久しぶりに聞いた声は、あの頃とちっとも変わってなかった。
と二人でニューヨークに来てすぐ、昔馴染みでもある男、マットに連絡を取った。
やはりを連れて、俺一人では自由に動けないと思ったからだが、マットは意外にも俺からの連絡を待ってたと明るく言い放った。
「わぉ。どうしたんだよ、その顔」
「ちょっとな」
俺のスカーフェイスを見た瞬間、マットは呆気にとられた顔をしたが、すぐに笑い出した。
「ははは…ったく。俺がいないとこで盛り上がりやがって」
一人で楽しんでんじゃねーよ、なんて言いながら、辺りをキョロキョロ見渡した。
「んで…我らが姫はどこに隠したんだ?」
「近くのカフェで待ってる」
「んじゃ早速迎えに行こうぜ!早く元気な顔が見たい」
マットはそう言うと俺の肩を抱いて軽快に歩き出した。
Lが死んで、が姿を消したと、ロジャーから聞いた時、俺やニアと同じく、マットもかなり心配をしていた事は知ってる。
ニューヨークに居た事を考えると、マットも少なからずを探して歩いてたんだろう。
「しっかしメロも冷たいよなぁ。人が寝てる間に施設出て行くし、を探すなら俺にも声かけろっての」
「それだけじゃなかったからな。巻き込みたくなかった」
「それが水臭いって言ってんだよ」
煙草を咥えながら呆れたように笑うマットに、昔の面影が見て取れた。
マットは俺みたいに、一番という立場に拘ったりせず、面白おかしく自分なりの方法で、Lの後を継ごうとしてた。
ニアを追い越す事にムキになってる俺を、皮肉った笑みを浮かべながらも応援してくれたのはマットくらいのもんだった。
通りを曲がると、の待つオープンカフェが見えてきた。
寒いから中で待ってろと言ったのに、はオープンスペースの席に座り、落ち着かない様子で何度も辺りを見渡していて、
マットが目ざとく、それを見つけた。
「…!」
見つけた途端、マットは彼女の名前を呼んで駆け出した。
もすぐに気づき、ハッとした顔で立ち上がって駆け寄ったマットに抱きついている。
"マットにも二度と会えないかと思ってた"
ここへ来る前にが呟いてた言葉を思い出す。
皆に一番会いたかったのは、なんだ。
「無事で良かった…。すげー心配したんだぜ?」
「…ごめ…ごめんね…」
マットの言葉に、は涙を零しながらも、「大きくなったね…マット」と嬉しそうに微笑む。
そんな笑顔を見てると、あの平和だった頃の光景を思い出して、胸の奥が僅かに痛んだ。
一通り再会の言葉を並べ立てた後、カフェを出てからマットは本題に入った。
「メロに言われた通り、調べてみたけど、SPKは本当に解散したらしい。が、それは表向きで秘密裏には動いてるぜ」
「…ふん…やっぱりな」
「で、とりあえず落ち着ける場所は確保しておいた。もいるし野宿ってわけにはいかないだろ?」
「ああ…悪いな。じゃあ…マットはを連れてそこに行っててくれ」
そう言ってマットが用意しておいてくれた車に乗り込むと、が不安そうな顔をした。
「メロ…どこ行くの?」
「…情報をくれる奴のとこだ。すぐ戻るよ」
「でも病み上がりなのに―――」
「大丈夫だよ。無茶はしない。マット、を頼む」
「了解♪アパートの住所はこれね。で、メロの言ってた女の住所はこっち」
「…分かった」
マットから住所の書いたメモを受け取り、車のエンジンをかける。
はやっぱり心配そうな顔をしていたが、俺と目が合うとかすかに微笑み、「気をつけてね」と言ってくれた。
軽く手を挙げ、車を発車させるとバックミラー越しに視線を送る。
はまだ不安そうな顔をしてたが、マットの事だし、持ち前の明るさでを元気にしてくれるだろう。
「…ハル・リドナー、か」
女の名が書かれたメモを見ながらアクセルを踏み込む。
ニアがどこまで掴んでるか、死神の事は知っているのか、聞きたい事は山ほどあった。
出来れば何か知っているらしいにも話を聞きたいトコだが、それは彼女の方から話す気になってくれた時でいい。
(もしかしたらは…すでに真相にたどり着いてるのかもしれないな…)
夜神と対峙した時の彼女の言葉。
"あなたは何も分かっていない"
夜神に向けた、あの言葉の意味を、俺はずっと考えていた。
二代目L…全てはそこに隠されている気がした。
夜神に聞いた名前は松田桃太だったが、それが事実かどうかも今となっては疑わしい。
そんな名ばかりの二代目に、あそこまでの指揮能力があったのかどうか。
夜神がキラと繋がり、死神の目を持っていたという事は、日本警察も全てキラの手に落ちたと考えるべきだ。
やはりキラは日本警察の中にいる…
必ず見つけ出して…この手で殺してやる。
そう心に誓いながら、思い切りエンジンをふかした。
「ここにあるもん好きに使って」
廃墟ビルの一室に案内してくれたマットは、そう言いながら煙草に火をつけた。
いかにも手馴れた手つきを見て、子供だった頃の彼を思い出していると、ふとマットと目が合った。
「何見惚れてんの?」
ちょっと笑いながら、おどける彼に、私も笑みが零れる。
「マットも大人になったなぁって思って」
「そりゃ4年も経てば嫌でも大人になるよ。少なくともあの頃よりは、だけど」
そう言ってソファに腰を下ろすマットの隣に、私も座った。
「そうだね…。もう4年も経ったんだっけ…」
4年も、と言いながら、まだ4年だったんだとも思う。
Lを失ってからの日々は、何十年にも感じられた。
「心配してたんだぜ?が日本からいなくなったって連絡があった時…」
白い煙を天井に吐きながら、マットは静かにソファへ凭れた。
「Lに起きた事もショックだった…。案の定、メロが一番に施設を飛び出して…その後にニアもアメリカに移り住んで…
俺は正直、どうしたらいいのか分からなくて最後まで悩んだよ…。でも結局は俺も同じ穴の狢だった。
清く正しく、なんて動けるはずもなかった。凄く後悔したんだ。メロを追いかけて行けなかった事…」
マットはそこまで話すと、小さく息をついた。
「ニアは別として…メロがどうやって生きてきたか分かる気がするよ。俺だって施設を飛び出してからは汚い事をしながら生きてきたから」
「マット…」
「俺も必死にメロとを探した。メロは絶対、を見つけるって信じてたよ」
俺の勘は当たるんだ、と言ってマットは笑った。
「ニアの傍をウロついてれば、きっとメロが接触してくる事も分かってた。まあ、まさかあんな凄みのある傷を作って登場するとは思わなかったけど」
そう言って苦笑するマットに、私は僅かに目を伏せた。
「あの傷は…私のせいなの…」
「え?」
「メロは私を庇ってあんな怪我を…」
そこまで言って言葉を切ると、マットは少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「そんなの当然だろ?」
「……っ?」
「俺だって同じ事すると思うよ。もし同じ状況になればね」
「マット…」
驚いて顔を上げると、マットは笑いながら煙草を灰皿へと押し付け、また新たに一本咥えた。
「は俺達にとって…大切な存在なんだ。Lと…同じくらい大切な…」
優しい目をして、そんな事を言ってくれるマットに、目の奥が熱くなった。
Lを失って、現実から逃げ出した弱い私を、メロもマットも、必死に探してくれてたんだ。
なのに私は一人ぽっちになった気がして愚かにも死ぬ事を考えながら生きてきた。
本当は、真っ先に彼らの元へ帰るべきだったんだ。
あの場所へ帰り、真実を話していれば…メロをあんな危険な場所へ追いやる事も、怪我をさせる事もなかったのに。
悔しくて、強く唇を噛んだ。
「、どうした?泣いてんのか?」
不意に黙った私を心配して、マットが顔を覗き込んできた。
かすかに煙草の香りがする。
「…煙が目に沁みただけだもん」
「ぶ、あはは!何の映画の台詞だよ。相変わらず嘘つくのヘタだな、は」
言ってクシャリと頭を撫でてくるマットにつられて私も一緒に笑った。
まるで昔みたいだ、と懐かしくなって、また泣きそうになる。
あの頃は、こんな風に皆でよく笑ってたのに。
「ごめんね、マット。そしてありがとう」
思った事を素直に口にすると、マットは何も言わず、ただ微笑んでくれた。
「お礼はホッペにキスとかの方が嬉しいんだけどなぁ」
「………」
さすが昔からフェミニストというか、女の子のお尻ばかり追いかけてたマットらしい言葉に、私の涙も引っ込んだ。
その時、「何ならその顔に同じ傷でも作ってやろうか?」という声が聞こえ、二人で驚いて振り向けば、ドアの入り口にメロが寄りかかって立っていた。
「メ、メロ…!もう戻ってきたのか?」
マットが慌てたように立ち上がると、メロは溜息をついて部屋の中へと入って来た。
「お前とを二人きりにしとくなんて心配だからな」
「お、言ってくれるねえ…。今までは我らが姫をメロが独り占めしてたんだから俺にも少しくらい貸してくれたっていいだろ?」
「貸すか、バカ」
「………」
メロの一言で頬が赤くなる。
そんな風に言ってくれる事が何となく嬉しくて、つい顔が綻んだ。
するとマットが苦笑しながら肩を竦めると、
「はいはい…。んじゃ邪魔者は退散するとするか」
「え…?」
ドアの方に歩いていくマットに驚いて立ち上がると、メロが、「どこ行くんだよ」と顔を顰めた。
「俺はこの近くにアパート借りてるんだ。そこに帰るよ。メロもとりあえず病み上がりなんだし今日は体を休めておけよ」
「マット…」
「じゃあも今日はゆっくり休んで。少し疲れてる顔してるしさ」
「…うん。色々ありがとう」
「いいって。今まで何も出来なかったんだし。じゃな、メロ。また明日来る」
マットはそう言って笑顔で部屋を出て行った。
メロはそれを見て、「ちょっと待ってて」と彼の後を追いかけていった。
何だろう、と思ったが、誰かから情報をもらってきたんだろうし、その事についてマットと話があるのかもしれない。
そう言えば、さっきマットがメロにメモを渡してたっけ…
"女の住所はこっち"とか何とか…
そこでハッと気づいた。
――女…?女って…誰?
あまり気にしてはいなかったが思い出すと気になってくる。
どこの誰なんだろう…
そんな事を考えていると、メロが戻ってきて、慌ててソファに座りなおした。
「マ…マットは…?」
「ああ、アイツなら帰った。また明日の昼頃ここに来る」
「そ、そう…」
そう答えながらも、いきなり部屋で二人きり、と言う状況になり、少しだけ緊張してきた。
前だって同じ部屋に寝泊りしてたけど、あの時は同じ建物内に組織の人達がいたし、メロも忙しく動き回ってたから、それほど部屋にいる事もなかった。
最近じゃメロも怪我をしてたし、アネットも一緒だから部屋も別々で、改めてこんな風に二人きりになる状況もなかったのだ。
(因みにアネットにはロスの家の留守番を頼んできた)
「あ、あの―――」
「腹減らないか?」
「え?」
沈黙が気まずくて何か話そうと口を開いた瞬間、メロが隣に座って問いかけてきた。
「マットの奴、色々と買いこんで来てくれたみたいだぜ」
「あ、じゃあ何か作ろうか?メロ、お腹空いた?」
「いや俺は別に…。さっき軽く食べてきた」
「…え、誰と?」
思わず、そんな言葉が出てきてハッとしたが、メロも僅かだが私から視線を反らしたのを見逃さなかった。
「…別に誰とってわけじゃない。何でそんな事聞くんだ?」
「ううん…何でもない。私もそんなに空いてないし…先にシャワー浴びてくるね」
「…?ああ、分かった」
そう言って立ち上がると、メロは訝しげな顔をしたが、それ以上聞いてくる事はなかった。
そのままバスルームへ駆け込むと、思い切り息を吐き出し項垂れる。
何だか胸の奥がモヤモヤして息苦しい。
メロが私以外の女の人と、もしかしたら食事をしながら情報交換してたのかと思うだけで、嫌な気分になった。
「バカみたい…何、そんな事で嫉妬してるのよ…」
鏡に映った自分の顔が、あまりに情けなくて思わず苦笑する。
相手が女だろうと、メロは欲しい情報があるだけなんだし、いちいち気にしてたらきりがない。
いや…本当なら私がメロに知っている事を全て話せばいいだけの事だ。
この前はノートの事と死神の目の事については知ってる、と話したが、それ以上話す余裕はなかった。
あれでメロも私が何か知っているという事に気づいただろう。
だったら私が一言、キラの正体を知ってると言えば、それで済むはずだ。
なのに、なかなか口に出来ないのは…
確かな証拠がないという事もあるが、キラの正体を知ったメロが、どういう行動に出るか、心配だからだ。
メロの事だから、もしかしたらキラの元へ出向き、真正面から対決しようとするかもしれない。
そうなった時、メロの命の保障なんてないに等しい。
あの男はどうやったか知らないが、私の目の前でLを殺した。
わざとらしく彼を抱きしめていたけど、私は知ってる。
皆に気づかれないよう、あの氷のような笑みを浮かべていた事を…
あれを見た時、それまで漠然と疑っていたものが確信へと変わった。
あの時、夜神ライトはノートを手にしていなかったけど、彼こそが本当のキラだとハッキリ分かったのだ。
もしかしたら彼についている死神がLの名前を書いたのかもしれない。
もしくは、あのヒグチについていた死神か…
あのレムとかいう死神は、Lが死んで以降、姿が見えなかったのは覚えている。
もし夜神ライトに頼まれ、Lを殺したのなら…目に見えない死神すら敵、という事になる。
そんな場所へメロをやるわけには行かない。
「はぁ…」
どうしていいのか分からず、溜息が洩れた。
このまま行っても、メロはいつか真相に気づくだろう。
そうなった時、私はメロを助ける事が出来るんだろうか。
Lの最期が脳裏に焼きついて離れない。
あの身も凍るような恐怖は二度と味わいたくない。
いっそ何もかも忘れて、このままウインチェスターに二人で帰れたら…
ふと、そんな事を考えて胸が痛くなった。
"メロ…どちらが先にキラに辿り着くか――競争ですね"
さっきのニアの言葉を思い出し、軽く苦笑が洩れる。
俺達は、施設を出てなお、競争してるんだな…
まあ、いい。
俺が掴んでいた事をニアに告げたところで、俺達は同じスタートラインに立った。
そして最終地点まで確実に近づいている。
ここからが本当の勝負だ。
軽くチョコを噛み砕き、先ほどハルに聞いた話を思い出す。
ニアは二代目Lがキラじゃないかって―――
二代目L…松田桃太…
無能で、日本警察の意向をただ言わせてただけだって言うのも怪しくなってくる。
クソ…あの時、もう一度夜神に問いつめれば良かったか…?
苛立ちを紛らわすようにチョコを咥え、携帯を出す。
いや…まだ遅くはない。
日本警察庁長官を浚った時、奴の携帯から前のL、そして二代目Lの下で動いているメンバーの名前と連絡先は調べてある。
そこから一人選び、尋問するか…
しかしキラかもしれない、という危険はある…直接、顔を合わせない方が―――
「メロ…?」
「……っ」
考え事をしていると、いつの間に出たのか、がバスタオルで髪を拭きながら目の前に立っていた。
「どうしたの?難しい顔して…」
「いや…」
どこか不安げなに軽く首を振ると、俺もシャワーに入る、とだけ言って立ち上がる。
どう動くべきか、少し考えたかった。
「そう…あ、バスタオルはバスルーム奥の棚にあるから」
「ああ」
の言葉に小さく頷く。
まさか俺のそんな態度が、彼女を不安にさせてる事など知る由もなかった。
「な、何だよ、そんな怖い顔して…」
マットは怯えた顔をして、そのまま後ずさる。
メロは用事があるとか言って、またもマットに私を任せ出かけてしまったのだ。
「だから…メロは一人で何をしようとしてるの?」
「さ、さあ…俺には何も―――」
「嘘!マットは聞いてるでしょ?」
そう言って更に詰め寄ると、マットは困ったように頭をかいた。
「そんな気になるならメロに直接聞きゃいいじゃん」
「…だって…心配するなとしか言ってくれないし…」
「だったら、それ信じて待ってればいいだろ?メロだってもう子供じゃないんだしさ」
苛立っている私を宥めるように言うと、マットはポットからコーヒーを注いでくれた。
「ほら少し落ち着いて。そんな怖い顔は似合わないって♪」
「…もう…呑気なんだから…」
昔と変わらずマイペースなマットに、つい苦笑が零れる。
そのままカップを受け取りソファに座ると、マットもホっとしたように隣に座った。
「それ飲んだら少し近所でも案内するよ。、ニューヨークは初めてだろ?」
「…観光しに来たわけじゃないのよ?」
「そうだけど…部屋にこもってばかりじゃつまんないじゃん。メロも今日は遅いと思うし―――」
「何で?どこに行ったの?」
つかさず尋ねると、マットはしまった、と言う顔をして笑っている。
でも、どこに行ったのかくらい聞いたっていいはずだ。
「い、いや…どこって…情報くれるっていう人物と会ってんじゃない、かな?」
「…また?メロはどの人からどんな情報を聞きだそうとしてるのよ」
「…いやだから…彼女はSPKだった人で…ニアの持つ情報を―――」
「彼女…?その人やっぱり女性なのね?」
「…え?あ、ああ…まあ…」
それを聞いて胸の奥が再びモヤモヤしてくる。
別にメロは情報が欲しいだけで、その人と何をするわけでもないとは思うけど、何となくいい気分はしない。
「ふーん…。でも…メロに情報なんかくれるの?ニアと一緒に働いてる人なんでしょ?」
「そうだけど…メロが言うには、彼女はキラ逮捕を何より優先してる人だから、ニア側とか、こっちの敵とかいうのはないらしいぜ?」
「…そう…。で、どんな人…?」
「ああ、その女?チラっと見たけど、凄ぇー綺麗なお姉さんって感じ?クールで頭も良さそうだしさ」
「…どうせ私はクールじゃありませんよ…」
「は?」
「な、何でもない…」
つい口から出てしまい慌てて取り繕うと、マットのキョトンとした顔がニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「…何怒ってるわけ?」
「べ、別に怒ってなんか―――」
「怒ってるじゃん。は昔っから顔に出るからなぁ」
「そ、そんな事ないもん」
「あるある。Lもよく、"は怒ると唇がこーんなに尖るんですよ"って言ってたしさ」
「………」
そんな昔の事を言われ、思わず頬が赤くなる。
そんな私を見て、マットは更にニヤニヤし始めた。
「さ、もしかして…メロが女と会ってるのが気にいらないのか?」
「そ!そんなんじゃ―――」
「それにしちゃメロが出かけてからずっと機嫌悪かったけど?」
「…それはだから…何も言わないで一人で出かけちゃったし…」
「それだけか?」
「それ以外に何があるって言うのよ…」
「ん〜だから〜ヤキモチ、とか♪」
「バ、バカ言わないでよ!な、何で私がメロにヤキモチなんか―――」
そこで真っ赤になると、マットは楽しげに笑い出した。
「ぷ、あはははは…!」
「何がおかしいのっ」
急にお腹を抱えて笑い出したマットに、更に顔が赤くなる。
こういうところは、ちっとも変わってない、と思いながら、未だひーひー言いながら笑っているマットの背中を叩いた。
「…ぃててっ…暴力はんたーい」
「マットがバカ笑いするからでしょっ?」
「…はは…っ。だってってば分かりやすいしさ〜」
「な…」
「Lと付き合う前だって、そんな風に否定してたじゃん?俺がからかったら」
「……え?」
ニヤリと笑うマットにドキっとした。
そして不意に過去の記憶が脳裏を掠めていく。
そう…だ。
まだ私とLが恋人同士になる前…こんな風にしょっちゅうマットにからかわれてたんだっけ…。
あの時は互いに意識し始めた頃で、周りの子達に「お似合いだね」とか、「結婚しちゃえばー」なんて言われるのが恥ずかしかった。
そういう事には鋭いマットにも、「はLのこと好きなの?」なんて聞かれて、私は真っ赤になった覚えがある。
あの時もさっきみたいに、「そんなわけないでしょ」なんて強がったんだった。
でもその後、Lの方からきちんと告白してくれて、私たちははれて恋人同士になった。
あの時は誰よりも幸せを感じたのに――。
「あの時はさぁ、嬉しいのと寂しいのと半々で複雑だったよ」
「…え?」
「ほら、マット少年は、"俺がいつかをお嫁さんにして幸せにする"なんて夢みたいなこと思ってたからさ」
「な、何よ、それ…」
「何って…初恋だよ、俺の」
「……え?」
不意に今までとは違う真剣な表情を見せるマットにドキっとして顔を上げた。
「と言うより…あの頃は施設の少年全ての初恋の相手だったよな、は」
「…ま、まさか―――」
「いやホントだって。俺とか、マーカス、ニック…そして…メロもね」
「………っ」
そこでメロの名前が出てドクンと鼓動が鳴る。
でもマットは楽しげに言葉を続けた。
「そうだな…特にメロなんかは…Lもも大好きだったから、二人が付き合いだした事を喜んでた半面、ちょっと寂しそうな顔してたっけ」
「…メロが…」
「うん。まあでも、そんな寂しさのせいなのか、メロの奴それから一番になる事に拘りだして、暇さえありゃLの後をついて歩いてばっかでさ」
「あ…」
そう言われ思い出した。
Lと付き合い始めた頃、メロはそれまで以上に勉強熱心になって、Lの部屋にもよく遊びに来てたっけ。
成績が自分と大して変わらないニアにライバル心を燃やし始めたのも、確かあの頃だ。
「メロはLに憧れてたんだ。だからこそ少しでもLに近づきたかったんじゃないかな。に認めてもらえるように」
「え…私に…?Lじゃなくて…?」
「って言うか…男はさ。好きな女に認めてもらいたいって思うような生き物なんだよね」
「……っ」
その言葉にハッとしてマットを見れば、彼は困ったような笑みを浮かべていた。
「もう…気づいてんだろ?アイツの気持ち…」
「―――ッ」
その言葉に息を呑むと、マットは小さく息をついた。
「メロは…もう何年もの間、を想い続けてんだよ…。誰よりも…を求めてる」
「マット…」
「自分の手をどれほど汚そうと…が昔のように笑ってくれるなら、それだけでいいってさ」
ホント、不器用な奴だよな、と言ってマットは笑った。
でも私は胸の奥が痛くて、痛くて、また泣いてしまいそうだ。
心が震える。
こんな私を―――想い続けてくれて、ありがとう。
こんな弱い、私なんかを――
頬に涙が伝って落ちた。
それを見たマットは、そっと私の頭を撫でながら、「奇跡なんてもんがあるなら、見てみたいよ」と微笑んでいる。
「あいつさ。俺に連絡してきた時、こんなこと言ってたんだ」
その言葉に顔を上げると、マットは幸せそうに、まるで自分の事のように、呟いた。
――何を犠牲にしても、何を失っても、俺はの、
『隣に居ることを許されるくらいにはなりたかった』
今回は短めですね;;
やっとこマット登場ー
上手くキューピッドになればいいな(´¬`*)〜*
コメント、いつもありがとう御座います(●´人`●)
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●メロが男らしすぎて死にそうです…惚れるきっかけになった小説なんですが、兎に角好きです!
(ヲヲ…!メロが男らしいなんて嬉しいです!しかもキッカケになれたなんて、書き手としては最高に感激ですよー(>д<)/)
●元々メロのことはあまり好きではなかったのですが、この話を読んでから今ではデスノの中で一番好きになりましたw
(ひゃー;メロ好きじゃなかったのに、この話で好きになったなんて感激ですよ!不器用なメロは愛しいですよね♪)
TITLE:群青三メートル手前