code:07 / Conclusion





鬱蒼とした森の中では自分の勘だけが頼りだった。
レディは次々に襲ってきた悪魔を倒した後、忽然と姿を消したと合流すべく、トンネルのあった方角を目指す。
急に姿が見えなくなった事も心配だったが、結界か何かで引き離されたのだろうと戦っている最中に気付いたのだ。
それなら互いに敵を全滅させれば結界は消え、も戻っているのではないかと考えた。

「こっちだったっけ…」

周りを見渡しながら風景を確かめつつ、最初に二人で辿り着いた場所を探す。
その時だった。目指す方角から、かすかに女の悲鳴のようなものが聞こえて、レディは小さく息を呑んだ。

「今の…の声…?」

気付いた瞬間、レディは森の中を一気に駆けだしていた。





その頃、ダンテもまたの声を聞き、その方向へと走っていた。
散々雑魚の相手をさせられ辟易していたところへ、大物の登場。
かと思えば再び雑魚の相手をさせられ、足どめを食ったのは痛かった。
あのノデッロと名乗っていた悪魔がを罠でおびき寄せ、狙っていると分かった以上、彼女を一人で戦わせるわけにはいかない。

「そういやレディは何してんだ?」

二人は一緒にいたはずだが、とダンテは嫌な予感を振り切り、父親の石像奥にあったトンネルへと向かう。
そこは"いかにも"というくらいの悪臭が漂い、近くに悪魔がいる事を示している。
ダンテは僅かに顔を歪めながらも一気にトンネル内を駆け抜けた。

「…!Hey!ここにいるのか?!」

あの悲鳴は確かにここから聞こえたはずだ、とその名を叫ぶ。
だが自分の声が反響するだけで彼女の返事は聞こえてこない。

「…チッ。敵に浚われちまったか?」

トンネルを抜けた辺りは開けた空間があり、目の前には石で造られた長い橋。
それを渡る手前には男達が数名倒れているのが目に入る。恰好からして騎士達だろうとダンテは慎重に近づいた。
ほぼ全滅か、と思ったが、一人だけ息があるようだ。かすかに呻くその男の前にダンテはしゃがみ込んだ。

「よう、騎士さん。まだ生きてるか?」
「うぅ…き…君…は…」

重症だが意識はあるようだ。ダンテの声に反応し、男が薄っすらと目を開けた。

「俺はダンテという。あんたらの元仲間であると一緒にここへ来た。あいつはこの場所へ来たのか?」
「…そ…そうか、…が探してた…奴…だな…」
「そり俺じゃねえ…って、言っても仕方ねぇか…。って、そんな事まで知ってんのかよ。あんた、名前は?」
「サ…ガロ…だ…。…の…上司…だった…。あ…あいつを…助…」
「あん?助けろって?じゃあはここへ来たんだな。どこへ行った?」

ダンテの問いに、サガロは深く息を吐き、軽く咽ながらも震える指で石橋の奥を指す。
橋を渡り切った辺りには大きな洞窟が見えた。

「あそこか?」
「た…多分…な…。彼女は…あそこ…へ向かった…はず…」
「了解。後は俺に任せときな」

必要な情報を聞き出したダンテは、すぐさまを探しに行こうと立ち上がった。

「た…頼…む…。を…」
「分かってる。つーか、あんたは大丈夫なのか?」
「だ…大丈…夫…だ…これしき…の怪我…」
「そうかい。そりゃ良かった。無事に戻れたらあんたも助けてやるぜ」

ダンテの軽口に、サガロはかすかに笑ったようだった。
重症の人間を前にしても全く態度を崩さないその姿に、おかしくなったのだろう。
だがそれが返ってサガロの生きる望みを繋いだようだ。

「ところで水は持ってるか?」

自分のはすでに飲み干してしまったが、やはりこの暑さでは喉が渇く。
騎士達なら、そういった物資を持ってきているだろうと、かすかな希望を繋ぎ尋ねた。

「…ああ…水…なら…」

ダンテの言わんとしている事を理解したのか、サガロは視線を部下達の方へと向けた。
そこには布袋が数個、落ちている。

「アレか…。サンキュ。助かるぜ」

ダンテは礼を言い、その袋を拾い上げ、中身を確認すると笑みを浮かべた。
中には期待以上の物、、水と食料―――主に日持ちのするパンやビーフジャーキーだったが―――が入っている。

「これだけありゃ少しは持つぜ」

ダンテは水と食料を頂くと、ギターケースの中へ放り込み、サガロを振り返る。
そして手に一本のペットボトルを持つと、サガロの体を僅かに抱き起こし、その口に水を与えた。

「この暑さじゃ体力も持たねえだろうしコレは置いてく。そう時間はかからねぇつもりだが…何があるか分かんねえからな」

ダンテはそう言うと、サガロの前に水を置き、ギターケースを徐に担いだ。

「んじゃ行ってくる。あんたはそこで休んでな」

ダンテの言葉にサガロは無言のまま頷いたように見えた。
とりあえず今のところは大丈夫のようだな、とダンテは内心ホッとし、すぐに石橋を歩き出す。
奥からは徐々に悪臭が流れて来て、それは次第に濃くなっていった。

「けっ。封印島なんて親父もろくな事しねえな…。悪魔なんざ封印じゃなく全てぶっ殺すべきだ」

とは言え、ダンテはどうにも腑に落ちなかった。
この島へ来てから感じていたが、自分の父、つまりはスパーダの存在があまり感じられないのだ。
この島は確かに何かの力に守られ、悪魔を封印しているようだったが、それがスパーダと繋がらない。
確かに石像などがあり、スパーダを示しているものはあるのだが、何故か"父"を感じられないのだ。

「この感じ…もしかたら…」

ふと一つの答えが導かれ、ダンテは額の汗を拭う。
もし当たっているなら、この熱帯雨林の正体が分かった気がしたのだ。

「…それが当たってんなら…あの狼野郎がのアミュレットを狙ったのも頷けるな…」

ダンテは一人呟き、橋を渡り切った。目の前の洞窟に結界の名残があるのを確認すると、自分の考えが当たっているのだと確信する。
結界は張った者の存在を感じられるものだ。それはスパーダの張ったものではない、とダンテは結論付けた。

「なるほど、ね…。ま、あの人らしいっちゃらしいな。相当、手こずったってところか」

含み笑いをしながらダンテは楽しげに呟くと、結界の破られた洞窟の中へと足を踏み入れる。
洞窟の奥には更に通路があり、奥へと繋がっているようだ。
はこの奥にいる。ダンテはそう確信して歩き出した。そこへ―――――

「……ダンテ?!ダンテなの?!」
「よぉ、レディ。お前も今来たのか?」
「良かったわ、追いついて!探してたのよ!」

後ろから追いかけて来る人物を見て、ダンテは呑気に手を挙げた。
そしてレディの格好を見た瞬間、「Wow!」と歓喜(?)の声を上げる。

「ひゅ〜!いい眺めだな、レディ」
「え?あ!!」

ダンテに追いついたレディは改めて己の格好を思い出し、慌ててシャツを羽織った。
あまりの暑さに先ほど脱いでしまった事を忘れていたのだ。

「ちょっと見ないでよ!」
「何でだよ。別にいいだろ、下着姿くらい」
「うるさい!!この暑さじゃシャツ一枚でも邪魔なのよ!」
「じゃあ脱いでろよ」
「あんたがいるなら我慢を選ぶわ!」

レディはニヤついているダンテを睨みつけると、すぐさまシャツのボタンをしっかり留めた。
そして洞窟の中を見渡すと、

「ところでは?さっき悲鳴が聞こえたんだけど」
「ああ俺も聞いた。だから雑魚ぶっ倒してすぐに来たんだが…少々遅かったみてえだな」
「ったく!ホント頼りにならない男ね!はあんたの相棒でしょ?」
「何だよ…そんなに慌てて。さっきは散々ケンカしてたクセに」

の事を心配しているレディに、ダンテが苦笑気味に肩を竦めた。

「うるさいわね。一緒に戦って理解し合えたのよ、私とは。ホラ!サッサと助けに行くわよっ」
「へえ……そりゃまた結構な事で」

前を勝手に進んでいくレディに、ダンテは顔を引きつらせながら着いて行く。
二人が仲良くなった光景を想像し、内心ゾっとしていた。
ついでに仲良くなった二人から蔑まれる自分の未来を予感し、背筋が寒くなる。

(ったく…女って分かんねえ。つーか最強タッグじゃねえか…怖すぎるってもんだぜ)

内心怯えながら(!)ダンテは深々と溜息をついた。

「ちょっと!早く来なさいよ!が敵に捕まってるかもしれないのよ?」
「あいつなら大丈夫だよ。すぐに殺られるような奴じゃねえ」
「それは分かるけど…って、ちょっとアレ!見てよ。出口じゃない?」

レディの指さす方へダンテも目を向けると、確かに奥の方がぼんやり明るくなっている。
そして悪魔の匂いが更に濃くなり、ダンテは軽く顔をしかめた。

「いや…ありゃ出口じゃねえ…。来るぜ」
「…そうみたいね」

ダンテが銃を構えたのと同時に、レディも小型拳銃を構える。
前方からは、またしてもカボチャの頭をした悪魔達が大量に向かって来た。
ぼんやり光って見えたのは悪魔の頭部だったのだ。

「ったく紛らわしい!!」
「俺達に邪魔して欲しくねえんだろ!あの狼野郎はっ」

同時に銃をぶっ放しながら、次々に悪魔を消滅させていく。
下級悪魔のスケアクロウまで現れ、二人は背中を預け合いながら撃ち続けた。

「何よ、その狼野郎って!ハロウィンのお仲間?」
「いーや。こいつらのボスだ。さっき俺の前に姿を現しやがった」
「ボス?ボスって狼なわけ?」
「ああ…つっても言葉をしゃべる。ペラペラとうるせえ野郎だったぜ。この雑魚はそいつの分身から作られてる」
「マジ?じゃあ、その狼野郎を倒さないと、これが延々続くってわけ?」
「そう言う事だな!」
「……OH MY GOD…」

レディはウンザリした顔で悪魔を二体、撃ち抜いた。
ダンテも負けずに三体ほど撃ち抜くと、溜息交じりで銃を肩に乗せる。

「チッ…次から次へと鬱陶しい奴らだぜ!」
「これじゃのところへ辿り着く前にコッチがバテちゃうわよ」
「モタモタしてられねぇな!こうなりゃ一気にやっちまうか」

そう叫ぶとダンテは背中の大剣リべリオンを引き抜き、自分に向かって来る悪魔を一気に切り裂いた。
甲高い断末魔を上げ、悪魔達は次々に黒い霧となって消滅していく。

「よし!このまま突っ切るぜ!レディ!」
「OK!」

ダンテは軽々と跳躍すると、残りの悪魔をエボニ―&アイボリーで打ち抜きながら、洞窟を駆け抜けて行く。
レディもその後から続き、ちまちま撃ってられないとばかりに、愛用のランチャーをぶっ放した。
怒涛の攻撃にさすがの悪魔達も見事に吹っ飛び、ついでにダンテも軽い被害に合っていた。

「おいレディ!!こんな狭い洞窟ん中で何ランチャーぶっ放してんだよ!おかげで岩が崩れて頭部直撃しただろーが!」
「あーら、ごめんなさい。でもダンテの頭は銃で撃ち抜かれたって平気なくらい丈夫なんだし、岩くらいどうって事ないでしょ?」
「…あ?!死なねえっつっても痛い事は痛いんだよ!」
「でもおかげで道は開けたんじゃなくて?」

レディが涼しい顔でランチャーを肩に担ぐ。
確かに洞窟内に溢れかえっていた悪魔が一掃され、奥へ向かう活路は開けたようだ。
それでもダンテは納得いかないような顔でレディを睨み、呆れ顔で息を吐く。

「ったく…減らず口は相変わらずだぜ」
「それはお互い様。それより早く行きましょ。が心配だわ」
「…分かってる」

ダンテはふと真面目な顔で頷くと、再び歩を進めた。
いくらが強いとはいえ、知り合いが関係しているうえに、ノデッロのような悪魔に狙われてるとなれば、ダンテも多少は心配になってくる。
そしてノデッロが"何の封印を解こうとしているのか"という事も、ダンテは気になっていた。

「レディ…」
「何よ」
「油断するなよ…。あの狼野郎は何かを復活させようとしてるのかもしれねえ」
「…復活?何をよ」
「さあな。ただ…の持ってるアミュレットが必要って事だけは分かった」
「アミュレット……」
「ああ。は子供の頃にも同じ奴に一度襲われてる。その時あの狼野郎はアミュレットを奪いに来たようだ」
「ふーん。でもそれで何で狼野郎が何かを復活させようとしてると思うの?そいつが欲しいだけかも――――」

そう言いかけ、レディは小さく息を呑んだ。

「思いだしたか?」

レディの様子にダンテもニヤリと笑う。
二人には今回の騒動と似たような状況の経験があった。

「まさか…バージルがやろうとしてた事と同じって事?」
「ああ…。まあバージルは魔界への扉を開ける為に俺のアミュレットを欲したが…狼野郎は多分違う」
「…っじゃあ…何を開こうと…」
「…この島…色んな悪魔が封印されてるんだろ?」

ダンテの一言にレディは目を見開き、軽く息を呑んだ。

「そっか…!と言う事は…の持つアミュレットには何らかの力があり、それが悪魔の封印を解くカギになってるのかも」
「そういう事だ。ついでに言えば…この島に悪魔を封印したのはスパーダ、と言う奴もいたらしいが、それも違う」
「え…じゃあ誰が――――」

ダンテはそこで一度レディを見ると、「の父親だ」と答えた。

「ええ?の父親って…」
「名はカーロ。炎を操る悪魔だった。俺の親父の側近でもあり、忠実な部下だったが、親父がこの地を離れる時、カーロは一人ここに残った」
「そっか…それがの故郷…」
「ああ。多分カーロはそこで襲ってくる悪魔どもと戦いながら、葬り去れない上級悪魔だけを自分の住む街から離れたこの島に封印してきたんだろう」
「なるほどねえ…。で、の持つアミュレットがその悪魔の封印を解くカギになってる…ってわけか」
「ああ。カーロはアミュレットに自分の能力を込めて封印し、それをの母親に預けてたのかもしれねえな。俺の親父がしてたように」

ダンテは己の胸に下がるアミュレットを握りしめた。

「どおりで親父の匂いがしなかったはずだぜ。ここは…カーロの力で溢れている」
「そんなの分かるの?」
「ああ。俺には分かる。それにこの尋常じゃない暑さ…。カーロは"炎帝"と呼ばれていた。そのカーロの力で封印してるんだ。頷けるってもんだぜ」
「そう言う事…。で…その封印された悪魔を助ける為に狼野郎が動いてるって事ね。封印されてるのは、かなり上級の悪魔かしら」
「かもな…。多分激しい戦いだったんだろう。互いに傷つき、カーロには相手にトドメをさす力が残ってなかったのかもしれねえ」
「……って事は、相当強い悪魔かもしれないのね」
「ああ…。トドメをさせず、カーロは苦肉の策で封印したんだとしたら…」

ダンテはそこでニヤリと口元を歪める。

「…そこそこ楽しめそうだぜ」

心底、戦うのが楽しい、という顔のダンテを見て、レディは呆れたように溜息をついた。

「あのねえ…。戦いを楽しんでる暇なんかないの。もしそれが本当なら早く行って封印を解くのを阻止するのが先よ」
「分かってるよ。まあ…万が一、間に合わなかったら戦うしかねえって事だろ?」
「どうだか。その悪魔が出て来たら、カーロの娘のだって命が危ないかもしれないのよ?呑気に構えてられないわ」
「ったく、うるせえなあ…。分かってるって言ってんだろ。いいから口より足動かせ」
「なーによ、偉そうに」

足早に進むダンテの背中を睨みつつレディは徐に目を細めた。
しかしダンテの言うように今はケンカをしている場合じゃない。
に何かあったのは間違いない上に、封印されている上級悪魔が放たれるかもしれないというのだ。
レディとしては出来れば、そんな大物と戦いたくはない。
炎帝と呼ばれた悪魔でさえ苦戦したかもしれない強大な力を持った悪魔など、永遠に眠っていて欲しいものだと思った。

(このバカは戦いたいみたいだけど…冗談じゃないわ。を助け出して、その狼野郎を消滅させるだけで充分ってもんよ)

レディは内心そう思いながら、いつ悪魔が襲ってきてもいいように銃を構えた。
洞窟は奥に行くにつれ広くなり、ゴツゴツしていた足場が、綺麗な大理石のようなものへと変わっていた。

「おい。この先に階段があるぜ」
「どうやら地下に下りてるみたいね…。この下に封印場所があるのかしら」
「間違いねえな。どんどん悪臭が強くなってやがる」

ダンテは顔をしかめながら鼻をこすると、静かに階段を下りて行く。
一段一段ゆっくりと進んでいくと、目の前に大きな扉が現れた。
扉の両脇には松明に火がともされている。そしての隣にまたしてもスパーダの石像が建っていた。

「チッ。カーロの奴、親父の熱狂的なファンかっつーの…。あちこちに、こんなもん造りやがって」
「側近だったんでしょ?なら熱烈に崇拝してたんじゃないの?」

レディがからかうように言えば、ダンテは再び舌打ちをし、豪華な装飾が施されている大きな扉を見上げた。

「この中だな…」
「そうみたいね…。地上よりも酷い暑さ…。何十度あるのかしら…」

レディは流れ落ちて来る汗を手で拭いながら、水を一気に飲み干した。

「っていうか、この扉、どうやって開けるの?ランチャーでふっ飛ばす?」
「いや…待て」

ダンテも水を煽りつつ扉の前に立つと、真ん中の紋章をそっと手で撫でる。
そこには何かをはめ込むような形の窪みが二つあった。

「これは…」
「何?どうしたの?」
「一つは見覚えのある形だ…」
「え?何の事?」

ダンテの言う意味が分からず、レディは首を傾げる。
その問いには答えず、ダンテは徐に胸に下がっている己のアミュレットを握ると、紋章にある窪みへはめ込んでみた。

「ちょっとダンテ。何して――――」
「し!回るぜ」

ダンテのアミュレットは片方の窪みにピタリとはまり、カチッという音がした。
ダンテはそれを左方向へと回してみる。
その瞬間、再びカチッカチッという音が連続して鳴り、五回ほどなった後、ガシャリというカギが開くような音がした。

「嘘…」

最後の音が鳴ったのと同時に、重厚な扉の左側だけが手前に開き、レディはポカンと口を開けた。

「なるほどな…。カーロの奴、自分のと親父のアミュレット、どちらも使えるよう細工してたらしい」
「な、何で?」
「さあな。ま、いつか、こんな事があるかもしれないと想定してたのかもな。で、俺が出向いてくる事も考えた」
「まさか…そんな先の事まで考えてたっていうの?のパパが」
「カーロは頭のいい悪魔だった。先の先を考え行動する。だからこそ親父もあれほど信頼してたんだろう」

ダンテはそう言いながら、もう片方の窪みを指差した。

「コッチは多分のアミュレットの形だろうな。両方コレだったら俺達は先へ進めなかったところだ」
「それもそうね…。じゃあホントにのパパはダンテが来る事を予期してたと?」
「さぁな。俺が親父の意思を継いでデビルハンターをやるなんてカーロも思ってなかっただろうし…本当のとこは分からねえ」
「何よそれ。ホントいい加減ね」
「いい加減は俺の専売特許だ。んな事より行くぞ」

いつもの軽口を叩きながら、ダンテは片方の扉を開けると中へ足を踏み入れる。その瞬間、松明の炎が突如として消えた―――――









ぴちょん…と音を立て落ちて来た小さな水滴が頬を濡らし、はふと意識を取り戻した。
しかし頭が朦朧として、今が現実なのか、それともまだ夢の中なのか分からない。
今見ていたのはが子供の頃の光景。
母イリーナが傍にいて、と二人、楽しげに笑っている姿だった。
そこへ誰かの声が頭に響く。それが自分の声なのかすら、今のには分からない。


ママ…やっぱり生きてたのね…。良かった……ママが笑ってる…。あの日は楽しかったね…
そうだ…あの日はママと一緒にピザを焼いたわ…ホラ…私が邪魔をして生地を破いちゃったから、ママってば困ったように私の額をつついた…
私はいつも邪魔ばかりして…そのたびにママは呆れたように笑うの…私は私でムキになって、また同じ事の繰り返し…
でもね、ママ…いつもママが焼くのを見ていたから…おかげでピザを焼くのはママより上手くなったのよ…。一度…焼いてあげたいな…
でも…ママはもう…いないんだよね……"狼"に食べられちゃったから………




そこで一気に覚醒し、は目を開けた。

「…っ…ここ…」

目を開け驚いた。慌てて体を起こすと、そこは見た事もない部屋だった。
岩壁に囲まれた広い部屋。しかし床一面は綺麗な大理石のようにキラキラ輝く石で装飾されている。
そして目の前には大きな像が建っていて、それが森の中にあったスパーダの石像と同じ形をしている事に気付いた。
像の両サイドには松明が燃え盛り、部屋の中を明るく照らしている。
そしてその背後には真っ赤に燃え盛る炎の壁…いや巨大な封印結界があった。

「何よコレ…どこなの?」

ゆっくりと体を起こし、部屋の中を見渡す。そして何故自分がここにいるのか疑問に思った。

(そうよ…私は結界の前に立ってたはず…それでアミュレットが光って結界が解かれた…そして中には…)

その時、の脳裏にミハエルの姿がよぎり、小さく息を呑んだ。

「そうだ…あの時私はミハエルを見つけて…あの洞窟に入った…。それでミハエルが生きてるのを確かめようとして…」

あの時、結界の解かれた洞窟の中にミハエルの姿を見つけ、は慌てて駆け寄った。そして彼の体を抱き起こし――――

「そうだ、思い出した…。アレはミハエルじゃなくて―――――」

≪…やっと目が覚めたみたいだな≫

「――――――ッ」

突如、部屋の中に響いた低い声に、は一瞬で銃へと手を伸ばす。
だがホルスターの中にあるはずの銃がない事に気付き、愕然とした。

≪クックック…危ないオモチャは預かったぜ…もちろんデカイ剣もなァ…≫

「…くっ…その声…お前あの時の悪魔ねっ!」

姿の見えない敵を探すように部屋の中を見渡す。
しかし声の主は未だ姿を現さず、不気味な声だけが響いてくる。

≪…その通り。俺はノデッロ…。お前が小さい頃にも一度会ったな…。あの時は分身だったが…クク…≫

「分身…?!どういう事?!お前は数ヶ月前、消滅したはず――――」

≪ああ…あの夜の事か…。アレも俺様の分身に過ぎない…いくら消されようが本体である俺様を傷つけなければ消滅させる事は出来ない…≫

「…なるほど。そういう事ね。やっとからくりが分かったわ…。さっきのミハエルもあんたの分身が化けてたってわけね」

≪…言っただろう…あの男は俺様と融合した…。姿形など作り出すのは容易い≫

「そう…で?その分身を使い、噂を広め、どこへ行ったか分からなかった私をおびき寄せたってわけ?」

≪なかなかのアイデアだろう?お前は必ず来ると思っていた…。あの男の最期を目撃しているにも関わらず、な≫

おかしいと疑っていても来るとは愚かなガキだ、とノデッロは笑う。
は唇を噛みしめ、見えない敵を睨むように立ち上がった。

「…あんたが死んでもミハエルは戻らないって事ね…」

≪…融合した人間は俺が死ねば同時に死ぬ。あの男の肉体はないのだから当然だ≫

「…そう…」

ノデッロの言葉に、は小さな望みすら消えた気がして、拳を握りしめた。
分かってはいたはずだが、少しでも期待をしてしまったのだ。
もしかしたら…この悪魔を倒せばミハエルが戻るのではないか、と。

「…それで?あんたの目的は?私のアミュレットだっけ」

≪……………≫

「何故これを欲しがるの?」

ずっと気になっていた事を口にしたが、は薄々気づいていた。
先ほど入り口の封印がアミュレットの力で解かれた事を考えれば、容易に察しはつく。

「…これを使って…ここの封印を解きたいのね。そう…多分その悪魔はあんたの主、とか」

≪……その通り。察しがいいな≫

「さっき入口の封印結界が解けたんだもの。それくらい分かるわ。で、何でこのアミュレットを奪わなかったの?」

もう一つの疑問を問いかけると、ノデッロの息を呑む気配がした。

≪………何?≫

「銃と剣は奪ったクセに。一番欲しがってるコレは奪わなかった…おかしいと思うじゃない?」

≪…………≫

「普通なら真っ先にアミュレットを奪うはず。ああ、それとも……奪えなかったのかしら」

≪黙れ!!今この場でお前を殺し奪ってもいいんだぞ!!≫

の挑発にキレたのか、ノデッロは地鳴りのような声で叫んだ。
だがは軽く肩を竦めただけで、怯えるでもない。

「嘘ね。殺すつもりなら私が気を失ってる間にとっくに殺ってる。でも殺さずアミュレットも奪わなかった。ううん、奪えなかった、が正しいんじゃない?」

≪…クッ…貴様…ッ≫

「そうね…多分この石には、あんたが触れられない力がある。そして私が生きて力を使わなければ、あんたの主の封印結界は解けない。違う?」

指で摘まんだアミュレットを目の前で揺らしながら、が問いかけると、ノデッロは悔しげなうめき声をあげた。
その気配で今言った事が正しいのだ、とは確信する。

≪その通りだ、ガキ…。ここの入口の鍵はお前の肉体を操り開けられたが、主を封印している結界はお前の意思がなければ解かれない…≫

「やっぱりね。でも…どうして?ここはスパーダが悪魔を封印してた場所でしょ?なのに何で私の力が―――――」

そこまで言って、は小さく息を呑んだ。
先ほどから感じていた違和感が、最後のピースをはめたように答えに辿り着く。

「まさかこの結界…」

≪…気付いたか?そうだ…ここはスパーダが封印したものじゃない≫

「まさか私の…」

≪その"まさか"さ…。俺の主を封印した悪魔は……お前の父カーロ≫

「………ッ」

父の名を聞き、は思わず胸元のアミュレットを見た。
母イリーナが、あの夜に預けたものであり、唯一の形見だ。それがまさか封印を解く力があったとは今日まで思いもしなかった。

≪…俺の主はカーロと戦い、弱っていたところを奴に封印された…普通の封印なら己の力で破れるほどの悪魔だが…カーロとは相性が悪かった≫

「…相性…?」

≪この島が何故これほどまでに暑いか分かるか?≫

「この暑さも関係が?まさか…熱に弱いの…?だからパパは…」

≪炎帝とまで呼ばれたカーロの獄炎は我が主でも消せない≫

ノデッロの説明に、は全てに納得がいったような気がした。
この島へ来た時から感じていた心地のいい温もりは、自分の父親のものだったのだ。

(そっか…同じ血が流れているから…私はこの暑さでも心地よく感じてたんだ…)

ふと会った事もない父親の存在を肌で感じ、は胸がいっぱいになった。
同時に、その悪魔の封印を解いてはいけない、と本能で感じる。
カーロが必死に封じた悪魔だ。どれほどの災いをもたらすか分からない。

「…いいの?そんな弱点までベラベラしゃべっちゃって。そんなの聞かされて私が封印を解くとでも?」

姿の見えないノデッロの気配を探りながら、問いかける。
ノデッロの意図が良く分からなかった。普通なら己の主の弱点など、敵であるに話すわけがない。
その心に気付いたのか、ノデッロは低く笑った。

≪何を話そうと構わない。お前は解かざるを得ないんだからな。そして主が復活すれば最期。お前みたいな半端な悪魔など瞬殺されるだろう≫

もちろん、お前が連れて来たスパーダの息子もな、と楽しげに笑う。
その言葉にはもカチンと来た。

「…半端な悪魔…。言ってくれるじゃない…。確かにダンテは半端な悪魔だけど(!)私まで一緒にして欲しくないわ!」

随分な事を言いながら不貞腐れたように唇を尖らせる。
だがノデッロの言葉が引っ掛かり、は軽く首をひねった。

「…それより…何故私が封印を解かざるを得ないわけ?私の意思でしか封印は解けないはずでしょ」

≪…クックック…そうだ…お前は自ら封印を解く事になる≫

「だから、どういう意味よ」

確信を持ったノデッロの言葉に、は訝しげに眉を顰める。
操って出来るものなら、とっくに操っているはずだ。それをしないという事はやはり自らの意思でしか封印は解けないのだろう。

(それなのに何なの、あの自信に溢れた態度…どうして私が悪魔の封印なんか解くのよ)

意味の分からない言葉に一抹の不安を覚えたは、少し警戒しながら辺りを見渡した。
その瞬間、部屋の中にノデッロの笑い声が響き渡る。

「何がおかしいの?!いい加減、姿を見せなさいよ!」

≪遠慮しておこう。貴様の炎は不愉快なんでな…≫

「ふん…主と一緒であんたも炎に弱いってわけね。そう言えば初対面の時も燃えちゃったんだっけ」

≪黙れ!!貴様のようなガキの炎など俺様の弱点にすらならんわ!≫

「あっそ。なら出て来たら?今度こそ骨も残らないくらいに焼きつくしてあげるから」

はそう言って手を翳すと、その掌に炎を燃やす。
しかしノデッロは再び笑うと、

≪…これを見ても俺様を攻撃できるかな…?≫

「――――――?!」

突然、目の前の松明が大きく揺れ、眩しいほどに光り出し、はたまらず手を翳した。

「ちょっと眩しいじゃない!何なの?!」

≪俺様が何の準備もせず貴様を捕らえたと思うのか?≫

「………な…っ」

光が収まり再び視線を向けた瞬間、は息を呑んだ。

「…ダンテ…とレディ?!」

松明の隣にあったはずのスパーダの像が消え去り、代わりに現れたのは血まみれになったダンテとレディの姿だった。

「ダンテ!レディ!何で二人が……」

二人は何かの術で縛られているのか、宙に浮かんだ状態で両手を後ろ手にされ、ぐったりと項垂れたまま動かない。
まさかこの二人が、とは我が目を疑った。

≪クックック…こいつらがやられないとでも思っていたのか?罠にかけたら簡単だったぞ≫

「うるさい!いいから二人を放して!関係ないでしょっ!」

≪それは出来ない相談だ…。こいつらは人界でいうところの人質さ…。まあ片方は"人"ではないがな…≫

「…くっ…さすが悪魔ね…。こんな下らない方法でしか戦えないってわけ?!」

傷ついた二人を目の前に、は動揺していた。
あの二人がその辺の悪魔にやられるわけがないと高をくくっていたのかもしれない。
しかし相手は最低最悪の狡賢い悪魔だ。どんな罠を張ったかしれない。
は二人の下へ走って行き、軽く跳躍した。しかし何かに弾かれ触れる事すらかなわない。

「…チッ!結界ね…」

≪その通り。助けようとしても無駄だ≫

「こんなもの私の炎で消せば済むわ」

そう吐き捨てが再び手に炎をともした瞬間。二人の姿は一瞬で消えうせた。

「ダンテ…レディ!…ちょっとバカ犬!二人をどこへやったの?!」

≪黙れ!簡単に助け出せると思ったか?それはさせない。―――――お前に、主の封印を解かせるまでは、な≫

「――――――」

ノデッロの言っていた意味が分かり、は目を見開いた。

「そう言う事…。二人を人質にし、封印を解かせる気だったからこそ、解かざるを得ない、と余裕ぶっこいてたってわけ」

≪お前のような聞き分けのないガキには一番有効な手段だろう?あの男のように二人の肉体を取り込んでもいいんだぞ≫

「……そんな事させないわっ!」

悔しさで拳の炎が火柱をあげる。しかしその怒りの炎ですら、姿を隠しているノデッロには届かない。

≪それが嫌なら今すぐ…主の封印を解け…。さもなくば―――――≫

『…きゃぁぁぁぁ!!!!!』
『う、わぁぁぁぁっ!!!!』

「ダンテ!レディ?!」

どこからともなく二人の悲鳴が聞こえ、は思い切り叫んだ。
その声すら届くはずもなく、二人は拷問されているかのような悲鳴を上げ続ける。

≪ふはははっ!!どうだ?もっと聞きたいか?次はどちらかの腕をもぎ取ってやろう≫

「やめてぇ!!!二人にはこれ以上何もしないで!!!」

断末魔のような悲鳴を聞きたくなくて、は耳を塞ぎながら叫んだ。
ノデッロはそんなを見て、いかにも愉快だと言うように笑っている。

≪ならガキ…。二人を生かしたくば…我が主の封印を解け≫

「……っ」

≪嫌なのか…?断ると言うなら、あの二人の肉体は俺様が頂くとしよう≫

「…やめて!!」

は慌てて顔を上げると、強く唇をかみしめた。額から大量に汗が噴き出してくる。
ノデッロの言うとおりにすれば二人は助かる。今のにはその事しかなかった。

(殺させない…。やっと出逢えた仲間なのよ…)

強く拳を握りしめ、は真っすぐに目の前の封印結界を見上げた。

「……っ…やるわ。どうすれば封印は解けるの」

≪…おお!!やる気になったか!いい判断だ…ガキ≫

「言っておくけど…封印を解いてあの二人を返さなかったら…あんたの主がどれだけ強かろうと、あんただけでも道連れにしてやるから。よく覚えておいて」

≪クックック…主が解き放たれれば、あの二人に用はない。すぐに返してやる…。我が主から逃げられるならな…≫

「…いいから封印の解き方を教えなさいよ」

≪いいだろう…。まずは結界の前に行き、お前の持つアミュレットを掲げろ≫

ノデッロの得意げな態度に腹を立てながらも、今だけの我慢だと怒りを抑える。
例え封印を解き、最強の悪魔が解き放たれたとしても、逃げる気などさらさらなかった。

(パパが封印した悪魔なら、私がケジメをつけてやるわ…)

そう心に誓い、封印結界の前に立つ。そして言われた通り、結界の方へアミュレットを高く翳した――――――








悪魔などに屈したくはない。だが仲間の命の方が優先だ。
そう言い聞かせ、は封印結界へとアミュレットを翳す。その時―――――


「待て!!!!」

「――――――ッ?!」


突然、聞き覚えのある声が響き、は自分の耳を疑った。

「…な……ダンテ?!それにレディも…!!」

今度は己の目を疑う番だった。
声のする方へと視線を向ければ、先ほど血まみれで捕らえられていたはずの二人が勢い良く走ってくる。
しかもその体には傷一つないのだ。

「な…何で…?どういう事?!」

大怪我どころかピンピンしている二人を間近に見て、は頭が混乱してきた。
先ほど拷問を受け悲鳴をあげていた二人には到底見えない。

「ああ?何言ってんだ?そりゃコッチのセリフだぜ。何、結界解こうとしてんだよお前は!」
「だ、だって…あんた達が人質になってたから私は…っ」
「はあ?人質って何の話だよ。俺達は今ここに来たんだぜ?扉の結界をコレで解いてな。ま、ちょいと道草させられたが」

そう言いながらダンテは自分のアミュレットを見せる。しかしは未だに何が何だか分からず固まっていた。

≪…チッ貴様ら…肝心なところで邪魔をしおって…!どうやってあの穴から出たっ!≫

予期せぬ状況にノデッロも慌てた様子だ。その声に気付き、ダンテは苦笑いを浮かべた。

「お、その声はさっきのバカ犬か…。何だか途中で深い穴に落とされたが…ありゃ俺たちへの罠か?だとしたらお粗末なもんだ」

≪…クッ…間違いなく貴様らは落ちたはずだ…!なら―――――≫

「ああ、落ちたぜ?ついでに言えば穴の底にいた氷漬けのトカゲちゃん達とも対面したが……数分で消滅してたなァ」

≪き、貴様ァ!俺様の下僕を…!≫

「何だ。ありゃお前の下僕だったのか。まあこの暑さで参ってたし、ちょうど良く冷やしてもらって生き返ったぜ」

子バカにするような口調で、ダンテが両手を大げさに広げて見せれば、ノデッロは怒りの咆哮を上げた。
瞬間、部屋の中はまるで地震のように揺れ出す。
その振動ではハッと我に返ると、今の話を繋ぎ合わせて一つの答えに行きついた。

「ちょっとバカ犬!!私を騙したわね!さっきの二人はあんたの分身が作りだした偽物でしょ!!」

≪黙れ!騙される方がバカなのだ!少しでもエネルギーを探れば偽物だとすぐに気付いたはずだっ≫

「なーんですってぇ?開き直る気ね、この野良犬が!」

≪…貴様…っ俺様が野良犬だと…?!≫

「そうじゃない。あんたなんか主のいない野良犬!だーれが、あんたの主なんか解放してやるかってのよ!」

コロリと騙された怒りではそれを全てぶつけるように叫ぶ。その横ではダンテが頭を掻きつつ、レディと溜息をついていた。

「おい…その辺にしとけよ。あまりバカにすると――――」

≪き、貴様ァァァ!!!俺様を侮辱する気かァ!!≫

「ほーら怒らせたじゃねぇか」

ダンテは肩を竦め、苦笑気味に呟く。
だがの怒りは止まる事もなく、ノデッロを挑発し続けた。

「野良犬じゃなきゃ負け犬でしょ?!違うなら姿を見せろ、負け犬ノデッロ!」

≪許さん…!!これ以上、俺様を侮辱出来ぬよう、その口を切り裂いてくれるわ!!≫

最後の罵倒で遂にキレたのか、先ほどよりも大きな咆哮と共に、巨大な影が部屋の中に現れた。

「ほーら、お出ましだ」
「これで同じリングに上がったわね」
「これを待ってたのよ」

呆れたように笑うダンテとレディを後にし、は軽く指を鳴らすと、その手に炎を燃やす。
剣も銃も奪われ武器のないは、悪魔の力を借りるしかない。

「おいおい、お前、銃と剣はどうした」
「あいつに奪われたの!」
「マジかよ…」
「っていうか何があったの?の悲鳴が聞こえて凄い驚いたんだから」
「その話は後でゆっくりと、ピザでも食べながら話しましょ、レディ」
「ま、それもそうね。今はまずこのデカ犬を何となしなくちゃ」

言いながらレディもランチャーを肩に乗せる。だがはそれを静止した。

「いいの。ここは私一人にやらせて」
「は?」
「あいつは私の母と、兄貴代わりだった人を殺した仇なの。これまで分身で逃げられてきたけど…今度こそ殺してやるわ」

静かな怒りがを纏い、レディはそれ以上何も言えなくなった。

「おい…お前武器もねえのに―――――」
「武器がなくても…私にはパパから受け継いだこの力がある…。感じるの。さっきよりも強く。パパの力を―――――」

体中の熱が手に集中する。それに応えるかのようにアミュレットにも熱が帯びて来るのを感じ、はそれを全て解放させた。

「レディ、離れろ!」
「ちょ、ちょっとダンテ…!」

の様子を伺っていたダンテは慌ててレディの腕を掴み、後方へと飛ぶ。
同時にの全身が炎に包まれ、辺りが紫色に染まって見えた。

「嘘…何アレ…」
「あれがの力だ。あいつは炎を操る」
「マジ…?話では聞いてたけど…ホントにあんたと同じなのね、彼女…」
「ああ…バージルが引き合わせてくれた…俺の仲間だ」

ダンテは力を解放したを、どこか楽しげに見つめている。
しかしレディはそれでも不安な顔でダンテを見上げた。

「で、でも、やっぱり一人じゃいくら何でも――――」
「いや大丈夫だ。今のアイツは…これまでの何倍も強い力を放ってる」

ノデッロと対峙しているを見ながら、ダンテは彼女の変化に気付いていた。

(多分…この地に眠るカーロのパワーと、形見であるあのアミュレットが同空間にあるからだろうな…。今のはまるで覚醒した悪魔そのものだ)

現に意気揚々と姿を現したノデッロの魔力よりも、今のの方が上回っている。
巧みに炎を操り、ノデッロを攻撃していく姿は、昔一度だけ見たカーロの姿にとても似ている、とダンテは思った。
銀髪を揺らし、紫色の炎を纏うは、炎帝そのものだ。

(カーロ…あんたの娘は綺麗だが……やっぱおっかねえな…)

ふと懐かしい顔を思い出し、ダンテは笑みを浮かべる。
ノデッロの体はあっという間に半分以上も焼け爛れた。
銃弾さえも弾くあの鋼のような皮膚をいとも簡単に燃やすほど、今のが纏う炎は凄まじかった。

≪ぐぁぁぁっ…き、貴様ァ…≫

恨めしげにノデッロが呻く。
その時、が天井高く跳躍し、その両手には巨大な炎の塊を燃やしていた。


「…これで最後よ…バカ犬!!ママとミハエルの魂は返してもらう!!」


≪バ、バカな…この俺様が――――――≫


ノデッロの最後の言葉は業火と共に覆われ、すぐに消えた。
巨大な肉体は炎獄で焼きつくされ、中からは悲鳴なのか燃えさかる炎の轟音なのかすら分からない音が聞こえて来た。

「…凄い」

目の前での戦いを見つめ、思わずレディが呟く。

「これがの力…」
「…こりゃ想像以上に覚醒したな。まあ、この島を出れば元に戻るかも知れねえが」

ダンテは見学よろしく床に座ると、母とミハエルの仇を見事にとったの背中を見つめた。
あのノデッロを焼きつくすほどの炎が部屋を取り巻いているにも関わらず、少しも暑さを感じない。
それはが二人に対し殺意がないからだろう。

(もう、これだけのコントロールを…)

そこに気付き、ダンテは軽く笑みを浮かべた。

「やるじゃねえか…

満足そうに呟き、静かに立ち上がる。もちろん一つの戦いを終えた"相棒"を労う為に―――――








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