STORY.10 行き着く先が終わりでも














「断れば、あんたは歴史上、最悪の大統領として名を残す。選択の余地はない…」





俺の言葉に、受話器の向こうにいる人物は僅かに息を呑んだ。









数時間後、衛星カメラの映像が見られるようになり、武器や資金も部下の手でアジトへと運ばれてきた。


「これだけありゃ当面は楽に過ごせるな」
「SPKの奴ら、まだ2年前までのアジトを見張ってやがる」
「こっちはもう更に次の場所に移ろうとしてるのにな」


ジャックや他の部下が衛星カメラを見張りながら楽しげに話している中、俺はノートを見ながら軽く息をついた。
一晩中、電話をかけまくり、必要な物は手に入れた。
後はこのノートがどこまで使えるか、と言う検証が必要だ。


「後は実際にどこまで操れるか試していくしかないな…。つ…っ」


チョコを噛み砕き、ノートをめくっていくと、一瞬文字がかすんで目を瞑った。
最近、殆ど寝る間も惜しんで動いていたから、そろそろ疲れが出たのか、頭の奥が痺れているような感じで目も痛い。
軽く指で目の間を揉んでいると、ロッドがグラスを煽りながら、「疲れたか?」と身を乗り出した。


「いや…」
「でも最近あまり寝てないだろう。もう一通り面倒な仕事は終わったんだ。少しは彼女の傍で休んで来ていいんだぜ?」
「いい…大丈夫だ」


もとっくに眠ってるだろう。
こんな時間に起こしたくない。
それに今、と顔を合わせるのはツライ。
あんな風に抱きつかれたら、今まで堪えてきた理性なんて簡単に吹っ飛んでしまう。
今は忙しくしてる方が、気が紛れていいんだ。


分かってる。
は俺のことを心配してるだけだ。
Lの事があったから、俺まで死ぬんじゃないかって、心配してるだけ。
それを変に勘違いするのは空しいだけだ。


噛み砕いたチョコが口内で溶けて、ジワリと甘い香りが喉の奥に流れ込むのを感じながら、少しボーっとしていたらしい。
気づけば俺の手からノートが離れ、ふわりと浮くのを信じられない思いで見ていた。


「…何だ?」


一瞬、手から落としたのかと思ったが、落ちるどころかノートは宙に浮いている。
ソレを見て疲れて目がおかしくなったのかと思った。
ノートは俺の手から勝手に離れ、近くにいるジャックの頭へポトリと落ちた。


「どうした?メロ…」
「ノートが勝手に…」
「はははっ人を殺せるノートだ。生きててもおかしくねー」


ロッドは呑気に笑いながら酒を煽っている。
どうやら酔っているのか、目の前でノートが浮いたのを特に気にしてもいない。
が、突然ノートが自分の頭に落ちてきたジャックは訝しげな顔で振り返り――――


「わっ!」


ガタンッと音を立てて、椅子から落ちた。


「?何してる、ジャック」
「…ボ…ボス!この薄汚い仮装してる野郎は新入りですかっ?」
「…はあ?」
「…な…何…っ?死神っ?ははは…っ」
「おい…大丈夫か?ジャック…」
「薬のやりすぎじゃねーか?」


一人で誰もいない場所を見てしゃべっているジャックを見てロッドと女が笑った。
だが、俺の目にはそうは見えなくて黙ってみていると、ジャックはノートを震える手で拾い、こっちに差し出してくる。


「……ノートを触ると見えるらしい…。皆、確かめてくれ…俺はおかしくない…っ」
「ったく…しょうがねぇなぁ…」
「ボス…ノート触った後、ノートが燃えたりしたら触った奴は皆、死ぬんだろ…?」


ロッドがノートを受け取ると、グレンが顔を顰めて立ち上がった。


「ルール見る前に殆どの者が触ったし、だいたい俺がもう触ってるんだ。皆、触れ」


そう言ってロッドが次に俺へとノートを放り投げる。
その瞬間、ロッドは大きく目を見開き、「うわっ!何だ、コイツ!!」と拳銃を取り出し発砲した。
俺はと言えばロッドほど取り乱しはしなかったが、目の前にいる物体に思わず言葉を失う。
いったい、いつからそこにいたのか。
ジャックの言うように仮装でもしているような格好の、気持ちの悪い生き物が目の前に立っていたのだ。


「何だ、これ!前に触った時には見えなかったのに!」
「ボス、殺しますかっ」







パンッ、パンッ







≪無駄。人間に俺は殺せない≫


他の連中は気が動転したのか、その化け物に何度か発砲したが、ソイツはケロっとしている。
そして唯一、その場から動かない俺をジっと見て、




≪お前は俺が怖くないのか?≫


「…誰だ、お前…人間じゃない…よな?」


≪俺は死神だ。お前が持っているノートの落とし主だ≫


「…落とし主…じゃあ、これは元々…死神のノートなのか?」


≪ああ、そうだ。俺はそれを返してもらいに来たんだ。それより…お前、それ何だ?≫


「?…ああ…チョコだ…」




死神と名乗った奴は俺の持っているチョコを興味心身で見ている。
一つ取って放り投げると、"シドウ"と名乗った死神はバリバリとチョコを食べ始めた。







「……どうやら、この死神、存在も言ってることも本当らしいな」


≪チョコ…って美味い…≫




死神は俺のやったチョコを美味そうに食べながらノートの説明をしてくれた。
どうやらルールの中には嘘が混じっていたらしい。


"13日"の方で一人使えば嘘のルールが確認できる…
死神がノートを使った者に、常に人間を殺し続けさせ、ソレを見て楽しむためのルールというところか…
問題はこのノートがキラの手を経ているのかどうか…
経ているなら、これが嘘だと分かっているのか、いないのか。
もし分かっているなら、このルールは利用できる…
特に"13日"の方は13日間で潔白が証明できる…




「おい、シドウ…。人間界にノートはもう一冊ある…。どこにあるか分かるな…?」


チョコをかじりながら、ジロリと睨むと、シドウは死神のクセにビクリと肩を竦めた。


≪えっと…ちょっと待て。分かる方法あるか調べる…死神は色々掟もある≫


そう言ってノートを捲り始めたシドウは、すぐに身体を震わせながら、




≪ダメ…何も知らないし、もし知れても絶対何も言えない。俺が言えるのは俺が落としちゃった、そのノートについてだけ…≫



「死神って仕えねーな…」




やっとロッドも落ち着いてきたのか、そう言って笑うと、他の連中も顔を引きつらせて笑った。




「シドウ…」


≪…はい!≫



俺が呼ぶとシドウはまたしてもビクっとして俺の前に戻ってきた。


(これだけ言う事を聞くなら色々と使えそうだな、こいつ…)


そう思いながら目の前の死神を見上げる。




「人間同士の手渡しと意思だけで所有権は動き、今はジャックに所有権がある…それは間違いないな?」


≪ああ。メガネで髪の長い奴がジャックなら間違いない≫


「へぇ…」




…そして目の取引をすれば顔だけで名前が見えるとは…
キラが名前を知る方法もこれに間違いない。
これでキラと同等の力を手に入れられる。


「ジャック…目の取引をしろ」
「えっいやさすがに残り寿命、半分は…」


俺の言葉に躊躇するジャックに、ロッドが拳銃を取り出しジロッと睨んだ。


「ジャック…今死ぬよりよくないか?」
「…ボス…」
「俺はお前を信用している。俺のためなら命も投げ出すと…それにこの取引をすれば文句なく俺の右腕だ」
「決まりだな」


ロッドの言葉にそう言うと、ジャックは諦めたのか、ガックリと頭を項垂れた。
そこですぐに取引が行われ、ジャックは「見えます!皆の名前と寿命っ」と目を見開いている。




「シドウ…外で見張れ。お前は人間に見えないから都合がいい。人間が来たらカメラに顔を映すんだ」


≪えっ≫


「キラからノートを取ったら一冊はお前に返してやるよ」


俺の言葉にシドウは嬉しそうな顔(多分)をして、素直に外へと出て行った。


「…しかし…驚いたな、死神なんて」


やっとロッドが隣に戻ってきて、苦笑交じりに呟いた。
俺はノートを捲りながら、もしかしたらもこの事は知っていたんじゃないか、とふと思う。


はLと一緒に日本警察の捜査本部に身をおいていたはずだ。
そしてヨツバの奴から、このノートを手に入れた時、触れた者は死神の姿が見える…
それがシドウなのかは分からないが…
どっちにしろはLから少しくらいノートの情報を聞いているだろう。
彼女に…聞いてみようか…


「どうした?メロ…難しい顔して」
「いや…少し部屋に戻る」


そう言って立ち上がると、ロッドは再びグラスに酒を注ぎながら、ニヤリと笑った。


「何だ、やっと素直になったか。まあ今は死神が見張ってくれてるし、ゆっくり休んで来い」
「…ああ。何かあったら電話してくれ」


それだけ言うと俺は部屋へ戻るのに歩き出した。
ただ出て行く時にグレンが嫌な笑みを浮かべて俺の方を見ていたのが気になったが、今は相手をする元気もなく、そのまま廊下を歩いて行く。
ふと外を見れば、夜が明け白々と空が明るくなっている。
僅かな光も眩しくて目を細めると、小さく息をついた。
無理をしていたが、体が鉛のように重たい。


やはり今のうちに休んでおいた方がいいかもしれないな…。
近々ここも引き払い本格的にキラを追い込むため動き出すんだから。


そう思いながら部屋の前に立ち、静かにドアを開ける。
中はカーテンが引かれ薄暗く、ベッドにはが眠っていた。
その姿を見てホっと息をつくと、ジャケットをソファに置き、足音を立てないようにベッドの方へ近づいていった。
は僅かに口を開け、スヤスヤと眠っている。
その無邪気な寝顔に自然と笑みが零れ、起こさないようベッドの脇にしゃがみこんだ。


"お願いだから―――死なないで"


さっき彼女に言われた言葉が胸に響く。
そんな風に心配してくれるのは、Lの事があったからだと分かっていても、素直に嬉しかった。


(俺は死なない…必ずキラを倒し、の心を支配している恐怖から救ってみせる…)


今でこそ少なくなったが、再会してから毎晩のように、うなされていた彼女の姿を思い出し、改めて決心する。
Lの最期を夢に見るのか、いつもは怯えながら泣き叫び、俺に"怖い"と訴えていた。


(そうだ…ここへ移る少し前も…)


「―――ッ」


ふと、あの夜の事を思い出し、俺は後頭部を殴られたかのような衝撃を覚え、息を呑んだ。
そして目の前の寝顔を見てハッキリと思い出す。


そうだ…あの夜、は確かに言った…
怖いと俺にしがみつきながら……




"……あの死神が…まだ生きてる事が"




死神…?
あの時の俺はそんなに深く考えてなかった。
ただ最愛の人を殺されたにとって、キラは死神に思えたんだろう、と、そんな漠然とした気持ちでいた。
だが実際に今夜、死神なんてものが現れ、ノートを返せという…
これは…偶然なんかじゃない。


…お前は…死神を見たのか…?それとも…」





それともキラが誰か、知っているのか―――?






日本にいた頃の話を聞くことは、Lの最期を思い出させるようで口に出来なかった。
だからLが最後の最後に誰を疑い、そしてどんな方法で捜査をしていたのか、詳しく聞けないでいたんだ。
俺がキラを捕まえるために動いているのはだって知っている。
なのに何も言ってこないという事は、その話をしたくないのか、知らないのかのどちらかだと思っていた。


――が、実は知っていたら?


何もかも知っていて、それでも黙っているんだとしたら?


でも―――何故。


何故、は俺にその事を黙っている?
俺にLの敵を取って欲しくないのか?
いや、違う…答えは一つだ。





"お願いだから死なないで"





のこの言葉が全てを裏付ける。


彼女は、まだ恐れている。
キラを憎みながら、その力を恐れ、怯えているんだ――







「……」



不意に胸が熱くなり、そっと小さな手を握り締めた。


「…ん…」
「……っ」


その時、僅かにが動き、ドキっとして手を離した。
すると、ゆっくり目が開き、眠そうな顔で俺を見るとかすかに微笑んで手を伸ばしてくる。


「メロ…お帰り…」
「…ああ…起こしちゃったな…」
「…ううん…今…、メロの夢を…見てた…」


はまだ半分眠っているような目でそう言うと伸ばした手で俺の頬にそっと触れた。
ドキっとして離れようとしたが、の笑顔を見ていると身体が動かず、そっとその手を握り返す。


「メロ…疲れて…る…」
「…少し眠いだけだから…もまだ寝てろよ」


そう言って立ち上がろうとするが、は手を離そうとせず、逆に少しだけ引っ張られた。


「何…」
「…こっち…で寝て」
「…え?」
「…メロ…いつもソファで寝てる…でしょ…?そん…なんじゃ…疲れ取れない…」
「い、いいよ、俺は――――」
「ダメ……はい」


はまるで子供をあやすかのように、そう言うと自分の隣を開けて布団を捲った。
それには驚いて躊躇うが、グイっと手を引っ張られベッドに倒れこむ。


「おい、―――」
「…お姉さんの…いう事は聞くもん…よ…?」
「…お姉さんて…」
「早く…」


昔、よく言われたその言葉を言われ、抗議をしようと口を開いたが、は眠そうに目を擦りながら俺が横になるのを待っている。
その姿を見て小さく息をついた。
彼女は一度言い出したらきかない、と確かLがよく言って笑ってたっけ。


「わ、分かったよ…ったく…。子ども扱いするな」


文句を言いながらも半分、寝かかっているを刺激しないよう、そっとベッドに横になる。
なるべく体をつけないよう気を遣いながら布団をかけてやると、は子供のように丸くなって俺の腕にしがみ付いてきた。
それにはドキっとしたが、スヤスヤと寝息を立て始めたに思わず苦笑する。


「寝ぼけてたのか…?ったく、どっちが年上なんだか…って言うか警戒心なさすぎ…。襲われても文句言えないからな…」


そっと前髪をはらい、の頭を軽く撫でる。
ゆっくり彼女の方へ体を向けて寝顔を見ていると、昔の事を思い出した。
施設にいた頃、よく昼寝の時間はこうしてが隣に寝てくれた。
さっきのように俺がなかなかベッドへ入らずにいると、"お姉さんのいう事は聞くものよ"なんて言って。
でもあの頃と違うのは…俺を抱きしめるようにして眠っていたが、今は俺の腕の中にスッポリと入ってしまうこと。


甘えるように体を寄せてくるに、胸の奥が熱くなっていく。
そっと背中に腕を回して僅かに抱き寄せると、心の底から安心して鼓動とは反して睡魔が襲ってくる。
ここ暫く気を張っていたせいだろうか。
彼女の存在にホっとして、全身の力が抜けていくのを感じた。
それでも溢れてくる想いが自然に口から零れ落ちる。


「…愛してる…」


額に口付け、そう呟くとが少しだけ動き、俺の肩越しに顔を埋める。


安心したように眠るを見て、俺もまた、静かに眠りの世界へと引き込まれていくのを感じていた。












夢―――かと思ってた。



「………」


目を開けると、目の前にはメロの綺麗な顔があって。
夢の続きを見てるんだと思った。


(な、何でメロが隣に…!…って言うか、何で私、メロにしがみ付いて寝てるの…?!)


目覚めた時、背中にはメロの腕が回り、私はメロの胸に顔を押し付けるようにして眠っていた。
それにはギョっとしたが、ふと朝方近くにメロが戻ってきたような、話しをしたような、そんな記憶が戻ってくる。


(あれ…夢じゃなかったんだ…)


気づけば優しい目で見ているメロが目の前にいて。
でも凄く疲れてるから心配になって胸が痛くなったのを覚えてる。


(そっか…私、昔みたいな感覚で一緒に…)


それを思い出しホっとしたが、目を開けるとやっぱりドキっとしてしまう。
メロは本当に疲れていたのか、寝息も立てないまま本気で熟睡してるようだ。


そりゃそうよね…
色々動き回って、殆ど眠らない事が多かったんだから。
しかも休む時も私に気を遣ってベッドじゃ絶対に寝なかったし。


目の前の寝顔を見ながら、軽く息をついた。
寝ている時のメロは、昔の面影が少しだけ残っていて、思わず笑みが零れる。
でも昔と違うのは、少し男らしくなった骨格や体の大きさ。
そして…私の気持ち。


昔はこんな風に抱きしめて眠るのは私の方だった。
でも今は私の方がメロの腕の中にスッポリ納まってしまう。
それが何となく不思議な気がして、暫くメロの寝顔を見ていた。
綺麗に通った鼻筋も、首から肩にかけてガッシリしてる体も、もう子供じゃないんだと言われてるようで少しだけ寂しくなる。
そっと頬にかかっている髪をはらうと、形のいい唇が見えた。
僅かに開いている唇からは寝息すら聞えてこなくて、少しだけ顔を寄せてみる。
すると小さくだが息をしているのが聞えてホっとするのと同時に、あまりに近くに唇が見えて何となく顔が赤くなった。


(な、何考えてるのよ、私ってば…っ!どうかしてる……。このまま…キスしたい…なんて―――)


変な事を考えてしまったからか、鼓動が一気に早くなっていく。
意識しないように、と思うのに自然にメロの唇に目がいって、何だか顔中が火照ってきた。


だって、あまりにメロが綺麗だから…触れてみたい…って、そう思ったの―――





「メロ…好きだよ…」


その言葉を口にした瞬間、喉の奥が痛くなる。
芽生えたばかりの想いが、その一言で現実味を帯び、溢れてくる想いが止まらなくなる。


私を必死で探してくれたメロ…
必ず守ると約束してくれたメロ…


Lを失くし、空っぽになった私の心に、また水を与えてくれた人。




ゆっくり顔を近づけ、メロの唇に自分の唇をそっと重ねる。
その瞬間、体中に血が巡るように一気に熱くなるのを感じた。




「……ん、…」


「………っ」



その時、メロが僅かに動いて、ドキっとした時にはもう遅かった。
パッと唇を離した瞬間、メロと至近距離で目が合い、鼓動がドクンと跳ね上がる。
メロは夢を見ているような、そんな顔をして私を見つめていた。


「………?」


掠れた低い声で私の名を呼ぶメロに、ドキドキと心臓がうるさい。
私からキスをした事を、どう思われてるのか怖くて言葉が出てこない。
それでも何か言わなくちゃ、と口を開きかけた瞬間、首の後ろに腕を回され、グイっと引き寄せられた。


「…ん…っ」


頭の中が真っ白になった。
ただ塞がれた唇が熱くて、その熱が体中にまわっていく。
求めるような激しいキスに、頭の奥が痺れてきて、体の力を奪っていく気がした。
気づけばメロは私に覆いかぶさり、私はメロの背中に腕を回して抱きしめている。
静かな部屋に、二人のかすかな息遣いと、時折聞えるピチャリという水音が響くのを、遠くなる意識の中、聞いていた。
絡められた舌先を弄ばれるたび、甘い疼きが体を襲い、そのたびに私は女なんだと実感し、メロは男なんだという事を実感した。


この時の私たちに、言葉なんていらなかった。




お互いに、心の底から必要で、ただ求め合っていたかっただけ。




メロの、腕の中で溺れたかっただけ。




先の見えない二人でも…














行き着く先が終わりでも


 













TITLE:群青三メートル手前