君の瞳に恋してる // 03









(うーむ…)


この時、オーランドは悩んでいた。
トイレの便座を下げ、そこに腰掛けつつ、ドアの隙間から外を伺う。
ジュウーっという美味しそうな音と匂いをキッチンからさせてるのは多分、いや間違いなく彼の最愛の恋人だろう。
学生の頃に両思いだったにも関わらず、お互い相手の気持ちに気付かず、二人して片思いしてた、何ともどん臭い二人だったようだ。
それでもオーランドは幸せだった。
ずっと好きだった彼女と今は一緒に住んでいる。
それは、いくら遊びまくっていたオーランドでも新鮮な喜びだった。






(んーいい匂い♪)


今日の朝食はオーランドの好きなチーズオムレツのようだ。
そう思ったオーランドはちょっと嬉しくなる。
が……その前に今のこの状態を何とかしなくてはならない。


そもそも何故このオーランドがトイレにこもってるのかと言えば…
別に腹が痛いわけでも飲みすぎて気持ち悪いわけでもなかった。
いや夕べの打ち上げでは散々飲まされた挙句、途中からの記憶を失い、今朝気付いたら自分のベッドに寝てた、という何とも不可解な朝を迎えたのだが。
そう、そして目が覚めた時、すでに起きていたの態度が少しおかしかった。


オーランドがボケた頭でリビングに顔を出すと、が「おはよう」と言った後、ニッコリ微笑んでこう言ったのだ。


「あ、そうそう。ジェンって子、可愛いわね」
「……へ?(誰、それ)」






…あれは何だったんだろう?
寝起きで頭が回らなかったから、あんな返事だけで終わってしまったんだけど。
あの時の彼女からは何だか凄い冷た〜〜いオーラが出てた気がしたし…
そもそも…"ジェン"って誰だよ。(オイ)
そんな名前の子…知らないんだけどな。
でもあのの口ぶりじゃ俺の知り合いっぽく言ってたし…
そしての最後の言葉…


「あ、それと。後で話があるから早くシャワーに入ってスッキリしてきてくれる?」


はあの後にそう付け加えてキッチンへと行ってしまった。
で、言われたとおりシャワーに入って来たはいいけど、彼女の言う"話"というのが気になりバスローブ姿のままトイレに隠れ、今に至る。
(別に隠れる必要なんてないのかもしれないけど、ここならいざって時鍵もかかるし…)(子供か)


う〜ん…何だろう…
昨日はちょっと雑誌の件で怒られたけど、ちゃんと仲直りをしたし…
行ってらっしゃいのキスだってしてくれた。(基準はソコか、お前)
だから俺は気分良く仕事に行って、無事にクランクアップを迎えることが出来たんだ。
まあ、それから打ち上げが始まったんだけど…
ほんと途中から綺麗サッパリ記憶がないんだよな、不思議な事に(!)


そう、それに俺、どうやって帰ってきたんだろう?
マネージャーに迷惑でもかけたかな。
電話して聞いてみようか。
いやでも、電話をかけるにはリビングにいかないといけないし…


必死であれこれ考えていると、美味しそうな音がいつの間にか止んでいた。
そしてドアの開く音が聞こえて―





「オーリー!いつまでシャワー入ってるの?」


「―――ッ」






廊下にが出てきて俺の事を呼び出した。
というか、今はトイレの前まで来てて、こっちを見られたらすぐに見つかりそうだ!(隙間から彼女のイライラした横顔が見える)


ああ、良く分からないけど、何だか機嫌が悪そうだなぁ…
俺、何かしたっけ?
あ、それともアノ日か?(オイ)
何か近づかない方がいい気がしてきたけど…でも"おはようのキス"はしたいし…思い切りハグしたいし…う〜ん、どうしよう。


便座に座ったまま腕を組みつつ、これじゃあまるで"考える人"みたいじゃないか、俺!なんて一人突っ込みなんてしてしまった。
その時、不意にガチャっという音と共に目の前が急に開けた。



「何やってんの?オーリー」


「――ぁ!」



その声にバっと顔をあげると、訝しげな顔をしたが立っていた。(その顔もかぁいい♪)


「ドア開いてるし何かと思えば…そもそも便座の上に座ったら用が足せないでしょ?」
「え?あ、ほ、ほんとだ!あはは☆」


ここは笑って誤魔化そう。


まさか隠れてましたとは言えず、俺は笑って誤魔化すと、スクっと立ち上がってトイレから脱出した。
そのままダイニングに行くと、テーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいて、つい顔が緩んでしまう。
そして、すぐ後ろから歩いてきてたにガバっと抱きついた。


「ひゃ…っ」
「おはよう、♪」


朝の挨拶をして、ん〜♪と唇を近づける。
とりあえず、さっきの事は後回しだ。
今は甘い朝のキッスを――!


「うむぅ…?!」


もう少しでの唇を頂ける、と思った瞬間。
グイっと顎を押され、俺の顔は天井を向いていた(!)


「いたたっ、な、何するんだよ、〜」
「いいから座って」
「え!だってまだ"おはようのキス"してな―」
「いいから」
「……はぃ…」


サッサと離れて少し目を細めたに恐怖を感じ、俺は渋々椅子へと座った。


チェ…キスしてからでも遅くないのに。


なんてに言ったら、それこそ殴られそうな事を考える。
でもまあこの何となく嫌なムードの原因も、気になるっちゃ気になるし…ここは一つ彼女の話とやらを聞いてみよう。
まさか別れ話じゃないだろうし…(ちょっと不安)


一瞬の間でそんな事を考えつつ、にニッコリと微笑んだ。


「で、何?」
「それは私の台詞」
「…へ?」


(何が?つかやっぱ怒ってる…?)


向かいに座ったと目が合い、ドキっとした。
すると彼女は大きく息をついて、呆れたような顔で俺を見た。



「オーリー夕べの打ち上げ、楽しかったみたいね」
「え?何で知ってるの?あ、もしかして俺を送ってきたのってマネージャー?あいつに聞いたの?」


さっき思いついたことを聞いてみる。
が、の顔がもっと怖くなった。


「まさか…覚えて…ない、とか」
「う、うん…そうなんだ。昨日も最初の方は覚えてるんだけど…後半はサッパリ…」


エヘへと笑って頭をかくと、は思い切り息を吐き出し首を振っている。
何だ、この反応…
俺、酔っ払って何かしたんだろうか…
むむ…そうなると厄介だな…


何で彼女が怒ってるのかも分からないくせに、俺はなんて言って謝ろう、なんて考えていた。
するとは僅かに目を細めて、


「覚えてないとは思ったけど…」
「え、あの…お、俺…何かした…?裸踊りとか…」


軽いジョークのつもりだった。
なのにその一言での目が一瞬釣りあがった気がした(怖いよ、ママン!)


「どうせなら、そっちの方が良かったわ」
「…へ?」
「…もういいわよ。食べましょ?」
「…ぇ」


てっきり怒られるかと思ったのには溜息をついただけで、普通に朝食を食べだし、俺は何となく拍子抜けした。


「あ、あの……。何か怒ってるんだろ…?何?」
「…いいわよ。どうせ覚えてないんだし…言っても無駄でしょ?」
「…でも、さ…」
「いいから食べて。冷めちゃうよ?」


はそう言うと俺のカップに紅茶を淹れてくれた。
誰だって怒られるよりは怒られない方がいい。
でも何となくスッキリしない気がして、目の前のを見た。
彼女は本当に何も言わないつもりなのか、もくもくとパンを食べている。
それを見て寂しい、と思うのは勝手だろうか。


怒られたくないと思ってるくせに、何も言われない方が寂しいなんて、どうかしてる。


「オーリー?どうしたの?」
「………」


いたたまれなくなって立ち上がったら、椅子がガタンと音を立てた。
その音に驚いて顔を上げたの方に歩いて行くと、思い切り抱きしめる。


「ひゃ…な、何よ、オーリー」
「やだよ、!」
「は?」
「怒ってるんなら怒っていいんだよ?ホントは嫌だけど、でも何も言われなくなったら人間おしまいだって言うだろ?」
「や、ちょ、え?何…」


そう言って更にぎゅっと抱きしめればは何だかキョトンとした顔で慌てている。
でも離すもんか。
何も言われないまま呆れられてに捨てられるなんて、俺は絶対に嫌だ!
やっと想いが叶ったのに、このまま友達にも戻れず会えなくなるかもしれないし、そんなのは絶対―




「何言ってるの、オーリィ…」
「だって…怒ってるだろ…?俺の事…」
「……私に怒られるようなこと、したの?オーリー」
「してない!…と思う…。あ、いや!確かに昨日の記憶はないし、もしかしたら酔っ払って迷惑かけたかもしれないけど、でも俺―」
「あーもう分かったから!いい加減離してよ」
「え、やだよ…」




この腕を離したら、は出て行ってしまうかもしれない!


俺は本気でそう思いながら必死に首を振った。
すると少しして彼女が大きな溜息と共に苦笑いを零し、「はぁ…敵わない」と呟いた。


「…?」


彼女は俺の胸に顔を押し付けてクスクス笑ってるようで、その反応に恐る恐る腕の力を緩めた。
すると彼女は笑いながら顔を上げて―




「もう…期待を裏切らないというか…想像通りというか…ほんと呆れちゃうわね、オーリーってば」
「な、何で?呆れるって…そんな…もう俺のこと嫌いになった?」
「は?」




一気に不安になっての顔を覗き込んだ。
でも彼女はキョトンとしたあと、豪快に笑い出す。


「あはは!やだ、オーリーっ。何を言うのかと思えば…そんなわけないでしょー?」
「え、でも今、呆れるって…」
「呆れてるけど、イコール嫌い、なんて事もないじゃない」
「え、そう…なの?じゃあ…何で呆れてるの?」


パチクリと目を見開いて尋ねれば、はまた「ぷ」っと噴出して困ったように眉を下げた。


「呆れてるって言うか…憎めない、あなたのその性格に負けたって気がしてきたかも…」
「…え?」
「もう!分かんなくていいわよ。それより早く食べよう?私お腹ペコペコなの」
「う、うん…ごめん…」


ほんとに心から笑ってるような笑顔をくれたを見て、俺は素直に腕を離した。
何だかよく分からないけど、に捨てられる心配はなくなったようだ。


大人しく椅子に座ると、がオムレツを綺麗に切り分けてくれた。
こんな事をしてくれるのは後にも先にも彼女だけだ。
学生の頃、初めてそうしてくれた彼女が凄く新鮮で、かつ可愛くて。
簡単に落ちたのは俺の方だ。
時々ケンカしたり、怒られたりしたけど、彼女だけだったんだ。
俺の前で気取らず、素顔を見せてくれた女の子は。
それだけで十分だった。


彼女を好きになる理由は――






「ねぇ、。このオムレツ美味しいね」


「ほんと?良かった」


「ねぇ…


「ん?」


「まだ…俺のこと呆れてる?」


「…まぁね」


「でも好き?」


「…大好きよ」


「なら…いいよ」


「変なオーリー」


「うん…そうだね」






クスクス笑う彼女の笑顔が眩しくて目を伏せる。




何だか嬉しくなって、ちょっと鼻を擦ると彼女が切り分けてくれたオムレツを口に放り込んだ。
















呆れても良いよ、それでも君が好きだから







さっきより優しい瞳で俺を見つめる彼女を見て、心からそう思った―







今回はオーリー視点でw トイレに隠れるおバカな彼が好きです(え)
これ書き上げて最後に誤字脱字確認をしてる最中(たった今、ですが)一瞬だけ寝てました…チーン。
マウスを持ってた手がガクンと落ちてハ?(; ̄□ ̄っと起きましたよ…只今午後9:19。
まだまだ子供の時間なのに睡魔に襲われる俺って…;;(※早起きのせい)


少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
感謝を込めて…

C-MOON管理人HANAZO