ぼくに宿る怪物~epilogue~




稀咲の墓の前で思わぬ再会を果たしたふたりは、色々なことを話した。離れていた間、何をしていたのか、どう過ごしていたのか、時間を忘れるくらいに。半間が稀咲に話そうとしていた本音は、にも聞かせることになった。思わぬ客の登場に、稀咲もあの世で苦笑していたに違いない。
一通り話したあとで、そろそろ行くかとなった時、半間は荷物をカプセルホテルに置いたままだったことを思い出した。

「…オマエ、ほんとにここに泊まる気かよ…」
「だって…こんな時間にビジネスホテル行ったって泊まれるか分からないし、すぐ朝になるんだからもったいないじゃない」

静かな廊下を小声で話しながら歩いて行く。好きな女と奇跡の再会を果たしたことで半間はもっとゆっくり出来る場所へ移りたかったのだが、の言うことも一理ある。つい話し込んでしまい、気づけば午前0時をとうに過ぎていた。

「なら最悪ラブホで――」
「そ、それはやだ…」

半間の言葉には慌てて首を振る。せっかく二年以上ぶりに再会したのに、いかにもな場所には泊まりたくないという女心だ。しかし半間はビジネスホテルもラブホテルも対して差はねえだろと思っていた。

「なーに意識してんだよ」

半間がニヤリと笑う。はギョっとしたように慌てて首を振った。

「しししてない…っ」
「シー!バカ、静かにしろよ…。こういう場所はおひとり様用でホントはふたりじゃ泊まれねーんだぞ…見つかったらやべえから」
「ご、ごめん…じゃあ私も部屋を取れば――」

と言いかけたの口を半間は手で塞いだ。

「それはオレが寂しーじゃん…」
「………っ」

困ったように笑う半間にの頬も赤くなる。寂しいのはも同じだった。せっかく会えたのだから少しの時間も離れていたくはない。なので素直に半間について行った。

「ああ、ここだ」

半間は自分の部屋の番号を確認すると静かにドアを開けた。中を覗き、が驚いている。

「え…ここカプホだよね…」
「ああ…ここ出来たばっかで女にも人気あるみてーだな。狭いけど完全個室になってる。まあ鍵かかんねーのは同じだけどな」

が想像してたような寝台がいくつも並んでいるものではなかった。狭いがビジネスホテルのような造りだ。

「うわ、綺麗…」

入ってすぐ横には一人用のクローゼットがあり、設置された机と一人用ソファ、壁には液晶テレビがかけられている。奥全てはベッドになっていて壁にはほんのりとオレンジ色に光る照明がお洒落な雰囲気を演出していた。

「まあ…思ってたより悪くはねぇな…」
「え、修二、この部屋入るの初めて?」
「ああ、夜にチェックインしてすぐ風呂行って、その足で稀咲んとこ行ったから部屋に入るのは今が初めて」

半間はそう言いながらドアを閉めると、靴を脱いでベッドへ上がった。室内はほぼベッドなので個室とはいえ狭いものは狭い。ベッドも当然シングルだ。

「来ねえの?」
「あ、うん…」

想像していたカプセルホテルと様子が違いすぎた。突然個室にふたりきりという状況で、急に恥ずかしくなって来たはなかなか靴を脱ごうとしない。それを見て焦れた半間は無理やりの腕を引っ張った。

「ちょ…」

いきなり視界が反転してベッドに押し倒されたが慌てて起き上がろうとするのを、半間が許すはずもなく。そのまま上に覆いかぶさり、唇を塞いだ。

「…ん…」

さっきのキス以上に性急な感じで舌が絡めとられて、くぐもった声が洩れる。久しぶりのキスですぐに全身が火照り出した。

「しゅ…修二…寝ないの…?」

何度かキスを交わした後で、は半間の身体を押し戻した。このままキスしていると変な気分になってしまう。なのに半間は物足りないと言った様子で苦笑した。

「んー寝るけどもう少し…」

言いながら唇を寄せて来る。再び唇を塞がれ、今度は優しく啄まれた。そこから甘い刺激が広がり、身体にも伝染するかのような疼きを感じた。

「ん…も…ダメ…」
「…ハァ…ヤベーな、確かに」
「ちょ、ちょっと…」

半間の呼吸が乱れているのを見てドキっとした。ついでに太腿に硬いものが当たっていることに気づく。

「な、何よ、これ…」
「仕方ねえーだろ…?二年以上ヤってねーんだから、そりゃ勃つって」
「…え…そう…なの…?」

少し驚いたようにが顔を上げる。逃亡中とはいえ、半間のことだから適当に風俗とかでも行ってるものだと思っていた。そんな空気に気づいたのか、半間の目が僅かに細められる。

「まさか…オレが他の女とヤってると思ってたのかよ?」
「え…だ、だって…そりゃ…風俗くらいは行ってるかと…」
「ハァ…?オマエ以外の女に勃たねーのに風俗なんか行くかよ」
「そ…そんなの分かんないじゃない…久しぶりなら意外と出来ちゃうかもしれないし…」
「……あーそっか…なるほどな」

その可能性を考えていなかったのか、半間が納得したように頷く。しかしがムっとしたのを見て「何だよ」と苦笑した。

「スネてんの?」
「ス、スネてないし…」
「自分で言ったクセにヤキモチとか…可愛いかよ」
「は?ちょ…」

再び唇を塞がれ、が慌てたように暴れ出す。その暴れっぷりに半間は唇を離すと「何で暴れんだよ」と呆れ顔で溜息をついた。

「だ…だって…こ…こういう場所って…壁薄いんでしょ…?」
「まあ…だろうな。隣のヤツのイビキも聞こえてっし」

言われて耳を澄ますと、隣の部屋からガーガーというイビキがかすかにの耳にも届いた。

「ほ、ほら…」
「それとキスすんのに何か関係あんのかよ」
「だって…修二、キスだけじゃ済まない気がする…」
「………」

恥ずかしそうに視線を反らすを見下ろしながら、半間は内心確かに、と納得した。だが半間も今すぐここでを抱こうとは思っていない。が心配するようにこういった場所は極端に壁が薄く、周りの人間にバレる可能性があるからだ。他の人間にの声を聞かせるのが嫌なのはもちろん、バレたら追い出されるかもしれない。いや、それだけなら別に大したことはないが、そういうことで目立つのは逃亡犯としては避けたいところだ。なるべく人の印象に残らない方がいい。

「…さすがにオレもここじゃしねえって」

苦笑しながらの隣に寝転び、布団をかぶる。それでもの首へ腕を通し、腕枕をしながらその身体を抱きしめた。もホっとしたのか、今度は素直に体を預け、半間の胸元に顔を押し付けた。お互いに体温を感じながら、会えなかった日のことを思う。こうして傍にいるのが、まだ信じられない気分だった。

「…はぁ…なーんか…嘘みてえ」
「…え?」
「こうしてを抱きしめることなんて二度と出来ないと思ってたからな…」

半間がポツリと呟く。はぎゅっと半間の服を掴み、小さく頷いた。

「私も…絶対に会えるって信じてたけど…でも時々もう二度と会えないのかなって…思うこともあったよ」

この二年、は半間を探しながらこっそりバイトをしてお金を溜めていた。もし会うことが出来たなら、その時は今度こそついていくと決めていたから。小さな手がかりをつかんで稀咲の墓のある墓地に通いながら、本当に会えるのかと時々不安になることもあったが、それでも心は折れなかった。いや、折れそうになった時は左手薬指に光る指輪を見て、受け取った時の気持ちを思い出しながら自分を奮い立たせて来た。それが今夜、叶ったのだ。

「そういや…おばさんは?知ってんの?オマエが…」
「お母さん、今年になって再婚したの。私に早く出て行って欲しかったみたい」
「…マジで…?」
「前も卒業したら早く修二のとこに引っ越せって言ってたくらいだし」
「まあ…自由人だもんな、オマエの母ちゃん」

自分の家も似たようなものだと思いながら半間が苦笑した。息子が犯罪を犯し、逃亡犯になった時点で見捨てられたのだろう。前のケータイが使えてた間、一度も電話をかけて来なかったのがいい証拠だ。

「そういや…、高校は?」

ふと思い出したように尋ねると、は小さく笑った。

「…もちろん今年卒業したよ」
「へえ、そりゃおめでとう」

何の感傷も感じられない響きで言われ、は思わず吹き出した。辞めようと思ったこともあるが、一応、母親の稼いだお金で高校に通わせてもらっていた手前、きちんと卒業することで母に対する義理は果たしたような気分だった。これで心置きなく旅立てる。

「起きたらどうするの?修二」

顔を上げて尋ねると、半間は天井を眺めたまま応えた。

「さあなー。東京満喫して、また地方に行くか。どっか行きたいとこあんの?」
「私は修二と一緒ならどこでもいい」
「……可愛いこと言うじゃん」

柄にもなく、その不意打ちのような言葉にドキっとさせられた。

「だ…だって本音だし…」

は照れ臭くなったのか胸元に顔を埋めて来る。その背中を抱き寄せてしまえば、落ち着いていた熱が再び半間の脳を刺激して来た。

「ちょ…修二…?」

背中に回っていた半間の手がするりとのTシャツの中へ侵入してきた。器用な指先に背中のホックを外され思わず身を捩って顔を上げると、含みのある視線を向ける半間と目が合う。

「何もしねーって」
「し、してるじゃない…」
「触るくらいならいーだろ」

シレっとしたように言いのける半間に「いいわけないでしょ」と抗議をしつつ、捩った身体を更に横に向け、半間に背中を向ける。しかし長い腕が絡みつき、後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「じゃあ勝手に触る」
「ちょ、ちょっと…」

後ろから回っていた手が今度はお腹の辺りに侵入してきたのを感じては身体を起こそうともがく。しかし体勢が悪かった。後ろからホールドされたような恰好になり、身体を思うように動かせない。その間も中に入りこんだ手は好き勝手に動き回り、の肌を蹂躙していく。

「…ん…っ」

お腹から撫でるように肌を這う指先が、胸元へとたどり着き膨らみを楽しむように揉みしだく。ホックが外されたことで緩んだ下着などあってないようなものだった。

「あー…癒される…」
「ちょ、と…修二…、ぁっ」

胸の突起を長い指が掠め、指先で形を変えられる。決して強くはないが久しぶりに触れられた場所は酷く敏感になっていた。軽く擦られるだけで背中や首筋に電流のようなものが走り抜ける。

「…んぁ…っ」
「すげー硬くなってきた…何か敏感になってね?こっちまでコーフンすんだけど…」

腕の中で何度も跳ねる身体に、半間は苦笑した。

「さ、触るからでしょ…も…やめてってば…」

半間の言うように、ちょっと触れられただけで強い刺激が全身を駆け巡り、中心が疼いていく。あげく再び硬いものが太ももに当たるのを感じ、それが恥ずかしくて半間の腕を掴む。このまま触られていたら半間と同じように我慢の限界が来てしまいそうだと思った。なのに胸を弄ってた半間の手がするすると下りて太腿の間を撫でるのを感じ、ビクリと肩が跳ねる。夏用のショートパンツを履いているのでスカートじゃない分安心していたも、腰のボタンを簡単に外していく半間にドキっとした。

「ダ、ダメだってば…何もしないって言ったクセに」

ジッパーを下ろし、ショートパンツの中へ侵入しようとする手を慌てて止める。こんな場所で襲われたら声を抑える自信もなく、恥ずかしいことこの上ない。半間はそれを分かっているのか「誰もヤるとは言ってねえだろ」と言いつつ、軽くの耳輪を舐め上げて来る。そのぬるりとした感触にぞわっとしたものが首筋に走った。

「や…しゅう…じ?」
「ここでヤる気はねえけど…が感じてるとこ見たいだけ」
「へ…変態…っ」
「ひゃは…♡ 久しぶりに聞いたわ、それ」

は耳まで赤く染まり、悔しげな目で後ろから覗き込んで来る半間を睨む。それでも侵入してきた手にショーツの上から撫でられると、小さく声が漏れてしまう。指先はゆるゆると動き、のいい部分をあくまで優しく擦って来る。

「…ぁ…は…」
「気持ちい…?」

耳元で囁くように訊かれ、は羞恥で思わず首を振ってしまった。半間は薄っすら口元に弧を描き「ふーん…」と意味深な返しをする。その瞬間、ショーツの上で動いてた手がするりと中へ入りこみ、すでに潤みを帯びている場所を指全体で撫でられた。

「ひゃ…ぁ、っ」
「すげー濡れてんじゃん…」
「や…ぁ…しゅう…じ…っ」
「もうイきそうなんだろ?」

手のひらで全体を撫でるような動きに、の身体が一気に上り詰める。その時、すでにドロドロに濡れそぼる場所へ指を入れられ、更に刺激を与えられた。

「…ぁ…や…ぁ」

思わずイきそうになり、は必死で耐えながら半間の腕にしがみつく。その腕の先で動く指がの中を優しくかき混ぜる。我慢できないほどの快感に気を抜くとイってしまそうだった。

「我慢すんなって…イけよ」
「…や…だ…」

こんな場所で自分だけイかされるのは、いくら相手が好きな人であろうと恥ずかしい。
押し寄せる快感に必死に抗おうとした。

「恥ずかしがることねえだろ」

僅かに身体を起こした半間が、の頬へ口付ける。同時に閉じていた場所へ膝を入れられ、足を大きく開かされた。

「ちょ…修二……ぁっ」

開かされたことで、動きやすくなった指がさっき以上にを責め立ててくる。抽送を繰り返されるたび、静かな室内に卑猥な音が響いて恥ずかしさも肉体も限界に達した。
奥のある部分を何度か刺激されたことで、その場所から絶頂の波が遅い、足元までビリビリと痺れる。

「…んぁ…っ」

思わず声を上げそうになった時、顎を掴まれ上に向かされる。そのまま嬌声ごと飲み込むように唇を塞がれた。中で動いていた指は締め付けられ、次第に緩やかな動きに変わる。その刺激すら身体が反応して、の身体がかすかに震えた。

「……すげー締め付け…相当気持ち良かったみたいだなァ?」
「…バ…バカ…」

呼吸が乱れて息苦しい中、自分を見下ろす半間を睨む。しかし中から指を引き抜き、愛液で濡れたそれを半間が口元へ持っていくのを見てギョっとした。指を濡らしている愛液を半間が舌で舐めとるのを見て、の頬が更に赤みを増していく。

「き…汚いってば…」
「ハァ?汚くねーよ」

半間は笑いながらに覆いかぶさると、赤く火照った頬へ軽くキスを落とす。

がオレにいっぱい感じてくれた証拠じゃん。甘くて美味いけど?」
「……っ」

さも当たり前のように言いのけられ、余計に恥ずかしさを覚える。そんなを見て苦笑しながらも、半間は優しく頭を撫でた。

「知ってる?女が本気で感じるとアレが甘くなるって」
「…え」
「はー…でも…のエロい姿見て余計にしたくなったんだけど…」

ガックリと項垂れる半間に、はギョっとしたように離れようとした。それを引き戻して「逃げんなよ」とスネたように目を細める。

「言ったろ?ここじゃしねえよ。落ち着かねーし」

それを聞いては一瞬ホっとした。

「まあ、でも…」
「…でも?」
「ここ出たらソッコーでホテル探すわ…」
「え」

ニヤリと笑みを浮かべる半間に呆気にとられる。

「その時は…たっぷりオレを感じさせてね、ちゃん♡」

とても逃亡犯とは思えないほど、穏やかに微笑む半間に、の頬がジワリと熱を持つ。でも、それを望んでいる自分がいることも分かっていた。離れていた夜の数だけ、抱かれていたい。そこからまた、ふたりの時間を始めればいい。

「…の、望むところよ」

真っ赤になりながらも応えたに、ふと笑みがこぼれた。腕の中の存在は、半間の心を簡単に疼かせる。

「マージ、楽しみ♡」

笑いながらの手を取ると、細い指で輝く指輪にそっと口付けた。

「…思った通り…に似合ってんなァ…これ」
「…ほんと?」
「ああ」

半間は感慨深げに、その指輪を指でなぞっている。その表情が少し寂しそうで、は不安になった。

「…修二…?どうしたの?」
「んー?あー…これ、さあ…」

半間は言いかけ、ふと言葉を切った。

"これなんて彼女に似合うんじゃないか?"

そう言われてこの指輪を目にした時、確かに似合いそうだと思った。だからこれを選んだのだ。それまで誰にも本気になったことのない半間が、女の喜びそうなものをひとりで選べるはずもない。でも、初めて好きになったに、何か形に残るものをあげたくなった。その気持ちを理解してくれたのは――。

「稀咲が…選んだんだ…」

ポツリと言った半間を、は驚いたように見つめた。

「これ、オマエに似合うんじゃないかって、さ」

その時のことを思い出しながら、本当のことを告げる。こんな話をしたところで、が稀咲のことを嫌っているのは分かっている。せっかく喜んでくれている気持ちに水をさす愚行かもしれないと思った。けれども、何となく言わずにはいられなかった。は黙ったまま何も言わない。
半間が不安そうに視線を落とす。しかし目が合った瞬間、の瞳から涙が一粒零れ落ちた。

「…?」

一瞬、傷つけたんだろうかと不安になる。しかしは不意に微笑んだ。

「ここ出たら…稀咲くんに…お礼、言いに行っていい…?」

その一言に、半間は一瞬言葉を失った。ただ胸に広がる熱が、じわりと瞼を熱くしていく。

「…当たり前だろ」

笑みを返し、の唇にそっとキスを落とす。これまでの比ではない程の感情が、一気に溢れて来る。
それは半分失った色を全てカラフルに変えるほどの、確かな愛情だった。





遂に終わりを迎えることが出来ました🎊
前話で完結ではあるんですが、やはりふたりにエッチシーンもないまま終わるのも全体Rをかけたものとして納得いかず、オマケとしてエピローグを書いてしまいました笑
まあ中途半端なものでしたが私としては満足です笑
あとはヒロインが稀咲を嫌ったままだと、しこりが残るかなと思い、小さなキッカケを作りました。
半間の稀咲への思いって意外と大きかったんだなと感じたので、好きな相手にもきっと稀咲のことを認めて欲しいかもしれないと想像しながら書いてみました。 私もずっと稀咲嫌いでしたが最終話を読み終えた後は前ほど嫌いじゃなくなったんですよね。
皆で仲良くしてるシーンを見たからかもしれません笑。最後の世界線の連載をして欲しいくらいですね🥰
ということで、アニメ聖夜決戦編のハンマーズはこれからですけど半間くんの初連載はこれにて終わります。
拙いお話でしたが、最後まで読んで下さった方がいましたら本当にありがとう御座いました✨感謝です<(_ _)>