STORY.9 君の生きてる姿が好きだよ、と、言って、貴方は笑った。









『ノートに名前を書かれた人間は死ぬ』




最初に、それを知った時、"そんな物で人が殺せるか"と笑った覚えがある。
だが、調べていくうちに日本警察が隠し持っているノートの存在が明らかになり、
俺はどうしても、その殺人ノートを手に入れなくては、と思った。
キラに対抗するには、キラと同じ武器を手に入れなくては。
そう、必ず、ニアよりも先に、と。



俺が仕掛けたゲームに、日本警察は簡単に踊らされ、その殺人ノートを交換の手段にした。







「メロ、ほらノートだ」



ロッドが部下に運ばせた真っ黒なノート。


これが…このゲームの切り札。
やっと手に入れた。


最後のカードは切られ、俺はノートを手にした。


ニアよりも先に―――







「こんなもので…本当に殺せるとはな…」


ペラペラと捲りながら軽く舌打ちをする。
このノートの力は、手に入れた際に裏切り者を始末するので試して実証済みだ。
これに顔を知っている人間の名前を書くだけで、あれほど簡単に人を殺せるなら、キラにも相当、楽な作業だったろう。


「で、まずはどうする?メロ」
「そうだな…。手始めに…ニアが率いているSPKのメンバーを殺っとくか。スパイさせてた奴に写真と名前をもらってある」
「…まずは敵さんの戦力を奪うと言うわけか。よし、おい、ジャック!お前、そいつらの名前をこれに書け」
「え、お、俺がですか…」
「何だ…嫌なのか…?」
「だ、だってそれにはルールが…」
「ああ…"名前を書き込んだ人間は13日以内に次の名前を書かないと死ぬ"だったな…。だったら書いていけばいいじゃねぇか」


ロッドはそう言うと俺からノートを受け取り、ジャックに持たせた。


「どうせ、これを刻んだり焼いたりしたら、ノートに触れた者は全員死ぬんだ。もう怖いもんなんかねぇだろ?」
「……は、はい…」


ロッドの言葉に、ジャックは情けない顔で頷くと、渋々といった顔で、俺が差し出した数枚の写真を見た。


「その写真の裏に、映ってる奴の名前が書いてある」
「わ、分かりました」
「じゃあ、そっちでとっとと終わらせちまえ。SPKなんてウザったいだけだ」


ロッドがそう言うと、ジャックは後ろの椅子に座り、溜息をつきながら作業を始めた。


これでニアの部下は半分以上、いなくなるだろう…
少しは悔しがればいい。
自分より先に、俺にノートを奪われた事をな…


いつも無表情でパズルをやっていたニアの姿が頭に浮かぶ。
アイツはどういうやり方で、この事件のパズルを解いていくんだろう。


俺が送った信号は、お前に届いているか?ニア…






「ところでメロ…日本警察にいる今のL…誰だと思う?」


ロッドは葉巻を吹かしながら、ソファにその巨体を沈めた。


「…さあ、な。今回の件で思った以上にマヌケだったところを見ると…今までキラを捕まえられなかったのも頷けるが…夜神ではない誰かってとこだろ」
「じゃあアイツの部下か…?夜神は泳がせるんだったな。とりあえず…後で電話して聞きだしてみるか」
「ああ…二アの部下の始末が済んだら俺がかける。終わったら携帯を鳴らしてくれ」


そう言って立ち上がると、ロッドはニヤリと笑い、「彼女のとこに戻るのか?」と訊いてきた。
ああ、とだけ応えると、「まあ…ここんとこノートの件で動いてたし顔見てねぇんだったな。早く戻ってやれ」と苦笑いを浮かべている。


「…うるさい」


他の部下も笑い出したのを見て軽く睨みつけると、俺は早々に部屋を出て廊下を歩いて行った。


「ったく…」


からかわれた事への苛立ちで小さく舌打ちすると、チョコを思い切り噛み砕く。
利用するためだけに組織に入ったのに、どうも最近、馴れ合いが多い気がする。
ロッドも何だかんだと世話を焼いてくれるのは、の事を考えてだろうが、こんな関係に慣れていない俺としては少々居心地が悪い。


そう…どうせキラを殺した後には二度と会わない連中だ。
もアネットと仲がいいようだが、また少し忠告しとかないと…
少なからずアネットの仕事の事に関しては同情してるようだし、優しいの事だ。
ここを出て行く時にアネットも一緒に、なんて言い出しかねない。




「…チッ。女は面倒だ…」


「――それって誰の事?」


「―――ッ?」




階段を上がろうとした時、人の気配がしてハッと足を止めると――――


「…アネット…」


階段の踊り場からひょいっと顔を出したのは、たった今、頭の中に浮かんだ女だった。
こいつの部屋はこの上にはないから、また俺の部屋に行ってたんだろう。


「何してる…。またのところへ行ってきたのか?」
「そうだよ?さんがメロにバレちゃったって言ってたから言い訳しに来たんだけど…」
「別にいい。それよりお前…色々とバラしてくれたそうだな…」


先日聞いた事を思い出し、軽く睨むと、アネットは顔を引きつらせて一歩後ろへと下がった。


「…ごめん。まさか知らないとは思わなくて…」
「アイツはお前とは違う。あまり変な話はするな。まともに受け取る」
「私は嘘なんて言ってないもん…」


そう言って口を尖らすアネットに思い切り溜息が出る。


「もうこれ以上、に関わるな。いいか?」
「何よ、それ…。さんは、また来ていいって言ってくれてるもん」
「…アイツは優しいんだよ。だからこそお前に言ってるんだ。お前が行かなきゃいい話だろ」
「………」


階段を上がり、目の前に行くと、アネットは俺の言葉に明らかに不満げな顔をした。


「どうして私がさんと仲良くなったらいけないの…?」
「お前とは住む世界の違う人間だ」
「…そんなの分かってる!でも可哀想じゃない。毎日あんな風に部屋から出れないなんて…だから私が話し相手に――――」
「余計なお世話だ。これからは俺が傍にいる」


そう言って階段を上がりかけると、グイっと腕を掴まれた。


「放せ」
さん、心配してるよ?」
「…何?」


腕を振り払おうとした時、アネットが呟いた。
その言葉に振り向くと、アネットは責めるような目つきで俺を見上げている。


「メロが今してる事…彼女、何も知らないんだね」
「お前…!まさかに――――」
「言ってないよ…。メロが夜神の娘を浚った事は…。もちろん、それで手にした物、、、、、の事も」
「………」


アネットはそう言うと、そのまま俺に抱きついてきた。


「おい――――」
「私も…心配してるんだから…」
「…それこそ余計なお世話だ。お前はグレンの女だろう?アイツの心配でもしとけ」


抱きついているアネットを引き離すと、「二度と俺の部屋には近づくな」と言って階段を上がっていく。
後ろからは、「メロのバカ!大嫌い!」という声が飛んできて、アネットの足音が遠ざかっていった。


そう…それでいいんだ。
こんなヤツを好きになったって、応えてやる事はできない。
俺の心を占めているのは…今も昔もだけだから。




「…すまない、アネット…」




小さく零れた慣れない言葉に、ふと失笑が洩れ、俺はそのままの元へと歩き出した。












「あ、メロ!お帰りなさい」


ドアを開けた途端、ホっとしたような顔でが俺を出迎えてくれた。
何も知らないとはいえ、俺が動き出した事は感づいてるんだろうし、アネットが言ってたように心配してくれてるのかもしれない。


「時間出来たから、ちょっと様子見に来た」


そう言って目の前に来たを見下ろすと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔だけで疲れた心も癒される。


「お腹空いてない?何か作ろうか」
「いや、下で食ってきた。は…ああ、もう食べたのか」


テーブルの上に並んでいる皿を見てそう言うと、は気まずそうな顔で、「アネットに付き合ってもらって…」と呟く。
まあ一人で食べるのも寂しいだろうし、その事については文句も言えない。


「今、下で会った」
「そう…。何か…言ってた…?」
「いや別に。何でだ?」
「ううん…何でもない」


首を傾げると、はそう言って誤魔化すように笑った。
何となく気になり、「何だよ…」と彼女の腕を掴み、ソファへと座らせる。
そう言えば、と、そこでアネットの言葉を思い出した。


"さん、心配してるよ?"


最近、前のように傍にいれない事で、やはり何かを感じているんだろうか。



「どうした?」


少し困ったように俯くに、俺は身を屈めて顔を覗き込んだ。
で、俺を見ようとはせず、ますます下を向いて、


「何でもないってば…」
「嘘つけ。何だよ、言いたい事があるなら言えよ。気になるだろ…?」


そう言っての頬を両手で包んで顔を上げさせると、かすかに体がビクッと動き、こっちがドキっとした。


「な、何だよ…」
「…何でもない…」


少し照れたように視線を外すに、俺の方が照れてしまいそうで、軽く咳払いをした。
あまり意識すると何をしでかすか、自分でも分からない。
そう思って少しだけ体を離し、ソファに凭れかかった。
するとは思い切ったように顔を上げ、俺の方へ体を向けると真剣な目で見上げてくる。


「…やっぱり…ちょっと聞いてもいい?」
「何…?」


やっと言う気になったか、となるべく普通に聞き返す。
は膝の上でぎゅっと手を握り合わせると、小さく息を吐き出し、思い切ったように口を開いた。


「メロ…最近、忙しいみたいだけど…仲間の人たちと…何してるの…?」


そう言って心配そうに見つめてくるはいつもより真剣で、上手く誤魔化そうにも言葉が出てこない。
何て言おうか考えていると、は小さく息を吐き出した。


「…私にキラの事を話してくれないのは…気を遣ってるから…?」
「……」
「でも、だったら尚更訊きたいの…。メロが心配だから…」


の瞳は悲しげに揺れていて、彼女にそんな顔をさせてるのが自分だと思うと胸が苦しくなった。
昔の笑顔を取り戻して欲しいと願いながら、こんな状況に身を置かせてるのも俺で、その現実が更に気持ちを焦らせる。
早く、早くをこんな場所から連れ出し、日の当たる暮らしをさせてあげたいと思うから…手段も選ばず強引にノートを奪った。
でも、そのせいでに心配かけてる俺は、やっぱりLの代わりになんてなれないんだろうか。


「メロ…応えて…?お願いだから…」


俺の腕に縋りつきながら、瞳を揺らす彼女に軽い眩暈すら感じ、胸の痛みと共に鼓動が一気に加速する。
彼女が日本にいる時、きっとLと共に毎日一緒にいたであろう、夜神の娘を浚い、殺人ノートと交換したと言えば、彼女は何て言うんだろう。
それこそ俺を、軽蔑するんじゃないか、と恐怖にすら近い不安を感じてしまう。
それでも、実際ノートを手に入れた今となっては、何もかも隠して行動するのも、そろそろキツイかもしれない。


ならば…方法だけは隠して、ノートを手に入れたと話すべきか。
はキラの殺しの方法が、あの殺人ノートだという事は知ってるだろう。
あのノートは元々Lが死ぬ間際に、ヨツバのヒグチを追い詰めて手にしたノートだ。
だって知っていてもおかしくはない。


「メロ…?」


黙ったままの俺を不安げに見上げるに胸が痛んだ。

ノートの事を話せば、また思い出させてしまうだろうか。

Lの…最期の姿を――――





…実は――――」






プルルルルル…






「………ッ?」


覚悟を決め、口を開いた瞬間、俺の携帯が静かな部屋に響き渡り、がハッとした顔で腕を放す。
俺は、「ごめん」とだけ言って立ち上がると、そのままに背中を向け、通話ボタンを押した。


「何だ…。ああ、そうか。今すぐ戻る…」


それだけ言って電話を切った。
内容はニアの部下を殺ったというロッドからの報告。
そうとなれば、俺はこれからやらないといけない事がある。


軽く息をついて振り返ると、も気づいたのか、僅かに笑顔を見せてくれた。


「…また行かなくちゃいけないんでしょ?」
「ああ…。ごめん」
「ううん、いいよ。メロにはやるべき事があるんだから。でも…気をつけてね…」
「…分かった」


無理に笑顔を見せて立ち上がるに、ズキズキと痛みが増していく。
何も知らされなければ、誰だって不安になるに決まってるのに。
タイミングを逃した言葉は喉の奥で苦い固まりとなっていって、また彼女を不安にさせてるんじゃないか、と心配になった。


「じゃあ…下にいるから何かあれば携帯に――――」
「うん。分かってる」
「…じゃ…待ってなくていいから…早く寝ろよ?」
「…やだ。その台詞、昔は私がメロやニアに言ってたのに」


クスクス笑うに、軽く笑みを返し、申し訳なく思いながらもドアの方に歩いて行く。
きっとまた明日の朝まで戻っては来れないだろう。
本当なら、を一人ぼっちにはしたくないが、まさか目の前で夜神や大統領といった奴らに電話をかけるわけにもいかない。


軽く息をついてドアノブを回したその時、いきなり背中にトン…と何かが当たり、腰の辺りに細い腕が巻きついてきた。
それにはギョっとして、慌てて後ろを見ると、が俺の背中にぎゅっと抱きついている。


「な、何だよ…っ?」


の体から伝わってくる体温に、一気に顔の熱が上がった気がした。
今まで、の方からこんな風に抱きついてきた事は一度もない。


…?おい――――」
「…メロ…」
「…何だよ?どうした?」


なるべく普通に話そうと思うのに、背中から伝わる全ての感覚に神経がいって鼓動がうるさいくらいに早くなっていく。
このままだと抱きしめ返してしまいそうだ、と彼女の腕を放そうとした。
その時、の小さな声が、かすかに俺の耳に届いた。




「危ない事しないで…」


「…え?」


「一人で無茶な事しないで…」


「……」


「お願いだから―――死なないで…」




震えてる声、少しづつ強くなっていく腕の力。
それら全てにの思いを感じる。


「―――ッ」


たまらなくて…
気づけばの腕を掴んで正面から強く抱きしめていた。



「…メ、メロ……?」
「俺は…死なない…」
「……っ」
「だから…そんな顔すんなよ…心配で行けないだろ…?」
「…ん…うん…ごめ…ん」



俺の言葉には何度も頷いた。


震える手で、しがみ付いてくるが愛しくて、彼女の頬に触れるだけのキスを落とし、俺はそのまま部屋を出た。



限界だった。



自分の想いを殺す事が苦し過ぎて――――














メロが出て行ってから暫くの間、力が抜けてその場にへたり込んでいた。
ふと時計を見れば、あれから一時間は経っていて、慌てて夕食の後片付けにかかる。
それでも何度か手が止まり、ボーっとさっきの自分の行動を思い出しては顔が赤くなった。


何も話してくれないから、心配でたまらなかった。
メロまでがいなくなってしまったら、と思うと、息苦しくて胸が張り裂けそうになる。
さっきメロが出ていこうとした時。
メロの背中を見ていたら無償に怖くなって、どこか遠くへ行ってしまうような気がして。
だから、ついあんな事をしてしまった。


Lが夢に現れる時、最後は必ず私に背を向ける。
悲しくて、何度も彼の名前を呼ぶのに、その背中はどんどん離れて行って…手を伸ばしても決して届かない。
さっき、夢の中のLと、メロの背中が重なって見えたような気がして、本気で怖くなったのだ。


もう、大切な人の去っていく姿なんて、見たくない。


メロは…どう思ったんだろう…
凄く…驚いてたような気がする。


自分のした事を思い出し、改めて顔が赤くなった。
アネットからメロの気持ちは聞いたけど、それが本当なのかも分からないし、本人に何かを言われたわけじゃない。


(でも…)


そっと頬に触れてみると、水で濡れた手が冷んやりとしていて気持ちがいい。
それでも、体温が高いからか、すぐに手も火照りだし、小さく息をついた。


メロに…キスをされた頬が熱い。


窓を開けると、外から冷たい秋風が吹いて、火照った頬を冷やしていく。
空を見上げれば、青白く光る月。


"そんなに月が好きなら…いつかにプレゼントしますよ"


遠い昔、Lが私にしてくれた嘘のような約束。


"なんなら…月で結婚式でも挙げましょうか"


貴方がくれた、沢山の約束は、今でも私を苦しめる―――







「ねぇ…L…。貴方以外の人を――――好きになってもいい?」






ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……貴方の隣にいたかった。


でも私は"そこ"には行けないから……






「―――――ごめんね、L…」






そう言って月を見上げると、遠くに見えている星が一瞬、光ったように見えた。














君の生きてる姿が好きだよ、と言って貴方は笑った。






 













 


ああぁ;;;またしても進めようと思ったのに途中で長くなりそうだ、と断念_| ̄|○;;
やっとこヒロインが新しい恋に向かって歩き始めました…かな?(オイ)


投票処にいつもコメントありがとう御座います(●´人`●)


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●この作品とともに私自身の傷(Lが死んだという)が癒されていくのがわかります。Lももちろんですが、今ではメロも大好きです。
(ありがとう御座います!そんな癒されてくだなんて!、ホントに感激ですよ〜♡私もLの次にメロが好きです(* ̄m ̄))


●ヒロインの感情や気持ちがすごい伝わってくる夢小説だと思いました。大好き!
(ひゃーヒロインの感情とか気持ちとかが伝わってくるだなんて;;凄く嬉しいです!(>д<)/)


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TITLE:群青三メートル手前