年末、弥ミサと模木を軟禁し、その日、ジェバンニが"ノート"に触れて確認した。
"死神は憑いていない"
少しづつ、動きだし、もうすぐキラとの決着がつく。
そんな気がしていた。
1月25日、AM10:49――
「これで準備は整ったな」
「はい」
レスター指揮官はホっとしたように意気を吐き、椅子に凭れかかった。
私はモニターを確認しながら、軽く指を噛み、静かにその時を待つ。
このまま行けば、確実に…キラとの直接対決が出来る――何事も起こらなければ。
ゆっくりと立ち上がり、のいる部屋へと向かう。
今日まで彼女も、よく耐えてくれた。
本当ならすぐにでもメロを探しに行きたいはずなのに、私の我がままに付き合ってくれている。
それは、彼女の意思を、私に託してくれたという事だ、と勝手に解釈した。
夜神ライトを倒し、Lの仇を討つ。
こんな事も出来ないのなら、私にLの名を継ぐ資格はない。
「、入りますよ」
軽くノックをしてドアを開けると、はゆっくりと振り向いた。
何かを察したような、そんな表情で私を見ている。
「これから夜神ライトと会う約束をします」
「…そう」
「会う日は3日後の28日…午後」
「3日後…」
「はい」
私の言葉には軽く息を吐くと、決心するかのように、ふと顔を上げた。
「どこで会うの?」
「…それは言えません」
「どうして?」
「言えばは必ず来るでしょう?」
「…………」
私がそう言うと、は軽く目を伏せた。
やはり思った通り、彼女は一緒に来る気だったらしい。
でもそんな事をすれば、私が彼女をメロから遠ざけた意味がない。
彼女を守りきらなければ、意味がないのだ。
「夜神ライトの最後を見たいという、の気持ちは分かります。でももし来れば、夜神ライトと面識のあるが私側の人間だとバレてしまいます」
「…アイツは私がLの恋人だったって知ってる。ニアと知り合いでもおかしくないわ」
「いえ…例えそうでも、今現在、私と一緒にいると知れれば、どんな事をするか分かりません。少しでも危険がある場所に、を連れてはいけませんよ」
「でも…っ」
「私は…L、そしてメロと約束したんです。を守る、と」
「……ニア…」
「はここで待っていて下さい。全てが終わった後、連絡を入れます」
私がそう言うと、は黙ったまま俯いてしまった。
出来れば夜神ライトの最後を、彼女に見せてやりたい。
でも追い詰められた時、夜神ライト、いやキラが、何をするか分からないのだ。
「…分かったわ。ここにいる…」
「…ありがとう御座います」
は小さく溜息をつくと、やっと笑顔を見せてくれた。
この笑顔を、これからもずっと絶やさないくらい、幸せになって欲しい。
だから……その為にも、キラを捕まえてみせる。
私に微笑む彼女を見て、改めてそう思った――
1月25日、AM11:05――
通信ボタンを押すと、相手はすぐに応答した。
これから、私の全てを駆使して、キラと対決をする。
「…L」
『何でしょう、ニア』
伺うような、声。
モニターには"L"という飾り文字。
もうこの男に、その名を語らせはしない。
「……お会いしたい」
その一言を口にした途端、少しの沈黙の後、夜神ライトの声が聞こえてきた。
『………はい?』
「どうしてもお見せしたいものが」
『…しかし私をキラと考えてるのでは?ならば私に顔を見せたくないはず』
「いえ…私の顔を出さなければ、見せられない。顔を出す事でお見せできる事もあり、それで全てが解決します」
『………ッ』
私の言葉に、一瞬、息を呑むような間が流れた。
きっと夜神ライトの後ろでは相沢達も、この会話を聞いているんだろう。
『いいでしょう…。私も早く、あなたに勘違いしていたと気づいて欲しい』
待つ事もなく、夜神ライトが応えた。
私は、夜神ライトがキラだと証明する為、
夜神ライトは、私を殺す為…
私と夜神ライトと交わされた、会うための約束には、口に出さずともそれらの緊張が走っている。
「会うことに際し、少し取り決めを…」
『はい。何でも言って下さい』
夜神ライトの冷静な声。
ここまで来れば、後は計画を一気に進めるしか、この男を止める術はない。
それから会うための条件を全て話し、夜神ライトに納得させる。
向こうも私を殺すチャンスが来るのだから、反対などするはずもない。
会う為の場所も、ピッタリのものを用意した。
その場所をモニターで送信すると、特に夜神ライトも意義を唱える事はなく、こちら側の条件は全て通り、日本の捜査本部が持つ、"デスノート"を持ってこさせるための約束もさせた。
後は日時を告げるだけだ。
「…では後は日時だけです」
『はい』
魅上が裁きをするのは0時過ぎ。
おそらく朝には、裁く者の予告…
動く時間を考えれば……
「3日後、28日。午後1時でどうでしょう」
『分かりました。こちらは何時でも構いません』
「では、3日後1時に」
『…はい』
そこで通信を終えると、自然に笑みが零れた。
夜神ライト……お前の策は読めている。
必ず、こっちが勝つ。
そう心で呟くと、キラと書かれた人形を、指で弾いた。
「…ニアが?」
『ええ…ついにキラと会うわ』
「…そうか。勝算はあるのか?」
『そのために危険を冒してノートを調べてもらったのよ。大丈夫』
「……死神のノート、か…」
真っ黒な何の変哲もない、ただのノート…
が、あれを手にした時に感じた、目に見えない殺意――
あれは手にした者じゃなければ分からない。
あの二アが調べ、準備してきたんだ。
大丈夫、だろうと思う。
だがこの胸騒ぎはいったい何なんだ…?
ハルから聞いた計画を考えれば、それは完璧のはず。
だが……キラも、バカではない。
二アが魅上という男を調べていた事など、お見通しだろう。
なら…万が一、という事も考えられる。
ノートのすり替え……
むしろ、そこに落とし穴があるかもしれない。
「……オレが…やるしかない、か」
『…え?』
「何でもない。それで…計画はそれだけか?」
『…ええ…。』
「…高田は」
『…いつも通り、今、Lとホテルで会ってるわ』
「そうか…」
二代目Lは高田を通じて、今裁きをさせているキラに連絡を取っている、と考えていいだろう。
という事は…今のキラはLとニアが会うことも、もちろん知る事になる…
『…メロ?どうしたの?』
「何でもない。それより…はどうしてる」
『…大丈夫よ。元気にしてる』
「そうか…。じゃあ…彼女に伝えてくれるか?」
『何?』
「…ニアの計画が上手く行った時には…迎えに行くと」
『…分かったわ』
「頼む」
そこで電話を切り、軽く息をつく。
28日…午後1時。
その日、その時間に、全ての悪夢が終わる。
出来ることなら…キラをこの手で葬りたかった。
が…オレにもやる事が出来た。
「マット、出かけるぞ。用意しろ」
「えぇ〜?今から?」
ゲームに夢中になっていたマットは、溜息交じりで顔を上げた。
「これからNHNに向かい…そこで高田を捕まえる」
「はあ?もう?あの計画はもう少し時間をかけてって…」
「ニアが28日、キラと対決する。時間をかけてる暇はない。それに…高田を抑える事でニアの計画が無事に進むかもしれない…」
「…何言ってんだよ?つーかキラはオレ達が殺るんじゃないのか?ニアに譲っていいのかよ」
「…………」
本当なら、ニアよりも先にキラを見つけ、捕まえるなんて生易しい事はせず、この手で殺してやりたい。
が、まずはニアのお手並み拝見、と行こうじゃないか。
ニアがキラに負けるようなら、今度こそオレがキラを殺す。
ただし…もう誰もワイミーズでの仲間を、キラに殺させはしない。
その為なら、ニアの援護でも何でもしてやるさ。
ニアは…余計な事、と怒るだろうがな。
「譲るつもりはない」
「…え?」
「だが、まずはキラに繋がる高田を手に入れる。もしニアが失敗するようなら、今度はオレがあの女を利用してキラを殺すだけだ」
そう言ってバイクのキーを取る。
オレがこれからやとうとしている事が、ニアの計画の邪魔になったとしても、あいつの事だ、必ず自分の計画を実行する。
それならそれでいい。
オレの行動は、邪魔にはなっても、無駄になる事はないだろう。
ニアの思うとおりに計画が進み、もしキラを捕まえられたなら、オレはそこで負けになるだろうけど、でも仲間や、を失う事は、ない。
大切な人達を守れるなら…ガキの頃から欲していた"No1"という夢を、捨てたっていい…
こう思えるようになったのは、彼女と再会し、向き合う事が出来たからだ――
「行くぞ、マット」
「…はいはい。ったく…人使いが荒いね〜」
「つべこべ言うな。早くしろ」
ダラダラ歩いてくるマットを睨み、これからすべき計画を簡単に説明する。
こんな奴でもハウスではオレの次に成績が良かった奴だ。
すぐに把握し、武器を用意すると、素早く車に飛び乗った。
「徐々にテンション上がってきたぜ。眠気も吹っ飛んだ」
「…ヘマするなよ」
「了解」
マットはそう言うと、エンジンをふかし、勢い良く車を発車させた。
オレもバイクにまたがり、エンジンをかける。
空を見上げると、そろそろ夜が明けるのか、だいぶ明るくなってきた。
この時間だと、渋滞に巻き込まれることなく、時間通りにつけるだろう。
高田は毎朝、同じ時間帯にNHNに向かうのは分かっている…
いつか利用しようと、あの女をとことん調べておいた。。
NHNに入るため、高田が車を下りるその瞬間がチャンス……護衛の気を散らせれば、必ず上手く行く。
目の前を走るマットの車を見ながら、オレはスピードを少しづつ上げていった。
1月26日、朝――高田の護衛についていたハルという女性から、その一報は伝えられた。
「…え、メロが…?」
「はい…。今、ハルからそう連絡が来ました」
珍しく、いつも冷静なニアが落ち着きのない様子で、そう言った。
「そんな…メロが…高田って人を浚った…?」
「…今、高田のボディガード達が追ってるようですが…どうやらメロはマットと分かれて逃げたようです。メロは高田を乗せ、バイクで走り去ったとか…」
「…それで…どこに向かってるの?!」
「それはまだ分かりません。ハルに追わせています」
ニアの言葉に、私の中にあった不安が少しづつ膨らんでいく。
今のこの時になって、メロが行動を起こしたのだ。
ニアがキラと対峙する、目前になって……
「メロは…私がキラに会う事をハルから聞いたようです」
「…え?」
「ハルがそう言ってました。だから私の邪魔をしようと―――」
「それは…違うわ」
「………ッ?」
私の言葉に、ニアは驚いたように顔を上げた。
「…」
「確かにメロはニア、あなたに追いつこうと必死だった。昔も、今も…それは変わってない。でも…邪魔をするような事、するはずない」
「…どうしてそう言いきれるんです?メロは今までも散々かき回してくれた…。今回だって―――」
「違う!どうして、こんな事をしたのか分からないけど…でもメロはそんな卑怯な人じゃない。邪魔する為だけに高田って人を浚うような、そんな人じゃ…!」
込み上げてくる感情を抑えきれず、必死にそう叫んでいた。
ニアが驚いたような顔で私を見ている。
確かにニアの計画を考えれば、メロが今した事は全てを台無しにしかねない行為なのかもしれない。
でもメロだってバカじゃない。
何か考えがあってそうしたはず…
少なくとも、私にはそう感じた。
「……私はと口論するつもりはありません」
「…ニア…」
「とにかく…困った事になりましたが、私の計画は変えません。先ほど夜神ライトにもそう伝えました」
「………」
「今、メロの行方を全力で追ってますので、また分かり次第、お知らせします」
ニアはそれだけ言うと、部屋から出て行ってしまった。
確かに、これ以上ニアと言い合いしても仕方がない。
とにかくメロが無事でいてくれればそれでいい。
確かあの高田って人には沢山の護衛がついていたはずだ。
その中からよく浚えたものだ、と感心するけど、でも…もし捕まったらただじゃ済まない。
なんて言っても高田はキラと繋がっているのだ。
あの、夜神ライトと……
そんな人間にメロがもし素顔を曝してしまったら危険だ。
高田が裁きを手伝っているとも思えないし、死神の目を持っているとは思えないが、この先、どうなるか分からない。
「メロ……無事でいて…」
祈るような気持ちでそう呟いた。
その時、不意に携帯が鳴り出し、ドキっとした。
ニアから返してもらったものの、メロに勝手にかけてはダメだと言われ、放置したままだった。
急いで携帯を見れば、そこには"非通知"としか出ておらず、一瞬出るのを躊躇う。
それでも鳴り止まない電話に、何か胸騒ぎがして、恐る恐る通話ボタンを押してみた。
「もしもし…」
『…さんですか?』
「………ッ?」
知らない女性の声が聞こえてきて、息を呑む。
すると受話器の向こうから、『私はハルです』という声が聞こえてきた。
「え…ハル…さん…?どうして私の番号…」
『メロから聞きました』
「え…あ、あの…メロ…メロは見つかったんですかっ?」
『あまり大きな声を出さないで下さい。ニアにバレてしまいます』
「……あ…あの…」
『この電話の事はニアに黙ってて下さい』
ハルという女性はそう言うと、メロからの伝言がある、と言った。
『28日…ニアとキラが対峙する日…あなたを迎えに行くと、メロが言ってました』
「…メロが…?」
『はい…。彼もきっとその日が最後だと分かってるんだと思います』
「…だったら何でメロは高田を…」
『それは私にも分かりません…。今、行き先を全力で追っています』
「手がかりはあるんですか?メロの行きそうな場所とか…」
『何箇所か…聞いたものはあります。メロも色々と計画してたようですので…。これから探してみます』
ハルという女性は力強く、そう言ってくれた。
でも私の中の不安は消えてはくれない。
メロが危険だという時に、私は駆けつける事も出来ず、ただここでジっとしているだけなのだ。
『…分かったら、また電話します。電源を切らず、ニアにバレないよう、待っていて下さい』
「……はい、ありがとう…御座います」
そこで通話が切れ、私は深く溜息をついた。
何だか力が抜け、ベッドに腰を下ろすと、そのまま寝転がる。
今、この瞬間にも、メロは高田という"爆弾"と一緒にいるのだ。
「迎えに行くなんて言っておいて…危険な事しないでよ…」
もしその約束が守られなかったら、私はきっと立ち直れない。
期待すればするほど、絶望という壁が前に立ちふさがる。
分かっていたのに…メロが危険な場所へと向かっている事は分かっていたのに…
現実にそうなると、やっぱりあの時の恐怖が蘇ってくる…
私の大切な人が必死で守ろうとした、この世界を、キラは支配しようとしてる。
その目的の為に、Lは殺された。
今度はメロが、そのLの意志を継いで、キラに真っ向から勝負を挑もうとしている。
そこまでして、メロは守ろうとしている…
Lから託されたと言ってくれた…こんな私を……私との、約束を……
ピピピピ…
「―――ッ」
その音で慌てて飛び起きた。
気づけばあのまま眠っていたらしい。
時計を見れば、すでに夜中で、私は急いで携帯を開いた。
「もしもし?」
『…ハルです。メロの居場所が分かりました』
「………ッ」
その言葉に、一気に目が覚めた。
「どこですかっ?どうして―――」
焦りが言葉となって口から出ると、ハルという女性は深く息を吐き出し、『先ほどメロから電話が』とだけ言った。
「メロから…?」
『はい…。あなたに伝えてくれと頼まれました…』
「…私に…?」
『はい。心配しないでくれ、と……』
そのメロの言葉に、胸が痛んだ。
きっと自分の行動が私の耳に入ったと思い、心配しないようと思って彼女に頼んだんだ。
「…そ、それでメロは…」
『それだけ言って切れました。ですが発信先を調べたら、メロが向かってる地域が分かりました』
「…どこですかっ?」
『長野です。私はこれから向かいます』
「……ッ?」
その言葉に、胸が激しく騒いだ。
『メロを見つけたらまた―――』
「待って!私も連れてって下さいっ」
『……え?』
「お願い!私もメロの傍に行きたいんですっ」
『でもあなたは……そこから出すわけには行きませんし、出せません…ニアが許すはず…』
「私がニアに頼むわ。メロを止められるのは私だけだって言ってくれたニアなら…きっと分かってくれる」
『ですが……』
「お願い…!もう待ってるだけなんて嫌なの!」
これ以上ここでジっとなんかしていられない。
私はそう言うと、すぐにニアのいる部屋へ行こうと、ドアを開けた。
「どこに行くんですか?」
「―――ッ?」
開けた瞬間、ニアが立っていて、思わず息を呑んだ。
「…ニア…」
「電話…リドナーからですね」
「………ッ」
ニアは何もかも分かってたというように息を吐くと、ゆっくりと部屋の中へ入って来た。
「お願い、ニア…私を行かせて!メロを止めなくちゃ…あの女だって油断は出来ないのよっ」
「………」
必死にそう言う私を、ニアは無表情な顔で見つめた。
が、すぐに溜息をつくと、「電話を貸してください」と手を差し出す。
その言葉に、慌てて携帯をニアに渡すと、彼は「リドナーですか?」と呆れたような声で話しだした。
「…今どこです?…そうですか。では途中でここに寄って下さい。ええ、そうです。には用意させておきます」
「―――ッ?」
「ええ、では…お願いします」
ニアはそこまで言うと電話を切り、真っ直ぐに私を見つめた。
「今ハルがこっちに向かってます。すぐに支度をして下さい。長野は寒い場所ですからね。なるべく暖かい格好で」
「…ニア…」
「どうしたんです?メロのところへ行きたいんでしょう?」
ニアは淡々とそう言うと、クローゼットの中から私のコートを出した。
それには思わず涙が出そうになり、思い切りニアの背中に抱きつけば、ニアは驚いたように振り向いた。
「な、何して―――」
「ありがとう、ニア…」
「…礼には及びません。もともとはメロのものなんですから。メロに返すのは当然です」
ニアはいつもの調子に戻ったのか、そんな事を言いながら溜息をついた。
「それに…メロが高田から魅上の件を聞きだしてしまえば、また勝手に動きかねません。それは本当に困るので、、あなたが止めて下さい」
「……うん…分かってる」
「ですが、くれぐれも…危険なマネはしないで下さい。危ないと思ったら逃げて下さいね。メロもいるので大丈夫でしょうけど、一応ハルにも一緒に行ってもらいます」
「…分かった。ホントにありがとう、ニア」
そう言って後ろからニアの頬に軽く口づけると、肩がビクっと跳ねたのが分かる。
「な…何してるんですか」
「お礼のキス。昔もよくホッペにしたでしょ?」
「し…しなくていいです。それに私はもう子供ではありませんから」
そう言って私の腕を離すと、ニアは慌てたように部屋を出て行ってしまった。
その顔はかすかに赤く染まっていて、きっと照れてるんだろうと思いながら、彼についていく。
「どうしたんです?ニア……顔が赤いですが」
「な、何でもありませんっ。暑いだけです」
「…暑い?でも今日はかなり冷え込んでるんですが…風邪でも引いたんですか?」
「………大丈夫です」
レスラー捜査官の言葉に、ニアはこれ以上しゃべるな、と言いたげに目を細めると、笑いを噛み殺している私を睨んだ。
「何かおかしいですか?」
「…だって…ニアも男の子なんだなぁと思って」
「…メロに怒られますよ?他の男に、あんな……」
そこまで言うと、ニアは照れ臭いのか、そっぽを向いた。
レスラー捜査官だけ、事情が分からず首をかしげている。
「じゃあ…メロには内緒にしておいてね」
「…私が言うはずないでしょう。まだ死にたくはないですから」
ニアはそう言って振り向くと、皮肉めいた笑みを浮かべていた。
いつもの調子に戻ったニアに、心の中でもう一度だけ、ありがとう、と呟く。
その時、ピピーっという音がして、モニターにハルという女性が映った。
『今つきました。下にいます』
「分かりました」
ニアはそれだけ言うと、セキュリティーの解除をして、扉を開けてくれた。
「では…下に向かってください」
「…うん。じゃあ…行って来る。なるべく早く戻るね」
そう言ってコートを持ち、廊下に出ると、ニアがゆっくりと歩いて来た。
「いえ…もう、ここに戻らなくても結構です」
「…え…?」
その言葉に驚くと、ニアは苦笑しながら、
「をメロに返すんですから、ここに戻る必要はありません」
「…ニア…」
「キラとの決着は私がもうすぐ着けます。そうなれば…メロはもう危険な事はしないでしょうし、が傍にいても問題はないという事です」
「……でも…」
「そんな顔しないで下さい。会おうと思えば、いつかまた会えます。それよりも…メロと無事に会う事が出来たら、二人で日本を離れ、幸せに暮らして下さい」
「ニア…」
「それがメロの望みであり、あなたの望みでもあり……私の望みでもあるんですから」
ニアの言葉に涙が出そうになった。
普段から、感情を出さないけれど、でも今のニアの言葉には、どこか暖かい思いが溢れてる気がする。
「…何だかんだ言って…ニアはメロを好きなのね…」
「……え?」
「いつも競ってばかりいたけど…本当はお互いを認め合ってる…。それが嬉しいの」
ニアは一瞬、戸惑うような表情を見せた。
でも、ふっと笑うと、「そうかもしれませんね」と呟き、軽く髪を指に巻きつけた。
「でも…少し違う」
「え…?」
その言葉に顔を上げると、ニアは困ったような顔で微笑み、スルっと髪を解いた。
「私が好きなのは……、あなたですから」
「……え…?」
「でも…メロの想いには敵いませんし…今回は負けてあげます」
「ニア……?」
思いがけない告白に、一瞬ドキっとした。
でも、ニアは真剣な目で、私を見ている。
そこで初めて気づいた。
いつも、悪者になってまで私を守ろうとしてくれたその心の奥には、そんな想いが隠されてたんだという事に。
「……ありがとう…ニア…」
私は、いつも、皆に守られてた。
Lが死んで、一人ぼっちになった時、世界中で私だけが孤独だと感じた時もあった。
でも、それは間違いだった。
Lを目指す彼らもまた…気づかないうちに私の傍にいてくれたんだ。
一歩前に出ると、ニアが驚いたように顔を上げた。
その瞬間、唇を軽く重ねれば、ニアの綺麗な瞳が大きく見開かれる。
そのままギュッと抱きしめると、小さな溜息が聞こえてきた。
「……私がメロに殺されてもいいんですか?」
「メロには内緒って言ったでしょ」
「……全く、あなたという人は…」
「それ、Lにもよく言われたわ」
ニアを離し、そう言って笑うと、ニアは呆れたように苦笑いを浮かべた。
「Lも…心配でたまらなかったでしょうね。みたいな人が恋人だと」
「そう?」
「そうですよ。これじゃ、いくつ心臓があっても足りません」
「それ、Lもよく言ってた」
「………」
笑いながら言った私の言葉に、ニアは僅かに目を細め、
「Lに同情します。それと―――メロにも」
ニアは皮肉たっぷりにそう言うと、柔らかい笑顔を浮かべた。
その笑顔は、昔と変わらず、どこかLに似ている。
「…くれぐれも気をつけて」
「行って来ます…」
敢えて"サヨナラ"は言わない。
また、すぐに会える。
そう信じて、私は閉じられたドアを見つめ、「ありがとう、ニア」と呟いた。
「もうすぐです」
林の中の道路を飛ばしながら、ハルは辺りを見渡した。
彼女の言う話だと、メロの携帯の発信は、この辺りからあったという事だった。
この辺にアジトに使えそうな場所があるかどうか探す為、私は窓を開け、身を乗り出した。
そうする事で冷たい風が吹き付けてきて、髪が風に浚われて行く。
都会から少し走ると、辺りは木々が立ち並び、東京では見られない風景が広がっていて、ここをメロも通ったのかと思うと、鼓動が早くなっていった。
「…メロは…何をしようとしてるのかな…」
ふと、そう呟けば、ハルはハンドルを切りながらも、「私にも分かりません」と溜息をついた。
「私より…あなたの方がメロの考えてる事が分かるんじゃないですか?」
「…そんな事…。メロはいつも、何をしようとしてるのか、私には言ってくれないから」
「それは心配かけたくないからですよ」
ハルはそう言って微笑むと、
「彼はいつも…あなたの事を気にかけてました」
「……え?」
「本当に、大切に思ってるみたいですね」
「………」
彼女の言葉が素直に嬉しかった。
私の知らないメロを知ってる彼女の口から、そう聞かされると、心の奥にあった小さな不安を全て消し去ってくれる。
「私も…メロが大切です…。いつも私を救ってくれるメロが」
だから今度は私がメロを救いたい。
一人で頑張らなくてもいいんだって、言ってあげたい。
きっとメロだって、一人じゃなく、ニアと共にキラと戦えたら、と、そう思ってる。
ニアだってホントは……さっきニアと話して、そう思ったの。
だからもう……悪者になんかならないで。
こんな世の中の為に、英雄になんかならないで。
「…さん!」
「―――ッ?」
その声にハッと顔を上げれば、林の奥から黒い煙が上がるのが見えた。
「まさか……」
「急ぎましょう!」
ハルはアクセルを踏み込むと、一気にスピードを上げた。
普段は車など殆ど通らないのか、少し行くと砂利道が現れる。
その奥から煙は上がってるようだった。
メロ…メロ…!!どうか無事で―――!
祈るような気持ちで、煙の上がる空を見上げる。
すると、急に前方が開け、そこに古びた教会が姿を現した。
いや、教会だったものが―――
「こ、これは…」
「メロ…!!」
車を下りて、火が燃え盛る建物に走っていく。
だが不意に腕を掴まれた。
「近づいたら危険です!」
「離して!あの中にメロがいるかも―――!」
「そうだとしても、もう手遅れです!あの勢いじゃ、もう……」
「バカ言わないで!」
彼女の腕を振り払い、必死に走っていく。
でも風に煽られ、燃え盛る炎の熱に、それ以上近づけない。
見れば、教会の前の外通路に一台のトラックが見えた。
「メロ!!メローー!!」
嘘だ…メロがこんな場所で死ぬはずなんかない…!
「メロ!!返事をしてよ!メロ!!」
「さん!!」
肌にビリビリと感じる熱に押されながら、私は炎の中のトラックに向かって走ろうとした。
その時、再びハルの腕が私を止める。
「これ以上、無理です!あなたまで死にますよ?!」
「いや!離してよ!!メロ…メロを助けなくちゃ―――」
ゴォォォォっと建物が燃える音で、私の声がかき消される。
それでも私は必死に叫び続けた。
どうして?どうして、こんな事になってるの?
メロは本当にここにいたの?
ここで何をしてたの―――?
「メローーッ!!」
炎の熱で喉が痛くても、名前を呼び続ければ応えてくれると思った。
だってメロはいつだって、私の声に応えてくれたから―――
絶望の端で貴方を呼んだら、
メロ夢もそろそろ佳境です。
いつも励みになるコメントをありがとう御座います!
毎回、楽しみに読ませて頂いてます(´¬`*)〜*
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■毎回楽しませていただいております。メロの優しさにいつも胸がしめつけられます!本当に大好きな作品です。更新頑張ってください。応援しています。(中学生)
(楽しんで頂けてるようで嬉しい限りです!大好きなんて、ホント励みになりますよー(/TДT)/そろそろ終盤ですが頑張ります!)
■すっごいだいすきです(社会人)
(ありがとう御座います!゜*。:゜+(人*´∀`)
■続きが気になって仕方がないです!!ほんと、感情が伝わってきます!だいすきですvvv(社会人)
(ありがとう御座います!感情移入して頂けて嬉しいですし、大好きなんて言ってもらえて感激です!)
■ほんと、大好きすぎます!!!vvv(フリーター)
(ありがとう御座います!)
■原作を踏まえてのストーリー進展で非常に読みやすく面白いです。オリジナルキャラクターの設定・行動もドリームならではの世界観に溶け込めていて、大変素晴らしい作品だと思います。(高校生)
(そんな風に言って頂けると、ホントに励みになります!そろそろ終盤に近づいてきてますが、最後まで頑張りたいと思います!)
■素敵すぎます!!!(大学生)
(ありがとう御座います〜(*TェT*)
■やっぱり最高です!ヒロインの感情の悲しみや、ゆれが本当に伝わってきて自然と泣けてきます。これからも頑張ってください☆(社会人)
(この作品で泣いてもらえて、ホントに嬉しいです!これからも頑張りますね♪)
TITLE:群青三メートル手前