離さないで、一人になろうとしないで、そばにいるよ





ふわりと風が吹き、オレの体をまとう砂がサラサラと流れる――






「影分身の術!!」


元気良く叫ぶ目の前の男は、何やら嬉しそうに、さっきから満面の笑みを浮かべていた。


「行っくぞ〜我愛羅!」
「いつでも来い」


行った瞬間、大勢のナルトの影分身が飛び掛ってくる。
それを砂で交わしながら、攻撃の隙を伺った。
こいつは、どんな手段で攻撃パターンを変えてくるのか、オレにもよく分からないところがある。
最後の影分身を消すと、本体のナルトはすでに木々の中に隠れたようで、姿が見えなくなった。


「もっと本気でやってくれってばよ〜!」


姿は見えないが、そんな声だけが響き渡り、つい口元が緩んだ。
この男はいつも、貪欲で向上心がある。
きっと仲間であった、うちはサスケを取り戻したいという強い思いがあるからこそ、ここまで強くなれるんだろう。
オレはナルトとの戦いで、そんな感情を教えてもらった。


「本気でやっている。そっちこそ隠れてないで出て来い」
「よぉーし!んじゃーあ、次はこれだぁ!」


そんな声が響くと同時に、木陰から手裏剣が数本飛んできた。
それを砂でガードし、次の攻撃に備える。
と、その時、足元の土がボコボコと崩れ、その中からナルトが勢いよく飛び出してきた。


「―――ッ?」
「うぉりゃぁぁあ!!」


拳を振り上げ、飛び出してきたナルトを、寸でのところで交わし、木の上にジャンプする。
その際に砂で攻撃をしかけると、それがナルトの顔面に直撃し、ナルトは「うぎゃ!」という変な声を出し、そのまま落下した。


「うぇっ!砂が目に!口に入ったぁ〜!ぺっぺ!」
「…………」


…こいつこそ、本気でやってるんだろうか?
砂を操るオレを相手に、それほど無警戒で飛び掛ってくる敵は、そうそういない。
というか、隙が多すぎる。
今のは全然、本気じゃなかったが、もし本気だったら、ナルトは今頃、砂に包まれ、以前のオレならば潰しているところだ。


「…うぇ、口ん中がジャリジャリする…」
「…大丈夫か?」
「だ、大丈夫だってばよ!ってか、ズルイぞ、我愛羅!顔に砂攻撃なんてー!」
「……本気で来いと言ったのはお前だろう…。それに実戦だった場合、どこに攻撃しようが敵の勝手だ」
「…う!そ、それはそうだけどよ〜!ちぇ〜もう少しだったのになぁ…」
「………」


アッサリやられておきながら、何が"もう少し"だったんだ?と思わないでもなかったが、敢えて口にするのはやめておいた。


「どうした?かかってこないのか?」


地面に座り込んだまま、攻撃してこようとしないナルトを見て、オレは木の上から飛び降りた。
その瞬間、ナルトがニヤリと笑い、「引っかかったな!!」と拳を振り上げてくる。


「……ッ?!」


その早い攻撃に一瞬、体を後退しかけたが、その拳は砂のガードによって止められた。
だが、物凄いパワーだったのか、ナルトの拳は砂のガードをつきぬけ、オレの顔ぎりぎりのところで止まっている。


「かぁ〜!おしい!もうちょっとで一発入ったのによ〜!」
「………」


地団駄しながら、悔しがっているナルトに、オレは内心、溜息をついた。
確かに少し下がるのが遅れていたら、顔に一撃くらっていただろう。
ナルトもまた、オレと戦った頃より、成長している、とそう思った。


「…惜しかったな」
「だろ〜?はあ〜でも我愛羅の防御も相変わらず、すげーってばよ!」


地面に座り込みながら腕を組み、二カッと笑うナルトに、オレまでつられて笑みが零れる。
こいつはオレにすれば眩しい存在だ。


「お!我愛羅が笑った!」
「…………」
「オレ、お前の笑顔見るの初めてだ」
「…笑ってなどいない」
「うっそだ〜!今、笑っただろ?つか、何か嬉しいってばよ!」
「…………」


素直にそんな事を言い、本当に嬉しそうに笑う。
やっぱり、こいつには敵わない。


「ほら我愛羅って、ちゃん以外の奴には、あんま笑顔とか見せないだろー?」
「……?」
「うん。我愛羅、見てるとちゃんにだけは気を許してるって感じがするんだ。前に戦った時、他人には非情な我愛羅が、ちゃんの事は必死で守ってただろ?
それ見た時、ちょっと驚いたけど、でもきっと我愛羅も口で言うほど、悪い奴じゃないんだって思ったんだってばよ。
まあ…オレと同じ境遇だったって知って、納得したんだけどよ!」


ナルトはそう言って「いしし♪」と笑った。
の事を言われ、何となく気恥ずかしい気がして、視線を反らす。
こんな単純な奴に、ずっと隠してきた気持ちを見透かされてたなんて、オレもまだまだ甘かったようだ。


昔のオレは、自分以外の人間を殺すことで、生きる意味を見出してた。
兄弟である、テマリやカンクロウも例外じゃない。
必要とあれば、すぐにでも殺せる対象だった。
そんな時、に出会い、同じ思いを抱えてきた人間がいる事が嬉しくて…でもやっぱり他人に心を許す事が怖くて、どこかでの事を冷めた目で見ていた時もある。
を傍に置きながらも、どこかで怯えていたんだ。


こいつも、いつか、オレの事を裏切るんじゃないかって……


今思えば相当、矛盾していただろう。
同じ境遇の彼女を、大切に思う反面、夜叉丸のように、そのうちオレの命を狙ってくるかもしれない、と疑って、恐れていたなんて…
でもナルトとの戦いの中で、少しづつ、分かってきた。


"あいつはお前の為に必死で戦ってんじゃねーかっ!!血ぃ流しながら、必死でお前を守ってんじゃねーか!
いつも一緒にいるくせに、お前はあいつの気持ち、分かんねーのか!そんなの仲間なんかじゃねぇ!!"


ナルトのあの言葉で、オレは初めてという存在を、彼女の本心を、知った気がする。
大切だったのに、臆病だったオレは、その彼女の本心に、気づこうともしなかったんだ。


誰よりもオレの傍にいた大切な存在――


それはナルトが教えてくれた、とても、大きなものだった。
自分以外の誰かを思う気持ちを教えてくれたのはナルト、そして、その気持ちを理解させてくれたのは…いつもオレの傍にいてくれただ。


"…私は我愛羅の為なら死ねる"


ナルトに出会って、彼女が言ってくれたあの言葉を、オレは初めて理解する事が出来た。
はそう言ってくれたのに、疑い、全てを信じようとしなかったオレは、何てバカだったんだろう。

孤独だったオレに、はいつだって語りかけてくれてたのに。





離さないで、一人になろうとしないで、そばにいるよ――