【第八話】 壊玉-後編
「はあ…」
溜息をつきながらケータイを閉じると、窓を開けて空を眺めた。二人で出かけるという前々からの約束。それがやっと実現すると思って色々と準備をしてきたが、当日になって任務が入った、と夏油くんからメールが来た時は心底落胆した。それでも任務なら仕方ない、とそう返信したものの。
楽しみにしていた分、倍の悲しみが襲って来るのは仕方がない事だ。
(…予定がなくなったんだし明日は学校に来ようかな…)
高等部の二年に進級したばかりで休むのもどうかと思ったが、そこは夏油くんの休みに合わせない事にはいつまで経ってもデートが出来ない。
だから明日明後日は休もうと思っていたが、その必要もなくなった。
(何か、こんなんばっかだなぁ、私たち…。これで私がモデルの仕事を再開したら更に会う時間が減るかもしれない)
まだ迷ってはいたものの、結局夏頃には雑誌の仕事から始める予定になっていて、すでに新しい事務所にも入っている。
玲子さんの後輩が社長を務めていて、是非を預からせてくれ、と言ってくれたらしい。
それは嬉しい事ではあるけど夏からの仕事を思うと少しだけ憂鬱でもあった。
特に夏は呪術師にとって忙しい季節だ、というのは前にも聞いているし、また会えない日々が続くのは目に見えている。
だからこそ今回のデートは楽しみだったし、一泊二日で軽井沢の別荘に行きたいというのも、少しでも長く夏油くんと一緒にいたかったからだ。
でも結局は無駄に終わってしまった。
「呪術師ってほんと忙しすぎじゃない…?」
そうボヤいたところで仕方がないのは分かっているけど、当日キャンセルになったのだから愚痴の一つも言いたくなる。
その時、肩を叩かれ、ハッと我に返った。振り向くと、そこには同じクラスの女の子が笑顔で立っている。
確か名前は―――。
「ちゃん、元気ないけど、どうしたの?」
「え、えっと……」
「あ、私、高梨芽衣だよ。中等部の時一度同じクラスだったよね」
「あ、うん。そうだったね」
そうだ、芽衣ちゃんだ。
彼女が言うように中等部の時同じクラスになった事がある。
とは言っても、特に親しくはなかったけれど。
「また宜しくね」
「う、うん。宜しく」
笑顔で話しかけて来る芽衣ちゃんに、私も笑顔で頷く。
ただ、あの事件以来、こんな風に話しかけて来る人はいなかったせいか、少しだけ驚いた。
「良かったー。話しかけて無視されたらどうしようって思ってたの」
「え…どうして?」
ホッとするように笑う彼女に尋ねると、芽衣ちゃんは「だってちゃん人気モデルになっちゃったし」と言った。
「え、そんなこと…」
「ほんとはね、中等部の時も話したりしたかったんだけど、いつの間にかモデル始めてて何となく声かけづらくなっちゃって」
「え、何で…」
「だってクラスの子はちゃんがモデル始めたら急にチヤホヤしだして、ちゃん嫌そうに見えたから、そういうの」
「あ……そんな事もあったような…」
芽衣ちゃんの言葉に、私はその頃の事を思い出した。
確かにクラスでも少々浮いてた私は、モデルを始めるまでは友達が夕海しかいなかった。でもモデルを始めて少し経つと、どこから聞いたのか、クラスの子たちが話しかけてくるようになって、それが何となく嫌だったのは覚えている。モデルの男の子を紹介して欲しい、とか、私もモデル事務所に入りたい、とか、結局そんな理由で寄ってこられて、最後は殆どスルーしてたら陰口言われるようになって。だから夕海以外の人は警戒してたようにも思う。芽衣ちゃんはその時の事を覚えてるようだ。
「あの頃は…嫌な事も多かったから。私も人見知りな方だったし」
「うん。でも私、ちゃんがモデルやる前に、一度だけ一緒に帰った事あるの。覚えてる?」
「え?あ…!あの雨の日?」
「そう!私が傘を忘れちゃって困ってたら、ちゃんが一緒に傘に入れてくれたの。私、凄く嬉しくて。あまり会話は出来なかったんだけどね」
芽衣ちゃんは嬉しそうに言うと、
「私も人見知りだったせいか、逆にちゃんが気を遣っていっぱい話してくれて。好きな洋服の事とか色々教えてくれたりして。だから、また話したいなって思ったの」
「そうなんだ…。気にせず話しかけてくれたら…」
と言いかけてやめた。あの後くらいにモデルを始めて、クラスの子と色々あって、皆とは距離を置くようになったからだ。きっと話しかけるなオーラ全開で、芽衣ちゃんの言うようにそんな雰囲気じゃなかったかもしれない。
「ご、ごめんね。あの頃はちょっと人間不信というか…」
「いいの、分かってる。だって筒井さんたち、それまではちゃんのこと派手すぎるとか文句言ってたくせに、モデル始めたら急に態度変えてたし、見てていい気分はしなかったもん」
「筒井さんっていたね、そんな人。親の仕事で九州に転校したんだっけ」
「そうそう。転校先でもクラス仕切ってそうだよね」
芽衣ちゃんはそう言って楽しそうに笑った。学校の子とこんな風に話すのは久しぶりの気がして、さっきまで憂鬱だった気分が少しだけ元気になってきた。
「でも勇気出して話しかけて良かった。さっき溜息ついてるちゃん見て心配になって、つい声かけちゃった」
「そう、なんだ…」
「何か…あった?」
「あ、うん、まあ…ちょっと今日の約束キャンセルされちゃって…」
そこで思い出すと、また胸がチリチリと痛みだす。
手の中にあるケータイを見ながら、今頃任務中かぁ、と思うと無性に会いたくなった。
「あ、彼氏、とか?」
私の様子で察しがついたのか、芽衣ちゃんは興味津々な顔で訊いて来た。
「うん…忙しい人で…今日もそれでダメになっちゃって」
「そっかぁ。ドタキャンは落ち込むよね…」
「いつもの事なんだけどね」
そんな話をしてると、授業開始を告げるチャイムが鳴った。
「あ、いけない。次、音楽室じゃなかった?」
「わ、そうだった!芽衣ちゃん、早く行こう?」
何も準備をしてなかった私はすぐに教科書を引っ張り出すと、慌てる芽衣ちゃんと一緒に教室を飛び出した。
「ごめんて!マジごめん!この件から手を引くから!呪詛師もやめる!」
私の呪霊に拘束されている呪詛師の男は、さっきの強気から一転、必死で助けを乞うようにわめいている。
それを軽くスルーしながら、悟にメールを打っていた。
《チューしよーよ。ねぇ、チュー》
呪霊にキスを迫られている男は、唇がくっつくギリギリのとこを手で押さえながら、更に私に訴えて来た。
「もちろん"Q"もだ!そうだ!田舎に帰って米を作ろう!!」
「………?」
あまりにうるさいので再び聞き返す仕草をすると、
「聞こえてるだろ!!」
と生意気にもツっこんで来た。
「呪詛師に農家が務まるかよ」
「聞こえてんじゃん!!」
呆れたように言えば、かぶり気味にツっこみを入れて来る。
だが、さすがにそれでキレたのか、額に怒りマークが浮かび、呪霊に頬を舐められながらもまたギャンギャンとわめき始めた。
「学生風情がナメやがって…!!だが、ここにはバイエルさんが来ている!!」
「…バイエル?」
テキトーに応えながら今届いたメールを開く。
「"Q"の最高戦力だ!オマエも、そいつらも―――」
「ねえ」
悟からのメールを開きながら、呪詛師の男に送られて来た画像を見せる。
「バイエルってこの人?」
「え?」
"Q"のメンバーらしい男が鼻血を垂らしながら気絶していて、その男を背景に悟が笑顔で「(>▽<)v」ピースをしてる写真。
それを見た途端、目の前の男は呆気に取られた顔で唇が震えだした。
「……この人ですね」
「あっそ。残念だったな」
すっかり戦意喪失した男を放置し、私は悟と合流するべく、電話をかけた。
先ほど助けた星漿体の少女、そして少女の世話係の女性は未だ気を失っている。
とりあえず、"Q"はこれで組織瓦解となったはずだ。
「残るは…盤星教…か」
相手は非術師とはいえ、どんな手で来るか分からないし油断は出来ないな、と思っていると、意外と早く悟がやって来た。
「傑も終わった?かなり楽勝だったな」
「ああ。とりあえず星漿体の少女も無事だ」
そう言ってソファに寝かせておいた少女へ目をやる。
「一応、医者に診せる?」
「硝子がいればねぇ」
そう言いながら、サッサと姿をくらました硝子を思い出し、溜息をつく。
すると、悟が少女を抱き上げた時、彼女の目がパチリと開いた。
「お、起きた」
と悟が言った瞬間だった。
バチン、という音が響く。
「ぷ…っ」
"星漿体"の少女――天内理子がまさかの悟を平手打ち、それには私も軽く吹き出した。
「………(怒)」(五)
「下衆め!!童を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!!」
私と悟を見て自分を襲った呪詛師と勘違いしているのか、天内理子は警戒心剥き出しで此方を睨んでいる。
仕方なく私が穏やかに話そうと笑顔を見せながら、少女の方へ歩いて行った。
「理子ちゃん、落ち着いて。私たちは君を襲った連中とは違うよ」
「嘘じゃ!!嘘つきの顏じゃ!!―――前髪も変じゃ!!」
「……………」
いきなり髪型をディスられたことで思わず口元が引きつる。その感情のまま、私は少女の両腕、悟は両足を持ち、思い切り捻ってやった。
「いいぃいいやー-!!不敬ぞー-っ!!」
「お、おやめください!」
そこに私の操る呪霊が意識を取り戻した世話係の女性、黒井美里を連れて来た。
彼女も見たところ、特にケガもなさそうだ。
「黒井!」
「お嬢様、その方たちは味方です」
「…何に乗っておるのだ?」
「これは…前髪の方の術式です!」
「…その言い方、やめてもらえます?」
私は溜息交じりで言うと、未だ不思議そうに見ている天内理子へ説明した。
「呪霊操術。文字通り取り込んだ呪霊を操るれるのさ」
「思ってたよりアグレッシブなガキんちょだな。同化でおセンチになってんだろうから、どう気を遣うか考えてたのに」
「フンっいかにも下賤な者の考えじゃ!」
「あ゛?」
天内理子の言いぐさに、悟も額をピクピクさせて目を細めた。
だが彼女は私たちに不敵な笑みを見せると、
「いいか。天元さまは童で、童は天元さまなのだ!貴様のように"同化"と"死"を混同している輩がおるが、それは大きな間違いじゃ」
「その新しい待ち受けの子、何て名前だっけ」(夏)
「アミちゃん ♡」(五)
「同化により童は天元さまになるが、天元さまもまた童になる!童の意思!心!魂は同化後も生き続け―――聞けぇ!!」
「あの喋り方だと友達もいないじゃろ」(五)
「快く送り出せるのじゃ」(夏)
「学校じゃ普通に喋ってるもん!!」
私と悟でからかっていると、天内理子は真っ赤になりながら言い返してくる。
こうしてみると、年相応の女の子だな、と内心苦笑していると、彼女はふと思い出したように「学校…」と呟いた。
「黒井!今、何時じゃ!」
「まだ昼前…ですがやはり学校は―――」
「うるさい!行くったら行くのじゃ!」
天内理子はそう言いながら走っていく。
それを見て私と悟も慌てて追いかけた。
「アイツ、命狙われてるって自覚あんのかよ?!」
「とにかく捕まえて高専に連れて行こう」
「あーくそ。とりあえず夜蛾先生に連絡入れるわ」
悟はそう言ってケータイを出すと、夜蛾先生に電話をかけた。
まずは状況を説明していた悟だったが、急に「はぁ?!」と大きな声を上げた。
「サッサと高専に戻った方が安全でしょ!……っ」
悟は納得いかないといった顔で唐突に電話を切ると、
「ガキんちょの希望通りに動けってさ…。チッ。ゆとり極まれりだな」
夜蛾先生の話が漏れ聞こえていた為、どういう流れになったのかは私も把握していた。
「まあ、そう言うな、悟」
「でもさー」
「ああは言っていたが同化後、彼女は天元さまとして高専最下層で結界の基となる。友人、家族、大切な人達とはもう会えなくなるんだ」
「傑…」
「好きにさせよう。それが私たちの任務だ」
そう言いながら理子の後ろを着いて行く。
そこへ世話係の黒井美里が追いかけて来た。
「理子さまに家族はおりません。幼い頃、交通事故で…それ以来、私がお世話をして参りました。ですからせめてご友人とは少しでも―――」
「それじゃあ、アナタが家族だ」
「……はい」
私の言葉に、黒井美里は泣きそうな顔で頷いた。
「んでー?学校はどこよ」
悟は渋々と言った様子で着いて来る。すると目的地が前方に見えて来て、私は後ろを歩く悟へ「あそこに見える廉直女学院だ」と伝えた。
「ああ、あれ?」
「ああ、それと…ここの高等部にも通ってる」
「は?マジ?」
「私もさっき理子ちゃんの制服を見て気づいた」
「え、つーか大丈夫か?それ。もし敵が襲撃してきたら巻き込まれるんじゃね?やっぱ学校行かせねーで高専連れてった方が…」
「私も少し心配になったが…理子ちゃんは中等部だし、校内がどうなってるか分からないからな」
そう言いながら学院の敷地へ入っていく天内理子を見た。
「とりあえず校内に呪霊を放って見張らせる」
「だな…。ったく…よりによっての通う学校とはね」
そう言いながら、悟はふと意味深な笑みを浮かべて私を見た。
こういう顔の時は大抵ろくな事を言わない。
「傑…ついでにのとこ行って謝ってきたら?」
「……任務中に行けるか。しかも護衛任務だ。目を離せないだろ」
「まあ…そうだけど。、落ち込んでんだろうなあ」
「……私も落ちこんでいるけど?」
悟は嫌味を言いながらこちらをチラっと見て反応を楽しんでいたが、私が正直な気持ちを口にすると、小さく舌打ちをした。
「チッ、ヌケヌケと」
「余計な事はいいから、行くぞ―――」
と言いかけた、その時、
「げ…夏油くん?!」
ハッとして声のした方へ顔を向けると、そこには驚いたような顔で立っているがいた。
「あ~疲れたぁ」
「お腹空いたね~」
午前の授業が終わり、私は先ほど話してた芽衣ちゃんと食堂に向かっていた。
少し言葉を交わしたら色々と懐かしい話題で盛り上がり、以前よりは打ち解ける事が出来た気がする。
「でもここの食堂、全学年共同だから遠くて嫌になるよね」
「確かに。高等部上がったら少し遠くなったよね」
「あ、でも中庭通れば近道だよ?」
芽衣ちゃんはそう言うと、私の手を引っ張って中庭へと向かう。
その時、この女学院内にはいるはずのない男子生徒らしき人物が二名、敷地内に入って来たのが見えて、私は足を止めた。
「あれ…あの人たち、誰だろ」
芽衣ちゃんも気づいたのか、「え、しかも男の子だ」と驚いている。
だが、その二人がこっちへ歩いて来るのを見て、私は思わず声を上げた。
「げ…夏油くん?!」
「…っ?」
「な…何で夏油くんがここに…?って、あれ?五条くんも?」
「お、噂をすれば、じゃん。久しぶり!」
夏油くんの後ろには、高専で会って以来の五条くんがいて、更に驚いた。
「元気してた?」
「う、うん…っていうか、ウチの学校で何してるの?任務なんじゃ…」
「あー実は今また護衛任務中でさ。対象がここの中等部のガキんちょなんだ」
「え…?中等部の、子?」
さすがに驚いて夏油くんを見ると、彼も苦笑しながら「偶然ね」と肩をすくめた。
まさかの遭遇に多少動揺したけど任務と聞いて納得した。
「それより、…今日は本当にすまない。今朝、この任務を言い渡されて」
「う、ううん…いいよ。仕事なんだし、仕方ないもん」
「これが終わったら必ず休みはもらうから」
「うん」
その言葉に嬉しくなって笑顔で頷くと、隣でやり取りを聞いていた芽衣ちゃんが「あ」と声を上げた。
「もしかして、彼がちゃんの彼氏?」
「え?あ…うん。夏油くん、この子、同じクラスの高梨芽衣ちゃん」
「ああ、初めまして。夏油傑です」
「あ…初めまして!た、高梨芽衣です!」
芽衣ちゃんは男の子にあまり慣れてないのか、緊張したように自己紹介をすると、直立不動で頭を下げた。
その様子に五条くんが、「やっぱ女学院って感じだな」と笑う。
「凄いカッコいいんだね、ちゃんの彼氏とお友達って…。あ、モデル仲間?二人とも背が高いし」
「えっ?あ…そ、そう…かな?」
そう言いながら夏油くんを見ると、彼も苦笑しながら「まあ、そう、だな、うん」と話を合わせてくれた。
そもそも女学院に二人が何をしに来たんだ、と訊かれると説明も大変そうだ。
でもやはり芽衣ちゃんは何かに気づいたのか、
「あれ、でもさっき護衛がどう、とか言ってた?」
「え?あ、ああ…えっと…あ!芽衣ちゃん、ちょっと先に行って席を取っててくれる?私もすぐ追いかけるから」
「あ、そうだね!急がないと座るとこなくなっちゃう。―――あ、じゃあ、ごゆっくり」
芽衣ちゃんは意味深な笑みを浮かべながら私と夏油くんを見ると、急いで食堂へと走って行った。
「はあ…良かった」
「なーんで隠すの?別に話せばいいのに」
ホっとしている私を見て、五条くんは呆れたように笑っている。
「だ、だって呪術師がどうとか話しても信じてもらうのに時間かかるし…」
「まあ、そうだろけど。つか、の制服姿って新鮮だな」
「え?あ…そっか。制服で会うの初めてだよね」
「だな。そういや、傑は前に硝子とここ来てるんだっけ?」
「ああ。と言っても中には入ってないけどな」
そんな会話を聞きつつ、護衛対象がウチの学校の子だという偶然に夏油くんと会えたのは多少感謝をしたけど、同時に少し心配になった。
中等部の子とはいえ、護衛するなら私の時みたいに24時間行動を共にするのかもしれない、と思うと、少し嫌な気もする。
「ん?どうした?」
「え、えと…その護衛対象の子って…」
「ああ、理子ちゃん?今は教室に行ったんじゃないかな。一応私の呪霊に見張らせてある」
「……理子、ちゃん…」
親しげに名前を呼ぶ夏油くんを見て、胸の奥がざわざわしてくる。
これまで夏油くんの傍にいる女の子は硝子ちゃんくらいで、彼女の彼への言動を知ってるだけに、あまり気にしたことがなかった。
でも高専の子以外の女の子とでも、こうして護衛任務で知り合ったりする事はあるんだよねと思うと、何となく不安になってしまう。
「?どうしたの?急に元気がなくなった」
「え?あ…そんなこと、ないよ、うん」
「そう?」
夏油くんは心配そうに私の顔を覗きこみ、頭の上にポンと手を置いた。
すると、後ろで見ていた五条くんはニヤニヤしながら歩いてくる。
「へえ、こうして付き合った後の二人見るの初めてだけど、何か変な感じだな」
「な、何よ、それ…」
「悟、余計なこと言うな」
「はいはい。まあ、でも…お似合いなんじゃね?」
「え…?」
ニヤっとしながら五条くんはそう言うと、私の目線まで身を屈めた。
「ま、ウチの傑をよろしく~」
「う…うん…」
改めてそんな事を言われると照れ臭くなり、僅かに頬が赤くなる。
それを見て五条くんは「相変わらずは照れ屋だな」と苦笑いを浮かべた。
「あ、傑。監視に出してる呪霊は?」
「ああ。冥さんみたいに視覚共有が出来ればいいんだけどね。それでも異常があればすぐに―――」
と、そこで夏油くんは言葉を切った。
「悟、急いで理子ちゃんのところへ」
「あ?」
「二体、祓われた」
夏油くんは真顔で言うと、すぐに私を見て、
「護衛してる子を狙ってる集団がここへ来てるから、も巻き込まれないよう、戦闘音がする場所には絶対近寄らないで」
「わ、分かった…」
「じゃあ、行くよ。―――悟」
「ああ。じゃあ、、またな」
「うん…二人とも…気をつけてね!」
走っていく二人にそう声をかける。とは言え、彼らの強さは助けてもらった私も良く知ってる。だからそれほど心配はしてなかった。
まさか、この任務が失敗に終わるなんてこの時の私は思ってもみなかった―――。
つなぎ的なお話ですが星漿体の話も少しだけ。