26 days for me and her.

Ran Haitani



今日、3年付き合った彼女にプロポーズをした。
某有名ブランドで作らせたブリリアントカットのダイヤが一際目立つ婚約指輪を用意して、オレの街、六本木の夜景が一望出来るスイートルームに彼女を招待。そこで人生初のプロポーズ。さすがのオレも緊張を隠せなかった。
彼女の名前は。絵に描いたような妹キャラの女の子だ。

「嬉しい…蘭ちゃん」

はそう言って嬉し涙を流しながら、オレのプロポーズを受けてくれた。
ここからオレと彼女――との結婚に向けての全記録を記す。

その前に――との出会いを話しておこう。
彼女とはオレの行きつけの美容室で出会った。初めて会った時、彼女はまだ入りたての新人で、オレの担当カリスマ美容師のアシスタント的な見習いだった。主にシャンプーをしてくれる係と言っていい。見た目は素朴で童顔。ぶっちゃけて言えば、当時のオレは派手で美人な女が好きで、はそのタイプとはかけ離れていたと言える。おまけに超がつくほどのドジっ子で、何度シャンプー中、髪を引っかけられたり、熱いお湯をかけられたか分からない。そのたびにワタワタし始めるから、更に顔までお湯が飛んで来る始末。正直勘弁してくれと思ったが、何となく憎めない子だった。毎回に髪を洗ってもらうせいか、徐々に情というもんがオレの中にも湧いて来て。先輩に呼ばれるたび広い店内をちょこまか走る彼女のことを見るたび、内心ヒヤヒヤしていた。
また転ぶんじゃないか。また何か落とすんじゃないか。そんな心配をしているそばから彼女はある意味期待を裏切らないドジをかます。

「オマエ、少しは落ち着いて動けよ」

忙しい時は先輩美容師から二つも三つも頼まれごとをされることがある。そんな時、彼女はいつもパニックになりながら、何かしら失敗するから笑ってしまう。そんな彼女を見かねて声をかけると、はいっつも「はい!ありがとう御座います」と明るい笑顔で応えてくれた。この、やる気だけは人一倍あるようで、見ているとハラハラさせられる反面、こっちまで元気にさせられる不思議な子だった。

「オマエが一人前になったらオレの髪を切らせてやるよ」

そんな他愛もない約束を口にするだけで、彼女はめちゃくちゃ喜んでくれたりもした。

それからも月に二回のペースでその美容室に通って、と出会ってから一年が過ぎたある夏の夜。偶然にも彼女と六本木でバッタリ会った。

「え、蘭さん?」
「は?オマエ、か」

すれ違った女に声をかけられ、振り向いた時、を見て驚いた。店にいる時は髪も一つ縛りでTシャツにジーンズ、スニーカーと地味な格好ばかりしてた彼女が、この日は女の子らしいキャミソールワンピにお洒落なミュールを履いていて、あげく髪を巻いてふんわりとアップスタイルにしていたからだ。控え目に言って、めちゃくちゃ可愛く見えた。店では殆どスッピンに近いのに、その日は薄っすらメイクまでしていたせいもある。印象が随分と違って見えた。

「オマエ、何してんだよ、ここで」
「今日お店休みなんで夜遊びです」
「夜遊びぃ?オマエ、夜の六本木舐めてっと怖い目みるぞー?」

ふざけた調子で言ったものの、半分は本気で言った。でも彼女は少し恥ずかしそうに「大丈夫です。彼氏も一緒なんで」と笑った。まさか彼氏がいたとは一ミリも考えていなかったオレには、その一言がかなり衝撃的だったのは覚えてる。

「は、オマエ、彼氏いたのかよ」
「いますよー。幼馴染なんです」

そう言いながら頬を染めてはにかむ彼女を見た時、オレの中で何かがモヤっとしたけど、その時はそれが何かは分からなかった。話を聞けば彼女も子供の頃は港区に住んでいたらしい。更に驚いたのはその幼馴染で彼氏だという男はまさかの知り合いだったことだ。オレや弟の竜胆の周りには常に六本木の不良どもが集まって来てた。その中に彼女の男がいた。名前はイチヤ。その名前を聞いた時、嘘だろと少し驚いた。イチヤはオレの目から見てもかなりチャラい男で、更にケンカっぱやい短気な男だった。そのイチヤの彼女が、ほんわかしたタイプのというのがどうしても結びつかかなった。

「え、イっちゃんがいつも話してた六本木のドンって蘭さんのことだったんですか」
「ドンってオレはマフィアのボスか」

すっとぼけたことを言われて苦笑すると、彼女は明るい笑顔で笑い転げてた。でもその笑顔が彼女の顏から消えたのは、それから一ヶ月後のこと。
いつものように店に行くと、は泣きはらしたような目をしてオレの前に現れた。

「オマエ、どした?その目…腫れてんじゃん」

軽い感じでそう訊いたオレに、彼女は「夕べ悲しい映画観て泣き過ぎちゃって」とバレバレの嘘を言った。映画を観て泣き過ぎただけなら、表情まで暗いなんておかしい。何かあったのは明白だった。

「じゃあシャンプーしますね。熱かったら言って下さい」

何があったか訊こうにも、いつものように振る舞う姿を見てると、客の一人であるオレが彼女のプライベートにまで首を突っ込むのは良くない気がして、その場は大人しく髪を洗ってもらうことにした。でも言った傍から熱湯をかけてきたはある意味、いつも通りだった。

「す、すみません…!温度調節を間違えてしまって…」

平謝りするに溜息をつきつつ、少し赤くなった自分のオデコを見てたら、だんだんジワってきた。彼女のドジはオレの中ではすでにメニューに入ってるくらいデフォルトだったかもしれない。

「マジで悪いと思ってるー?」
「は、はい…!あ、今、冷やすものを――」

と走って行こうとするの腕を掴んだのは、自分でも少しだけ驚いた。はもっと驚いた顔をしてたかもしれない。シャンプールームは髪を切るスペースとは違い、別の空間となっていて、その場に客はオレしかいなかった。照明も落とされていて、かなり落ち着く空間の中、彼女と二人きり。だからあんなことを言ってしまったのかもしれない。

「悪いと思ってんなら…お詫びに今夜、オレに付き合ってくれる?」

オレに腕を掴まれて固まっていたの体が、更に固まったのが分かった。