【第十九話】 あなたがいたから―前編




2014年、8月。


呪術師はクソだ。
他人の為に命を投げ出す覚悟を、時に仲間に強要しなければならない。
だから辞めた。というか逃げた。

でも、一般企業で働き、気づいたこと。
それは労働はクソ、ということ。
同じ"クソ"なら、より適正のある方を。
出戻った理由なんて、そんなもんだ。


四年ぶりに高専へ戻った時、最初の任務が、やはり、と言うべきか、また、と言うべきか、五条さんからの護衛代理依頼だった。
そこで朝から久しぶりに離れへ出向くと、あの特級保護対象となった彼女が、懐かしい笑顔で出迎えてくれた。

「お帰り、七海くん!脱サラ、おめでとー!」
「お久し…ぶりです……。(言う事が五条さんに似て来たな)」(!)
「五条くんに会った?教師なんて笑ったでしょ」

相変わらず眩しい笑顔を見せる彼女は、あの頃よりも髪が伸び、少し大人っぽくなっていた。
そして私の先輩である五条悟も、軽薄を絵に描いたようなところは、あまり変わっていないが、学生の頃のような気性の荒さは、すっかり鳴りを潜めていた。
この暖かい空気を持つ彼女の傍で長いこと過ごしていたのだから、そういった部分が消えていくのも、また、当然のような気がした。
まあ、外見も多少変わり、以前は常にサングラスをしていたが、今は目全体を覆うように目隠しをしていた。
そっちの方がかなり、楽だという事に気づいたそうで、任務を含む高専での仕事絡みの時だけは目隠しをし、プライベートでは以前のようにサングラスで過ごしているという。
どちらにせよ、うさん臭さには磨きがかかっていると思う。
そして一番驚いたのは、あの唯我独尊を地で行く彼が、高専で教鞭をとっていた事だ。
この世で一番、教師にはなっていけない男が、ちゃっかり教師として一年生を受け持っている、という悪夢のような事実に、私は驚愕した。

「最初は生徒が生意気でイライラしたみたいだけど、今はだいぶ良い先生になってきてるよ。自分だって夜蛾先生困らせてたクセにね」

彼女はアイスティーを作りながら笑って言った。
当時、五条さんの担任だった夜蛾正道も、今や高専の学長になっているが、五条さんとの関係性は、あまり変わっていないらしい。
夜蛾学長が作った、というパンダの呪骸が彼女の愛猫と遊んでいる、という不思議な光景も、彼女曰く、仕事中は面倒を見てあげられないから、と頼まれたようで、昼間だけ彼女の住む離れで預かっているとの事だった。
いや、その前に何故パンダの呪骸が意思を持って動いて話しているのか、説明して欲しい。
そんな感じの事を尋ねると、彼女も困ったように首を傾げた。

「んー。説明されたけど私もよく分かってないの。何でパンダくんが私たちと同じように意思や感情を持ってるのか。夜蛾学長は突然変異って言ってたけど」
「突然変異…」
「でも可愛いし、マリンとも仲良しで、よく遊んでくれるから助かる。ねー?パンダくん」
「俺もマリンと遊ぶの楽しいから好き。の作るご飯も好き」
「………(可愛い…か?)」

中身は人間で実はパンダの着ぐるみなんじゃないか、と思うくらい、意思疎通が図れていて、正直引くレベル。
でもこの不思議な現象を、彼女はすんなり受け入れ、なおかつ面倒を見ている(パンダくんは12歳くらい、らしい)のは、ある意味彼女も大物かもしれない。
(詳しい事は後で夜蛾学長に聞いてみよう)

「そう言えば、今日さん仕事はお休みですか?普段はどうされてるんです?」

ふと気になって尋ねた。
五条さんが教師をしているなら、前以上に忙しいだろうし、彼の護衛なくして、彼女は高専の外へ出られないはずだ。
当然、彼女の仕事にも支障が出てるのでは、と思い、訊いてみた。
すると、彼女はテーブルの下から一枚のデザイン画を出すと、

「私、今はモデル業より、デザインの勉強してて、それほど外出しなくても出来る仕事にシフトしていってるの」
「え…デザイン、ですか」
「うん。私も24歳だし、そろそろ別の道も考えてみようかなって。それにモデルしてたら五条くんに負担ばかりかけちゃうし…」
「あの人は負担だなんて思ってないでしょう」
「……そう、なんだけど」

彼女は一瞬、言葉を詰まらせ、困ったような顔で俯いた。
何か悪い事でも言ってしまっただろうか、と思っていると、彼女は、ふと私を見て、

「長いこと高専にお世話になってるとね、五条くんにしか出来ない事、いっぱいあるんだなぁって実感させられたっていうか…」
「はあ、まあ、そうですね。彼ほどの呪術師が未だいませんから」
「なんだってね。なのに私なんかの護衛で時間取らせられないよ」
「私なんかって事はないでしょう。五条さんにとったらさんの護衛をするのも大切な任務なんですから」
「だから、かな」
「え?」

彼女は小さな溜息をついて、少し寂しそうな笑みを浮かべた。

「五条くんは何も言わずに色んな事をやってくれる。でもそれはやっぱり負担かけてる気がする」
「だからって好きな仕事を制限する事は…」
「いいの。もう充分好きなことやらせてもらったし。まあ、本当はそろそろ護衛もしてもらわなくていいかな、と思ってるんだ」
「え…それはどういう…」

護衛してもらわなくていい、と言う彼女に、少なからず驚いて尋ねてみた。
夏油傑は未だ表舞台に姿を見せてはいないものの、彼の仕業だという事件は各地で起こっている。
まだまだ安全とは言えない中、何故彼女はそんな事を思うんだろう、と気になったのだ。

「だって、私が狙われてるって話だったけど、ここ数年、殺されそうになった事もないし、呪霊に襲われた事もないし。なのにずっと護衛してもらうのも悪いかなって思えて来て」
「…それは五条さんが傍で常にアナタを守って来たからです。決して相手が諦めた、という事ではありません」
「え…そうなの、かな」
「敵もバカではありません。五条さんが守っている限り、迂闊に手は出せない。まして六眼を持つ彼の視界に入る事はすなわち死を意味します。だからそう簡単に襲って来る事はしない」
「そ……そっか。そう、よね…。ごめん、私、ちょっと呑気だったね」

悲しげに言う彼女を見て、ハッと息を呑む。
ついムキになってしまった、と少し後悔した。
ただ、彼女が安全だと錯覚し、護衛を断るような事があれば、今より危険にさらされてしまう。
以前、五条さんから聞かされた夏油傑の目的を聞いていたからこそ、心配になってしまうのだ。

「そうですよ。そんな事を言ったら五条さんに怒られます」
「うん…」
さんにしてみれば、こんな制限のある生活は苦しいと思いますが―――」
「あ、違うの!そんな事は思ってないよ?そりゃ自由に出かけられないし、五条くんいない時は高専から出られないから、昔は少しストレスに感じてた時期もあったけど、今は何かここが実家みたいな気持ちで馴染んじゃって」
「実家…ですか」

私にとっての高専は悲しい思い出の方が多いせいで、そんな風に思った事もない。
彼女だって辛い思い出の方が多いんじゃないか、と思っていたが、どうやらそれだけでもないらしい。

「だって十代の頃から住んでるから。それに以前住んでた東京の家も事件後に取り壊して別の場所に家を建てたから、そこはあまり実家って感じもしないの」

まあ、住んでないんだから当たり前だけど、と彼女は笑った。

「それにお母さんや、たまに帰国するお父さんも、皆がここに来るから」
「そう、なんですね。確かに実家みたいですね」
「でしょ?」

私の言葉に、彼女は楽しそうに笑った。
そうか、あの事件後、住み慣れた家はなくなってしまったんだ。
確かに、あんな事があった場所には二度と足を踏み入れたくないだろうな、と思った。
彼女自身、その我が家で、殺されかけたのだから。

「だから高専の人達も家族みたいに思えるのよね。学長さんも補助監督さんも、呪術師の生徒さんも。もちろん、五条くんや硝子ちゃん、それに…七海くんも」
「…私、ですか?」

不意に家族、と称され、どこか、くすぐったいその響きに、心臓が音を立てた。

「だって七海くんも学生の頃から五条くんの代わりに護衛に就いてくれたりしてたし。卒業後に就職したって聞いてショックだったもん」
「…大げさですね」
「でも五条くんも寂しがってたよ?だから今回、七海くんに電話もらった時は凄く嬉しかったみたい」
「……そうなんですか?私が電話した時、笑ってましたけどね、あの人」

ふと、あの時の含み笑いを思い出し、若干イラっとしたが、結局こうして出戻ってこれたのは五条さんのおかげでもある。
だからこそ、戻って早々彼女の護衛を引き受けたのだ。
もちろん、私自身、彼女の事を何度となく思い出しては心配に思っていた、という事もある。
とりあえず彼女の近況の話など、あれこれ聞いていたが、ふと気になってた事を思い出した。

ここ数年で、彼女や彼女の周りには色々と変化もあったようだが、ただ一つ、変わっていなかったのは、五条さんと彼女の関係だ。
あれから四年も経っているのだから、少しは変化しているものだと思っていた私は、何も変わっていない二人に少々驚いた。
いや…唯一変わった事があるとすれば。
それは、この関係性に、五条さんの方が、限界に来ているのではないか、ということだ。
何故なら高専に戻った事で、今朝、まず最初に挨拶しよう、と、五条さんのいる教室へ顔を出した時、

「脱サラ、おめでとー!今夜、出戻りパーティしようぜぃ。七海んちで ♡」

と、言ってきた―――。

「何故、私の家なんですか」

いきなり人の家でパーティしよう、という五条さんに、少なからず私は警戒した。
これまで、そんな誘いをしてきた事はない。
何を企んでるんだ?と思うのは当然だ。
そんな私の気持ちなど気づきもせず、五条さんは甘えるように私の肩に腕を回してきた。
傍から見れば、目隠しをした白髪の怪しげな大男に絡まれ、カツアゲでもされてるようにしか見えないだろうが。

「いいじゃん。泊めてよ。高専から近いマンション、僕が探してあげたでしょ?」
「それは感謝してますけど…泊めてって何故です?いや、それよりいいんですか?護衛中なのにさんの傍にいなくて」
「ああ、それさ、前もってルート決めた場所から瞬間移動で戻れるから、前ほど傍にいなくても大丈夫」

瞬間移動、と訊いて、かなり驚いた。
あの星漿体の事件があった後、あれこれ自分の術式について模索してたのは知っていたが、まさか成功させていたとは。
この人はどこまで強くなるつもりなんだろうか。
そして思った。(自分の移動ルート確保の為、丁度いい物件を探してきたな、この人)(!)

「もう七海のマンションから高専までのルート作ってあるしね~」
「…やっぱり」

ケラケラ笑う相変わらずの先輩に、私の目も更に細くなる。

「というか、私と五条さんの二人でパーティしたって面白くもないと思いますけどね」
「……確かに」(!)
「…………そう思うなら来ないで下さい」

思わずジトっとした目で睨む。
でも五条さんはどこか困ったように――目隠しで表情までは見えないが――「え、泊めてよ」と言ってきた。

「だから何で泊めないといけないんですか。五条さんにはさんの待つ家があると言うのに」
「あ~。だから、かな」
「はい?」

苦笑いを零す五条さんに、思わず聞き返すと、彼は至って真剣に私を見た。

がいるから泊めて欲しいの。出来れば夏の間だけでも」
「…はあ?夏の間って…何でですか。しかもさんがいるからって…」

アホな先輩の贅沢な言い分に、さすがの私も腹が立ってきた。
あんなに至れり尽くせりな生活をしているくせに、と思うのと同時に、出来れば変わって欲しいくらいだ、と言いたかった。(!)
すると、五条さんは困ったように頭をかくと、大きな溜息を一つ、吐いた。

「だからさぁ…。夏って暑いじゃん」
「…当たり前です」
「で、当然、薄着になるだろ」
「そりゃそうですね」
「だから、それ」
「…それ、とは?」

いったい何が言いたいんだ、と呆れ顔で見つめれば、五条さんは気まずそうに顔を反らした。

「だーから、夏はが薄着になって、僕にとっては、かなり目の毒になる季節…とでも言いましょうか…」
「……は?」
「一応、僕も男なんで。目のやり場に困る事も多々ありまして」
「…何で棒読みなんですか」
「何か七海にこういうこと言うの恥ずいじゃん」
「………聞かされてる私も何気に恥ずかしいんですが?」

じっとりとした目でそう言えば、五条さんは「七海でも照れるんだ」と言って楽しげに笑いだした。(ああ、殴りたい)

要するに、だ。
夏は彼女が薄着になり、この人は自分の理性が保てるか怪しくなってきたから、出来るだけ彼女の待つあの離れにいたくない、とそういう事だろう。
その話を聞いて、ああ、二人はまだ昔の関係のままなんだな、と気づいたのと同時に、少々…いや、かなり驚いた。

私が高専に入って来た時、五条さんは今より更に軽薄で、ハッキリ言えばチャラかった。
同時に、女性関係も派手だった記憶がある。もちろん高専の外で、という事だが。
たまに二年の任務の援護に呼ばれる事があり、五条さんと行動を共にしたからこそ、分かる。
まあ認めたくはないが、男の私からしても外見は恵まれすぎてる方だし、ハッキリ言って五条悟は女にモテる。
そしてそれを本人も自覚している。
イケメン、高身長、高収入とくれば、更に喰いついて来るだろうし、こんな性格(!)でも、女性に不自由はしないだろう。
だからこそ、その五条さんが、好意を持っているであろう彼女に対し、長い間、片思いのような事をしているのが信じられなかった。
まあ、彼女に対する五条さんの接し方を見れば、これまでの女性たちとは全く次元の違う存在なんだろう、という事は気づいていたが、それも当時はかなり驚かされた記憶がある。
そして今、手を出してしまいそうだから帰りたくない、と、そこまでするか、と思うような事を言ってきた五条さんに、私はまた驚かされていた。
前の五条さんなら本能のままに手を出していてもおかしくない気はするが(!)どうやら彼は本気で悩んでいるようだ。

「なーなみー。頼むから泊めて?」

椅子の背を前にして座り、頭を傾けながら子供のようにお願いしてくる五条さんに、小さな溜息が漏れた。
何が悲しくて引っ越し早々、190以上もある男を泊めなければならないのか。
身長のみならず、この人は色々と存在感がありすぎて余計に嫌だ。(!)

「じゃあ寮の自分の部屋で寝泊まりすればいいでしょう」
「いや、それが長いこと空けてたら他の生徒が入っちゃって。僕の荷物、殆ど離れに運んじゃったから」
「……他にも空き部屋がありますよね」
「えー何もない部屋で一人寂しく寝たくない」
「………(この人わ…)」

五条悟の面倒くさいところは、特に大きな理由でもない事で、我がままを言って来るとこだ。(他にも山ほどあるが)

「そう言えば…離れには家入さんも住んでるんでしょう?だったら―――」
「ああ、硝子は毎晩大酒飲んで寝ちゃうからダメ。いる意味なし!ったく何の為に住みだしたんだか」
「つまり、家入さんが寝てしまった後に、襲ってしまいそうになる、という事ですか?」
「……分からない」
「は?」
「自分でも何するか分からないから怖い…」(!)

そこまで?と言いたくなったが、本人は至って真剣なので、敢えてその言葉は飲み込む。

「なら…他に泊めてくれる女性に頼む、とか。五条さんなら泊めてくれる女性など沢山いるでしょう?(嫌味)」
「あ、それはもう試した。でも効果なし」
「………ッ?(本気で殴りたい。ってか、どんな効果をを試したんだ、アンタ)」
「あ、やべ。そろそろ生徒来るから準備しなきゃ。七海はの護衛の方、頼むね」

五条さんはそう言うと、椅子から立ち上がり、私の肩をポンと叩いた。
その表情は見えないが、今日の体術等のメニューを考え出した姿を見ていると、教師っぽく見えて来るから不思議だ。
私はそのまま教室を後にして離れに来たわけだが、ふと愛猫やパンダと遊んでいる彼女の服装を意識して見ると、五条さんが悩むのも分かった気がした。
上はタンクトップ一枚で、彼女の細い体のラインがハッキリ分かるようなフィット感。
下は一見ミニスカートに見えるようなショートパンツで裾はフレアになっている為、動くたびに綺麗な太ももが目に入る。
最初はそんな目で見ていなかった事でも、少し意識して見てしまえば、私でさえドキっとさせられる恰好と言っていい。
これを彼女に片思いしている五条さんが毎日見せられているなら、あんな頼みをしてくるのも、まあ…分かる気がした。

(と言って薄着をするな、とは言えないんだろうな、あの人。そもそも理由を聞かれたら困るだろう)

「夏の間、ね…」

先ほどの彼の言葉を思い出し、軽く苦笑いが零れた。

「ん?どうしたの?」
「いえ……ちょっと五条さんの事で思い出して」
「五条くん?」

彼女は不思議そうな顔で私を見ていたが、ふと何かを思いだしたのか、抱いてた愛猫をパンダに預け、私の前に座った。

「五条くんと言えばね」
「はい?」
「ここ何年かの事なんだけど…暑くなってくると、あまり帰って来なくなるの」
「え…?」

それを聞いてドキっとした。
でもまあ、そんなあからさまな事をしているのだから、さすがに彼女も気づいているようだ。

「そう、なんですか?」

ここは知らないふりをしておく。
彼女はどこか心配そうな顔で、少しだけ身を乗り出してきた。

「どこ、行ってるか知らない?七海くん」
「いえ…最近まで連絡は取ってなかったですし」
「そっかぁ…。そうだよね」
「帰ってこない、と言っても護衛してるんですから、近くにいるのでは?」
「うん、まあ、そう言ってたけど…。でも何で他で寝泊まりするのかなーと思って」
「…………(それはアナタがそんな恰好をするからです)」

とは言えないから無言を通す。
すると、彼女は不意に目を伏せ、

「彼女でも…出来たのかな」
「…はい?」
「だって、そうとしか考えられないもん。そう思わない?」
「い、いや、私には…ちょっと分からないですが」

少しスネたような顔で訊いて来る彼女に、私は変な汗が出て来た。
どうして私が五条さんの女性関係の事で焦らないといけなんだ、と、少しだけ目が細くなる。
が、ふと彼女の表情を見ていると、少なくとも五条さんがどこかへ泊って来るのを心配しているように見えた。
それも、ただ心配というのではなく、女性のとこへ泊っているんじゃないか、と疑っている。

(もしかして…彼女も五条さんの事を…?)

今、目の前で寂しそうな顔を見せている彼女を見ていると、そう見えなくもない。
だがそれが異性としての感情なのかどうか、先ほどの家族発言を聞いてるとハッキリ断言できなかった。
彼女と五条さんの間には、私の知らない数年という時間が流れていて、その中で二人がどのように絆を深めて来たのかまでは、私にも分からないからだ。

(でも、もし彼女も五条さんと同じ気持ちであるなら…あの人もあんなに悩まなくて済むんだろうな…)

そんな事を考えながら、五条さんのお願いの件をどうしよう、と、私も本気で悩んでいた。