春千夜くんが誘惑してきます

夕べのことは――夢?

そう思ってしまうほど、目が覚めてもいつもと変わらない景色がそこにあった。

「おはよー
「お、おはよ…エマちゃん…」

夜更かししたせいで、少し寝坊したみんなは遅めの朝食を食べていた。わたしは目が覚めた時、一人で床に寝ていたけど、しっかり毛布はかけられていて。おかげで寒くはなかった。きっと春千夜くんがかけてくれたに違いない。
そう、思ったけど、春千夜くんは相変わらず目を合わせてくれようとはしないから、やっぱり夕べのことは夢だったんじゃないかと思った。

「んじゃーオレらはバイクでツーリングしてくっけど、夜は例のアレ、行くからな?」

食事の後、マイキーくんが出がけにニヤリと笑いながら言った。エマちゃんは「分かってるって」と笑顔で返してるけど、わたしの顔は多分引きつっていると思う。

「じゃあ、行ってきます」
「また後でな~」

男の子たちは全員、楽しそうに家を出て行く。春千夜くんも最後に靴を履き、それに続こうとした。でもふと、足を止めて振り向く。

「あれ、春千夜、何か忘れ物?」
「…いや…別に」

一瞬だけ春千夜くんと目が合った気がした。でもエマちゃんに話しかけられた春千夜くんは、軽く首を振ってからみんなの後を追いかけて行く。

(今の…もしかして…)

振り向いた時、春千夜くんは何となく、わたしに何かを言いたそうに見えた。でも気のせいかもしれない。
ただ、目が合ったような気がした瞬間、心臓が変な音を立てた。今朝はマスクで口元を覆ってたけど、大きな瞳はわたしを見ていた気がしたからだ。

(やっぱり…夢じゃない…よね?)

春千夜くんにキスをされて、ぎゅっと抱きしめられて眠ったのは、まぎれもなく現実のことだ。彼がどういうつもりで、あんなことをしたのか分からない。でも、わたしの心が激しく動かされたのは事実で、勝手に顔が熱くなっていく。

「あれ、どうかした?顏赤いよ」
「な、何でもない…」
「そう?風邪引いたんじゃない?今朝、寒かったし」
「大丈夫…それより…夜はホントにアレやるの?」

お泊り二日目。今夜はホラー映画ではなく、夜の行事は何故か真冬の肝試し大会となっている。まあ、勝手にマイキーくんが決めたんだけど、これが意外とみんなノリノリで、わたしの意見は言えないまま決定してしまったのだ。

「もちろん!楽しそうじゃない?夜の学校に忍び込むの!」

かくいうエマちゃんもノリノリの一人で、今からワクワクした様子だ。

「でも見つからないかな…」
「大丈夫だよ。冬休み中だし、先生なんかいないって。あ、みんなが帰って来るまで暇だし、買い物にでも行かない?」
「うん、そうだね。夕飯の買い物もあるし」
「あ、そーだ。お好み焼きパーティだもんねー」

エマちゃんは嬉しそうに言いながら、メモに材料などを書き留めていく。お好み焼きは材料費も安いから、大勢で食べるにはもってこいのメニューだ。
わたしとエマちゃんは渋谷の駅近くまで出かけると、まずは前から行こうと話してた下着屋さんへと足を運んだ。

「あーやっぱりこの店可愛いの揃ってるー」

色とりどりの下着を見て、エマちゃんが大喜びしている。
女の子は恋をすると、身なりにも気を遣うようになるらしい。エマちゃんも例にもれず。少しでも可愛くなってドラケンくんを振り向かせたいみたいだ。そういうエマちゃんがすでに可愛いと思うんだけど、本人いわくドラケンくんは意外と硬派で、あの手この手で迫ってもなかなか手を出してこないとブツブツ言っている。
恋愛初心者のわたしには、エマちゃんのその行動力に毎回驚かされるし、聞くだけでも少々刺激が強い。

「ね、このブラジャーどうかな」
「え…こ、これ…ちょっとセクシーすぎない?」
「そうかなぁ?ドラケンの家が家だから、これくらい見慣れてると思うんだけど」
「あ…そっか…」

ドラケンくんはいわゆる孤児で、子供の頃から駅近くの風俗店で暮らしているようだ。最初に聞いた時は凄くビックリしたけど、本人はそういう自分の運命を受け入れていて、お店の人に感謝すらしているし、時々は雑用なんかの手伝いもしているらしい。通りで大人っぽいと思った。

「あーでも見慣れてるから逆にダメか。もっとシンプルな方がいい?」
「え…わ、わたしはその辺よく分からないけど…」

派手な下着を戻して、エマちゃんはシンプルなデザインのブラジャーを自分にあてている。出るとこ出てるし、エマちゃんならどんな物でも似合いそうだ。

「そう言えばって好きな人出来ないよねー昔から」
「う、うん…まあ」

エマちゃんとは中一の頃から仲良くしてもらってるけど、恋愛に目覚めるのが早かったエマちゃんに比べて、わたしは確実にそっち方面は弱い。好きという気持ちがよく分からないのだ。

「あ、じゃあさ。どんな男の子がタイプ?」

エマちゃんが興味津々で訊いてきた。

「前は優しくて面白い人がいいって言ってたけど、今も変わらない?」
「うーん…今は…」

と考えた瞬間、春千夜くんが脳裏を過ぎってドキっとした。ち、違う違う、と慌てて打ち消しつつ、でも考えてしまうのは夕べのこと。あれが現実なら、わたしは彼氏を作る前にファーストキスを経験してしまったことになる。それは今、ドラケンくんに恋をしているエマちゃんを軽く追い越してしまった形になっていて、少し動揺してしまった。

「今は?どんなのがタイプ?」
「…え…と…」

この場合、どう応えたらいいんだろうと迷っていると、エマちゃんは「あ、じゃあさー」と意味深な笑みを浮かべながら、わたしの顔を覗き込んできた。

「アイツらの中じゃ誰か一番タイプ?」
「アイツら…?」
「だーから、ウチの兄貴のマイキーとか、場地とか、春千夜とか?東卍のメンバーで誰かいないの?」
「…え…」

それこそ答えに困る質問だ。でも今、身近なのは東卍のメンバーなことだけは確かで、あの中でと言われると、近すぎて逆に言いにくい。

「ねね、誰がタイプ?もしタイプいるなら、ウチが協力してあげる」
「え…」
「あ、でもマイキーはあまりお勧めしないかなー。アイツ、女の子よりバイクとケンカに夢中だし、チームのこと優先して、絶対彼女泣かすタイプだよ」

エマちゃんは自分のお兄さんのことを勝手に分析して笑っている。まあ、確かにマイキーくんはそんな空気があるけど。

「あ、場地はねー、意外と彼女に優しくて、尽くすタイプっぽい。前に彼女いたの見てるから分かる」
「あ、そうなんだ…。でもそんな感じだよね。頼りがいありそうだし」
「ま、アイツもケンカっぱやくてバカだけどねー!」

あはは、と大きな声を上げながら笑うエマちゃんも、なかなか容赦がない。場地くんは中学で留年したと言ってたけど、本当に勉強は苦手らしかった。

「あ、じゃあ夕べのメンバーになっちゃうけど、春千夜はどうなの?」
「えっ…」

その名前を出されて、さっき以上に心臓が鳴った。これじゃあ意識してると自分で認めたも同然かもしれない。

「ほら、、嫌われてるかもーなんて気にしてたみたいだし…もしかして好きなのかなあ…なんて思ってたんだけどさ」
「す…好き…とかじゃ…」

思い切り突っ込まれる形になって、顔が赤くなったのが自分でも分かる。どうしよう。夕べのこと、エマちゃんに相談した方がいいのかな。でもキスされたなんて、言うのもバレるのも恥ずかしい。

「春千夜は元々気の優しい奴なんだよね。今はあんなだけど、彼女が出来たらどうなのかなー。今まで彼女いたとか分かんないから未知の世界かも」
「み、未知…なんだ…」
「ああ、でもね。ウチの勘だと、春千夜の方はのこと好きなのかな~とは思ってんだよねー」
「えっ?ま、まさか…」

急にブッ込んでくるエマちゃんにギョっとしてしまう。
春千夜くんがわたしを――?
ないない、と頭の中で否定した。あんな理想の顔をした男の子が、わたしなんかを好きなはずはない。そう思うのに、心臓は勝手にバクバク鳴り出して、顏から上がやけに熱かった。

「まさかってことないよー。あ、今夜、それとなく春千夜に聞いてあげようか」
「い、いいよ、そんなの…違ったら恥ずかしいし…」

と言ってみたものの。もしかしたら、なんて期待してしまう自分が嫌だ。そもそも、わたしは春千夜くんのことを好きなのかも分からないのに、何でこんなにドキドキしてるのかも分からない。
ただ、夕べのキスも、好きだからだと言われれば、納得できるけど、でも普通は何か言ってからじゃないのかなと思う。

(遊び…なのかな…それともからかってるだけとか…いや、最悪寝ぼけて誰かと間違えたまであるかも…春千夜くん眠そうにしてたし…)

夕べは動揺しすぎたのと睡魔のせいで、うやむやのまま寝てしまったけど、普通あれは怒るとこだったんじゃ、と今更ながらに思ってしまう。
でも春千夜くんが遊びであんなことをするようなタイプにも思えないから、悶々とするんだけど。

(やっぱり…恥ずかしいけど…キスのことはちゃんと聞いた方がいいのかな…)

下着を体にあてて迷っているエマちゃんを見ながら、今夜チャンスがあれば、春千夜くんに聞いてみようか、と考えていた。



2.


「おーし。じゃあ同じ番号を引いたヤツが、ペアで行動な」

夕飯のお好み焼きをしっかり食べた後、早速、肝試しに行こうということになった。まずはドラケンくんが割りばしに番号を書いて、みんなにそれを配る。一から三まで、それぞれ引いて同じ番号になった人同士がペアで行動することになるようだ。

「お、オレは二番」
「おー、じゃあオレだな」
「ケンチンとペアか。色気ねえ~」
「いや、それこっちの台詞だわ」

まずはマイキーくんとドラケンくん、総長と副総長コンビがペアとなったみたいだ。エマちゃんが見るからにガッカリしてる。次に声を上げたのは場地くんで「オレいっちばーん」と手を上げた。その瞬間、隣にいたエマちゃんが「げー場地か~」と溜息交じりで項垂れた。

「あ?何だよ、その態度は」
「別に~」

エマちゃんにとってはドラケンくん以外は、同じリアクションだろうなと内心苦笑をした。でもすぐにハッと気づく。

(ということは…三番は…)

恐る恐る振り返ると、春千夜くんが持ってた割りばしを見ながら「オレ、三番だわ」と言いながら、わたしを見た。そもそも残ってるのはわたしと春千夜くんしかいないのだから、当然と言えば当然の結果だ。でもわたしはどんな顔をしていいのか分からず、パっと視線を反らしてしまった。これじゃいつもと逆かもしれない。

「んじゃーペアも決まったところで行くか」

ドラケンくんが先導しながら、マイキーくんの家を出ると、徒歩数分のところにある学校へと向かう。エマちゃんと男の子の後ろを歩きながら、道中ずっとどうしようが脳内をぐるぐる回ってた。夕べの今日で春千夜くんと二人きり、薄暗い校舎を歩くことになるなんて、どうしていいのかも分からない。

「あーあー…せめてドラケンが相手だったらウチも楽しめたのに~」

さっきからエマちゃんはブツブツ言いながら溜息を吐いている。確かに好きな人との方が、こういうイベントみたいな遊びは楽しいかもしれない。

「マイキーくんに代わってもらえないの?」
「ぜーったい代わってくれないよ。っていうかドラケンがズルすんなとか言いそう」

確かにドラケンくんは見た目と反して意外と――と言ったら失礼だけど――真面目なところがある。こういう遊びでもルールを守らせるのが彼らしいところだ。

「でもは春千夜でしょ?もしかしたら…もしかするかもよ~?」
「な、何が…?」

ぐりぐり肘で押されて顔が熱くなる。エマちゃんはすっかり春千夜くんがわたしのことを好きだと思い込んでるみたいだ。

「春千夜、ちょっと嬉しそうだったし。もしかしたら告られるかもよってこと!」
「ま、まさか…!あの春千夜くんがそんなはずは…」
「何で~?はもう少し自分に自信もちなよ。すんごく可愛いんだから」
「そ…そんなバカな」

可愛いのはエマちゃんだ。ふわふわの髪に大きな瞳。スタイルもいいし、クラスの男の子たちが、いつも意識してるのが分かる。ただマイキーくんが怖くて声をかけられないだけなのだ。まあ、かけてもフラれるだろうけど(!)
でもわたしはエマちゃんほど華やかでもないし、クラスでもどちらかと言えば大人しい方だった。もともとコミュニケーション能力もないし、友達を作るのが昔からヘタなのだ。
だから何でエマちゃんが仲良くしてくれてるのか、未だに疑問だったりする。

「おし、真っ暗だな」

学校についてから、まず門を乗り越えて中へ侵入すると、あちこち見て回って電気がついてる場所がないかを確認。学校中、真っ暗だと分かって、早速校舎裏へと回った。そこには理科準備室があり、端っこの窓の鍵は常に開いていてるのを、マイキーくんが知ってたのだ。
というのも、いつも学校を抜け出すために、こっそり開けてあるかららしい。

「ラッキー、見つかってなかったみたいだな」

窓が開くことをドラケンくんが確認して、ニヤリと笑う。カーテンに隠れがちな窓だからこそ、鍵が開いてるとは誰も気づかないんだろうなと思いながら、ドラケンくんの説明を聞いていた。

「んじゃーまずは先行のペアが中に入って、四階の一番奥の男子トイレの洗面台に、これを置いてくる。んでその後に別ルートを通って一階の理科準備室へ戻ってくればOKだ」

ドラケンくんは言いながら、トイレに置いてくるアイテムを差し出した。それはカラフルなビー玉だった。要はここに来たよという目印変わりだ。
マイキーくん達は赤、エマちゃん達は水色、わたしはピンクを渡された。

「じゃあ、先行は…つーか番号順でいいか」
「そうだな。じゃあエマと場地は先行って」
「はーい」
「よし、サッサと言ってサッサと戻んぞ」

場地くんはせっかちなのか、すぐに窓枠を乗り越え、理科準備室へ。中からエマちゃんの手を引っ張り、中へと入れた。

「じゃあ行ってきまーす」

それぞれ懐中電灯は男の子が持って小さな明かりを頼りに歩いて行く。わたしは見てるだけでドキドキしてきた。

「よし、10分経ったし、次はオレとマイキーな?」
「よっしゃー!早く行こう、ケンチン!」

マイキーくんは早く行きたくてウズウズしてたらしい。身軽な動作で中へ入ると、ドラケンくんもすぐに中へ滑り込んだ。

「じゃあオレら行くけど、春千夜とは更に10分後、中へ入れよ。ああ、で、言い忘れたけど最後のヤツが全員分のビー玉を回収な?それで行ったかどうかが分かるから」
「おー」
「わ、分かった」

窓から顔を出したドラケンくんに言われて、わたしはケータイの時計を確認する。今は午後の10時30分。ということは40分になれば中へ入ればいい。

「じゃーな」

ドラケンくんはそれだけ言うと、顏を引っ込めた。急に静かになった気がして、妙な緊張感が走る。それに春千夜くんと二人きり、という状況は初めてだから、心臓がやけにうるさくなってきた。

(覚悟はしてたけど…二人きりは気まずい…何を話していいかもわかんないし…)

さっきはキスのことを聞いてみようと思ったりもしたけど、いざこうなってみると何を話していいのかも分からない。いきなり何でキスしたんですか、とはさすがに訊きにくかった。

「な、何か…怖くなってきちゃった…」

手始めになるべく普通に話しかけてみた。でも春千夜くんは「そうか…?大丈夫だろ」と素っ気ない。そこは相変わらずだなと思いながら、彼へ視線を向けた。
春千夜くんは昼間と同様に口元はマスクで覆われている。付けてる方が暖かいからと言ってたけど、表情が半分分からないから困ってしまう。

(それにしても…暗闇で映える瞳だなぁ…)

とにかく大きくて綺麗だから、ついつい視線を向けがちになる。
その時、不意に目が合った。

「…おい」
「えっ」
「そろそろ時間じゃねーの」

そう言われて手元のケータイを見下ろすと、確かに40分になるところだった。

「あ、ほんとだ…じゃあそろそろ行く…?」
「…おう」

春千夜くんも身軽な動作で窓枠を超えて中へと入る。そしてすぐに顔を出すと、わたしへ手を伸ばしてくれた。ドキっとして見上げると「掴まれよ。一人じゃ登れねえだろ」と言ってくる。確かに一階とはいえ、少し高さがあるので、一人じゃ無理だ。そっと手を伸ばすと、春千夜くんの手が、ぎゅっとわたしの手首を掴んだ。次の瞬間、思い切り上へと引っ張られる。どうにか窓枠にも手をかけながら、春千夜くんに中へ引き込んでもらった。

「あ、ありがとう」
「おう…んじゃー行くか」
「う、うん…」

懐中電灯は春千夜くんが持ってくれていた。その明かりを頼りに薄暗い校舎を歩いてく。普段、自分達が通っている学校とは言え、夜の校舎に入るのは初めてだ。その不気味さに少しだけ背筋がゾクリとした。真冬に肝試しは、かなり寒いかもしれない。

「寒いのかよ」
「え?あ…す、少し…」

身震いしたのを気づかれたらしい。春千夜くんがふとわたしを見下ろしてくる。一応、厚着をしてカイロも持っているけど、精神的なものにはあまり効果はない。

「手、貸せよ」
「え…?」
「手だよ。ほら」

何を思ったのか、春千夜くんがわたしに向かって自分の手を差し出してくる。それを見てドキッとしたものの、ジっとあの大きな瞳に見つめられ、言われるがままに差し出せば、春千夜くんの手がそっとわたしの手を握った。

「つめて…」
「……っ」

ふと呟いたその一言で、夕べのことを思い出す。キスをした直後、春千夜くんが今と同じことを呟いたからだ。
慌てて顔を上げると、春千夜くんはふっと目を反らした。

「夕べも…冷たかったな」
「…え?」

不意に言われたことが何のことなのか分かった気がした。
春千夜くんは再びわたしへ視線を向けると――。

「オマエの唇…」

そうひとこと呟いて、わたしの手をぎゅっと握り締めた。ドキっとしたものの、今が昨日のことを聞くチャンスなのでは?と思う。やっぱり、このままうやむやには出来ない。そう決心して、わたしは彼をまっすぐ見上げた。

「あ、あの…何で…?」
「…あ?」
「き、昨日の…何であんなこと…したの…?」

言った!言えた!と、内心では心臓がバクバク鳴ってるくらい緊張している。同時に顏が一気に熱くなるのを感じた。空気は冷えて冷たいのに、自分の顔だけが燃えるように熱い。
春千夜くんはわたしの問いに少しだけ瞳を見開いた。それから「何で…って…」と不機嫌そうに眉間を寄せて、また目を反らす。
こんなことを聞いて怒らせちゃったかなと不安になった。
なのに――思いもよらなかった答えが、春千夜くんから返ってきた。

「オマエが…好きだからだよ」



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