STORY.18 その未来に僕は居ない









尾行していった先で数人の日本人と見られる男達が出入りしているビルを見つけ、オレはそこを張っていた。
このビルに日本捜査本部があると確信しながら、あの"二代目L"と名乗っている男もいる可能性が強くなり、ここは焦らず観察する事にした。


(マットの方はどうなってるんだろう…)


そう思った時だった。
携帯に着信が入り、すぐに通話ボタンを押すと、マットの少し浮き足立った声が聞こえてくる。


『模木が入った部屋に住んでるのは若い女…いや子供のような女だ』
「…女?」
『一見、模木の彼女とも見える…腕を組んで買い物に…オレがこう言うのも何だが……かなり可愛らしい……』


マットは何気に羨ましそうな説明を始めたが、殆ど無視し(!)その女が何者なのかを考えていた。
確かハルの話に、それらしい女が出てきた。
と言う事は、その女が"第二のキラ"だと言う事になる。
いや、"第二のキラだった" はず…


「分かった。こっちはまだヘタな手出しは出来ない。まずはそっちからだ」
『OK』


電話を切り、マットのところへ急ぐ。
その女がどういう人物なのか、知る必要があった。


その数分後、オレはマットと合流し、その女の部屋を見張る事にした。
不在時に部屋に忍び込み、盗聴器を仕掛け、近所にあったオンボロアパートを仮住まいに、と借りる。


「えー?オレがあっち見張るの?」
「ああ。野放しにしとくわけにはいかないだろう?」


汚い部屋を適当に片付け、パソコンの機器や機材を運びこみながら、不満げな顔をしているマットを睨んだ。


「この女は"第二のキラ"だったはずの女だ。オレが見張るから、マットは早く相沢達の方へ行け。場所ならメモしただろう」
「…とか何とか言って…メロ、もしかして、この女に興味あんじゃねーの?に言いつけるぞ〜?」
「………」


下らない事を言い出したマットに、心の底から溜息をつき、ジロリと睨む。
マットは慌てたように笑顔を作り、両手をホールドアップさせると、「ジョーク!ほんのジョークだって」と笑って誤魔化した。


「……下らないジョークを言うな。このバカ女のどこにオレが興味を持つって言うんだ?」


そう言いながら、盗聴器から聞こえてくる、女と模木(殆ど女がしゃべってるが)の会話に耳を傾けた。


『…でね〜?ライトが言うのよ〜♪ミサがいてくれてホントに助かるって!ミサ、愛されてると思わないー?モッチー』


語尾を延ばす特有の話し方で、甘ったるい声を出している女に、正直ウンザリする。
こういう話し方の女はバカ丸出しで、頭が悪いと言っているようなものだ。
それでもマットには、そんな事すら気にならないのか、「可愛いと思うけどね、オレは」などと言い、ニヤケているから呆れてしまう。


「マット…お前、もう少し女を見る目を養え。大人になっても自分の事を名前で呼んでる女は対外、IQが低い。ただのガキだろ」
「オレ、IQで女見ねーもん。バカな方が、すぐヤラせてくれそーじゃん♪」
「……はあ…」(深い溜息)
「あ、今、すんげー呆れてるだろ。ま、メロはいいよなぁ。は美人で可愛くて優しいし、バカじゃないからな」
「…うるさい。いいから早く行け」


手でシッシとやれば、マットはひでぇーとブツブツ言いながら、やっと部屋を出て行った。
せっかく、ここまで来て、呑気に世間話をしてる暇などない。
オレはヘッドフォンをしながら、チョコを咥え、ソファに腰をかけた。
相変わらず、ヘッドフォンからは甘ったるい声で話す女の声が聞こえてくる。
だが、特に役に立つ情報を話すわけでもなく、模木に恋人らしき男の事を、延々とノロケまくっているようだ。


「この天然のバカ女が"第二のキラ"だったのか…?」


ウンザリしながら溜息をつく。
だが模木が、この女と一緒にいる理由が他にあるとも考えられない。
パソコンで女の載っているサイトを閲覧すると、色々なデータが載っていた。
そこには女の両親が強盗に殺され、その犯人をキラが殺した、という事まで載っている。
そして、その事により、女はキラを崇拝しているような発言を繰り返していたようだ。


だが…本物の第二のキラなら、逆にそんな発言は避けるはず…この女がノートで人を殺しているようには見えないが…
いや…目を持っていれば、それだけで価値があると言う事か…?
それにしてもキラが、こんな女を使うとは……


何となく納得いかず、チョコを噛み砕いてパソコンの画面を見つめた。
その時、ふとの事を思い出す。


もしこの女が第二のキラだったなら、日本でLや、そしてとも顔を合わせているはずだ。
Lはキラ、そして第二のキラを、かなりのところまで絞り込んでいたという。
なら、当然、も知っているはず…


時々考えるのは、はまだ何か、オレに隠しごとをしている、という事だ。
"死神"という言葉を彼女の口から聞き、その後、実際にこの目で死神を見た時、そう直感した。
は日本で、キラに関する重大な秘密を知った可能性がある。
でも、それを何故、オレに言わないのか…


心当たりはある。
きっとは怖いんだ。
オレに、その情報を伝えれば、その後にオレがとる行動など、彼女にはお見通しだろう。
そうなればオレはLと同様に、死と隣り合わせになる。
そうなった時、また悪夢が繰り返されるんじゃないか、と、は心配してるんだ。
そしてオレもまた、その不安を抱えている。
キラを追う一方で、もし正体がばれてオレまでキラに殺されたら…
はまた深い傷を負う事になる。
以前のオレなら、死ぬ事など怖くはなかった。
でも今は…の為にも生きていたい、と思っている。
それがほんの僅かでもオレの弱さに繋がっているんだ。
だからこそ、何かを知っているに問い詰める事が出来ない。
キラの情報なら少しでも欲しいクセに、に未だに聞くことが出来ないでいる。
を手に入れてから、それはいっそう強まり、オレは迷っていた。


「チッ…臆病者め…」


自分の弱さと直面し、思わず毒づく。


を傷つけたくないなら、キラに勝てばいいだけの事―――――。


そう自分に言い聞かせ、オレは内にある恐怖を追い出そうとした。


















ニアに言われて来た場所は、ダウンタウンにあるシビックセンター前だった。
目の前には、郡裁判所や市庁舎などが立ち並び、すぐ横にはLAタイムズ新聞社、またすぐ近くにはロス警察までがある。
こんな目立つ場所に、本当にニアが姿を現すのか、私は疑問に思いながらも、言われた場所に降り立った。
夕方のこの時間ともなれば、仕事を終えて帰宅する人達で溢れ、かなり賑やかだ。
ふと時計を見れば、約束の時間、数秒前。
私は、それらしき人がいないかと、辺りを見渡してみた。
その時、不意に背後で気配を感じ、私は振り返った。


さんですね?」
「………っ?」


静かな声で話すその人物は、ニア本人ではなかった。
てっきりニアが来るものと思い込んでいた私は、一応用心の為、その質問には答えず、「あなたは?」と問いかける。


「私はニアと捜査をしている、SPKのジェバンニと言います。一緒に来て頂けますか?」
「……SPK…」


誤魔化さず、ハッキリそう応えた男は、近くに止めてある車を指差した。
黒髪に長身の男。
顔にはサングラスをかけている。
何か怪しげで、本当に信用してもいいのか、どうか考えあぐねていると、不意に携帯が鳴り響き、ドキっとした。
男が電話に出ろと促すように、合図をしてきたのを見て、私はバッグから携帯を出すと、ディスプレイを確認した。
一瞬、メロからかと思ったが、そこには先ほどと同じく、非通知としか出ておらず、軽く息をつく。


「もしもし…」
『ニアです。そこにSPKの者はいますか?ジェバンニという男です』
「…え、ええ…いるわ」
『では彼の指示に従ってください。信用して頂いて大丈夫です』
「…分かった…」


ニアが言うなら本当に大丈夫なのだろう。
それだけ応えると電話を切り、改めて目の前の男を見る。


「では、車に乗って下さい」


止めてあった車に私を乗せると、ジェバンニという男は運転席に乗り込み、私にアイマスクを差し出した。


「念のため、それをつけて下さい」
「え…これ…を?」
「はい。行き先がバレては困る事もありますので、申し訳ありませんが」
「……分かりました」


かなりの用心深さに驚きながらも、素直にそれをつける。
ニアだってキラを追っているのだ。
どこから情報が洩れるか分からない今、このくらいするのは当然の事かもしれない。


言われたとおりアイマスクをつけると、車は静かに走り出した。
その間、ジェバンニという男は一切口を利かず、黙々と運転しているようだ。
車は何度か曲がったり、スピードを上げたり下げたりしながらも、10分ほど経った頃、やっと停車した。


「どうぞ、アイマスクを外して下りてください」


言われるまま、それを外し、軽く目を細めながらも車を下りる。
そこは、どこかのビルの駐車場だった。


「こちらです」


ジェバンニは慣れた様子で廊下を歩き、エレベーターに乗り込んだ。
私もすぐに後を追いかけ、それに乗り込む。
エレベーターは最上階で止まり、静かに扉が開いた。
ジェバンニはエレベーターを降りると、再び廊下を歩いていく。
辺りはシーンとしていて、他に人はいないようだった。


「ジェバンニです」


彼がある扉の前に立ち、そう告げると、その扉は音もなく開いた。
私が促されるまま、中へ入ると、ジェバンニをそのまま廊下に残し、扉は閉じてしまった。
ここからは一人で行けと、いう事なのだろう。
私は、ゆっくりと足を進めながら、「ニア?」と声をかけてみた。


「私はここです」


奥から返事が聞こえてきて、ドキっとする。
声のする方へ歩いて行くと、目の前には沢山のモニターが現れ、その辺りには、これまた沢山のパソコン機器が繋がれている。
それを見て、一瞬脳裏に、Lの姿が浮かんだ。


彼も…こんな風に沢山のモニターの前で、仕事をしていた。


ふとパソコンの前に、座っていたLの背中を思い出し、胸が痛くなった。






「…、お久しぶりです」
「………っ」


ボーっとしていると、不意に背後から声をかけられ、ビクっと身体が跳ねる。
そのまま、ゆっくりと振り返った。


「……二ア…」


振り返ると、そこには一人の少年がいた。
床いっぱいのオモチャに囲まれ、その真ん中でペタンと座り込んでいる。
その姿は、懐かしい記憶と重なり、つい笑みが零れた。


「…久しぶり…。大きくなったね」


記憶の中にいるニアよりも、はるかに成長した姿を見て、胸の奥が熱くなる。
それと同時に、それだけの月日が経ったのだ、と思うと、何故か悲しくなった。


「…は…少しも変わりませんね。いえ…少し痩せましたか」
「そうね……色々…大変だったから」


メロと再会するまでの間、私は死んだも同然のような生活をしていた。
その時の記憶はハッキリしないけど、本当に廃人同然のような時間を彷徨ってたんだと思う。


「直接迎えに行けなくてすみません」
「…いいの。ニアの立場なら当然よ。それに…昔からニアは外に出るのが苦手だったでしょ?」


私が苦笑すると、ニアは昔と変わらず柔らかそうな髪に、自分の指を巻きつけ、視線を僅かに反らした。
これはニアが答えに困ったり、考え事をしている時に出る、クセだった。
そんなとこは変わってないんだ、と思うと、少しホっとした。


「…どうぞ。座って下さい。お茶を用意してあります」


ニアは静かに立ち上がると、オモチャをまたいで、奥にあるワゴンを押してきた。
その上には紅茶のポットとカップが乗せられている。


「ありがとう。あ、私がやるわ」


おぼつかない手つきでポットを持ったニアを見て言えば、ニアはホっとしたように「お願いします」と言った。
昔からニアは、こういった事が苦手だった。
オヤツの時間の時も、当番になったニアが、皆の中でも一番、カップを割る率が多かった事を思い出す。


「何、笑ってるんです…?」
「…変わってないなぁと思って」
「…私が、ですか?」
「うん。あ、もちろん外見は多少変わったわよ?随分と男らしくなってる。趣味は……変わってないようだけど」
「………」


そう言って目の前に広げられたオモチャを見れば、ニアは照れ臭そうに視線を反らし、また髪に指を巻きつけている。
私は笑いを噛み殺し、紅茶を注いだカップを、ニアに手渡した。


「いえ。私はいりません。の為に用意させただけです」
「そう?じゃあ遠慮なく頂くわ」


そう言って紅茶の香りを楽しみながら一口飲む。
Lが好んで飲んでいた紅茶葉だった。
メロもそうだが、ニアも覚えていてくれて、しかもそれを用意してくれたんだという事が、素直に嬉しかった。


「…ところで…SPKのメンバーは?まだ他にもいるんでしょう?」


コンピューターだらけの部屋の中を見渡し、そう尋ねる。
確かメロが情報をもらっていたという、女の人がいるはずだ。
メロは、ああ言ってくれて、私も納得はしたものの、やっぱり、どんな人かは気になる。
けどニアは、「他の者は外させました」と言った。


と二人きりで話したかったもので」
「…そう」


再び床の上に座るニアを見ながら、内心ちょっと残念なんて思いつつ、周りをぐるりと見渡す。
だが、ここにはソファといったものはなく、私は仕方なく、ニアの隣に腰を下ろした。


「ここで…捜査してるの?」


落ち着かない様子でオモチャをいじるニアに問いかける。
ニアは「そうです」と返事をしながら、掌で弄んでいたサイコロを転がした。
これらの動作は遊んでいるのではなく、ニアなりに精神を集中しようとしているものらしい。


「そっか……頑張ってるんだね」
「キラを絶対に捕まえたいですから…」


ふと手を止め、真剣な顔で呟く。
その顔には固い決心が現れていた。
メロと同じ、揺るぎない思いを感じ、同時に、二人から尊敬されていたLを思う。
二人の成長を、きっとLも見たかったに違いない。


「…ねぇ、ニア…」
「…何ですか?」
「…メロと…二人で捜査する事は…無理なの?」
「………はい」
「どうしても…?」


同じ思いを貫いて頑張っている二人なのだから、出来れば一緒に戦って欲しい、と思った。
だけどニアは軽く首を振ると、「私が良くても…メロは絶対OKしないでしょう」と、言った。
確かに、それはそうだ。
メロは二アに勝ちたい、という気持ちを、未だに持ち続けているのだから。


「そうね…ごめん。バカなこと言って…」
「…いえ。の立場からすれば、そう思うのは当然です。例えLでも…同じ事を言うでしょうね」


二アはそう言うと、ふと顔を上げた。
大きくて、綺麗な瞳が真っ直ぐに私を捉える。
こうして顔を合わせていることが、どこか不思議な感じだ。


「あ…えっと…それにしても…私とメロが一緒にいるって、よく分かったわね。あ、メロに聞いた?」
「…はい。多少は…。でも私も私のやり方で、を探していましたから、メロから聞く前に、がメロに見つけ出されたのは知っていました」
「…え…二アも…探してくれてたの…?」
「はい、もちろんです」


その言葉に驚き、二アを見た。
まさか二アまでが、私を探しているとは思わなかったのだ。
二アは軽く微笑むと、床に散らばったサイコロを一つ一つ拾いながら、それを重ねていった。


「Lの事を聞き、ショックを受けましたが、同時に心配になったのはの事です…。それはメロも同じだったようですね」
「…………」
「メロは施設を出て探す事を選んだようですが、私は内部から人を集め、Lの捜査を引き継ぐ準備をしながらを探していました。 でも…メロの方が一足早かったようです。危険も顧みず、マフィアに身を置き、その筋で探す方が早い、と思ったんでしょう。そしてそれは当たりました」


積み上げたサイコロを再び崩すと、その一つを手に取り、二アは呟いた。


「私は…初めてメロに負けました」
「…二ア……」
「メロは感情で動く。故に大事な物を見落としてしまう。私はそう思っていました。でも…の事に限っては、その感情で見つけられたんです」


二アはそう言うと、手にしたサイコロをコロンと床に転がし、それを指で止めた。


への…想いの強さが…勝ったという事でしょう」
「……想いの…強さ…?」
「はい。も、もう気づいているでしょう…?メロの…気持ちに」
「………っ」


顔を上げ、真っ直ぐに私を見つめる二アに、ドキっとした。
まさか二アまでもが、そんな事を知っているなんて、思わなかったのだ。


(じゃあ……メロは私が気づく何年も前から私を……二アやマットが気づくくらい、強い想いで私を見ててくれたの…?)


今更ながらに、メロの私への想いに気づかされ、胸が熱くなった。


「先日…ニューヨークでメロと会った時、少しだけの話をしました」
「……え?」
「私から尋ねたんです。"は元気ですか?"と。何故私がその事を知っているのか、メロは少し驚いたようですが…でもメロの態度を見て思いました。 メロは…まだの事を愛しているんだ、と。そして、その想いに、いつか必ずは気づく。
その時はきっと…メロの想いを受け入れるだろう、と…」
「二ア…」


二アはそこまで言うと、小さく息を吐いた。
そして、ゆっくりと視線を上げて、私を見つめる。


「受け入れたんですよね…?」
「………っ」


ハッキリとそう言われ、ドキっとする。
二アは何もかも分かっていると言いたげに、優しく微笑んだ。
あの頃とは違う、少し大人びた顔を見せる二アに、私は小さく頷いた。


「…メロが私を探し出して傍にいてくれたおかげで…私は生き返る事が出来たの…。それまでの私は…死んだのも同然だった」
「………」
「そんな私を、メロは必死で助けようとしてくれた。今も守ろうとしてくれてる……」
「そう…ですか…。では……もメロを愛してる、と…言う事ですね」
「……ええ。私は…メロを愛してる…Lと同じように一人の男性として…メロを愛してるわ」


私の言葉に、二アは僅かに目を伏せた。
そして一言…「やはり、私の負けのようです」と呟いた。
その意味が分からず、「負け…?」と首をかしげる私に、二アは「いえ、何でもないです」と苦笑いを零す。


「分からないなら、それでいいんです。あの日…がLと日本に発った日………私の声がに届かなかったように」
「…二ア…?」


二アは優しい眼差しで私を見つめた。
その瞳は、もう、あの日の少年とは違うんだ、と言いたげに、悲しく揺れている。
だが二アは小さく息をつくと、「ここからが本題です」と言って目を伏せた。


「…本題…?」
「…はい。今日、にここへ来てもらったのは、何も昔話をするためじゃありません」
「あ…そう言えば話があるって…」


二アの言葉に、電話で話がある、と言っていた事を思い出す。
顔を上げると、二アは指で髪をいじりながら、静かに口を開いた。




「単刀直入に言います…。メロに…キラから手を引いて頂きたいんです」



「―――ッ?」




その言葉に、私は目を見開いた。
それでも二アは冷静な顔で、私を見ている。


「そして…その事を、の口から…話して欲しいんです」
「…な……何で…」
「よく考えた結果、これ以上、メロに振り回して欲しくない、というのが私の出した結論です」
「…二ア…そんな…メロだって本気でキラを追ってるのよ…?そんなこと言えない…私には―――」
、よく考えて下さい。メロがこれまでに何をしましたか?マフィアに加担し、人を浚い、ノートを強引に奪って、今では犯罪者です」
「…酷い…確かに…メロはやり方を間違ったかもしれない…。だけどメロだって、あんな事をしたくてしたんじゃないわっ?メロはキラを捕まえるのに必死で…」
「その必死さが問題なんです。これからも何をするか分からない…。だから、あなたに頼んでるんです。メロを説得し、キラから手を引かせて欲しいと…」
「二ア……」


先ほどとは違い、冷めた表情で、淡々と語る二アに、私はショックを受けた。
思想や観念が違っても、生き方や戦い方が違っても、メロと二アには、私には分からない強い絆みたいなものがある、と信じていたからだ。
互いの理念は相反していたとしても、それでも二人は互いを認め合っている。
そう思っていたのだ。
なのに…二アはメロをキラ捜査の邪魔となるとして、排除しようとしている。
それは私にとって、凄く悲しい事だった。


「…二ア…メロはキラを追うことを止めないわ…?私が何を言ったとしても―――」
「いえ。から言えばメロも聞くと思います。大切な人を危険に曝してまで、する事じゃない、と気づかせればいいんです」
「…無理よ…」
「それでははメロが死んでもいいと言うんですか?」
「それは……」
「先ほども言ったように、メロは感情で動く。その行動で自らを危険に曝し、キラに正体がバレてしまう可能性の方がずっと強い。だから言っているんです」
「………」
は……メロが危険な行動をしていても平気なんですか?」
「平気じゃない…!平気なわけないじゃない…っ。いつも…いつだって…無事な顔を見るまでは心配でたまらないわ…っ」


カッとして、つい声を荒げてしまった。
だが二アは冷静な態度を崩さないまま、「だったら尚更メロから手を引かせるべきです」と言った。
それ以上、言葉が見つからず、私は混乱した気持ちのまま、ただ二アの指先で転がされるサイコロを眺めていた。


本心を言えば…理屈では分かってる。
私はメロに危険な事はして欲しくない。
出来れば、このまま二人で逃げ出したい、と何度思ったかしれない。
でも……メロの気持ちを考えると、どうしても「やめよう」の一言が言えなかった。
キラの正体も、言ってしまえば、メロが暴走する事は分かっている。
だからこそ、言えない……




……私だって、出来ればこんな事は言いたくないんです。ただ……」
「………?」
「いえ……何でもありません」


二アはそう呟くと、私の肩を掴み、真剣な顔で私を見つめた。


「キラは私が捕まえます。メロがどう思おうと構いません。これは"Lの座を譲る"、とメロから言われた、私の仕事です」
「………」
「何としてでも説得してください。そして…二人で幸せに暮らしたらいいじゃないですか。には…幸せになる権利があるんです」
「……二ア…」
「分かったなら…メロに電話をして下さい。ただし…私に言われた、ではなく、自身で考えた事にした方がいいかもしれません」


二アはそう言うと私のバッグから、携帯を取り出し、私に差し出した。
それを見て、二アの意思は固いのだという事を理解し、それを受け取る。
だが、これまでのメロの苦労を考えれば、簡単に「もうやめて」などと、言えるわけがない。
だけど…心のどこかで、私だってキラを追うのを止めて欲しい、と思っているのも事実だ。


「どうしました?」


私が迷っているのを見て、二アが訝しげな顔をする。
でも結局、答えが出ない。


「…二ア…こういう話は…直接メロに話したいの…。帰ってからじゃ―――」
「ダメです。もし、それを許したなら、は多分、メロには言えないでしょう。違いますか?」
「………」
「私の目の前で、話して下さい」


二アは私の心を分かっている。
止めて欲しい、でも言えない。
その感情の間で迷っている事も、その理由も、ちゃんと分かってるんだ。
でも……私が何を言ったって、メロはキラが捕まらない限り、追うことをやめようとはしない…。


キラ……夜神ライトが捕まらない限り……





「………っ」
…?どうしました?」



そこでハッと息を呑んだ。
二アが驚いたように私を見ている。
そんな二アを見ながら、私はある事を考えていた。


そうだ…キラが捕まればいいんだ。
そうすれば何もかも終わる…
この恐怖も苦しみも、全て……
メロに私の知っている事を話せば、メロは証拠など関係なく、キラ=夜神ライトを追うだろう。
自分の命も顧みず、とことんまでキラを追い詰めるに違いない…
それが怖くて言えなかった。
だけど………二アなら?
二アならメロとは違い、Lと同じように、まず証拠から集め、決定的なものを掴んでからキラを捕まえようとするだろう。
まずは自分の安全を確保し、確実にキラが言い逃れ出来ないほど追い詰めながら……
メロも言っていた。
二アなら、冷静に、無感情に、パズルを解くようにやるだろう、って……


…?」
「二ア……」
「はい」
「もし…キラの正体を教えたなら、必ず捕まえてくれる…?」
「……キラの…正体…?、あなたは―――」
「私はあの時、見てたの」
「…あの時?」
「…Lが…死んだ時、その場にいたわ…。そこで…見たの。夜神ライトという、キラ容疑でLが拘束してた少年が…笑ったのを…」


無表情だった二アの顔が、私の言葉に僅かに反応したように見えた。


「…そこで確信したわ…。夜神ライト…彼が…最初のキラ、本人だって…。Lは間違ってなかった…私はそう思ってるの」
「……そうですか…夜神ライトが…」
「…二ア…知ってるの?彼の事…」


何かを得たような顔をする二アにそう尋ねると、「もちろんです」と応えた。


「私は日本捜査陣と何度か話し、その中で夜神ライトの名前はあがってきてました。今、日本で"L"と名乗ってるのは夜神ライト…そうですね?」
「…ええ、多分…。あいつはLがいなくなった後、Lが死んだ事を隠し、その名前を名乗って表向きだけ、キラ捜査をしてるように見せかけてるのよ…」
「…やはり…そうでしたか」


納得するように頷くと、二アはゆっくりと立ち上がった。
どうやら二アも何らかの理由で夜神ライトに目をつけ、疑っていたようだ。


「ねぇ、二ア…そこまで分かってるなら…あの男を捕まえられる?もちろん、証拠を集めるのは大変だと思うけど…」
「…捕まえます。私は夜神ライトがキラだ、と疑っていましたが、これでハッキリしました。今後の動きを更に監視しながら捜査出来ます」


キッパリと言ってくれた二アに、私は心からホっとした。―――これでキラを追いつめられる!
だが二アは私を見ると、「でも、メロに手を引かせる、という事は守って下さい」と言葉を続けた。


「でも…メロはキラが捕まるまで、きっと追うことをやめないわ。二アだって分かるでしょう?」
「ええ…でも…が言えば…万が一、という場合があります。お願いですから、一度、メロと話してみて下さい。もしダメなら別の方法を考えます」


そこまで言われると、私も何も言えず、仕方なく携帯を開いた。
今頃メロは日本警察の動きを見張ってるところだろう。
そんな時に電話をかけて邪魔じゃないだろうか、と思った。
けど、かけなければ二アは納得してくれそうもないし、帰れなさそうだ。
そう思っていると、突然、携帯が鳴り響き、思わず飛び上がりそうになった。


「…メロからですね」
「え、ええ…」


ディスプレイを見て頷くと、「ちょうど良かったです」と二アは言った。


「では電話に出て下さい」
「…う、うん……」


こうなれば仕方ない。
話すだけ話してみよう。
そう思って通話ボタンを押した。


『…もしもし。かっ?』
「う、うん…」
『…今どこにいるんだ?』


メロの声は少し怖く、怒っているようでドキっとした。


「どこって…」
『…さっき携帯にかけたら繋がらなくて、アネットに確認の電話したら出かけたと言ってた…。今どこにいるんだ?』
「え…っと…それは―――」
『…出かける前に誰かから電話が入ってたと言ってたが…誰からだ?』
「ちょ、ちょっと…メロ、そんなに怒らないで…」


メロは本当に心配してるようで、声からも動揺が伺える。
それには困って二アの方を見た。
二アは事情を察したのか、こっちに歩いてくると、「代わります」と言って、手を差し出した。


「え、でも…」
「大丈夫です。メロにバレたんでしょう?なら仕方ありません。私から話します」


二アはそう言うと、私の手から携帯を奪い、それを耳に当てた。


「もしもし…メロですか?二アです」


二アはそう言うと、私の方をチラっと見た。
受話器からはメロの驚いたような声が聞こえてくる。
それでも二アは冷静な態度を崩さない。


「ええ…私が無理を言ってに来てもらったんです…。目的?そうですね。その事を話そうと思って、今メロに電話をしてもらうところでした」


淡々とした口調で、そう言うと、二アは一つ息を吐いて、静かに話し始めた。
















『…二アです』


受話器の向こうから、その声を聞いた時、カッと頭に血が上った。
アネットから話を聞き、嫌な予感がして一気に不安になった。
その不安は見事的中していたようだ。
どういう事情か知らないが、二アの奴がを呼び出したらしい。
オレは落ち着かせる為に軽く息を吸い込むと、「何故、がそこにいる…お前が呼んだのか」と尋ねた。


『ええ…私が無理を言ってに来てもらったんです……』
「目的は何だ?」
『目的?そうですね。その事を話そうと思って、今メロに電話をしてもらうところでした』
「何?」


二アのその言葉に、オレはぎゅっと携帯を握り締めた。
二アは一呼吸おくと、『メロ…』と、オレの名を呼んだ。


『あなたには……キラ捜査から手を引いてもらいたい』
「……何…っ?」


思わず耳を疑った。
あの二アから、そんな事を言われるなんて、思いもしなかったのだ。


「…どういう事だ…」
『どういうも何も、そういう事です。にはそう頼んでもらえないか、と話をする為、来てもらいました』
「…ふざけるな!そんな下らないことを頼む為にを呼び出しただと?」
『私はマジメに話してるんです。メロ、あなたはキラから手を引いてください』
「……断る!そんなのオレの勝手だろう!お前も好きに捜査しろ。オレもそうする。それだけだ」
『いえ、それでは私が迷惑するんです。これまでもメロの行動のおかげで随分とかき回されましたし』
「…勝手な事を言うな。オレがノートを奪ったおかげで死神の存在も、嘘のルールがある事も知る事が出来ただろう。なのに何を今更―――」


二アの勝手な言い分に腹が立ったが、ここで感情を剥き出しにすれば、相手の思う壺だ、と堪える。
二アがどういうつもりか知らないが、どうやら冗談ではなく、本気でキラの首を独り占めする気らしい。


『どうしても…手をひいてはもらえませんか。を危険に曝す事になっても、キラを追い続けるんですか?』
には指一本触れさせない!必ずオレが守ってみせる!」
『…では…メロ、もしあなたがキラの手に落ちたら?』
「……何…?」
『そう言う可能性もあるでしょう。これまでのようなやり方で行くのなら』


淡々と話す二アの喋り方が気に入らない。
何もかも見透かしたような言動が、昔から嫌いだった。


「…オレがキラに殺される、と言いたいのか…?」
『その可能性が高い、と言っているんです。そして、そうなれば誰が一番、悲しむんですか?』
「…何だと?」
『…本当は分かっているんでしょう?このままキラを追うことに、どんなリスクが付きまとうのか』
「……うるさい。二ア、お前はとことん嫌な奴だな」
『…私もそう思います。では……どうしても手を引かない、と言うんですね』
「断る……お前の指図は受けない……オレはオレのやり方でキラを捕まえると決めたんだ」


そう言って怒鳴りたいのを必死で堪える。
二アは暫し黙った後、小さく溜息をついたようだった。


『そうですか…残念です。では…私が動くしかないようですね…』
「どういう意味だ…」
『…キラは私が捕まえます、メロよりも先に』
「…好きにしろ。前にも言ったはずだ。どちらが先にキラに辿り着くか、競争だとな…」
『そうですね……分かりました』


二アはそう呟くと、でも、と言葉を続けた。


『……は暫く、私がお預かりします』
「…な……っ」
『メロと一緒に行動すれば、彼女も危険な目に会う可能性があります』
「…ふざけるな!!何の権限があって、そんな事をするっ!」
『何もありません。なので勝手に、拘束させて頂きます』
「…二ア!を返せ……」
『…イヤです。でも、もしメロがキラから手を引く、と言うのなら…今すぐにでもお返しします』
「…二ア…っ!を人質にする気か!」
『…人質とは違います。私はの身の安全を保証しているだけですので。今は私の方が彼女を守れます』


激しい怒りが込み上げてきて、一気にそれが爆発しそうだ。
だけは、誰の手にも渡したくない。
たとえ昔の仲間であっても、それは同じだ。


「二ア…を解放しろ…。そもそもは納得してるのか?電話口に彼女を出せ」
『お断りします。それに今、彼女は別の部屋で休ませています。事情はこれから話しますが、納得してもらうつもりです』
「…いい加減にしろ!オレからを引き離して、お前に何の得がある?!ワケの分からないことを言うなっ!」
『…損得の問題じゃありません。私が心配している事は、ただ一つ、彼女の身の安全、そして…彼女の今後の幸せです』
「…何…?」
『メロ、よく考えて下さい。あなたは、もう気づいてるはずです。私が言いたい事を―――』
「―――おい…!!」


そこで、唐突に電話が切れ、オレは苛立ちを収める為、目の前の椅子を蹴り倒した。
ガタンッと壁に当たり、激しい音がして、古かった椅子がバラバラになる。
それを見ながら、クソ!と一人、毒づいた。


「言いたい事だと…?ふざけるな…二アの奴…何言ってるんだ…っ」


さっきまで堪えていた怒りが、という存在を奪われた事で、一気に溢れてくる。
二アの行動がサッパリ分からない。
どうして今になってオレに手を引けと言うんだ?
何故、を奪ってまで、それをオレに納得させようとする…?
意味が分からない……


スピーカーからは相変わらず、能天気な女の声が聞こえてきて、思わずぶっ壊したくなった。


ここまで来て手を引けるか…
少しづつ、キラに近づいてる気がするっていうのに。


髪をかきむしり、ソファに座ると、握り締めていた携帯を放り投げた。
もう一度かけなおそうかとも思ったが、どうせ二アによって電源は切られてるだろう。
もし繋がってたとしても、を出してくれるはずもない。


「………何故、二アに会いになんか行ったんだ…」


頭を抱え、そう呟いてみても、彼女を責める事はできない。
にとっても、二アだってあの頃、一緒に過ごした仲間なんだ。
彼女は毎日一人でいるニアの事を気にかけ、いつも心配してた。
キラを追ってるのは二アも同じ。
も時々オレに聞いてたくらいだったし、きっと心の中では心配してたはずだ。
そんな事、分かってる……だけど―――


が自分の手の中にいないことが、こんなにも不安なのだと、この時、オレは改めて実感していた。



















「え…?どういう事…?」


メロとの電話を終え、私が押し込まれた部屋に戻ってきた二アが私に言った言葉に驚き、一瞬、聞き間違いかと思った。


「ですから、には暫く、ここにいてもらいます」
「…な…何言ってるの…?イヤよ…メロのとこに帰る…」
「ダメです。メロにも電話でそう言いました。は暫く預かると」
「…か、勝手なこと言わないでよ!」


二アの言葉に、ついカッとなって大きな声を出してしまった。
が、二アは気にする風でもなく、部屋の中に設置してあるベッドに静かに腰を下ろした。
両足を上げ、抱えるようにして座る、その仕草が、一瞬、Lと重なる。
二アは立ったままの私を見上げると、「…分かって下さい」と言った。


「メロに分かってもらうためです」
「…何を?キラから手を引くこと?だから私を人質にするって言うの?」
「…少し違いますが、でもそう思いたければそう思って下さって結構です」
「二ア…何で…?何でここまでしてメロから手を引かせたいの…?前は別々でも、互いにキラを追うって決めたんじゃないの?」
「…そうですけど…少し事情が変わりました。とにかく…今はを帰す気はありませんので」
「…な、待って…ちょっと二ア…!」


言いたい事だけ言うと、二アはそのまま部屋を出て行ってしまった。
無常にも目の前でドアが閉まり、押しても引いてもびくともしない。
閉じ込められたんだと気づき、私はその場にしゃがみこんだ。


「何で…こんな事するのよ……」


一気に身体の力が抜け、私は深く息を吐き出した。
携帯も取られたままで、メロにかける事すらかなわない。
それに、もしかけられたとしても、この場所をハッキリ説明できないのだ。


「メロ……」


ふと、名前を呟くと、気が緩んだのか、涙が溢れてくる。
勝手な行動をした私を、メロは怒ってるだろうな、と思うと、胸が痛んだ。
でもまさか二アに拘束されるなんて思ってもみなかったし、しょうがない。


「はあ…アネットも…心配してるんだろうな…」


ふと何も言わずに出てきてしまった事を思い出し、後悔した。
メロはアネットから聞いたと言ってたけど、メロが知らなかったのでは、アネットも不安に思ってるかもしれない。


(後で二アに頼んで、アネットにだけでも電話させてもらわなくちゃ……)


そう思いながら、分厚い扉を見上げた。
これなら防音もシッカリしてそうだし、叫んでみた所で無駄だろう。


私は仕方なく、ベッドに突っ伏すと、思い切り顔を埋め、泣きそうになるのを必死に堪えた。
浮かんでくるメロの顔に、ぎゅっと心臓が痛くなる。


「ごめんね…メロ…」


静かな部屋に、私の呟きだけが、空しく響いた。




















「いいんですか?こんな強引なやり方をして…」
「…いいんです。メロもそのうち気づくでしょう」


心配そうな顔のジェバンニに、そう言うと、彼は「そうかなぁ」と頭をかいた。


「あのメロがそう簡単に理解してくれるなんて…思えませんけど」
「…以前のメロならそうでしょうけど…今は少なくとも、分かってくれると思います」
「…まあ…大切な人の事を考えたなら…そうでしょうね」


ジェバンニがそう言いながら、隣にある部屋を見た。
私も一緒に視線を向けるが、特に中からは何も聞こえてこない。
も諦めた、という事だろうか。


本当なら、こんな強引なやり方はしたくなかった。
でも…とメロが同じ気持ちになってしまったのなら、もうそんな事を言ってもいられなくなった。
軽く息を吐くと、床にしゃがみ、転がったままのサイコロを手に取る。
その時、電子音が響き、レスター捜査官が私を呼んだ。


「二ア、マットから電話です」
「…分かりました」


そう言ってボタンを押すと、"M"という文字がモニターに映る。


「マット。何の用ですか?」
『おいおいおい…何してくれてんだよ、二ア〜』
「……何がです?」


相変わらず、軽い口調で話すマットに、溜息をつきつつ、椅子に座る。
彼とは、メロに内緒で、何度か連絡を取り合っていた。
と言っても、別に彼がメロのスパイをしてたわけじゃない。
最初に連絡してきたのはマットの方で、ただ"懐かしくて話がしたかった"だけだそうだ。(私はちっとも懐かしくはないのだが)
メロと、の事を教えてくれたのはマットだった。


『お前、無茶しただろー。メロ、すんごい剣幕だったぜ?』
「…そうですか」
『そうですかって、そんな冷静に言われても…まあ昔から冷静だったけどな、二アは。でもオレにまで、とばっちり来るんだし、あんまメロを刺激すんなよ』
「…刺激してるつもりはありません」
『してるだろ?を浚うなんて、何してんだよ…。オレがメロとのこと教えたからか?』
「半分そうですけど、私は浚ったつもりはありません。暫くの間、預かる、と言ったんです」
『同じことだろ?メロにしたら……やっと両思いになったってのに、その直後に離れ離れって…まあ二アがを守ろうとしてるのも分かってるけどさ……』
「なら心配しないで下さい。メロがキラから手を引いてくれさえすれば、すぐにでもはお返しします」
『…だから、それがメロを刺激してんだろーが。そんな強引なやり方でメロが素直に言う事、聞くと思うか?あのメロだぞ?』


マットは大げさに溜息をついている。
その直後、、カチっという音がしたところをみれば、どうやら煙草を吸っているようだ。(相変わらずヘビースモーカーみたいだ)


「分かっています。でも…黙って見ていられませんでした…。メロが暴走するのは勝手ですが、まで巻き込む事になるのなら仕方ありません」
『…まあ二アの気持ちも何となく分かるけどさ…』
「話はそれだけですか?なら、もう切りますよ。私は忙しいんです。マットの暇つぶしに付き合ってる暇はありません」
『おいおい、相変わらず冷たい奴だな…。とにかくオレが言いたいのは…なるべく早くをメロの元に返して―――』
「ですから、それはメロ次第です。それまでは私の傍においておきます。その方が安全ですからね」
『…そりゃ、そうだけどさ………あ、分かった♪二ア、お前、メロに嫉妬して、こんな強引に―――』






ドン!!ブツッ!!ツーツーツー…






「………二ア…あまり強く叩くと…壊れますが…」
「……分かっています…!」


私の行動に、隣にいたレスターが冷や汗をたらしている。
ジロっと睨めば、素早く視線をそらされ、私は息を吐き出した。


「…少し、一人になります。何かあれば呼んで下さい」
「は、はい…分かりました…」


私はそのままオモチャを抱えると、自分の部屋へと入り、鍵を閉めた。
一人になった途端、深い溜息が洩れて、そのままベッドへ上がる。
枕元にオモチャを放り投げると、ゴロリと寝返りを打った。
隣はの部屋だが、やけに静かで、少しだけ、胸が痛んだ。


今頃、私の事を怒りながらフテ寝でもしているんだろうか。


そんな事を思いながら、過去にそういった事があったことを思い出し、ふと笑みを零す。


あの頃、Lとケンカをするたび、は自分の部屋にこもり、フテ寝をする事が多かった。
当然、Lは焦り、何度も誤りながらドアをノックする。
でも、なかなか顔を出してくれなくて、ある時、Lは痺れを切らし、勝手に合鍵を使って部屋の中に入ったことがあった。
すると、はベッドにうつ伏せ状態のまま、本当に寝てしまっていたらしい。
あの後、Lは「その姿がまるで子供のようでした」と笑って教えてくれたのだ。
そんな彼女が、きっと本当に好きだったんだろう。
Lはの話をするたび、いつも優しい目をしていた。
そして、私はそんな話を聞くたびに、自分までもがLと同じように、の事を想っているような、そんな錯覚に陥った。
Lがあまりにも、幸せそうに、愛しそうに、彼女の話をするものだから、その想いが伝染したのかもしれない。
気づけば…いつしかの事を、一人の女性、として意識するようになっていた。


この気持ちは、誰にも話した事はない。
もちろんにさえ気づかれることはなかった。
でも私はそれでもいいと思っていた。
彼女には…Lがお似合いだとすら思っていた。
それは今も変わらない…


でも…は、メロを愛してしまった。
Lの死から立ち直り、また大切な人が出来たのだ。
それはそれで、安心した。
あれだけの辛い思いをしたが、心配でたまらなかったから。
もう二度と、人を愛せないんじゃないか、と、心配だったから。
でも、そんな彼女を…メロは立ち直らせ、生きる希望を与えた。
どれも私には出来なかった事だ。
だからこそ…私はメロに、キラから手を引いて欲しかった。


に生きる希望を与えたのはメロだ。
メロの愛情で、は立ち直ることが出来た。
だからこそ…メロがから、その希望を奪ってはいけないのだ。


大切な人の死―――


そんな不安を、彼女にもたせちゃいけないのだ。
メロには、その義務がある。
もう二度と、を絶望という闇に落とさないよう、自分の命を守る、という義務が―――







出来ればキラの事など忘れて、二人で、あのイギリスの片田舎に戻って欲しい。





そして…二人で幸せに暮らして欲しい。





そんな優しい未来を、私が守るから―――















その未来に僕は居ない―けれど



















ちょっとお久しぶりの更新です;;
今回は二ア登場、という事で、また少しややこしくなっておりますが…
二アを書くと、口調が似てるからか、Lとだぶってしまいますね。


いつも励みになるコメントをありがとう御座います<(_ _)>


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■もう最高です!こんなに素敵なメロ夢は、初めて読みました!(中学生)
(ありがとう御座います!そんな風に言って頂けて感激です(>д<)/


■どの小説も内容が濃くて好きなのですが、メロ好きなのでメロに一票!(笑(高校生)
(一票、ありがとう御座います!これからも頑張りますね!)


■メロ夢連載大好きですwこれからもがんばってください!(大学生)
(ありがとう御座います!これからも頑張ります(´¬`*)〜*









TITLE:群青三メートル手前