How to kill vampires-⑵.22



不老不死である"純血種のヴァンパイアを殺す方法"―――。

それを九十九由基に教えられた時、これまで五条が気になっていたものと見事に繋がり、それはより信憑性を持った。
ただ方法が分かったとはいえ、他の人間にとっては難しく、しかし六眼を持っている五条にとっては意外と簡単な方法だった。

「その子孫が言うには先祖のハンターも相当苦労したらしくてね。日中奴らが眠っている時に攻撃を仕掛けても一発でそこを突くのは無理だ。手間取ってる間に奴らが起きたりして、そのたび寝床を変えられ逃げられて…何回も死にかけたらしいけどね。何度目かで成功したらしい。」

「でも、五条悟。君なら一発でそれが出来るだろ?」と九十九は言った。
確かにそういう事ならその方法は五条にとって打ってつけの方法だ。
まるで最初からの願いを叶える為に、二人は出会ったのでは、と柄にもなく運命を感じるほどに。
五年前、五条は確かにそんな不確かなものを信じそうになったのだ。

純血種のヴァンパイアを殺す方法…
それは新月、通過自在の能力が消えるその時、"二つある心臓を同時に破壊すること"

九十九由基はそう五条に教えた。
一口に心臓と言っても同じ場所にあるのは一つだけ。
もう一つの核となる心臓はヴァンパイアの力で隠され、常に移動しているらしい。
それを同時に攻撃するなど普通なら不可能に近い。片方だけではすぐに再生してしまう。
と言って、では全身を一気に攻撃すればいいのではないかとも思うが、強靭なヴァンパイアの肉体を一気に消滅するほどの力を持った人間は早々いない。
特級術師にして六眼を持つ五条悟を除いては。

九十九の話を聞いた時、五条はいつか自分が見た"モノ"の事を思い出した。
がふざけて家入の煙草を口にした時だ。
あの時、ヴァンパイアにとって煙草は毒と同じ効果があったらしくの体に異変が起きた。
その時、のオーラが乱れ、普段は霞がかっていたぼんやりとした影を、五条の六眼が捉えた事があった。
あれがきっと"核"となるもう一つの心臓だろう、と五条は確信した。

元々と会った時から六眼で視て気にはなっていた。
明らかにダイアナが隠したがっているソレは、同じ場所に留まるのではなく常にの体内を移動していたからだ。
本物の心臓より遥かに小さく血液中を彷徨うソレは、五条のように六眼がない者からすれば、砂漠の中から一粒の砂を探し出さなければならないほどに難しい。
そして更に的確に心臓と同時に攻撃するのはもっと難しいに違いない。
でも、五条悟ならそれが出来る。

の恋人が五条くんで良かったよ」

と九十九は笑った。
何故、と尋ねた五条に、九十九は当然といった様子で、

「君はを愛してるんだろ?ならこの情報を悪いようにはしないと思ってね。だから話したんだ」

いつか、永遠に生き続けなければならない、と嘆いているの心の呪いを、五条くんが祓ってやってくれないか。

九十九はそう言い残して五条の前から去って行った。
それからは何度となく考える。に今すぐ教えるべきか、否か。
でもあれから五年経った今も、その答えは出ていない。
以前、家入にも話したが、死ぬ方法を知ったがその後どういう心情になるのかまでは、五条にだって分からない。
と言って、家入の言うように幸せを捨ててまで、すぐ死にたがるなどと五条も今は思っていない。
ただ何となく言いそびれたまま時が過ぎてしまっただけだ。
でも現在、高専関係者の中にスパイがいると分かった時から、何か予感めいたものがあったのかもしれない。
これまでにない、自分を取り巻く不穏な空気に、この先、何が起きても不思議じゃないと。
だからこそ乙骨には1、2年のこと、そして虎杖の事を頼んでおいた。
何となくそうした方がいいような予感がしたから。



4日前、アフリカ―――。


「でもどうしたんです?わざわざ忙しい五条先生がこんなとこまで。それも一人なんて珍しい。先生は?」

乙骨憂太は出会った頃より随分と明るい笑顔で五条を出迎えた。

は今回お留守番。今は僕に加えてまで日本離れちゃマズい気がして」
「マズいっって、どうしてですか?」
「ちょっと嫌な予感がしてさ。僕に何かあったら今の1、2年の事を憂太に頼みたくて。3年の秤はまぁ大丈夫っしょ」
「何かって……女性関係ですか?」

乙骨が不思議そうな、それでいて不安げな顔でそんな事を訪ねて来て、五条は一瞬呆気に取られた。

「……憂太も冗談言うようになったんだね」
「いや…五条先生に"何か"って想像つかなくて」
がいるのに女性関係で何かあるわけないでしょ。そもそも以外の子は視界に入らないの、僕」

しれっと応えた五条に、乙骨も頬を赤らめ、頭を掻きつつ苦笑した。

「で、ですよね…。良かった…。先生、元気ですか?」
は相変わらず可愛すぎて困ってる」
「いや、あ、あのそういう事を訊いてるわけじゃなくて…。あっ先生が可愛いのは分かってるんですけど…」
「もちろん元気だよ」

乙骨が困った様子なのを見て、五条は笑いを噛み殺しつつ応えた。
こう言えば乙骨が目に見えて困った顔をするのが楽しくて、からかっただけなのだ。

「ああ、それで特に1年の虎杖悠仁。あの子は憂太と同じで一度秘匿死刑が決まった身だ。注意を払ってもらえると助かる。それと―――」
「それと…?」
の事も」
「え…?」

まさか五条からの事まで任されるとは思わず、乙骨もさすがに驚いた。

先生…?」
「いや僕に何かあったらって事。万が一そうなったら…がどう動くのか僕も分からないから…憂太が傍にいてあげて。も憂太のこと可愛がってるし」

高専に連れて来られた時から、乙骨も五条との仲の良さは散々見せつけられているが、人見知りだった乙骨が唯一最初に心を開いたのがであり、今も仲がいい相手だった。

「そ、れは…全然いいんですけど、五条先生、本当に何か起こると思ってるんですか?」
「さあ…僕もそこまではハッキリ分かんない。ただ…最近おかしな事が続いてるしね。特級呪霊が徒党を組んでたり。だから嫌な予感がするって事くらいしか言えないんだけどさ」

五条の言葉に乙骨も少し心配になって来た。
そう言う嫌な予感は案外当たるものだ。

「分かりました…。その時は僕も皆の力になれるよう動きます」
「ありがとう、助かるよ」

五条はホっとしたように笑顔を見せると、不意に辺りをキョロキョロ見渡した。

「ところで…ミゲルは?」

ミゲルとは去年、五条の親友である夏油傑が百鬼夜行という未曽有のテロを引き起こした際、五条と戦った異人の男だ。
五条の鉄壁の術式を乱す効果のある不思議な呪力で編んだ武器を使っていたのだが、五条が気に入り、ミゲルを殺さず乙骨に預けている。
今も一緒に行動しているはずなのに、そのミゲルの姿が見えず、五条は首を傾げた。
すると乙骨は満面の笑みで、

「先生には会いたくないそうです」
「……………」

今度ミゲルに会ったらマジビンタの刑だな、と五条は心に誓った―――。


"嫌な予感"―――。
たったそれだけの理由でアフリカくんだりまで行き、乙骨に色んな事を頼んで来た。
そして京都高との交流会に、突如乱入してきた存在のせいで、その予感は一層、五条の中で強くなった。
一日目の団体戦、広大な敷地内に数体の呪霊が放たれ、生徒達が競い合いながらそれらを祓う段取りだった。
だが、教師たちが生徒を見守るモニター室内に呪霊を祓った事が分かるよう壁に貼った呪符が、一斉に赤く燃えたのを見た時、五条の中でまた一つ釈然としないものがこみ上げて来た。

「え…ゲーム終了?しかも全部赤色…」

すべて燃えてしまった呪符を見て、京都高生徒の引率である庵歌姫が、呆気に取られたように焦げた壁とモニターを交互に見ている。

「妙だな…。鴉達が何も視ていない」

冥冥も訝しそうに呟く。
五条は無言のままモニターを見つめていたが、ゆっくりと両手を合わせて今の状況を冷静に考えてみた。

「グレートティーチャー五条の生徒達が祓ったって言いたいところだけ、ど…」
「未登録の呪力でも札は赤く燃える…」

夜蛾学長もその事を示唆した。

「外部の人間…侵入者って事ですか」
「天元さまの結界が機能してないってこと?」

歌姫、冥冥ともに異常事態を想定しながら、それぞれ頭に浮かんだ事を口にした。
そこで京都高の楽巖寺学長が静かに口を開いた。

「外部であろうと内部であろうと不測の事態に変わりあるまい」

楽巖寺学長はこの交流会中、どさくさに紛れて再び虎杖を亡き者にしようと企んでいた。
虎杖を殺す為だけに自分が敷地内に放った準一級呪霊すら祓われた事を考え、侵入者がそれなりの手練れと確信する。
その時、夜蛾正道がゆっくりと重たい腰を上げた。

「俺は天元さまのところに。悟はと合流し、楽巖寺学長と学生の保護を。冥はここでエリア内の学生の位置を特定。悟たちに逐一報告してくれ」
「委細承知。賞与、期待してますよ?」

ニッコリと妖しい笑みを浮かべながら冥が頷く。彼女は昔から金にしか興味がない術師として有名だ。
言ってみれば金を積まれたら誰の依頼も引き受けてしまうので、五条にとっても注意しておきたい人物でもある。
五条は苦笑交じりに立ち上がると、後ろを振り返りパンパンっと軽快に手を叩いた。

「ほらお爺ちゃん、お散歩の時間ですよ!昼ご飯はさっき食べたでしょ!」
「…………(無視)」

犬猿の仲である楽巖寺学長に向けてそんな言葉を吐いたが、当然スルーされる。
歌姫だけが苦虫を潰したような顔で、楽巖寺学長にふざけた態度を取る五条を睨んでいた。

「……急ぎましょう」

五条に言いたいことは山ほどあれど、今は学生たちの安全の為、保護を優先しなくてはならない。
歌姫は楽巖寺学長、五条と共に、団体戦の行われている敷地へと急ぐ。

「ところで…ちゃんはどこに行ったの?さっき出てったようだけど…」

移動しながら歌姫は気になっていた事を五条に尋ねた。
団体戦が始まってすぐはも五条の隣にいてモニターで観戦していたのだが、途中退室したまま戻って来ていなかった。
その問いに五条は苦笑すると、

「そっちのお爺ちゃんが侮蔑的な視線を向け続けるからいたたまれなくなったんじゃない?可哀そうに…どこかで泣いてるかも」
「…あのね。それはアンタがちゃんにベタベタするから―――」
「あんなのベタベタの内に入んないよ。つーかはあれ。生徒達の戦いを見学しに行ったの」
「えぇ?まさか加勢しに行ったんじゃ…」
「まさか。そこまでは愚かじゃない。ただ生徒達がどれくらい成長したのか生で見たいんだって。あれで案外いい先生なんだ」

五条はまるで自分の事のように自慢げに彼女の事を語る。少なくとも歌姫にはそう見えた。

「…デレデレすんな。五条のクセに」
「歌姫、相変わらずだなぁ。そんなんじゃモテないよ?」
「ほっとけ!!」

変わらずヒステリックに怒鳴って来る歌姫に苦笑いを浮かべながら塀の上に飛び乗り走っていくと、突如空に"帳"が下り始めた。

「五条!"帳"が下りる前にアンタだけ先行け!」
「いや、無理」
「はあ?!」

五条は目の前で下りて行く"帳"を見て、その性能に気づいた。

(実質あの"帳"は完成してる。視覚効果より術式効果を優先してあるのか…上手いな)

五条はそのまま"帳"の折り切った場所まで行くと、ゆっくりとそれに手を伸ばした。

「ま、下りたところで破りゃいい話でしょ」

と言った瞬間、"帳"に触れた手がバチィッという音と共に弾かれる。

「……(何だ?この違和感)」

弾かれた自分の手を眺めながら五条が思案していると、歌姫に「ちょっと…!」と声をかけられた。

「何でアンタが弾かれて…私が入れんのよ」
「………」

それを見た瞬間、五条は下ろされた"帳"の本当の効果を理解し、ニヤリと笑みを浮かべた。

「なるほど。歌姫、お爺ちゃん。先に行って」
「…え?」」
「この"帳"。"五条悟"の侵入を拒む代わりに、その他"全ての者"が出入り可能な結界だ」
「「……ッ!!」」

歌姫と楽巖寺学長が僅かに息を呑む。

(確かにそれなら足し引きの辻褄は合う。でも特定の個人のみに作用する結界なんてよほど…)

「よほど腕の立つ術師がいる。しかもこちらの情報をある程度把握してるね」

五条はそう言いながら、先ほど歌姫に話したスパイの存在を改めて感じていた。
半信半疑だった歌姫もさすがにこの状況では五条の言っていた話に信憑性がある事を確信する。
高専関係者の中に呪詛師だけではなく、呪霊とも繋がっているスパイの存在がいる事を。

「ほら、行った行った!何が目的か知らないけど、一人でも死んだら僕らの負けだ」

五条の言葉に歌姫と楽巖寺学長が頷く。

「ああ、それと運のいい事にが"帳"の中にいるようだから、僕が行くまでは彼女に一番危険そうな生徒の所へ行ってもらって」
「分かった…」

歌姫は頷くと、ゆっくりと"帳"の中へ入って行く。
楽巖寺学長も何かを言いたそうにしていたが、そのまま歌姫の後に続いた。
大方"人外のおなごに手は借りん"とでも思ってるんだろう、と五条は苦笑する。
ある意味、乙骨よりも虎杖やの方が、より楽巖寺学長にとっては受け入れがたい存在らしい。
特にヴァンパイアという人ではない存在をその身に宿しているの事は、彼の理解の範疇を超えているのか、彼女を化け物としか思っていないのだ。
に対し、そういう態度を隠すことなく出してくる楽巖寺学長は、少なからず五条を苛立たせた。
誰でも愛する者を侮辱されれば腹が立つ。
だから余計に楽巖寺学長と顔を合わせると、五条も横柄な態度で接してしまうのだ。
何度か夜蛾に「せめて公の場ではきちんと応対しろ」と注意はされたが、虎杖の事も含め軽蔑している相手に敬意など払う気にすらなれなかった。

「さて、と…じゃあ始めますか」

五条は目の前の"帳"を見上げながら、軽く息をついた。






一方、はフィールドに散らばっている生徒達のところを順に回りながら、戦闘を見学していた。
本来なら教師は全員あのモニター室で観戦する決まりなのだが、後ろに座っている楽巖寺学長からの蔑むような視線に耐え切れなくなり、トイレに行くフリをしてこっそり抜け出してしまったのだ。
五条にはちゃんと断っては来たので、戻らなくても上手く誤魔化してくれているだろう、と思っていた。
それにやはり虎杖が生きているのを楽巖寺学長に知られた事は少し心配でもあった。
この交流会中、どさくさに紛れて何かを仕掛けてくるなんて事を平気でやるような人間だというのはも知っている。

「まずは悠仁がどこにいるか探すか…」

空中を飛びながら、は広大な森を見渡した。
すると呪力がぶつかり合っている大きな気配に気づき、そっちの方へ飛んでいく。

「あれは…野薔薇と西宮…だっけ?魔女宅に出て来そうな子」

二人は何かを言い合いながら戦っているようだ。
反対側では真希と以前、五条と2ショットを撮っていた三輪が呪具を使って戦っているのが見えた。

「うーん、女同士の戦い…こっちも楽しそうだなぁ」

ワクワクしながら見学していると、遠くの方でデカい呪力がぶつかるのを感じた。

「あ…これ葵か。誰と戦ってんだろ」

作戦は生徒達に任せている為、も繊細は知らない。
だが東堂葵と正面切って戦えるのは今回、身体能力の高い虎杖くらいだろうとは思っていた。
それとも二か月前、東堂にボコられていた伏黒がリベンジで迎え撃っているのか…。

「いや…恵の性格上、自分の感情優先では動かないか」

負けず嫌いではあるが、これは団体戦。
この状況で東堂を相手にするなら、きっと虎杖に任せるだろうと思った。
そしての勘は当たっていたようだ。
大きな呪力がぶつかり合う場所に来てみれば、そこには京都高3年、一級術師である東堂葵と虎杖が激しく拳を合わせている真っ最中だった。
それも二人はどこか楽しそうだ。

「へぇ…あの葵が久しぶりに笑いながら戦ってる…。さすが悠仁。アイツをその気にさせるなんて」

上から観戦しながら、は感心したように呟いた。
東堂葵の強さも化け物並みなのはもよく知っている。
去年の百鬼夜行では一級呪霊相手に術式すら使わなかったと聞いている。

「さすが由基の見つけた男なだけあるな…」

東京校、京都校合わせて今日来ている中で今のところ一番強いのは間違いなく東堂葵だ。
ここで特級術師に返り咲いた乙骨がいれば、その力の均衡も崩れてくるかもしれないが、海外出張中の乙骨は不在なのだから仕方ない。

「よーし悠仁、いけー!葵なんてぶっ飛ばせー!」

だんだん二人の戦いを見て白熱してきたは、空中からそんな声援を送りながら一人で盛り上がっていた。
その時、突然大きな呪力を校舎の方から感じた。

「え…?何あれ…」

遠くに見える校舎の辺りに、何故か枯れ木の塊が蛇のようにうねりながら動いているのが見える。
それはまるで誰かを追いかけてるような動きだった。

「まさか、嘘でしょ。ここ結界内なのに―――」

明らかにフィールド内に放たれた呪霊ではない。
あれは確実に―――。

「特級…そんなもんが何でここに…」

突如、高専の周りに"帳"が下りたのは、まさにそう呟いた時だった。

「"帳"…?この状況で知らないヤツが下ろしたって事は呪詛師がいる…」

五条が高専の中に呪詛師、そして呪霊と繋がっているヤツがいると話していた事を思い出し、はすぐに動いた。
あの特級呪霊が現れた時点で五条達もすでに動いているだろう。
まずは優先的に自分が向かうのは暴れている特級のいる場所だとは判断した。

「みんな…無事でいてよ…」

逸る気持ちを押さえながら、生徒の無事を祈りつつ、は一気にスピードを上げた。








「おぉぉー!相変わらずのえぐさ」

見えない質量が地形を大きく抉りながら削って行くのを、は空中から眺めていた。
五条の最大術式である虚式・茈。
規格外の攻撃範囲と威力は、いつ見ても圧倒的だ。
ただこれだけ地形が削られては祓えたかどうかすら分からない。

高専に侵入した妖精に近い呪霊はも一度遭遇していたが、不思議な術を使われ、その風貌は見ていなかった。
眼から木の枝のようなものを出しているその呪霊は草木をを操り、伏黒、狗巻、京都の加茂を最初に襲撃。
狗巻が呪言でどうにか足止めし、伏黒と加茂が戦闘したのち、加茂が負傷、狗巻も特級相手に数回ほど呪言を使ってしまった事で喉をやられた。
が駆けつけたのは途中で援護に入った真希が負傷した時だった。
真希とスイッチし、その呪霊と少しだけ戦ったが、これまで戦った特級よりも体が異様に硬く削るには更にパワーをあげなければならない。
だが近くには生徒達がいる事でどうしようかと考えていた時、そこに現れたのは東堂と虎杖だった。

先生、ソイツと戦わせて」

虎杖はそう頼んで来た。
東堂と戦っている内に成長したのか、呪力量が一気に上がっている。

「アイツに使ってみたい技があるんだ」

楽しげにそう話す虎杖を見て、は彼にその場を任すことにした。
東堂の術式は知らないが、虎杖もこの場で暴れてもの技のように周りに被害を出す事はないと判断し、傍で見守る事にする。
この二人、何故か戦いながら仲良くなったようで、虎杖と東堂のコンビネーションは抜群だった。
そして虎杖が言っていた技、黒閃は想像以上に特級を削って行く。
もうあと少し、という所まで追い込んでいたその時だった。突然"帳"が壊され、空中に五条が姿を見せた―――。

「これで一件落着~!」

親指を立て、明るく言い放った五条だったが、内心そういうわけにもいかないな、と冷静に考えていた。
突然の呪霊、呪詛師の高専襲撃。
五条が睨んだ通り確実に高専内にスパイがいる。

(歌姫に頼んでおいて正解だったな…)

内心そう思いながら、高みの見物をしていたを見上げる。

、下りておいで」
「…悟!」

五条を見つけたは笑顔で下りて来ると、その勢いのまま抱きついた。

「Aazing!nice MURASAKI!」

そう言いながら五条の頬にちゅっと口づけて来るに、五条も顔の筋肉が緩む。
だが後ろでそれを見ていた楽巖寺学長は口元を引きつらせると思い切り咳ばらいをした。

「あれ?学長、イガイガするなら龍角散ちゃんと飲んだ方がいいよー?」
「…ぐっクソガキめ…いらん口を利くな」
「それよりその呪詛師、早く手当てしてよ。聞きたい事あるから」
「わしに命令するな!小童が!」

楽巖寺学長は憤慨したように怒鳴ると、を一瞥してから校舎の方へ戻って行く。
その後ろ姿に「べぇー」っと舌を出すを見て、五条は苦笑いを浮かべた。

「それにしても、何であの独活の大木、葵と悠仁に任せたの」
「ああ、だって悠仁が俺達にやらせてくれって言うから。あ、そーだ!悠仁ね、黒閃決めてたんだよ!それも4回!」
「マジ…?去年、百鬼夜行で出した七海の記録と並んでんじゃん」
「ふふ…あの脱サラ眼鏡がどういう反応するか見ものだわ。悟と私の生徒が記録に並んで悔しがったアイツの眼鏡が曇る姿が頭に浮かぶ」

は黒い笑みを浮かべてそんな事を言っている。
同級生でもあり、普段から七海に問題児扱いされているとしては、何かしらいじる要素を見つけては七海をからかうのが楽しいようだ。

「で、ソイツが"帳"を下ろした呪詛師?」

はふと地面に転がっている無残な姿になった男を見下ろした。
その呪詛師はを見て「あぁぁ…ハンガーラックセットで作れるじゃねぇか」と何故かウットリしている。
両手両足は五条の術でねじ切れているのに、あくまで創作意欲を出している男を、五条は呆れながら見下ろした。

「オマエには尋問させてもらう」

そう言って伊地知に呪詛師を運ばせると、五条はふと真剣な顔でを見た。

、やっぱり情報を漏らしてる奴が高専にいる。歌姫にも探すよう言っておいたけど僕らの情報は筒抜けだと思うから一応気を付けておいて」
「…うん、分かった」

身内に呪詛師、呪霊と繋がっている者がいるのは、やはりいい気分はしない。
こちらは相手の事を何も知らないのに、相手は此方の情報をある程度知っているのだ。

「こんなに派手に動いて来るとは…何しに来たんだ…?」

五条を弾く"帳"を下ろし、わざわざ生徒達を襲う意味が分からない。
そもそも自分達から襲撃してきたわりに、五条が出張った途端に逃げ出したのだから更に謎が深まる。
あれは単なる時間稼ぎをしてたようにしか見えない。

「ああ、そうか…。もしかして…」
「ん?」
「あの呪霊やソイツ、時間稼ぎしてたのかもしれない」
「何の為に…?」

その問いは次の瞬間かかって来た夜蛾からの呼び出しで聞くことになった。
二級、準一級、補助監督、忌庫番など、11名ほどが被害にあったようだ。
それもその殺され方は―――。

「改造…されてた…?」

の脳裏にあのツギハギ呪霊の顏が浮かぶ。

「アイツ…」

怒りで震えるの肩を、五条はそっと抱き寄せた。
自分が不在だった間にあった里桜高校の件は詳しく訊いている。
虎杖が傷ついた事で、が憤りを感じている事も、気づいていた。
ツギハギは忌庫に忍びこみ、これまで集めた特級呪物宿儺の指6本全てと、同じく特級呪物の受胎九相図1~3番を盗んでいったようだ。
奴らの目的は何だ?と五条は考えた。

その答えは一か月後、知る事になる。

記録2018年10月31日、19:00

東急百貨店、東急東横店を中心に半径およそ400メートルの"帳"が降ろされた―――。




 


現在編は分かりやすく原作沿いで進めて来ましたが原作ではまだまだ先が分からない展開なので渋谷のとこも描かない予定です。