言い方は―――」
「じゃあ何て言やいいの?事実そうなんだから今更オブラートに包んだところで同じだろ」
「そりゃそうだけど…。すまない、。こいつ、こういう言い方しかできない奴で…」
「い、いえ…」

(っていうか気づけば夏油くんまで呼び捨て…まあ、いいけど)

初対面とも思えない距離で話してくる二人に驚きつつも、何となく夏油くんに名前を呼ばれるのは嫌じゃなかった。彼の声のトーンが優しいからかもしれない。

「でも…やっぱり呪いかあ……」

深い溜息をつき、何で私ばかりこんな目に合うんだ、と悲しくなってきた。私はただ、好きな洋服を着こなして同じように洋服が好きな子たちにお洒落をする楽しさを伝えたいだけなのに。そう思っていると、不意に頭に手が乗せられ、ハッとした。

、そのケータイ俺に見せて」
「え…?」

顔を上げると、五条くんと目が合った。

「変な電話がかかって来るって事はケータイにも何等かの呪いの力が働いてるって事だろ。だから俺に見せてみ」
「う、うん…」

彼の言う意味はよく分からなかったが、とにかくケータイを持ってこなきゃと思い、立ち上がろうとした。でも膝の痛みでよろけて、それを素早く五条くんが支えてくれる。

「手、貸すから。ケータイどこ?」
「あ…二階の私の部屋に」
「んじゃ捕まって」
「あ、ありがとう…」

五条くんに手を引かれながら痛む足をかばいつつ、ふと振り向けば。夏油くんはマリンと遊びながら「悟、宜しくー」と笑顔で手を振っている。一緒に来て欲しいと思ったけど、そんな事は言えなくて、私は五条くんを二階の部屋へ案内した。

「えっと、どこに置いたっけ…。気持ち悪いから放置してたの」

足を引きながらクローゼットの方へ歩いて行くと、しまっておいたバッグの中を探した。五条くんは部屋の中を見渡しながら窓の方へ歩いて行く。

「お、ここから高専見えるんだ」
「え?あ…うん。そう言えば母が高専の学生は皆が寮に住んでるって言ってたけど五条くんたちも?」
「ああ、まーね」

テラスへ出た五条くんは「いい眺め」と言いながら柵へ両腕を乗せて風に当たっている。その後ろ姿を見てると、今朝まで知らなかった男の子が、自分の部屋にいるこの状況が凄く不思議で妙な気分だ。

(あっいけない、ケータイ、ケータイっと…。どこにしまったっけ…)

クローゼットの中にはなく、私はベッドの上に置いたままのハンドバッグを確認しようと、歩いて行った。その時また膝にビリビリとした痛みが走り、ケガをしている足の力を抜いた瞬間軽くよろけた。

「きゃ――」

ベッド手前で転びそうになった時、後ろから伸びて来た腕に抱きとめられ、ハッと振り返れば、宝石みたいに綺麗な瞳と目が合った。

「ったく、どんくせぇな。ケガしてんだから一人で動き回るなよ」
「…あ、ありがと…」

そんな言い方しなくても…と思いながらも、五条くんの腕から慌てて離れた。五条くんは私の態度に目を細めて不満そうな顔をしたが、次の瞬間ふと思い出したように、

「そんな足でショーに出られんのかよ?」

と溜息をついた。

「え…?」

(何でそんなこと知ってるの?)

彼の言葉に驚いて顔を上げると、五条くんは「あ、やべ」と慌てたように口をふさいだ。

「どうして…」

さっき二人に藁人形や不気味な電話の事を説明をした際も、私の仕事がモデルだという事は話していない。その辺の話は追々していけばいいか、と思い、まずは一番心配だった私に"起きている出来事"を先に説明しただけだ。
なのに何故、五条くんはそんな事を知ってるんだろう――?

「何だよ、その顔」
「だ、だって…何で…知ってるの?私がモデルだって…」
「あ?んなもん……見た事あるからな…お前の…」
「え?」
「だ~から!同級生の女が買った雑誌にお前が載ってたの思い出してだな…」
「同級生…?」
「…ああ。そいつの借りて見た事あるんだよ」
「そうなんだ…。でもよく気づいたね。私ノーメイクなのに」
「…そんな変わんねーだろ?」
「あ…ありがとう。あ、でも私がショーに出る予定なのは何で知ってるの?雑誌には簡単なプロフィールしか載ってないのに」
「あ…?いや、それは―――」

「悟はファンなんだよな?の」

「――――ッ」

突然聞こえた声に驚いて振り向くと、いつの間に来たのか、楽し気な笑みを浮かべている夏油くんが立っていた。

「ファ、ファン……?」
「傑…!それは硝子だろ?」
「お前もだろーが。現に悟のケータイ、待ち受けが―――」
「あー--!!!!」
「………(ビクッ)」

五条くんは突然大きな声を出すと、慌てて夏油くんの口を手で塞いでいる。耳まで赤くなっているのは照れているせいかもしれない。そんな彼を見ていると、こっちまで恥ずかしくなってきた。

「え、じゃあ…さっき会った時…」
「私はすぐ気づいたよ。雑誌は見たことないけど、悟の待ち受けを見てたし――」
「黙れ、傑!余計なことペラペラ喋んなっ」
「いいじゃないか、別に。そんな照れることないだろ。ファンでしたって言えばいいのに」
「うるせーな!つーか、もうファンじゃねーよ。気が強い女は好きじゃないからな」

五条くんはイライラしたように怒鳴ると、不意に私の方へ振り向いた。

「んで、ケータイは?」
「え?あ、ああ…」

大事な事を思い出し、私はベッドの上にあるバッグへと手を伸ばした。ただ、今の彼の言葉が少しだけショックだった。

"もうファンじゃない"

やっぱり彼もモデルの私を自分の理想像に当てはめてて、実際に会ったら違うと思ったんだろうか。そう思うと悲しくなったのだ。

「あった…」

バッグの中にケータイを見つけて取り出す。それを見た五条くんはすぐに私の手からそれを奪っていった。

「どうだ?悟。何か見えるか?」
「見える…?」

その意味が分からず首を傾げると、夏油くんは「悟の"六眼"は僅かな呪力も見逃さない」と言った。五条くんは私のケータイをジっと見つめながら、

「僅かに呪力が流れてる…。それを利用してかけてきてるのかもな。ま、いわゆるマーキングってやつだ」
「マーキング…?」
「ターゲットにマーキングして条件が揃えば発動する。今回の場合、かけてくる回数か、他にも何かあるのか…。まあどっちにしろ呪いが発動したら――」
「し、したら?」

恐る恐る尋ねると、五条くんは真剣な顔で一言、

「ターゲットは、死ぬ」




此方は夏油くん&五条先生の二人がお相手です。
ヒロインは目立つ仕事にしたくてモデルにしてみましたが設定などは適当なので、そこはフィクションという事でご容赦下さい笑。
五条先生のケータイ待ち受けが某グラビアアイドルだったので、その辺のネタで使ってみました笑