「初めまして!私、家入梢子。硝子って呼んでね♪」
朝の突然の来訪者は元気な笑顔で、そう言った。
【第三話】 呪殺
「マジで来るかね、フツー」
「何よ、五条。二人だけの護衛なんてズルいでしょーが」
「任務にズルいとかズルくないとかないから」
「とか言ってアンタ達、ちゃっかり一葉さんのショーに出るんじゃない。そもそも私が最初にのファンだったのに!」
「はい、出たー。私が先にファンだった古参アピール~」
「はあ?!ウザ!アンタウザい、マジで」
「お~気が合うな。俺も今、全く同じこと思ってるわ」
「………」
「…ごめんね?騒がしくて。結局、硝子まで着いて来ちゃったし」
東京へ向かう道中、事務所のワゴン車のセカンドシートでは五条くんと家入梢子という彼らの同級生が延々言い合いをしていて。隣に座る夏油くんは気まずそうに笑った。
「ううん、全然。いつも移動中は静かだから、賑やかで楽しいよ。それに硝子ちゃんにはケガの治療までしてもらっちゃって」
「ああ、硝子は反転術式を使える数少ない術師だから。まあこの先何が起こるか分からないし硝子がいると私も安心だけどね」
「はんてん…何とかはよく分からないけど、でもこれでリハーサルもちゃんと出来そうだし助かっちゃった」
ケガまで治せる呪術師がいる事にも驚いたけど、実際に膝の傷や手の傷が綺麗に消えた時は本当にビックリした。思わず「魔法…?」と言ったら五条くんに散々笑われたけど。(むかつく)
モデルにとっては綺麗に歩くというのも凄く大事だから、その心配がなくなっただけでもホっとした。
「そう言えば…硝子。ちゃんと先生には報告してきたのか?勝手に来たってわけじゃ――」
「夏油までうるさいなあ。勝手に来たわけじゃないから。私は学長にきちんと断って来たし、二人を手伝ってこいって言われたもん。何か文句でも?」
硝子ちゃんが不満げな顔で振り向いて目を細めると二人の顔が半目になって、仲良く一緒に口を尖らせている顔はちょっとだけ笑える。いつもこんな調子でやりあってるのか、三人の間の空気は凄く自然だ。一年が三人しかいないというのも驚いたけど、夏油くん曰く呪術師は万年人手不足らしい。
「ふぁぁ」
不意に夏油くんが欠伸をした。夕べは徹夜で私の護衛をしてくれてたから、かなり眠たいはずだ。
「夏油くん、寝てていいよ?眠たいでしょ」
「そうしようと思ったけど…前がうるさいし眠れるかな。殆ど雑音だよね、二人の会話」
苦笑しながらそんな事を言う夏油くんに、私もちょっとだけ笑ってしまった。
「あ、じゃあこれ貸そうか?」
ふと思い出してバッグからiPodを取り出し、夏油くんに差し出した。
「私、移動中とかこれで好きな曲を聴きながら寝るの。あ…夏油くんは歌とか聴きながら寝られない人?」
「いや、そんなことないよ。ありがとう」
夏油くんはそう言って優しく微笑むと、iPodを受け取ってくれた。
良かった、と思いながら曲目を出して「どんな曲が好き?」と訊いてみた。
「そうだなぁ…。このアーティストの曲は好きかな。切ないメロディーが眠れそう」
「え、分かる!私も好きで良く聴いてるの」
彼も同じアーティストが好きだと知って嬉しくなった。些細な共通点があるだけで相手に親しみが沸くのは人間特有のものなのかもしれない。
「あ、じゃあ彼女の切ない系ソングばかり入れてるプレイリストがあるから聴く?」
「いいね。じゃあ、それリピ設定にしてくれる?」
「分かった」
すぐに操作してプレイリストの設定を変更しておく。夏油くんはイヤフォンを耳に入れながら、
「じゃあ、お言葉に甘えて…寝かせて頂きます」
わざと畏まった言い方をするのがおかしくて、軽く吹き出しながら「お休みなさい」と言えば、夏油くんは窓に寄り掛かったまま目を閉じた。その横顔を見てると、よほど眠かったのか、数分もしないうちに小さな寝息が聞こえてきて、ふと笑みが零れる。いつも私が寝る場所で、聴いてる曲で、夏油くんが同じように寝てる姿は少しだけ変な気分だ。
「あれ?夏油、寝ちゃってる」
不意に硝子ちゃんが振り向いて「何サボってんのよ、の護衛なのに」と文句を言っている。
「夕べ徹夜で護衛しててくれたから疲れたんだと思う」
「を守るためならそんなの当然の事よ♡」
硝子ちゃんが笑顔でそう言い切るから思わず笑ってしまった。彼女が私のファンだとは聞いていたけど、本人から話を聞くと、私がまだ新人の頃から見ていてくれたようで、それは素直に嬉しかった。
「それにしても夏油ってばの部屋に一晩中いたなんて許せないな……あっ!」
「え…?」
梢子ちゃんが何かを思い出したように声を上げたからビックリした。何事かと思って顔を上げると、彼女は慌てたようにとんでもない事を口にした。
「夕べは大丈夫だった?こいつに何か変なことされたり――」
「えっ?ま、まさか…!」
突然そんな事を言われて思わず顔が赤くなる。
「夏油くんは凄く紳士だし…優しくていい人よね」
私が何気なく言ったその一言で、硝子ちゃんは目を丸くしながら突然シートから身を乗り出してきた。
「えぇぇぇっ?紳士ぃ?夏油が?優しい?夏油が?」
「う、うん…」
驚愕したように声を上げる硝子ちゃんの顔はまさに異質なものを見る目付きで。五条くんは五条くんで笑いをかみ殺している。
「ち…違うの?」
二人の反応を見て、一瞬過去の失敗を思い出し不安になる。夏油くんは私が思っているような人じゃないのかな、なんて。
(高専の学生の事は良く分からないけど、まさか彼もチャラチャラ女の子を引っ掛けてるようなゲス男とか?!確かに五条くんはチャラいし、その親友となれば…)
最悪な想像をしていると、硝子ちゃんは苦笑しながら未だ寝ている夏油くんをビシっと指さした。
「夏油は笑顔で人を煽れるドエスよ!、騙されないで」
「……え?(ドエス?)」
「五条と一緒になって、いっつも先輩術師を小ばかにして遊んでるし、敵の事もいちいち煽ってはキレさせて楽しんでるし余計に仕事を面倒にさせるクズコンビよ、こいつら」
「そ…そう、なの…?」
彼女が話す内容は私が思っていたものとは激しく異なったけど、あの優しい夏油くんが誰かを煽るなんてあまり想像できない。
(五条くんなら目に浮かぶけど)(!)
それは単に彼らが生意気、という話だろうか。
「きっとの前だから猫かぶってるんだよ。私が来たからにはその化けの皮を剥がしてやろ」
「化けの皮って…」
硝子ちゃんは横で笑っている五条くんにも「アンタは猫もかぶれないだろうけど」と言って鼻で笑っている。(そこは同感)
「うるせーな。傑だって俺と似たようなもんだろ。だいたい弱い奴に猫かぶってどーすんのって話で――」
「え、えっと…でも夏油くんってフェミニストよね。女の子には優しいんじゃないの?」
何気なくそう訊いてみると、またしても五条くんと言い合いをしていた硝子ちゃんが不満げな様子で振り向いた。
「誰にでも優しいわけじゃないの。人を見てるっていうか、そこは五条と一緒!二人にいじられてる先輩も女の子だし、いっつも怒らせるんだから」
「そ…そうなんだ。何か意外…」
「…私は夏油が優しいなんて聞く方が意外。五条、どうなってんの?」
硝子ちゃんが訝し気な顔で訊くと、五条くんは「あ~」と言いながら意味深な笑みを浮かべた。
「まあ傑が優しいのはだからだろ」
「え…?」
「何それ?夏油ものファンってこと?あ、依頼人だし気を遣ってるとか?」
「さあ?傑は依頼人だろうが相手が気に喰わなきゃアホほど煽るやつだけどな。まあ確かに人を見てるのは間違いないな」
「だよね?やっぱには猫かぶってるのよ」
二人のその会話を聞きながら、内心ちょっとだけ安心してる私がいた。何でそんな事が気になるんだろう、と思いつつ、隣で寝ている夏油くんを見る。こんなに騒いでる中、iPodのおかげなのか彼は起きる気配もなく、静かな寝息を立ててる。
好きな曲を聴きながら、今どんな夢を見てるんだろう――。
彼の寝顔を見ながら、ふとそんな事を考えた。
「お~!これがかの有名なウォーキングスタジオってやつ?!一面鏡張り」
「きゃー凄い!あ、あの子知ってる!ガールズコレクションで見た事ある!」
事務所に着いた途端、五条くんと硝子ちゃんはあちこち見て回りながらはしゃいでいる。でも私も最初はきっとこんな感じだったな、と懐かしく思いながら二人を見てると、後から夏油くんは欠伸をしながら歩いて来た。
「よく眠れた?」
「ああ。のおかげで雑音も聞こえなかったしね」
夏油くんは笑いながら前で騒いでいる二人を見た。確かにさっきの騒ぎの中じゃ音楽を聴いてなければ眠れなかっただろう、と内心苦笑する。
「、こっちよ!」
その声に振り向けば、一足先に来てた母が手を振っている。これから夏油くんと五条くんの採寸をして、すでに用意されてる服のサイズ直しをするようだ。
「あら、この子たち?急遽スカウトしたっていう男の子は」
母の後ろから顔を出したのは社長の玲子さんだ。彼女にだけは二人の正体を話したらしく、事情を知ってるという事で少しは気が楽だった。
「あ、玲子さん。えっと、彼が夏油傑くんで、こっちが…」
「五条悟です。宜しくお願いします」(キリッ)
それまでギャーギャー騒いでたくせに、急に真面目な顔で挨拶をした五条くんに、思わず目が細くなる。でも玲子さんは笑顔で歩いて来ると、二人を交互に見ながら瞳を輝かせた。
「うわぁ~ほんとイケメンね~!一葉が言う通り、呪術師?にしとくのもったいないわ」
「そうですか?じゃあ本気で転職考えようかな、僕」
「……(僕?)」
「おい、悟…遊びじゃないからな」
五条くんのふざけた発言に夏油くんが呆れたように溜息をつく。母はそんな二人を見て笑いながら歩いて来た。
「でしょ?二人ともショー映えするわよ、きっと。あ、じゃあ先に採寸だけしちゃうから後でスタジオに行かせるわ」
「了解。――じゃね~イケメンくんたち♡」
玲子さんは軽く投げキッスをして颯爽と歩いて行く。相変わらずカッコいいな、と思いながら見送っていると、硝子ちゃんが「あの人がの事務所の社長さん?」と訊いて来た。
「うん。双葉玲子さんって言って母の古い友人で元アシスタントだったの」
「へえ、すっごい美人!彼女がモデルでもおかしくないくらいスタイルいいし」
「あ、じゃあ二人ともこっちへ来てくれる?サイズ測っちゃうから」
母はそう言って二人を奥にある控室へ連れて行く。常に二人の傍にいろと言われている私も梢子ちゃんと一緒に行こうとした、その時。
後ろから「?!」と呼ばれた。
「あ、夕海!」
振り返ると同級生で親友の夕海が驚いたような顔で歩いて来た。緩く巻いた長い髪をピンクベージュに染めて、大きな目を濃いシャドウで色付けした夕海は、今着いたばかりなのか、革ジャンにジーンズという格好だった。
「昨日から別荘に行ったんじゃなかったの?」
「うん、昨日行ったんだけど、やっぱりショーには出ようと思って」
「え、出るんだ!そっか!なら良かった。嫌がらせの方は大丈夫なの?…って、その子は?」
夕海は私の後ろにいる硝子ちゃんに気づき、「新しいモデルの子?」と首を傾げた。
「あ…えっと…」
そう言えば夏油くんと五条くんは母が助っ人で呼んだモデルという事にすると言ってたけど、急遽参加になった硝子ちゃんの事はまだ考えてなかった。
どう説明しようか、と困っていると、硝子ちゃんは笑顔で、
「私、今日からさんの付き人になった入家硝子と言います。宜しくお願いします」
「え…付き人?」
「え?あ、う、うん。えっと…小滝さんは今、母の手伝いに駆り出されて忙しいからその間だけ彼女が私に付いてくれる事になって…」
機転を利かしてくれた硝子ちゃんの話に合わせるよう頷くと、夕海は「ああ、なるほどね」と特に怪しむ様子もなく信じてくれたようだ。
その時、控室から五条くんが顔を出した。
「おい、何してんだよ。俺らの傍にいろって言ったろ」
「あ、ごめん。今行く」
そうだった、と思い出して慌てて返事をする。すると夕海が驚いたように私を見た。
「え、やだ!あのカッコいい人、誰?!イケメンが過ぎるでしょ!、いつの間に彼氏できたの?」
「は?あ、いや、ち、違う!彼はその……母が連れて来たモデルで…」
「え、一葉さんが?あ、もしかして今度のショーの?確かメンズが二人足りないって言ってたよね」
「そ、そう!それそれ」
話に乗って来てくれた夕海に内心ホっとしながら何とか笑顔を見せる。でも夕海は余計に興味が沸いたのか「彼、紹介してよ」と言ってきた。
「え、紹介?」
「だって超タイプなんだもん。彼氏じゃないならいいでしょ?」
「え…っと…」
(いいでしょ?と言われても!)
まさか夕海が五条くんに興味を持つとは思わず、どう応えたらいいか迷ってしまった。確かに夕海は付き合ってた彼氏と半年前に別れてから「新しい彼氏が欲しい」とはよく言ってるけど、五条くんをそのノリで紹介するわけにもいかない。彼らは遊びで来ているわけじゃなく、呪術師として任務でここにいるのだ。
どう説明しようか迷っていると、そこに硝子ちゃんが助け船を出してくれた。
「あいつ、ちょーぜつ!性格悪いですよ?」(!)
「え?」
不意に付き人だと思っていた子がそんな事を言い出し、夕海が驚いている。そこで私は思いついた事を口にした。
「あ、あのね。彼、硝子ちゃんと同じ学校の人でクラスメートなの。それで今回、モデルの件で紹介してもらって」
「あ~そうなんだ!へぇ~。じゃあ、まさかこの子の彼氏…?」
「冗談はやめて下さい。誰があんなク…んぐ――」
彼女が何を言うのかが分かって私は慌てて口を塞いだ。
「…ク?」
「こ、この子の彼氏でもないの。た…ただのクラスメート!」
「あ、そうなんだ」
私のおかしな行動に夕海は訝し気な顔をしていたが、後ろから採寸を終えた五条くんと夏油くんが歩いて来たのを見て瞳を輝かせた。
「うわーイケメンが二人も!黒い髪の彼もこの子のクラスメート?ってか、二人とも背たかっ!」
「え?あ、う、うん…」
何とか笑って誤魔化してると不意に頭をコツンとされ、振り向けば夏油くんが苦笑しながら立っていた。
「離れちゃダメだろ」
「…ご、ごめん…。あ、終わったの?」
「ああ。参ったよ。全身サイズ測られて」
「あ、あれ最初は慣れないと恥ずかしいよね。私もそうだった」
困ったように笑う夏油くんに、私も苦笑する。そんな会話を聞いていた夕海は何を勘違いしたのか「あ、こっちの彼がの彼氏?!」と言い出した。
「"離れちゃダメだろ"…なんてラブラブじゃーん ♡」
「えっ!ち、違うってば!そういう意味じゃ――」
「どうも。夏油傑と言います。いつもがお世話になってるようで」
「………ッ?」
夏油くんは夕海の話に合わせたのか、そんな事を言い出しギョっとした。
「ほらーやっぱそうなんじゃない!」
「げ、夏油くん…?!」
驚いて彼を見上げると、夏油くんは笑顔のまま人差し指をそっと口に当てた。よく分からないが話を合わせた方がいいのかな、と思った私は、未だ騒いでいる夕海に、
「そ、そう…なの。実は」
「もー!何で親友の私に言ってくれないの~?」
「ごめん。最近…知り合って今日…話そうと思ってたんだ」
夕海に嘘をつくのは嫌だったが、全て解決したら本当の事を話せばいい、と今は話を合わせておく。
そこへ五条くんも話に入ってくると、
「ところでこの子は?」
「あ、彼女が親友の石川夕海で、彼は五条悟くん――」
「五条くん、初めまして~♡ の親友の夕海で~す」
「ああ、君が夕海ちゃんね」
五条くんは愛想のいい笑顔を浮かべながら「宜しくぅー」なんてピースしながら挨拶をしている。(軽い)
「五条くんってめっちゃタイプ。目の保養になるわ~。あ、後でお茶しない?皆で。ね?」
「え?あ、いや…」
夕海は本気なのか、お願いとでも言うように目で合図をしてくる。それにはどう返事をしたらいいか困っていると、五条くんはあっさりそれを受け入れた。
「おっけ♪いいよなあ?傑」
「ああ。私はかまわないよ」
「ええ?」
二人で夕海の誘いを受けた事に正直驚いたけど、夏油くんは私の頭に手を乗せると意味ありげに頷いたのを見て、何か考えがあるんだ、とそれ以上何も言わないでおいた。
「やった~♪じゃあリハ終わったら連絡して。私レッスンの後は裏のカフェにいるから」
「うん、分かった」
「じゃあ後でね~」
笑顔で手を振ると、夕海はレッスンルームへと走って行く。夕海は以前から歩き方のクセを注意されていて、定期的にウォーキングの指導を受けているから今日もレッスンをしに来たんだろう。
夕海を見送りながら軽く息をつくと、夏油くんが「お疲れさま」と笑った。
「俺、途中で吹きそうになったわ。特に傑の彼氏っぷりに」
「うるさいよ、悟。ああいう時は他に理由考えるのも面倒だから話を合わせた方が早い」
「まあそうだけど、は嘘つくの下手だよなあ?真っ赤になっちゃって」
「な、何よ、夕海は親友なんだから嘘つくの嫌に決まってるじゃない」
からかってくる五条くんを睨むと、彼はホールドアップしながらも舌を出して笑っている。(ほんと憎たらしい)
「でも…ほんとにお茶するの?」
そう訊いた時、夏油くんが応える前に母が歩いて来た。
「二人とも、今度はウオーキングのレッスンだから、こっち来てくれる?」
「はい。―—行くよ、悟」
「へいへい。あ、今度こそも来いよ?傍にいなきゃ護衛の意味がない」
「わ、分かってる」
「え~私もレッスンしたい~」
二人の後を硝子ちゃんも楽し気に追いかけて行く。私もその後ろを着いて行きながら、夕海との約束を思うと溜息が出た。お茶をするのはいいとしても、その間中さっきのような嘘を繰り返さないといけないんだと思うと憂鬱になってくる。あげく五条くんをかなり気に入ったみたいだし色々と心配だ。
(夕海ってばイケメンに目がないからなぁ…って、あいつをイケメンと認めるのは何か癪に障るけど)(!)
そう思いながら前を歩く五条くんを見た。夏油くんと楽しそうに笑いあってる姿を見れば、確かにカッコいいな、とは思う。特に彼の碧い瞳は目が合うとドキっとするくらいに綺麗で、今だってすれ違うモデルの子たちが五条くんの事を振り返って見ているし、その気持ちは分からなくもない。あの性格を知らなければ、私だって多少は見惚れちゃうかもしれない。でも普段の彼を知っているだけに、そこは素直に認めたくない気持ちもある。
(まあ…いいとこもあるけど…)
ふと昨夜言われた事を思い出した。
"でも大丈夫。――俺たち最強だから"
あの時の五条くんの真剣な瞳を見てたら、本当に大丈夫って素直に思えた。全身から出るオーラみたいなものが、彼のその言葉を裏付けているように見えた。
(まあ…未だに呪術師が何をどうするのかすら理解できてないんだけど…)
そんなことを考えながら、前を歩く三人の後ろ姿を眺めていた。