その囁きは甘く解けゆく-15

※軽めですが性的描写あり。苦手な方はご注意下さい。
「そろそろ寝ようか。さん疲れたよね」
片付けも終わり、互いにしっかり歯磨きをしたところで、乙骨が時計を見ながら言った。乙骨に手を引かれながらも「うん」とは頷いたものの。ふたりで寝室に入った瞬間からドキドキが加速していくのを感じた。乙骨の愛情表現にいつもより過剰に反応してしまうのは、やはり会う時間に制限のある普段とは違い、ふたりきりの時間が延々と続いているからかもしれない。こんなに長く乙骨とふたりで過ごすのは初めてだった。ついでに言えば、風呂上りのメイクを落とした顔を見せるのも、部屋着姿を見せるのも初めて。また乙骨のそういう姿を見るのも初めてで、小さなドキドキは常にあった。
「えっと…パジャマ出さなきゃ」
ベッドに腰をかける乙骨を見て、恥ずかしいのを隠すように自分のキャリーバッグを開ける。乙骨はシャワー後、すでにTシャツとスェット姿に着替えていたので、そのまま寝るという。いつもこんな格好だよ、と言うのを聞いて、そういうとこ男の子だなあと思いながら、自分は服の詰まったバッグを漁った。彼女の場合、昔から寝るときは、ゆったりめのスリープドレスと決まっている。締め付けず、体には負担もなく楽なので今回も当然持って来た、つもりだった。
「あれ…?何で…?」
「どうしたの?」
バッグの中の服を次々に出していくを見て、乙骨もギョっとしたように身を乗り出した。しかしは泣きそうな顔で振り向くと「わたしのパジャマがない…」と呟く。どうやら空港で五条に仕分けされた際、間違って省かれたらしい。デザインがパジャマっぽくないのでワンピースか何かと間違えられたようだ。
「もう…五条先生ってば間違えて仕分けしたんだ…。あれじゃないと安眠できないのに」
ウサギのヌイグルミに次ぎ、パジャマまで。随分と安眠グッズがあるんだな、と乙骨は笑いを噛み殺した。どうやらには自分の知らない一面がまだまだあるようだ。それを知っていくのは乙骨にとって、この上ない幸せであり、全て知った気になっていても、こうして生活を共にしなければ分からないことは沢山あるんだということにも気づかされる。
「じゃあ他に何かパジャマになるような服は?」
「う…ない、かも」
そう言いながら散らばった服を見下ろす。高専の制服以外に持って来たのは、どれも観光(!)するとき用に持って来た外出用の服ばかり。それも五条に仕分けられたので、数はめっきり減ったのだが。
「え、今着てるルームウエアじゃダメなの?」
「これは…だって…」
と言いつつ、自分の恰好を見下ろす。それは風呂上り用と決めているもので、シルク生地のてろんとしたガウン付きのルームウエアだった。さっき乙骨に見せたときは「可愛い、めちゃくちゃ可愛い」と褒められまくったのだが、ガウンの中はワンピースタイプではなく、上下に分かれてるタイプなので当然ズボンを穿いている。は寝るときにウエストを締め付けられるのが嫌いだった――はずなのだが。
「すっごく可愛いから、これで寝ればいいのに」
「…え…そ、そう…かな」
乙骨にそう言われると、これでもいいかな、と思ってしまうのが彼女の単純なところで、乙骨が可愛い…と思うところでもある。まあ乙骨からすれば彼女が何を着ていても可愛いしかないので、何でもいいのだが。
前にが体術の鍛錬をしてる際、通りかかった乙骨がジャージを着てる彼女を見て「可愛い」とデレてたのがいい証拠だ。そのときはまだ付き合ってもなかったので、真希や棘、パンダから盛大に突っ込まれ、には「ジャージ姿が可愛いわけないでしょっ」とツンな返しをされたという、悲しい思い出だったりもする。
なのに今では一緒にベッドで眠るところまで来たのだから、恋愛とはつくづく不思議なものだと思う。
とりあえず乙骨の鶴の一声で今の服のまま寝ることにしたは、恐々といった様子でベッドへと上がる。寝室の奥、ほぼ真ん中にどんと置かれているダブルベッドは、やけにフカフカで、肌触りのいいシーツがセットしてあった。両端は壁ギリギリまであるので、これなら転がって落ちる心配もなさそうだ、とが安心したのは、自分があまり寝相のいい方ではないと薄々分かっているからだ。寝るときは真っすぐ寝たはずなのに、朝起きたら頭の位置が足元にあった、なんてことがたまにあったり、なかったりする。最初にソファで寝ると言ったのもそれが心配だったからというのも理由の一つだ。ただ、先ほど乙骨に「一緒に寝る?」と訊かれたときは、キスの余韻も手伝ってつい頷いてしまった。今さらひとりで寝るとも言えず、またそう言えたとしても、その場合乙骨がソファで寝ると言い出すのは目に見えていたので、ここは諦めて一緒に寝ることを選んだ。毎回おかしな寝相になるというわけでもないので、今日それが出ないことを祈るしかない。
「じゃあ電気消すね」
ベッドボードの明かりが消えると途端に寝室が暗闇に包まれる。乙骨が右側に寝たので、は必然的に左側へ横になったものの、緊張のあまり直立不動になってる気がしてならない。こういう状況、前の彼氏のときはどんなんだったっけ?と考えてみたものの、今では全くと言っていいほど思い出せず、緊張だけが加速していく。
しばし天井を見つめながら、こういうとき、何か話しかけたらいいのか、それともすぐに寝た方がいいのか考えてると、隣の乙骨が「あ、そうだ」と呟き、の方へ寝返りをうつ気配がした。
「言い忘れてたけど、さっきミゲルから電話が来て、明日の時間が昼に変更になったんだ。術師仲間に"黒縄"のこと訊きに行ったら飲みに誘われたらしくて。そこで情報聞き出してくるからって」
「え?あ、じゃあ…少しは寝坊できるね」
「うん。でも変に目が冴えちゃってるけど。初めての海外だからかな」
「うん…わたしも」
体は疲れてるはずなのだが、乙骨の言うように目が冴えてる感じだ。緊張もあるのだろうが、初めての海外というのも関係があるかもしれない。室内にいても何となく空気と言うか匂いが違う気がする。
「でも…ミゲルと言えば何か変な感じだよね。去年の百鬼夜行では敵側だったひとだし…」
も乙骨の方へ体を向けると、そうだね、という返事と共に自然と背中が抱き寄せられた。ドキッとしたのもつかの間、すぐに首元へ腕が滑り込んでくる。いわゆる腕枕というやつで、気づけばは乙骨の左肩辺りに頭を乗せる形となった。合コン事件のあの夜も最後はこうして眠ったのだが、あのときはもアルコールが入っていた。それもあってすぐに寝落ちしたので、正直あまり記憶には残っていない。改めて腕枕をされると嫌でも意識してしまう。
「お…重くない…?肩…」
男の方にとって腕枕は疲れると聞いたことがあるのを思い出し、つい、そんなことを訊いてしまったが、乙骨はちょっと笑ったようだった。
「全然平気。あ…さん寝づらい?」
「そ…そんなことないよ」
「なら、こうして寝てもいい?さんの体温安心するんだ」
「う…うん」
恥ずかしさや緊張はあるものの、とて離れて寝たいわけじゃない。そこは素直に頷くと、腕枕をしている腕にぐいっと更に抱き寄せられた。体が密着すると、乙骨の首元からはかすかにシャンプーの香りのような甘い匂いがするので、それすらドキドキしてしまう。視線だけ上げてみれば、何となく目についた顎の骨格や首筋が、だいぶ男らしくなってきてる気がした。最初に乙骨と会った頃は、まだ線の細さが目立ってた気もするのに、いつの間にか術師の体格になりつつあるようだ。こうしてくっついてるだけでも肩や胸元に筋肉が着いてるのが分かる。それがやけに男を感じさせて、少し気恥しい。
そう言えば身長も伸びてるって言ってたっけ、と思いだしていると、不意に乙骨が「さん甘い匂いがする」と言いだしドキリとした。言われてみれば同じものを使用してるので、自分からも乙骨と同じ香りがしていることに気づく。海外製のものは香りが濃厚なので残りやすいのかもしれない。
「乙骨くんもだよ」
「え、ほんと?自分じゃ気づかなかった」
「わたしも。何かフルーツの香りだったよね」
「そうそう。何か美味しそうな匂いのやつ。さんからも美味しそうな匂いがする」
「ひゃ」
こめかみにちゅっと口づけられ、その感触に驚いて声を上げると、体を起こした乙骨が今度は額にもキスを落とす。薄闇の中で少しだけ視線を上げれば、自分を見下ろす乙骨と目が合った。いつもの優しい眼差しの中に、かすかな熱を孕んでいるような、そんな表情をしているせいか、自然との頬も熱くなる。何となくそういう空気になった気がして思わず目を伏せると、不意に目の前が陰った。
「こうしてくっついてるとさんにもっと触れたくなる」
こつんと額同士を合わせたかと思えば、大胆なことを言われてドキリとする。ここで頷いてしまえば、ふたりの関係が変わってしまう予感はあった。本音を言えば、まだ肌を合わせるのは怖い。でもそれは決して乙骨自身が怖いというわけではなく、過去の嫌な体験からくるものだ。男は体を許すと途端に態度が変わる、という現実を、は身をもって経験したせいもある。色んな思いが交差してはいるのだが、それでも乙骨のことが好きな気持ちは変わらない。だから――。
「…触れてもいい?」
と訊かれたとき、「…うん」と応えたのは、彼女も乙骨との距離を少しでも縮めたいと思ったからかもしれない。
彼女の言葉を受けて、乙骨はかすかに微笑んだようだった。彼の手がの頬を優しく撫でて、顏にかかった髪を避けてくれる。少しの恥ずかしさで乙骨を見上げていた目を再び伏せると、骨ばった男らしい指先がのくちびるに触れた。びくんと肩が跳ねてしまうほど、くすぐったい刺激に加えて、ゆっくりなぞられると首筋がぞくりとしてくる。乙骨が言っていたくちびるが敏感だという話もあながち間違ってはいないんだ、と分かるくらいに気持ちがいい。でも、そこに乙骨のくちびるが触れると、更に気持ちいいのだから、キスって偉大なスキンシップかも、と本気で感動してしまった。
「…ん、」
くちびるで彼女のくちびるを食むように優しい口づけが降ってくる。互いの吐息が甘く交わるくらい、角度を変えながら触れるだけのキスを繰り返されると、少しずつ体も熱を帯びてくる。乙骨の背中に回した手からも、彼の体温がだんだん高くなっていくのが伝わってきて、ついぎゅっとTシャツを握ってしまった。それに気づいた乙骨が、ふと目を開けてくちびるを放した。
「ごめん、苦しかった…?」
「ううん…へ、へい…き」
火照った分、目を開けるとじんわり潤んでしまってるのが自分でも分かる。触れるだけのキスをされただけなのに、体が火照るのも何だか恥ずかしい。今、自分の顏は絶対に真っ赤だろうな、と思っていると、乙骨がふと笑みを浮かべたのが分かった。
「な…なに…?」
「ん?あー…さん、今きっと真っ赤になってるんだろうなぁと思って」
「え…み、見えるの…?」
室内に明かりは点いていない。ただ大きな窓から青白い月明りが照らしているだけだ。
「見えないけど…目が凄く潤んでて可愛いから」
「…う…そ、そういうこと言わないでよ…恥ずかしいから」
思わず顔を反らすと、頬にもちゅっとキスをされてしまった。
「恥ずかしがってるさんも可愛い」
「………」
乙骨には抗議をしても無駄だったらしい。つい顔を戻して見上げると、すぐにまたくちびるを塞がれてしまった。それも触れるだけじゃなく、彼女のくちびるを食べてしまうかのように、輪郭を無視した深いキスに、また乙骨の背中をぎゅっと掴んでしまう。でも今度はくちびるが離れることはなく。離れるどころか、より繋がりたいとでもいうように、僅かな隙間から柔らかい舌がぬるりと滑り込んできた。あっという間に舌を絡みとられて、互いの舌を擦り合わせるように愛撫されながら何度もちゅうっと吸われてしまう。そのたび乙骨のTシャツを握る手にも力が入り、また舌が絡み合うたび、ちゅくっという卑猥な音に羞恥心を煽られ、勝手に息が上がっていく。
乙骨のキスは彼女の思考をどろどろに溶かしていく効果があるらしい。延々とくちびるを重ねていると、頭がぼぉっとして、熱が全て顔に集中していくようだった。
それはキスの合間さえ、乙骨の手が彼女の頭だったり、頬だったり、耳だったりを優しく撫でてくれるせいかもしれない。恥ずかしいのに、そんな風にされると酷く安心して、つい身を任せてしまう。これを確信犯的にしてるなら乙骨も相当な女たらしだと思うところだが、彼はこれを自然にしてくるのでタチが悪い。
「…んっ」
くちびるを塞がれたまま声が跳ねたのは、頬から首筋、そして鎖骨を撫でていた乙骨の手が、胸の膨らみへ触れたせいだ。服の上からその丸みを確かめるように撫でられ、そこからぴりっとした刺激が広がっていく。ただ軽く撫でられただけなのに、勝手に体の中心へ熱が集中していくのが恥ずかしかった。
そのうち撫でていた手がやんわりと胸の膨らみを揉み始めると、鼓動が一段と速くなっていく。以前、ホテルに泊まった際、彼女の過去に嫉妬をした乙骨が、元カレの存在を上書きしたいと言い出し、そのときに色んなところを触れられてはいるのだが、酔っていたあの夜と今とでは恥ずかしさが段違いだった。しかもあのときは頭も体も火照ったせいで酔いも回り、ついでに乙骨が初めて怒りの感情を見せたことへの緊張やらもあったせいか、安心したら途中で寝てしまったのは失態だった。なので乙骨に触れられるのはあの夜以来、それも今は酔ってるわけでもなく、頭がハッキリしている状態でのボディタッチはなかなかに羞恥心を煽られる。
しかも今は当然ブラジャーはつけていない。寝るときまで下着に締め付けられるのは嫌なので、風呂上りはいつも付けずにパジャマを着ているからだ。よって、胸を触られると、乙骨の手の熱さや、揉みしだかれる感触が直に脳まで伝達されてしまう。
「…ぁっ」
恥ずかしさで僅かに身を捩ったとき、胸の先の敏感な部分を指で擦られ、びくんと肩が跳ねてしまった。シルク生地の薄いインナーが良くなかったかもしれない。刺激を与えられたことで、乳首がより鮮明に主張し始めた。そこに触れている乙骨も気づいたのか、くちびるを僅かに離して「ここ、可愛くなってる」との火照った頬へちゅっと口付けながら、指先でツンと勃ち上がった場所をくにくにと弄り出した。「恥ずかしいから言わないで…」と文句を言っても、敏感な場所から広がる甘い刺激にの肩がびくびくと跳ねて、自分でも驚くくらいに甘い声が口から洩れてしまう。
「んん…っゃ…あっ」
我慢していても声が漏れてしまうくらいに感じている自分が怖い。なのに乙骨から与えられる甘い刺激に抗えないのは、今日までに土台が出来上がっていたせいかもしれない。乙骨とキスを交わすようになってからというもの、そのたび全身が疼いて、そんな自分をはしたないと思うのに、もっと触れて欲しいとさえ思うことが多々あるからだ。
「ん…ふ…」
再びくちびるを塞がれ、喘ぎごと飲み込まれそうなほどに深く口付けられた。乙骨も余裕がなくなってきたのが分かるほど、さっきよりも強引に舌を絡められ、息をするのもままならない。その間も彼の指がすっかり硬くなった部分をくにっと捏ねたり、きゅっと優しく摘まんだりと刺激を与えてくるせいで、塞がれてる口から苦しげな声が漏れていく。
「ん、んン」
まだ服の上から触られているだけ。なのに身体はどんどん熱を帯びて、下腹の奥がじくじくと疼いてきたのが分かる。これまで体がこんな風になったことはなく、そういう感覚が分かるようになったのは、乙骨からキスをされているときだった。相手のことが好きだという想いがあるだけで、体の感じ方にまで影響が出ることをは初めて知った。
今の状態でこうなら、直に触られたらどうなってしまうんだろう、という不安が頭を擡げ始めたとき、胸を弄っていた手が動いて、インナーの裾からするりと中へ侵入してきたのが分かった。乙骨の体温がの脇腹を撫でて、するすると上がっていく。それでも少しの理性が働いたのか、僅かにくちびるを放すと、額をくっつけ「直接触っていい…?」と、瞳を覗き込まれた。どきりとして視線を上げると、乙骨の黒目が熱に浮かされたようにゆらゆらと揺れている。どこか切羽詰まったような、そんな乙骨の目を見ていたら、胸の奥がきゅっと音を立てるのでもたまらなくなった。心臓がばくばくと激しさを増すせいで、額にじわりと汗が滲んでいく。
小さく頷くと、乙骨は額に張り付いた彼女の前髪を指で避けて、汗ばんだそこへもまたちゅっと口付ける。たったそれだけで愛されてるような気持ちになるのだから、本当に自分はどうしてしまったんだろうと不思議に思うくらい、乙骨が好きでたまらない。その思いが強くなればなるほど、触れられた場所から甘い痺れが強く広がっていくのだ。
「ひゃ…ぁんん」
許可を得たせいか、乙骨の手が性急に動いて胸の膨らみへ直に触れる。どきりとしたのもつかの間、すぐに指が硬くしこった場所へ伸び、さっきと同じようにきゅっと優しく摘ままれてしまった。弱いくらいの刺激のはずが、そこから何かが突き抜けたかと思うほどの快感に襲われ、さっき以上に声が跳ねる。
「…可愛い声、もっと聞きたい」
胸を弄りながらも、くちびるにちゅっちゅっとキスを落として、乙骨がうっとりしたように呟く。の顏が更に熱を帯びて、真っ赤になった。
「…ゃ…や、だ…恥ずかし…よ…」
「…恥ずかしがるさんも可愛いって言ったでしょ」
「…んん」
の頬にもちゅっとしながら、乙骨は指の腹で弄っていた場所をくにくにと捏ねる。そのたび彼女の体がびくびくと反応するのが可愛くて仕方ないので余計に喘がせたくなった。好きな子ほどイジメたくなる感覚と少し似てるのかもしれない。しかし乙骨の場合、無自覚なのと、ただただ純粋に好きな女の子の可愛い姿を見たい、という男なら誰でも持ってるような欲求であり、当然そこに好きな子の裸を堪能したいという下心も混ざっているだけだ。よって、キスを仕掛けていたくちびるを少しずつ下げていき、同時にキャミソールの裾を捲り上げた。そうすることにより、乙骨の目に白い肌が晒される。つい小さく喉を鳴らしてしまったのは、初めて見る大好きな子の双丘が、あまりに綺麗で淫靡だったからだ。さっきまで弄っていた場所が厭らしく誘うようにツンと上を向いているのを見て、すでに硬くなっていた自身の屹立した場所が更にぐぐっと勃ちあがったのが分かるくらい、興奮してる自覚はあった。
「…お、乙骨く…」
「…かわい」
「…ひゃ…んぁ…あっ」
躊躇うことなく欲求に従って、彼女の乳首をぱくりと口に含む。ちゅうっと吸うたび、の声が甘い響きを含ませて聞こえてくるので、もっと聞かせてと言うように、吸ったり舐めたりを繰り返す。指で触られたときの比じゃないくらいの快感に、の目尻からじわりと涙が浮かんできた。恥ずかしさと気持ち良さが綯い交ぜになって襲ってくるせいか、勝手に体が震えてしまう。下腹の辺りがじくじくするせいだ。
「…ぁ…っん」
再びちゅうっと乳首を吸われたとき、彼女の背中が反るように跳ねて、同時に薄い腹を撫でていた手がするすると太腿へ下りていく。その手に内股を撫でられた瞬間、肌がぶわっと粟立つのが分かった。不思議なもので自分で触っても何ともない場所なのに、人に触れられるとやけにくすぐったい。その感覚のあと、ぞくりとしたものが走ったのは、乙骨の手がするりと足の間へ入りこんだせいだ。
「…お、乙骨くん…」
覚悟を決めたはずなのに、いざそのときが来ると怖気づいてしまう。すでに全身が性感帯みたいに敏感になっている。これ以上されたら自分はどうなってしまうんだろうと少しだけ怖くなったのだ。
それに元カレのときとは明らかに違うことにも戸惑っていた。そもそも、こんなに丁寧に触れられたことがなかった。が性行為を嫌いになったのは、その男が自分勝手な行為を強要してきたからだ。一度抱かれたからといって破瓜の痛みがとれるわけじゃない。なのに自分の快楽だけを求めるような身勝手なセックスは、にとって苦痛なだけだった。男と年齢が離れていたことも相手をつけ上がらせた原因かもしれない。それでも何も知らなかった彼女も最初は男女の付き合いなんてこんなものなんだろうと思っていたが、綺羅羅に相談したら「そんなわけないでしょ!」と驚かれてしまった。金次にも「女を大事に出来ねえような男とはすぐ別れちまえ」と言われ、はその男と別れることを決めた。優しくされて好きだと思っていた気持ちも、最初の一瞬で終わっていたので悲しくもなかった。その後に他の男の愛情を求めたことも、早く嫌な思い出を消し去りたかっただけだ。まあ後の男も似たようなもので、金次にはもっと中身を見て付き合えと呆れられたのを思いだす。
でも乙骨は違った。自分のことより何より、彼女を優先で考えてくれて、予想以上に大切にしてくれている。最初はふにゃふにゃした男の子だなという印象が強かったのに、いつの間にか成長して、今ではよりもしっかりしてるのだから、毎回驚かされてしまう。
「ん?ここは触られるのいや?」
思わず手を止めてしまったことで、乙骨が心配そうに彼女の顔を覗き込んできたが、嫌と言うわけではないので慌てて首を振った。
「や…じゃない…」
「…ほんとに?怖いなら無理しないで――」
「む、無理なんてしてない…っ」
乙骨は気遣うようにの頬を撫でながら見つめてくる。その優しい眼差しを見ていたら、乙骨くんは大丈夫、と今度こそ、そう思えた。さっきから太腿に硬いものが当たっているのは気づいている。この状況ではきっと乙骨の方がツラいに違いない。なのに、そんなときでも自分のことを気にかけてくれる乙骨の優しさに、また気持ちが救われた。
――男の本性ってのはエッチのときに分かるんだよ。そういうときにちゃんと女の子を気遣える男は、ほんとにいい男だと思うから、ちゃんと見極めなね。
以前、綺羅羅に言われた言葉の意味が、今なら分かる気がした。
「…乙骨くんに…その…」
「…ん?」
「さ…触って欲しぃ…」
言った瞬間、ぶわっと顏から熱が噴き出したかと思うくらい熱くなった。いや、もっと言い方あるでしょ、わたし!と自分で突っ込んでしまうくらいに恥ずかしい。思わず両手で顔を隠しつつ、指の隙間から乙骨の顔をちらっと覗き見たのは、何も反応がなく不安になったからだ。すると乙骨は放心したような顔で彼女を見下ろしていた。その顏を見た瞬間、ぎょっとしてしまったのは、今の彼女と同じくらいに赤くなっているように見えたからだ。
「お、乙骨…くん…あの、だい…じょうぶ?」
「えっ?あ…ご、ごめん」
恐る恐る声をかけると、乙骨はハッと我に返ったようだった。だが手のひらで自分の口元を隠しながら顏を背けている。薄暗くて分かりづらいが、耳まで赤くなっている気がした。
「ヤバい…かも」
「え…?」
「何か嬉し過ぎて今、僕ちょっと顏がおかしなことになってる、かも」
「え…そ、そんなことは…」
「いや、絶対ニヤケてる。さんに見せたくない」
「………」
未だ手で口を押えながらそっぽを向いたまま言うので、彼女もちょっとだけ呆気にとられた。どうやら顏が緩むくらい嬉しいらしい。そんな姿を見せられたらまで照れ臭くなったのだが、同時にそんな乙骨が可愛くて小さく吹き出してしまった。
「…乙骨くん、面白い」
「え、何が?」
「可愛いんだもん」
「……それは…嬉しくない」
やっとの方を見た乙骨は、僅かに目を細めていた。可愛いと言われるのを彼が好きじゃないのは分かっているが、つい本音を口にしてしまうくらい、今のは可愛かったのだ。
「ごめん…でも何でそんなに嫌なの…?」
「別に他のひとに言われるのは気にならないよ。ただ…さんに言われると何となく男として見られてない気がするから」
「…そんなことは…」
ない、と言おうとした瞬間、ちゅっとくちびるにキスをされてしまった。視線を上げれば、もう復活したのか、ちょっとだけ意地の悪い顔をしている。
「…僕も男だから…あんなこと言われたらほんとに触るよ…?」
「え、あ…」
そう言われて自分の失言を思い出した途端、熱が復活してくる。でも言ったことは本心だ。今なら乙骨に何をされても怖くはないと思う。ただ、恥ずかしいだけで。
「いい…?ここ触って」
乙骨の手がつつ、と下腹からショーツの上まで撫でていく。その些細な刺激だけで首筋がぞくりとした。
「き…聞かないでよ、そういうの…」
じわりと恥ずかしさがこみ上げて、今度はがそっぽを向けば、乙骨がかすかに微笑んだように見えた。
「そうやって照れるさんが可愛いからこういうことしたくなるのかも」
「え…?ひゃっぁ」
不意打ちのように乙骨の手がするりと下がって、クロッチ部分を撫でた。それほど強い刺激はないはずなのに、ぴりっとしたものがその場所に生まれる。同時にくちびるを塞がれ、最初から舌を捻じ込まれて再び熱が絡み合う。くちゅっという音が漏れるほど舌を絡みとられてしまえば、また何も考えられなくなっていく。
「んん…っ」
クロッチ部分で悪戯に動いていた乙骨の手が、今度は意志を持ってその部分を撫で始めた。ゆっくりと擦るような動きで上下しながら形をなぞっていく。それが恥ずかしくて腰が自然と動いてしまうのだが、足の間に乙骨の足が入り込み、閉じることも出来なくなった。その間、手のひら全体で撫でていたそこを、今度は指先で割れ目の部分をなぞって刺激してくる。それがやけに恥ずかしいのに、ぴりぴりとした気持ち良さを感じて、塞がれている口からくぐもった喘ぎが漏れた。さっきのキスや愛撫でじくじくしていたその場所は、すでに濡れ始めていたようだ。乙骨の指が敏感なところを往復するたび、更にとろりと溢れてくるのが分かった。
「…濡れてきてる?」
指先にそれを感じたのか、乙骨が僅かにくちびるを離して呟いた。それが恥ずかしくて「い、言わないでよ…」とつい抗議すると、彼はかすかに苦笑したようだ。ごめん、と言いながら、の頬にちゅうっと長めのキスをしてきた。
「気持ち良くなってくれてるなら嬉しいなと思って」
「そ、そういうのも…」
「ごめん。でも感じてるさん可愛いから、もっと気持ち良くしてあげたくなる。――直接触るね」
「え…?ん…ぁっ」
言った瞬間、ショーツの中に乙骨の手が滑りこんで、直にその場所を触られた。その強い刺激でびくんと腰が跳ねる。
「んん…ぁ、あ」
「すごい、こことろとろ」
「…や、ぁ…っ」
思ってた以上に濡れていたらしい。乙骨の指がぬるぬるとスムーズに動くのが分かるくらいに溢れているのが自分でも分かる。それが恥ずかしいから止めて欲しいのに、強い快感がさっき以上に襲ってくるせいで、抗議の言葉を言う前に勝手に喘いでしまう。指を動かされるたび、むず痒さが広がって、体は火照っているのにあちこちがゾクゾクしてくるようだった。下腹の奥に鈍い熱がじわじわと這い上がってくるようで、は乙骨の背中にしがみついて必死に声が出るのを堪える。気を抜いたら感じすぎておかしくなりそうだった。なのに膨らんできた場所をぬるりと撫でられ、ひゃぁっという一際高い声が出てしまった。
「ここ…気持ちいいの?」
「…ん…ン…や…そこ…だめ…んっ」
「でもさん、気持ちいいって顔してるし、凄く可愛い」
「…あっん…だ、…だめ…ぁ…あ、」
もう抗議をする余裕もないくらいに脳が沸騰していくほど、与えられる快感にぞくぞくとした震えが止まらなかった。こんな風になったのも初めてで、恥ずかしさも吹き飛ぶくらいに気持ちがいい。再びくちびるを塞がれ、舌を差し込まれると、喘ぐ声ごと絡みとられるように口付けられた。その間も容赦なく膨らんだ場所を指で捏ねられ、何かがそこから広がっていく。そう感じた瞬間、目の前がスパークしたかのように真っ白になった。それまで以上に声が跳ねて、塞がれていたくちびるが僅かに離れる。
「…もしかして…イったの?」
は、は、と浅い呼吸を繰り返すを見て、乙骨の頬が高揚している。はっきりと男の欲を浮かべたその表情は、いつも以上に大人びて見えた。
「わ、かんな…い…こんなの初めて…だもん…」
イった経験がないからすると、今のがイクという感覚なのかと驚いたくらいだ。全身が脱落し、汗が噴き出してくる。ただその場所をまた撫でられると、びくんっと腰が揺れて自分でも驚いた。さっきまでとは違う痺れが一気に走り、くすぐったさと気持ち良さが混ざったようなものがこみ上げてくるのだ。
「や…も、だめ…」
「ん、でも、ここ凄い溢れてきた」
「…え…んん、」
乙骨の指がクリトリスから離れ、愛液の溢れてくる場所へ移動していく。その入り口を撫でられると、今度はナカのどこかが疼いてくるのが分かった。奥の奥がむずむずとしてどうしようもなく歯がゆい感覚と、下腹の奥がずくんと鈍痛にも似たものが走る。ただ、その鈍痛は今までの気持ちいい感じとは別のもののように感じた。
「ここ、指入っちゃいそう」
「…ひゃ…ぁあ」
濡れすぎてるせいで入口付近を撫でていた指が、ちゅぷっという音と共にナカへ飲み込まれていくのが分かった。その瞬間、電流が走ったように脳天まで何かが突き抜けていく。さっき以上の快感が全身を蝕んでいくように広がって、涙がぽろぽろ零れ落ちた。それを見て乙骨は勘違いしたらしい。「え、痛かった?ごめんね」と慌てたように指を引き抜いた。
「い、痛くない…よ。何か…びりびりきて…ビックリしただけ」
さっき以上に全身の力が抜けたらしい。くたりとしながら浅い呼吸を繰り返す彼女を見て、乙骨はホっとしたようだった。
「…もしかして…ナカでイった、とか?」
「わ…かんない…さっきや今みたいの…は、初めてだもん…」
乙骨に頭を撫でられ、恥ずかしそうに首を振れば、彼は少し驚いたような顔をした。彼女にこういった経験があるのを知っているからだろう。ただ、そのあと心底嬉しそうな顔で「良かった…」と呟いたのは、自分が好きな子の初めてをもらえたような気がしたからだ。
ただ、の頬を撫でたとき、乙骨の手がぴたりと止まった。さっきまで火照っていたはずの肌が冷んやりとしていたからだ。
「大丈夫…?さんの体、凄く冷たい」
「え…?あ…ちょ、ちょっと寒い、かも…それに…」
とは自分の下腹へ手を当てた。行為の最中から感じていた鈍痛が強くなってる気がしたのだ。さっきは子宮の辺りが疼いて熱を持ったせいかと思っていたが、どうも違う気がしてきた。
「え、お腹痛い?僕が変なことしちゃったから――」
「ち、違うよ…そういうんじゃ…」
オロオロとしながらお腹を擦ってくれる乙骨を見ながら、は恥ずかしそうに笑った。こういう優しさが凄く好きだなと思う。普通ならここまですれば、だいたいの男はすぐに挿れたがる。なのに乙骨はそんなことも忘れたように、彼女の服の乱れを直してくれるのだから、もう呆れるくらいお人よしが過ぎる彼氏だと思った。だから余計に申し訳なく思う。まさかよりによって、こんな時に――。
「ご、ごめんね…あの…アレに…なっちゃったみたいなの…」
「え…あれ?」
「う…だ、だから…その…アレ…よ」
「…………」
言いにくそうにモジモジとするをジっと見つめていた乙骨は、きっと脳内にクエスチョンを山ほど浮かべているのだろう。だが、不意に気づいたのか「あ」と短い声を上げた。
「えっと…も、もしかしてそれは女性特有の……アレ?」
「う、うん…ごめん」
女の子の体のことに詳しいわけじゃないが、彼の同級には真希がいる。真希はああいう性格なので、そういうことも隠さない。「あーアレになっちまった!」と騒いでるとこも見たことがあるので、乙骨はすぐにピンときた。そして女の子がソレになったときは、凄くツラいということも何となく分かっている。よって、乙骨はがばりと体を起こし、足元に押しやっていた薄手の掛布団をとると、それをに巻き付けた。いわゆるミノムシスタイルだ。
「え、あの…」
「体を冷やしちゃダメだよ。あ、何か暖かいものでも飲む?お腹痛い?」
「え、あ…うん…少し…まだなったばかりだと思うから…その…ちょっとお手洗い行ってもいい?」
まだ出血はしてないようだが、いつ漏れてくるか分からない。そこが心配になって尋ねると、乙骨の頬がかすかに赤くなった。
「う、うん…じゃあ…僕、僕はあったかいミルクティーでも作るよ」
「そ、そんな動揺しなくても…病気とかじゃないから」
「え、いや、だって…心配だし…」
慌ててベッドから降りようとする乙骨のTシャツを引っ張ると、彼は言った通り物凄い心配顔で振り向いた。エッチをお預けにされたことなど、すっかり忘れてるようだ。だから余計にごめんね、と言いたくなった。
「え、何が?」
「だ、だって…その…せっかく…あれだったのになっちゃって…」
どうにかそう伝えると、乙骨は一瞬きょとん、とした顔を見せたが、すぐにへにょっと眉尻を下げて困った様子で微笑んだ。
「そんなの気にしないで。僕はさんがツラいならそんなことしても嬉しくないし」
「……え、でも…」
勃ってたのに?とは口が裂けても言えなかったが、乙骨こそツラくないんだろうかと心配になったのだ。もちろん恥ずかしくて、そこまで突っ込んだことは聞けないのだが、乙骨の様子を見ていると、本心からそう言ってるようだ。今も「お腹まだ平気?あ、薬は?」との体調のことばかり気にしている。そんな姿を見てたら、つい乙骨にぎゅっと抱き着いていた。かけられていた布団がぱさりと床へ落ちる。
「え、、さん…?」
の方から抱きついてきたことに驚いたらしい。乙骨の体が僅かに固まったようだった。
「…大好き」
「……え」
「わたしは乙骨憂太が大好きって言ったの」
今度はの方からちゅっとキスをすれば、惚けていた乙骨の顏がじわじわと赤く染まっていく。さっきは大胆だったくせに、こういうときは照れるんだ、と思うとちょっと笑ってしまった。
「…さん…今の反則すぎ」
また口元を手で隠しながら、真っ赤になった顔を背ける乙骨は、気づけばにとっても唯一無二の存在になっていた。
