"あの死神、ノートを渡したきり、現われやしない"
魅上を見張らせていたジェバンニからの報告で、奴が"Xキラ"だという事は分かった。
その上でカメラで監視していた時、一人になった魅上が呟いた言葉…
魅上に死神は憑いていない…
いや、だが、まだこの段階ではハッキリ分からないか…
ジェバンニからの報告では、魅上はあくまで、普通の生活をしていると言う事だった。
マンションのセキュリティは相当なものらしいが、逆に外ではノートも堂々と持ち歩き、他の資料と同じように、鞄に入れているという。
ならば…
「レスター指揮官。ジェバンニと、魅上の生活、行動パターンをより徹底的に調べ、ノートを気づかれずに触るチャンスがないか、窺ってください」
「…?ノートを押さえるようなやり方はしないのでは…?」
「はい。魅上とノートを押さえ、証拠とするやり方はしません。おそらく魅上に死神は憑いていない…しかしノートを触った上で、何日か魅上を観察しなければ、絶対に憑いてないとは言い切れない…」
まずは死神の存在を確かめる。
じゃなければ、まだ動けない。
そう思っていると、レスター指揮官が、訝しげな顔で尋ねてきた。
「二ア…ノートに触るとして…ジェバンニと私、どちらが…」
「……上下関係から言うと、ジェバンニになります………か?」
『…………』
私の一言で、ジェバンニが複雑そうな顔をしている。
「もし死神が憑いていない事がハッキリすれば、完成させられるシナリオの一つが浮かび上がります。しかし憑いてたら変更が必要になります。お願いします」
『わ、分かりました。とにかくまずは魅上を観察します!』
「何かあれば、すぐに報告して下さいね」
そこでモニターを切り、"Xキラ"と書かれた人形を摘む。
ここまできたら、こちらからも仕掛けるしかない。
死神が憑いていなければ、もしくは……
「二ア…」
その声に振り返ると、が立っていた。
「どうしました?」
「うん…何となく落ち着かなくて…」
はそう言って溜息をついた。
きっとメロの事が心配なんだろう。
愛する者が危険な場所に身を置いているのに、自分はここで待っている事しか出来ない。
がそう考え、不安になるのも無理はない。
「…レスター指揮官」
「…はい?」
「車を回して下さい」
「…え?」
「少し…息抜きしましょう。車の準備お願いします」
「は、はあ…」
私の言葉に、レスター指揮官はポカンとした顔で返事をしたが、すぐに立ち上がり、車の用意をしに行ってくれた。
も驚いたような顔で、「どうしたの?」と首をかしげている。
「こんなところに閉じこもっていたら悪い事しか考えないでしょう」
「…二ア…」
「すみません。気が利かなくて。私は昔から出不精なもので、そこまで頭が回りませんでした」
「そんな事ないよ…?」
「いえ、やはり少しは息抜きも必要ですし…これからちょっと出かけましょう」
「え、いいの…?捜査は…」
「今は準備に入る、それ以前の段階ですので…ちょっとの時間なら大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
戸惑うを促し、二人で駐車場へと向かう。
そこにはレスター指揮官が、車のエンジンをかけて待っていてくれた。
と二人で後部座席に乗り込むと、ベンツが静かに走り出す。
建物の外に出ると、外はとてもいい天気で、太陽の日差しが目に沁みるようだ。
「わぁ、いい天気……」
「ほんとですね。こもりきりだと、外の様子なんて見ませんし」
「そうよ。二ア、よく耐えられるわね?あんなモニターだらけの部屋に四六時中いて」
「…仕事ですから」
「でも昔からそうだったわ?皆が外で遊んでる時、二アはいつも部屋で本を読んだり、パズルをしたり…」
は思い出すように、窓の外へ目を向けながら、ゆっくりと窓を開け、外の空気を吸い込んだ。
その横顔を見ていると、ハウスにいた頃を思い出す。
は部屋にこもってばかりの私を、いつも外に誘ってくれた。
「私は外で駆け回るより、部屋でゆっくりしてる方が好きなんですよ」
「それは分かるけど…少しは太陽浴びなくちゃ体に悪いわ?だから二アは真っ白なのよね。女の私よりお肌が綺麗なんだから」
苦笑気味にそう言うと、は私の手を持ち上げてみせた。
そうは言うが、も肌が綺麗で、あの頃とは少しも変わらない。
私と違うのは、は太陽の下が、よく似合う、と言う事だ。
「は子供達と一緒に駆け回ってましたからね。それこそメロとサッカーしたり、木登りしたり…Lがいつも止めてましたけど」
「そうだったね。Lってば、木登りしてる私を見て、青い顔してっすっ飛んで来たっけ」
「当たり前です。いくらメロに誘われたからって、女性が木に登るなんて…Lが心配するのは当然ですよ」
そう言ってたしなめてみても、は反省した様子もなく、楽しげに笑っている。
彼女にとって、あの場所は今でも、いい思い出になってるんだと、この時思った。
「…楽しかったなぁ…。毎日が凄く充実してた気がする…」
「…また…戻れますよ」
「うん…そうだね…」
一瞬、の顔に陰が落ち、小さな溜息が車内を包む。
昔を思い出せば思い出すほど、愛しい人を失った痛みが蘇ってくるのかもしれない。
メロは、彼女のこの深い悲しみを、全て消し去る事が出来るんだろうか…、とふと心配になった。
「あ…公園…」
その声に窓の外を見れば、大きな公園が姿を現した。
はそれを見ながら、瞳を輝かせている。
私はそんな彼女を見ながら、軽く息をつくと、レスターに車を止めるよう、指示した。
「二ア…?」
「少し…散歩しませんか?」
「え…?」
「私も、少し外の空気を吸いたくなりました」
そう言ってドアを開け、車を下りると、も慌ててついてきた。
「レスター指揮官、少し待っててくれますか?」
「でも…危険では」
レスターは私の言葉に驚きつつ、心配そうな顔をした。
「大丈夫です。キラは私の居所を知らないんですから。それに危ないと感じれば、すぐに戻ります」
「…分かりました。では目の届く範囲にいて下さい」
「はい。では、、行きましょう」
そう促し、彼女と歩き出す。
駐車場の前には、緑が広がっていて、様々な人たちが、その中で寛いでいる。
私とは細い遊歩道をゆっくり歩きながら、周りの景色を楽しんだ。
「…気持ちいいですね。たまには散歩もいいかもしれません」
「でしょ?こんな天気の日はピクニックしたくなるもの」
「そう言えば…はよく皆を連れてピクニックに行ってましたね」
「そうね。でも二アは殆ど参加しなかったじゃない」
「…あの頃は…Lに追いつきたくて必死でしたから」
常に何かに追われるように勉強をしていた、あの頃の自分を思い出し、軽く失笑が洩れる。
今思えば、もっと、Lや、皆と一緒の時間を過ごしていれば良かった、と思う。
そうすれば、との共有の思い出を、もっと持てたかもしれない。
何事も、後にならないと分からないものだ。
その時にあるものが当たり前と信じて疑わないのも、また人間なのかもしれない。
失った時に気づいても、もう遅いというのに。
「…メロは…やLとの思い出が…ありすぎるからこそ、今も苦しんでるのかもしれませんね…」
必死にキラを追う姿を思い出し、そう呟けば、は悲しげな笑顔を浮かべながら、青い空を見上げた。
車のエンジンを止め、建物の裏手に隠すように止めると、オレは目の前のビルを見上げた。
堂々と聳え立つそれは、Lの思いが未だ残るように、誇らしげに立っている。
キラを追う事だけに建てられた、かつての捜査本部。
そして、Lが最後を迎えた場所―――
一歩一歩、歩いて行くと、何とも言えない思いが込み上げてくる。
今では誰もいない廃ビルのようになってしまった、その場所を、オレは静かに眺めた。
裏口に回り、セキュリティを解除すると、滑り込むように中へと入る。
薄暗い中、懐中電灯の明かりだけを頼りに、ゆっくりと進み、階段を上がっていった。
ロジャーから、この建物を建設中だと聞かされた時、オレはLが本格的にキラを追い詰める気だ、と思った。
そして現実に、そうなるだろうと高をくくっていた。
なのに…
奥へ進むと、正面玄関と広いロビーが見える。
更に上に向かうと、想像通りの部屋が、そこにあった。
「……L…」
今では電源も落とされ、真っ暗な部屋に、沢山のモニターが飾られている。
その前には乱雑に置かれた椅子たち。
きっとLは、あの一つに座り、ここでキラ捜査の指揮をしていたんだろう、と思うと、胸に込み上げるものがあった。
ゆっくりとモニターに近づいていくと、静かな部屋に、オレの靴音だけが響く。
でも目を瞑れば、当時の様子が鮮明に浮かび上がるようだ。
Lが指示を出し、相沢や模木達が、その指示通りに動く。
ここで、あらゆる謎解きをし、あの日、ヨツバキラ、火口を捕まえた。
それから数日後…この部屋の、この場所で…Lは、キラにその命を奪われたのだ。
「…L…オレは…その瞬間、目標を失ったんだ…」
その場に膝を着き、冷たい床に手を添える。
そして、Lの好きだった花を、そっとその場に置いた。
ここに横たえたLは、最後に何を思ったんだろう。
自ら、死んでゆくと分かった時、大切な人を残して逝ってしまうという無念だったのか。
それとも、キラへの敗北感だったのか…
ふと顔を上げれば、奥にソファとテーブルが置いてある。
ゆっくりと立ち上がり、歩いて行くと、高級そうなソファが、取り残されたように並べられていた。
あの日、はここで、Lが倒れ行く姿を見ていた。
愛する人が、目の前で倒れていくのを、どんな思いで見ていたんだろう。
再会した頃の彼女を見れば、それがどんなものだったのかは、想像出来るけれど、感じる事は出来ない。
改めて、この場に立つと、激しい怒りが沸いてくる。
ここが、全てのスタート地点なのだ。
オレの、そしての、地獄としかいいようのない苦しみが、ここから始まった。
「L…オレは…この怒りをどうすればいい…?」
施設を飛び出した、あの雨の夜。
決心したんだ。
どんな事があろうとも、を探し出し、キラを殺す。
Lの無念を受け継ぎ、必ず仇をとる、と。
なのに…二アが現れてから、その決心が揺らぎそうになる。
オレのすることで、がまた傷つくのでは、と思うと、怖くなる。
一瞬でも夢を見てしまったから…
と二人、イギリスに戻り、一緒に暮らす…。
そんな他愛もない、それでいてオレにとっては幸せすぎる夢を…
らしくない、と笑って忘れられるほど、オレは強くない。
オレにとって、は生きる事の全てだ。
これからの人生、全てを、彼女と一緒に歩んで行けたら…それほど幸せな事はないだろう。
だけど…死を恐れて、キラから逃げ出すほど、オレは弱くないのだ。
その事を自分でもよく分かっている。
だからこそ、オレはこの場所に来た。
再び、"決心"をするために―――
カタン……
「―――ッ」
かすかな物音が聞こえ、ハッと銃を構える。
僅かに開いたドアの向こうに視線を走らせ、物陰に隠れた。
すると、今度はハッキリ靴音が聞こえ、開きかけのドアが静かに開けられてゆく。
オレは息を殺し、ドアから入ってくる人影に、銃口を向けた。
「…誰だ!」
「…うわぁぁっ」
「……ッ?!」
いきなり飛び出し、相手を威嚇すると、その人物は大きな声と共に、床に尻餅をついたようだった。
同時に、その声の主の正体が分かり、深々と溜息をつく。
「…マット…何してる」
「お、脅かすなよっ」
呆れながら目の前に歩いて行くと、マットは尻を擦りながら立ち上がり、ゴーグルを外した。
「それはこっちの台詞だ。もう少しで撃つところだぞ。それに捜査本部を見張ってろと言っただろう。何でここにいる」
「だって全然動きもないし退屈だったんだよっ。んで、メロと交代してもらおうと思ってアジトに行ったら、ちょうどお前が車に乗り込むとこだったからさ…」
「それで…尾行したのか」
「あの美人だっていうSPKの女と会うかと思ったんだよ。もし密会するようならにチクろうかと―――っぃで!殴る事ないだろっ?」
あまりにバカな想像力を持つマットに、呆れて拳を振り下ろせば、今度は頭を擦りながらスネたように唇を尖らす。
こういうところは昔から少しも変わっていないようだ。
「下らないこと、考えるな」
「へいへい…分かりましたよ〜。って言うか…ここ何?かなり気合入った設備だけど…」
マットはそう言いながら部屋の中をキョロキョロ見渡すと、床の上に置かれた花束を見て、驚いたような顔でオレを見た。
「まさか、ここ……」
「ああ…。Lが日本にいた頃、作らせたものだ。お前も聞いてるだろ?」
「あ、ああ…。でも…まだ残ってたんだな…」
マットはそう呟くと、ゆっくりと部屋の中を見て回った。
そして珍しく、神妙な顔で、オレを見る。
「ここで…Lが?」
「ああ……以前、がチラっと話してくれたから間違いない…。この場所だ」
「そっか……」
言葉少なに頷くと、マットは花束のある場所にしゃがみこんだ。
そしてオレと同じように、床に手を添えている。
「ここで…Lがキラの捜査してたんだな……」
「ああ」
「…そう思うと…何だか気が引き締まる気がする」
「…そうだな…」
「こんな…遠い国で…Lは一人でキラと戦ってたんだ…」
マットはそう呟くと、軽く拳を握り締め、立ち上がった。
「メロ…」
「ん?」
「…絶対……キラ、ぶっ殺そうぜ…」
そう言って振り返るマットの目は、真剣そのものだった。
兄のようにLを慕ってたマットも、オレや二アと同じ思いを抱えている。
「ああ…」
そう頷き、肩に軽く手を乗せれば、マットの顔には、いつもの笑顔が戻っていた。
「少しは気分転換出来ましたか?」
「うん。二アは?」
「私もです。たまには外に出るのもいいですね。また行きましょう」
「うん」
公園で二アと散歩して、その後も少しドライブした後、私と二アはホテルに戻ろうとしていた。
久しぶりに外に出たこともあり、さっきまでの重苦しい気分が少しだけ軽くなった気がする。
メロを心配なのは変わりないけど、今私に出来る事は、メロが無事に戻るのを祈る事しか出来ない。
二アも今、必死に動いてくれている。
夜神ライトがキラ。
それを確信した上で、動いているのだ。
大丈夫…今度こそ、あの男を捕まえられる…
そう思いながら、ふと窓の外を見た。
が、その時、見覚えのある場所に近づき、ハッと息を呑んだ。
「…どうしました?」
「……止めて…」
「…え?」
「…お願い、止めて…っ」
「レスター指揮官!車を止めてくださいっ」
私の言葉に何かを感じたのか、二アはすぐに車を止めてくれた。
車の止まった場所から、少し離れたところに、私道が続いているのが見える。
「…?」
「………」
二アは訝しげな顔で私を見ていたけど、何も応えずそのまま車を下りた。
「待って下さい、!」
「二ア!どうするんです?」
「レスター、あなたはここで待機してて下さい」
そんな声が聞こえてきたけど、私は足を止める事もなく、真っ直ぐに、その私道を進んでいった。
両側の歩道は木々に覆われ、あの日以来、手入れもされていないようだ。
「!…待って下さい!どこに行くんです!」
後ろから二アの声がする。
でも、振り返る事も出来ず、私は目の前に現れた建物を、ただ黙って見上げた。
「…!」
すぐに追いついてきた二アが、私の腕を捕まえる。
「どうしたんです?急に…」
そう言って顔を覗き込んでくる二アは、少し怒っているようだった。
でも目の前の建物に気づき、ハッと息を呑むと、「これは…」と言って、私の腕を離した。
「……、ここはまさか…」
「…うん。Lが…建てたビルよ…聞いてる?」
「…はい。そうですか……これが……」
二アも言葉を失い、暫くそれを見上げていた。
「まだ…あったんですね…」
「…そうね…。もうとっくに壊されてるかと思ってた…」
「Lが建てたのなら、それ相応の設備が整ってるはずです。きっと、いつか使おうと残してるのかもしれません」
「……そんなの…許せない…」
「…」
不意に、あの夜神ライトが最後に見せた、不適な笑みが脳裏をかすめ、カッと胸の奥が熱くなる。
Lがキラを捕まえる為、建てたものを、アイツに利用されるなんて許せないのだ。
「どこ行くんですっ?」
咄嗟に走り出した私を、二アが慌てて追いかけてくる。
正面にあるエントランスに向かうと、そこは今でもセキュリティが作動していて、開く様子はなかった。
「…?」
「…やっぱり…日本警察が管理してるみたい…」
「…中には入れなさそうですね…入り口はここだけですか?」
「ううん…裏にもあるけど…でもそこも鍵が…」
「行ってみましょう。簡単なものなら解除できます」
「え…?」
二アの言葉に驚き、慌てて後をついていく。
そして裏口に回った時、二アが不意に足を止めた。
「…開いてます…」
「まさか…」
そう言って確かめると、確かにドアが僅かながらに開いている。
それには驚いたが、二アは黙って頷くと、静かにドアを開けた。
「…静かですね」
「うん…でも…」
「何です?」
「二アは戻って…危ないわ?」
「………」
「もし中にいるのが夜神ライト側の人間なら…二アは顔を見られてしまう。危険よ」
「…そうですね。でも…大丈夫ですよ。中には誰もいません」
「…え?何で…?」
「…表にそれらしき車はありませんでした。普通、警察の人間や他の人物が来たとして…徒歩でここまで来るとは思えません」
「…あ…」
確かに二アの言うとおりだった。
ここは不便な場所にあり、車じゃないと来るのは難しい。
確かに私道の前にも、ここの手前にも、それらしき車や乗物は止まってなかった。
ほんの一瞬で、それらに気づいた二アは、さすが"Lの後継者"に選ばれるだけの事はある。
「行きましょう…。せっかく開いてるんですから」
「う、うん…」
二アの言葉に頷き、ゆっくりと中へ進んでいく。
今は使われていないからか、真っ暗で足元がよく見えない。
「、大丈夫ですか?」
「うん…何とか」
「階段がありますので気をつけて」
「…ありがとう」
前を歩く二アに掴まるような形で、少しづつ歩いていくと、非常階段らしきものがあり、それを二人で上がっていく。
以前、ここに住んでた頃は、移動する際、殆どがエレベーターだったので、階段を使った事はない。
この階段がどこに続いているのか、私にも分からなかった。
「…Lが使っていた場所は何階ですか?」
「…二階…そこを本部として使ってたわ…」
「なら、この上ですね」
二アはそう言いながら更に上がっていく。
私も足を進めながら、次第に鼓動が早くなっていった。
あの悪夢の日以来、ここに来るのは初めてだ。
やはり、自然に足が震える。
あの日…ここから救急車で病院に向かったのを、かすかに覚えている。
夜神さんが付き添ってくれていた事も、薄っすらとだけど記憶にあった。
私は目の前で見た光景が信じられなくて、ただ、目の前に横たわっているLの手を、強く握り締めていた。
L、嘘でしょ?目を開けて…
どうして目を開けてくれないの?私はここにいるのよ?
いつもみたいに笑って、抱きしめてよ…
そう心の中で何度も叫びながら、一向に目を開けようとしないLの顔を見ていた。
信じる事なんか出来なかった。
Lがキラに殺されたなんて、どうしても…
握り締めている手が、触れている頬が、少しづつ体温を失っていくのを感じながらも、私は信じる事が出来なかったのだ。
キィィィ……
静かな空間に、ドアの軋む音が響く。
ドアを開けると、あの日の出来事が一気に蘇るような光景が、そこにはあった。
「………大丈夫ですか?」
「……L……」
その空間に足を踏み入れた時、目の前にいるのは二アではなく、懐かしい笑顔を浮かべたLだった。
"おはよう、。よく眠れましたか?"
いつもあの椅子から立ち上がり、私を抱きしめに来てくれたLが、そこにいた。
そんな私達を苦笑いを浮かべつつ眺めている相沢さんや、松田さん……
まるで、あの日に戻ったかのような錯覚に陥る。
「…っ!しっかりして下さいっ」
「………ッ」
突然、体を揺さぶられ、ハッと我に返ると、目の前には二アの心配そうな顔があった。
私の両頬には、いつの間にか涙が零れ落ち、二アがそれを拭ってくれている。
「二ア…」
「…大丈夫ですか…?」
「……うん…ごめんね…」
そう呟き、慌てて涙を拭うと、二アはホっとしたように息を吐き出した。
「ここは…Lと一緒にいた思い出の場所です。辛いなら戻りましょう…」
「…いいの…。まだいたい…」
「ですが…」
「もう大丈夫…。さっきはちょっと…思い出しちゃっただけ…」
そう言って微笑むと、二アは困ったように溜息をついた。
本当は、私にとって、ここは辛く悲しい場所だ。
でも…それとは逆に、Lと最後の時間を過ごした大切な場所でもある。
「ここで…捜査してたんですね」
「うん……毎日、毎日…Lはこの場所でキラの事ばかり考えてた…」
今では何も映っていないモニターに目を向け、あの頃の日々を思い返す。
二人で過ごす時間など、ほんの僅かなものでしかなかったけど、それでも、Lは私と共に在った。
いつも、あの椅子に座って、そして………
「…どうしました?」
「あれ…」
薄暗い部屋の中を進んでいくと、"あの場所"に何かが置いてある事に気づき、足を止める。
いつもLが座っていた場所の、すぐ近く。
最後にLが倒れた、あの場所…そこに、懐かしい花が置かれているのを見て、再び涙が頬を伝っていった。
「あれは……」
「…Lがよく私にくれた花…"柊"…」
「柊…?」
「…いつも…仕事に出かける前に、Lはあの花を私に残していってくれてた。冬でも緑の葉を茂らせている木は神聖な物として…魔よけになるんだって言って…」
「…そう言えば…よくの部屋にあの花が…確か花言葉は……」
「…"あなたを…守ります”…」
涙が溢れて、目の前の花がかすかに滲んだ。
「…でも何故これがここに…」
「…メロよ…」
「え…?」
「メロが……ここに来たんだわ…」
そっとしゃがみ、その白い花を手に取る。
爽やかなヨーロッパの冬を思わせる香りは、懐かしい笑顔を思い出させた。
「…メロ…メロがここに?」
「…ええ…きっと…メロもここから始めたいんだと思う…キラと…」
「正面から戦う決意をしに…来たと言う事ですね」
「……うん…それに…きっとLに会いに……」
静かな部屋の中には、メロがいた気配が少しだけ残ってるような気がした。
ここに立ち、メロは何を思ったんだろう…?
"心配しないで。オレは死なない。だから信じて待っていて"
残されたこの花を見ていると、まるでそう、言ってくれてるような気さえする。
"あなたを―――守ります"
「メロに…会いたい……」
この辛く悲しい場所に、メロの優しさが、残ってる。
この真っ白な花束が、その証でもあるように。
君がいた証なんていらないから、
君自身が此処にいて
久しぶりの更新ですね;
だいぶ終盤になってきました…か?(聞くな)
あのLの建てたビルが、あの後どうなったんだろうと気になって、
つい書いちゃいました。
第二部でも出して欲しかったなぁ…なんて思いながら、メロや二アに、あの場所に行って欲しかったという
願望を書いてしまいました。
いつも励みになるコメント、ありがとう御座います!
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■泣かせていただきました!!かなり大好きです!(社会人)
(泣いて頂けて凄く嬉しいですー!ありがとう御座います!)
■すごく大好きです!!ヒロインやメロの感情が伝わってきます(社会人)
(ありがとう御座います!感情移入して頂けて嬉しいです!)
■ドキドキしながら読ませていただいてます。かなり大好きです!!何度も泣いてしまいました(フリーター)
(嬉しいお言葉、ありがとう御座います!泣いて頂けたなんて、ホントに嬉しいです♪)
■かなりはまってます!!文章の書き方もすごく好きですvvv大好きです!!(フリーター)
(ヲヲ…文章の書き方、好きと言って頂けると、凄く励みになります(>д<)/ ありがとう御座います!)
■面白いです!続きがかなり楽しみ・・(高校生)
(ありがとう御座います!これからも頑張りますね(´¬`*)〜*
■メロ夢すっごく大好きです!!!何度も泣かせていただきました。もう大ファンです(*´∀`)(社会人)
(ひゃー;何度も泣いて頂けて、私が感涙です(*TェT*) ありがとう御座います!)
TITLE:群青三メートル手前