STORY.16 君に殺されるならそれも良いかと、少しだけ本気で思った。












こんなに優しいキスをしたのは初めてだった―――




闇夜に輝く青白い月に、二人は照らされていた。
細い首筋に、白い胸元に、口付け、触れるたびに、何度も夢じゃないかと彼女を確認する。
部屋の温度が低いからか、の肌は冷んやりとしていて、これが現実なのか夢なのか、と俺を不安にさせた。


「メロ…」


甘く切なげに名前を呼ぶ彼女が愛しくて、胸の奥が苦しい。
ただ愛しくて、愛しすぎて苦しいなんて、こんな想いがあると知らなかった。


「……」


声が掠れるほど、この想いが体中を焦がしていく。


愛しい、愛しい、愛しい―――


その想いは尽きることはなくて、何故、これほどまでに彼女が欲しいのか、自分ですら分からない。


この想いが、俺の全てを狂わせるから…





L―――貴方も彼女を抱きながら…こんなにも狂おしいほどの愛情を、もてあましていたんだろうか。





抱いても抱いても足りないほどの愛情を…




俺の夢は決して叶う事などない。




そう思っていたのに―――












深く互いの唇を求め合いながら、メロの体を抱きしめた。




もう離れないで―――もう離さないで。




心の奥から溢れてくる感情が身を焦がしていく。
ポッカリとあいた心の隙間が、今、メロの想いで溢れていくのを感じた。


どれほどの愛情を、その心に隠してたの?
どのくらい私を、想ってくれてたの?


「……………」


何度も私を呼ぶ、その声が掠れるくらい、メロも心を焦がしてくれてるの?


もどかしいと言いたげに、引き裂くように服を脱がしながら、唇を肌に這わせていく。
メロの大きな手が、私の体に触れるたび、全身が焼かれるような熱さを感じた。


「…細すぎて…怖い…」


腰に腕をまわし、耳朶に口付けながら、メロの言葉が吐息と一緒に洩れる。


「…壊してもいい…怖がらないで、触れて」


一瞬、躊躇したメロに、もう一度口づける。


どうなってもいい。
このままメロと、どこまでも溶け合えたらいいのに。







「…んっ!」


乱れた服の合間にさらされた胸の膨らみを、舌先で翻弄される。
強引に脚の間に滑り込む手が、メロの余裕のなさを教えてくれる。
それでも、慣れたキスを受けるたびに、チクリと嫉妬の痛みが胸に走った。
だってそれは…私以外の女性に触れてきたという、証だから…


自分の事を棚に上げて過去にまで嫉妬するなんて愚かだろうか。
それを言えばメロは怒るだろうか。
でも、それでも思わずにはいられない。


私以外の女性に、もう二度と、触れないで、と――








「…あ…メ…ロ…ッ」


甘い刺激と共に、メロの指が中へ吸い込まれるのを感じ、体が跳ね上がる。
キスは激しいのに、その優しい手の動きに、僅かな理性も消えてしまいそうになった。
体中にメロの唇が触れて、何かを確かめるように愛撫していく。


「…あんまり煽るな…ホントに壊しそうだ…」


あまりに苦しくて、メロの体に手を伸ばすと、切なげな声がかすかに聞こえた。
それは本当にいいのか、と確かめるような、甘く、それでいて悲しい響き。


「メロ…愛してる…」


少しでも伝わるように、心の一部を口にする。
本当は足りない。
こんな言葉ではきっと。




「…だから煽るなって…」


強い力で私の体を抱き起こすと、メロは覆いかぶさるように唇を重ねた。


「ホントに…壊すぞ…」


そう呟いたメロの表情は、私が知らない、彼のもう一つの、男の顔。







「出来るだけ…優しくしたい…」


「………っ」






ベッドに押し倒し、私の首筋に顔を埋めた瞬間、紡がれた言葉に、涙が溢れた。





「―――んっ」





メロがゆっくりと入って来た時、痺れるような、甘い痛みが体中に走った。
Lを失って以来、誰とも肌を合わすことのなかった体が、素直に痛みを脳に伝える。


「…痛い、か…?」


少し苦しげな息を吐きながら、メロが酷く心配そうな顔で私を見つめるから、慌てて首を振った。


この痛みは、私のLへの愛の証でもあり、そして…メロへの愛の証。


こんなに深く、暖かい愛情を、私は二人から受け取ったのだ。






「…メロの方が…つらそうだよ…」


腰を推し進めるたびに、苦しそうな吐息を吐くメロが心配になる。


「…苦しい?」


薄く開いた唇に、そっと指を這わせると、メロの体がビクっと跳ねた。


「…バカ…煽るなって…言っただろ…」
「……んっ」





"これでも…我慢してるんだから…"




そう呟いたのと同時に、奥まで入って来た熱で、全身が痺れるくらいの感覚が襲う。
メロと一つになれた事が、純粋に嬉しくて、また涙が頬を伝った。


「…痛い…?」
「……ううん……幸せすぎるだけ」


思った事を口にすると、メロが照れたように視線を反らした。
そんなメロがまた愛しくて、私からも触れたくなった。
メロの頬に触れようと、そっと手を伸ばすと、その手をぎゅっと握られ、ドキっとする。





「メロ…?」


「言葉じゃ…足りない。 お前が―――愛しすぎて…」


「……ッ」





…ううん、それは私の方なの。
こうして、心も体も繋げてるのに、それでもまだ足りないほどに…愛してるのは私の方なの。


だから、何度でも、私の全てを奪ってくれたら…それでいい。



「…ずっと…俺の傍で笑ってて」



苦しそうな声を最後に、私はメロの熱に飲み込まれた。
体を激しく揺さぶられるたびに、少しづつ痛みがなくなり、甘い疼きが体中に走る。
私は何度もメロの名前を呼び続けながら、彼を強く抱きしめた。
抱きしめていないと不安だった。
また…この腕から愛しい温もりが消えてしまいそうで。
死神がまた、私の大切な人を奪っていきそうで。


青白い月明かりが私たちを照らしている。
その明かりの中、見えたメロの苦しげな表情が、また狂おしいくらいの想いを溢れさせる。
縋るように名前を呼べば、重なる唇と唇。
その熱で、これまでの痛みも、苦しみも、全てが溶けていく。






メロの激しい想いが、私の中に流れ込むのを感じた時、薄れていく意識の中、Lの優しい微笑を見た気がした――










ふと熱が引いた体に冷たい空気が触れ、ゆっくりと目を開けた。
かすかに開いた窓から風が入り込み、カーテンが揺れている。
青い月夜は、未だ光を降り注いで、俺は僅かに目を細めた。
そこでハッと息を呑み、隣を見れば、そこには夢じゃない、現実が無邪気な寝顔を見せていてホっと息をつく。


「夢じゃ…なかったんだ」


全身がダルイのを堪えて、ゆっくりと寝返りをうつ。
俺の腕の中で眠る、この世でたった一人の最愛の女性。
薄く開いた唇は艶やかに光っていて、嫌でも誘われてしまう。
誘われるがまま、起こさぬよう、その唇にそっと口付けた。


「ん…」


ゆっくり唇を離すと、はかすかに寝返りを打った。
ふと視線を落とせば、彼女の白い肌に散らした、俺だけのものだという赤い刻印が、浮かび上がっている。
ほんの少し前まで抱き合っていたのに、彼女の温もりを思い出し、また体が熱くなる。
それと同時に感じた事もない幸福感が俺を包んだ。
触れる事はないと思っていたの肌に、気が狂いそうなほど溺れた。
幸せすぎて怖くなるほどに。


こんな日が来るなんて、想像すらしていなかった――


彼女の意識が飛ぶまで求めて、追い詰めてしまった事を、少しだけ後悔しながら、死んだように眠るに再び口づける。
その感触に、また胸が痛くなった。





"この4年間、朝起きるのが辛かった。
目覚めた瞬間に思うの…Lはもういないって…
目が覚めた瞬間から、また私の闇が始まるの。
だけど不思議ね…ここ数週間前からそれが頭に浮かばなくなったのよ…"





眠りにつく直前、朦朧とした意識の中で、そんな言葉を聞いていた。





L…あなたは…今、どんな思いで俺たちを見下ろしてるんだろう。
怒っているのか、それともホっとしているのか。
今の俺には分からない。
でも…今の俺に出来うる限り、彼女を大切に守って、二人で生きていくから。
だから…




「…そこで…見守っててくれよ、L…」




月を見上げて呟いた。


この声は、彼に届いただろうか。







「…メ…ロ…」



小さな声に呼ばれ、腕の中で寝返りをうつに、笑みが零れる。
自分が、こんなにも穏やかに笑えるんだという事を、今更ながらに思い出した。


「…どっちが年上なんだか」


子供のようにすがり付いてくる彼女に、胸の奥が熱くなる。



愛しくて、愛しくて、抱いてる時、何度も死ぬかもしれないと…そう思った――


「ったく…俺を殺す気かよ…」


そっと前髪を避けて、そこへ口付けると、かすかにが微笑んだような気がして。
















君に殺されるならそれも良いかと、




     少しだけ本気で思った。
















久々のメロ夢です!
今回はラブラブシーンだけですので短めでお送りしました(笑)
さて、天国のLは祝福してくれてるのでしょうか。
案外、天国で嫉妬に狂ってたりして…(オイ)


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●メロすごくかっこよかったです。二人の気持ちが通じ合ってよかったです。
(ありがとう御座います!やっと二人、通じ合いました(TДT)ノ









TITLE:群青三メートル手前