官能に棲む-22

※性的描写があります。苦手な方、未成年の方の観覧はご遠慮ください。
これは慣れない異国の地が見せる夢なのではないか。
柔らかい唇を受け止めながらそんなバカなことを考えてると、その温もりが離れていく。ゆっくりと目を開ければ、見慣れない天井を背景にを見下ろしてくる乙骨が甘い笑みを浮かべた。
「か、髪…濡れたまま…」
「ん、平気。もう渇いてきてるし…。さんは?髪乾かした?」
「う、うん…さっき」
は五条から電話が入る前にシャワーを済ませてある。かすかに香るシャンプーの匂いに気づいたのか、乙骨は彼女の髪へそっと触れた。
「確かめてみようか」
そう言っての左耳の裏に乙骨が指先を差し込み、そっと髪を梳いていく。肌にかすかに触れる指先の熱が伝わって、くすぐったさと同時にぴりっとした刺激を感じた。そこへ乙骨が鼻先を寄せる。首筋に吐息がかかって、体がびくりと強張った。くすぐったいような、甘い疼きのような、言葉にできない感覚がこみ上げる。
こんな熱は知らない――。
先日、乙骨に触れられたときにも感じたことだ。
「…ん、」
乙骨の唇が、肌に触れた。触れた場所から波状に甘く淫らな感覚が広がっていく。
「さんの甘い香りがする」
「ゆ、憂太くんもだよ…」
耳元で聞こえる乙骨の声は、いつもより少し掠れている。それが余計にをドキドキさせた。
耳の後ろにキスをされ、長い指で髪を梳かれる。その甘いくすぐったさに意識が向いている間に、ルームウエアの胸元のボタンを外され、着物の合わせ目に似た前の部分が少しだけ緩んでいた。風呂上りにも着れるようになっているそれは、ボタン一つで前を止める形となっている。身に着けたときから、どこか心許ないと思っていたが、こんな状況では脱がせやすかったようだ。
膝の間に乙骨の脚が割り込んできていた。
ど、どうしよう。ドキドキしすぎて苦しい――。
経験がないわけではないはずなのに、緊張と恥ずかしさでの鼓動がばくばく激しくなっていく。膝を閉じようにも乙骨の脚が挟み込まれているせいでままならない。
「…ひゃ」
髪を撫でていた手が肩口に触れる。そのまま服越しではなく、前の合わせ目から乙骨の手が滑り込んできた。直に肌を撫でられ、更に肩が跳ねる。
「ほんと…さんの肌、滑らかで綺麗」
「あ…あまり…触られるとく、くすぐったいから…」
お腹の辺りを撫でられ、軽く身を捩ると、乙骨は「くすぐったい?」と意味ありげに微笑んで、パイル地の下で手を動かす。するりと指先が胸の膨らみを掠めた。
「…ン」
「…ドキドキしてるよ、さんのここ」
「そ、そんなこと…」
ない、とは言えない。初めて本気で好きになった乙骨に、体を弄られているのだから当たり前だ。
これまでもキスをするだけでどうにかなりそうなくらい、体のどこかが疼いてしまうことはよくあった。そのせいか、さっきのキスの余韻で今もはしたないことに脚の間がじんじんと疼いている。元カレに触れられたときには感じたこともない体の異変に、もかなり戸惑っていた。
「ねえ、さん」
「…ん」
「…」
愛しくてたまらないとばかりに、柔らかな乙骨の声がの名を呼ぶ。それだけで泣いてしまいそうなほど、胸の奥がぎゅうっと痛くなった。
「綺麗な名前だよね。さんにぴったり」
「…ぁっ」
不意に胸元が涼しくなった。緩んでいた合わせ目をゆっくりと開かれ、色素の薄い乳房が露わになる。無防備に乙骨の目に晒されたことで、思わず肌を隠そうと両手を動かしたが、その動作を見越していたのか、乙骨が軽くの腕を掴む。
「綺麗だから、隠さないで」
「…や、やだ…あまり見ないで…」
乙骨に見られている、その現実から目を背けたくなった。空気に触れたことで、左右の乳首がツンと屹立している。乙骨も気づいたのか「ここも可愛い」と左胸の乳首にちゅっと小さく音を立てキスをした。
「…んン」
一瞬触れただけだというのに、全身にぶわっと何かが広がっていく気がした。
「キスしただけでピクってなるの可愛すぎ」
「…や…待っ…」
覚悟は出来ていたはずなのに、乙骨の言葉に触発されて急に羞恥心がこみ上げてくる。しかし抗う体を甘く組み敷かれ、乙骨に二度、三度と繰り返し乳首にキスをされた。
唇が触れるたびに熱を帯びて、体の輪郭さえ溶けてしまいそうな気がした。
「…んぅ…」
乙骨の手がの乳房をやんわりと揉みしだいた。手のひらが感じやすい先端を押し潰してくる。思わず声が跳ねたとき、くちびるを塞がれて、彼女の声は乙骨に飲み込まれてしまった。ぬるりと濡れた熱い舌先で歯列をなぞられ、耐えかねてが喘ぐように口を開く。それを待っていたかのように、乙骨の舌が口腔まで侵入してきた。
反射的に逃げを打つの舌を、乙骨が器用に甘く絡めとる。絡み合うやわらかで淫靡な感覚に、シーツの上で肩が何度もびくびくと震えた。
胸を覆うように触れていた乙骨の手が、ゆっくりと角度を変えていく。その感触に気づいたときには遅く、硬くなった場所を親指と人差し指できゅっと摘ままれてしまった。
「…ン、んぁ…あ、ん」
思わず鼻から甘い声が抜けていく。自分の口からこんな声が出ることすら信じられない。元カレに抱かれたときは、感じてるふりをしてただけで、無意識に喘ぐなんてことは一度もなかったからだ。
乙骨の指の腹で、硬く屹立した場所をくにくにと優しく捏ねられるたび、塞がれた口内から苦しげな喘ぎが洩れてしまう。キスをしながら触られると、苦しいほどに肌がざわめいて、全身に甘い疼きが侵食していく。恍惚に打ち震える体が、どうしようもないほどにもどかしい。
知らぬ間に、乙骨の舌に合わせての舌が自分から動いていく。それを乙骨が吸いながら唇で優しく食むと、それだけでの腰がびくん、と跳ねあがった。
ちゅっと音を立てて唇が離れる。
「…さんの唇、ほんと可愛い」
合間に乙骨が呟き、の心を煽るように笑む。そしてまたやんわりとしたキスを仕掛けてきた。どれくらいキスをしているのか分からなくなった頃、の唇がぽってりと腫れてきた。それでも乙骨のキスは終わらない。
さんとキスをするのが好きだと、乙骨は言っていた。それを体現するかのように、執拗に唇を求められる。
「ん、…ン…あ…ぁ、ん…」
胸の先がそれまで以上に敏感になり、捏ねられるたびに身体の奥がじんじんと疼いて、その場所からとろりと溢れてくるのが分かる。
今触れられたら恥ずかしい、と心配になったとき、ぐっと乙骨の膝が脚の間に押し付けられた。
「ン…っ」
これまでとは違う、秘めた場所への刺激。は思わず体をのけ反らせた。
「だ、だめ…そこ…」
「だめ?でも、ここも解さないとさんがきついでしょ…?」
「そ、そうじゃ…なくて…ンあ…っ」
膝で柔肉を押されると、びりびりとした刺激が広がっていく。ただダメなのは感じてしまうことではなく、乙骨の服を濡らしてしまうかと思ったからだ。それくらい自分が濡れてきた自覚はある。
「…ふ、服…汚れちゃうから…」
「…それ、感じて濡れてるってことだよね」
「……あ…」
墓穴を掘った自分に気づき、の頬が、かあっと熱くなっていく。
「…感じやすいとこも可愛い、さん」
目を細め、唇に甘い笑みを浮かべながら乙骨が顔を寄せてくる。散々吸われてぽってりした唇に、またちゅうっと吸い付かれた。たったそれだけのことでも今のには刺激が強かったらしい。くぐもった声を上げ、全身がふるりと震えてしまう。すると乙骨はふと唇を放し、その身を少しだけ起こして彼女を見下ろした。
「…もっと気持ち良くなってもらおうかな」
「…へ…?」
意味ありげに微笑む乙骨を見て、何をされるか分からない不安がこみ上げる。その視線の先で、乙骨の手がの膝をゆっくりと開いた。
「え…だ、だめ…や…」
濡れてるであろう場所を直に見られるのはさすがに恥ずかしい。必死で内腿に力を入れる。けれどすでに脚を開かれた格好では、乙骨の力に抗えない。
「ずっとお預け喰らってたし…これくらいさせて」
「待っ…何…や…嘘…っ」
少し意地悪な笑みで乙骨がぺろりと舌なめずりをする。その仕草から彼が何をしようとしているのか、にも伝わってきた。
「や…だ、だめっ、それは恥ずかし…」
「恥ずかしがってるさんも可愛いから見せて」
この間のお預けが相当堪えたらしい。今の乙骨は普段より少し意地悪で、かつ積極的になってるようだ。
「さんを気持ちよくさせたいだけだから」
「な…ちょ、そ、そこほんとや…ぁ…ぁあっ」
抵抗も空しく、更に両脚を開かれ、乙骨が恥ずかしい場所へ顔を埋めるのが分かった。
脚が開かれているせいで本来なら閉じている間が露わになっている。その薄く開いた亀裂へ、まずはちゅっと口づけられ、抑えられている両脚がびくんと跳ねる。
「さんのここ、濡れて光ってるし凄く綺麗だよ」
「…や…やだ…見ないで――」
恥ずかしい報告までされ、の羞恥心が爆上がりした瞬間、その場所にぬるりとした感触が走り、は「んン」と甘く呻く羽目になった。下から上へと柔らかい舌先で舐められ、これまで感じたこともない感覚に襲われる。全身が粟立ち、体が勝手に跳ねてしまう。
キスとも胸への愛撫とも全く違う。そこを舐められるのは初めての経験であり、神経を直接刺激されてるような、甘い、それでいて強い快感に全身が包まれていく怖さがあった。
「あ…ンンっ、や…やぁ…」
「…すごい濡れてきたよ。気持ちいい?」
「ン、や…ぁ、」
「やなのに感じてるとこも…かわい」
「…も…もぉ…ゆ…たく…んっ…んん、あっ」
ちろちろと舌先で亀裂をなぞられ、快感に襲われつつもは抗議の声を上げた。何でも可愛いで結論づけるのはやめて、と言いたいようだ。でも言葉にならず、ただただ乙骨に喘がされている。
おかしい、乙骨くんはこんな行為したことないって言ってたはずなのに、何故経験のある自分の方が問答無用で喘がされてるの?
そんな疑問が脳裏に浮かぶが、それを乙骨にぶつける前に、更なる快感に襲われてしまった。
「…ひゃ…ぁン…や、め、そこ…」
「ここ?」
「…ひっぅ…」
乙骨の舌が軽く舐めるだけで脳天まで快感が突き抜ける場所。ぷっくりと膨らんだクリトリスを、乙骨は何度も何度も優しくちゅる、と舐め啜る。
「っい…や…そ、こ、おかしくなっちゃ…うから…っ」
「うん…おかしくなって。さんがイクとこ見たい」
舌の動きが少し荒くなり、表面をねっとり舐め上げられ、は喉を反らせてくちびるを震わせる。白い肌が気づけば朱く染まっていた。しっとりと汗ばんで、乙骨の愛撫を欲しているかのように、全身に甘い痺れが巡っていく。
「…んぁ…ああ…っだ、だめぇっ」
もう自分でも何を口走っているのか分からないくらいに、頭に血が集中している。朦朧としながら、与えられる快感だけが体の他の感覚を根こそぎ奪っていくようだ。
「さん…イキそうなら、ちゃんとイクって言って」
快楽の核を彼のくちびるが咥える。その場所を舌先でつつかれたまま、ちゅうっと音を立てて吸われた。
「ひ…あ…ぁ…イ…イク…イっちゃ…ンっゆう…たく…っだめぇ…」
きりきりと引き絞られた快感の糸が、乙骨の口内に包まれた部分に集まっていく。ぎゅうっと目を瞑って泣き声を上げながら、は全身を強張らせた。
一際強く乙骨がクリトリスを吸い上げる。蜜ごとじゅるっと啜られて、意志とは関係なく腰がびくびくと跳ねた。
「…んあ…ぁイ、イっちゃ…うっ」
自分がどんなに恥ずかしいことを口にしているのか認識も出来ないくらい、は初めての悦楽に身を委ねると、シーツに皺が出来るほどきつくきつく握りしめた。快楽の波が全身を包んで通り過ぎた頃には、ぷつりと糸が切れたように四肢が弛緩していく。
「…ヤバい。可愛すぎ…」
独り言ちるように乙骨が呟く。その言葉は耳に入っているが、脳が理解する余力すら失ってるらしい。
「ゆ…たく…ん…?」
「さん。気持ちいい顔、もっと僕だけに見せて」
乙骨が艶冶な笑みを向けてくる。とろん、とした目でその姿を見つめ、は浅い呼吸を繰り返した。
憂太くん、いつ服を脱いだんだろう、と思ったのは、覆いかぶさってくる乙骨の上半身が滑らかな生肌に変わっていたからだ。いや、上半身だけではなく、触れる腰の感触も――。
「…ま、待っ…て、憂太く…まだ――」
「ごめん、さん。もう待てない」
「や…違う…の…まだ心の準備が…ンぁ、っ」
朦朧としていたことで何の準備も出来ていなかっただが、体の方はすっかり乙骨によって解されていたらしい。とろとろに濡れた膣口に、太く熱いものがぐちゅ、と卑猥な音をさせて押し入ってくる。
「…ンンっ…ぁ…あ」
「…さ…痛い…?」
乙骨も苦しげに息を吐きながらの目尻から溢れた涙を指で拭っていく。はふるふると首を振りながらも、荒い呼吸を繰り返していた。激しい痛みこそないものの、圧迫感が強い。久しぶりに男を受け入れたそこは、しっかり濡れているにも関わらず、薄膜をまとう乙骨の陰茎をぎちぎちと締め上げてくるほど狭かった。
「…あ…ぁン」
先端を反り返させた屹立が、隘路の上部を擦るようにしてのナカへ穿たれる。濡れた壁を押し広げられていく感覚に、の体がかすかに震えた。異物感はともかく、久しぶりの性交だというのに痛みはない。ただ大好きなひとと繋がれたという幸せが、更に艶めかしい快感を連れてくる。
「憂太…くん…」
その初めての感覚に怖くなり、は乙骨の名前を呼ぶ。両腕で彼の首にすがりつき「怖い…」とひとこと呟いた。
「…っ僕が…怖い?」
「…ち、違う…何か…体がへん…」
繋がってる場所がじんじんとして、もっと奥の方が疼いている。こんな感覚は初めてで、自分の体に起きてる異変が怖いのだ。
腕からの震えが伝わってきて、乙骨はその体をぎゅうっと抱きしめた。
「さんが怖いなら…やめる」
「…え?」
「大好きな子を怖がらせてまで、こんなことしたくない」
「…や、やだ」
乙骨も待てないというくらいに余裕がないはずなのに、の為に腰を引こうとしている。それを慌てて止めた。
怖いのは、あれだけ苦手だった行為なのにも関わらず、自分で自分を疑うくらい感じてしまうことだ。これまで知らなかった自分。好きな相手を受け入れ、二度と前の自分には戻れない感覚。
本気で誰かを愛しいと思うことは、怖いことでもあるから。
特に呪術師をしていれば、その恐怖は更にリアルなものとして刻まれる。
でも、それでもは引き返す気になれなかった。
「…やめないで」
乙骨をぎゅっと抱き返しながら、が呟くと、彼の肩がぴくりと跳ねる。深い息を吐き出した乙骨は、そのあと「うん…分かった」と小さく頷いた。
「…えっと、でもまだ全然入ってないんだけど…」
「………え」
乙骨の言葉にきょとん、とした顔で体を放す。視線を上げれば、照れ臭そうに笑う乙骨と目が合った。
「は…入って…ない?」
「…う、うん、まあ……」
「……っ?!」
はは、と申し訳なさそうに笑う乙骨を見て、は目が点になった。彼女の感覚としては、とうに乙骨の全てを受け入れてるものと認識していたからだ。処女ならともかく、経験のある自分がそんなことすら分かっていなかったことに愕然とする。
そもそも「全然」とはどれくらいのことを言ってるんだろうか。
「…ちなみに…半分未満ってとこ」
別に言葉に出して訊いたわけじゃないのだが、乙骨はの気持ちを察したように言葉を付け足した。
「は…半分…未満…」
この圧迫感が半分未満だと?と思いながらも、「が、頑張る…」と乙骨を見上げる。すると普段の優しいへにょっとした笑みを返された。その顔を見た瞬間、好き、という思が溢れてくる。
それに、もしかしたら乙骨はもっと強引にしようと思えばできるのかもしれない。はふとそう思った。
乙骨の表情や汗、時々ぴくっとナカで震える切っ先から、我慢しているのを感じてしまった。
「…わたしなら大丈夫だから…憂太くんの好きなようにして」
自分のことは気にしないでという意味を込めて言ったのだが、乙骨はぎょっとした顔で彼女を見ると、その頬をじわりと赤く染めた。
「…っえ、そ、れは…凄い殺し文句なんだけど――」
「ひゃ、な、何かおっきくなった」
繋がってる部分から更に圧迫感が襲い、の腰が跳ねる。どうやらの言葉を何か違う意味で受け取ったらしい。乙骨は軽く目を細めると「今のはさんのせいだよ…」と珍しく拗ねたように呟いた。その顏すら可愛くて好き、という想いに変換されていく。
「ご、ごめんなさい…でも…憂太…くんが我慢して優しくしてくれてるから…」
と言った瞬間から顔が熱くなる。どうにも普段より思考が鈍ってる気がした。それくらい心の中にある感情を上手く言葉に出来ず、稚拙なことしか言えない。
前の自分は表の顔を取り繕うような恋ばかりしていて、だから本音で向き合おうともしてなかった。でも今、本気で乙骨を好きになって、本能のまま互いを曝け出し合っている。まして初めて抱き合おうというときに、まともでなんかいられないのだ。
乙骨はの言葉を聞いて、少し驚いたような表情をしたあと、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「大好きなひとに優しくするのは当たり前だよ。でも…僕はさんの方が優しいと思う」
「…え、わ、わたし…?」
「今も僕のために痛いの我慢してくれてるでしょ」
そう言われてドキっとしたが、慌てて首を振る。
「い、痛いわけじゃ…ただちょっと苦しいってだけで…」
言ったそばから顔が赤くなったのが分かった。とんでもなく恥ずかしいことを口にした気がする。
乙骨も若干頬が赤くなったようで、顏を背けながら小さく咳払いをしたあと、の額に自分のをこつんとすり合わせた。
「さん…もう少し…力抜ける?」
「え…」
「力抜いたらちょっとは楽になると思うんだけど…」
「わ…分かった」
言われた通り、乙骨を締め付ける部分の力加減を調節しようとした。とりあえず試みた、ものの。みっしりと膣口を押し広げられた状態で、これ以上どうやってその部分を緩めたらいいのか分からない。それどころか、その部分に意識を向けると、いっそう乙骨のものをきつく締め付けてしまう。
「…んっ」
「さ…それ逆効果…喰いちぎられそ…」
「ご、ごめん…ど、どうやればいいのか…ンンぅ」
乙骨が切なげな吐息を吐き、締め付けから逃れようと僅かに腰を動かしたらしい。浅瀬で亀頭が往復する。粘膜をたっぷりと濡らす蜜が、その動きで掻きだされていった。
「あ…や…動かれると…」
「動くと?どうなっちゃうの?」
かすかに熱を帯びた乙骨の声が、の鼓膜を淫らに震わせた。ちょっとだけ意地悪なモードに切り替わったらしい。視線だけ上げてみれば、いつもの過保護な彼とは違う、大人びた表情をする乙骨と目が合う。しかし今の彼女にその微妙な変化など気づく余裕があるはずもなく、素直に「お…お腹の中が…溢れて…苦しくて…」と感じたことを口にしてしまった。しかし正直に答えただけなのに、ナカの昂ぶりが彼女を追い詰めるかのように更に太さを増していく。
「ひゃ…や…こ、これ以上おっきくしないで……」
「今のは絶対さんが悪い…可愛いこと言うから…」
先ほどと同様、またしても乙骨が拗ねたように言った。でも辛いのは乙骨も同じなのか、腰をゆっくりと進めていく。ぬぷ、とか、ぬちゅっと体の中から音が――いや、外側からなのかも分からなくなるほど、顏に熱が集中していた。
「さん…キスしたい」
「…ん」
乙骨が甘えるように言ってくちびるを寄せてくるのを受け止めれば、舌と舌がどちらかともなく互いを求めるように絡み合う。身体中、どこもかしこも乙骨を欲していた。
舌と陰茎の両方に突き入れられながら、は懸命に乙骨の動きを受け止める。
そのとき、ゆっくりと入口辺りを往復していたものが、ずぷんと奥の方まで一気に入り込んできた。
「…んぁいっ痛…っ」
途中までは痛みもなかったのに、最奥近くまで突き立てられた瞬間、鈍痛が走る。
「ごめん…ゆっくり挿れるより一気にいった方が楽かと思ったんだけど…え、痛かった…?」
「…うぅ…い、一気に奥は…痛い…」
「え、ごめんね…」
涙目でに睨まれ、乙骨はへにょっと眉尻を下げると、慌てたように彼女の頭を撫でた。涙で濡れた目尻にちゅっと口づけ、その赤い頬にも軽くキスを落とす。それだけで機嫌が直ったのか、はくすぐったそうに身を捩った。
「でも全部入ったよ」
「え…?」
おそるおそる繋がっている部分に目を向けると、彼の体で陰になっているものの、互いの腰が密着している。それを見た瞬間、ぶわっとよく分からない感動のようなものが駆け巡った。
「やっとさんと一つになれた…」
「…うん…」
額にキスをしながら、乙骨が幸せそうに微笑む。その顔を見上げながら、もまた同じような思いがこみ上げてきた。
わたし、憂太くんに抱かれてるんだ。
そう思うだけで、全身が熱くなってくる。好きなひとと繋がれた多幸感は、今まで味わったことのない感情だった。久しぶりに開通したせいか、じくじくしたものはあれど、その痛みはまるで初めてを乙骨にあげたような気持ちにさせてくれる。
「…まだ痛い…?」
「少し…でも…憂太くんなら何でもいい…」
「え…」
「痛いのも幸せなの…変かな…」
「………」
そう言って乙骨を見上げると、惚けていた彼の顔が更に赤くなっていく。
「ヤバい…」
「え?」
「僕の彼女が可愛すぎて死にそう…もう…イけそうなくらい」
「えっ…し、死なないでよ…」
驚いて顔を上げると、ちゅっちゅと音を立てて額に、頬に、乙骨のキスが降ってくる。
「もう我慢するの無理、かも」
「え、ひゃぁ…っ」
相当、腰が疼いてたらしい。切なげな吐息交じりで呟くと、乙骨はゆっくりと動き始めた。ぎゅうぎゅうに締め付けてる場所を押し開くように擦られ、が小さく声を跳ねさせる。少しの間ジっとしていたせいか、多少馴染んだようで、さっき感じた痛みはすでにない。ただ圧迫感と、擦られるたび奥がじんじんと疼くのが分かる。
「…さんのナカ、すごく熱い…気持ち良すぎて変になる…」
「ン…あ…っ」
「…声、かわい。もっと聞かせて」
「…え…ぁ…ンンっ」
次第に動きが速くなり、ずん、ずん、と奥を抉られる。そこを突かれるたび、少しずつ疼きがそこから広がっていくような気がした。
「…ナカ、気持ちい?凄い締め付けてくる…」
「あ…わ、わかんな…っぁ…ン」
子宮口を何度も亀頭がノックする。そのたび、そこからじくじくとした疼きを感じて肌が粟立つのが自分でも分かった。それを乙骨も本能的に分かるのか、「ここ、感じる?」と訊いてきた。しかし恥ずかしくて頷くことは出来ない。
「あ…だ、だ、め…奥は…」
「でも、ここ突いたらナカが凄いうねるんだけど…油断したら一気に持ってかれそうなくらい…」
「あ…っや…あ…だ、め」
感じる場所を重点的に攻められ、は背中をのけ反らせた。乙骨が敢えてそこばかり突いてくるせいだ。突かれるたび、その場所からぐちゅぐちゅと卑猥な水音が立つ。それくらい濡れてる自覚はあった。自分の体じゃないと驚くくらい、こんな風に反応するのは初めてだ。
「ゆ…ゆーたく…意地悪…」
「…はは。そんな余裕ないけど…さんが可愛いのが悪い」
「な、なに言って…ンぁっ」
「そうやって赤くなるとこも…感じてる顔も…全部可愛いよ…もっと見せて」
普段とは違う乙骨の男の部分にドキっとさせられ、の目にじわりと涙が浮かぶ。気持ちいいのと、乙骨のことが好きだという想いが綯い交ぜで胸が苦しい。
こんな風に体が反応してしまうのは、乙骨のことが好きだからだ。
その気持ちが、乙骨に向かって両腕を伸ばす行動に繋がった。
「もっと憂太くんと…くっつきたい…」
「僕も」
甘える声に乙骨も答えると、上半身を倒しての肩に顔を埋める。左腕で乙骨の首に抱き着き、右手で彼の髪を撫でれば、柔らかな黒髪が指の隙間を零れていった。
「憂太くんが好き…」
僅かな休憩の間に心の大半を占めてる想いを言葉にすると、「僕もさんが大好きだよ」と耳元で乙骨の声がする。
「さんの全部はもう僕のものだから」
そう呟いた瞬間、乙骨は奥深くに陰茎を突き入れ、そのまま奥で抽送し始めた。最奥に先端をつけたまま腰だけを小刻みに動かしての弱い部分を攻めてくる。乙骨が腰を動かすたび、ぬちゅぬちゅと粘膜の擦れる音が鼓膜を刺激して、の声がいっそう艶めいて響いた。
「そ、そこばかりされたら…イ…イっちゃ…」
「…うん。イクとこ見せて」
「…や…あ…ん…ぁあ…っ」
耳元で乙骨に囁かれたとき、首筋にぞくりとしたものが走り、ずるずるとナカを擦られ、奥を突かれた瞬間、蜜口から最奥にかけてぎゅうん、とナカが収縮した。
目の前が真っ白になり、もう何も考えられない。乙骨の与えてくれる快楽だけが彼女を支配していた。
「あ…あ…」
乙骨の動きが緩慢になり、達したばかりのはやっと呼吸ができるようになった。まだ心臓は激しく鼓動を鳴らしている。全身が気怠く、乙骨を受け入れてる隘路もひくんと震えていた。
「さんが僕に感じてくれてると思うと死にそうに嬉しい…」
「…ゆ、憂太…くん…?」
覆いかぶさり、彼女の体をぎゅっと抱きしめる。は朦朧とした頭で体を僅かに離す乙骨を見上げると、手を伸ばして彼の頬へ触れた。その感触に乙骨がドキっとしたように瞳を揺らす。しかし次の瞬間、むぎゅっと頬を抓られ「いたたっ」と声を上げる。
「い、痛いよ、さん…」
その行動に驚いて彼女を見下ろすと、はどこか拗ねたように目を細めていた。達したことで少しだけ理性が戻ってきたらしい。
「な、何で怒ってるの…?あ…やっぱり痛かった…?」
少々、強引にイカせてしまった自覚があるだけに、乙骨が慌てて尋ねると、は首を左右に振った。
「そこは問題じゃないの…!」
「え…じゃあ…」
何で怒ってるの?と問うようにを見つめると、彼女は少し頬を赤らめ、更に目を細めた。
「憂太くん…初めてって言ってなかった…?」
「え、う、うん…初めて…だけど――」
「…嘘っ!絶対、初めてじゃないでしょ…」
「えぇ…?」
思ってもないところを攻められ、乙骨も口元が引きつる。正真正銘、乙骨にとってが初めての相手だっただけに、そこを疑われたことに驚く。
「嘘じゃないよ…さんが初めてだから」
「そ、そんな風に見えなかった…」
「……そんなこと言われても…あ、パンダくんと狗巻くんのおかげで知識だけはあったけど、こういうことするのはホントのホントに初めてだよ…」
「…パンダくんと棘くん…?」
そこではあの二人が意外と猥談好きなことを思い出した。以前も金次と一緒になってエッチな動画を観ていたことも。まあパンダは人間のメスに興味はないと言ってたらしいが。
「な、何…」
一瞬、が別の方に意識が向いてたとき、乙骨がかすかに笑みを浮かべたのを見てドキッとした。
「そう思ったってことは…それだけ感じてくれたってこと?」
「…っな」
なんてことを聞くの、この子は!と顔が一気に熱を持つ。初めてじゃないと疑ったということは、それだけ乙骨に感じてしまったと暗に言ってるようなものだと、彼女だけが気づいていない。
「そ、それは…だから…ンっ」
「そんなこと言われたらもっとしたくなるんだけど」
ぐいっと腰を押し付けられ、達したばかりのナカが再び甘い感覚に襲われる。弱い場所を知られてしまったのは良かったのか悪かったのか分からない。
「ゆ…憂太…く…ん、ぁっ」
「…今度は僕をイカせて」
とろんとした黒目に男の欲を孕ませた乙骨にくちびるを塞がれ、の抗議の声は全てのみ込まれてしまった。
汗に濡れた体のまま口付けを交わしながら、乙骨が再び彼女を追い詰めるように動きを再開する。
この後――三回もイカされたが、全て終わったあとに「やっぱり初めては嘘でしょっ」と怒り出し、乙骨はまた攻められる羽目になった。
