
Beauty and stupid.04
2009年、8月。
ブルガリアでの出張から約一か月。
国から報酬をたっぷり頂いて帰国した三人は、いつもの日々に戻っていた。
少し変わった事と言えば、五条がに対し微妙な距離を保つようになったこと。
と言っても指導係を任されている五条は自分の任務にを連れて行き、呪いに関する事を教えなければならず、結果二人での行動も多くなる。
その辺が五条にとっても少し辛いところだった。
ブルガリアで一度やらかしているだけに、次また同じ事をしてしまったら今度こそ気まずい。
彼女の力は男女問わずに効果があるが、男は特にあの魅惑的な欲に抗えない、というのは理解している。
と言って、その力に気づいているのと気づいていないのとじゃ理性の働き方が違う。
前もって知っていればヤバイな、と思った瞬間から、理性が勝つよう工夫をすればいいのだ。
これから高専で共に過ごしていく仲間、それも五条にとっては未来に描く夢想の為にが必要な存在である、と感じている。
そんな一時の気の迷いでを失いたくはない。
ただでさえ自分のその力のせいで周りを惑わし、相手に気まずい思いをさせてしまう、と気にしているの事を、これ以上追い込みたくはなかった。
だからこそ他の男たちにも、それとなくとは二人きりの時は近づくな、と釘はさしてある。
だが…は中に潜む存在のせいで極端な性格ではあるが、本質は素直な子供と同じ。
一度懐いた相手には無邪気に甘えて来るところがあった。まるで猫みたいだ、と五条は思う。
「Hey!悟ー!」
と二人で任務を終え、一人で学長に報告に行った帰り道。
先ほど校舎前で別れたが後ろから走って来る気配がした。
が、振り向こうとした瞬間、五条の背中にズシっとした重みがかかり、前のめりになる。
「おいっ何だよ?」
が背中におぶさる形で抱きついてきた事で、五条は呆れ顔で振り向いた。
当の本人は笑顔のまま、「今ね、"ジョシカイ"ってのに誘われたの!」と嬉しそうに報告してくる。
「女子会だぁ?誰に?」
「あのね―――」
「あーその前にオマエ、降りろ。重たい」
「む」
相変わらず五条の首へ腕を回し、背中に張り付いているに素っ気なく言い放つ。
が、同時に五条は心の中で少しばかり焦っていた。
背中に柔らかいものが当たっているのは、気のせいではないはずだ。
細身のクセに、しっかり胸だけは強調してくるから嫌になる。
特に今は真夏で、ただでさえ制服も薄めの上に、の注文する制服のデザインはだいたい露出も多いのだ。
「何よ、女の子に重たいなんて失礼じゃない」
五条の一言で、スネたように唇を尖らせる。
その突き出してくる柔らかそうな唇でさえ、五条には誘っているようにしか見えない。
とは言っても、は今しっかりサングラスをしているので例の瞳効果ではなく、五条が勝手にそういう目で見ているだけだ。
何の関係もない相手なら、そこまで意識したりはしない。別に女に困っているわけでもないからだ。
ただ同じ術師という立場である相手にも関わらず、不可抗力とはいえ一度ならず二度もキスをしてしまった相手、となると、また少し話が違って来る。
これから先も続く術師仲間、という関係性を壊さない為に、意識しないようにという意識をしてしまうからだ。
これがまた厄介だった。
「は体重うんぬんより身長があるんだから、それなりに重たいに決まってんだろ」
別に本気で重たいと思っているわけじゃないし、むしろ五条からすればは軽い。
ただ、こうでも言わないと、はいつまでも甘えて来るので、そこはしっかり突き放しておく。
「はいはい、それはどうも悪うございましたー」
二度も重たいという耳障りな単語を言われ、は不機嫌そうに五条の背中から降りる。
五条は五条で内心ホっとしながら、改めての方を振り返った。
「で、女子会って誰に誘われたんだよ」
未だぶーたれているに尋ねながら、大方硝子辺りだろう、と考えていると、彼女は途端に笑顔を見せた。
「あのね、さっき硝子と一緒に――――」
とが何かを言いかけた時、その"答え"が校舎の中から出て来るのが見えた。
「げ…五条悟…」
「あれー?歌姫じゃん」
五条の顔を見るや否や顔を顰めてイラっとしたような空気を出す巫女のような着物を着た女性。
それは五条の先輩に当たる庵歌姫その人だった。
後ろからは五条の同級生である家入硝子も歩いて来る。
「あー何だ。やっぱ硝子がを誘ったんだ」
「何よ、五条。アンタは連れて行かないからね。今日は名前の通り、女子会だから」
「女子会、ねぇ」
硝子の言葉を聞き、五条が軽く吹き出す。
「でも歌姫は女子って感じじゃなくない?」
「………五条っ」
相変わらず先輩に対し舐めた態度の五条に、歌姫の額には怒りマークの如く血管が浮き上がる。
だが歌姫が怒りだす前に、が五条の額を指で小突いた。
「さっきから女性に向かって失礼だってば。悟のデリカシーどこに置いて来たのよ」
「……元々そんなものないですから。僕には」
サングラスをズラして自分を睨んで来るの視線を反らしながら、五条はそっぽを向いた。
硝子はそんな二人のやり取りを見ていたが、ふと気づいた事を口にする。
「っていうか五条、アンタの術式ってオートマにしたんだよね」
「あ?…だから?」
「ふーん。じゃあは完全にOFFってるって事だ」
「は?」
「だって今、普通にアンタに触れてたじゃない。私がこの前ソレやろうとしても当たらなかったのに」
細かいとこに気づくなコイツ、と五条は内心舌打ちした。
の場合、ブルガリアの件からさっきみたいに甘えて来る事が多くなり、そのたび五条の術式で触れる事が出来ない為、それがからすると拒否されてるように感じるらしい。
彼女の国では親しい相手とのスキンシップは大事にしているようで、それが出来ないという事はそう感じるのも無理はない事だった。
ある日、寂しそうな顔でそう言われた時、仕方なく一緒の任務の際はをOFFにするようになったのだ。
ダイアナの力を使えば一瞬でも五条の術式効果を無効に出来るようだが、彼女はソレをしては来なかった。
五条自ら、自分の存在を受け入れてくれなければ意味がない、とでも言うように。だから、OFFにした。
「常にOFFってるわけじゃないけど、は硝子みたいに本気のデコピンしてこないからね」
「へーぇ。ふーん」
「………(ウザッ)」
目を細め、不服そうに睨んで来る硝子に、五条は口元が僅かに引きつった。
とりあえず今日の女子会は歌姫と硝子、で行くらしい。
がいつになく嬉しそうなのは、これまで同性の、それも年齢の近い友達がいなかったからだろう。
この前そのような話をしてた事を五条は思い出した。
「じゃあ着替えて用意して、午後6時に門に集合ね」
「はーい。あ、この前買った服、着てっちゃおう」
はそんな事を言いながらウキウキした様子で硝子と寮へ歩いて行く。
その時、ふと先日彼女が買っていた服を思い出した。
いつもの都心での任務帰り。
ちょっと寄り道してこーよ、というの誘いに乗り、二人で渋谷をプラプラしていた時。
ある店の前でが立ち止まり、そこに飾られていた服を酷く気に入って即購入していた。
確か夏らしいハイウエストのキャミソールブラウスで、背中が大きく空いてるようなデザインだった。
あんな露出の多い服を着てくのか、と五条は内心溜息をつく。
まあ女子会という事だしに惑わされたとしても、相手は硝子か歌姫だから大丈夫だとは思うが…
「なあ歌姫」
五条は二人を追いかけようと歩きかけた歌姫に声をかけた。
「何よッ」
「…何でキレてんの?」
「べ、別にキレてないけど!」
キレてないというわりにそっぽを向く歌姫に五条は軽く首を傾げたが、彼女の情緒がおかしいのはいつもの事だ、とそこは触れないでおいた。
「今日の女子会、どこ行くの」
「アンタ、また乱入する気じゃないでしょーね」
「行かないって。僕そこまで暇じゃないし。で、どこ行くの?」
「……カラオケよ」
店まで言わなければ大丈夫だろう、と歌姫が目的地だけ答える。
だいたい硝子と出かける時は二人でよくカラオケに行っているのだ。
五条はカラオケ、と聞いて、まあそれなら個室で済むから特に周りに被害も及ばないだろう、と考える。
「分かってると思うけど、から目は離すなよ?だいぶ日本にも慣れてきたせいか、ガキみたいに本能で動いたりするとこあるし」
「…誰にもの言ってんのよ!偉そうに。の保護者か、オマエは」
「保護者じゃないけど一応、指導係なもんで。はコッチの予想つかない事するから目が離せないんだよ、まだ」
五条は溜息交じりで肩を竦めている。
その様子を見て、歌姫は若干衝撃を受けていた。あの唯我独尊男が他人の心配をしている。
まあ、五条という男は強い人間にしか基本興味を示さないところがあるし、はそのお眼鏡にかなったんだろう。
「分かったわよ。目を離さなきゃいいのね?」
「うん。ま、後はアイツの大食いで散財しないように。どうせ先輩だからって歌姫が奢るつもりなんだろ?」
「え?そんな食べるの、あの子…」
「まあ、力士なみには」
五条はが聞いていたら発狂されそうな事を言って笑う。
歌姫は顔を引きつらせて、「マ、マジか…」と財布の中身が心配になった。
とはいえ、カラオケ店で軽く食べながら歌ったりお喋りしたりするくらいだから、そこまで高額にもならないだろう。
「じゃ、ウチのを宜しくね~」
青くなった歌姫を見て、五条は笑いながら手を上げると、そのまま寮の方へと歩いて行った。
渋谷のとあるカラオケ店にやってきた三人は、ジャンクフードと飲み物を沢山頼み、お喋りに花を咲かせていた。
話の内容はもっぱらの境遇や、高専に来るまでの経緯について。
硝子はある程度、の正体や能力の事を聞いてはいたものの、その他の詳しい事は聞かされておらず、歌姫に至っては噂でしか聞いていない程度の認識。
なので今日までに気になっていた事を全てにぶつけて、彼女の話を聞いてはたびたび驚かされていた。
「先月のブルガリア出張、七海が実際にヴァンパイア退治をしてきたって教えてくれたけど、マジいるんだねー」
「でもそれ言うなら呪いの存在だって私も驚いたよ。人の負の感情から、あんな化け物が形になって沸いてくるなんてアンビリーバボー」
はケラケラ笑いながら二杯目のコーラへ口をつける。
同時にフライドポテトにたっぷりケチャップをつけて、それを美味しそうに食べ始めた。
確かに五条の言う通り、はよく食べ、よく飲んだ。見ていて気持ちがいいくらいだ。
歌姫はそれを見ながら、これで太らないなんて羨ましい、とすら思っていた。
今も背中の大きく開いたキャミソールブラウスを着ていて、ハイウエストだけに引き締まったお腹と綺麗な形のおへそを惜しみなく披露している。
「きっと世界中にある国の数だけ、その国特有の呪いはいるのかもしれないわね」
歌姫の言葉に、硝子も頷きながら隣にいるを眺める。
最初こそ驚いたものの、話してみれば想像していたヴァンパイアのイメージとは違い、あまりに無邪気で明るい性格のに、硝子も呆気に取られたのだ。
「でも本当に死ぬ方法を探してるの?」
ふと歌姫が訊いた。
食べ物を追加しようとフードメニューを見ていたが、その問いにふと顔を上げる。
今は夜、そして仲間との食事会という事もあり、愛用のサングラスはその胸元に引っ掛けられている。
「うん。昔、お父様が話してたんだけど、先祖のブラドとダイアナを殺したハンターがいたらしくて」
「ハンター?」
「そのハンターがヴァンパイアを殺す方法を知ってたらしいの。まあ今はとっくに死んじゃってるだろうけど、そのハンターもね、世界中を回ってたんだって」
「ああ、それで痕跡を探して旅してたの?」
硝子も思わず身を乗り出す。
やはり自分の知らない世界の事には大いに興味があるのだ。
「うん。どこかに同じように殺す方法を知ってる子孫がいるかもしれないしヴァンパイアが出るって噂の国をメインに旅してたの」
「そう…。何か変な気がするわね。生きる、という事を当たり前にしている世界で、死ぬ方法を探さなきゃいけないなんて」
歌姫はの境遇を聞いて胸が痛んだ。
だって別に死にたくはないだろう。だけど死ねない、という現実があれば、やはり人は死にたくなるものなんだろうか。
「あ」
と、その時、硝子が何かに気づいたように声を上げた。
「ね、そのハンターに殺された本人なら…知ってるんじゃない?ヴァンパイアを殺す方法!」
「あ…!そっか」
硝子の言葉に、歌姫も声を上げる。
だがは苦笑すると、静かに首を振った。
「ダイアナにはもちろん聞いたことあるの。でも彼女は絶対に教えてくれない」
「あーそっか…。教えたらせっかく受肉したのに、また死ぬはめになるもんね」
「ダイアナの肉体は滅んだけど、魂っていうか意識?みたいなものは体に残ってたみたいなのよね。だとすると純血種が不死っていうのは頷ける」
「まあ、それを呪術界では呪物と呼んでるんだけど、肉体は滅んでも魂までは死なない、か。何か悲しいわね、それも」
「って、事はさ、ダイアナの夫であるヴァンパイアもそうって事?」
「可能性は大いにあるから国を出る時、二人の身体は見つからない場所に埋めて封印したの。誰かが見つけないように。ああ、でも―――」
はそう言って肩を竦めると、思い出したように笑った。
「ブルガリア出張の時、悟がそのブラドの指を一本、高専に持って帰ろうぜ、なんてバカなこと言ってたけど却下した」
「はあ?ったく、あのバカ。何考えてんのよ。それこそ特級呪物に指定されるわよ」
「もしかしたらブラドと戦ってみたかったのかもねー。悟って強い相手と戦いたがる傾向があるし」
ふとブルガリアでのヴァンパイアと五条の戦闘を思い出し、が笑った。
どこか楽しそうに戦っている五条を見て、変な奴だと思ったのだ。
「悟って変な人だよね」
「あー五条?アイツは生意気でクズでどーしようもないヤツよ」
「え、歌姫さん、悟と仲悪いの?」
不思議そうに首を捻るに、歌姫は「う」と声を詰まらせる。
仲が悪い、という簡単な感情ではないのだ。
「いいも悪いも、五条とは関わりたくないかな。会うとイライラしてストレスになるし」
「え、何で?悟、優しいじゃない」
「「は?」」
の言葉に、硝子と歌姫同時に同じ反応をした。
しかも若干、殺意を感じる。
「優しい…?五条が?」
「、それはどういう理由でそう思うの?」
「え?な、何で?」
二人から怖い顔で詰めよられ、は驚いたように目を丸くした。
「理由っていうか…もちろん腹が立つ事も多いけど、私の力の事では本気で気遣ってくれたし、それって優しいって事でしょ?」
「気遣う…?アイツにそんな高度なこと、出来る?」(!)
「さあ…。ああ、でも五条は強い相手に対しては一応、敬意を払うとこあるか。冥さんとか」
「あー…。どっちにしろ私には腹が立つ話だけど」
普段、五条から弱い弱いと言われている歌姫は、人を選びやがって、と軽く舌打ちをした。
とはいえ、このは確かに五条と並べる唯一の存在である事は間違いない。
五条悟は最強だが、最も強いのは一人で戦う時だ。
仲間が傍にいると、あの強力すぎる力で巻き込んでしまう恐れがある為、五条も一人じゃない時は殆ど本気を出さない。
でも彼女なら、そんな五条を煩わせる事はない。
「ま、五条が新人のの指導係になったって聞いて心配してたんだけど、その分じゃ大丈夫そうね」
歌姫が苦笑交じりで肩を竦める。
本当は今日誘ったのも、が五条の指導を受けて苦労してないか心配だったからだ。
でも当の本人は「no problem!」と笑顔で言った。
そして次の瞬間、硝子と歌姫が驚愕するようなセリフを吐いた。
「私は悟、好きよ?」
「「――――は?」」
今度こそ衝撃でフリーズした二人を見て、はキョトンとした顔だ。
「え、ど、どうしたの?二人とも…顔色悪いけど…」
「すすす…好きって…どどどういう…」
「どどどもりすぎよ、硝子…」
突っ込んだ歌姫も間違いなくどもっている。
はそんな二人を見ながら内心面白い、と思うのと同時に、今の質問は少し聞き取りにくかったが多分、「どういう好きなのか」を訊かれたのだと判断し首を傾げた。
「んー。仲間としてノリもいいし、強いから一緒にいても余計な心配いらないし、一緒にいて楽しいから?」
「あぁ…何だ。要は…友達枠ね。ラブじゃなくライク?」
「Yes. Like!」
はパチンと指を鳴らし、大きく頷く。
それを聞いて二人は心の底から安堵した。(!)
は訝し気にそんな二人を見ると、「何で?」と首を傾げた。
「もしかして二人は何か変な心配してる?」
「え?あ、いや…はさ、こう子供みたいに純粋なとこあるし…五条には合わないというか…もったいないというか」
「モッタイナイ?」
「ああ、んーと…ほら、にはもっと甘やかしてくれるような心の広い大人の男が似合うというかね」
硝子が何とか説明すると、言ってる意味が分かったのか、不意に笑い出した。
「高専に入るって決めた時から、そこの人と恋愛関係にはならないって決めてるから心配いらないよ」
「え、そう、なの?」
「私、今までずーっと一人で生きて来たから、こういう組織の事はよく分からないけど…その中で恋愛して面倒な事になるのも嫌だし、私はこんなだし」
「こんなって…死なないからってこと?」
「そう。これまではね、旅の途中で何人かと付き合ったりもしてきたけど長くは続けられないし結局別れちゃったから。でも同じ組織内でそんな事は出来ないでしょ?」
は意外にも真剣にそんな話をしていて、硝子と歌姫も彼女の言いたい事は理解できた。
要は組織と言う枠の中で恋愛関係になったとしても、長く続くとは限らないし、何かのきっかけで別れたりすれば互いに気まずい思いをするだろう。
その場で二度と会わないならまだしも、別れた後でも顔を合わせなきゃいけなくなるからだ。
「だから恋人が欲しくなったら高専以外で作る」
「そうね、その方がいいと思う、うん」
歌姫もそこは大きく頷く。
術師同士の恋愛も、これまでにあった事にはあったが、如何せん人数が少ない中で恋愛なんてものを持ち込むと、ダメになった時は修羅場になる。
遊びで集まっているわけじゃなく、命をかけた場所だからこそ、個人的な問題が関わって来る恋愛は、術師同士だと向かない場合も多いのだ。
「って事でトイレ行ってきまーす」
はそう言って立ち上がると、部屋を出て行った。
それを見送りながら、歌姫は軽く息を吐くと、「案外、しっかりしてるじゃない」と微笑む。
「え?」
「ああ、いや…さっき五条がね。は子供みたいなとこがあって危なっかしいから目を離すな、なんて言ってきたし」
「五条が、ですか?」
「うん。でも、こうして話してみたら、ちゃんと色々考えてるみたいだし安心したかな」
「そうですね。最初はずっと一人で行動してきたから組織に入る事に抵抗があったみたいだけど、人と一緒にいるって事が意外にも楽しかったって話してたし」
「あの分ならちゃんとした術師になってくれるわよ。ま、五条が指導係ってのが心配だけど強い者同士にしか分からない事もあるだろうから、そこは任せましょ」
「ですね。ま、アイツも夏油の事があってから何か思う事が出来たみたいだし、前よりシッカリしてきてる気がする」
硝子が苦笑気味に言うと、歌姫は「そう?相変わらず失礼だったけど」と言いながら、カラオケのリモコンへ手を伸ばす。
「さ、そろそろ歌でも歌おうっと」
「待ってました」
大のカラオケ好きでもある歌姫は、慣れた手つきで選曲し、マイクを握り締めた。
一方、相変わらず失礼、と称された最強術師は、のんびり大福を食べながら自室でゲームをしていた。
ここんとこ任務が忙しく、こうしてコントローラーを握るのは久しぶりだ。
が、突然鼻がムズムズし、派手にクシャミをする。
「あー…。誰か噂してるな…。ったくモテる男は辛い…」
鼻をすすりながら独り言ちると、再びテレビ画面に視線を戻す。
だがクシャミで目を離した隙に、敵から強い攻撃を受けてHPが削られたのか、操作を開始した瞬間にもう一撃喰らい、あっけなく死んだ。
真っ黒になった画面には"You are dead"の文字。
それを見て、軽く舌打ちをすると、五条はコントローラーを放り投げてその場に寝転んだ。
こんなにのんびりした静かな夜は本当に久しぶりだ。
ぶっちゃければ暇、とも言う。
「今頃硝子たちはカラオケかよ…」
やっぱりついて行けば良かったか?とも思うが、はともかく、あの歌姫と硝子を一人で相手にするのもキツイ。
前は夏油が一緒だったからこそ、女子会という場に男二人で乗り込む事が出来たのだ。
一瞬その時の光景が頭を過ぎり、五条は失笑した。そして気づく。
夏油の離反以降、幾度となくその事を考えてはやめるの繰り返しだった。
でもここ数か月は考える暇がないほど、自分の周りの環境が変わった。
「そっか…が来てから色々ぶっ飛んだ事ばかりで忘れてた…」
親友の離反、という以上にぶっ飛んだヴァンパイアという存在のおかげで、五条はここ数か月、嫌な事を忘れ、また退屈しなかった。
未知なる存在は五条に新鮮な刺激を与え、好奇心をくすぐってくる。
「もしアイツもここに残ってたら、彼女の存在にどういう反応をしてたんだろうな…」
ふと、そんな事を考える。
まあ、面倒見のいいアイツの事だから、一生懸命に世話を焼いてたんだろうな、と想像しておかしくなった。
ふと時計を見ると、午後10時。
6時にここを出発して、移動時間も入れたら7時過ぎから始まったであろう、その女子会はそろそろ〆の歌でも歌ってる頃だろうか。
「これから帰って来るなら夜中だな…大丈夫か?アイツら」
歌姫の運転する車で出かけて行ったから、当然帰りも歌姫が運転して送って来るはずだ。
アルコール好きの歌姫でも、さすがに今日は飲んでないだろう。
硝子は飲んでるかもしれないが。(※未成年)
「はー。こんな暇ならデートの誘い受けときゃ良かったか?」
放置したままのケータイを手にし、先ほど来たメールを開く。
それは以前、夏油と渋谷で遊んでた時に引っ掛けた女からだった。
夏油離反後から、すっかり忘れていて連絡すらしていなかった相手だが、今日久しぶりに"会わない?"というメールが届いたのだ。
ほどほどにイイ女で、大人だから煩わしくない関係でいられるのが良かった。
未だ返信もしないまま放置をしていたが、ふと気が向いて返信ボタンを押す。
"今日は無理だけど、また連絡して"
それだけ打つと、すぐに送信する。
あれ以来、そんな気すら起こらなかったが、今日のような暇を持て余した夜に会うのも悪くはない。
こんな風に思えるようになったのも、が来たせいかもしれないな、と五条は思った。
とりあえず、間違ってに手を出さないよう、気を付ける手段として、欲求不満は解消しなければならない。
それには都合のいい相手でもある。
「つくづく…クスだねぇ、僕も」
天井を見上げながら、ふと苦笑が漏れた時、メールを告げる着信音が鳴った。
「Ahhh, refreshing...!」
出すものを出して手を洗いながら、はスッキリしたように鏡の中の自分を見る。
ヴァンパイアが鏡に映らない、なんて映画での設定はもちろん嘘っぱちだ。
「Hmmm, should I cut my hair...?」
少し伸びて来た髪を見ながら首を捻る。
日本の夏は恐ろしいほど暑いせいで、最近は少し煩わしくなってきた。
それに少し髪型を変えて気分転換もしたい、と思いながら、はトイレを出ると、沢山ドアのある通路を歩いて行く。
どの部屋からも色んな歌声が漏れ聞こえていて、それぞれに盛り上がっているようだ。
も何か歌おう、と考えながら、徐にドアを開けた。
「Oh...?!」
ドアを開けては驚いた。
そこには硝子や歌姫ではなく、見た事もない日本人の男四人が歌も歌わず、何故か顔を寄せ合って話し込んでいたからだ。
そこですぐ部屋を間違えた事に気づく。
「Ah, I'm sorry!えっと、ごめんなさい。部屋を間違えたみたいで…」
そう言ってすぐに部屋を出ようとした。
が、不意に腕を掴まれ、驚いて振り返る。
「君、一人?俺ら男四人で退屈してたんだ。一緒にどう?」
「え、でも友達と一緒なの―――」
「いいじゃん。ああ、その友達も呼んでくれていいし。まあ、とりあえず座って座って」
「え、あ、ちょっと」
男は強引にの手を引っ張り、ソファに座らせる。
大学生だというその男たちは、の容姿を見て、「めっちゃ美人じゃん」「その目コンタクト?綺麗だね~」とそれぞれ声を上げている。
どう断ろうかと思っていると、隣にを引き入れた男が座る。
「君、どこの部屋だったの?友達って何人?男?女?」
「二人。女の子よ」
「ラッキー。じゃあその子達も呼んでパーっとやらない?」
軽いノリで話しかけて来る男に、は困ったように笑って誤魔化す。
この場合、どうしたらいいんだろう。
日本の男は高専の人以外、接した事がない。
そして硝子と歌姫がこのノリの大学生と一緒にカラオケするんだろうか、と疑問に思う。
すると突然、隣の男がの肩に腕を回して来た。
「ちょっと、何する―――」
「なーんか君、セクシーだよねー。さっきからいい匂いするし」
「腕、どけて」
「いいじゃん。つーか色白くない?透明感パないね、君の肌。あ、名前何て言うの?」
「髪、いい色だねー。サラサラだし、これ何色?アッシュより明るいよね」
「ちょっと、勝手に触らないで」
酒も入っているだろうが、それにしてはテンションも高く、彼らからする匂いもおかしい、とは少し違和感を覚えた。
男たちは、を囲むようにして座りだし、ベタベタと身体や髪を触って来る。
その空気に嫌なものを感じて、無理やり立とうとした時、男の一人がの腹へ手を伸ばしてきた。
「おへそ、色っぽいね」
買ったばかりのトップスは短めのデザインで、ジーンズも浅めという事で、いわゆるへそ出しだったせいか、男が厭らしい手つきで触って来る。
その手を咄嗟に振り払った。
「Don't' touch me!」
「いってぇ。何も振り払う事ないじゃん」
「っていうか君ってアメリカ人?俺、外国人とヤったことないんだよなあ」
ニヤニヤしながら更に顔を近づけて来る男に、はいい加減キレそうになった。
知らない相手だから、と気を遣ったのが間違いだ。もっとハッキリ断れば良かった、と後悔する。
アルコールに加えて、のフェロモンに反応してしまっているせいか、男たちの目付きが次第にとろんとしてくる。
その時、頭の中でダイアナが呟いた。
《Should i eat...?》
「.......No!」
楽しそうに話しかけてくるダイアナを制止するように叫ぶ。
このままだとダイアナを刺激してしまう事になる―――。
それはまずい、と肩を抱いている男を無視して立ち上がった。
ダイアナにとったら、この男たちは単なる餌でしかない。
だが行く手を阻むように男二人がドアの前に立ち、ニヤニヤしながらの体を拘束しようとする。
「やめた方がいい」
「んー?何が?」
「何かすげーエロい気分なんだけど、君のせいかなぁ?」
「…かもね」
そう言った瞬間、は抱き着こうとしてきた男のスネを思い切り蹴とばした。
「いってえ!!」
「コイツ…!」
男の一人が足を押さえて崩れ落ちる。
それを見た別の男がに掴みかかって来た。
だがは咄嗟にしゃがみ、男の腹の辺りを両手で押して、向かって来たその勢いのまま後ろへ放り投げた。
男はテーブルの上に投げられた格好になり、ガシャンと派手にグラスが割れる。
それを見た残りの二人は、「てめえ!女が調子に乗んな!」と叫び、一人がの体を後ろから拘束した。
「こんな事してすんなり帰すと思うなよ?」
「おい、コイツ拉致るぞ」
「無駄よ」
は呆れたように溜息を吐くと、後ろから拘束している男の足をピンヒールで思い切り踏みつけた。
ぎゃっという変な声を上げた男は、アッサリから手を離す。
そして前方でそれを見ていたもう一人の男の股間を、は思い切り蹴り飛ばした。
「ぅがっ!」
四人の中でその男が一番、悲惨だったかもしれない。
股間を押さえながらその場に倒れこむと、うんうん唸りながら転げ回っている。
その様子を見下ろしながら、は中指を立てた。
「Fack you!」
この国の男も他の国の奴らと大して変わらないのか、とは呆れた。
日本人は消極的だと聞いていたが、とんでもなかった。
倒れている男たちを見下ろし、は溜息をつくと、そのまま硝子たちのところへ戻ろうとドアを開ける。
が、そこには飲み物を運んで来た店員が立っていた。
「あ…」
「な…何だ、これ?アンタがやったの?」
店員は中の様子を見て驚き、恐ろしいものを見るような目つきでを見ると、慌てた様子でフロントへと走って行く。
「OMG....I've done it again....」
過去にも似たような状況になった事があるは、この後自分がどうなるか安易に想像がつき、頭を押さえ天井を仰ぎ見た。
「マジ、何やってんの…?」
「Sorry...」
警察署の受付ロビー。
呆れ顔の五条を見て、はシュンとしたように謝罪した。
結局あの後、警察を呼ばれたは警官に交番へ連れて行かれそうになった。
自分の方が被害者だと事情を説明してるのに、それでも連行しようとする警官にキレて、つい腕を掴んで来たその手を逆に掴み、投げ飛ばしてしまったせいで見事に公務執行妨害となり、応援まで呼ばれてしまったのだ。
しかも近くで捜査をしていた刑事までが駆けつけ大騒ぎになってしまった。
硝子と歌姫は防音の利いた部屋にいたせいで外の騒ぎに最初は気づかなかったものの。
が遅い事で様子を見に出て来た時、廊下に警官が来ている事で、何が起きたのかをやっと理解した。
が、その時にはすでには刑事に逮捕され、渋谷署まで連行された後だったのだ。
慌てた歌姫は夜蛾に連絡を取ったが、今は仕事で外せないから指導係の五条を呼べ、と言われ今に至る。
「ったく…男だらけの部屋入るなんて、今時中学生でも警戒するだろ」
「だって無理やり引っ張られて気づけば座らされてて」
「そんなのならすぐ逃げられるよね?」
「だってあんな奴らだと思わないし、無視するのは悪いかなと…」
「無視しろよ。間違えて入って来た子を無理やり引き入れる男なんて、だいたい下心あるんだから」
「うん…ごめん」
いつになく怒っている五条に、の顏がどんどん落ちこんでいく。
その姿を見て、歌姫が「もうそのくらいでいいでしょ?」と間に入った。
「も反省してるし」
「…歌姫も歌姫だよ。から目を離すなって言ったよね?」
「はあ?トイレ行ったのまで見張れって?」
「戻ってこない時点で探しに行けよ」
「バカじゃないの?子供じゃあるまいし―――」
「はそういうとこあるって言ったろ?」
「……そう…だったわね」
歌姫も溜息をつくと、「ちょっと夜蛾さんに連絡して来る」と硝子の待つエントランスへと歩いて行った。
だが歌姫にまで怒り出した五条を見ては、「歌姫さんは悪くないよ」と、五条の腕を引っ張る。
自分のせいで無関係の歌姫が責められるのは耐えられない。
「今度から気をつけるから…」
「…はあ。が気を付けてても、こういう事態になりえるから心配なんだよ…」
「ごめん…」
はもう一度謝ると、五条も少し言いすぎたと思ったのか、彼女の項垂れている頭へポンと手を置いた。
「まあ…何ともなくて良かったけど…相手の奴らもケガは大した事ないみたいだし」
「そこは手加減した、もちろん…」
がそう言うと、五条はふと思い出したように吹き出した。
「それにしてもヒールで股間蹴りはゾっとするね。相手に同情するわ」
「む…だって馴れ馴れしく体触って来たし頭に来て―――」
「……触られたの…?」
「まあ…多少…」
そこで五条は目を細めると、の服装を見下ろし、「そんな恰好してんのも良くない。おへそ出てるし…」と言った。
「え、何で?可愛いじゃない」
「いや、そういう問題じゃなく。露出が多いと、どうしても男はエロい目で見ちゃうもんだから」
苦笑交じりの五条の言葉に、はキョトンとした顔をした。
「それって……悟も?」
「……まあ…僕も一応、男という生き物なんで」
僅かに視線を反らしながら言う五条を見て、は小さく息を吐いた。
「分かった…。もうおへそは出さない」
「い、いや、そういう事でもなくてね?ああ、出さないのはいい事だけど。それだけじゃないっていうか―――」
と、そこに「さん!」と一人の刑事らしき男が走って来る。
その男を見て、は「あ」という顔をした。
先ほど最後の最後でを逮捕した石崎という刑事だ。
あの時は態度の悪い警官に腹を立て、そこへ現れた石崎の事もは蹴ってしまったかもしれない。
それを思い出した時、目の前に来た石崎に向かって、「ごめんなさいっ」と素直に謝った。
取り調べも終わったのに、わざわざ声をかけて来たのだから文句の一つも言われるかと思ったのだ。
だが石崎は笑顔で「いやーこちらこそ話もちゃんと聞かずに逮捕なんてして悪かったね」と言ってきた。
「え…」
「実は君がのしちゃった彼らね。僕が追ってたグループのメンバーだったんだ」
「マークって…あの人たち、何かしたんですか?」
「ああ、薬物所持とか売買、あとそれこそ女性を拉致監禁したり、結構被害届が出てて、さっきも探してるとこであの騒ぎに遭遇してね。でもまあアイツらが被害者だと思わなかったんだけど」
「…はあ」
「ありがとう、君のおかげで逮捕する事が出来たよ。しかも四人ともね」
「い、いえ…」
そんな悪党だったのか、とも驚いたが、それを言いに追いかけて来てくれた石崎につい笑顔になる。
隣でそれを見ていた五条は僅かに目を細めると、「じゃあ連れて帰っていいんですよね?」と石崎へ訊いた。
「あ、ああ。もちろん構わないよ。アイツらも被害届なんか出さないだろうし」
「じゃあ、。サッサと帰るよ」
「う、うん。じゃあ…お騒がせしました」
がそう言うと、石崎は苦笑しながら「こちらこそ」と頭を下げる。
その好青年っぷりに、は少しドキっとして、僅かに頬を赤らめた。
さっきは必死で誤解を解こうとしてたから気づかなかったが、よく見れば端正な顔立ちで、大人の男性といった落ち着きが魅力的だと思う。
それはダイアナがそう感じたのか、それとも自分の感情なのか分からないが、は石崎という刑事に好印象を持った。
「あの…石崎さんは名前、何ていうんですか?」
「え?ああ、僕は石崎拓斗。これ、僕の名刺。何か困った事があれば連絡して」
「あ…はい」
爽やかな笑顔で名刺を差し出され、も笑顔で受け取る。
それを横で見ていた五条の目は僅かに細められたが、サングラスで誰も気づく事はなかった。
「いますね、呪い」
目の前の、古いビルを見上げ、伏黒が呟く。
その瞬間、虎杖が頭を抱えながら叫んだ。
「嘘つきー-!!!六本木ですらねー!」
「地方民を弄びやがって!!」
釘崎も同様、怒りを露わに怒鳴る。
が、五条は冷静な顔で、
「でかい霊園があってさ。廃ビルとのダブルパンチで呪いが発生したってわけ」
「やっぱ墓とかって出やすいの?」
すでに頭を切り替えた虎杖が尋ねると、伏黒が「墓地そのものじゃなくて」と五条の代わりに応えた。
「墓地イコール怖いって思う人間の心の問題なんだよ」
「あー学校も似た理由だったな」
「ちょっと待って。コイツ、そんな事も知らないの?」
話を聞いてた釘崎が驚いたように振り返る。
そこで伏黒が「実は…」と何故、虎杖が高専に来たのか、その理由を釘崎に説明した。
「飲み込んだあ?!特級呪物をぉ?!」
案の定、驚愕の声を上げ、虎杖を汚物でも見るような目で見る。
「きっしょぉ!ありえない!衛生観念、キモすぎ!!ムリムリムリムリ!」
「…んだと?!」
「これは同感」
釘崎の反応に虎杖はムっとしたように目を細め、伏黒は真顔で同意を示す。
が、それを後ろで聞いていたは、まるで自分が言われたような気持ちになり、ガックリと項垂れた。
しかも釘崎の言うキモい指を10本一気に食べたのだから衛生観念と言われると、少し落ち込む。
その時、頭に手を置かれ、ハッと顔を上げると、五条は「気にすることないよ」と微笑んだ。
「生きる為にした事なんだし、そのおかげで僕はに会えたんだから」
「……うん」
五条の優しい言葉に、思わず笑顔になる。
そう、少し遠回りもしたけれど、あの日、必死に生きようとしたから、今の二人がある。
あの頃は沢山の事を諦めて、ただ生きていたけど、今は違う。
幸せを掴みたくて、勇気を出して手を伸ばした過去の自分を、今は誉めてあげたいくらいだ。
「悟のおかげで色んな事が幸せになったよ」
「ま、あの頃はライバル多かったおかげで僕も色んな事に気づけたから、今はお礼を言いたい気分かな。ま、思い出すとムカつくけど」
五条が苦笑気味に言えば、の頬が赤くなる。
仲間とは恋をしない。
そう決めていたはずなのに、今は傍にいる事がこんなにも安心する。
人の心とは、不可解で不思議なものだ。
「」
「え?」
名を呼ばれ、ふと顔を上げた瞬間、唇が重なる。
驚いてフリーズしたに気づくと、五条はゆっくりと唇を離し、「僕を選んでくれて、ありがとう」と一言、笑顔で呟いた。
刑事ドラマ好きなんですけど実際の私服刑事って一回しか会った事ない笑
近所の聞き取り調査に来られたのが私服刑事でしたね。