I'll pick you up.19



2018年、9月。



この、バカモー--ンッ!!!

通話口の向こうから、普段のストレスを全て発散させているんじゃないだろうか、と疑問に思うほどのドデカい呪言をぶつけられ、は慌てて自分のスマホを七海に押し付けた。
これ以上、この呪言は聞くに堪えない。そう思ったからなのに―――。
七海は無言のままピッとスピーカー通話に切り替えてしまった。

『校舎半分を崩壊させたあげく、特級呪霊に逃げられるとは何をしとるんだ、オマエは!!!』
「ちょ…ちょっと七海くん…何でスピーカーにするのよ…」

小声で苦情を伝えたところで七海はやはり無表情のまま「ここで発散させておかないと後々まで引きずりますので」と冷静な答えを返してくる。
その間も電話の相手、夜蛾正道の説教は延々と続く。

『学校関係者が全て体育館にいたからいいようなものの…オマエの危険度Sクラスの力を使うなど言語道断だ!』
「だって正道…あのツギハギ、自分の肉体操作出来たんだもの。まさに変幻自在。だったら戻せないくらいすりつぶして団子にもなれないくらい千切ってけば元に戻る前に難なく祓えるじゃない」
『さ、魚のすり身を作ろうとしましたみたいに言うな!!そもそも死にかけたから領域を展開されて逆に七海が死にかけたんだろーがっ』
「それは…まあ…悪かったけど…まさか領域展開するほど呪力が残ってるとは思わなくて…」

言いつつ隣で相変らず表情のない顔をしてる七海を見る。
その七海の顏にいつもかけられているサングラスは、半分が割れてしまっていた。
の領域とも言えるスーパーセルによる風圧で吹き飛ばされた際、壁に激突してその時に割れたそうだ。

『と、とにかく一度高専に戻ってこい!話はそれからだ』
「えぇ…まだ説教する気?正道、私でストレス発散してない?」
『オマエが今のところ一番のストレスだ!もう一人のバカは今、いないんだからなっ』
「…む」
『口を尖らすな!いいから早く戻って報告をしろ!七海もな!』
「わかりました」

長い付き合いになる夜蛾には見えなくともが今、どんな表情をしているのか予想がついているようだ。
七海はそこで返事をすると通話終了ボタンを押して溜息をつく。

「もう話してもいいですよ?虎杖くん」

スマホをに返しながら、七海は後ろで静かに待機していた虎杖を見た。
彼が生き返っている事を知っているのは今のところ、五条と、家入、七海、そして生き返った時その場にいた補助監督の伊地知のみ。
今回、映画館での不審死の任務は七海に依頼された案件だったが、五条に虎杖の事を頼まれた事でこっそり同行させていたのだ。

「…あ、うん…。つーか、ごめん、先生。俺が取り逃がしたようなものなのに」
「いいのよ。正道は私や悟を怒鳴るのが生きがいなんだから」
「怒鳴る原因を作ってるからでは?」
「む、うるさいなあ、ナナミンは」
「…その呼び方やめて下さい。はったおしますよ……?」

壊れた眼鏡を外し、七海は徐に目を細めながらを睨む。
当のは特段気にする様子もなく、サッサと歩き出し、途中で忌々しげに排水口へ視線を向けた。

(もう、あと少しで祓えたのに)

七海と虎杖の猛攻、そしての最大攻撃でツギハギ呪霊の命は風前の灯火だった。
だが奴は死に際に開花し、領域を展開されてしまった事は、七海やでも想定外。
ツギハギは触れた対象の魂の形を変える事が出来る術式で、奴の領域に入ってしまえば触れずともソレが出来てしまう。
宿儺の器である虎杖と似たような境遇の以外、つまり七海だけを領域に引き入れ、殺そうとしていた。
それを阻止したのは虎杖とだ。と言ってもツギハギの領域へ入っただけ。
そんなデメリットにも思える行動をしたのは、に一つの仮説があったからだ。
奴が本当に魂へ触れる事が出来るなら、宿儺とダイアナの魂がある二人が入ったらどうなるのか。
特級だろうとツギハギ呪霊は宿儺、そしてダイアナの足元にも及ばない。

なら一か八かで触れさせてみようか―――。はそう思ってツギハギの領域へ飛び込んだ。
この場に五条がいたら、きっと叱られただろうが、結果はの考えが当たっていた。
二人が領域に入った事で、ツギハギは宿儺とダイアナに触れる事になり、二人の怒りにも触れてしまったのだ。
突如、切り裂かれた姿を見れば、宿儺が先に攻撃をしかけたんだろう、とは思った。
そしてツギハギが倒れた瞬間、領域も解け、七海は死なずに済んだ。
領域を展開すれば大量の呪力を消費する。ツギハギには戦える力など残っていないはずだった。
なのに最後の力を振り絞ったツギハギの呪霊は、己の肉体の形を小さく軟体に変え、排水口へまんまと逃げ延びたのだ。
囮として出したであろう、ツギハギの姿形を持った風船人形に気を取られてしまったのが致命的だった。
五条が居れば、きっと六眼が本物の動きを捉えられたはずだ、と思うと、それも悔やまれた。
知能の持った特級など、サッサと祓っておいた方がいいに決まってるのだ。

(あのツギハギ…次会ったら覚えてろ…)

は仏頂面で唇を尖らせると、後の事を伊地知に頼んで学校を後にしようとした。

「どこへ行くんです?さん」

門を出たところで七海に声をかけられ、はギクっとして足を止めたが、すぐに空中へと浮かんだ。

「どーせ帰っても正道の説教が始まるだけだし、私はこのままドロンしまーす」

と言いながら人先指と中指を立てて、忍術風の印を結ぶ。
その言葉を受けて七海は呆れたように目を細めた。

「いつから忍者に転職したんです?というか古いでしょ、それ」
「世間の新しいも古いも関係ないの。私が知った瞬間から私に取ったら新ネタなんだから」
「どういう理屈ですか。そしてどこへ行く気です?」
「今日は東京に泊る。明日もこっちで私個人の任務もあるし」
「そうですか…。ではまあ仕方ないですね。夜蛾学長には私から説明しておきます」

意外にもアッサリ引いてくれた七海に、は珍しいと思いつつも、助かったと…ホっとした。

「一応、さんにも助けてもらった身ですので、今日のところは私が後始末もしておきますよ」
「助けたのは宿儺でしょ?ダイアナはツギハギ見て触るなだのキモいだのと暴言吐いてただけっぽいし」
「それでも私はこうして生きているんですから感謝くらいしますよ」

苦笑気味に言った七海に、も苦笑いを浮かべる。

「七海くん」

校舎の方へ歩いて行く七海を呼び止めると「まだ何か?」と振り向いた。

「悠仁を…頼むね」
「………」
「吉野って子を救えなかった事が思った以上に大きな傷になってるから…」
「アナタの教え子です。さんが励ませばいいでしょう」
「私じゃダメなのよ」
「…何故?」

七海は訝しげに眉を寄せ、宙に浮かんだままのを見上げる。
はなるべく明るい笑顔を見せた。

「こういう時は…七海くんみたいなちゃんとした大人がちゃんとした言葉で話してあげた方が、悠仁の心に響く」
「…さんは自分がちゃんとしてないと自覚してるんですか?」
「どうせ私は子供が大人になったようなものなんで。七海くんだってそう思ってるくせに」

ふいっと顔を反らすを見て、七海は少しばかり驚いた。
は黙って、伊地知と話している虎杖を見ている。
友達と呼ぶほど親しかったわけでもない吉野を救えなかった事、目の前で改造されてしまった事、呪術界に足を踏み入れたばかりの虎杖には少々キツイ事案だっただろう。
心に傷が出来てしまった事は容易に想像出来る。
はそんな虎杖の事が心配なのだろう。彼を見る目がそう言っているような気がした。
とは学生の頃からの付き合いではあるが、七海に対してこんな表情を見せた事がない。

「…じゃあね」

ふと我に返ったは七海に一言だけ言ってその場を去ろうとした。
その時「さん」と今度は七海から呼び止められる。

「…虎杖くんの事は…任せて下さい」
「ありがとう…」

七海のその言葉を聞いて、今度こそ安心したようには微笑んだ。








2013年12月7日当日―――。



"じゃあ来たる12月7日、予定を空けておいて下さい。さん"

と五条に言われた日から五日後---。
急な出張が入り、はその日北海道中南部にある室蘭市に来ていた。
昨日の昼頃、夜蛾から「この季節そうそうないんだが特級案件だ」と呼び出され、徐に北海道行きのチケットを渡された。

「室蘭…?どこ?」
「北海道のこの位置にある街だ。まあ向こうに着いたら何度か乗り換えで行く事になる。まあ日帰りは厳しいから一泊する事になるな」
「え、明日?」
「ああ。今からじゃ向こうに着くのは夜遅くになってしまうし、明日の朝一で向かってくれ」

はそのチケットの日付を見てしばし考えた。
12月7日―――?
そして脳内で理解した時、夜蛾のネームプレートが勢いよく弾むくらいに机をドンっと叩いていた。

「…ムリ!ムリムリムリ!この日はダメ!」
「ん?何でだ」

何で、と訊かれてもにその理由は答えられない。
言ってしまえば五条との事がバレてしまう。
12月7日は五条の誕生日であり、その夜に初めて彼に抱かれる決心をつけたなどとは口が裂けても言えない。

「ちょ、ちょっと人と約束が…」
「約束…?そうか…なら仕方ないな…」

意外にも夜蛾がすんなり引き下がってくれたのを見て、は内心ホっとした。
恋人同士になってから初めて五条の誕生日を祝うのだから、そこはも色々と準備をしておきたい。
だが、夜蛾は困った様子で「じゃあ…悟に割り振るか…」と言い出した。

「は?悟…?」
「仕方ないだろ?オマエがダメなら悟しか頼める奴はいない。これは特級案件なんだから」
「や、で、でも正道!それはちょっと…」

自分が任務から外されたところで肝心の五条がその日にいなければ始まらない。
夜蛾はに渡したチケットを再び自分の手に戻すと、五条のスケジュールを調べ始めた。

「正道…悟も出来ればその日は…」
「ん?ああ、そうだった!悟はこの日、別の任務を振ったんだったな…」
「え?」

悔しそうに呟く夜蛾を見て、はパソコンに表示されている五条のスケジュール表を覗き込んだ。
すると7日の五条の任務は場所が千葉県となっている。
という事は任務が終わればすぐに東京へと戻って来れるはずだ。少しホっとする。
だがこの時のは忘れていた。五条が行けないのなら当然この任務は―――。

「あー。やっぱり、オマエが北海道に行ってくれ」
「ちょ…だ、だから私は用事が…」
「ん?人命より大事な用があるのか?」
「…う…」
「この呪霊は今日だけで10人もの人間を殺している。本当なら今すぐにでも行って欲しいが何せ場所が場所だけに時間もかかるし―――」
「今日行く!今日行って明日には帰って来る。それでいいでしょ?!」

再び机をドンと叩き、夜蛾の手から飛行機のチケットを奪い取る。
今から現地に行って夜中だろうが、着いたら速攻で祓って、7日の夜までに戻ってくれば何とか間に合う。
そういう計算を素早くすると、は学長室を飛び出したのだった。なのに―――。

「はあ…どこにいんのよ、その呪霊…」

昨日、昼過ぎに北海道まで飛び、新千歳空港の駅からJR快速に乗り、札幌駅から特急に乗り換え、室蘭に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。
その足で呪霊の被害があった港まで来たものの、何故か姿を現さず、一晩中その人気のない港近辺を探し回ったが無駄足に終わり、雪が降って来た事で朝、だけ一度街中に戻って来たのだ。

「つ、疲れた…お腹空いた…寒い…」

寝ないで捜索していたは駅近辺の商店街を歩きながら、朝早くでもどうにか入れるファミレスを見つけて、そこへ飛び込んだ。
とりあえず暖かいコーヒーを頼み、食事はハンバーグやオムライスなど数点頼むと、ホっと息をつく。
ケータイを見れば、そこには五条からのメッセージが何通か届いていた。

"もう祓えた?"
"今日中に帰って来れそう?"

はガックリ項垂れつつ、まだ肝心の呪霊が現れないとだけ返信しておく。
夜蛾の話では港から出るフェリーを襲うらしいのだが、夕べは運休という事もあり何事もなく、静かなものだった。
補助監督の安田は「さんの禍々しいオーラを感じて隠れたのでは」と話していた。
特級呪霊と言っても色々だが、知恵の付けた狡賢い呪霊ならば、敵が強いと分かると姿を隠すのもたまにいるらしい。
が、こっちは急いでるのだから、そんなに消極的になられても困ってしまう。

「はぁ…六眼だったら隠れられても見つけられるんだろうなぁ…」

五条と任務を交換したら良かったかもしれないと思いつつ、は運ばれて来た料理をペロリと平らげ、すぐに安田の待つ港へ戻った。
フェリーターミナルに入ると、広いロビーは相変わらず閑散としている。
人が10人も死ぬような事件があった影響で運休になっているので当然と言えば当然だ。

「安田さん、何か変わった事は?」

ロビー内で見張っていた安田に声をかけると「いえ、静かなもんですね」と肩を竦めた。

「ちょっと外、見て来る」
「ああ、僕も行きます」

暇だったのか安田はその手にこの街のパンフレットのようなものを持っている。

「あの駅から見えた測量山は渡り鳥の中継地らしくて200種類もの野鳥が観測されてるみたいですよー。ハヤブサの繁殖地になってるって凄くないですか?」
「……その情報、必要?」
「い、いえ…すみません。暇だったもので…」

に冷ややかな視線を向けられ、安田は恐縮したように頭を掻いた。
一刻も早く祓い終えて東京に戻りたいにとって、この待ちの時間がとても苦痛で機嫌も悪くなる一方だ。

「はあ…潮風は気持ちいいな…寒いけど…」
「冬の海っていいですよね。北国で冬の海って何かアレですけど」

安田は笑いながら再びパンフレットを眺めている。

「あ!室蘭近海ではイルカやクジラに出会える機会もあるらしいですよー!船でイルカウォッチングも出来るみたいです!さん帰る前に乗ってきたらどうです?」

と、またも安田がテンション高めに教えてくれたが、今は真冬。
この季節の北海道なら普通に雪は降っているわ寒いわで、にとったら船で海を眺めるどころの話ではない。
そもそもこんな大雪の中で女が一人、船に乗って海を眺めていたら確実に石川さゆりだ。演歌の世界だ。
失恋した女は何故か北国に一人旅をすると相場が決まっているらしい、この日本でそんな事をすれば最悪身投げするのではと心配されて保護されるかもしれない。
そもそも私は失恋なんてしていないのだから、変な誤解をされたくもない。
いや、何ならいっそ失恋して一人旅をしている可哀そうな女を演じて、本当に身投げすると勘違いされるかやってみようか。
冬の海を見ながら石川さゆりを歌えば、それらしくなるはずだ。
そう安田に訴えたの頭に、先日懐メロ特集という番組で聴いた曲が頭に浮かぶ。

「あなた、変りは、ないです~か~。日ごと寒~さが募り~ます~。着ては~もらえぬ~セーターを―――」
「それ、都はるみさんですね」
「………」

口ずさんでいるうちに興が乗ってきたが演歌を熱唱していると、安田が恐縮そうに呟いた。
一番いいところで邪魔をされ、がジロリと睨めば、安田は更に首を窄めて「すみません…」と謝って来る。
一睡もしないで呪霊探しをしていた事でおかしなテンションになっているに逆らうのは安田にとって一番恐ろしい。

「あーもう…いつになったら出て来るわけ?!」

雪の舞う波の荒れた海に向かってが叫んでいると、安田がおずおずと口を開いた。

「…いや、僕思ったんですけど…」
「イルカウォッチングなら行かないわよ?演歌も歌わない」
「い、いえ…そうじゃなくて…。その呪霊はフェリーを襲ったんですよね?」
「そうみたいね」
「でもそのせいで今は運休になってますよね。もしかしたらフェリーが関係してるんじゃ…」

その安田の言葉ではハッとした。

「そうか…そうかも!安田さん、Thanks!」

呪霊が出現する際、一定の法則が関係して来る事があるのをは忘れていた。
すぐにフェリーターミナルへ戻り、フェリー会社の上の人間と話をつける。
最初は渋っていたが、このままでは祓えず帰る事になると言えば、それは困ると言われ、渋々フェリーを出港させる許可を出してくれた。
それでも危険なのは変わりないので、フェリーを操縦するスタッフとそのスタッフを補助する安田のみ乗せて、他はだけが乗り込む。

「Come on, let's go!」

フェリーの船首付近に立ち、は船長気分で声を上げた。
最悪この船が海の藻屑となるかもしれないが、この際サッサと終わるならそれくらいの弁償など安いものだ。

「今日中に絶対帰ってやるんだから―――さむっ!」

鼻息荒く意気込んだものの、吹き付けて来る北風と大雪に、は両腕で自分の体を抱きしめながら慌てて船内へと逃げ込んだ。
あげく冬の海は荒れる為、ふわふわと足元が揺れる気がして来る。

「船酔いしそう…早く出て来てくれないかなあ…」

そしてターミナルを出港して20分は経過した頃、ドォンという衝撃と共に船体が激しく揺れ始めた。

「…来たわね!」

すぐさま甲板に出て辺りを見渡す。呪霊特有の呪力は船体の下あたりから感じる。

「え、下?」

慌てて身を乗り出して下を覗くと、巨大な坊主頭の呪霊が海水から顔を出し、船体を大きな手で揺らしているのが見えた。

「な…何よ、こいつ…!」

頭の大きさだけで見れば5メートル以上はありそうだ。
口元は海に浸かっていて見えないが、ぎょろりとした大きな目が不気味にキョロキョロと動いている。

「こ、これは…海坊主じゃないですかっ?」

甲板に顔を出した安田が、その呪霊を見て青ざめた。

「海坊主ぅ?!何よ、それ」
「に、日本の妖怪です!海に棲む坊主頭の巨人で船を襲うとされてます!"海小僧"とか"海入道"などとも言われてて全国各地の沿岸部に伝承が―――」
「分かった分かった!まーた妖怪の類ね?通りで襲われた人が姿を見てないはずだわ…」

何かに襲われ人が亡くなったとは報告書にもあったが、生き残った人でも誰ひとりその姿を見た者はいなかったとある。
きっと姿を見る前に海へ引き込まれたのかもしれない。

「じゃあ、とっとと祓って帰るわよっ安田さん!」
「お、お願いします!」

北風と雪が吹き荒れる中、は空中に浮かぶと、その海坊主なる呪霊に向けて早速大きな攻撃をしかけた―――。







「えぇぇ?!帰れない?!」

は驚愕の声を上げると、その場でフリーズした。
無理を行って出港させたフェリーを沈めることなく海坊主を祓ったは、これで帰れる!と事後処理を済ませた後ですぐに駅へ向かった。
だが大雪のせいで電車も止まり、例え動いたとしてもノロノロ運行となり、千歳空港に着くまでに物凄い時間がかかると言われた。
ついでに例え空港へ着いたとしても、この悪天候の中で飛行機が飛ぶかどうかも怪しいという。

「う、嘘でしょ…」

安田の説明を聞いて、は顔面蒼白になった。
せっかく任務も無事に終えて東京へ帰れると思ったのに、まさかの仕打ち。
恋人の誕生日にこんなところで足止めを食うとは思わない。

「この雪だし今日はここに泊った方がいいよ」

駅員にまでそんな事を言われ、はガックリと肩を落とした。
その姿を見た安田は「だ、大丈夫です…か?」と恐々声をかける。
ただでさえ不機嫌でおかしなテンションだったのだ。これ以上機嫌が悪くなれば安田もとばっちりを受けかねないと思った。

「え、えっと僕、とりあえず泊れるとこを探しますね。さん寝てなくて疲れてるでしょう」
「…疲れてる。体も冷え切ってるし、お腹も空いたし、眠たいし…。でもそれ以上に帰りたい…」

あまりにショックだったのか、はその場にしゃがみ込み、深い溜息をついて項垂れている。
てっきり怒鳴られるかと思っていた安田は落ち込んだ様子のを見て「と、とにかく休めるホテルを探しますね?」と言って構内にある案内所へ走って行った。

「はあ…どうしよう…」

一人になったはケータイを取り出し、また溜息を吐く。
せっかく約束したのに、と泣きそうになった。

「悟に連絡しなきゃ…」

待合室のベンチに座り、メッセージアプリを開く。
せっかくの誕生日デートをこんな形で断らなければいけないのは、も心苦しかった。

「まだ、おめでとうも言ってないのに…」

夕べ五条とは少しだけ電話をしたが、お祝いの言葉は電話ではなく直接言われたいと五条が言い出したので言わなかったのだ。
ふと時計を見れば午後の3時過ぎ。
呪霊を祓った後、フェリーを返したり、報告をしたり、何だかんだと後始末をしていたらこんな時間になっていた。
五条はとっくに任務を終えているだろう。

「ごめんね、悟…」

メッセージアプリを開きながら、ふとそんな言葉が零れ落ちる。その瞬間―――。

「なーに落ち込んでんの?」
「………ッ?」

聞き覚えのある声に驚き、がばっと顔を上げると、目の前には見慣れたスラリとした長身、そしてサングラスをかけた白髪頭の男性が立っていた。

「さ…悟…?」

ここにいるはずのない恋人が口元に笑みを浮かべながら立っている。
白昼夢?とは何どか目を擦って瞬きをしてから、もう一度目の前の人物を確認した。
黒のロングコートを羽織り、首元には暖かそうなマフラーが巻かれている。
その普段はあまり見慣れない恰好を見て、本当に本物なのかと言いたげには眉間を寄せた。

「何だよ、白昼夢でも見てるような顔しちゃって。もう僕の顔忘れた?」
「…な…何で?!何で悟がここにいるの…?」
「何でって…誕生日にと一緒にいられないのも嫌だなって思ってさ。さっきまだ呪霊が出てこないってメッセージくれたろ。こりゃまずいなーと感じて」
「…え…で、でもあれは朝方…」
「だから任務を秒で終わらせてすぐに空港に向かったの。まだその時は天候もマシだったから飛行機も飛んでたしね」

五条はそう言って笑うと、の隣へ腰を掛けた。

「んで、駅弁食べながらのんびり電車に乗って来た」
「で、でも雪が…電車動いてたの?」
「ああ、電車も僕が乗って来たのを最後に止まったみたいだな。何かアナウンス流れてたし」

これで分かってくれた?と未だ放心しているに、五条が微笑む。
今の説明を何度か頭で反芻し、どうにか理解したの瞳にぶわっと涙が浮かぶ。

「悟…!!」

がばっと抱きつき「…会いたかった」と呟くと、五条も嬉しそうにを抱きしめ「僕も会いたかった」と返す。
もう今日は会えないと思っていたは、心の底から感動していた。
疲れ切った体をこうして抱きしめてもらえるだけで、全身の力が抜けていく気がする。
そこへ安田が戻って来た。
てっきりが疲れ切った様子で待っているだろうと思っていた安田は、待合室で見た事のある白髪男性がを抱きしめている光景にギョっとして足を止めた。

「え?ご…五条さん?!」
「おー安田ぁーお疲れサマンサー」

を抱きしめながら、五条が笑顔で片手を上げると、安田もと同じように何度も目を擦っている。

「白昼夢じゃないからね?」
「え、な、何で!!」
「あー説明は後でい?それより…が疲れてるみたいだから休ませてあげたいんだけど」
「あ、そ、そうでした!やはりこの天候でどこのホテルも満室らしいんですけど、困っていたらタクシーの運転手さんが知り合いのホテルに案内してくれると言ってて」
「マジ?じゃあそこに行こう。―――、歩ける?」

未だぎゅっとしがみついているに声をかけると小さく頷くのが分かった。
そしてゆっくり離れると、目に浮かんだ涙を拭う。
五条はの手を繋ぐと、未だ訝しげな顔で二人を見ている安田に「そのタクシーの人どこ?」と尋ねた。

「あ、こ、こっちです…!」

安田はすぐに駅前にあるタクシー乗り場へ走っていく。
その後を追いながら、五条はの顔を覗き込んだ。

「だいぶ疲れてるね~。大丈夫?」
「うん…夕べから呪霊探してて寝てないの」
「ったく無理したらダメだろ」
「だって…悟の誕生日に帰りたくて…」

のその一言で五条もふっと笑みを浮かべた。
自分の為に無理をしてくれたのは心配だが嬉しくもある。

「今夜は僕がたーっぷり甘えさせてあげる」
「え…でも主賓なのに…あ!私、プレゼントもマンションに置いたままだ…」
「それは帰ってからでいいよ。僕的にはがいてくれるだけでいいし」

五条の言葉を聞いて、の頬が赤くなる。
そこへ安田が「こっちです!」と手を振っていた。
そこで知り合いのホテルまで案内してくれるというタクシーに乗り込み、走ること10分。
商店街のあった場所から何故か山の方へ車を走らせ、右へ左へと曲がりながら山道を上がっていく。
どんどん建物などが減っていき、本当にこんな場所にホテルがあるのか?と五条が疑問に思い始めた時、不意にギラギラした看板が掲げられている古そうな建物が現れ、タクシーはその前で静かに停車した。

「ここです」
「こ…ここ…ですか?」

安田が顔を引きつらせながら訪ねる。
すると建物から年配の女性が出て来て「おータツさん、この人達かい?」とニコニコしながら歩いて来た。

「ああ、彼女は松本さん。このホテルのオーナーなんだ」
「どうもー。町のホテルは満杯なんでしょう?うちで良ければどうぞー」

車を降りた3人に気さくに声をかけた松本という女性は「あら、アナタ男前ね~!彼女も美人さん!二人してサングラスしてるし…芸能人?」と驚いている。
そして安田を見ると「アナタは…マネージャーさんかな?」と首を傾げるから、安田の顏も引きつっていく。

「い、いえ…えっと松本さん…泊めてくれるのは有難いんですけど…このホテルはアレですよね…いわゆる…」
「ああ、ウチはラブホテルなのよー。ま、でも野宿よりマシでしょ?」

と松本はケラケラと笑っている。
それには五条も苦笑したが、はキョトンとした顔で「ラブ…ホテル…?」と首を傾げた。
海外ではあまりこういった特殊なホテルがないため、はその意味が分からないようだ。

「ま、説明は後。今はお言葉に甘えよう。雪も強くなって来たし」

五条の言葉に安田も仕方ないですね、と苦笑しながら松本の案内でホテルの中へ入って行く。
はタツと呼ばれていた運転手にお礼を言って、皆の後に続いた。

「うわぁ、何かフロントからしてカラフルでキラキラしてるホテルだね」

ラブホテルの事を知らないの素直な言葉に笑いを噛み殺しつつ、五条と安田は松本という女性に部屋まで案内してもらう。
そこまで大きなホテルでもなく、一階しかない建物なので部屋は全て横並びだった。

「えーと、どういう部屋割りがいいですか?一人ずつ部屋を使ってもらってもいいし好きな部屋を選んで下さいね」
「あ…では私はあちらの部屋を…」

と、安田が一番右奥の部屋を指さした。
それを見て、五条は反対側の部屋に決めると、はその隣の部屋を選ぶ。
安田の手前、同じ部屋に泊るとは言えない。

「じゃあ好きに寛いで。ああ、何か食べるなら部屋の電話で行って下さいね。私はフロントにいますんで。どうせこの雪だからアナタ達以外、誰も来ないだろうしね」

松本という女性はそれぞれの部屋の鍵を3人に渡すと、のんびり廊下を戻って行った。

「あ、じゃあ…僕は学長に報告の電話を入れるんでこの辺で」
「ああ、お疲れさん」

五条が手を振ると、安田はふと足を止めて振り向いた。

「そう言えば…五条さんどうしてここへ?」

いきなり五条がいて驚いた安田は気になってた事を尋ねた。
五条は今日、千葉で任務だったはずだ。
なのに何故北海道くんだりまで来たのか、安田はサッパリ分からなかった。
それに先ほどはとも抱き合っていた。
と五条の仲がいいのは昔から知っているが、それだけでここまで来るのか?という疑問も残る。

「ああ、朝にからメッセージが来て手こずってるって言うから加勢に来たの。任務も終わって暇だったし」
「はあ…そうですか。なのにこんな天気で災難でしたね」
「ま、たまにはいいでしょ。こういうのも」

そう言って笑う五条を見て、安田も「そう、ですね」と適当に相槌を打っておく。
昔から五条は何を考えているのか分からないとこがあるのだ。
今回も暇だったから、というくらいだし観光気分で来ただけかもしれない、と納得する。

「ではさんもお疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」
「うん。安田さんもね。ごめんね、徹夜に付き合わせちゃって」
「いえ。その分今夜はグッスリ寝るんで」

安田は苦笑しながら自分の選んだ部屋へ入って行く。
それを見届けてから、五条はの手を引いて左端の自分が選んだ部屋へ入って行った。

「え、何この部屋…壁全体がピンク…」
「まあ、こういうとこなんだよ、ここは」
「え?…あ!何、これ!ベッドが丸い!」

は室内を見て驚いたのか、大きなベッドに上がり、楽しそうに見渡している。

「嘘、何で壁が鏡なの?このベッドにたくさん並んでるボタンは何…?って、うわ!う、動いた!」

があるボタンを押すとベッドがゆっくりと回りだし、五条は思わず吹き出した。

「ここはラブホテルって言って男女がエッチをする為だけに泊るホテルなんだよ」
「えぇ?!な、何ソレ…エッチ専用ホテル…ってこと?」
「まあ、そうかな。だから普通のホテルとは少し違う仕様なんだよ。って言ってもこのホテルは相当古いタイプみたいだけど」

五条がベッドに座ると、はドキっとしたように振り向く。

「さ、悟は…詳しいんだ。この手のホテル」
「え?ああ…まあ、そりゃ多少はね」
「誰かと…来た事あるとか?」
「それ、今訊く?」

苦笑気味に五条がを抱き寄せると「だって…」と不機嫌そうな瞳と視線がぶつかる。
とて昔の五条が色んな女性とデートをしていた事は薄々分かっていた。
家入が何度となく「今度はどんな女?」と聞いては「クズだねー」と揶揄していたのも聞いたことがある。
もその時は五条の恋人でもなく、ただの友達や仕事仲間として接していたし、自分にも彼氏がいたのだから、とやかくいう事もなかった。
でも今は違う。恋人であり初めてこんなに好きになった相手であり、初めて体を許してもいいと思えた相手だ。
その相手が違う女とこの手のホテルに行った事があるのを匂わすような言い方をされれば、やはりいい気分ではない。
だったら訊かなければいいのに、と思うのだが、そこはやはり気になってしまうのだ。

「せっかくと二人でいるのにそう言う話したくないんだけど…がどうしても聞きたいって言うなら――」
「う、嘘!やっぱ聞きたくない…」

慌てて首を振るに、五条もふと笑みを浮かべて、その体を抱き寄せた。
ぎゅっと腕の力を強めれば、も安心したように体を預ける。
今日は会えないと思っていたから余計に、五条の体温が嬉しく感じた。

、体が冷たい」
「…海の上にいたからかな」
「海の上?今回の呪霊って海にいたわけ?」
「うん…安田さんが海坊主じゃないかって」
「海坊主?!海坊主って…あの海坊主?丸い頭の…」
「ああ、うん。丸くてデカかった。でも最後は海の藻屑となって散りました」

が笑うと、五条も「ちょっと見たかったな、海坊主…」と苦笑する。
各地に妖怪伝説はたくさんあるが、確かに海坊主は青森など東北近郊の海での逸話が多い。
大方漁師などが、そう言った伝説に恐れを感じたものが呪霊となって現れたのかもしれない。

「どうせなら人魚とかがいいけどね。美人の」
「あ、それ浮気だからね」
「浮気って…呪霊の話でしょ」
「でもダメ」

そう言いながら不満げに見上げて来るに笑みを零すと、五条は顔を傾け、赤い唇を塞ぐ。
そのまま甘噛みしてから唇を離すと、の頬が薄っすらを赤くなった。

、お風呂に入っておいで。体が冷え切ってる」
「あ…うん。そうだね」
「あ、お腹空いてるならその間にさっきのおばちゃんに頼んでおくけど」

見ればベッドの棚にメニューが置いてある。
それを開くと軽食メニューが載っていた。

「えっと…焼きそばとチャーハンと…サンドイッチに…たこ焼きにコーヒーも!」
「…組み合わせ」

ここでも本気の食欲を出すに笑いつつ、部屋の電話を取る。
だがバスルームに入り、中の電気を付けたが「何これ!」と叫んだのが聞こえて、五条はふと顔をそっちへ向けた。
すると何故かバスルームにいるの姿が五条のいるベッドの上からでも丸見えで「え」と一瞬固まった。

「そこもガラス張りかよ…」

バスルームと部屋の間にあるのは壁ではなくガラス窓。
これでは、こちらからも中が丸見えだった。

「これじゃ入りにくい…」
「あ、じゃあ待って。これかけよ」

五条はベッドから下りると自分のコートとのコートをハンガーに通し、そのガラス窓の前にかけた。
二つかけた事によってカーテン代わりになり、互いに見えなくなる。

「これでいい?」

バスルームを覗いて尋ねると、恥ずかしそうにしていたもやっと笑顔を見せてくれた。

「僕としては見えてた方がいいんだけど♡」
「な…何言ってんの…ダメだよ…」

抱かれてもいないのに先に素っ裸を見せるのは、いくらと言えど抵抗はある。
そんな気持ちを察したのか、五条は「はいはい」と笑いながら、不満げに尖っているの唇へちゅっとキスをした。

「早くあったまっておいで」

それだけ言うと、五条は部屋の方へと戻って行った。






浴槽にお湯は張ってあり、はたっぷりと時間をかけて体を温めた。
この寒い中、夕べから寝ないで呪霊探しをしていたせいで、言われた通り体の芯まで冷え切っていたのだ。
体と髪を洗った後でお湯に浸かると、最初は暑く感じたが次第にちょうどいい湯加減になってくる。

(はあ…気持ちいい…っていうか寝不足で目を瞑ったら寝ちゃいそう…)

そろそろ顔も火照って来たとこで、は湯から上がった。
だが、ふと部屋の方へ視線を向ける。
今はコートがかけられ、こちらからも五条は見えない。

(今夜…どうするんだろ…。約束はしたけど場所が場所なだけに…ちょっと落ち着かない)

それに近くには安田もいる。
完全にプライベートという感じではないこの状況で、初めてを経験するのは少し抵抗があった。
でも約束したし、どうしようと思っていると、「、ご飯来たよ」という五条の声がした。
急いで体を拭き、持ってきた新しい服を出して着替えると、バスルームを出る。
室内には焼きそばのいい匂いが漂っていた。

「あぁーお腹空いたー」
「相変わらずは色気より食い気だな」

五条が笑いながらの腕を引っ張る。
その勢いのままベッドへ押し倒され、はドキっとして五条を見上げた。

「さ…悟…?」
、疲れてるみたいだからお腹いっぱいになったら寝ちゃいそうだし今のうちにキスさせて」
「た…確かに…ね、寝ちゃうかも…」

素直な言葉を口にしたに五条は僅かに笑うと、そっと唇を塞ぐ。
からは風呂上りのいい匂いと、フェロモンの甘い香りが交じり合い、五条の鼻腔を刺激して来る。

「ん…」

僅かに開いた唇の隙間から舌を侵入させれば、の鼻から甘い声が漏れる。
部屋の空気も相まって、少しずつその気になっていく体が、次第に火照っていくのが分かった。

「ん…さと…る」

ゆっくりと離れていく唇を、とろんとした目で追うに、五条は苦笑いを零した。

「…やっぱ寝そう」
「ね、寝ない…悟の誕生日なのに」
「そんなのはいーよ…が疲れてるならムリすることない。そもそもが想定外のこと起きてるんだし」
「でも…」
「僕がいいって言ってるでしょ」

の額にキスを落とすと、五条は彼女の腕を引っ張って起こした。
そのまま抱きしめながら「それに…」と耳元で呟く。

とはこういう場所で初めてのエッチしたくないかな」
「…え?」
「こんなこと思うの初めてでよくわかんねーけど…何となくそう思った」
「悟…」
「だから今はこうして一緒にいるだけでいい」

いつもの軽い調子ではなく、真剣な言葉を紡ぐ五条に、は「私も…」と頷いた。

「このやる気満々の部屋で一晩過ごすのはキツイもんがあるけど」
「え?」

苦笑気味に呟く五条に、が顔を上げると、目の前に小さな包みを出された。
それは男性用の避妊具で、ベッドの脇に並ぶコスメと一緒に籠に入って置いてあったものだ。
それに気づいたの頬が赤くなり、五条は笑いながらそれを籠に戻した。

「まあ、ここまで待ったんだから焦ってしたくないし我慢する」
「が、我慢って…」

恥ずかしそうに視線を反らすを見て、五条は小さく吹き出すと、赤くなった頬へちゅっと口付けた。

「帰ったら休みだから、東京のマンションで過ごそうか」
「…うん。誕生日やり直そうね」

五条の背中に腕を回して、そっと抱きしめながら呟く。
なかなか思い通りに関係を進めなくても、心配して北海道まで来てくれただけで、幸せだと思った。
こういう一つ一つの時間が、この先、二人の思い出になればいい。
思い出が増えていくのは、もう怖い事ではなく、幸せなことなのだと、は感じていた。