ふわふわと意識が彷徨う中、Lの笑顔が見えた。
"貴女は強い人ですね"
そう言って柔らかく微笑むLを、つい昨日の事のように覚えている。
いつまでも傍にいれると、安心していた日々は、もう―――ここにはないのに。
「…目が覚めましたか?」
ゆっくりと目を開ければ、心配そうに覗き込むLの顔があって、私は自然に微笑んでいた。
「L…どうしたの?」
まだ夢の中にいるような感覚で、何故、Lがそんな顔をしているのか分からず問いかける。
Lは困ったように微笑んで、私の額にそっと手を置いた。
いつも優しいその手は冷んやりとしていて心地がいい。
「どうした、じゃありません。倒れたんですよ?覚えてないんですか?」
「…え…倒れたって…」
「ああ、ダメです」
僅かに顔を動かし起き上がろうとする私を、Lは慌てて止めて、再びベッドへと寝かした。
「まだ動いてはいけません。もう少し休まないと…」
「で、でも…今、何時…?」
「もう夜中の0時になります」
「え、夕飯の用意が―――」
「それは皆でやって、ちゃんと食べましたよ」
優しく何度も頭を撫でながら、Lは困ったように笑う。
それを聞いて私は自分が倒れた時の状況を思い出していた。
「私…屋根裏部屋の掃除をしてて…」
「ええ。今週は何かと忙しかったから休めというのには働いてばかりで」
「だって…前々から気になってたのよ…。屋根裏部屋にはLが使った事件の資料が凄いんだもの」
少しくらい言い返したくて、そんな事を言うと、Lも頭をかきながら苦笑した。
「そうですね。でもそれを散らかしたのはメロ達でしょう?」
「そうよ?あそこで勝手に遊んでて…だからメロやマットにも手伝ってもらってて……あれ、2人は?」
そう問いながら部屋の中を見渡すと、Lはふっと口元を緩めた。
薄暗い私室の中はベッド横のライトだけが照らしていて、静かな空間を作り出している。
窓の外は真っ暗なのだから、メロ達がもう寝ているのは一目瞭然だ。
「とっくに部屋へ戻らせました」
「そう…ね。就寝時間も過ぎてるし」
「ええ。でも実はメロだけ先ほどまでいたんですけどね」
「え?」
「が起きるまで傍にいる、ときかないものですから。でもキルシュが来て0時前に部屋へ連れ戻されました」
「そうだったの…。心配かけちゃったかな…」
「そうですね。私のところに"が倒れた"と知らせに来たのもメロです。凄い慌てぶりで大騒ぎするものですから私も動揺して……椅子から落ちました」
「え、嘘…やだ…」
情けない顔で眉を下げるLに、ちょっとだけ噴出してしまう。
普段は冷静なのに、そう言う時は少しドジなところがLらしい。
「笑い事じゃないですよ…。どれほど心配したと思ってるんです?」
「ご、ごめんね…?ちょっと最近、夜更かししてたから…」
「夜更かしって…朝も早いのに」
まるでキルシュのように怒るLに、私は微笑んだ。
「来月は…クリスマスでしょ?だから皆にプレゼントを作ってて…」
「クリスマスプレゼント…なるほど。らしいですね」
Lは優しく微笑むと、そっと屈んで唇を重ねる。
そして僅かに唇を離すと、「それ…私にもありますか?」と、不安げに尋ねてきた。
そんなLが可愛くて、「もちろん。特大のを準備中」と答えれば、嬉しそうに笑った。
その時、静かな部屋に、コンコンというノックの音がして、Lが溜息交じりで顔を上げる。
「誰かな…」
「…さあ。どっちにしろ、お邪魔虫ですかね」
「もう、そんなこと言って…」
ゆっくりと立ち上がるLを軽く睨むと、彼は苦笑交じりでドアの方に歩いていく。
そして開けられたドアから顔を出したのは、心配そうな顔をしたメロだった。
「メロ…」
「あ、!」
「あ、こら」
Lが何かを言う前に、メロが私を見て部屋の中へと飛び込んできた。
そしてベッドの脇へ膝をつく。
「大丈夫?」
「うん。心配かけてごめんね?ちょっと寝不足で貧血気味だったみたい。もう大丈夫だから」
「そっか…。なら良かった…」
私が笑顔を見せると、メロはホっと息をついて微笑んだ。
が、後ろで仁王立ちしているLが、「何も良くないですよ」と怖い顔をすると、メロの顔が引きつっている。
「全く…寝ろと言われたのに。部屋を抜け出してくるなんて…」
「だって…が心配で寝れないしさ…」
頭を項垂れて、そう呟くメロに、Lも小さく息をついた。
「仕方ないですね。では…私が今、に紅茶を淹れてくる間、傍についててくれますか?」
「…?うん、いるよっ」
その言葉にメロもパッと顔を上げて頷くと、Lも優しく微笑んで、「では行って来ます」と部屋を出て行った。
ドアが閉まると同時に、メロは大きく息を吐いて、「追い返されるかと思ったよ」と苦笑している。
「ホントなら起きてちゃいけない時間だから」
「もう13歳になるのにさ」
「それがここのルールだから仕方ないの。それより…さっきLを呼びに来てくれたのメロなんですって?」
「あ…そりゃ…いきなりが倒れて…呼んでも目を開けないし凄く驚いたから…」
「そう…ごめんね」
「いいよ。元気になってくれればそれでいい」
メロはそう言って照れくさそうに頭をかくと、「明日一日は休んでろよな」と、少しだけ怖い顔をした。
「わ、生意気」
「うるさいな…。だいたいは働きすぎなんだよ。少しはLの言うこと聞いて体を休めないと」
「やだ、メロってば、Lみたいなこと言って」
そう言って笑うと、メロは少しだけ頬を赤くして、視線を反らした。
「当たり前だろ…。Lだって…俺だってが心配だから言ってるんだ…」
「メロ…」
「は…俺達にとっても、Lにとっても…大切な人だから…さ」
照れくさそうに顔を背けて、そんな事を言うメロに、私は、「ありがとう…」とだけ呟いた。
メロは少しだけ怒ったような顔で、ただ黙って傍にいてくれて、そんな彼を見ていると、いつの間に、こんなに大きくなったんだろう、と笑顔になる。
少し前まではLの後ばかりついて歩いている男の子だったのに、今は少しだけ大人びた顔を見せている。
イタズラばかりして困らせてた少年が、少しづつ大人になって、こうして私の事を本気で心配してくれてる事実に、胸の奥が暖かくなった。
「ありがとう、メロ」
もう一度、そう呟いた私に、メロは再び心配そうな顔をした。
「こんなんで…本当にLと日本へ行く気か?」
「うん、行くよ…?」
「でも倒れたのに―――」
「大丈夫。もう無茶はしない。今回は…Lと離れていたくないの…」
「…大げさだな。もう二度と会えないわけじゃないのにさ」
メロは私の言葉に苦笑を零し、そっと手を握ってくれた。
「じゃあ…日本のお土産いっぱい買って来てよ。俺、楽しみに待ってるし」
「そうね…。メロの好きなチョコ、いーっぱい買ってきてあげる。日本のチョコは凄く美味しいんだって」
「やった!約束な」
「うん」
そう言ってメロの手をギュっと握ると、メロも優しく微笑んでくれた。
その時、部屋のドアが開き、Lが戻ってきた。
「あ、メロ!私のですよ?手なんか握ったらダメですっ」
「あ〜また始まった」
Lのヤキモチにメロが笑いながら手を離す。
私は苦笑しながらも、まだ手に残るメロの体温を、いつまでも感じていた。
あんな平和な時間が、いつまでも傍にあると信じて疑わなかった、あの頃…
あれから一ヵ月後、私とLは共に、日本という、故郷からあまりに遠い国へと旅立った。
まさか、あんな結末が待ってるなんて、思いもしないで―――
「…メロ…」
懐かしい時間の中を彷徨いながら、不意に意識が戻った気がしてハッと顔を上げた。
いつの間にかウトウトしてたらしい。
頭がガクッと落ち、目が覚めたようだ。
「…夢…か…」
見知らぬ部屋を見渡し、溜息をつく。
目の前には包帯で巻かれ、傷らだけのメロが横たわっている。
未だ意識が戻らないのか、強く握っていた手も、力なくベッドの上に置かれたままだ。
そう言えば…施設にいた頃もこんな風に、メロの手を握って傍についていた事があったっけ。
あの頃のメロはよくこの時期に風邪を引くから、私が徹夜で看病したんだった。
Lも仕事が終わると顔を出し、メロの熱が下がるよう、一緒になって看病した事もあったな…
あの頃の夢を見たからか、ふとそんな事を思い出し、胸が痛くなった。
「あ…さん…起きた?」
不意に声がして振り向けば、そこにはアネットがタオルと洗面器を持って立っていた。
「ごめん、寝ちゃったみたい…」
「いいよ。さんも怪我してるんだし、少しは休まないと…」
アネットはそう言って歩いてくると、タオルをテーブルに置き、ベッドの脇に座っている私の肩に、自分のジャケットをかけてくれた。
「ありがとう…。でも…メロの意識が戻るまで傍にいたいの…」
「…そっか。そうだよね…。でも怪我の方はどう?痛む?」
「私は大丈夫。少しヒリヒリするくらいで出血も止まったし…。でもメロは…」
そう言ってメロを見る。
額には汗が浮かんでいて、それを水で濡らしたタオルで拭きながら熱を測った。
「熱が下がらないの…。やっぱり病院に行った方が…」
「でもそんな事をしたら警察に捕まっちゃう…。きっとロス中の病院に警察が張ってるわ?」
「…そうよね。もし捕まったら…」
あの男に、メロは確実に殺されてしまう。
Lの権力を手に入れている今、キラに怖い物はないだろう。
ぎゅっとメロの手を握り、自分の額へとつける。
その手さえも熱で熱く、怪我の具合が良くないことが分かる。
「とにかく…冷やしてあげないと…」
「あ、これ使って」
アネットは持ってきたタオルを水で濡らしてくれた。
それを火傷を負っている頬に起き、少しでも炎症を抑えられるように冷やしてあげる。
「でも…ホント、隠れる場所があって良かった…」
「うん…そうね…」
アネットの言葉に頷き、再び部屋の中を見渡す。
相当、大きな屋敷でもある、無人の家を見つけたのは、別に偶然でも何でもなかった。
火傷を負ったメロを楽にするのに、着ているものを脱がした時、一枚のメモとキーを見つけたのだ。
少し焼けただけのメモには、ロス郊外の住所が書かれていて、キーはその家のものかもしれない、と半信半疑で来てみたのだ。
まさか無人とは思わなかったが、アネットが「もしかしたらボスが最近買った家かも」と言うので勝手に鍵を使って入らせてもらった。
「次のアジトにでもする気だったのかしら…。キッチンにも食料や飲みものとか必要な物は全て揃ってるし…」
そう呟きながら、メロの傷を冷やしていると、アネットが静かに隣に座った。
「ううん、多分、違うと思う…」
「え…?じゃあ…ボスの家ってこと?」
そう尋ねると、アネットは首を振って軽く息をついた。
「きっと…メロの家だと思うわ…」
「…え?メロのって…」
「と言うか…もっと正確に言えばさんとメロの家だと思う」
「…ど、どういう…こと?」
いきなり、こんなお屋敷が私とメロの家なんて言われて、かなり驚いた。
するとアネットはメロの寝顔を見ながら、ふっと笑みを浮かべた。
「ボスはね…。メロに感謝してたの」
「感謝…?」
「うん。真意はどうであれ、メロが入って来たことで組織は大きくなって、アメリカ一にまでのし上がれたから」
「……そう」
「だからボスはメロに何かお礼がしたいって言うようになって…。そんな時、メロがさんを見つけて来たの」
アネットは思い出すように天井を見上げ、椅子へと凭れかかった。
「あの時のメロは今でも覚えてる。大事そうにさんを抱いて、誰の目にも触れさせないようにしてた。
それを見て、ああ、この人はメロの一番大切な人なんだって、そう思った。私なんかに振り向いてくれるはずないって…
ボスもきっとそんなメロを見て、メロが何を望んでるのか分かったんだと思う。だからさんと住めるような家をってメロに…」
そこまで話すと、アネットは私を見て微笑んだ。
「メロはキラと戦うためだけに生きてきたって言ってたけど…本当の望みはさんと二人で平和に暮らす事だと思うな」
「アネット…」
「だから…富にも名誉にも執着しないメロが…ボスからこの家のキーを受け取ったんだと思うの。さんと…二人で暮らしていきたいから」
「…私と…二人で…」
再びメロに視線を戻すと、知らずに涙が溢れてきた。
私と平和に…そう思ってくれてた事が凄く嬉しくて。
あの頃のように、また笑いあいながら生きていけたら、どんなに幸せだろう。
随分と変わってしまった関係でも…叶うんだろうか。
「…さん…メロを…幸せにしてあげて…?」
「…アネット…」
「キラに復讐を誓ったメロは…決して強いわけじゃない。だからこそさんの存在が必要なの…」
アネットの気持ちが痛いくらいに伝わってきた。
私の知らないメロを見てきた彼女は、どれほどメロの弱さを見つけたんだろう。
本当に強い人間なら、過去の事は忘れて新しい人生を見つけられる。
でもそれすら出来ず、過去に縛られ、キラを追い続ける私たちは、きっと弱い人間で。
だから、互いに互いを必要としなくては生きていけない。
私とメロは…最初から似た者同士だったんだ…
「メロ…」
強く、彼の手を握り締めた。
あの頃の俺達は、よく笑ってた。
苦しい事もあったけど、そんな物を忘れてしまうくらい、平和で幸せな毎日。
未来に希望があって、大切な人が傍にいて。
それだけで何もかもが手に入る、なんて信じてた無邪気な子供だった、あの頃。
出来れば―――戻りたい。
一番、幸せだったあの頃に―――
握られた手が、凄く熱かったのを覚えている。
はいつも頑張り屋で、俺達の面倒を見ながら、施設の雑用もこなして、毎日動き回ってた。
なのに一度も大変そうな顔なんて見せた事もない。
皆が頼りにしてて、あのLだってがいなければ推理力も半減する、なんてボヤいてたくらいだ。
だから、そんなが倒れたのを目の前で見た時、凄く怖くなった。
それまで笑顔で、時には掃除をサボっている俺やマットを叱っていたのに、急に崩れるように床へ倒れた時、俺は悪い夢でも見てるんじゃないかって思った。
慌ててLの元へ向かった時も、情けないけど足が震えていて、に何かあったらどうしようって、そればかりが頭の中を回ってたっけ。
だからホっとしたんだ。
心配で眠れなくて、怒られるのを覚悟での部屋に行った時。
いつもと変わらない笑顔で俺の手を握ってくれたに、心の底から。
まさか、Lとの三人だけで過ごした時間が、あの時で最後だったなんて、思いもしなかった―――
暖かい、と感じた。
過去や現在を彷徨いながら、俺は必死に逃げてて。
自分が殺した人間や、死んでいった仲間たちに追われながら暗闇の中を走りまわる。
怖くて、ただ怖くて、キラという巨大な敵が、いつでも背後にいるような、そんな恐怖と戦いながら、俺は暗い海の底に沈んでいく。
その中で垣間見た、暖かい過去の映像。
あの頃の俺は凄く幸せで、いつも笑顔だった。
一つの光の中に見えるその中で、もLも、そして俺やニアも、楽しそうに笑っていた気がする。
戻りたくて、必死にその光へと手を伸ばした。
近づけば近づくほど離れていくのは、もう二度と手に入らないんだ、と言われてるような気がして。
だけど不意に、その伸ばした手が暖かい温もりに包まれたのを感じた時、俺は意識を取り戻していた。
「…メロ…っ?」
「……っ…」
聞き覚えのある優しい声。
この声に名前を呼ばれるたび、俺は胸の奥が痛くなって、その後に…必ず切なくなるんだ。
「…気がついた…?」
「…つっ…」
視界が暗闇から解放された瞬間、眩しい光が目に沁みたのと同時に、体中に痛みが走った。
「……?」
「…メロっ」
ボヤけている視界の中に見えるのは、あの頃より少し痩せたの顔。
その頬には大きな涙がポロポロ零れ落ちていて、素直に綺麗だと思った。
「……無事…か…?怪…我は…」
「私なら大丈夫だよ…!良かった…メロ…っ」
「…ぃてっ」
「あ、ご、ごめ…」
不意に泣き崩れたに抱きつかれ、俺は顔を顰めた。
何だか体のあちこちが痛くて、それと同時に俺は生きてるんだ、と、爆発した時の事を全て思い出した。
「メロ…?どこか痛い?」
「…って言うか…痛いとこだらけだ…。は…?」
「私ならメロが守ってくれたし大丈夫だよ…。軽い擦り傷とかで済んだもの…」
「そうか…良かった…」
それを聞いてやっと安心した。
あの時、追い詰められ、爆破スイッチを押す時も、の事だけが心配だった。
彼女の体を包み、壁際にあったテーブルで、廊下からの直撃を避け、外に飛び出した。
二階から落ちた痛みよりも、爆風の熱さの方が酷く、意識が飛びそうだったが、なるべくアジトから離れなくては、とを抱えて逃げたのだ。
「…メロ…お水飲んで?」
「ああ…悪い」
が背中にクッションを入れてくれて、少しだけ体を起こす。
だが水の入ったグラスを持つだけで、痛みが走り思わず顔を顰めた。
「大丈夫…っ?」
「…ああ。こんな傷すぐ治る…」
水を口に運び、それを一気に飲み干した。
久しぶりに飲んだ水で少しだけ気分が落ち着き、やっと自分がベッドの上に寝かされているんだと気づく。
「…ここは…?誰の家だ…?」
「あ…」
かなり豪華な屋敷に見えて、少しだけ警戒した。
が、そこへ、「ここはメロの家じゃない」という明るい声が響き、ハッと顔を上げれば、
「アネット…お前も無事だったのか」
「まーね♪さんと私でメロをここに運んできたの。ここはボスがメロにってくれた家だよ」
「何…?」
を見ると、彼女も笑顔で頷く。
そこで思い出した。
ロッドが死ぬ直前、俺に、とくれた家のキーと住所を書いたメモの事を。
「そうか…それで…」
「だってメロは血まみれで意識はないし、と言って病院に連れて行けば、すぐに逮捕されちゃうでしょ?」
「ああ…悪かったな…」
「別にいいよ。それより…怪我が酷いんだ。今更だけど病院に行ったら?もう警察だっていないんじゃない?」
アネットはそう言って煙草に火をつける。
今はメイクもしないで、Tシャツにジーンズという格好だからか、歳相応に見えた。
「いや…病院には行かない。こんな怪我大したこと…つっ」
「まだ動いちゃダメよ…。メロ、2日も意識がなかったんだよ?」
「そんなに…?クソ…日本の奴らは…?」
「……知らない」
「そうか…」
ノートは奪われた。
俺がノートを奪われたことを、ニアは知ってるんだろうか。
ニアはまだノートのルールを知らない。
これは俺に取っちゃ有利だが、キラは多分、一度でもノートを手にした俺をどうやってでも殺したいと思ってるだろう。
いや夜神が死神の目を持っていた事から考えても、俺を殺そうとしてたに違いない。
だがのおかげで本名を知られる事はなかったし、まだ動けそうだ。
とにかく仲間を失った今、これからの情報はニアから引き出すしかないか…
そう思いながら、SPKの中に使えそうな女がいた事を思い出した。
(一か八か…。あの女に接触してみるか…)
「メロ…?どうしたの?まさか今すぐ動く気じゃ…」
「いや…」
考え事をしていると、が不安げな顔で俺の顔を覗き込んできた。
その顔を見てドキっとしたが、今は確かに無茶は出来ない。
もう少し体が自由にならなければ、ニアのいるニューヨークへも行けないだろう。
「メロ…無茶はしないで、今は怪我を治す事だけ考えて…お願い」
「…」
涙を溜めた瞳で俺の手を握ってくるに、胸の奥が痛む。
いつでも笑顔でいて欲しいと思っているのに、今、こんな顔をさせてるのは、間違いなく俺なんだ。
その手を軽く握り返し、小さく息をつくと、後ろで気まずそうに立っているアネットへと視線を向けた。
「…アネット…悪い。二人にしてくれ」
「…うん」
言わなくても分かっていたのか、俺の言葉にアネットは静かに部屋を出て行った。
はまだ不安そうな顔で俺を見ていて、今にも零れ落ちそうな涙が長い睫に光っている。
そんな彼女に微笑み、そっと頭を撫でると、綺麗な雫が俺の手にポツリと落ちた。
「泣くなって…。にそんな顔されるのが一番こたえる…」
「…メロ…」
「心配しなくても…こんな体じゃ今すぐには動けない」
「…うん…」
俯くようにして頷くと、はすぐに涙を拭いた。
そして、ふと顔を上げると、「傷の消毒するね」と言って立ち上がる。
そう言われて、また怪我の事を思い出すと、体中がズキズキ痛み出した。
特に顔の左半分が、ひどく痛む。
「なあ、」
「…ん?」
「俺の怪我…相当、酷いのか?」
「………っ」
救急箱から消毒液を出していたの手が、ビクリと止まる。
その様子を見て、多分、顔半分は焼けどに覆われているんだろう、という事だけは分かった。
は再び泣きそうな顔で戻ってくると、俺の手を両手で握り締めた。
「メロ…ごめん…ごめんね?私を庇ったせいで、こんな―――」
「そんな事はいい。俺は男だし…じゃなくて良かった…」
「メロ…」
「いいって。そんな顔するな…。これは自分でした事だ。まで巻き込んですまない…」
彼女の体温に包まれた手がぎゅっと握られ、顔を上げると、は泣くのを堪えたような顔で首を何度も振っていた。
きっと俺が目覚めるまで不安だったのかもしれない。
遠い意識の中で、何度も彼女の声を聞いたような気がする。
"メロ…私を置いていかないで"
置いてなどいくもんか、やっと見つけたんだ。
そう何度も必死に叫び、立ち上がろうとしてた人間らしい自分が、確かにいた。
を、彼女を守るためなら、俺は何度だって立ち上がってやる。
こんな傷など大した事じゃない。
彼女を失う痛みに比べれば。
「…笑ってくれよ。俺、の笑顔が一番好きなんだ」
昔のように、素直に、思ったことを口にしてみた。
やっぱり、どこか照れくさいけど、に泣かれるくらいなら我慢も出来る。
俺の言葉に、はゴシゴシと溢れてくる涙を拭いて、何度か頷いた。
そして震える手で、傷の消毒をしながら、他愛もない話をする。
昔、俺が熱を出して寝込んでいた時と同じように、優しい声で。
数日後、俺はやっと一人で動けるようになった。
近所に年寄りが一人でやっている個人病院があり、そこで傷の手当てもしてもらい、だいぶ楽にもなった。
包帯がとれ、初めて傷物になった自分の顔を見た時、失笑しか出てこなかったが、アネットなんかは、「そっちの方がいい男じゃん」なんて笑い飛ばしてくれた。
はやっぱり心配そうだったけど、俺にとっちゃ、この傷は今まで自分が犯してきた罪の罰のような、そんな気分だし、素直に受け止めるのも悪くない。
それに彼女を傷物になんかしたら、天国から見下ろしているであろうLに怒られそうだ。
「メロ…ちょっといい…?」
自室に使っている部屋のドアがノックをされたのは、11月18日の午後、ちょうど起きだした時だった。
「どうした?」
慌てたように入って来たに、俺は裸にシャツだけ羽織りながらベッドに腰をかけた。
は、「あ、ごめん」と視線を反らし、俺に背中を向けている。
そんな反応に、こっちが照れくさくて、「別に全裸ってわけじゃない」と苦笑すると、気まずそうな顔で振り向いた。
「それより、どうした?またアネットが皿でも割ったか?」
「そ、そんな事じゃなくて…その…今テレビのニュースでやってたんだけど…」
そこまで言うと、は困惑したような顔で目を伏せた。
「…アメリカの福大統領がキラを認めるって会見を…。それと…ニアのいるSPKも解散したってニュースが…」
「何だって?」
アメリカがキラを認めた?
何てバカな結論を出したんだ…
あの副大統領には何ら期待はしてなかったが…
それにしても…ニアの率いるSPKが解散したとは…
あのニアがそう簡単に手を引くはずはない。
アメリカの後押しがなくてもキラの捜査は続けてるだろう。
となれば…やはりニア側の情報を盗むか…
SPKのリドナーとかいう女にも連絡がついた。
あの女はキラを捕まえる事だけを重視しているようだったし、上手く行けば情報くらいは話してくれるかもしれない。
後、あの女のいう事だと、ニアは俺の昔の写真も持っているというし、それも取り返さないと…。
そこまで考え、俺はシャツを脱ぎ捨てすぐに立ち上がった。
「メロ…?」
「…俺は今からニューヨークへ飛ぶ。はアネットとここに残っててくれ」
クローゼットを開け、着替えを出しながらそう言うと、が驚いたように俺の手を止めた。
「待って!メロが行くなら私も行くっ」
「バカ言うな。連れて行けるわけないだろう?俺と出歩くなんて危険だ」
「でもメロだって、まだ傷が―――」
「もう何ともない。痛みも殆ど引いたし大丈夫だ」
そう言って彼女と向き合う。
だがは納得してないといった顔で真っ直ぐに見上げてくる。
「嫌…!一緒に連れて行ってくれないなら行かせない…っ」
「…」
「もう一人にしないって言ったじゃない…置いていかないでよ、メロ…!」
「………っ」
胸元にしがみ付きながら、そう言ってくるにハッとした。
"置いていかないで"
そんな彼女の言葉が胸に突き刺さる。
置いていくなんて気は元々ない。
でも彼女を危険にさらす気はもっとない。
なのに…掴まれた腕を放す事が出来なかった。
「私は…メロの傍にいたいの…」
「……?」
「どんな事があっても…メロの傍に…」
「……っ?」
真剣な顔で、そんな言葉を呟くに、ドクンと鼓動が跳ねた。
俺を見つめる彼女の瞳は、俺が知ってる彼女とは少し違う気がして。
「死ぬかもしれないのに…?」
「メロは…死なないって言ったわ」
強い意思が彼女の言葉から伝わってくる。
もう何を言っても無駄だと、この時気づいた。
ならば、遠く離れて心配するよりも、傍において自らの手で守る方が一番いい。
「どんな事があっても…守るから。俺の傍から離れるな」
冷え切った心を、もう一度温めてくれるのは彼女だけ。 こんな俺でも…彼女の為に何か出来る事があるなら―――
寄り掛かってくればいい
一人分なら空いてるから
こちらも久々の更新?
長くなりそうなので、一旦切りました☆
この作品にも管理人が歓喜するようなコメントを沢山頂いて嬉しい限りです(*TェT*)
このメロ夢は何となく大人な方からの感想が多い事に最近気づきました(笑)
高校生辺りから社会人の方なんですけどね。
メロやヒロインの感情とか、ちゃんと感じながら読み込んで下さってるようで、感想も深いものが多く、書き手としては凄く嬉しいですσ(o^_^o)
いつも励みになる感想をありがとう御座います!
また今から続きを書いてきます。
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●初めて夢小説というものがこんなにおもしろいって知りました。話の流れがとても好きだし、感情の移り変わりとか表現がとても上手読んでてとてもおもしろいです☆これからも楽しみにしてます^^
(この作品で夢小説を楽しいと感じて頂けて感激です!細かい所まで読み込んで色々と感じ取ってもらえるなんて物書き冥利に尽きますよ(*TェT*)
●メロ夢本当スキです!!
(ありがとう御座います!)
●読んでいてドキドキしてしまいました。これからもサイト運営頑張ってください☆応援してます!
(ドキドキして頂けてるようで嬉しいです!今後も頑張ります!)
●「許されるなら、まだ傍に」これでラストかと思うくらい(ラストなんて嫌だけど)、素敵な終わり方で・・・読み終わって数日たった今でもその余韻が消えません!
(ひゃー素敵だなんて感激です!(TДT)ノ 話はまだ続くと思いますので待っててやって下さいね!)
●メロのヒロインに対する想いがすごく好きです!!わたしもこんな風におもわれたーい!笑
(メロのイメージが一途だったので、そんなメロしか書けません(苦笑)ホント心底、想われたいですねσ(o^_^o)
●早く続きが読みたくてしょうがないです><★
(他の連載もあるので毎回というわけには行きませんが頑張ります!)
●キャラの書かれ方や話の展開、台詞、全てに惚れ込んでいます。普段夢小説は読まないのですが、こちらのデスノ夢で初めて夢小説の楽しさを知りました。
素晴らしい文章にいつも楽しませてもらっていて全ての作品が大好きですが、特にメロが好きなのでこちらに投票させて頂きました。これからも応援しています。
(そ、そんな素晴らしいお言葉を頂けて凄く感激しております!私の書いたドリで夢小説の楽しさを知って頂けたなんてホントに嬉しい限りです!)
●今回のお話が(かなり僅差ですが)一番好きかもしれません!あんな状態でヒロインのことを護ったメロ…大好きです!!
(許されるなら〜が一番好きですか!自分の中では微妙な流れになってきてる?と心配だったので、そう言って頂けて嬉しいです!)
●毎日毎日更新される日を楽しみにしてます★
(ヲヲ!ま、毎日ですか!お待たせしてホントすみません;;でもそう言って頂けて大感激です(*TェT*)
●Lが一番好きだったのですがこのサイトのメロの連載みてメロにはまりました。大好きですー(>・<)
(ひゃーLからメロに!私の書いたもので、そんな影響が出るなんて恐縮ですが嬉しいですー(゚ーÅ)
TITLE:群青三メートル手前